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平成11年(行ケ)第408号 審決取消請求事件
平成13年3月15日口頭弁論終結
           判        決
         原      告      バイエル・アクチエンゲゼルシ
ャフト
         代表者           【A】
         同             【B】
         訴訟代理人弁理士      小田島 平 吉
         同             江 角 洋 治
      同             小田嶋 平 吾
         被      告      同和鑛業株式会社
         代表者代表取締役      【C】
         訴訟代理人弁護士      近 藤 惠 嗣
         同    弁理士      和 田 憲 治
        主        文
      特許庁が平成10年審判第35045号事件について平成11年7月
16日にした審決を取り消す。
  訴訟費用は被告の負担とする。
       事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   主文と同旨
 2 被告
   原告の請求を棄却する。
   訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
  原告は、発明の名称を「磁気信号記録用の金属粉末」とする特許第1733
787号の特許(1979年3月10日に西ドイツ国においてした特許出願に基づ
く優先権を主張して、昭和55年3月7日特許出願、平成5年2月17日設定登
録、以下「本件特許」といい、その発明を「本件発明」という。)の特許権者であ
る。
  被告は、平成10年1月29日、本件特許を無効にすることについて審判を
請求し、特許庁は、同請求を平成10年審判第35045号事件として審理した。
被告は、この審理の過程で、本件発明に係る明細書(以下「本件明細書」とい
う。)の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。特許庁は、本件訂正を認
めず、平成11年7月16日、「特許第1733787号発明の特許を無効とす
る。」との審決をし、その謄本を同年8月18日、原告に送達した。なお、出訴期
間として90日が付加された。
2 特許請求の範囲1の項
(1) 本件訂正前(以下「訂正前発明」という。)
  金属鉄から本質的になり且つ平均2個以下の金属コアよりなる針状の個々
の粒子からなるものであって、該粒子は孔を平均1個より多くは含有せず、そして
カルシウム、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、クロム、タングステン、リン
(P2O5として表して)およびホウ素(B2O3として表わして)から選ばれる少
なくとも1個の元素を0.1~7重量%含有することを特徴とする磁気信号記録用の
金属粉末。
(2) 本件訂正後(以下「本件訂正発明」という。)
 鉄酸化物水酸化物から誘導されたものであり、金属鉄から本質的になり且
つ平均2個以下の金属コアよりなる針状の個々の粒子からなる金属粉末であって、
該粒子は孔を平均1個より多くは含有せず、そしてカルシウム、亜鉛、マグネシウ
ム、アルミニウム、クロム、タングステン、リン(P2O5として表して)およびホ
ウ素(B2O3として表わして)から選ばれる少なくとも1種の元素を0.1~7重
量%含有することを特徴とする磁気信号記録用の金属粉末。
3 審決の理由
  別紙審決書の理由の写しのとおり、①本件訂正発明は、特開昭52-153
198号公報(審決でも本訴でも甲第4号証。以下「引用例1」という。)及び特
開昭53-31598号公報(審決でも本訴でも甲第5号証。以下「引用例2」と
いう。)記載の発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることが
できたものと認められるので、本件訂正は認められないとし、これを前提として、
②訂正前発明は、引用例1、2記載の発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容
