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裁判例


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       主   文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人らは,福島県に対し,それぞれ43万円及びこれに対する平成12年
3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 控訴人らのその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審ともこれを3分し,その2を控訴人らの負担とし,そ
の余を被控訴人らの負担とする。
       事実及び理由
1 当事者の求めた裁判
(1) 控訴人ら
 原判決を取り消す。
 被控訴人らは,福島県に対し,それぞれ120万円及びこれに対する平成12年
3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
仮執行宣言
(2) 被控訴人ら
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は,控訴人らの負担とする。
2 事案の概要は,原判決の当該欄に記載のとおり(ただし,被控訴人らが控訴し
ていないことから,被控訴人らの本案前の主張に関する部分は,当審における審判
の対象からはずれるので,この部分を除き,原判決4頁末行の「都道府県議員」を
「都道府県議会議員」と改める。)であるから,これを引用する。
3 当裁判所の判断
(1) 地方自治法242条の2第8項に定める「勝訴した場合」に該当するか否
かについて
 この点についての当裁判所の判断は,次のほか,原判決23頁4行目から同29
頁4行目までに説示するとおりであるから,これを引用する。
ア 原判決24頁11行目冒頭から同25頁1行目の「のであるから」までを,
「請求の放棄については,その実質に従って,同規定にいう『勝訴(一部勝訴を含
む。)した場合』に該当するか否かを判断すべきものと解されるところ,通常,請
求の放棄を調書に記載したときは,その記載は,確定判決と同一の効力を有し(民
事訴訟法267条),訴訟物たる権利の不存在が確定されることとなるのであり,
地方自治法242条の2第1項4号の請求の訴訟の場合には,地方公共団体の違法
な行為是正のため,住民が地方公共団体の当該権利を代位行使する関係にすぎない
ことから,当該訴訟の原告に当該権利の処分権がないために,請求の放棄により直
ちに同条項所定の地方公共団体の職員である当該訴訟の被告に対する福島県の請求
権の不存在が確定するものではないにしても,同法に定める出訴期間の制限や,別
訴禁止により,実質的には,当該権利の不存在が確定したのと同一の事
態をもたらすものであるということができるから」と改める。
イ 同3行目の「請求棄却の」から「を生じ,」までを「これによって」と,同4
行目の「損害賠償請求権が不存在が」を「損害賠償請求権の不存在が実質的に」と
それぞれ改める。
ウ 同26頁8行目の次に改行して,「また,甲8並びに弁論の全趣旨によれば,
九号事件について原告勝訴の判決が確定していることが認められるところ,控訴人
らは,被控訴人らの公金支出行為がこの判決により違法と判断されたのであるか
ら,被控訴人らに弁護士費用を負担させることは酷ではないし,そのような取扱い
により職員の士気が低下して公務が停滞し,ひいては公益を害するなどということ
はあり得ないと主張するけれども,上記判決で違法とされたのは,福島県議会議長
の旅行命令であって,被控訴人らの支出行為自体が財務会計法規上の義務に違反し
違法とされたものではない。上記旅行命令が違法であっても,これを前提としてな
された被控訴人らの行為は,財務会計法規上の義務に違反しない限り違法となるも
のではなく,控訴人らの主張は,その前提において誤っており到底採用できな
い。」を加える。
(2) 二号事件の弁護士報酬に係る負担金の額が地方自治法242条の2第8項
に定める「相当と認められる額」か否かについて
ア 二号事件の弁護士報酬に係る負担金の支出の経過及び福島県弁護士会報酬規程
(乙10。以下「報酬規程」という。)の規定については,原判決29頁7行目の
「甲第三号証」から,同32頁7行目末尾までに説示するとおりである(ただし,
同29頁7行目から8行目及び同30頁2行目の「福島弁護士会」をいずれも「福
