弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を禁錮1年6か月に処する。
この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(本件事故に至る経緯)
被告人は,大阪ガス株式会社(以下「大阪ガス」という。)の指定工事業者であ
り,ガス設備工事等を業とするA設備株式会社の従業員である。同社は,株式会社
Bが所有する大阪市中央区所在の旧「中座」建物(鉄筋コンクリート造及煉瓦造瓦
一部陸屋根地下1階付4階建,床面積合計約3099.16㎡)の解体工事に伴い,
先に上記建物内のガス管内の残留ガスを排出する工事を行い,被告人もこれに従事
していた。さらに,上記建物北側道路地中に埋設されている低圧ガス本管から同建
物内につながるガス引込管を切断するとともに,同引込管の同建物側切断口に吸引
パージ機を接続して,同切断口から同建物敷地内に敷設され,同建物内の機械室に
ある管末に続くガス導管に残留するガスを吸引して排出する工事(吸引ガスパージ
工事)が,大阪ガスの発注により,C建設株式会社によって平成14年9月9日未
明に施工されることとなったが,その際,作業中に同建物内に立ち入る必要があっ
たので,同建物の仮囲いの出入口の鍵の受け渡し役として,同建物のガス管等の調
査・撤去を請け負っていた株式会社D工業所の従業員甲(当時31歳)が本件ガス
パージ工事現場に立ち会うことになり,さらに,同人の要請を受けて,被告人も,
本件工事現場に立ち会うこととなった。そして,被告人が本件工事現場に臨場した
ところ,同工事の監督者であるC建設の従業員乙から,建物内にあるガス導管の管
末のバルブ及びプラグの開栓作業を委託された。
同日午前3時4分から5分ころ,被告人は,同建物1階所在の上記機械室(南北
6.8m,東西5.5m,高さ3.53mのほぼ直方体の部屋。西側出入口に通じ
る南北1.45m,東西3.2mの空間が付属。)に赴き,同室において,ガス導
て管末を開放する作業に従事したところ,同ガス導管は,作管のバルブ等を開栓し
成されていた配管図面と異なり,実際には,本件ガスパージ工事に当たり未だ供給
を止めていなかったガス供給管とつながっていたため,その管末を開放すると,生
ガスが噴出した。被告人は,何らかのガス臭のする気体が押し出されていると認識
したものの,そのままの状態でいったん同建物から外へ出て,C建設から同工事を
下請けしていた有限会社Eの作業員丙に対して気体が押し出されていることを告げ
たところ,同人はパージ機を確認の上,被告人に吸引している旨告げた。その後,
被告人は,いったん本件工事現場を離れた後パージ作業を開始する旨の連絡を受け
て本件工事現場に戻って来た甲と共に再び同室内に赴いたところ,依然として気体
が漏出しており,ガス臭がしていることを感じたため,生ガスが噴出しているもの
と疑い,上記バルブ等を閉栓する作業に取り掛かったところ,懐中電灯を落下,損
壊させて,唯一の光源を失った。
(犯罪事実)
被告人は,同日午前3時10分ころ,前記「中座」建物の機械室内において,数
分前に同室内のガス導管の管末のバルブ及びプラグを開放したことにより,生ガス
が噴出し,同室内に滞留していたところ,ガス臭等から,同室内に相当量のガスが
いたのであるから,ガス工事の業務に従事する者滞留しているであろうと認識して
としては,火気の使用を厳に慎んで,同ガスへの引火,爆発事故の発生を防止すべ
き業務上の注意義務があるのに,これを怠り,ガス管末を閉栓するためのプラグを
探すため,手元を照らそうとして持っていたライターを点火した過失により,その
ころ,同所において,その火を同室内に滞留していたガスに引火,爆発させて,そ
の火を中座建物に燃え移らせ,よって,現に人がいる同建物を全焼させて焼損し,
さらに,その火を現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない別紙記載(別紙
略)の近隣の建造物8棟19店舗の飲食店に燃え移らせて合計約971㎡を焼損さ
せるとともに,上記機械室に同行していた甲をその爆発,炎上に巻き込み,同人に
対し,入院加療約150日間を要する気道熱傷,顔面熱傷,両前腕熱傷,両手熱傷,
背部熱傷,前額部裂創等の傷害を負わせた。
(補足説明)
弁護人は,被告人が,機械室内でガス混合気体が爆発限界濃度に達する程度にま
で生ガスが滞留した状態になっていたことを現に的確に把握していたとはいえない
ので,被告人には結果発生についての予見可能性がなく,注意義務がなかったので
あり,被告人は無罪であると主張する。そこで,以下においては,まず最初に本件
ガス爆発の経緯について争いのない事実等について明らかにした上(第1),注意
義務発生の前提となる事実関係として争いのある,被告人が機械室内のガス導管の
管末を開放した時期や被告人が機械室に入った回数について検討し(第2,第3),
その上で,被告人にガス爆発を回避すべき注意義務があったと認定し得るかについ
