弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成13年(ワ)第13444号割増手当請求事件
平成15年5月27日判決言渡
主文
1 被告は,原告に対し,809万4977円及びうち405万5202円に対す
る平成12年6月28日から,うち23万2447円に対する同年7月26日か
ら,うち326万8233円に対する同年9月16日から,うち21万5288円
に対する同月26日から,うち5万3988円に対する同年10月26日から,い
ずれも支払済みまで年14.6パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを5分し,その2を被告の負担とし,その余を原告の負担と
する。
4 この判決は,第1項及び第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
 被告は,原告に対し,4024万4729円及びうち1070万0893円に対
する平成12年6月28日から,うち23万2447円に対する同年7月26日か
ら,うち803万1720円に対する同年9月16日から,うち21万5288円
に対する同月26日から,うち5万3988円に対する同年10月26日から,い
ずれも支払済みまで年14.6パーセントの割合による金員並びに1923万53
36円に対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
第2 事案の概要
1 本訴請求の概要
 本件は,被告の従業員(マンション管理員)であった故A(以下「A」とい
う。)及びその相続人である原告(以下,Aと原告を併せて「原告ら」ともい
う。)が,被告に対し,雇用契約及び労働基準法,商法,賃金の支払の確保等に関
する法律(以下「賃確法」という。),民法に基づいて,以下のとおり,A分と原
告分の各割増手当(残額),各付加金,各遅延損害金の総合計額の支払を求めた事
案である。
(1) A分
ア 賃金支払請求権に基づく平成9年4月1日から平成12年6月27日までの未
払割増手当分1093万4340円
イ 上記未払分のうち平成9年4月1日から平成12年5月31日までの未払割増
手当1070万0893円に対する各支払期日から退職日である同年6月27日ま
での商法の定める年6パーセントの割合による遅延損害金97万0415円
ウ 上記未払分のうち平成9年4月1日から平成12年5月31日までの未払割増
手当1070万0893円に対する退職日の翌日である平成12年6月28日か
ら,うち同月1日から同月27日までの未払割増手当分23万3447円に対する
支払期日の翌日である同年7月26日から,各支払済までの賃確法6条の定める年
14.6パーセントの割合による遅延損害金
エ 労基法114条に基づく付加金1093万4340円及びこれに対する本判決
確定の日の翌日から支払済まで民法の定める年5パーセントの割合による遅延損害

(2) 原告分
ア 賃金支払請求権に基づく平成9年4月1日から平成12年9月15日までの未
払割増手当分830万0996円
イ 上記未払分のうち平成9年4月1日から平成12年7月31日までの未払割増
手当803万1720円に対する支払期日から退職日である同年9月15日までの
商法の定める年6パーセントの割合による遅延損害金80万3640円
ウ 上記未払分のうち平成9年4月1日から平成12年7月31日までの未払割増
手当803万1720円に対する退職日の翌日である同年9月16日から,うち同
月1日から同月15日の未払割増手当21万5288円に対する支払期日の翌日で
ある同月26日から,うち同月1日から同月15日までの未払割増手当5万398
8円に対する支払期日の翌日である同年10月26日から,各支払済までの賃確法
6条の定める年14.6パーセントの割合による遅延損害金
エ 労基法114条に基づく付加金830万0996円及びこれに対する本判決確