易に発明をすることができたものと認められるので、特許法29条2項に該当す
る、と認定判断した。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
  審決の理由Ⅰ(手続きの経緯)は認める。同Ⅱ(訂正の適否についての判
断)の(1)(訂正拒絶理由の内容)、(2)(訂正拒絶理由に対する被請求人の意見)
は認める。同Ⅱの(3)(訂正請求に対する当審の判断)の3-1(訂正発明の要旨認
定)は争う。同Ⅱの(3)の3-2(「無効理由その一」についての判断)は、36頁
8行の「上記のように」から10行の「できないから」までを争い、その余を認め
る。同Ⅱの(3)の3-3(「無効理由その二」についての判断)は争う。同Ⅱの(4)
(結論)は争う。同Ⅲ(本件特許発明に対する判断)は争う。同Ⅳ(むすび)は争
う。
  審決は、本件訂正発明の製造法を誤認し(取消事由1)、引用例1記載の発
明を誤認し(取消事由2)、引用例2記載の発明を誤認した(取消事由3)もので
あり、これらの誤りがそれぞれ審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるか
ら、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件訂正発明の製造法の誤認)
  審決は、「本件明細書(公告公報第5、6、7欄参照)の記載をみると、本
件でいうところの金属コア、孔の少ない鉄粒子を得るために重要なことは、α-F
eOOHを構造的に安定化されたフェリ磁性酸化鉄にすることが必要である
旨・・・記載されており、その構造安定化処理を伴う本件金属粉末の具体的な製造
方法として、第1の方法は、α-FeOOHを脱水して得たFe2O3を調質した
後、還元して得たFe3O4マグネタイトを不活性雰囲気条件下に約600~800
℃の温度で所定時間(実施例は30分)さらに調質したマグネタイトを(より好ま
しくは、これを更に再酸化する工程を含み、)金属鉄に還元する、第2の方法とし
て・・・第3の方法として、・・・の3種の方法が記載されており(同7、8、9
欄)、実施例1~4は第1の方法・・・で得られた物・・・である。」(審決書1
0頁9行~11頁12行)として、上記第1の方法(以下「第1の方法」とい
う。)により得られた物であれば、それは本件訂正発明の物に含まれると認定した
が、誤りである。
  本件明細書の実施例1ないし4においては、甲第23号証(【D】作成の平
成12年2月9日付け鑑定書。以下「甲第23号証鑑定書」という。)に、「本件
発明の出発原料として用いることができるゲータイト粒子の製造法においては、そ
の要点を述べると、Zn等の金属イオン及び/又は硼素(B2O3)やリン(P2O
5)等のイオンと鉄(Fe)との同時沈澱によって、これらの金属イオン及び/又
は硼素又はリンイオンが均一にドーピングされたα-FeOOH粒子を水中で沈澱
させ、さらに、同一の水性反応系中において、そのα-FeOOH懸濁液中にピロ
リン酸塩等を添加して該α-FeOOH粒子上にリン酸鉄を均一に沈澱させて、α
-FeOOH粒子を被覆し、これを濾過、乾燥して得られるゲータイト(α-Fe
OOH)粒子を出発原料(すなわち、プリカーサー)として用いるものである。」
(41頁14~末行)と指摘されているとおり、第1の方法では無条件に出発原料
とされているゲータイト(α-FeOOH)及びその製造法の特徴こそが、重要な
要点となるものである。
  これに対して、引用例1記載の発明は、既製のゲータイト粒子を出発原料と
して用いるものであるから、本件訂正発明とは、出発原料において相違する。審決
は、この点において、上記両発明の相違点を看過している。
2取消事由2(引用例1記載の発明の誤認)
  引用例1記載の発明は、その特許請求の範囲第1項に記載されているとおり
の、例えば針状晶含水酸化鉄粒子(FeOOH、ゲータイト)を還元性ガス中で加
熱還元して針状晶鉄磁性粒子粉末を製造するに当たり、出発原料である該針状晶含
水酸化鉄粒子(ゲータイト)の粒子表面を水可溶性ケイ酸塩で被覆してケイ酸塩被
覆粒子とした後、還元性ガス中で400~800℃の温度で加熱還元することを特
徴とする方法である。したがって、引用例1記載の方法で得られるものは、ケイ酸
