弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中検察官の控訴を棄却した部分及び第一審判決中無罪部分を破棄
する。
     被告人を罰金一万円に処する。
     被告人において右罰金を完納することができないときは、金一〇〇〇円
を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
     第一審における訴訟費用中、証人A、同B、同C、同D、同Eに支給し
た分及び原審における訴訟費用中、証人F、同Gに支給した分は、被告人の負担と
する。
     被告人の本件上告を棄却する。
         理    由
 (弁護人杉本昌純の上告趣意について)
 所論は、事実誤認の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 (検察官の上告趣意について)
 第一 本事件の経過
 本件公訴事実のうち、集団行進及び集団示威運動に関する条例(昭和二七年一月
二四日徳島市条例第三号、以下「本条例」という。)違反の点は、「被告人は、昭
和三九年一一月一三日徳島市役所前から、徳島市a町、b通り、c、d、e町、f
町、gを経てh町、i駅前、j前にいたる安保反対、平和と民主主義を守る県民会
議主催の原子力潜水艦日本寄港に反対を表明する参加者約五〇〇名の集団示威行進
に参加したものであるが、右集団行進が午後六時一五分ころ同市銀座通り道路にさ
しかかつた際、『わつしょい、原潜反対』などと、午後六時二〇分ころ同市東新町
道路にさしかかつた際、『わつしょい、わつしょい、原潜反対、原潜かえれ』など
と、さらに午後六時三〇分ころ同市元町交差点付近道路にさしかかつた際、『原潜
寄港反対』などと、午後六時四七分ころ同市i駅前東側道路にさしかかつた際も前
同旨のことを、それぞれ隊列の外から集団行進者に対し携帯マイクで大声で呼びか
け、そのつど集団行進者にだ行進をさせるように刺激を与え、もつて集団行進をす
る者が交通秩序の維持に反する行為をするようにせん動したものである。」という
のであり、この事実が本条例三条三号、五条に該当するものとして、公務執行妨害、
傷害の事実とともに起訴されたものである。
 第一審判決は、公務執行妨害、傷害の点については、被告人を有罪としたが、本
条例違反の点については、被告人に無罪を言い渡した。右無罪の理由とするところ
は、本条例は五条に罰則を設け、その犯罪構成要件の一として三条の規定違反を掲
げ、その三号に「交通秩序を維持すること」をあげており、この規定が集団行進等
の方法、形態等を規制しようとするものであることは明らかであるが、それ以上に
何らの具体的規定をも設けることなく、ただ単に「公共の安寧を保持するため」「
交通秩序を維持すること」という、それ自体およそ一般的、抽象的かつ多義的な概
念を内容とするものであるばかりでなく、それが集団行進等の行われない場合に想
定される「交通秩序を維持すること」であるのか、それとも集団行進等が行われる
場合には、およそかくあらねばならぬ「交通秩序を維持すること」であるのか、も
し後者であるならば、それはどのような内容を想定しているのかはなはだ不明確な
立言であつて、犯罪構成要件の明確性を要請する罪刑法定主義にもとり、これを宣
言したと解すべき憲法三一条に違反するとし、本条例三条三号の規定が違憲無効の
ものである以上、これに違反して行われた集団行進等のせん動者を処罰する本条例
五条の規定も、右の点に関する限り違憲無効であり、結局、本条例違反の点は罪と
ならないというのである。
 右第一審判決の有罪部分に対し被告人から、無罪部分に対し検察官から、それぞ
れ控訴を申し立てたところ、原判決は、双方の控訴をいずれも棄却した。
 原判決が検察官の控訴を棄却した理由は、次のとおりである。
 (一)裁判所が憲法七六条により司法権を行使し、ある行為のゆえに刑罰を科す
るためには、成文の法規によつてその行為の可罰的要件が行為の時に定められてい
なければならないとともに、刑罰法規における可罰行為は少なくとも合理的解釈に
よつて確定できる程度の明確性が要請されていることは、刑罰法令の基本原理であ
り、憲法三一条の解釈よりしても異論のないものであるところ、本条例三条三号の
「交通秩序を維持すること」の意味を集団行進等が行われる場合にあらねばならな
い交通秩序を維持することと解しても、「交通秩序の維持」なる文言は、犯罪構成
要件としては、はなはだ広義かつ包括的でその内容が不明確なものであつて、その
内容を本条例に直接規定するか、委任規定によりそのつど条件を設定するなどして
適式かつ具体的に補充されない限り、刑罰法規としての明確性に欠けるところがあ