定の日の翌日から支払済まで民法の定める年5パーセントの割合による遅延損害金
2 争いのない事実等(証拠によって認定した事実は,末尾に証拠を示した。証拠
の示されていない部分は争いのない事実である。)
(1) 当事者
ア 被告は,昭和61年3月3日に設立されたビル環境衛生管理,ビル等の警備,
マンションの総合管理,建築工事の請負・調査等を事業内容とする資本金3000
万円の株式会社(株式会社B組の子会社である。)であり,東京都新宿区の本社の
ほか札幌及び仙台に営業所を有し,従業員は約190名である。
 被告は,東京都北区ab丁目c番d号所在のマンション「BQa」(以下単に
「本件マンション」という)の管理組合(以下「管理組合」という。)から,同マ
ンションの管理業務の委託を受けている。同マンションは,昭和49年に竣工した
13階建て鉄筋コンクリート造り延床面積11,022.40㎡のマンションであ
り,1階及び2階はB不動産株式会社が所有し,スーパーなどの店舗及び会社事務
所に賃貸し,3階から13階までは住戸部分であり,すべて分譲している。
イ 原告(昭和15年2月26日生まれの女性である。)とA(昭和23年7月1
6日生まれの男性である。)は昭和60年9月18日に婚姻した。
 Aは平成12年6月27日死亡し,同人の被告に対する賃金支払請求権を原告が
相続する旨の遺産分割協議が成立した。
(甲5,甲7の1ないし17,甲8の1ないし3,甲9の1ないし3)。
(2) 原告らと被告との雇用契約等
ア 原告らは,平成9年3月1日,被告に本件マンションの管理員として採用され
(以下「本件契約」という。),同月10日以降,本件マンションにて,住み込み
の管理員として,平成12年9月14日まで(Aについては同年6月27日まで)
勤務した。
イ 被告は,原告らに対し,本件契約に基づき,毎月の賃金支払日に,別表「賃金
および割増基準額」の各「賃金月額」欄記載の賃金のほか,割増手当へ充当する趣
旨で,同表の各「特別手当」欄記載の特別手当を支払っていた。
ウ 原告らの基準内賃金(本給+加給),当該年度の1か月平均の所定労働時間及
び割増基準額(基準内賃金/当該年度の1か月平均の所定労働時間)は,別紙1
「賃金および割増基準額」の「賃金月額」,「月平均所定労働時間」及び「割増基
準額」各欄記載のとおりである。
(3) 未払賃金請求の経緯等
ア 原告は,被告に対し,平成13年5月14日付通知書(甲10)をもって未払
賃金全額の請求を催告し,同通知書は同日被告に送付されたが,被告は,その支払
義務はないとして,支払を拒絶した。
イ 被告は,本件第1回口頭弁論期日において,答弁書を陳述し,原告の請求中,
本件について催告がなされた平成13年5月14日から2年以上前に原告らが就労
したことにより発生したと主張する未払割増手当請求権について2年の短期消滅時
効(労働基準法115条)を援用する旨の意思表示をした。
(4) 被告の就業規則等の規定(甲3,乙27)
ア 被告の就業規則における所定労働時間の定め
(ア) 所定労働時間は,1日8時間(始業午前9時,終業午後6時,休憩時間正午
から午後1時までの1時間)である(25条,26条)。
(イ) 法定休日は,1週につき1日である(28条)。
 法定外休日は,①法定の祝日,②法定の祝日が日曜日に当たるときはその翌日,
③5月4日(但し,法定休日ないし法定の祝日が日曜日に当たるときのその翌日を
除く),④土曜日,⑤夏期(8月14~16日,この内の1日が日曜日にあたると
きは,8月17日を加える),⑥年末年始(12月30~1月3日),⑦その他会
社が臨時に定めた日である(28条)。
 なお,休日勤務をした場合には振替を認めることができる(29条)。
イ 被告の給与規則における時間外労働に対する賃金支払の定め
(ア) 時間外労働に対する賃金(「割増手当」と呼称されている。)は,当月分の
