弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告が平成12年4月10日付けでした原告を戒告する処分を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 答弁
主文と同旨
第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告が平成12年4月10日付けでした原告を戒告する処分
(以下「本件懲戒処分」という。)の取消しを求めた事件である。
1 事実関係(証拠を引用するほかは,争いがない。)
(1) 原告は,埼玉弁護士会に所属する弁護士である。
(2) 原告は,Aの代理人として,平成8年4月9日に,その養子であったC
(旧姓B)に対し,「請求通知書」(乙6以下「本件通知書」という。)を送付
し,同書面は,同年4月11日にCに配達された。(甲5の1,2)
本件通知書には,Cが,その離縁の届出とDとの婚姻の届出とを同時にしたため
に,Aの戸籍簿にDの氏名やCのDとの婚姻の事実が記載されたことをもって,
「戸籍簿を極度に汚濁した」として,Cを「不浄者」あるいは「低級劣悪」と非難
し,さらに,同人の行為を「非人間的所業」と非難した上,その損害賠償金100
0万円を請求するなどと記載されていた。(乙6)
(3) Aは宗教法人β寺の事務長であったが,その住職代務者(平成9年12月
10日代表役員就任)であるEは,平成9年9月2日,埼玉弁護士会(懲戒委員
会)に対し,本件通知書の内容が弁護士の品位を失う非行に当たるとして,原告に
対し懲戒することを求めた(以下「体件懲戒請求」という。)。(乙3)
(4)① 埼玉弁護士会の綱紀委員会は,平成9年9月16日,本件懲戒請求につ
いて調査を開始し,原告に対し,同日付けの「懲戒請求事件の調査開始のお知らせ
並びに答弁書提出について」と題する書面(乙11)を送付した。
埼玉弁護士会の綱紀委員会は、平成10年11月5日,本件懲戒請求について,原
告を懲戒に付さないことを相当とする旨議決した。(乙5の2)
② 埼玉弁護士会は,上記議決に基き,平成10年12月14日,原告を懲戒に付
さないことを相当とする旨決定した(乙5の1以下「本件原決定」という。)。
埼玉弁護士会は,平成11年1月8日,宗教法人β寺代表役員Eに対し,本件原決
定がされたこと,及び本件原決定については,弁護士法(以下「法」という。)6
1条1項,4
6条2項1号,被告会則97条の5第1項により,通知を受けた日の翌日から起算
して60日以内に被告に異議を申し出ることができることを通知した。(乙12,
13)
(5) Eは,法61条1項に基づき,「宗教法人β寺住職E」名義で,平成11
年2月22日,被告に対し,本件原決定の取消しを求める異議を申し出た(同月2
4日に受付)。(乙1の1,2)
(6)① 被告は,その懲戒手続規定49条(異議の申出の方法),50条(異議
申出書の記載事項)により,平成11年3月30日,宗教法人β寺住職E宛に「懲
戒異議申出について(ご連絡)」と題する書面を発送し,異議申出書副本2通及び
法人の代表者の資格を証する書面を提出するよう補正を促した。(乙9の1,2,
20)
 宗教法人β寺代表役員Eは,平成11年4月9日,被告に対し,同宗教法人の登
記簿謄本及び異議申出書副本2通を提出した。(甲1の1,乙2)
② 被告は,平成11年4月15日,その懲戒委員会に対し,本件異議申出の審査
を請求した。(乙15)
③ 被告の懲戒委員会は,平成11年4月22日に本件異議申出について審査を開
始し,同月24日に原告に対しその旨を通知した。(甲1の2,3)
 被告の懲戒委員会は,平成12年4月10日,『本件通知書は,Aの「戸籍簿を
極度に汚濁した」として,Cに対して「不浄者」あるいは「低級劣悪」など不穏当
な人格攻撃を加え,更に「非人間的所業」をなした者と非難したうえ,損害賠償1
000万円を請求したものであるが,戸籍制度の趣旨から見ても,法律家としてそ
のような表現をすることは適切でない上,1000万円も請求する根拠があるかど
うか極めて疑わしく,弁護士が守るべき品位を著しく傷つけたものと言うべきであ
る。』として,本件原決定を取り消し,原告を戒告することを相当とする旨議決し
た。(乙7)
④ 被告は,法61条2項に基づき,平成12年4月10日付けで原告を戒告する
処分(本件懲戒処分)をし,同月13日に原告に対しその旨通知した。
2 争点と当事者の主張
