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平成23年7月11日判決言渡同日原本領収裁判所書記官山下京子
平成21年(ワ)第10932号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成23年4月13日
判決
中華人民共和国上海市<以下略>
原告中视传媒股份有限公司
同訴訟代理人弁護士逢坂哲也
東京都千代田区<以下略>
被告株式会社小学館
同訴訟代理人弁護士田中克郎
同遠山友寛
同升本喜郎
同宮澤昭介
同稲垣勝之
同訴訟復代理人弁護士小坂準記
主文
1被告は,原告に対し,金10万5000円及びこれに対する平成18年8月
17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを100分し,その99を原告の負担とし,その余は被告
の負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,金2500万円及びこれに対する平成16年4月1日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,中国中央電視台(中華人民共和国の国営放送である。以下「CCT
V」という。)のグループ会社で中華人民共和国法人である原告が,CCTV
の放送用として製作された「中国世界自然文化遺産」と題する記録映画の著作
権を有するとして,被告の製作・販売に係る「中国の世界遺産」と題するDV
Dが当該記録映画を複製又は翻案したものである旨主張して,被告に対し,不
法行為に基づく損害賠償として2500万円(附帯請求として不法行為開始月
の翌月初日である平成16年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金)の支払を求めた事案である。
1前提事実(争いがないか,後掲の証拠等により認められる。)
(1)原告
原告は,中華人民共和国の国営放送であるCCTVのグループ会社で,C
CTVで放送される番組や映像の製作・販売等を業とする中華人民共和国法
人である。
(甲1)
(2)被告
被告は,雑誌,絵本,図鑑,辞典,百科事典,文芸書,ビデオ・DVD等
の出版を業とする株式会社である。
(争いがない。)
(3)「中国世界自然文化遺産」と題する記録映画の製作
「中国世界自然文化遺産」第1巻九寨溝,第2巻黄龍,第3巻武陵源,第
4巻峨眉山・楽山大仏,第5巻平遥古城,第6巻大足石刻,第7巻都江堰・
青城山の各記録映画(以下,これらを個別に「本件第1巻」等といい,これ
らを併せて「本件各原版」という。)は,平成14年から平成15年におい
て,CCTVの放送用として中華人民共和国において製作された。
(弁論の全趣旨)
(4)本件各原版に関する原版供給契約
被告と株式会社プレシャスコーポレーション(以下「プレシャス社」とい
う。)は,平成16年3月15日,プレシャス社(又はその委託する製作会
社)が,原告に対し,本件各原版を供給する旨の契約(以下「本件原版供給
契約」という。)を締結した。
(乙8,19)
(5)「中国の世界遺産」と題するDVDの製作・販売
被告は,「中国の世界遺産」第1巻九寨溝,第2巻黄龍,第3巻武陵源,
第4巻峨眉山・楽山大仏,第5巻平遥古城,第6巻大足石刻,第7巻都江堰
・青城山の各DVD(以下,これらを個別に「被告第1巻」等といい,これ
らを併せて「被告各DVD」という。)を製作し,平成16年9月20日か
ら,DVD1本の販売価格を3800円(税抜き)として,その販売を開始
した。
(乙16,17,22の1~22の5,弁論の全趣旨)
(6)告知書の送付
原告は,被告に対し,平成18年2月21日付け告知書(以下「本件告知
書」という。)をもって,「貴社が当社の授権なしに日本国内において『世
界自然文化遺産』(中国部分)を出版,発行した事実に鑑み,当社はプログ
ラムの合法版権所有者として貴社に対し告知をいたします。貴社が日本国内
において当プログラムを発行する行為は当社の権益を侵した可能性があり
ます。上述問題の妥当な解決及び不必要な紛争を避けるために,本告知書を
受け取った後即時当社に対し,貴社の上述行為に関する必要な説明を行って
ください。」などと告知した。
(甲5,弁論の全趣旨)
(7)本件訴訟の提起
原告は,平成21年4月3日,当庁に対し,本件訴訟を提起した。
(当裁判所に顕著)
(8)被告各DVDと本件各原版との類似性及び依拠性
①被告第1巻~第4巻,第6巻及び第7巻は,別表1~4,6及び7記載
のとおり,本件第1巻~第4巻,第6巻及び第7巻と動画映像・音楽・音声
(ただし,ナレーションを除く。)について全く同一である。②被告第5巻
は,本件第5巻にはない「鎮国寺」のシーン等が約2分半追加され,他方で,
本件第5巻に存在するインタビューのすべて,ガイドのシーン等が削除され
ている。被告第5巻のうち,追加映像は全体の約7%であり,その余の約9
3%の部分については,別表5記載のとおり,本件第5巻と動画映像・音楽
・音声(ただし,ナレーションを除く。)について全く同一である(ただし,
動画映像・音楽・音声の順番が4か所で入れ替えられ,エンディング部分で
は各部分の動画映像が編集されて使用されている。)。③上記①及び②に共
通する被告各DVDと本件各原版との相違点は,オープニング映像,日本語
のナレーションとテロップの付加である。
以上のとおり,被告各DVDには,本件各原版の創作的な表現が再製され
ており,被告各DVDと本件各原版とは類似している。また,被告は,本件
各原版に依拠して,被告各DVDを製作した。
(上記各段落につき争いがない。)
2争点
(1)本件各原版の著作権の帰属
(2)本件各原版の利用許諾の有無
(3)被告の過失の有無
(4)消滅時効の成否
(5)原告の損害額
3争点に関する当事者の主張
(1)本件各原版の著作権の帰属(争点(1))について
(原告の主張)
ア本件第5巻を除く本件各原版については,原告が北京卓倫影視文化発展
有限公司(以下「卓倫社」という。)に委託して作成したものであり,①
本件第5巻を除く本件各原版の終わりには,「承制」として卓倫社の表示
がされた上,最後に「出品」として原告が表示されていること,②原告と
卓倫社との間の記録映画製作協議書(以下「本件委託協議書」という。)
では,原告が製作するテレビ番組であって版権は原告が享有することなど
が定められ,原告に著作権が帰属することが明記されていること,③卓倫
社が委託の経緯や原告に著作権が帰属する旨の証明書を提出しているこ
と,④原告,卓倫社及びアメリカ合衆国法人GlobalManagementGroup(以
下「GMG」という。)との間の終了協議書(以下「本件終了協議書」と
いう。)には,本件各原版の著作権が原告に帰属する旨が記載されている
こと,⑤本件各原版を原告が著作権者として管理していることなどに照ら
して,原告に著作権が帰属する。
イ本件第5巻については,原告がCCTVのチャンネル10「探索・発現
」の番組スタッフに委託して作成したものであり,①他の本件各原版と同
じ文体で,画面右下に「世界文化遺産」のテロップが表示され,他の本件
各原版と同一シリーズであることが示されていること,②被告第5巻のス
タッフクレジットは,出品者として原告名が明記されていること,③本件
終了協議書には,本件各原版の著作権が原告に帰属する旨が記載されてい
ること,④本件各原版を原告が著作権者として管理していることなどに照
らして,原告に著作権が帰属する。
(被告の主張)
ア原告が卓倫社を含む会社に製作を委託したのであれば,かかる製作を受