ると認めざるを得ず、(二) また、本件集団示威行進に対しては、道路交通法七
七条及びこれに基づく徳島県道路交通施行細則により道路使用の許可条件として、
所轄徳島東警察署長より「三列縦隊で行進を行い、だ行進及びうず巻行進はしない
こと」等六項目が定められているが、法律と市条例という法体糸の相違からして、
右道路交通法関係法令に基づく許可条件が本条例に規定されている「交通秩序の維
持」の内容を具体的に補充するものでないことは明らかであるほかに、地方自治法
一四条一項により、条例は国の法令に違反しない限りにおいて制定できるという趣
旨からすれば、少なくとも道路交通法七七条により所轄警察署長が道路使用の許可
条件として具体的に規制の対象とした事項については、特段の事由なくして直ちに
条例による規制、処罰の対象とすることは許されないものと解されるので、だ行進
をしないことが道路交通法関係法令に基づく許可条件として明定され、本条例にお
いては、だ行進の禁止を明示していない本件事案においては、だ行進に対する規制、
処罰は、道路交通法においてのみ行い得るものであり、本条例も五条の罰則を適用
しないものとしていると解されるとし、第一審判決が本条例三条三号の規定をもつ
て、憲法三一条の規定に違反するとして、本条例五条の罰則を被告人の所為に適用
できないとした判断に過誤はなく、また、本件事案においては、少なくともだ行進
等交通秩序違反の行為が、道路交通法関係法令による処罰の対象となることはあつ
ても、本条例による処罰の対象とされていないと解釈できるので、検察官の所論は
採用できないというのである。
 原判決中、被告人の控訴を棄却した部分に対し被告人から、検察官の控訴を棄却
した部分に対し検察官から、各上告の申立があつた。
 検察官の上告趣意は、原判決の右判断につき、憲法三一条の解釈適用の誤り、高
等裁判所の判例違反、本条例三条三号、五条の解釈適用の誤りを主張するものであ
る。
 第二 当裁判所の見解
 一 本条例三条三号、五条の犯罪構成要件としての明確性について
 本条例三条三号が集団行進等についての遵守事項の一として「交通秩序を維持す
ること」を掲げているのは、道路における集団行進等が一般的に秩序正しく平穏に
行われる場合にこれに随伴する交通秩序阻害の程度を超えた、殊更な交通秩序の阻
害をもたらすような行為を避止すべきことを命じている趣旨と解されること、及び
このように解釈した場合、右規定が本条例五条の罪の犯罪構成要件の一部をなすも
のとして憲法三一条に違反するような不明確性を有するものでないことは、当裁判
所昭和四八年(あ)第九一〇号同五〇年九月一〇日大法廷判決の判示するところで
あるから、これと異なる見解に立つ原判決中検察官の控訴を棄却した部分及びその
維持する第一審判決中無罪部分は、憲法三一条の解釈適用を誤つたものというべく、
検察官の憲法三一条の解釈適用の誤りをいう論旨は理由がある。
 二 本条例三条三号、五条と道路交通法七七条、一一九条一項二二号との関係に
ついて
 道路交通法七七条一項四号は、その対象となる道路の特別使用行為等につき、各
普通地方公共団体が、条例により地方公共の安寧と秩序の維持のための規制を施す
にあたり、その一環として、これらの行為に対し、道路交通法による規制とは別個
に、交通秩序の維持の見地から一定の規制を施すこと自体を排斥する趣旨まで含む
ものではなく、各公安委員会は、このような規制を施した条例が存在する場合には
これを勘案して、右の行為に対し道路交通法の前記規定に基づく規制を施すかどう
か、また、いかなる内容の規制を施すかを決定することができるものと解すべきこ
と、したがつて、本条例三条三号の規制と道路交通法七七条及びこれに基づく徳島
県道路交通施行細則による規制とが一部重複していても、道路交通法による規制は、
条例の規制の及ばない範囲においてのみ適用されるものと解すべく、右条例をもつ
て道路交通法関係法令に違反するものとすることができないことは、当裁判所昭和
四八年(あ)第九一〇号同五〇年九月一〇日大法廷判決の判示するとおりである。
それゆえ、これと異なる見解に立つ原判決は、道路交通法七七条一項四号、三項、
一一九条一項一三号、徳島県道路交通施行細則一一条三号及び本条例三条三号、五
条の解釈を誤つた違法があるものといわなければならない。
 (結論)
 よつて、検察官のその余の論旨に対する判断を省略し、刑訴法四一四条、三九六
条により被告人の本件上告を棄却し、同法四一〇条一項本文により原判決中検察官
の控訴を棄却した部分及び第一審判決中無罪部分を破棄し、直ちに判決をすること
ができるものと認めて、同法四一三条但書により被告事件についてさらに判決する。
 第一、第二審判決の認定によると、被告人は、昭和三九年一一月一三日、徳島市