て検討する(第4)。
第1本件ガス爆発の経緯
以下の諸事実は,当事者間に特に争いがなく,証拠上も容易に認定できるも
のである。
1中座について
中座は,大阪ミナミの繁華街に昭和22年に建設され,以来,様々な公演が
開催されてきた著名な演芸場である。その建物は,地上4階,地下1階建てで,
床面積が合計約3100北側及び西側が道路に面し,南側及び東側㎡であり,
には建物が隣接していた。特に,南側には,法善寺横丁と呼ばれる著名な飲食
店街が形成されていた。
中座での興行は,施設の老朽化等により,平成11年10月25日に終了し,
平成12年に株式会社Bが中座の土地建物を取得し,新たなビル建設を計画し
て,中座の解体工事を発注した。そして,建物撤去工事時のガス漏出事故を防
止するため,同工事に先立ち,ガス供給を遮断し,ガス管内の滞留ガスを除去
する工事(ガスパージ工事)が実施されることとなった。
2ガスパージ工事の施工者
中座建物の水道管やガス管等の引込管の調査及び撤去工事を請け負ったのは,
株式会社D工業所であったが,同社は水道管工事が専門であったため,ガスパ
ージ工事については大阪ガスに発注した。そして,いずれもガス工事を業とす
るA設備株式会社とC建設株式会社が,それぞれ内管(敷地内のガス管)のガ
スパージ工事と外管(敷地外のガス管)の撤去・ガスパージ工事を,大阪ガス
から請け負った。さらに,大阪ガス,A設備,C建設の打合せを経て,A設備
は,灯内内管(敷地内のガス管のうち,ガスメーターから先のガス管)のガス
パージ工事のみを行い,平成14年9月9日未明にC建設が外管工事を行って,
その際に同社が灯外内管(敷地内のガス管のうち,敷地外の本管又は支管から
分岐して敷地に至るまでのガス管である供給管からガスメーターに至るまでの
ガス管)のガスパージ工事も併せて行うこととされた。
A設備は,同月5日に灯内内管のガスパージ工事を行ったが,その際,中座
建物1階に2か所あったガスメーターは,いずれも取り外され,それぞれに接
続されていたガス管のバルブが閉められ,ガスメーターに接続されていた管末
開口部がプラグ(金属製のねじ込み式の栓)で閉栓された。
39月9日のガスパージ工事の実施状況
()被告人と甲の立会い1
灯外内管のガスパージ工事は,C建設の従業員乙を工事責任者として,同
月9日午前5時に開始されることとされ,同工事において開放すべき灯外内
管の管末場所は,大阪ガスの担当者が当日に引き継ぐこととされた。また,
この工事では,建物内に作業員が立ち会う必要が生じるので,建物の仮囲い
の扉の鍵を開閉するため,D工業所の従業員甲も上記工事現場に赴くことと
なった。さらに,甲はガス工事が専門でなかったので,灯内内管のガスパー
ジ工事を行ったA設備の人物にも来てもらいたいと考え,これを受けて,A
設備の従業員であった被告人が現場に派遣されることとなった。
同日午前1時ころから中座建物北側道路の掘削作業が開始され,そのころ
甲及び被告人も,それぞれ本件工事現場に到着したが,その際,被告人が大
阪ガスのマークの入った監督者用のヘルメットをかぶっていたため,被告人
と初対面であった乙は,被告人が大阪ガスの従業員ではないが,同社の担当
者の代わりにやって来た人物であろうと考えた。
()乙と被告人とのやりとり2
乙は,被告人に管末の位置を尋ね,被告人は,乙を連れて中座正面の出入
口から建物内に入り,先にA設備が灯内内管のガスパージ工事を行った際に
バルブを閉めプラグで閉栓した2か所に案内した。
ガスパージ工事の方法には,大別して,押出パージ(供給管側からコンプ
レッサーで圧縮空気を管内に送り込み,開放した管末から滞留ガスを放散さ
せる方法)と吸引パージ(供給管側に吸引機を接続して灯外内管の管末を開
放して供給管側からガスパージする方法)とがあるところ,本件工事では,
吸引パージの方法によることが予定されていた。もっとも,乙は,同日午前
2時ころに被告人に管末の位置を尋ね,被告人に連れられて建物内に入り,
2か所のバルブの場所に案内されたころ,押出パージができないかと考え,
その旨被告人に尋ねてみたが,被告人は,これに対して無理ではないかと返
答した(なお,乙がそのように尋ねた時点と,バルブ位置確認のため建物内
に入った時点との先後関係は,確定することができない。)。
()配管図の誤りの発見と作業の続行3
道路の掘削作業が進むにつれ,大阪ガスが昭和51年に作成した「中座配
管図」とは管種が異なる箇所や,管が直線的に図示されているにもかかわら
ず実際には途中で折れ曲がっている箇所等が見つかり,このため,乙は,ガ
スパージ工事が同日には行えない可能性がある旨被告人に伝えた。そこで,
被告人は,本件工事現場を離れてC建設の事務所にいた甲に連絡して戻って
来てもらい,甲と乙が話し合った結果,当初想定していたパージ機の接続方
法を変更してガスパージ工事を行うこととした。同日午前3時前ころ,その
接続が完了し,当初の予定よりも早く,ガスパージ工事に取り掛かることと
なった。
()被告人による管末の開放とガスの噴出4