(1) 本件懲戒処分の手続は違法か。
ア 異議申出期間の経過の有無
(原告の主張)
 本件懲戒請求者は,平成11年1月8日に本件原決定の通知を受けているので,
被告に対する異議申出期間は,その翌日から起算して60日以内(被告会則97条
の5第1項)の同年3月9日までである。しかるに,本件懲戒請求者が異議を申し
出たのは同
年4月9日であるから,本件異議の申出は,その申出期間を経過した不適法なもの
である。
(被告の主張)
 本件異議の申出は,平成11年2月24日にされているから,異議申出期間を経
過していない。
イ 異議申出人の適格の有無
(原告の主張)
 本件懲戒請求者は,宗教法人β寺であるのに,本件異議申出人は,宗教法人β寺
住職ことE個人である(異議申出書のEの氏名の右側に押捺されている印影はEの
私印である。)。したがって,本件異議申出は,異議申出の適格を有しない者から
されたものであって不適法である。
(被告の主張)
 本件異議申出書の「住職」という記載は,社会通念上,代表役員の趣旨と解され
るから,本件異議申出は,宗教法人β寺からの異議申出と解される。
ウ 除斥期間の経過の有無
(原告の主張)
(ア) 法64条は,「懲戒の事由があったときから3年を経過したときは,懲戒
の手続を開始することができない。」と規定している。しかして,懲戒の手続に付
されると,当該弁護士は登録換又は登録取消の請求を制限される(法63条)か
ら,法64条にいう「懲戒の手続を開始する」とは,厳格かつ慎重に解釈すべきで
ある。このことと法58条2項,3項の規定とを併せ考えると,法64条にいう
「懲戒の手続を開始する」とは,所属弁護士会が,その綱紀委員会の調査により当
該弁護士を懲戒にすることを相当と認めて,懲戒委員会にその審査を請求したとき
と解すべきである(いわゆる限定説)。したがって,法60条により,被告が自ら
弁護士を懲戒する場合にも,上記と同様に,被告の懲戒委員会がその審査を開始し
たときをもって,法64条にいう「懲戒の手続を開始する」ときと解すべきであ
る。
 本件の場合,本件通知書がCに配達された平成8年4月11日に懲戒事由が発生
しているから,それから3年を経過した平成11年4月12日以降は,除斥期間の
経過により,懲戒の手続を開始することができない。しかるに,被告の懲戒委員会
が審査を開始したのは平成11年4月22日である。そうすると,本件懲戒処分
は,上記除斥期間を経過した後にされたものであるから,違法である。
(イ) 被告の主張(いわゆる非限定説)は,① 所属弁護士会の綱紀委員会は,
懲戒委員会の審査の前に,懲戒の相当性を含む懲戒事由の有無を調査する機関であ
って,懲戒委員会とは別個,独立の機関である(法65条,70条)こと,② 懲
戒請求者の異議申
出は,懲戒手続の結果に対してされるものであって,綱紀委員会の調査に対してさ
れるものではない(法61条1項)ことにかんがみると,失当である。
(ウ) なお,被告は,いわゆる限定説に立ったとしても,被告に異議の申出がさ
れたとき,あるいは遅くとも被告が異議申出人に補正を求めたときをもって,法6
4条の「懲戒の手続」が開始されたときとみるべきである旨主張するが,そのよう
に解すべき根拠はない。
(被告の主張)
(ア) 法64条にいう「懲戒の手続を開始する」とは,所属弁護士会に懲戒が申
し立てられ,その綱紀委員会による調査が開始されたときと解すべきである(いわ
ゆる非限定説)。けだし,① 法は,第8章「懲戒」において,所属弁護士会の綱
紀委員会による調査と懲戒委員会による審査とを規定し(法58条2項),両者を
区別していないこと,② 綱紀委員会は,「法第58条第2項の調査その他その置
かれた弁護士会の会員の綱紀保持に関する事項をつかさどる」機関であって(法7
0条2項),懲戒手続のための機関であること,③ 法61条1項は,懲戒請求者
は所属「弁護士会がその弁護士を懲戒しないとき又は相当の期間内に懲戒の手続を
終えないときは,(中略)日本弁護士連合会に異議を申し出ることができる。」と
規定しているが,同項の異議の申出は,綱紀委員会における調査判定の結果に対し
てもされること等からすれば,非限定説の解釈が自然である。
 本件の場合,原告が主張するとおり平成8年4月11日から除斥期間が進行する
としても,本件懲戒請求が平成9年9月2日にされ同年9月16日に埼玉弁護士会
の綱紀委員会の調査が開始されているから,法64条に基づく3年の除斥期間は経
過していない。