託した会社が本件各原版の「製作に発意と責任を有する者」として「映画
製作者」に当たり,当該会社に本件各原版の著作権が帰属する。
イ「出品」とは「製品を出す,製品」,「(コンクールなどへの)出品,
製品を出す,出品する」と訳されており,いわゆる「発行元」を示す単語
であって,被告各DVDの最後のシーンに「発行元」として被告名が表示
されていることを併せ考えると,原告は著作権者ではない。また,本件第
5巻を除く本件各原版及び被告各DVDのラストシーンには,様々な人物
のクレジット表示がされており,かかる表示のうち「出品」として表示さ
れている原告名のみが,著作権者として表示されているといえるのか不明
である。また,テレビ大阪株式会社は,本件第1巻,第3巻及び第7巻を
放送したところ,当該番組に関するホームページにおいては,原告の社名
はどこにも表示されていない。
ウ甲17号証(本件委託協議書の卓倫社保有原本の写し)は,その1の1,
5の1及び6の1について,それぞれ別個の契約の契約書であるにもかか
わらず,署名欄の記載の特徴が同一であること,署名押印欄の頁のみ文字
の印字の濃淡が他の頁と異なることに照らすと,1通ずつ手書きにより署
名押印されたものではなく,機械的にコピーして作成されたものであり,
署名を含む頁のみ後日差し替えられて作成されたものと考えられる。また,
甲17号証の2の1,3の1及び4の1についても,上記その1の1等と
同様の事実が認められるほか,原告の契印しか存在しないこと(この点は
その1の1も同様である。)などを考え併せると,卓倫社の関与なく原告
のみで作成したと推認される。以上のとおり,甲17号証の成立の真正は
極めて疑わしい。また,甲22号証(本件委託協議書の卓倫社保有原本)
のうち,その1及び4について,甲17号証の1の1及び4の1と押印部
分を中心に重ね合わせたところ,署名押印部分以外の条項部分については
全く一致しなかったのであり,甲17号証の1の1と甲22号証の1の末
頁のフォントのデザイン及び印影も一致しておらず,これらを同一の書面
ということはできない。このように,原告は,本件委託協議書について,
原告保有原本(甲24)と併せて3種類の書面を証拠として提出している
のであり,二当事者間の契約において3通の協議書が存在することはあり
得ない。そのような事態が生じるとすれば,原告が卓倫社の社印を所持し
ているとしか考えられないのであり,本件委託協議書はいずれも原告が有
している卓倫社の社印を利用して,本件のために作成された書面である。
(原告の反論)
本件委託協議書の原本は,原告保有原本(甲24)と卓倫社保有原本(甲
22)の2通の原本が存在する。甲17号証(本件委託協議書の卓倫社保有
原本の写し)は,原告の内部手続上,契約書類等の利用や持ち出しが簡単に
認められないため,卓倫社にその保有原本の貸与を受けてコピーしたもので
ある。その際,原告従業員が,署名押印や日付等の内容が同じなので,本件
第1巻の協議書の末頁(署名押印欄の頁)のコピーを本件第6巻及び第7巻
の協議書の写しについても使用したため,甲17号証の1の1,5の1及び
6の1の末頁が全く同じになり,同様に,本件第4巻の協議書の末頁(署名
押印欄の頁)のコピーを本件第2巻及び第3巻の協議書の写しについても使
用したため,甲17号証の2の1,3の1及び4の1の末頁が全く同じにな
ったものである。また,甲17号証は,卓倫社原本をコピーした上で金額記
載部分を黒塗りして更にコピーしたものであるのに対し,甲22号証は原告
代理人が原本をコピーしたものであって,コピー精度に差が生じたものであ
る。
(2)本件各原版の利用許諾の有無(争点(2))について
(被告の主張)
アGMG,卓倫社及び株式会社新天社(以下「新天社」という。)は,平
成15年6月4日,「番組代理発行販売に関する意向協議書」(以下「本
件意向協議書」という。)を締結した。本件意向協議書によれば,本件各
原版を含む「テレビ番組『世界自然文化遺産』中国編(全28本)」(以
下「本番組」という。1条1項⒜)について,卓倫社は,GMGに対し,
①全世界に向けて(中国大陸は除く。),発行,販売,放映する権利(3
条1項),②素材を利用して,番組を改編し,全世界に向けて(中国大陸
は除く。)改編番組を,発行,販売,放映する権利(3条2項),③音声
映像製品(DVD/VCD/VHS/CD/CD-R)等を全世界に向け
て(中国大陸は除く。),発行,販売する権利(3条3項)を授権してお
り,本件意向協議書に基づき,卓倫社が,GMGに対し,本件各原版の複
製等を行う権原を授権した。
イ原告と卓倫社は,平成15年6月27日,「番組代理発行基本協議書」
及び「番組代理発行個別協議書」(以下,これらを併せて「本件基本個別
協議書」という。)を締結した。本件基本個別協議書によれば,中国大陸
を除く地域における本番組及びその改編番組の複製等に関し,卓倫社が原
告を代理するとされており,本件基本個別協議書に基づき,原告が,卓倫
社に対し,本件各原版の複製等に関する権利を授権した。上記アと併せ考
えると,原告から卓倫社,卓倫社からGMGという形で,本件基本個別協
議書の締結日には,GMGは原告から本件各原版の複製等を行う権原を授
権されていた。
ウGMGの代表者であるA(以下「A」という。)は,平成15年10月
23日,被告関連会社のBを介して,被告に対し,本件各原版を元に日本
版用のDVDを製造・販売することを提案した。被告従業員Cらは,同年
12月5日,Aから,本件各原版をダビングしたVHSテープの提示を受
け,A,D(以下「D」という。)らが同年秋ころCCTVグループに直
接赴き,正当な権原に基づき,1日かけて,日本では再生できない方式(P
AL方式)で撮影された本件各原版を,日本で再生可能なNTSC方式に
変換の上ダビングし,日本に持ち帰ったものであるとの説明を受けた(以
下,NTSC方式に変換されたテープを「本件マスターテープ」という。
)。被告は,平成16年2月17日,GMGがCCTVグループより,本
件各原版を元に日本においてDVDを製造・販売することを許諾する権原
を与えられていたことから,被告各DVDを製作することを決定し,その
結果,本件原版供給契約が締結された。本件原版供給契約によれば,GM
Gを代理したプレシャス社が,被告に対し,本件各原版に関して「日本国
内における小売り及びレンタル」を行うことを許諾しており(4条1項),
被告が本件各原版を「ビデオパッケージとして複製・頒布するに当たって
必要となる第三者の著作権,著作隣接権,肖像権等の権利処理について」
はプレシャス社が処理済みであると明記されている(5条)。上記ア及び
イと併せ考えると,原告から卓倫社,卓倫社からGMG,GMGから被告
という形で,被告は原告から本件各原版の複製等を行う権原を授権されて
いた。
エ早ければ平成17年5月24日,本件終了協議書が締結されている。本
件終了協議書によれば,本番組について,原告,卓倫社及びGMGは,本
件基本個別協議書及び本件意向協議書につき本件終了協議書の締結日を
もって期限前に終了させること(1条),本件終了協議書の効力は「すべ
ての当事者が署名・押印し,かつ,協議書のすべての頁に割り印を押捺し
た時点」で生じること(15条)が合意されている。仮に,当該合意解除
が有効にされていたとしても,平成16年3月ころにおいては,本件原版
供給契約に基づく被告による本件各原版の複製等が正当な権原に基づき
行われたことに何ら影響しない。
(原告の主張)
ア本件意向協議書では,「相手方の書面での同意なしで,いかなる一方も
本協議書下の権益を第三者に譲渡してはならない。」(20.1)等と規
定されており,GMGが本件意向協議書下の権益自体を第三者に譲渡する