同日午前3時ころ,乙は,外管及び灯外内管のガスパージ工事を開始する
ため,仮囲い内にいた被告人に対し,灯外内管の管末のプラグを開栓するよ
うに依頼し,被告人は,本来自分がやるべきことではないと思いつつも,結
局,これを引き受けた。その際,被告人は,開栓に使うパイプレンチを持っ
ていなかったが,乙が他の作業員からパイプレンチを借りて被告人に渡した。
また,被告人は,本件工事現場を離れて前記事務所にいた甲に午前3時1分
28秒から37秒にかけて携帯電話機で電話をかけ,パージ作業開始の準備
が整った旨伝えた。被告人は,建物内に入り,先にA設備がバルブを閉めプ
ラグで閉栓した箇所の開放を行ったが,そのうち機械室(その位置について
は,別紙図面参照〔別紙図面略〕)内のものは,配管図では中座北側道路の
供給管に接続される灯外内管の管末と表示されていたが,実際には,中座西
側道路からの供給管に接続されており,本件当時同供給管からのガス供給が
いまだ止められていなかったため,機械室内の管末のプラグを外しバルブを
開けて管末を開放すると,同室内に生ガスが噴出した。被告人は,音や臭い
からして,同管末からガスが押し出されていると感じ,手袋を外して管末に
手をかざしたり,懐中電灯で床面を照らし落ちていた木の葉様のものが揺れ
ているのを見て,ガスが押し出されているのを確認した(このガスが残留ガ
スではなく生ガスであったことを被告人が認識し得たか否かについては,争
いがある。)。
4パージ作業員への確認
被告人は,建物外に出て,C建設からガスパージ工事を請け負っていた有限
会社Eの作業員丙に「押してるで。」と尋ねると,丙は,パージ機の上に手を
かざして確認し,「引いてるで。」と答え,吸引パージを行っている旨被告人
に伝えた(ただし,被告人がそのように丙に尋ねた以前に,被告人が甲と共に
機械室に赴いたかどうかについては,争いがある。)。
5本件ガス爆発事故の発生
その後,被告人は,甲と共に建物内に入って機械室に赴き,ガスが噴出して
いることを確認し,これを止めようと,メーター架台に左手をついて身体を支
え,高い位置にあるバルブを閉めるべく右手を伸ばしたところ,上記架台が倒
被告人が転倒して,唯一の光源として被告人が携帯していた懐れ,その結果,
中電灯が壊れ,機械室内は真っ暗な状態になった。それでも,被告人は,立ち
上がり,暗闇の中で手探りでバルブを閉めたが,その時,甲から「プラグを閉
めろ。」と大声で言われたため,床にあるプラグを探そうとして,所持してい
たライターに点火したところ,同日午前3時10分ころ,機械室内に滞留して
いたガスに引火して爆発した。
6本件ガス爆発の結果
本件爆発事故により,甲は,判示のとおりの傷害を負い,被告人も,熱傷の
傷害を負った。また,中座建物は,全焼して,近隣の店舗等の建物も,判示の
とおり焼損した。
第2被告人が管末を開放した時期について
1検察官は,被告人が,機械室内の管末から長時間生ガスが噴出していて機械
室内に滞留していることを認識していたと主張し,その前提として,乙は,被
告人に対し,バルブの開放後にガスパージ作業を開始する旨告げており,被告
人からバルブを開放したと聞いた後に,ガスパージ作業を開始するよう指示し
たと主張する。これに対し,弁護人は,被告人は,管末を開放した際に気体の
押出しを認めたものの,これが生ガスであると認識することはできず,吸引パ
ージでなく押出パージを行うなどしてガス管内の残留ガスが出てきたのであっ
て,その量もさほどではないと考えていたと主張し,乙が被告人に対し,バル
ブの開放後にガスパージ作業を開始する旨告げたことも,被告人からバルブを
開放したと聞いた後に,ガスパージ作業を開始するよう指示したこともないと
主張する。そこで,注意義務の存在の前提となる事実として,被告人が管末を
開放したのがいつごろであったのか,また,それとガスパージ作業の開始のど
ちらが先であったのかという点について検討する。
乙は,公判廷において,被告人によるガス管末の開放の時期とパージの2()1
ためコンプレッサーを作動させた時期との先後関係に関し,おおむね以下の
とおり証言する。
ア私は,被告人に機械室に案内してもらってから,建物の外に出るまでの
間,被告人に「プラグを開放したら,こちらに教えてくださったら,コン
プレッサーを始動します。」と話した。これに対し,被告人は,「分かり
ました。」と答えた。
イ私は,パージ機の準備が出来たので,仮囲いの中にいた被告人に「プラ
グを開けたら教えて下さい。そしたらコンプレッサーを作動させますん
で。」と言って,灯外内管の管末のプラグを開栓するよう依頼したところ,
被告人は,「分かりました。」と答え,一人で中座建物内に入って行った。
ウ私が仮囲い内で待機していたところ,被告人が戻って来て,「開きまし
た。」と言ったが,そのほかに異常があるなどということは言わなかった。
そこで,私は,丙に対してパージ機を作動させるように合図をし,ガスパ
ージ工事を開始した。
()検察官は,主としてこの乙証言に基づき,被告人がパージ作業開始前に2