(イ) 仮に原告の主張(いわゆる限定説)に立つとしても,日本弁護士連合会
は,法61条1項の異議の申出があれば,必ず懲戒委員会を開始することになって
いる(同条2項)から,上記の異議の申出をもって「懲戒の手続」が開始したとみ
るべきであるし,仮にそうでないとしても,被告が異議申出人に対し補正を求めた
ときは,被告の懲戒委員会に必ず付議されるから,遅くともその時点で法64条の
「懲戒の手続」が開始されたとみるべきである。
 本件の場合,平成11年2月24日に上記の異議の申出が受付けられ,同年3月
30日に異議申出人に補正が求められているから,平成8年4月11日から除斥期
間が進行する
としても,法64条に基づく3年の除斥期間は経過していない。
(2) 本件懲戒処分について懲戒事由があるか。
(原告の主張)
ア Cは,平成8年1月上旬ころ,養親であったAに対し,その戸籍簿に「F」姓
を残さないために,婚姻の届出より先に離縁の届出をすることを約束した。しかる
に,Cは,その約束に反して,同時に婚姻の届出と離縁の届出とをしたため,Aの
戸籍簿に「F」姓が記載された。そして,戸籍簿に自己の意に反した記載がされる
ことを戸籍の汚れと表現することは社会的に承認されている。
 そうすると,原告が,本件通知書に,Cについて,「戸籍簿の汚濁」を作出した
者として「不浄者」と記載し,そのような約束違反をしたとして「低級劣悪」,
「非人間的所業」と記載したのは,不当な人格攻撃とはいえないし,弁護士である
原告にとって社会的に相当な行為の範囲に属する。
イ 原告が本件通知書で1000万円の損害賠償請求をしたのは,依頼者であるA
の意思に沿ったものであり,仮に,その請求が過大であったとしても,訴訟を提起
すれば一部棄却となるだけであるから,弁護士の品位を失うべき非行には当たらな
い。
ウ したがって,本件懲戒処分は,懲戒事由を欠いており,取り消されるべきであ
る。
(被告の主張)
ア 弁護士は,名誉を重んじ,信用を維持するとともに,常に品位を高め教養を深
めるよう努めなければならない(弁護士倫理5条)。したがって,法56条1項
は,弁護士は,違法行為をしたときに限らず,品位を失うべき非行をしたときも,
懲戒を受ける旨を規定している。
 原告が,本件通知書において,Cの妻の氏名が養親であったAの戸籍簿に記載さ
れた故をもって「戸籍簿の汚濁」と表現したことは,憲法24条の下における現行
戸籍制度の理解として適切ではない。
 また,原告が本件通知書にCが「不浄者」であり,その行為について「低級劣
悪」,「非人間的所業」であると記載したのは,弁護士の用いるべき表現として相
当な限度を超えており,依頼者のためとはいえ,軽率の誹りを免れない。
イ 弁護士がいかなる請求をするかは,法律実務家として慎重な判断を要し,こと
に相手方が法律専門家でない場合は十分な配慮が必要である。本件通知書に記載し
た1000万円の損害賠償請求は余りにも過大であり,過大請求をしても訴訟前で
あれば弁護士の品位を失うべき非行には当たらないという原告の主張は失当であ
る。
ウ 
したがって,本件懲戒処分は,何ら違法とはいえない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)アについて
 前記第2,1の事実によれば,宗教法人β寺の代表役員Eは,平成11年1月8
日に本件原決定の通知を受け,同年2月22日に本件異議の申出をし,同月24日
に受付けられているから,本件異議の申出は,被告会則97条の5第1項所定の異
議申出期間(通知を受けた日の翌日から起算して60日以内)を経過した後にされ
たものではない。
 原告の争点(1)アの主張は,被告の補正命令に従い,Eが異議申出書副本2通
を提出した日をもって,本件異議の申出をした日とするものであって,採用するこ
とができない。
2 争点(1)イについて
 前記第2,1の事実によれば,本件異議の申出は,「宗教法人β寺住職E」の名
義でされているところ,Eは,当時,宗教法人β寺の住職であると同時に代表役員
であり(乙2),「住職」の表示は「代表役員」の表示の誤記ともいうべきもので
あるから,本件異議の申出は,本件懲戒請求と同様に宗教法人β寺によりされたと
認めるのが相当である。
 原告の争点(1)イの主張は,採用することができない。
3 争点(1)ウについて
(1)弁護士に対する懲戒手続の除斥期間について,法64条は,「懲戒の事由が
あったときから3年を経過したときは,懲戒の手続を開始することができない。」