月俸(職員については本給及び加給の合計額)を当該年度の1か月平均所定労働時
間数で除した割増基準額に,次の各割増率を乗じた割合により算出される金額とさ
れている(27条)。
① 就労日における所定労働時間を超えた労働25パーセント
② 法定休日の労働        35パーセント
③ 法定休日以外の休日労働        25パーセント
(イ) 被告における賃金は,基準内賃金については毎月末日締めの当月25日払い
とされ,前記(ア)の割増手当も毎月末日締めの翌月25日払いとされている(4
条)。
2 争点
(1) 原告らの時間外実労働時間
(2) 原告らの未払残業手当の額
(3)被告の消滅時効の援用の可否
(4) 付加金支払義務の存否
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)について
(原告の主張)
ア 原告らは,平成9年3月10日から,Aは平成12年6月26日までの各日,
原告は同年9月15日までの各日就労し,その労働時間は,平成9年4月1日以降
については,別紙2「労働時間(各年月)」の各「総労働時間」欄記載のとおりで
あり,うち所定時間外労働時間は,同表の「所定外労働時間」欄記載のとおりであ
る。
 これらは概ね管理日報に基づいているが,管理日報は被告の指示に基づいて作成
したものであり,その記載には信用性があるというべきである。
イ 原告らが所定労働時間外に現実に従事した業務は,少なくとも以下のとおりで
あり,いずれも被告の指揮監督の下にされたものである。
(ア) 全日(平日,土曜,日曜・祝日をいう。以下,同様とする。)の午前9時以
前の時間帯の業務
①「ゴミ置き場開錠」
 午前7時にゴミ置き場の扉を開錠する。
②「ボイラー始動」
 午前8時20分ころにテナント冷暖房装置(ボイラー)の始動をしていた。
③「管理員室照明点灯」
 午前7時に管理員室の照明を手動で点灯させ,いつでも居住者やテナントのリク
エストに対応できるように待機を開始する。
④「駐車依頼」,「工事業者鍵の預り」
 駐車依頼,工事業者との間で,居住者の鍵の受け渡しなどの業務を不定期に実施
した。
(イ) 全日の午後6時以降の時間帯の業務
①「ゴミ置き場施錠」,「巡回」
 午後9時から午後9時30分まで,ゴミ置き場を施錠し,その後,午後10時ま
で約30分間本件マンションの内外を巡回をしていた(無断駐車防止のために午後
9時以降の巡回を余儀なくされていた。)。
②「ボイラー停止」
 テナント冷暖房装置(ボイラー)の停止を午後6時以降に行っていた(平日は午
後8時,休日の多くは午後6時)。
③「管理員室照明消灯」
 午後10時に管理員室の照明を手動で消灯した。
④「無断駐車」
 無断駐車を発見し,その後,警告,移動要請などの手続をとる業務を不定期に実
施した(本件マンションの住人から頻繁に要求されていた。)。
⑤「宅配便等の受け取り」
 居住者不在の場合の書留郵便,宅配便の受け取り,保管,居住者への交付業務を
実施した。
⑥「駐車依頼」,「工事業者鍵の預り」
 前記(ア)④と同じ。
(ウ) 所定労働日以外(休日)で,午前9時から午後6時までの時間帯にした業務
①「ゴミ置き場清掃・整理」
 ごみ置き場の整理・清掃を不定時に実施した。
②「リサイクル整理」
 ごみ置き場の中のリサイクルごみの整理を不定時に実施した。
③「ボイラー使用」
 テナント冷暖房装置(ボイラー)を休日日中について作動させる業務をした。
④「駐車依頼工事業者鍵の預り」
 業務内容については,前記(ア)④に同じ。
 休日日中について駐車依頼,工事業者との間で居住者の鍵の受け渡しなどを行っ
た回数を記載した。
⑤「巡回」
 業務内容については,前記(イ)①の巡回に同じ。
 休日日中について建物内外について巡回を行った回数を記載した。
⑥「宅配便等の受け取り」
 前記(イ)⑤に同じ。
ウ 以上のような業務については,実作業への従事がその必要が生じた場合に限ら
