弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2外務大臣が控訴人に対して平成18年4月27日付けでした行政文書の開示
請求に係る不開示決定(情報公開第○号)を取り消す。
3訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1本件は,控訴人が,「沖縄返還に伴い,アメリカが支払うべき返還軍用地の
原状回復費を日本政府が肩代わりすることを約束あるいは合意した内容を示す
文書」の開示請求(以下「本件開示請求」という。)をしたのに対し,処分行
政庁外務大臣が平成18年4月27日付けで該当する文書を保有していないこ
とを理由として不開示決定(以下「本件不開示決定」という。)をしたため,
その取消しを求める事案である。
原審は,控訴人の請求を棄却したところ,控訴人がこれを不服として控訴し
た。
2琉球諸島及び大東諸島に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定(以下
「沖縄返還協定」という。)の定め,本件における前提事実,争点及び争点に
関する当事者の主張の要旨は,原判決の該当部分を次のとおり補正するほか,
その「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」1ないし4に記載のとおりで
あるから,これを引用する(ただし,上記引用部分中,「原告」を「控訴人」
と,「被告」を「被控訴人」と,「別紙」を「原判決別紙」とそれぞれ読み替
える。)。
(1)2頁10行目の「「沖縄返還協定」という。」の次に「昭和46年6月
17日,東京において愛知外務大臣により,ワシントンD.C.においてロ
ジャーズ国務長官により,それぞれ署名されたもの。乙1」を加える。
(2)3頁12行目から4頁11行目までを次のとおり改める。
(3)本件米国文書1ないし3の記載内容は,以下のとおりであり,本件
米国文書1(1枚綴り)の欄外には「B.Y.」という手書きの書込み
があり,本件米国文書3(3枚綴り)の1枚目及び3枚目にはそれぞれ
2箇所,2枚目には1箇所,いずれも「AJJ」及び「YK」という手
書きの書込みがある。
ア本件米国文書1(甲4,5)
沖縄返還協定第4条3項についての議論の要約として,スナイダー
の「私は,(沖縄返還協定)4条3に基づき支払われる(土地の原状
回復費用にあてる)自発的支払に関するこれまでの議論を参照し,最
終的な金額は未だ不明ではあるが,現在の我々の理解では,金額はお
よそ400万ドルとなるであろうことに留意する。米国政府は,第4
条3項に従って,同国政府による負担額を決定する。」,吉野の「あ
なたの発言に留意する。貴国の支払の最終的な支払額は未だ不明であ
るが,日本政府は,自発的支払を実施する信託基金設立のために,第
7条に基づき支出される3億2000万ドルのうち400万ドルが確
保しておくことを予定している。」,スナイダーの「あなたの発言に
留意する。」の各発言の記載がある。
イ本件米国文書2(甲6,7)
VOA(ヴォイス・オブ・アメリカ。アメリカの短波放送の中継
局)施設と同等の代替放送局として両国政府間で合意することになっ
ているVOA施設を日本国外に建設する実費を1600万ドルから控
除した額は,予算規定の施設改善移転費6500万ドルから差し引く
ものとする旨の記載がある。
ウ本件米国文書3(甲8,9)
日本の大蔵省の代表とアメリカの財務省の代表は,日本への沖縄行
政権の返還における特定の経済的及び財政的側面に関する詳細の折衝
において双方が従うべき原則について,複数回の協議を持った。協議
の結果,双方の代表は,以下に概要を示した理解に至った旨の記載が
ある。
1民生用・共同使用資産の買い取り-1億7500万ドル
A電力会社
B琉球開発金融公社
C水道会社
D行政組機構
E基地外の道路網
F合意された航行及び通信補助装置
(第1段落に対する注記)
(1)両国は,民生用及び共用資産に対して,異なる価値が
あるとすることを選択できる。
(2)合計額には,返還の日までの一切の増加分が含まれる。
(3)支払は,返還の日から5年間に渡り,現金による均等
年賦払いで行われる。
(4)A銀行及び石油・油脂施設に対するアメリカの権利は
譲渡される。売却に際しては,アメリカ政府が提示価格を
定め,その価格は,以下に説明される先買権を実質的に無
効にするような人為的な高額ではなく,合理的な価格であ
るものとする。
(A)沖縄住民はA銀行の株式の一部ないし全部を提示価格
で購入する先買権を有するであろう。
(B)これら資産を沖縄住民に対して売り出した後,沖縄住
民が購入しなかった残余はすべて競売により売却される。
(C)上記資産の売却の告知は,当該資産に関する問題が実
質的に解決されるに至り,これを公告できるようになっ
た後まで,行わない。
(D)石油・油脂施設を処分する具体的方法は,未だ決定さ
れていない。
(5)1969年(昭和44年)12月以降,琉球経済にお
けるプロジェクトに提供する資金をアメリカ政府が必要と
する可能性がある場合には,返還以前のいかなる民間及び
軍民共用資産の処分の効力に関しても,アメリカ政府及び
日本政府は協議する。かかる処分を行う場合は,協議の上
で実行されるものとし,あらゆる売却益は,日本政府が合
意した1億7500万ドルから差し引く。
2軍の移転費,及びその他の返還に関連する費用-2億ドル(日本
政府は,2億ドル相当を,合意した物品及び役務で準備するものと
し,本合意において特に決定していない限り,軍の移転費用及び返
還に起因するあらゆるアメリカ予算経費を賄う目的で,返還の発効
日から5年以内にその全てを引き渡す。特定の軍事施設の沖縄外に
移転する合意がなされているため,本カテゴリーで合意額は,1億
5000万ドルに減額するのではなく,2億ドルのままにとどまる。
かかる費用は,返還の前ないし後のいずれでも発生しうるものと理