と規定しているところ,同条にいう「懲戒の手続を開始する」ときとは,所属弁護
士会の綱紀委員会が,法58条2項に基づき,懲戒事由の調査を開始したときと解
するのが相当である(いわゆる非限定説)。
 その理由は,以下のとおりである。
ア 法は,第8章(懲戒)において,「懲戒は,その弁護士の所属弁護士会が,懲
戒委員会の議決に基づいて行う。」(56条2項。なお,60条参照),「弁護士
会は,所属の弁護士について,懲戒の事由があると思料するとき又は前項の請求
(懲戒の請求)があったときは綱紀委員会にその調査をさせなければならない。」
(58条2項),「弁護士会は,綱紀委員会が前項の調査により弁護士を懲戒する
ことを相当と認めたときは,懲戒委員会にその審査を求めなければならない。」
(同条3項)とそれぞれ規定している(なお,法第9章参照)。
 そうすると,法は,弁護士を懲戒するために,所属弁護士会に綱紀委員会及び懲
戒委員会を設置させた上,まず綱紀委員会に懲戒事由の調査をさせ,次いで懲
戒委員会に審査をさせることにしている,換言すると,所属弁護士会は,綱紀委員
会の調査を経た後でなければ,懲戒委員会の審査(議決を含む。)に基づいて,懲
戒をすることができないこととしているが,同時に,綱紀委員会も懲戒委員会も同
じ弁護士会の内部的な機関であって,綱紀委員会の調査は懲戒委員会の審査の不可
欠の前提であり,両委員会がそれぞれの機能を十分に発揮することによってはじめ
て適正に懲戒制度を運用できるものとしている(ちなみに,法61条1項にいう
「懲戒の手続」に綱紀委員会の調査が含まれることは明白である。)から,綱紀委
員会の調査が開始されたときは,法64条にいう「懲戒の手続」が開始されたもの
と解すべきである。
 なお,法68条は,「懲戒委員会は,同一の事由について刑事訴訟が係属する間
は,懲戒の手続を中止することができる。」と規定しているところ,同条にいう
「懲戒の手続」が懲戒委員会の審査を指すことは文理上明白であるが,同条は,懲
戒手続のうち懲戒委員会にかかる手続についてのみ規定しているにすぎないから,
この規定をもって,上記判断が左右されるものではない。
イ 実質的に考えても,限定説のように,法64条の「懲戒の手続を開始する」と
きとは,所属弁護士会が懲戒委員会に審査を請求したとき(被告の懲戒委員会がそ
の審査を開始したとき)と解するならば,懲戒事由のある弁護士に対し懲戒請求が
されたにもかかわらず,所属弁護士会の綱紀委員会の調査が進展しなかったために
除斥期間を徒過するという不当な事態が生じかねない。
 確かに,所属弁護士会が相当の期間内に懲戒の手続を終えないときは,懲戒請求
者は日本弁護士連合会に対して異議を申し出ることができる(法61条1項)が,
これをもって直ちに上記の不当な事態の発生を防止することはできない。このこと
は,日本弁護士連合会が自ら懲戒権を行使することができる(法60条)ことを考
慮しても同じである。
ウ もっとも,上記のような非限定説を採ると,「懲戒の手続に付された弁護士
は,その手続が結了するまで登録換又は登録取消の請求をすることができない。」
(法63条)から,たとえ懲戒請求が濫用された場合であっても,その懲戒請求を
受けた弁護士は,所属弁護士会の綱紀委員会の調査が開始されたときをもって登録
換又は登録取消の請求を制限されるとして,上記のような解釈は不当であるという
見解もあろう。
 
しかし,上記見解は採用することができない。なぜならば,① そもそも懲戒請求
が濫用されるような例外的な場合に,しかも懲戒手続の開始に付随する効果が生ず
ることをもって,上記の解釈(非限定説)の不当をいうこと自体問題がないではな
い上,② そのような例外的な場合には,綱紀委員会の調査(及び懲戒委員会の審
査)を迅速にすることによって,当該弁護士を不当な制限からできる限り早期に解
放することができるし,③ 限定説を採り,綱紀委員会の調査が進展しないとき
は,除斥期間の徒過により,本来懲戒を受けるべき弁護士が不当に懲戒を免れるこ
ともやむを得ないとすることはできないからである。
エ なお,日本弁護士連合会(被告)は,法64条の解釈について,昭和30年及
び昭和35年の理事会決議並びにこれに基づく会長通知によりいわゆる限定説を採
用していたところ,平成11年6月9日付け会長通知(乙10)により,いわゆる
限定説のような解釈では弁護士自治の根幹をなす弁護士懲戒手続の厳正な運用に十
全を期し難いとし,当該懲戒事件が所属弁護士会の綱紀委員会の調査手続に付され