管末からのガスの噴出を認めており,押出パージが行われたことにより残留
ガスが噴出したとは考えておらず,管末を開放した時点ですでに,被告人は
生ガスの噴出を認識していたと主張する。
公判廷において,おおむね以下のとおり供述す()これに対し,被告人は,3
る。
アプラグを開けたら教えてほしいとか,そうしたらコンプレッサーを作動
させるなどと乙から言われたことはない。
イ管末を開放すると,気体が押し出していることが分かり,ガスの臭いも
したので,もしかしたら押出パージを始めているのではないかと思った。
ウ気体が押し出されていることを本件工事の責任者に知らせるため,中座
建物内から外に出て,C建設から工事を請け負っていたEの丙に「押して
るで。」と告げたが,この時,コンプレッサーは,既に作動していた。そ
こで,丙は,パージ機の上に手をかざし,「引いてるで。」と言っていた。
検討3
()まず,乙の証言内容についてみると,前記第1の3()のとおり,被告人14
がガス管末を開栓した際,ガスの噴出に気付いたとの事実に争いはないとこ
ろ,乙の証言を前提とすれば,被告人は,ガス管末を開栓した後にコンプレ
ッサーを作動させるという手順で作業が進むと考えていたことになり,機械
室においてガスの噴出を感じた際,押出パージ作業によってガスが出ている
とは考えず,パージ作業とは無関係にガスが出ていると考えたはずである。
そして,パージ作業と無関係にガスが出ていると考えたとすれば,まず生ガ
スの噴出を疑うべき異常事態であるので,被告人は,これを深刻に受けとめ
たはずである。にもかかわらず,乙の証言によれば,被告人は,ガス管末を
開放した後,乙に対して「開きました。」と告げただけであって,その行動
には何ら切迫感が感じられず,不自然な感を否めない。特に,その後,被告
人が丙に対して「押してるで。」と伝え,これを受けて丙がパージ機に手を
かざして「引いてるで。」と答えた事実に照らすと,管末を開放して戻って
きた時点で乙に異常事態の発生を全く伝えていなかったというのは,理解に
苦しむというべきである。
丙の証言によれば,ガスパージ作業の準備が整ってから1,2分()また,2
くらいして実際にパージ作業を開始したと認められるところ,この1,2分
の間に,前記第1の3()のとおり,乙が被告人に管末の開放を依頼し,E4
の従業員からパイプレンチを借りて被告人に渡し,他方,被告人は,甲に電
話をかけ,それから建物内の機械室に行って,管末のバルブを開け,プラグ
を外して,建物外に戻って来たことになる。しかし,中座建物北側出入口か
ら機械室までの移動時間は,途中を小走りで進んだとしても30秒はかかり
(証拠略),本件当時,機械室に向かうには,仮囲い入口から中座建物出入
口までの距離が加わる上,建物内は外の明かりが届くことがなく,所携の懐
中電灯の灯りを除いてはほぼ暗闇の状態であることも考えると,被告人らが
機械室に行くには,片道だけでも40秒程度はかかったものと優に推認する
ことができる。そうすると,建物外と機械室との往復に要する時間をも考慮
すると,ガスパージの準備が整ってから1,2分の間に,被告人が機械室に
赴いて管末を開放した後に丙らがパージ機を作動させるのは,時間的に不可
能とまではいえないとしても,極めて困難であるといわざるをえない。
さらに,前記のとおり,ガスパージ作業の準備が整ったのが午前3時ころ
であり,被告人がその旨甲に電話をしたのが午前3時1分28秒から37秒
にかけてであって,上記の丙証言を前提とすれば,午前3時2分ころには,
パージ作業が開始されたことになるところ,乙の証言によれば,被告人は,
甲が本件現場に到着するまでの約5分間,乙に管末の開放を伝えただけで,
無為に過ごしていたことになる。しかし,これは,管末からガスが噴出して
いたことを確認した者の行動としては,著しく不自然であるというべきであ
る。
()このように,乙の証言は,本件に至る客観的事実に照らすと,著しく不3
自然,不合理な内容を含むものであるが,管末を開放してから吸引パージ機
を作動させるという順序が,吸引パージ作業の手順としては非能率であって,
乙は,本件ガ通常の手順と異なることは,乙自身も認めている。そもそも,
スパージ工事の責任者でありながら,客観的には大阪ガス担当者にガスの系
統確認をしてもらわず,かつ自らもこれをしないままパージ作業に入ったも
のであって,このような立場の乙が,自らの責任を回避し,被告人にこれを
転嫁するため,被告人を大阪ガス担当者の代わりの者と誤信し,パージ作業
開始に当たっては被告人にガス管の系統確認をしてもらえると考えた旨こと
さらに強調する証言をすることも,十分あり得ることというべきである。そ
の他,乙の証言は,吸引パージの経験回数についても,証言自体の中で変遷
を重ねており,到底信用し難いものである。
以上のとおり,乙の証言は,全体としてみても,また,管末の開放時期と
パージ作業の開始時期の先後関係についても,その信用性は低いといわざる
を得ない。