解される。両国政府は,那覇港,那覇空港等の現行の施設に匹敵す
る新規施設について話し合う。支払は,必要に応じて,多数年にわ
たって日本の予算に盛り込まれる。本協定の内容のいずれも,日米
地位協定に基づく両国政府の権利ないし義務に影響を与えるもので
はない。)
3沖縄にある移転不可能な軍事施設は,日米地位協定の条項に従っ
て取り扱う。(残余の資産)
4通貨の換算-日本銀行は,6000万ドルないし現に通貨換算し
た額のいずれか大きい方の金額を,アメリカ財務省の主銀行であり
取次ぎ銀行の役割を果たすB銀行の無利子預金口座に入金する。資
金は少なくとも25年間,継続して預金されるものとするが,この
期間中に,日本政府は,その(両者が合意する客観的な基準によ
る)対外収支上の緊急の必要性がある場合は一時的に引き出すこと
ができる。
5社会保障-3000万ドル(返還後,アメリカが沖縄住民被用者
に対して日本の社会保障制度の適用するにあたり,かかる沖縄住民
が差別を受けない方法でこれを実行する。日本政府がかかる被用者
の返還前のアメリカによる全雇用期間について日本の社会保障プロ
グラムの下での給付金額を算定する目的で,全期間を算入した上で
給付金を授与する場合は常にアメリカ政府に費用がかかることなく
行うものとする。)
6沖縄での経済活動に関し提案された合意内容は,アメリカの国務
省と日本の外務省との間で検討するものとする。
(3)4頁18行目の「四つの「密約」」を「四つの「密約」((1)1960
年1月の安保条約改定時の核持ち込みに関する「密約」,(2)1960年
1月安保条約改定時の朝鮮半島有事の際の戦闘作戦行動に関する「密約」,
(3)1972年の沖縄返還時の有事の際の核持ち込みに関する「密約」,
(4)1972年の沖縄返還時の原状回復補償費の肩代わりに関する「密
約」)」に改める。
第3当裁判所の判断
1原判決の引用等
当裁判所も,本件不開示決定は適法であるものと判断する。その理由は,原
判決の該当部分を次のとおり補正するほか,その「事実及び理由」欄の「第3
当裁判所の判断」1ないし4に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)29頁の2行目の「乙3の2,同5」を「乙3の2,5,10」に改め,
12行目の次に以下のとおり加える。
その後,日米両国間で交渉が重ねられた結果,本件米国文書3におい
て合意された日本の財政負担の内容はその内訳が変更され,買取資産の
対価(1億7500万ドル)を含む現金による支払額が3億ドルに増加
し,移転費等関連費用の物品及び役務による提供額はその分減少し,7
500万ドルになった。そして,同7500万ドルのうち1000万ド
ルについては,米軍基地で稼働する日本人従業員に係る労務管理業務を
担っていた日本に対するアメリカの支払を同額分減額することによって
実現することになったため,物品及び役務による提供額はその残額であ
る6500万ドルとなった。(甲22,乙10)
(2)36頁20行目から21行目にかけての「軍の移転費」を「買取資産の
対価,軍の移転費及びその他の返還に関する費用」に改め,24行目の「意
思の合致があった内容」を「上記の肩代わりをすることについての意思の合
致があった内容」に改める。
(3)46頁14行目の「発見されていたのであれば,」の次に「他の密約問
題における文書を発見した場合と同様に」を加える。
2本件の結論
本件不開示決定の適法性に関する検討について,敷衍しておく。本件開示請求
の対象となる文書(本件対象文書)は,本件文書①であると認められるが,同
文書は,その形式上,外務省が定めた文書の保存及び廃棄に関する規程によっ
て,永久保存されるべき文書に該当しているのみならず,実質的にも,我が国
の政治,外交等に関する重要史料として位置づけられる公文書といえる。そし
て本件において,本件文書①は,昭和46年6月ころには,外務省がこれを保
有するに至っていたことが証明されているところ,その後,本件不開示決定が
された平成18年4月27日の時点までの間に,紛失あるいは廃棄等による滅
失その他により同文書が不存在となったことまでの証明はない。しかし,本件
文書①は通常の場合とは異なるごく特別な方法や態様等(その具体的な内容に
ついては,引用に係る原判決の認定,判断のとおり)により保管,管理されて
いた可能性があることに加え,外務省に設置された調査チームや有識者委員会
等による相当に徹底した調査によっても同文書を発見するに至らなかったこと
など,証拠上認められる事実ないし事情を総合すると,政治的,外交的配慮等
に基づく意図的なものであったか否かはともかく,同文書は,正規の手続を経
ずして隠匿,廃棄等がされた相当程度以上の蓋然性があると認められる。した
がって,外務省が,過去に本件文書①を保有していた事実が認められるからと
いって,これにより,本件不開示決定の時点においてなお同文書を保有してい
たと推認することはできず,結局のところ,行政組織としての外務省が上記時
点において同文書を保有している事実については,本件全証拠によるもこれを
認めるに足りないということになる。原審及び当審における控訴人の主張を十
分に斟酌しても,この結論を動かすことはできない(本件文書①が,通常の場
合とは異なるごく特別な方法や態様により保管,管理されていて,正規の手続
を経ずに廃棄等がされたとするならば,そのこと自体は,「法の支配」の下に
おける行政組織の在り方としては極めて問題が大きいといえるが,本件の結論
には影響しない。)。
よって,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がな
いから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第24民事部
裁判長裁判官三輪和雄
裁判官小池喜彦
裁判官比佐和枝

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