れるとしても、その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に就労義務がない
と認めることができるような事情も存しないのであるから、本件所定労働時間外の
業務は全体として労働からの解放が保障されているとはいえず、労働契約上の役務
の提供が義務付けられていると評価することができる。
 したがって、原告らの午前7時(管理人室照明点灯,ゴミ置き場開鍵)から午後
10時(巡回後,管理人室照明消灯)までの時間は不活動時間も含めて被告の指揮
命令下に置かれているものであり、上記時間は労基法上の労働時間に当たるという
べきである。
(被告の主張)
ア 原告は,原告らの所定労働時間について,「平日」と「休日」に分け,土曜日
を「休日」に含め,土曜日の午前9時から午後6時までの業務を休日ないし時間外
労働としているが,被告は,原告らに対し,土曜日については,原告らのうちいず
れか1名が業務を行い,業務を行った者については,翌週の平日のうち1日を振替
休日とする包括的な休日振替措置をなしていたのであり,土曜日の午前9時から午
後6時までの業務は休日ないし時間外労働ではない。
 また,原告の指摘する時間外就労の事実は,概ね管理日報に基づくものである
が,管理日報の記載は,管理組合に対する対策として記載されたものであり,必ず
しも原告らが現実に行なった行為が記載されているわけではないから,不正確かつ
恣意的な指摘である。
イ 原告らが,時間外に就労したと主張する各業務については,以下のとおりであ
り,被告の指示していない業務であるか,被告の指示した業務てあっても極めて短
時間で終えることのできる業務で,その多くは具体的な「労働」としての実体を有
していないと評しうるものである。
(ア) 全日の午前9時以前の時間帯の業務について
①「ゴミ置き場開錠」
 ゴミ置き場の扉開錠は,平日においては,清掃員が開錠しており,原告らはこれ
を行っていなかった。
②「ボイラー始動」
 被告が原告らに対して指示した業務であるが,この業務に要する時間は5分程度
(移動時間含む)に過ぎない。
③「管理員室照明点灯」
 被告が原告らに対してこれを行うよう原告らに指示していたが,これは,防犯上
の観点から,原告らの居住場所である管理員居宅に隣接する管理員室の照明を点灯
するという極めて軽易かつ短時間(所要時間は数秒に過ぎない)に行われるもので
あって,消灯まで管理員室に常駐することや管理人としての業務を管理員室で行な
うことまで義務づけたものではなく,具体的労働性に欠け,労働基準法が規制の対
象とする「労働」と評価しうる実体はない。
④「駐車依頼」,「工事業者鍵の預り」
 駐車依頼については,平日の就業時間内には原告らが対応すべき業務であるが,
被告は,時間外におけるかかる業務への対応は指示していないのであり,原告らが
所定労働時間外に現実に前記の行為を行ったとしても,当該行為はマンションの住
人としての個人的なサービスに類するものにすぎず,これを行った時間は,労働基
準法でいうところの労働時間には該当しない。
 また,「工事業者の鍵の預り」も,居住者の鍵の受渡については,被告は原告ら
に対して,トラブルの原因になるので居住者の鍵を預からないよう指示していたも
のであり,業務性を有せず,労働時間となるものではない。
(イ) 全日の午後6時以降の時間帯の業務について
①「ゴミ置き場施錠」,「巡回」
 ゴミ置き場の施錠については,これを「労働」と評価しうる実体がなく,業務に
該当しない。
 また,建物内外の巡回は,被告が原告らに対して指示した業務ではない。被告
は,午後9時に無断駐車の有無を確認して,発見した場合には無断駐車の車体に貼
り紙を貼るよう指示していたが,それ以外に館内外の巡回を行うことについては,
なんら指示をしていない。
 なお,無断駐車の確認及び発見後の対応に要する時間は5分程度である。
②「ボイラー停止」
 被告が原告らに対して指示した業務であるが,この業務に要する時間は,ボイラ