()これに対し,被告人の供述は,ガス臭の受け止め方や被告人の考えた内4
容等に関する部分はともかく,被告人の行動状況に関する限り,格別不自然
な点はみられない。また,中座付近のガス供給圧力の記録をみると,9日午
前3時4分から5分にかけて圧力の低下がみられ(証拠略),これをもって,
その時に管末が開放されたとまでは断定できないものの(証拠略),この時
間帯にそれが行われた蓋然性は高いと認められる。そして,このことは,パ
ージ機が作動した後に管末を開放した可能性を示唆する被告人の供述と整合
的である。
以上の検討によれば,乙の証言よりも被告人の供述の方が,信用性が高い
ことは明らかであり,乙が被告人に対し,管末を開放して戻って来てからパ
ージ機を作動させると伝え,実際にそのようにしたとは認められないという
べきである。
結局,ガス管末が開放されたのは,午前3時4分から5分にかけてであり,
パージ機は,それよりも前に作動していたと認めるのが相当である。そうす
ると,管末の開放を被告人が伝えてから乙がパージ作業の開始を指示したと
の事実を前提として,被告人が管末の開放時に生ガスの噴出を認識していた
とする検察官の主張は,採用することができない。
第3被告人が機械室に入った回数について
検察官は,被告人がこの日機械室に入った回数は,①午前2時ころに乙を案1
内して機械室に入った時,②管末を開放するために機械室に入った時,③いっ
たん本件工事現場を離れていた甲が戻って来て,一緒に機械室に入った時,④
その後,再び甲と共に機械室に入った時の合計4回であるとした上,被告人は,
②の機械室から戻ってきた時点では,異常を感じつつも,これを乙に伝えなか
ったが,③の機械室に入った際になおも気体が出ていたので,事態の深刻さを
認識し,戻って来た時に,丙に「押してるで。」などと伝えたと主張する。こ
れに対し,弁護人は,③の機械室への立ち入りはなかったと主張する。検察官
の上記主張は,次に紹介する甲の証言に依拠するものである。
2甲は,公判廷において,この点について,おおむね以下のとおり証言する。
()同日午前3時過ぎ,私は,本件現場近くのビル内にあるC建設の事務所1
で仕事をしていたところ,被告人から電話がかかってきたので,本件工事現
場に戻った。被告人が中座建物の扉の前に不安そうな顔をして立っており,
振り返って同建物内に入って行ったので,私も,被告人の後を付いて行った。
(2)機械室に入る前の通路で既にガス臭がしていたが,機械室に入ると,よ
りきついガス臭を感じ,そして,被告人と共にガス管末に手をかざして気体
が出ているのを確認した。ただし,パージ作業ではガスが少しは漏れるので,
その時はそのように考えた。
(3)その後,中座の建物から出ると,被告人は,丙に近付いて話をしてから,
私の方に戻って来た。被告人は,再び中座建物内に入って行ったので,私も,
後を付いて行った。
(4)再び機械室内に入ると,先程よりもさらに強いガス臭を感じた。そして,
被告人と共に再びガス管末からガスが出ていることを確認した。その後,懐
中電灯が壊れ,機械室内が真っ暗になった。私は,いったん作業を中止する
ため,ガス管末をプラグで閉じようと考えた。そこで,私が被告人に「プラ
グしろ。」と言った後,本件爆発が起きた。
3検討
()甲は,本件の被害者ではあるが,被告人に対して厳重な処罰を望まない1
と述べるなど,ことさらに虚偽の証言をする動機があるとは見受けられず,
その証言内容は,2度目に機械室に入った時の方が1度目よりもガス臭がき
つかったなどと,自身の体験に基づくと思われるものを含んでおり,一般論
としては,信用性が高いとみることができる。しかしながら,その証言によ
ると,甲が本件工事現場に戻ったところ,被告人が不安そうな顔をしており,
特に甲と言葉を交わすことなく建物内に入って行ったというのであるが,被
告人が甲と再会しながら,何ら同人に状況を説明することなく,建物内に入
っていったというのは,不自然な行動といわざるをえない。さらに,前記事
務所にいた甲が被告人からパージ作業開始の連絡を受け終わったのが午前3
時1分37秒であり,甲の証言によれば,同事務所から本件工事現場まで移
動するのに5分間程度かかると認められるところ,被告人が甲と共に機械室
に入ってから気体の流出の有無を確認し,いったん建物外に出てから丙の所
へ行って話をし,吸引していることを確認した後,再び甲と共に機械室に入
って,午前3時9分ころまでの間にバルブを閉め(証拠略),プラグを探そ
うとライターを点火して爆発事故を起こしたというのは,前記第2の3()2
のとおり,建物出入口から機械室までの移動に片道約40秒を要することを
も考慮すると,時間的に不可能とまではいえないものの,かなり機敏に行動
しない限り相当に困難であるといわざるを得ない。以上によれば,被告人と
共に2度機械室に入った旨の甲証言の信用性が高いとはいえず,爆発被害に
巻き込まれて相当な重傷を負った同人が,爆発に至る経緯を一部忘失してし
まった可能性も否定できない。