(SiO2)で被覆された針状磁性鉄粒子である。
  ところが、本件訂正発明において還元の対象とされるのは、ケイ酸(SiO
2)で被覆されたものではない。審決は、この点においても、相違点を看過してい
る。
  すなわち、本件訂正発明におけるのと引用例1記載の発明におけるのとで
は、還元の対象とされるものが異なるのであるから、仮に、引用例1記載の還元方
法に加えて、引用例2に記載された発明である、ゲータイト(α-FeOOH)の
還元工程中の段階還元・調質処理を採用することに当業者が容易に想到し得たとし
ても、その方法によって得られる物は、本件訂正発明のものとは全く異なる物とな
らざるを得ないのである。
3 取消事由3(引用例2記載の発明の誤認)
  引用例2には、実際に針状性が良好で空孔を少なくしたと認められるような
針状γ-Fe2O3磁性粒子の製造法は何ら開示されていない(甲第23号証鑑定書
29頁下から7行~31頁2行、38頁下から2行~39頁14行参照)。そこに
は、ゲータイトをフェリ磁性酸化物マグネタイトに段階的に還元する前や後におい
て調質処理をすると、孔が少なく形状も好ましい針状粒子が得られる、ということ
は、何ら記載も教示もされてはいないのである。
  そうである以上、審決が、引用例2記載の発明を誤認し、その結果、相違点
についての判断を誤ったことは、明らかというべきである。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(本件訂正発明の製造法の誤認)について
(1) 本件訂正発明は、「金属鉄から本質的になり、カルシウム、亜鉛、マグネ
シウム、アルミニウム、クロム、タングステン、リン及びホウ素から選ばれる少な
くとも一種の元素を0.1~7重量%含有する金属粉末である」(以下「成分組成
的な要件」という。)及び「平均2個以下の金属コアよりなる針状の個々の粒子か
らなるものであって、該粒子は孔を平均1個より多くは含有しない金属粉末であ
る」(以下「形状構造的な要件」という。)で規定された「物の発明」である。
 そして、取消事由1に係る原告の主張は、「成分組成的な要件」と「形状
構造的な要件」とを混同するものである。
(2) すなわち、本件訂正発明に係る明細書(甲第21号証の2、以下「本件訂
正明細書」という。)には、「本発明は、鉄(Ⅱ)塩の水溶液から沈殿および酸化
により微細な針状の鉄(Ⅲ)酸化物水酸化物(FeOOH)を形成せしめ、脱水
し、この鉄(Ⅲ)酸化物水酸化物を低い孔含量のそれ自体構造的に安定化されたフ
ェリ磁性(Ferrimagnetic)酸化鉄に変え、そしてフェリ磁性酸化鉄の気体の還元剤
で約300~600℃の範囲の温度において還元して金属にすることを特徴とする
本発明による金属粉末の製造方法を提供する。」(5頁22行~6頁4行。以下
「記載事項A」という。)及び「鉄(Ⅲ)酸化物水酸化物は普通の方法で製造でき
る。この鉄酸化物水酸化物は、好ましくは、無機化合物を用いる処理により、引き
続く熱処理の間焼結に対して保護される。この処理は、たとえば、マグネシウム、
カルシウム、亜鉛、アルミニウム、クロムおよび/またはタングステンおよび/ま
たはB2O3またはP2O5の鉄との同時沈殿により実施できる。これらのイオンは
沈殿懸濁液中に、水溶性化合物、好ましくは鉱酸の水溶性化合物たとえば硫酸の塩
として導入される。処理物質の量は鉄に基づいて約0.1~7重量%で十分であ
る。また、この処理は鉄酸化物水酸化物の沈殿後FeOOH粒子上への沈殿によっ
て実施できる。この場合、FeOOH粒子への沈殿は沈殿懸濁液中で行うべきであ
る。亜鉛イオンおよび/またはリン酸イオンを使用することが好ましい。」(6頁
5行~15行。以下「記載事項B」という。)との記載がある。
 本件において、亜鉛、アルミニウム、クロム等の元素を所定量金属粒子に
含有させる理由は、α-FeOOH粒子を製造するときに、鉄塩溶液中あるいは粒
子の沈殿後に、これらの元素を添加し、その粒子上へこれら元素の化合物を被覆す
る、いわゆる化学的安定化処理をすることにより、その後の還元時の粒子同士の凝
集を防ぐことにある。このような処理は磁性粉末製造の技術分野において周知の手
法であるから、記載事項Bは成分組成的な要件に関わるものであることが本件訂正
