弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主        文
被告人を懲役3年に処する。
この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理        由
(犯行に至る経緯)
 被告人は,昭和16年に夫Bと婚姻し,同人との間に5人の子供をもうけた。Aは,
その末子(三男)であるが,生来の知的障害があり,小学校3年生ころから,徐々に授
業に付いていけなくなり,ホルモン異常から成長が早く,運動能力が低いことなども相
まって,周囲の者からいじめられるようになった。被告人は,そのようなAのために通
学に付き添ったり,大学病院に連れて行って受診させるなどした。被告人は,世話がや
けるAを他の子以上に可愛がり,養育してきた。Aは,中学生になると完全に授業に付
いていけなくなり,中学校卒業後は大阪府内の工場に勤めたが,体が大きいことなどか
らいじめを受け,約1年ほどで退職した。その後,被告人が実妹に依頼し,同女の夫が
経営する東京都内の鉄工所で約8年間勤務し,工場で怪我をしたことから再び大阪府寝
屋川市に戻って,被告人とB及びAの3人で生活するようになってからは,知的障害者
等が簡単な仕事を行う福祉作業所に通うようになった。その後,Aは,30歳ころにな
ると,自分が有する知的障害や体が大きいという身体的特徴から来る劣等感から,次第
にふさぎ込むなど情緒不安定になり,突然大声を出したり,意味の分からない発言をし
たりするようになった。そのような奇矯な行動を心配した被告人が,Aに病院の診察を
受けさせたところ,Aは,精神科に入院することになり,退院後も,Aは,作業所に通
いながら,定期的に精神科に通院し,精神状態が悪化すると入院するという生活を繰り
返すようになった。その後,平成4年7月にBが死亡し,被告人とAの2人暮らしにな
ると,Aの精神状態が悪い日が多くなり,作業所に行かない日が増え始め,平成6年1
2月に大阪府寝屋川市a町b番c号に転居した後も,Aの精神状態は不安定で,家で怒
鳴ったり,物に当たりちらしたりすることが多くなり,平成10年ころからは,徐々に
被告人の言うことを聞き入れなくなり,昼夜を問わず徘徊したり,戸外で大声を出して
近所から苦情を受けることが多くなり,家で暴れて手が付けられずに警察に通報せざる
を得なくなることもあって,被告人の心労は増していった。そして,平成13年になる
と,それまでは精神状態が良いときには通っていた作業所にも行かなくなり,家でテレ
ビを見たり,当てもなく外出したりして過ごすようになったほか,雨の日に自宅ベラン
ダで全裸で長時間雨に打たれるといった奇妙な振る舞いをするようになり,精神病院へ
の入退院を繰り返したが,入院や知的障害者施設に入居することを嫌がり,長続きはし
なかった。また,このころから,被告人に対し性的な言葉を発したり,入浴中の風呂場
をのぞき見るなど,性的な関心を示し,被告人は困惑を深めた。
 このように,平成13年以降,被告人は,精神状態が悪化したAの面倒を看ることに
限界を感じつつあったものの,そのことを誰にも伝えず,一人で何とかしようと努力を
重ねていたが,自分が死んだ場合,その後はAがいったいどのように生きて行けるのか
と思い,悩むようになった。
 そして,平成15年3月19日,Aは,数日前から精神状態が不安定で,精神安定剤
を服用させてもあまり効果がなく,徐々にその状態が悪化していく状況にあった。被告
人は,Aに昼食を摂らせたが,同人には食後すぐに外出したがる傾向があることから,
今の精神状態で外出するとまた近所の人に迷惑をかけると思い,精神安定剤を服用させ
たところ,Aは,被告人方八畳間で眠り始めた。その後,しばらくしてAは目を覚まし
たが,被告人は,Aに外出されては困ると思い,医師からAが暴れた際に飲ませるよう
にということで処方されていた睡眠導入剤を服用させたところ,同人は再び眠り始め
た。
(犯罪事実)
 被告人は,睡眠導入剤の影響で眠っているA(51歳)を見て,同人が数日前からた