場合には,新天社とともに卓倫社との間で書面による同意をしなければな
らない。本件原版供給契約は,被告に複製権等の授権をしているのは第三
者というべきプレシャス社であり,プレシャス社への権益譲渡については,
新天社とともに卓倫社との間で権益譲渡をする旨を書面で同意していな
いから,プレシャス社が複製権等の授権をすることはできない。
仮に,GMGからプレシャス社に対する権益の譲渡ではなく,販売権遂
行事務の委託であったとしても,GMGは,平成15年において,本件意
向協議書を解除する旨を卓倫社と合意し,その旨原告に通知しており,G
MGに具体的な授権がされていない。
イ本件意向協議書は,あくまでも意向協議書であり,「本件協議書中の各
代理授権事項と許可は,その他の付随協議書の中で別途取決めるものとす
る」(冒頭),「具体的な開始時期については,各付随協議書で確定する。
」(5.1),「GMG,STS(注記:新天社を指す。)のいかなる第
三者に対して行う授権は,BJZL(注記:卓倫社を指す。)のGMG,
STSに対する授権有効期限内であること」(5.2)と規定されている
とおり,GMGと新天社に対する各代理授権と許可は別途付随協議書の中
で定められて初めて効力が発生するものであり,しかもGMG単独ではな
く新天社との共同授権であることは明らかである。
仮に,本件原版供給契約の契約当事者がGMGであるか,プレシャス社
に有効に権益譲渡がされていたとしても,別途付随協議書で各代理権事項
と許可について取決めなくして,しかも単独では,複製等の代理権は認め
られないのであるから,本件原版供給契約は,何らの権限を有しないGM
Gないしプレシャス社が被告との間で締結した契約といえ,被告に対する
複製等の権限授与は無効であることが明らかである。
ウ本件終了協議書は,本件意向協議書が締結後2か月で卓倫社とGMGと
の間で合意解除され,その後GMGに関しては何らの協議書も締結されて
いない上,本件意向協議書自体の終了期限が定められていないなどから,
GMGに権利付与することを目的としたものではなく,権利付与の体裁を
取ったのは社内決済(手数料収入の費用名目での決済)のための便宜上の
もので,原告と卓倫社との間の契約終了とGMGとの間での清算を図るこ
とを目的として作成された和解文書にほかならない。本件終了協議書は,
文言上も新天社との共同授権を記述した(2)と単独授権を記述した附属文
書2とでは両立しない上,本件意向協議書によれば,「本件協議書中の各
代理授権事項と許可は,その他の付随協議書の中で別途取決めるものとす
る」(冒頭),「具体的な開始時期については,各付随協議書で確定する。
」(5.1)とされていること,附属文書2の内容も極めて概括的抽象的
な定義で具体的な権利付与とは認め難く,本件原版供給契約その他被告や
プレシャス社に関連する記述も一切ないことなど,被告の複製権を認める
根拠とはならない。本件終了協議書の権利付与期間は平成16年3月22
日から平成22年3月21日であり,本件原版供給契約の締結日は平成1
6年3月15日であるから,本件終了協議書がGMGに対して権利付与す
る趣旨であれば,当然これを容認する記述があるはずである。また,本件
終了協議書8条によれば「GMGが日本国内における音声・映像製品の独
占的な発行権を所有する」のは,6条の定めに基づき,「所定の期限まで
に残高187,600米ドルの許諾料の支払を完了させ」ることを条件と
しているところ,GMGは当該金員を全く支払っていない。
(被告の反論)
アGMG及びプレシャス社との関係は,販売権遂行事務の委託関係にすぎ
ず,プレシャス社はGMGの窓口として本件各原版の供給を行っているに
すぎない(本件原版供給契約1条②)。すなわち,「GMG及びAの承諾
を甲(プレシャス社)が得て,『GMG』及び『A』から甲(プレシャス
社)が販売権遂行事務を委託された。」と記載されており,GMGからプ
レシャス社に対し,何ら権益が「譲渡」されていない。GMG(プレシャ
ス社)と被告の関係においてもGMG(プレシャス社)の権益を譲渡した
ものではなく,被告に本件各原版の複製権等を「許諾」したにすぎない。
これは,本件原版供給契約4条において「甲(プレシャス社)が乙(被告
)に許諾する本ビデオグラムの販売の内容・形態」と記載されていること
からも明らかなとおり,GMG(プレシャス社)から被告に対し権益が「譲
渡」されているわけではない。
本件意向協議書は,卓倫社,GMG及び新天社間で締結された3社間の
合意であって,新天社を除いた卓倫社とGMGの二者のみで,解除の合意
をしたとしても本件意向協議書に関する限り何らの法的効力も有しない。
このことは,GMGの解除通知より後に有効に成立した本件終了協議書中
に,本件意向協議書が有効に存続していることを前提とした記載があるこ
とからも裏付けられる。
イ本件終了協議書には,卓倫社が,GMG及び新天社に対し,「全世界(中
国大陸を除く)において本番組及び『改編番組』を発行する権利を付与し
ている」と明記されている。仮に,本件意向協議書が単なる意向を表明し
たものにすぎず卓倫社からGMGに確定的に各代理授権と許可が存在し
ないのであれば,本件終了協議書に上記のような記載をする必要性は全く
ない。本件終了協議書において,卓倫社からGMGに本件各原版の複製権
等の授権がされているとの記載がある以上,かかる記載を前提にして,卓
倫社・GMG間の法律関係を認定すべきである。また,本件意向協議書の
どこにも「共同」授権である旨の記載はなく,卓倫社は,GMG及び新天
社のそれぞれに対し,単独で原版を利用許諾する権限を与えていた。
ウ本件終了協議書が清算の目的であれば,原告からGMGに直接権利を新
たに付与する必要もなければ(附属文書2),GMGが新たに原告に対し
て債務を負う条項及び遅延損害金を規定する必要は全くないし(6条,7
条),清算を必要とする事情も何ら明らかにされていないから,本件終了
協議書を和解文書と解することはできない。
エ仮に,本件終了協議書8条に反し,GMGが原告に対し,18万760
0米ドルの支払をしなかった場合には,同条の定めに従った権限が原告か
らGMGに付与されないことになる。
しかし,本件終了協議書に基づく各協議の終了は合意解除であり(1条,
2条),3条には,「本協議書に定める内容を除き,基本協議書,個別協
議書,授権協議書及び意向協議書の終了日以降において,これらに基づく
本件番組に関する一切の授権は直ちに終了」する旨明確に規定されている
ことからすれば,将来に向かって解除の効力が発生するのみならず,合意
解除前の第三者には何ら法的な影響を与えるものではないと解される。し
たがって,本件終了協議書によって確認された本件意向協議書締結日(平
成15年6月4日)から本件終了協議書成立日までの間の本件各原版に関
する権利許諾関係が本件終了協議書によって遡及的に消滅することには
ならないし,日本におけるGMG及び被告との間の本件原版供給契約は,
本件終了協議書の締結日に先立つ平成16年3月15日に締結されてい
るから,その権利許諾関係に影響を与えるものでもない。
(3)被告の過失の有無(争点(3))について
(原告の主張)
被告は,一般に企業間取引において,契約当事者に求められる作業として,
委任状その他授権文書の確認や著作権者である原告への問い合わせなど,契
約交渉の相手方であるGMGやAの権限を確認する行為を一切していない
ばかりか,著作権者が誰であるか認識すらしていないのであり,被告に過失
があることは明らかである。
(被告の主張)
ア被告は,本件マスターテープに基づき,平成16年3月27日から同月
31日まで,被告各DVDの製作・編集作業をした。当該作業には,CC