たときに「懲戒の手続」に付されたこととする非限定説を採用することとした。そ
して,上記通知も,理由のない懲戒請求を受けた会員の不利益を最小限にするよう
綱紀委員会の処理の迅速化を一層図ることが求められる旨指摘している。
(2) 本件の場合,平成8年4月11日に本件通知書が配達され,平成9年9月
2日に本件懲戒請求がされて,同年9月16日に埼玉弁護士会の綱紀委員会の調査
が開始されていることは,さきに認定したとおりであるから,同日をもって法64
条にいう「懲戒の手続」が開始されたこととなる。したがって,本件懲戒処分が法
64条の除斥期間が経過したものとして違法であるということはできない。
 原告の争点(1)ウについての主張は,採用することができない。
4 争点(2)について
(1) 前記認定の事実に加え,証拠(乙2,3,5の2,7)及び弁論の全趣旨
によれば,次の事実が認められる。ア 本件異議申出人の宗教法人β寺は,主たる
事務所を川口市αに置く眞言宗智山派の末寺である。
イ 宗教法人β寺は,最近数代にわたりB姓を名乗る者が住職を務めてきたが,住
職Gが禁治産宣告を受けたため,その後見人(姉)であるAが事務長となり,大宮
市γ寺の住職であるHが兼務住職になった。
ウ Gの子供は,離婚
した妻が引き取り,僧籍を継ぐ者がいなかった。そこで,Aは,姉Iの子であるC
が僧籍を継ぐことを期待して,同人と縁組をした。
エ ところが,Cは,Aの意に反して,Dと婚姻して改姓し,僧籍を継がないこと
になったため,AとCとは縁組を解消することになった。
オ Aは,Cに対し婚姻の届出をする前に離縁の届出をするよう要請し,Cはこれ
を了承したが,婚姻の届出と離縁の届出を同時にしたため,Aの戸籍簿にCとDと
の婚姻に関する事項が記載された。
カ Aは,上記戸籍簿の記載によって自己の戸籍簿が汚されたと認識し,同人から
依頼を受けた弁護士である原告は,Cに対し本件通知書を送付した。
キ 本件通知書には,前記第2,1,(2)後段の記載があった。
ク 被告懲戒委員会は,前記第2,1,(6),③後段の議決をし,被告は,原告
に対し,前記第2,1,(6),④のとおり本件懲戒処分(戒告処分)をした。
(2) 思うに,被告が,弁護士自治の一環として,弁護士に対する懲戒権を有し
ていることにかんがみると,弁護士に法に定められた懲戒事由がある場合に,懲戒
処分をするかどうか,懲戒処分をするときにいかなる処分を選ぶかは被告の裁量に
委ねられ,かつ,その裁量権の範囲は相当広いといわざるを得ないから,被告の裁
量権の行使に基づく懲戒処分は,社会観念上著しく妥当を欠いて,その裁量権を濫
用したと認められる場合に限り,違法としてこれを取り消すべきものである。
(3) 本件の場合,上記(1)に認定したところによれば,原告が,本件通知書
において,Aの戸籍簿にCの妻の「F」姓が記載された故をもって,「戸籍簿の汚
濁」と表現したことは,Cが離縁の届出を婚姻の届出より先にする旨の約束を守ら
なかったためであるとしても,戸籍制度や憲法14条1項の趣旨に照らすと,少な
くとも弁護士が用いるべき表現としては不適切である。また,原告が,本件通知書
に,Cが「不浄者」であり,その行為について「低級劣悪」,「非人間的所業」と
いう記載をしたのも,不当な人格攻撃というべきであって,品位を重んずべき弁護
士が用いるべき表現ということはできない。さらに,原告が本件通知書において損
害賠償金1000万円を請求したことも,その根拠となる記載事実からみて余りに
も過大であり,基本的人権の擁護と社会的正義の実現を使命とする弁護士(法1条
1項,2項)の言動として適切さを欠いたものである。
 
以上によれば,原告に弁護士としての「品位を失うべき非行」(法56条1項)が
あったことは明らかであり,被告がした本件懲戒処分(戒告処分)が社会観念上著
しく妥当を欠いてその裁量権を濫用したということはできない。
原告の争点(2)の主張は,採用することができない。
5 結論
 よって,原告の請求は理由がないから,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第4特別部
裁判長裁判官 増井和男
裁判官 佐藤武彦
裁判官揖斐潔は,転任のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 増井和男

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