()これに対し,被告人は,甲が本件工事現場に戻って来て,共に機械室に2
向かい,そこで気体の噴出を確認して,建物外には戻らず,そのままバルブ
の閉栓等を行ったところ,本件爆発事故を起こしてしまったと供述する。
この内容自体,格別不自然な点は認められない上,午前3時9分ころまで
にバルブが閉められたこととも無理なく整合する。前述のように,甲証言の
信用性が必ずしも高いとはいい難いことをも考慮すると,機械室に赴いた回
数に関しては,被告人の供述の方が相対的に信用性が高いというべきである。
そこで,被告人の供述に従って,被告人が機械室に入ったのは,最初に乙を
案内した時に加え,管末を開放しに行った時と,本件工事現場に戻って来た
甲と共に行って本件爆発事故を起こした時の,合計3回であると認められる
(被告人が機械室に入ったのが3回であるとすると,乙の証言を前提とすれ
ば,被告人は,管末開放後,乙には異常を特に伝えず,その後更に重ねて気
体の押出しの有無を確認したわけでもないのに,丙に対しては「押してる
で。」と伝えたことになり,乙の証言の不合理性は,一層明らかとなる。)。
以上によれば,被告人が本件当日機械室に入ったのが合計4回であるとの
検察官の主張も,採用することができない。
第4注意義務の有無について
1被告人の認識内容
()被告人は,公判廷において,管末開放時にガスが出ていることは分かっ1
たが,それは,押出パージを行ったため,管内の残留ガスが出ているのでは
ないかと考えた旨供述する。前述したように,被告人が管末を開放して戻っ
て来てからパージ機を作動させると乙が伝えていたと認められない以上,被
告人が管末開放時にガスが出ていると知って,押出パージの開始を疑ったと
しても,必ずしも不合理とはいえない上,その後,被告人が丙に「押してる
で。」と伝えていることからしても,被告人は,管末開放時には,吸引パー
ジではなく押出パージを行っているのではないかと疑っていたということは
否定できないというべきである。
()しかし,丙から「引いてるで。」と聞いた時点では,被告人は,吸引パ2
ージが行われていることを認識したのであるから,管末から出ている気体が,
残留ガスではなく生ガスであると,確定的に認識したわけではないにせよ,
そのように疑ったと考えるのが自然である。弁護人は,この点について,途
中で押出パージから吸引パージに切り替えたと考えたとか,圧縮空気が逆流
していると考えたなどと主張するが,被告人が丙から吸引パージを行ってい
る旨聞いたにもかかわらず,途中での切替えとか圧縮空気の逆流の可能性ば
かりを考え,生ガスなのではないかという疑いを全く抱かなかったとは,到
底考えられない。被告人は,甲が本件工事現場に戻って来てから,誰に指示
されたわけでもないのに,間もなく機械室に向かっているが,このような被
告人の行動は,被告人が途中で吸引パージに切り替えられたとか,圧縮空気
が逆流しているとばかり考えていたとすると,およそ理解し難い行動であり,
工事の責任者でもない被告人が機械室に戻って行ったのは,万一の事故につ
ながりかねない危険を感じていたからに外ならないと考えるべきである。そ
して,被告人が機械室に戻ると,なおも管末からガス臭のする気体が噴出し
ていたのであり,前記認定のとおり,午前3時4分から5分にかけて管末が
開放されてからすでに約4分間経っているにもかかわらず,依然としてガス
臭のする気体の噴出が続いている状況を目の当たりにしたのである。被告人
は,パージの対象となるガス管の総延長が数十メートルに過ぎないと認識し
ており(被告人公判供述),その残留ガスの吸引パージに要する時間が十数
秒間であることも認識し得たと考えられることからすれば,噴出している気
体が管内の残留ガスであるとなおも認識していたとは到底考えられない。被
告人は,当初管末の開放時には押出パージの可能性を考えて生ガスの噴出の
可能性を想定していなかったとしても,丙から吸引パージを行っていると知
らされた時点では,生ガスが噴出している可能性を疑い,機械室に戻っても
なおガス臭のする気体が出ている状況を確認した以上,それがいかなるルー
トに由来するものであるかは理解できなかったとしても,生ガスであるとほ
ぼ確実に認識したと考えることができる。このように考えることによって,
ガス臭がしている中で,バルブを閉めたにもかかわらず,更に急いでプラグ
で閉栓しようとして,焦ってライターに点火したという,まさに冷静さを欠
いていたとしかいいようのない被告人の一連の行動が,自然に理解し得るも
のというべきである。
()これに対し,弁護人は,主に乙の証言に依拠する検察官の主張に反論す3
る形で,被告人が生ガスが出ていると認識していたことは立証されていない
と主張する。なるほど乙の証言の信用性が乏しく,検察官の主張は,その前
提となる事実が認め難いことは,すでに説示したとおりである。しかし,被
告人の供述する事実関係を前提としても,被告人が最後に機械室に入って気
体の噴出を確認した時点で,それが生ガスであるとほぼ確実に認識していた