TVの名刺を有しているDが立ち会い,かかる編集作業を行うことについ
て何らの異議も述べなかったこと,Dは撮影に参加した者でしか知り得な
い事情を詳細に語っており,本件各原版の製作に関与したことが明らかで
あることに照らせば,GMGがCCTVグループから本件各原版に関する
複製等の権原を得ていると被告が信じるのは当然であり,かかるGMGの
権原に疑いを差し挟む余地は全くない。
イ日々のビジネスの中で極めて多数の著作物を取扱い,その複製,頒布等
の商業的利用を行う場合に,本当に著作権者より適切に利用許諾を受けて
いるのかということを逐一完全に確認しなければ著作物を利用できない
となれば,円滑な著作物の利用を実現することは不可能になってしまうか
ら,原告主張のような注意義務は課されていない。
ウ本件マスターテープのような原版は,極めて重要な資産であり,著作権
者が厳重に管理保管していることが一般であって,著作権者以外の第三者
が原版を所持している場合,当該第三者が当該原版の利用許諾を行う権限
があると信じるのは当然であるから,A及びDが本件マスターテープを所
持していること自体,権利者又は権利者から許諾を受けた者であることを
示す重要な事実である。
エ以上のとおり,被告は,注意義務を尽くしていた上,GMGが本件各原
版の複製権等につき権利者から許諾を受けていることを示す外観をも有
していたことから,被告には過失がない。
(原告の反論)
著作権者以外の第三者と契約した場合,当該第三者の権限を確認する注意
義務はないなどというビジネス上の慣習があるわけがない。しかも,本件で
は,外国法人の著作物であり,契約相手はプレシャス社という日本企業であ
るから,少なくとも委任状や著作権者への問い合わせ等の確認作業をすべき
ことは当然である。本件マスターテープの存在は,それのみでGMGやプレ
シャス社に複製等の権限があることを推認する事情とはならない上,そもそ
も被告は具体的に誰が著作権者なのかの認識がなかったのであるから,正当
化事由としては極めて乏しい事情といわざるを得ない。
(4)消滅時効の成否(争点(4))について
(被告の主張)
ア原告は,被告に対し,本件告知書を送付し,被告各DVDを製造・販売
するに至った事情等について必要な説明を行うよう警告を行っている。原
告は,遅くとも本件告知書を送付した平成18年2月21日の時点におい
て,「損害及び加害者」を知っていたことは明らかであり,本件訴訟は当
該日時から3年以上経過した平成21年4月3日に提起されている。
イ被告は,原告に対し,平成21年12月25日の本件第3回弁論準備手
続期日において,上記アの消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
(原告の主張)
ア民法724条にいう「損害及び加害者を知った時」とは,「被害者にお
いて,加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に,その可能な程
度にこれらを知った時」と解されている。原告は,本件告知書作成の時点
においては,被告各DVDが出版されたことを知ったにすぎず,被告が出
版した経緯等は全く不明で,被告に説明を求める趣旨で本件告知書を作成
したのであるから,いまだ加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の
下に,その可能な程度にこれらを知った時には至っていない。
その後,原告は,調査を進めた結果,Aが従前持ち出した本件マスター
テープを利用して被告各DVDが出版された実態が分かり,平成20年5
月ころ,原告訴訟代理人に委任して,受任通知書兼質問書を作成したので
あり,その時点で,「損害及び加害者を知った時」に至ったというべきで
ある。
イ被告各DVDの販売行為は,行為の性質上,製造から販売までの行為(な
お,付随して継続して行われるホームページや新聞雑誌等での被告各DV
Dの写真掲載やCCTVの名称言及,内容紹介等の行為を含む。)が不可
分一体のものとして分離することができない継続的不法行為であるから,
消滅時効の起算点は早くとも被告各DVDの販売を終了する旨を決定し
た平成19年8月の時点といえ,本件訴訟提起時においてはいまだ消滅時
効期間は満了していない。
ウ少なくとも本件訴訟が提起された平成21年4月3日まで3年を経過し
ていない平成18年4月3日以降の販売行為を理由とする損害賠償請求
権については,消滅時効期間は満了していない。
(被告の反論)
ア原告は,本件告知書において,「貴社が当社の授権なしに日本国内にお
いて『世界自然文化遺産』(中国部分)を出版,発行した事実に鑑み,当
社はプログラムの合法版権所有者として貴社に対し告知をいたします。」
と明記していることに照らせば,被告を「加害者」であると認識し,また,
被告各DVDの製造・販売行為が著作権侵害として違法性を有するとの認
識があり,著作権侵害には,通常,損害を伴うものであることから,その
「損害」までも知っていたといえる。
イ被告各DVDの販売行為は,それぞれ個別に行われ,損害も個別に発生
するものであるから,継続的不法行為には該当しない。
(5)原告の損害額(争点(5))について
(原告の主張)
被告は,本件原版供給契約において,プレシャス社との間で,著作権使用
の対価について,本件マスターテープ供給等の対価として2205万円を,
印税・複製使用料として小売価格(税抜)×10%×実販売本数を支払う旨
提示し,合意している(8条,9条)。被告は,被告各DVD発売の対価と
して,著作権者に,2205万円+425万6000円(=3800円×0
.1×1万1200本)=2630万6000円を支払うことを認めていた
といえ,当該金額に相当する額が著作権者である原告が受けるべき著作物使
用料ということができる(著作権法114条3項)。
原告は,2630万6000円に相当する額を財産的損害とし,その約1
割である260万円を弁護士費用として加えた2890万6000円を損
害額とし,本件においては一部請求として2500万円の支払を求める。
(被告の主張)
Aらが提供した本件マスターテープは,Aらが日本で再生可能なNTSC
方式に変換し,ダビングしたものであり,本件各原版と同一のテープではな
い。被告各DVDは,Aらの全面的な協力のもと日本語版の解説のナレーシ
ョンや音楽,映像の編集作業等を行ったことによって商品化されたものであ
り,本件第5巻については,日本で販売することが到底できる映像ではなか
ったため,Aらの協力に基づき大幅な編集等を行ったことをも考慮すれば,
被告各DVDの複製枚数1枚当たりの原告が受けるべき著作権料相当額は,
多く見積もっても小売価格の5%とみるべきである。
第3当裁判所の判断
1著作権法による保護と準拠法について
(1)著作権法による保護
我が国と中華人民共和国は,文学的及び美術的著作物の保護に関するベル
ヌ条約(以下「ベルヌ条約」という。)の同盟国であるところ,本件各原版
は,中華人民共和国の国民が著作者であり,同国において最初に発行された
著作物であると解されるから,同国を本国とし,同国の法令の定めるところ
により保護されるとともに(ベルヌ条約2条(1),3条(1),5条(3)(4)),
我が国においても著作権法による保護を受ける(著作権法6条3号,ベルヌ
条約5条(1)。また,ベルヌ条約14条の2(2)(a)は,映画の著作物につい
て著作権を有する者を決定することは,保護が要求される同盟国の法令に定
めるところによると規定する。)。
(2)準拠法
原告は中華人民共和国法人であり,被告は日本法人であるから,準拠法が