明細書の記載により明らかである。してみると、記載事項Aが形状構造的な要件に
関する記載であることも明らかである。
 そして、審決が第1の方法として認定した方法は、実質的に、記載事項A
の工程に対応することが明らかであるから、審決の認定には何の誤りもない。
(3) 原告の主張によれば、記載事項Bも形状構造的な要件に関わることにな
る。しかし、記載事項Bは、その中に「好ましくは、無機化合物を用いる処理によ
り、引き続く熱処理の間焼結に対して保護される。」と記載して、その処理を焼結
防止処理としているとおり、形状構造的な要件をもたらすために必須の処理ではな
いことが明らかである。
(4) 原告は、審決がゲータイトの下準備工程を看過したかのように主張してい
る。しかし、この点について、審決は、焼結防止技術(審決は「粒子相互の凝集を
防ぐこと」という。)が周知であると認定しており、ゲータイトの下準備工程を看
過してはいない。
2取消事由2(引用例1記載の発明の誤認)
  原告は、引用例1記載の発明で得られるものはケイ酸(SiO2)で被覆さ
れた針状磁性鉄粒子であるのに対し、本件訂正発明はケイ酸(SiO2)で被覆さ
れたものではないと主張する。しかし、本件訂正発明において、ケイ酸固体層で表
面が被覆されていないことは構成要件とはなっていないから、原告の主張は、特許
請求の範囲の記載に基づかないものであって、失当である。
3 取消事由3(引用例2記載の発明の誤認)について
  引用例2には、孔の少ない、針状性のよい粒子が望ましいこと、適切な焼結
防止処理を行った上で、熱処理を行うことにより最適な磁性粉が得られることが記
載されているから、引用例2記載の発明についての審決の認定に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1取消事由1(本件訂正発明の製造法の誤認)について
(1) 審決は、「実施例1~4は第1の方法・・・で得られた物・・・であ
る。」(審決書11頁7~12行)としたうえで、訂正拒絶理由が、容易性判断と
して、「本件訂正発明の上記要旨認定における第1の方法で得られたものと、甲第
4,5号証(判決注・引用例1、2を指す。)の記載事項とを検討」(同40頁下
から4~2行)し、「訂正発明(判決注・本件訂正発明を指す。)は、甲第4号
証、甲第5号証に記載された技術事項及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発
明をすることができたものと認められるので、特許法第29条第2項の規定より特
許を受けることができない。」(同44頁7行~11行)とした「趣旨は相当であ
り、これを変更する必要を認めない。」(同53頁12行~13行)としている。
したがって、審決が、第1の方法によって得られた物であれば、それは本件訂正発
明の物に該当するとし、それが引用例1、2記載の発明及び周知の事項に基づいて
当業者が容易に発明をすることができたものであることを根拠として、本件訂正は
認められないと判断したことは、明らかである。
(2)しかし、本件全証拠によっても、第1の方法によって得られた物であるな
らば、それがすべて本件訂正発明の物に該当する、と認めることはできない。すな
わち、
ア 甲第21号証の2(本件訂正明細書)によれば、本件訂正明細書には、
以下の記載があることが認められる。
「実施例1
 1lの水中の236gのZnSO4・7H2Oを、100g/lのFeS
O4を含有する硫酸鉄溶液の248lに加える。次いで、390g/lのNaOHを
含有する水酸化ナトリウム溶液の20lを、10分間かけてかきまぜながら加える。
次いで54℃において強くかきまぜながらかつ空気を通じながら、α-FeOOH
の種の形成を6時間にわたって実施する。PH値が4.0以下に低下したとき、
8.97kgのFeSO4および46.5gのZnSO4を含有する溶液の40lを
この懸濁液に加え、温度を80℃に上昇する。次いでα-FeOOH顔料の形成を
9時間かけて実施し、その間空気を吹込み、そして4l/時の水酸化ナトリウム(2
00g/lのNaOHを含有する)を加え、pH値は3.3から4.2にゆっくり上
昇する。その時懸濁液は44.9g/lのFeOOHと15.3g/lのFeSO4
を含有する。pH4.2において、8lの水中の238gのNa4P2O7溶液を30