びたび家で暴れており,再び起きて暴れ出しても止めることができないことや,被告人
の余命が長くなく,自分の死後,Aが一人では生きて行けず,また,他の子供に面倒を
看させることもできないなどと思い悩み,Aを殺して自分も死のうと決意し,平成15
年3月19日午後4時30分ころ,大阪府寝屋川市a町b番c号の当時の被告人方1階
八畳間において,殺意をもって,睡眠導入剤の影響で熟睡中のAに対し,ビニールひも
の一端を同所1階トイレのドアノブに巻き付けた上,その他端を前記八畳間まで延ばし
て,同人の頸部に巻き付け,体重をかけて同ひもを引っ張って,同人の首を締め付け,
よって,そのころ,同所において,同人を窒息により死亡させて殺害した。
(法令の適用)
罰      条  平成16年法律第156号による改正前の刑法199条(刑の長
期は同法12条1項)(裁判時において,その改正後の刑法199条(刑の長期は同法
12条1項)に該当するが,刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による)
刑種選択  有期懲役刑を選択
執行猶予  刑法25条1項
訴訟費用の負担  刑訴法181条1項本文(被告人には,住居及び年金収入等があ
り,負担する資力が認められる。)
(量刑事情)
 本件は,被告人が,知的障害と精神障害を有する実子であるAの将来を悲観して,無
理心中を決意し,ビニールひもで同人の頸部を締め付けて窒息死させ,被告人自身も包
丁で手首を切って自殺しようとしたという殺人の事案である。
 確定的な殺意による犯行であり,信頼していた母親から,睡眠中に突然このような形
で生命を断たれたAの無念さは十分に察せられる。犯行に至る経緯において判示したと
おり,Aは,本件犯行の数年前から徐々に精神状態の悪化が強まり,昼夜を問わず徘徊
したり,戸外で大声を出して近所に迷惑をかけることがあったほか,家庭内においても
奇異な言動が目立ち始め,暴れたりすることも増えていたのであり,そのような状況下
で,長年世話を続けてきた被告人の心労が重なり,限界を感じるとともに,ついにはA
の将来について悲観して,無理心中を図るしかないと思い詰めるに至ったというのであ
り,酌むべき点が認められる。しかし,Aの面倒について,他の子供や福祉機関等に相
談して援助を求めるなど,他に採るべき方法が残っていたというべきであって,そのよ
うな努力を更に試みることなく,他人に世話を委ねるべきではないとの思い込みに立っ
て,自分がAを殺すことが同人にとって一番幸せであるなどといった身勝手な判断から
本件を敢行したものであり,実子の尊い生命を奪うという取り返しのつかない極めて重
大な結果を引き起こした動機としては,やはり短絡的であったといわざるを得ない。高
齢化が進行中の今日,障害を持つ家族の世話をするなど同様の境遇にある者に少なから
ぬ衝撃を与えたであろうことも否定できず,本件の量刑に当たっては,そのような社会
的影響も考慮する必要がある。
 以上によれば,被告人の責任は相当に重い。
 しかしながら,被告人は,眠っているAの姿を見るうちに衝動的に殺害を決意したも
のであり,また,知的障害や精神障害を持つAを51歳になるまで愛情をもって,一人
で献身的にその面倒を看てきたものであって,最終的に自らの手でその命を奪うことに
なったとはいえ,それまでの生活状況や経緯には同情できる面がある。そして,本件犯
行を深く反省し,Aの冥福を祈る生活を送っていること,前科,前歴がなく,善良な市
民として生活してきたこと,既に87歳と高齢であり,再犯のおそれも考え難く,現在
は次男方の近くに住み,その世話を受けていることなどの事情も認められる。
 そこで,これらの事情を総合考慮して,主文の刑に処した上で,その執行を猶予する
こととした。
(求刑 懲役5年)
 平成17年2月23日
   大阪地方裁判所第9刑事部
裁判長裁判官   米 山 正 明
裁判官   真 鍋 秀 永
裁判官   森 嶌 正 彦

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