問題となるところ,著作権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求
については,本件において,原告が本件各原版の複製権又は翻案権が侵害さ
れ,被告各DVDが販売されたと主張するのは我が国であるから,「原因タ
ル事実ノ発生シタル地」(法例〔平成11年法律第151号による改正後の
もの。以下同じ。〕11条1項),「加害行為の結果が発生した地」又は「加
害行為が行われた地」(法の適用に関する通則法17条〔平成19年1月1
日施行〕,同法附則3条4項参照)として,日本法が準拠法となる。
また,被告が著作権侵害を否定する根拠とする本件各原版についての利用
許諾の有無については,債権的な利用許諾契約の効力が問題となるところ,
本件各原版の利用許諾の有無に関わる合意については,本件意向協議書(乙
5),本件基本個別協議書,本件終了協議書(乙6)及び本件原版供給契約
(乙8)に基づく合意が存在する。これらの各契約に基づく合意は,いずれ
も法の適用に関する通則法施行前の行為であるから,その成立及び効力を判
定するについては,法例の適用が問題となるところ,法例7条1項は,「法
律行為ノ成立及ヒ効力ニ付テハ当事者ノ意思ニ従ヒ其何レノ国ノ法律ニ依
ルヘキカヲ定ム」,同条2項は,「当事者ノ意思カ分明ナラサルトキハ行為
地法ニ依ル」と定めている。本件原版供給契約については,準拠法の合意は
ないものの,日本法人が日本国内で締結したものと認められ(乙8),その
成立及び効力の準拠法は日本法と解される。本件意向協議書については,
「本協議書は中華人民共和国の法律にのっとって解釈し,中華人民共和国の
法律の管轄を受けるものとする。甲が訴訟の原告となる場合には中国,乙,
丙が訴訟の原告となる場合には日本と定める。」(25.1)とされており,
これは準拠法の定めと解釈されるところ,上記甲は原告と解されるから,本
件意向協議書の成立及び効力の準拠法は中華人民共和国法となる。また,本
件基本個別協議書の準拠法についての合意は定かでなく,本件終了協議書に
は準拠法についての合意はないことから,行為地法である中華人民共和国法
を準拠法と解するのが相当である。そして,中華人民共和国著作権法24条
1項は,「他人の著作物を使用するときは,著作権者と使用許諾契約を締結
しなければならない。本法の規定により許諾を要しない場合はこの限りでな
い。」,同条2項は,「使用許諾契約には,主に次の各号に掲げる内容が含
まれる。」(各号は省略)と規定している(甲16)。
(3)以下,これらを前提に検討する。
2本件各原版の著作権の帰属(争点(1))について
(1)後掲の証拠等によれば,以下の各事実がそれぞれ認められる。
ア原告と卓倫社とは,本件第5巻を除く本件各原版について,平成13年
12月及び平成14年7月,本件委託協議書(甲22,24)を締結した。
本件委託協議書には,原告が,卓倫社に対し,本件第5巻を除く本件各原
版の作成を委託すること(第1章2条),原告が,卓倫社に対し,原告の
費用負担で制作設備を提供し,本件第5巻を除く本件各原版の作成費用を
支払うこと(第7章),原告が本件第5巻を除く本件各原版及びその関連
する撮影の原素材に対するすべての版権を有すること,版権の定義として,
全世界における有線,無線,テレビの放送権,ビデオ発行権,レーザーデ
ィスク,マルチメディア,インターネット,衛星放送と伝送,文字資料及
びあらゆる既知と未知のメディア形式の著作権などを含むこと(第2章1
条)などが定められた。卓倫社は,平成14年から平成15年において,
本件第5巻を除く本件各原版を制作した。また,CCTVのチャンネル1
0「探索・発現」の番組スタッフは,そのころ,原告の委託に基づいて,
本件第5巻を制作した。
(甲9の5,甲17の1~17の6の各2,甲22の1~22の6,
甲24の1~24の6,弁論の全趣旨)
イ原告,卓倫社及びGMGとは,平成17年7月ころまでに,本件終了協
議書(乙6)を締結した。本件終了協議書には,原告と卓倫社とは,平成
15年6月27日,本番組に関する本件基本個別協議書を締結し,中国大
陸を除く地域における本番組及びその改編番組の発行に関して,卓倫社が
原告を代理していること(前文(1))が記載され,本番組に関するすべて
の著作権及び本番組のすべての派生製品に関する著作権はいずれも原告
の所有に帰すること(3条)などが定められた。
(乙6の1,6の2)
ウ被告は,本件訴訟提起前の原告からの質問書に対し,平成20年8月1
4日付け回答書をもって,卓倫社代理人作成の法律意見書中に,平成16
年3月当時,本件各原版の著作権は原告に帰属していた旨の記述を確認し
ていたことなどを回答した。
(甲8)
エ本件第5巻を除く本件各原版には,映像の最終部分に卓倫社の「承制」
及び原告の「出品」(主として製品又は製品を出すという意味である。)
と表示され(ただし,本件第2巻~第4巻は原告とCCTVが併記されて
いる。),本件第7巻に対応する中国語版DVDのパッケージには,卓倫
社の制作及び原告とCCTVの「出品」と表示されている。また,本件各
原版には,いずれも映像の右下に同じフォント・色・大きさで「世界文化
遺産」のテロップが表示されている。
(甲3,9の1~9の7,乙1~3)
オ原告は,現在,本件各原版を保有している。
(弁論の全趣旨)
(2)以上に基づいて検討するに,原告は,卓倫社に対し,本件第5巻を除く本
件各原版の制作を委託するとともに,原告の費用負担で制作設備を提供し,
その作成費用を負担したと認められるから,原告は,本件第5巻を除く本件
各原版の製作に発意と責任を有する者であって,映画製作者(著作権法2条
1項10号)であると認めるのが相当である。また,本件第5巻は,CCT
Vのチャンネル10「探索・発現」の番組スタッフによって制作されたもの
であるが,原告が制作を委託したもので,他の本件各原版と同じ「中国世界
自然文化遺産」のうちの1巻であり,他の本件各原版は原告が映画製作者で
あると認められることを考慮すると,原告は,本件第5巻の製作に発意と責
任を有する者であって,映画製作者であると認めるのが相当である。
他方で,本件各原版については,その全体的形成に創作的に寄与した者(著
作権法16条本文)は定かではない。しかしながら,中華人民共和国著作権
法15条本文において,映画著作物の著作権は製作者が享有すると規定され
ており(甲16の1,16の2),映画製作に参加する者はその著作権が製
作者に帰属することを認識して参加していると推認される上,参加約束なく
して映画製作に関与するとは考え難いのであるから,本件各原版の全体的形
成に創作的に寄与した者について参加約束があったものと認め,映画製作者
である原告に本件各原版の著作権が帰属した(著作権法29条1項)と認め
るのが相当である(著作権法6条3号,ベルヌ条約5条(1),14条の2
(2)(a))。
以上の結論は,本件委託協議書,本件終了協議書及び卓倫社の代理人の法
律意見書において,本件各原版の著作権が原告に帰属するとされていること
などに照らしても肯定できるというべきである。
(3)これに対し,被告は,①甲17号証(本件委託協議書の卓倫社保有原本の
写し)の成立の真正は極めて疑わしく,②甲22号証(本件委託協議書の卓
倫社保有原本)のうち,その1及び4について,甲17号証の1の1及び4
の1とそれぞれその押印部分を中心に重ね合わせたところ,署名押印部分以
外の条項部分については全く一致せず,甲17号証の1の1と甲22号証の
1の末頁のフォントのデザイン及び印影も一致しておらず,これらを同一の
書面ということはできない,③このように,原告は,本件委託協議書につい