分間かけて加え、その間空気をさらに導入する。30分間かきまぜた後、α-Fe
OOHを濾過し、洗浄して硫酸塩を除去し、乾燥する。 こうして得られたα-F
eOOHはX線回折法のデータにより決定して25nmの平均
の結晶大きさを有し、その試料を空気中で脱水し、760℃においてα-Fe2O3
として30分間調質する。これを次いで、・・・。
 実施例2
 実施例1に相当する溶液を用いて出発して、α-FeOOHの種の形
成を54℃で5時間かけて強くかきまぜながらかつ空気を通じながら実施する。F
eSO4-ZnSO4-溶液(実施例1におけるような)を添加した後、α-FeO
OH顔料の形成を4l/時の水酸化ナトリウム(200g/lのNaOH)の添加に
より80℃で12.5時間かけて実施し、pH値は3.0から3.9にゆっくり上
昇する。その時懸濁液は54.4g/lのFeOOHおよび2.6g/lのFeSO
4を含有する。その後、ピロリン酸塩を用いる後処理およびα-FeOOHへの仕
上げは実施例1におけるのと同じ方法で行う。こうして得られたα-FeOOHの
試料(結晶大きさ24.5nm)を空気中で脱水し、760℃において30分間α
-Fe2O3として調質する。次いで・・・。
実施例3
 2lの水中の0.256kgのNaH2PO4・2H2Oおよび30lの
水酸化ナトリウム(0.35kg/lのNaOH)の溶液を、32.7kgのFeS
O4および0.925kgのZnSO4・7H2Oを含有する溶液の325lに、55
℃においてかきまぜながら加える。次いで合わせた溶液に1.4m3
/時の空気と
4.5m3
/時の窒素との混合物を、懸濁液が黄褐色となるまで、強くかきまぜなが
ら吹込む。0.8l中の21.2gのNa4P2O7の溶液を、1130gのFeOO
Hを含有する懸濁液の一部分に、80℃においてかきまぜながら30分間にわたっ
て加える。得られたα-FeOOH(結晶の大きさ16.5nm)を空気中で脱水
し、680℃においてα-Fe2O3として30分間調質する。次いで・・・。
 実施例4
 2lの水中の447gのZnSO4・7H2Oを100g/lのFeSO
4・7H2Oを含有する硫酸鉄の溶液の315lに加え、次いで沈殿の短時間前に
1.5lの水中の184gのNaH2PO4・2H2Oを添加する。次いで390g/
lのNaOHを含有する26.2lの水酸化ナトリウムを約10分間かけてかきまぜ
ながら加える。次いで強くかきまぜながら、4.5m3
/時の窒素と1.5m3
/時
の酸素との混合物を52℃の温度において吹込みながら、黄褐色が得られるまで、
酸化を実施する。こうして得られた種懸濁液を80℃の温度にさらにガスを吹込み
ながら加熱し、そしてまだ溶けている鉄をその温度で水酸化ナトリウム(200g
/lのNaOH)の添加により沈殿する。pH値が4.0以下に低下したとき、5
lの水中の276gのNa4P2O7の溶液を空気(6m3
/時)を挿入しながら80
℃において30分間かけて滴々加える。30分間かきまぜた後、α-FeOOHを
濾過し、洗浄して硫酸塩を除去し、乾燥する。得られたα-FeOOHは、X線回
折法のデータにより決定して23.5nmの平均の結晶大きさを有し、空気中で乾
燥し、700℃においてα-Fe2O3として30分間調質する。次いで・・・かく
して得られた個々の針状結晶粒子は平均1個以下の孔しか含有せず且つ1個の金属
コアからなるものであった。」(10頁下から4行~16頁11行)
イ 本件訂正明細書中の実施例に関する以上認定の記載に、甲第23号証鑑
定書の記載を総合勘案すると、実施例1ないし4は、いずれも、Znイオンの存在
下にα-FeOOHを生長させ、さらに、同一の水性反応系中において、そのα-
FeOOH懸濁液中にピロリン酸塩を添加する処理を行い(以下、この工程を「本
件工程」という。)、これによって得られたゲータイト(α-FeOOH)粒子を
出発原料としていること、及び、本件工程は、これによって得られたゲータイト
(α-FeOOH)粒子の組成、被覆等に影響を与えるものであって、技術的に無
意味な工程ではないことが認められる。
ウ そうである以上、実施例1ないし4で採用されている方法は、いずれ
も、その工程中に本件工程を含むものであることが、明らかである。