島県弁護士会」と改める。)。
 なお,控訴人らは,地方自治法242条の2第8項が「その報酬額の範囲内で相
当と認められる額」と規定しているところ,報酬規程が着手金と報酬金とを区別し
て規定しているから,前記条項にいう「報酬額」は報酬規程にいう報酬金のみを指
すものと解され,「着手金」まで支出することは,前記条項の違反となる旨主張す
る。しかしながら,同条項は,前記のとおりの趣旨で,地方自治法242条の2第
1項4号の訴訟の被告となった職員が勝訴した場合の応訴費用を地方公共団体が負
担することを認めた規定であることからすると,着手金を除外すべき実質的な理由
はないし,前記条項の文言も「報酬金」ではなく,「報酬」であり,報酬規程
自体弁護士の「報酬」に着手金と報酬金とが含まれることを前提としたものである
といえるから,控訴人らの主張は採用できない。
イ 二号事件の事案の概要,性質,そこにおける今井弁護士ら3名の弁護士の防禦
活動の評価については,次のほか,原判決32頁8行目の「二号事件は」から同3
4頁2行目末尾までに説示するとおりである。
(ア) 同33頁8行目の「ことができる」の次に「(この推認を覆すに足りる的
確な証拠はない。)」を,同10行目の「答弁書」の次に「(B4判3枚のも
の)」を,同「準備書面」の次に「2通(B4判1枚のものと同3枚のもの)」を
それぞれ加える。
(イ) 同末行の「ものであり,」の次に「弁論の全趣旨によれば,参考とし得る
同種事案のあったことが認められるけれども,」を加える。
ウ 以上の事実関係をもとに検討する。
 二号事件の請求額は295万4105円であり,請求放棄された額も同じであ
る。この元本額を報酬規程16条1項の算定方式に当てはめると,着手金は23万
6328円,報酬金は47万2656円となる。そして,事案の困難さ,被控訴人
らにとっての二号事件の帰趨の重大さ,それに比して請求額が低額であることを考
慮すると,着手金については,報酬規程16条2項を適用して,20パーセント程
度の増額をするのが相当である。これに対して,報酬金については,実質審理期間
が比較的短期間であったこと訴訟手続において提出された準備書面等の分量もさほ
どではなかったこと,人証の取調べを行っていないことや終局の経緯を考慮する
と,前記条項を適用して増額をするまでの事件であったとは認めることができな
い。そうすると,二号事件の被控訴人それぞれが負担する弁護士の相当報酬は,以
上の報酬規程により算出された基準額に基づき着手金29万円,報酬金48万円と
するのが相当である。
 なお,二号事件の相当報酬としては,前記の諸事情に鑑みると,報酬規程5条3
項,同条2項の適用により3名の弁護士に対する報酬額を合算した上減額するとい
う計算をする必要はないものと認められる(現実の3名の弁護士に対する弁護士報
酬の支払も,その算定の基準となる経済的利益の額を算定不能とし同規程15条に
より800万円とした上での計算ではあるものの,着手金,報酬金とも,報酬規程
の300万円を超える部分について定めるそれぞれ5パーセント及び10パーセン
トの割合を乗じて算出さ
れた金額とし,これにさらに報酬規程の5条3項,2項を適用して合算及び減額す
ることをしていない。)。
 そうすると,二号事件の被控訴人らにおいて負担するのが相当な弁護士報酬は合
計231万円となるから,同事件の弁護士報酬に係る負担金の額のうち,同金額の
限度においては地方自治法242条の2第8項に定める「相当と認められる額」と
認められるものの,それを超える129万円については,不相当であり,他に法律
上の原因に基づくことの主張立証はないから,被控訴人らは,それぞれ43万円ず
つを法律上の原因なくして利得したこととなり,これを福島県に返還すべきことと
なる。
 なお,被控訴人らが福島県に対し損害賠償義務を負うとすべき違法行為を行った
事実は証拠上認められない。
(3) よって,控訴人らの本訴請求は,被控訴人らに対し,それぞれ43万円及
び民法所定の年5分の割合による遅延損害金を福島県に返還することを求める限度
で理由があるから認容し,その余は棄却すべきところ,これと一部結論を異にする
原判決をその旨変更する(なお,仮執行宣言については,相当でないから,これを
付さないこととする。)こととして,主文のとおり判決する。
仙台高等裁判所第1民事部
裁判長裁判官 佐々木寅男
裁判官 衣笠和彦
裁判官 橋本健

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