て,原告保有原本(甲24)と併せて3種類の書面を証拠として提出してい
るのであり,二当事者間の契約において3通の協議書が存在することはあり
得ないなどと主張する。
確かに,甲17号証については,原告も自認するように,甲17号証の1
の1,5の1及び6の1の末頁が全く同じであり,甲17号証の2の1,3
の1及び4の1の末頁が全く同じである。しかしながら,原告は,そのよう
な書証が提出された経緯について,前記第2の3(1)(原告の反論)のとお
り,一応の説明をしている。また,乙21号証(特殊,文書,印影鑑定書)
は,甲17号証の1の1が甲22号証の1を複製したものではないと推定す
るが,コピー精度の問題については,その最終考察において,同一文書を複
製した際に発生する可能性のある誤差を大きく逸脱した差異であると指摘
するにとどまり,コピー機の性能やコピー回数による差異等についての検討
がされていないから,容易に採用することができない。加えて,本件委託協
議書の原本である甲22号証(卓倫社保有原本)及び甲24号証(原告保有
原本)自体にはその成立を疑わせる事情は存しないことを考慮すると,甲2
2号証の1及び4と甲17号証の1の1及び4の1との条項部分等の不一
致の原因はいずれもコピー精度の問題と理解するのが相当であり,原告が本
件委託協議書について3種類の書面を証拠として提出しているとは認めら
れないから,被告の主張は採用できない。
以上のとおり,甲22号証及び甲24号証の成立は認められるというべき
である。
3本件各原版の利用許諾の有無(争点(2))について
(1)後掲の証拠等によれば,以下の各事実がそれぞれ認められる。
アGMG,卓倫社及び新天社とは,平成15年6月4日,本件意向協議書
を締結した。本件意向協議書(乙5)には,「本協議書中の各代理授権事
項と許可は,その他の付随協議書の中で別途取決めるものとする。」(冒
頭)と定められ,概念の定義として,「『本番組』とは,授権側が提供す
る編集済みの完成されたテレビ番組『世界自然文化遺産』中国編(全二十
八本)をいう。」(1.1.(a)),「『素材』とは,授権側が編集して
いない,『本番組』を制作するためのオリジナル資料をいう。」(1.1
.(b))とされている。そして,「『BJZL』(注記:卓倫社を指す。
)はここにGMGとSTS(注記:新天社を指す。)に代理として,全世
界に向けて(中国大陸は除く)本番組を発行,販売,放映する権利を授権
する。」(3.1),「『BJZL』はここにGMGとSTSに代理とし
て,本番組の素材を利用して番組を改編し,全世界に向けて(中国大陸は
除く)改編番組を発行,販売,放映する権利を授権する。」(3.2),
「『BJZL』はGMGとSTSの代理として授権するが,本番組及び本
番組の素材を利用して改編した番組から派生したすべての既知または未
知の関連製品には以下のものが含まれるが,それに限るものではない。即
ち音声映像製品(DVD/VCD/VHS/CD/CD-R),印刷出版
製品,キャラクター商品,宣伝商品などを全世界に向けて(中国大陸は除
く)発行,販売をする権利。」(3.3)と定められたほか,「BJZL
の提供する本番組は・・・デジタル方式の中国語ナレーション版,字幕/
ナレーションなしのPAL.NTSC方式版とアナログテープ中国語ナレ
ーション版,字幕/ナレーションなしのPAL.NTSC方式版・・・を
提供する。」(4.3),「BJZLがGMG,STSに対して代理授権
した本番組,素材の期限は〔六〕年とする。具体的な開始時期については,
各付随協議書で確定する。」(5.1),「相手方の書面での同意なしで,
いかなる一方も本協議書下の権益を第三者に譲渡してはならない」(20
.1)と定められた。
(乙5)
イ卓倫社とGMGとは,平成15年8月12日,本件意向協議書を合意解
除し,GMGは,原告に対し,同年9月5日付け書面をもって,その旨を
通知した。
(甲18の1,18の2,甲19の1,19の2)
ウ本件終了協議書(乙6)には,原告と卓倫社とは,平成15年6月27
日,本番組に関する本件基本個別協議書を締結し,中国大陸を除く地域に
おける本番組及びその改編番組の発行に関して,卓倫社が原告を代理して
いること(前文(1)),卓倫社とGMG及び新天社とは,同月4日,本番
組に関する「番組放映権の発行販売の授権に関する協議書」(以下「本件
授権協議書」という。)及び本件意向協議書を締結し,卓倫社がGMG及
び新天社に対して全世界(中国大陸を除く。)において本番組及びその改
編番組を発行する権利を付与していること(前文(2)),各当事者は,本
件基本個別協議書,本件授権協議書及び本件意向協議書を期限前に終了さ
せる予定であること(前文(3))にかんがみ,原告及び卓倫社は,本件終
了協議書の締結日をもって本件基本個別協議書を期限前に終了させるこ
とに同意し,卓倫社及びGMGは,本件終了協議書の締結日をもって本件
授権協議書及び本件意向協議書を期限前に終了させることに同意するこ
と(1条),本件基本個別協議書,本件授権協議書及び本件意向協議書の
終了日から5日以内に,卓倫社及びGMGは,本番組(改編番組を含む。
)の各種コピー,素材及び関係資料を廃棄し,又は原告に返却すること,
ただし,原告は,GMGが本件各原版の中国語マスターテープを適切に保
有することに同意すること(4条),各当事者は,本件基本個別協議書,
本件授権協議書及び本件意向協議書の既に履行済みの部分及び本件終了
協議書8条による履行予定部分(本件各原版)に関して,GMGが原告に
19万6000米ドルの許諾料を直接支払い,原告が上記の許諾料を受け
取った後15日以内に,卓倫社に許諾料の30%に当たる48万5688
人民元の代理費を支払うことに同意すること(5条),GMGは,平成1
6年3月に上記の19万6000米ドルのうち8400米ドルを原告に
支払っており,その余の18万7600米ドルについては,本件終了協議
書が締結され,正式な契約文書を実際に受領した後15日以内に,原告の
口座に送金すること(6条),各当事者は,GMGが本件終了協議書6条
の定めに基づき,所定の期限までに残高18万7600米ドルの許諾料の
支払を完了させた後,本件各原版につき,GMGが日本国内における音声
・映像作品の独占的な発行権を所有し,授権期間を同月22日から平成2
2年3月21日とすることに同意すること(8条),本件終了協議書は,
すべての当事者が署名・押印し,かつ,本件終了協議書のすべての頁に割
り印を押捺した時点で効力を生じること(15条)などが定められた。そ
して,卓倫社は,平成17年5月23日,本件終了協議書に代表者が署名
するとともに会社印を押印し,GMGは,同年7月14日,本件終了協議
書に代表者が署名した。原告については,代表者の署名及び会社印の押印
がされているが,その期日については記載がない。また,原告が本件終了
協議書に割り印を押捺している。
(乙6の1,6の2)
(2)以上に基づいて,本件各原版の利用許諾の有無について検討する。
ア本件終了協議書前文(1)の定めに照らすと,原告は,卓倫社に対し,本件
基本個別協議書により,本件各原版の利用許諾の代理権限を授与したと認
めるのが相当であり,本件意向協議書の定めに照らすと,卓倫社は,GM
Gに対し,本件意向協議書により,本件各原版の利用許諾をするとともに
(3.1),本件各原版を利用するための具体的方法として,卓倫社が本
件各原版の編集していないオリジナル資料である「素材」(1.1(b))
として,本件各原版の複製物であるNTSC方式のテープ(本件マスター
テープ)を提供し(4.3),本件マスターテープの利用権限(本件マス
ターテープの改編を含む。ただし,中国大陸を除く。)を授与した(3.