 ところが、第1の方法は、それ自体としては、本件工程を含むものでは
ないから、第1の方法によって得られた物を、直ちに実施例1ないし4に共通する
方法によって得られた物であるとすることはできない。そして、第1の方法によっ
て得られた物であるならば、本件工程を含まない方法によって得られた物であって
も、実施例1ないし4によって得られた物と同一である、と考えることを許す資料
は、本件全証拠を検討しても見いだすことができないのである。
エ 他にも、第1の方法によって得られた物であるならば、本件工程を経た
か否かにかかわらず、本件訂正発明の物である、と認めるに足りる証拠はない。
(3) したがって、第1の方法によって得られた物であるならば、それは本件訂
正発明の物である、とした審決の認定は誤りである。そして、審決は、この認定を
前提として、第1の方法と引用例1記載の発明との一致点、相違点を認定し(審決
書41頁1行~17行)、第1の方法によって得られた物が、引用例1、2記載の
発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであ
ることから、直ちに、本件訂正発明が、引用例1、2記載の発明及び周知の事項に
基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとの結論に至っているのであ
る。そうである以上、本件訂正発明が、他の理由により、独立して特許を受けるこ
とができないとされるものであるか否かはともかく(この点は、審判において更に
判断すべき事柄である。)、この誤りは、審決の結論に影響を及ぼすものというべ
きである。
(4) 被告は、①第1の方法は、実質的に、記載事項Aの工程に対応し、それ
は、形状構造的な要件に関するものである、②審決は、ゲータイトの下準備工程に
ついて、焼結防止技術(審決は「粒子相互の凝集を防ぐこと」という。)が周知で
あると認定しているから、ゲータイトの下準備工程を看過してはいないと主張す
る。
 しかし、審決は、第1の方法によって得られた物を、本件訂正発明の物に
該当すると認定しているのであって、「形状構造的な要件」に限定して認定してい
るのでないことは、審決自体から明らかであるから、被告の主張は、審決の認定と
は異なる前提によるものであって、失当である。
 なお、審決は、「本件において、・・・Zn等の元素を所定量金属粒子に
含有させる理由は、・・・いわゆる、化学的安定化処理をすることにより、その後
の還元時の粒子同士の凝集を防ぐことにあるが、このような処理は当該磁性粉製作
の技術分野において周知の手法である。」(40頁8行~16行)として、「いわ
ゆる、化学的安定処理」が周知であると説示するものの、本件工程そのものが周知
の手法であるとか、本件工程を引用例1記載の発明に適用することが容易であると
か、と認定判断しているものではないから、審決の上記説示は、前記の認定を左右
するものではない。
2 以上のとおりであるから、その余について判断するまでもなく、取消事由1
に係る審決の認定判断は誤りであることが明らかであって、この誤りが審決の結論
に影響を及ぼすことも明らかである。
第6 よって、原告の本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事
件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
      東京高等裁判所第6民事部
            裁判長裁判官山  下  和  明   
        
               裁判官  山  田  知  司  
 
               裁判官  阿  部  正  幸

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残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
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履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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