ことは,十分に認定可能である。弁護人は,最後にバルブが閉栓されるまで
の間に,特に生ガスを疑うべき事情は何ら見受けられなかったと主張するが
(弁論要旨36頁),配管図に一部誤りがあったことはすでに被告人にも明
らかになっていた(前記第1の3())上,数分間にわたって噴出し続けた3
気体が残留ガスである可能性もほとんどなかったのであるから,それが生ガ
スである可能性を否定し得る根拠はなかったというべきである。最後に機械
室に入った時点でガスの臭気がすでにかなり強くなっていた事実は,被告人
が否定するにもかかわらず,甲の証言のみならず,大阪ガスの丁作成の解析
結果を記した書面(証拠略)によっても明らかである。このように,吸引パ
ージが行われていることを丙から聞かされる一方,数分間にわたってガスが
噴出し続けているという事実を目の当たりにし,更に強いガス臭も感じてい
たと認められるから,それでもなお生ガスを疑うべき状況になかったとする
弁護人の主張は,到底採用し得ない。
()さらに,弁護人は,被告人は,爆発限界濃度(空気中のガス濃度が約54
%ないし15%の範囲にある場合でないと,ガス爆発は生じない。)に達す
る程度のガスが滞留していたことを認識していなかったから,本件爆発事故
の予見可能性がなかったと主張する。この点について,そもそも上記主張は,
被告人が最後に機械室に赴いた際噴出していた気体を残留ガスであると認識
していたとの前提に立つもので,すでに前提において失当というべきである
が,本件において,被告人は,残留ガスではなく生ガスである可能性の高い
気体が,吸引パージをしているにもかかわらず,相当な勢いで数分間にわた
って噴出していることを認識していた以上,ガスが爆発限界濃度に達してい
る可能性があることは認識していたと考えられ,被告人に注意義務を課す前
提としての予見可能性はあったというべきである。
なお,弁護人は,本件爆発事故の予見可能性があったというためには,ガ
スの混合気体が爆発限界濃度に達していることを認識していることを要する
と主張する。しかし,この主張が,爆発限界濃度に達していることを確定的
に認識していることを要する趣旨であるとすれば,ガスが目に見えないもの
で,その濃度を容易に認識し得ないものである以上,測定機器によってガス
濃度を測定した場合でもない限り,予見可能性が認められないことになり,
不当であることは明らかである。また,弁護人は,何か分からないガス臭の
する気体が噴出していることを認識しても,危惧感ないし不安感が生じるに
すぎず,ガス爆発の具体的危険が発生していることの予見可能性としては不
十分であると主張する。しかし,被告人の本件当時の認識は,上記のとおり
であって,ガスの混合気体が爆発限界濃度に達している可能性があることを
内容とするものである以上,それは,単なる危惧感ないし不安感にとどまる
ものではなく,ガス爆発についての具体的危険の認識の程度に達していたと
みるべきである。
()このほか,弁護人は,本件発生後の新聞報道等に言及し,配管状況が図5
面と異なることが判明するまで,生ガスの漏出は全く疑われておらず,被告
人がこれに気付いていたと考えることはできないと主張する。しかし,機械
室内の管末からガス臭のする気体が噴出している状況を実際に認識していた
のは,被告人と甲だけであり,その両名とも,本件爆発事故によって重篤な
熱傷を負って長期間入院していたのであるから,事故直後の新聞報道等で機
械室内の管末から生ガスが噴出した可能性が報道されなかったのは,何ら不
思議のないことであり,上記報道をもとに予見可能性を否定する弁護人の主
張は失当である。
2注意義務の存在
()以上のとおり認定した被告人の認識を前提とすると,乙から管末の開放1
を依頼されて結局これを引き受け,実際に管末の開放を行った被告人が,ガ
ス爆発の発生の危険を具体的に予見することは十分に可能であり,判示のと
おりの注意義務があったと認定することができる。しかも,被告人は,本来
本件ガスパージ工事自体に従事する立場にはなかったものの,中座建物の解
体工事に関わるガス工事会社であるA設備の従業員であり,同社の従業員と
して本件工事現場に立ち会っていたのであるから,このような立場に置かれ
たガス工事業に従事する通常の作業員にとって,上記のような予見が可能で
あることも明らかである。
()ところで,起訴状記載の公訴事実において,被告人の注意義務の内容は,2
「ガスの漏出滞留状況を的確に把握した上,火気の使用を厳に慎んで,同ガ
スへの引火・爆発事故の発生を防止すべき業務上の注意義務」とされている
ところ,いかなる状況の下で被告人がガスの漏出滞留状況を的確に把握でき
たといえるのかという点につき,検察官は,
①中座建物内の機械室にある管末がガス導管であること
②被告人が,午前3時ころ,ガス管末を開放した際,勢いよく気体が噴
出し,ガス臭がしたこと
③被告人が,一時,建物外で管末開放を報告した後,再度,ガス管末に
戻った際,未だ気体が勢いよく噴出し,ガス臭がしていたこと
④被告人が,再度,建物外に出て,吸引パージ機設置場所に赴いた際,