2)と認めるのが相当である。
なお,本件終了協議書によれば,本件基本個別協議書による原告から卓
倫社への代理授権の日は,本件意向協議書の締結の日である平成15年6
月4日より後の同月27日とされているが,たとえ本件意向協議書の後に
本件基本個別協議書による授権がされたとしても,本件終了協議書中には,
そのことによって本件意向協議書の効力が左右される旨の記載はないか
ら,本件終了協議書の当事者である原告と卓倫社及びGMG間において本
件意向協議書の効力が認められていたものと解される。また,本件終了協
議書は,すべての当事者が署名・押印し,本件終了協議書のすべての頁に
割り印を押捺した時点で効力を生じる旨定められているところ,GMGに
ついては,代表者の署名はあるものの,押印はされていない。しかし,代
表者の署名がある以上,GMGに合意する意思はあったと認められるし,
GMGは本件意向協議書を合意解除している以上,本件各原版についての
権限を回復するために本件終了協議書に合意する利益もあったというべ
きである。これらに加え,本件訴訟の当事者も本件終了協議書の成立につ
いて特段争っていないことに照らせば,本件終了協議書は,GMGの代表
者が署名した平成17年7月14日ころに,有効に成立したと認めるのが
相当である。
この点,原告は,本件意向協議書は,あくまでも意向協議書であり,G
MGと新天社に対する各代理授権と許可は別途付随協議書の中で定めら
れて初めて効力が発生する旨主張する。しかしながら,原告とGMG及び
新天社とは,本件意向協議書とともに,本件授権協議書を締結しており(本
件終了協議書前文(2)),本件授権協議書が付随協議書であると推認され
ること,GMGが本件各原版の中国語マスターテープ(本件マスターテー
プ)を保有していたこと(本件終了協議書4条)を考慮すると,本件意向
協議書にいう付随協議書が締結され,本件各原版の利用権限が授与された
と認めるのが相当であるから,原告の主張は採用できない。
また,原告は,本件意向協議書は,GMG単独ではなく新天社との共同
授権である旨主張するが,本件意向協議書には,授与された代理権限につ
いて,GMGと新天社が共同で行使をしなければならない旨の規定は存在
しない上,新天社を当事者とすることなく,卓倫社とGMGとは,本件意
向協議書を合意解除し,原告と卓倫社及びGMGとは,本件終了協議書を
締結していることを考慮すると,卓倫社は,本件意向協議書により,GM
Gに対して個別に利用権限を授与したと認めるのが相当であるから,原告
の主張は採用できない。
イもっとも,卓倫社とGMGとは,平成15年8月12日,本件各原版の
利用許諾を定めた本件意向協議書を合意解除し,GMGは,原告に対し,
同年9月5日付け書面をもって,その旨を通知しているから,卓倫社が原
告を代理して行ったGMGに対する本件各原版の利用許諾の効果は消滅
したと認めるのが相当である。
この点,被告は,本件意向協議書は,卓倫社,GMG及び新天社間で締
結された3社間の合意であって,新天社を除いた卓倫社とGMGの二者の
みで,解除の合意をしたとしても本件意向協議書に関する限り何らの法的
効力も有しないのであって,このことは,GMGの解除通知より後に有効
に成立した本件終了協議書中に,本件意向協議書が有効に存続しているこ
とを前提とした記載があることからも裏付けられる旨主張する。
しかしながら,上記アのとおり,卓倫社は,本件意向協議書により,G
MGに対して個別に利用権限を授与したと認めるのが相当であるから,本
件意向協議書について,卓倫社とGMGとの契約部分のみを解除すること
は妨げられないというべきである。また,確かに,本件終了協議書には,
卓倫社及びGMGは,本件終了協議書の締結日をもって本件意向協議書を
期限前に終了させる旨が定められている(1条)が,他方で,GMGは,
原告に対し,所定の期限までに残高18万7600米ドルの許諾料の支払
を完了させると,GMGが日本国内における独占的な発行権をさかのぼっ
て有する内容となっており(8条),利用権限が有効に存続していたので
あれば,条件付の権限付与を行う必要はないのに,あえてそのような権限
付与をしていることを考慮すると,本件終了協議書はGMGの利用権限が
既に消滅していたことを前提とするものとみるべきであるから,被告の主
張は採用できない。
また,GMGが原告に対して所定の期限までに残高18万7600米ド
ルの許諾料の支払を完了したことを的確に認めることができる証拠はな
いから,本件終了協議書8条により,GMGが本件各原版の利用権限を得
たということもできない。
さらに,被告は,本件終了協議書に基づく解除は合意解除であり,かつ,
将来に向かってのみ効力が生じるのであるから,合意解除前の第三者であ
る被告に対する権利許諾関係には影響を及ぼさないと主張する。
しかし,上記被告の主張は,卓倫社とGMGとの間の本件意向協議書に
基づく利用許諾関係が,本件終了協議書による合意解除により初めて消滅
したことを前提とするものであるが,上記のとおり,卓倫社とGMGとの
間の利用許諾契約は,平成15年8月12日の本件意向協議書の合意解除
によって既に終了しているのであって,これと前提を異にする被告の主張
を採用することはできない。
ウ以上のとおり,GMGは,本件原版供給契約当時,本件各原版の利用権
限を有していないから,被告が本件原版供給契約によって本件各原版の利
用許諾を得たとは認められないし,その他これを的確に認めることができ
る証拠もない。
したがって,被告の本件各原版の利用許諾の主張は理由がない。
(3)そして,原告は,被告各DVDが本件各原版を複製又は翻案したものであ
る旨主張するところ,本件各原版と被告各DVDとの類似性及び依拠性につ
いては争いがなく(前提事実(8)),①被告第1巻~第4巻,第6巻及び第
7巻は,本件第1巻~第4巻,第6巻及び第7巻と動画映像・音楽・音声(た
だし,ナレーションを除く。)について全く同一であり,②被告第5巻は,
本件第5巻にはない「鎮国寺」のシーン等が約2分半追加され,他方で,本
件第5巻に存在するインタビュー等がすべて削除されているものの,被告第
5巻のうち,追加映像は全体の約7%であり,その余の約93%の部分につ
いては,本件第5巻と動画映像・音楽・音声(ただし,ナレーションを除く。
)について全く同一であり(ただし,動画映像・音楽・音声の順番が4か所
で入れ替えられ,エンディング部分では各部分の動画映像が編集されて使用
されている。),③上記①及び②に共通する被告各DVDと本件各原版との
相違点は,オープニング映像,日本語のナレーションとテロップの付加であ
る。
以上に照らすと,被告各DVDは,本件各原版に依拠し,かつ,その表現
上の本質的な特徴の同一性を維持しているのであって翻案に当たるから,被
告は,本件各原版の翻案権を侵害したものである。
4被告の過失の有無(争点(3))について
(1)被告は,本件訴訟提起前の原告からの質問書に対し,平成20年8月14
日付け回答書をもって,卓倫社代理人作成の法律意見書中に,平成16年3
月当時,本件各原版の著作権は原告に帰属していた旨の記述を確認していた
ことなどを回答したこと(前記第3の2(1)ウ)に加え,証拠(乙8)によ
れば,本件原版供給契約には,本件各原版について,「映像素材を編集し,
完全パッケージとして製作され,日本等での統括的に実施する権利を,中国
中央電視台等から,平成15(2003)年8月に,授権された」GMG及
びAの承諾を得て,GMG及びAからプレシャス社が販売権遂行事務を委託
されたものである旨が記載されていること(1条1.①及び②)が認められ
る。
(2)以上に基づいて検討するに,第三者が著作権を有する著作物の利用につい
て契約を締結する場合,当該契約の相手方が当該著作物の利用を許諾する権
限を有しないのであれば,当該契約を締結しても当該著作物を利用すること
はできないのであるから,当該契約の当事者としては,相手方の利用許諾権
限の有無を確認する注意義務があるというべきであり,これを怠って当該著
作物を利用したときには,当該第三者に対する不法行為責任を免れないとい
うべきである。
これを本件についてみるに,被告は,本件原版供給契約の締結当時,本件
各原版について,原告又は「中国中央電視台等」が著作権を有し,GMG又
はプレシャス社が著作権を有しないことを認識していたと認められるとこ
ろ,被告が,原告又はCCTVに対し,GMG又はプレシャス社の利用許諾
権限を確認したことや,それ以外の方法で利用許諾権限を確認したことを的
確に認めることができる証拠はない。