k町の徳島市役所前を出発し、同市a町、b通り、c、d通り、l町、f町、gを
経てh町、i駅前、j前に至る、「安保反対、平和と民主主義を守る県民会議一主
催の原子力潜水艦の日本寄港に反対を表明する参加者約一〇〇〇名の集団示威行進
に参加したものであるが、右行進が、同日午後六時一五分ころ同市d通り道路にさ
しかかつた際「わつしょい、わつしょい、原潜反対」などと、午後六時二〇分ころ
同市f町道路にさしかかつた際、「わつしょい、わつしょい、原潜反対、原潜帰れ」
などと、午後六時三〇分ころ同市h町交差点付近(m付近)道路にさしかかつた際、
「原潜寄港反対」などと、さらに午後六時四七分ころ同市i駅前東側道路にさしか
かつた際にも前同旨のことを、それぞれ隊列の外から集団行進者に対して携帯用マ
イクで大声で呼びかけるなどし、そのつど集団行進者の一部が道路幅一杯ないしは
その三分の二にわたるだ行進をするについて気勢を添え、もつて集団行進者の一部
が交通秩序の維持に反する行為をするようせん動したもの(第一審判決の証拠の標
目掲記の各証拠による。ただし、徳島東警察署長作成の「道路使用許可について」
と題する書面、医師妹尾光雄作成の診断書、押収してある登山靴一足を除く。)で
あり、右事実に法令を適用すると、被告人の右所為は、本条例三条三号、五条(刑
法六条、一〇条により罰金額の寡額は、昭和四七年法律第六一号による改正前の罰
金等臨時措置法二条一項所定の額による。)に該当するので、所定刑中罰金刑を選
択し、その金額の範囲内で被告人を罰金一万円に処し、被告人において右罰金を完
納することができないときは、刑法一八条により金一〇〇〇円を一日に換算した期
間被告人を労役場に留置することとし、第一審における訴訟費用中、証人A、同B、
同C、同D、同Eに支給した分及び原審における訴訟費用中証人F、同Gに支給し
た分は、刑訴法一八一条一項本文によりこれを被告人に負担させることとし、主文
のとおり判決する。
 この判決は、検察官の上告趣意に関する部分について、裁判官小川信雄、同坂本
吉勝の補足意見、裁判官岸盛一、同団藤重光の各補足意見、裁判官高辻正己の意見
があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。
 裁判官小川信雄、同坂本吉勝の検察官の上告趣意に関する部分についての補足意
見は、次のとおりである。
 われわれの補足意見は、最高裁昭和四八年(あ)第九一〇号同五〇年九月一〇日
大法廷判決における補足意見と同一であるから、ここにこれを引用するほか、裁判
官団藤重光の補足意見に同調する。
 裁判官岸盛一の検察官の上告趣意に関する部分についての補足意見は、次のとお
りである。
 わたくしの補足意見は、最高裁昭和四八年(あ)第九一〇号同五〇年九月一〇日
大法廷判決における補足意見と同一であるから、ここにこれを引用する。
 裁判官団藤重光の検察官の上告趣意に関する部分についての補足意見は、次のと
おりである。
 わたくしの補足意見は、最高裁昭和四八年(あ)第九一〇号同五〇年九月一〇日
大法廷判決における補足意見と同一であるから、ここにこれを引用するほか、裁判
官小川信雄、同坂本吉勝の補足意見に同調する。
 裁判官高辻正己の検察官の上告趣意に関する部分についての意見は、次のとおり
である。
 私は、原判決中検察官の控訴を棄却した部分を破棄する多数意見の結論には同調
するが、本条例三条三号、五条の犯罪構成要件としての明確性の点については、多
数意見と見解を一にすることができない。この点に関する私の意見は、最高裁昭和
四八年(あ)第九一〇号同五〇年九月一〇日大法廷判決における意見と同一である
から、ここにこれを引用する。
 検察官大石宏、同蒲原大輔、同海治立憲、同石原一彦公判出席
  昭和五〇年九月一〇日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    村   上   朝   一
            裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    大   塚   喜 一 郎
            裁判官    高   辻   正   己
            裁判官    吉   田       豊
            裁判官    団   藤   重   光
 裁判官 小川信雄は退官のため、裁判官坂本吉勝は海外出張のため、いずれも署
名押印することができない。
         裁判長裁判官    村   上   朝   一

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