吸引パージ機に異常はなく,気体を吸引していたこと
⑤その後,被告人が,ガス管末に戻った際,未だ勢いよく気体が噴出し,
ガス臭がしていたこと
⑥午前3時ころガス管末を開放してから最後に同所に戻るまでの間,ガ
ス管末を開放し続け,気体の噴出を放置していたこと
⑦ガス管末のある機械室が閉鎖空間であること
を挙げて釈明している。このうち,③については,被告人が機械室に行った
回数について,検察官の前提とする事実が適切といえないことは,すでに述
べたとおりであるが,検察官が注意義務の発生の根拠であると主張する事実
のすべてが注意義務を構成する訴因の内容となるものでなく,検察官が釈明
した上記諸点のうちのあるものが認められないとしても,判示のとおり注意
義務を認定することは何ら妨げられないというべきである。
第5結論
以上によれば,被告人は,本件ガス爆発の結果を予見することは十分可能で
あり,これを回避する注意義務があったにもかかわらず,これに違反し,ライ
ターを点火して爆発事故を引き起こしてしまったものと認められるから,判示
のとおり過失を認定した次第である。
(法令の適用)
罰条
業務上失火の点刑法117条の2
業務上過失傷害の点刑法211条1項前段
科刑上一罪の処理刑法54条1項前段,10条(重い業務上過失傷害罪に
ついて定めた刑で処断)
刑種の選択禁錮刑
刑の執行猶予刑法25条1項
訴訟費用の負担刑事訴訟法181条1項本文
(量刑の理由)
本件は,長年にわたり演芸場として親しまれてきた「中座」の建物の解体工事に
伴うガスパージ工事の際,同工事に立ち会っていた被告人が,ガス管の管末を開放
したことによりガスが漏出して臭気が漂っていることなどを認識していたにもかか
わらず,灯り取りのためにライターの火を点火したという過失により,漏出し滞留
していたガスに引火させ上記建物を爆発炎上させ,近隣の建物も焼損するとともに,
現場に居合わせた者に傷害を負わせたという業務上失火,業務上過失傷害の事案で
ある。
被告人は,ガスパージ工事中で,しかもガスが漏出して臭気が漂っていることな
どを認識していたにもかかわらず,火気厳禁というガス工事従事者として最も基本
的な注意義務を怠っており,その過失の内容は,甚だ重大なものである。また,本
件ガス爆発により,中座建物が壊滅的に破壊されたほか,近隣の法善寺横丁の店舗
にも多大な被害が生ずるなどの財産的被害が生じただけでなく,被告人とともに現
場に居合わせた被害者がガス爆発に巻き込まれたのであり,同人が一命をとりとめ
たのはまさに不幸中の幸いであるが,それでも同人はⅢ度の熱傷を負い,それによ
り手指の動作に支障が出るなどの後遺障害を負ったという重篤な人的被害が生じて
おり,結果は極めて重大である。
以上の点に照らすと,被告人の刑事責任を軽視することはできない。
他方,被告人の過失が本件事故発生の直接の原因であることは明らかであるもの
の,事故に至るまでの経緯をみると,被告人は,そもそも本件工事を担当する立場
になく,ましてや責任者でもなく,単に工事に立ち会うだけのつもりで現場に臨場
していたところ,工事責任者の求めに応じ,やむを得ずガス管末の開放作業に携わ
ったにすぎない。また,工事責任者において,被告人が大阪ガス担当者の代わりの
者であると誤信していた可能性があるにせよ,ガス管の系統確認を明示的に依頼も
しておらず,さらに管末開放よりも先に吸引パージ機を作動させるという手順を明
確に伝えないまま被告人を管末開放に向かわせたため,結果的に被告人において,
管末開放時に気体が噴出してきたという事実の持つ問題性を的確に理解することが
できず,ガスの滞留を引き起こしてしまったという面もある。そして,被告人がラ
イターを点火した点も,極めて軽率な行為であるとはいえ,生ガスの滞留という予
想外の状況の下で懐中電灯も壊れるという予期せぬ事態に至って焦燥の余り,その
ような行動に出てしまったものと考えられるのであり,単なる怠慢による過失行為
とは態様が大きく異なることも事実である。本件ガス爆発に巻き込まれた被害者も,
特に被告人の厳重処罰を求めているわけではない。また,法善寺横丁の被害はとも
かく,こと中座建物が焼失した点については,同建物が解体工事中であって,その
焼失という被害を過大視することは必ずしも当を得たものではない。さらに,本件
事故の結果,被告人自身,顔面,両上肢熱傷,気道熱傷等の傷害を負ったこと,被
告人は,これまで前科前歴もなく,真面目な社会人として稼働していた人物である
ことなど,被告人のために斟酌すべき諸事情が認められる。
そこで,以上の事情を総合考慮すると,被告人に対しては,主文の禁錮刑によっ
てその刑事責任の重大さを明確にする一方,今回に限りその執行を猶予するのが相
当であると判断した。
(求刑禁錮1年6月)
平成17年3月17日
大阪地方裁判所第8刑事部
裁判長裁判官朝山芳史
裁判官佐藤洋幸
裁判官佐々木明日香

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