そうすると,被告には,本件各原版の利用について過失があると認められ
るから,被告は,原告に対し,不法行為責任を負うというべきである。
(3)これに対し,被告は,①被告各DVDの製作・編集作業には,CCTVの
名刺を有しているDが立ち会ったことなどに照らせば,GMGがCCTVグ
ループから本件各原版に関する複製等の権原を得ていると被告が信じるの
は当然である,②日々のビジネスの中で極めて多数の著作物を取扱い,その
複製,頒布等の商業的利用を行う場合に,本当に著作権者より適切に利用許
諾を受けているのかということを逐一完全に確認しなければ著作物を利用
できないとなれば,円滑な著作物の利用を実現することは不可能になってし
まう,③本件マスターテープのような原版は,極めて重要な資産であり,著
作権者以外の第三者が原版を所持している場合,当該第三者が当該原版の利
用許諾を行う権限があると信じるのは当然であるから,A及びDが本件マス
ターテープを所持していること自体,権利者又は権利者から許諾を受けた者
であることを示す重要な事実であるなどとして,被告には過失がない旨主張
する。
しかしながら,①及び③については,たとえ被告主張の事情がすべて認め
られるとしても,GMG又はプレシャス社の利用許諾権限が直ちに推認され
るものではないから,このような事情のみでは被告の過失を否定することは
できないし,②については,著作物の利用を許諾する者が当該著作物の著作
権を有していないことが明らかである場合,当該者が適法な利用許諾権限を
有するか否かについて当然確認が要求されるのであるから,これによって取
引コストの増大があったとしても,他人の著作物を利用して利益を得ようと
する以上,甘受しなければならない事柄であり,被告の主張は採用できない。
5消滅時効の成否(争点(4))について
(1)民法724条にいう「損害及び加害者を知った時」とは,被害者において,
加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に,その可能な程度にこれ
らを知った時を意味するものと解するのが相当である(最高裁平成8年(オ)
第2607号同14年1月29日第三小法廷判決・民集56巻1号218頁,
最高裁昭和45年(オ)第628号同48年11月16日第二小法廷判決・民
集27巻10号1374頁参照)。
これを本件についてみるに,原告は,被告に対し,平成18年2月21日
付け本件告知書をもって,「貴社が当社の授権なしに日本国内において『世
界自然文化遺産』(中国部分)を出版,発行した事実に鑑み,当社はプログ
ラムの合法版権所有者として貴社に対し告知をいたします。貴社が日本国内
において当プログラムを発行する行為は当社の権益を侵した可能性があり
ます。」などと告知した(前提事実(6))のであるから,原告は,遅くとも
同日までには,被告が原告の利用許諾を得ないで被告各DVDを販売したこ
とを認識していたと認められ,被告に対する賠償請求が事実上可能な状況の
下に,その可能な程度にこれらを知ったというべきである。
(2)他方で,証拠(乙16,17,20,22の1~22の5)及び弁論の全
趣旨によれば,被告は,株式会社ポニーキャニオンに対し,①平成16年9
月20日から同年12月10日までの間,被告第1巻1800部,被告第2
巻1700部及び被告第3巻~第7巻各1500部,②平成17年8月22
日被告第1巻100部,③平成18年8月17日被告第2巻100部をそれ
ぞれ販売したことが認められる(原告は,現在でも被告による販売行為が継
続しているとして,甲28,29〔インターネット書店による販売広告〕を
挙げるが,それらを書店が入手した経路及びその時期は明らかではなく,こ
れらの証拠をもって被告が現在でも被告各DVDを販売していると認める
ことはできない。)。
そうすると,本件訴訟が提起された平成21年4月3日(前提事実(7))に
おいては,上記①及び②については,不法行為に基づく損害賠償請求に係る
消滅時効の時効期間が経過していたというべきである(上記③については経
過していない。)。
そして,被告が,原告に対し,平成21年12月25日の本件第3回弁論
準備手続期日において,上記の消滅時効を援用する旨の意思表示をしたこと
は当裁判所に顕著であるから,上記①及び②については,被告の消滅時効の
抗弁が認められる。
(3)以上に対し,原告は,本件告知書作成の時点においては,被告各DVDが
出版されたことを知ったにすぎず,被告が出版した経緯等は全く不明で,被
告に説明を求める趣旨で本件告知書を作成した旨主張するが,上記(1)のと
おり,本件告知書の記載内容に照らすと,原告は,被告が原告の利用許諾を
得ないで被告各DVDを販売したことを認識していたと認められ,これは,
原告が,本件各原版の利用許諾の権限について,その発生及び消滅を認識し
ていたと認められること(前記第3の3(1))からも裏付けられるから,原
告の主張は採用できない。
また,原告は,被告各DVDの販売行為は,行為の性質上,製造から販売
までの行為が不可分一体のものとして分離することができない継続的不法
行為である旨主張するけれども,被告各DVDの販売行為が継続的不法行為
である根拠は示されていないのであるから,主張自体失当である。
6原告の損害額(争点(5))について
(1)証拠(乙8)によれば,本件原版供給契約には,被告が,プレシャス社に
対し,本件マスターテープの供給対価及びDVD,VHSビデオパッケージ
に複製・頒布するための許諾契約金として合計金2100万円(1巻につい
て300万円の7巻分)及び消費税相当額の105万円の総合計2205万
円を支払い(8条),被告が本件マスターテープを複製・頒布する場合,被
告が,プレシャス社に対し,小売価格(税抜き)×10%×実販売本数で計
算した複製使用料(消費税別)を支払うこと(9条1項)が定められていた
ことが認められるから,被告とプレシャス社との間においては,本件マスタ
ーテープについての利用許諾の対価として,少なくとも被告各DVDの小売
価格(税抜き)の10%を予定していたと認められる(上記2100万円に
は利用許諾以外の対価が一定程度含まれていると解される。)。
以上に加え,被告第2巻(平成18年8月17日販売分100部)につい
ては,本件第2巻と動画映像・音楽・音声(ただし,ナレーションを除く。
)について全く同一であり,相違点は,日本語のナレーションやテロップを
付加しているにすぎないこと(前提事実(8))を考慮すると,本件第2巻の
利用料相当額(著作権法114条3項)としては,被告第2巻の小売価格(税
抜き)3800円(前提事実(5))の25%と認めるのが相当である。
(2)これに対し,被告は,Aらが提供した本件マスターテープは,Aらが日本
で再生可能なNTSC方式に変換し,ダビングしたものであり,本件各原版
と同一のテープではない,被告各DVDは,Aらの全面的な協力のもと日本
語版の解説のナレーションや音楽,映像の編集作業等を行ったことによって
商品化されたものであるなどとして,被告各DVDの複製枚数1枚当たりの
原告が受けるべき著作権料相当額は,多く見積もっても小売価格の5%とみ
るべきである旨主張する。
しかしながら,本件第2巻の利用料相当額として,本件原版供給契約にお
いて明示された複製使用料を下回る額が相当とは認められないし,被告が本
件マスターテープを被告各DVDに編集した期間は5日間であり(乙19),
被告各DVDの1巻当たりの編集に要した時間は1日にも満たないのであ
って,被告第2巻の製作・販売はその大部分を本件第2巻に依存していたの
であるから,上記(1)の額を否定することはできないというべきである。
(3)そうすると,原告は,被告に対し,不法行為に基づき,本件第2巻の著作
権侵害に係る損害として9万5000円(=3800円×100本×0.2
5)の支払を求めることができる。また,被告が負担すべき弁護士費用相当
額は1万円と認めるのが相当である。
7結論
したがって,原告の請求は,不法行為に基づく損害賠償として10万500
0円及びこれに対する不法行為の日である平成18年8月17日から支払済
みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由
がある。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官大須賀滋
裁判官小川雅敏
裁判官森川さつき

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