ーの停止並びに冷房の運転開始及び停止については,それぞれ1分程度(移動時間
含む)に過ぎない。
③「管理員室照明消灯」
 被告が原告らに対してこれを行うよう原告らに指示していたが,これは,「管理
員室照明点灯」と同様,具体的労働性に欠け,労働基準法が規制の対象とする「労
働」と評価しうる実体はない(なお,原告らは午後10時に消灯を行うことはな
く,殆どが午後9時30分頃であった)。
④「無断駐車」
 無断駐車点検は被告において原告らに対して指示した業務であるが,これは,被
告が原告らに指示していた午後9時の駐車場確認業務の一環に過ぎない。
 また,発見した場合の対応までが一連の業務であり,点検と発見は別個独立の業
務ではなく,一つの業務に過ぎない。
⑤「宅配便等の受け取り」
 居住者不在の場合の書留郵便,宅配便の受け取り,保管,居住者への交付業務
は,平日の就業時間内には原告らが対応すべき業務であるが,被告は,時間外にお
けるかかる業務への対応は指示していないのであり,原告らが所定労働時間外に現
実に前記の行為を行ったとしても,当該行為はマンションの住人としての個人的な
サービスに類するものにすぎず,これを行った時間は,労働基準法でいうところの
労働時間には該当しない。
⑥「駐車依頼工事業者鍵の預り」
 前記(ア)④と同じ。
(ウ) 所定労働日以外(休日)で,午前9時から午後6時までの時間帯にした業務
について
①「ゴミ置き場清掃・整理」
 被告は,原告らに対して,ごみ置き場の整理・清掃を休日に行うよう指示したこ
とはないから,仮に原告らが,休日に前記行為を行ったとしても,それらは,原告
らの自発的意思に基づいてなされたもの,あるいはマンションの住人としての個人
的サービスに類するにすぎず,休日労働に該当しない。
②「リサイクル整理」
 被告は,原告らに対して,ごみ置き場の中のリサイクルごみの整理を休日に行う
よう指示したことはないから,仮に原告らが,休日にかかる行為を行ったとして
も,それらは,原告らの自発的意思に基づいてなされたものにすぎず,休日労働に
は該当しない。
③「ボイラー使用」
 被告が原告らに対して指示した業務であるが,この業務に要する時間は,ボイラ
ー始動については5分程度(移動時間含む),ボイラーの停止並びに冷房の運転開
始及び停止については,それぞれ1分程度(移動時間含む)に過ぎない。
 しかも,日・祝日には,原則として行なわれていなかった。
④「駐車依頼工事業者鍵の預り」
 前記(ア)④に同じ。
⑤「巡回」
 前記(イ)①の巡回に同じ。
⑥「宅配便等の受け取り」
 前記(イ)⑤に同じ。
ウ 本件においては,被告は,管理委託契約上時間外及び休日において原告らに行
わせなければならない契約上の義務を負っておらず,そのため,被告は原告らに対
して,時間外及び休日の行動について,特定の時刻に行うべき一定の業務(午前8
時30分,午後8時の冷暖房の運転・停止,午後9時の駐車場確認。なお,仮に,
管理員室の電気の点消灯,ゴミ置き場の扉の開施錠が労働時間であるとした場合に
おける当該業務を含む。)以外に一切の制約を設けていないから,原告らは,前記
業務以外には「労働からの解放が保障されている」のであり,時間外及び休日にお
ける不活動時間が労働時間に該当することはない。
 したがって,原告が労働時間に該当すると主張する平日午前7時から午前9時ま
で及び午後6時から午後10時まで並びに休日午前7時から午後10時までの時間
は,冷暖房のスイッチの入切に要する時間及び午後9時の駐車場の確認を除き,労
働時間に該当しない。
(2) 争点(2)について
(原告の主張)
 原告らが支払いを受けるべき月毎の割増手当(割増基準額×割増率)は,別紙2
「労働時間(各年月)」下段の表の「時間外賃金」合計欄各記載のとおりである。
 したがって,原告らが支給を受けるべき割増手当は,Aについては別紙3の1
「A所定外賃金計算書」の「未払額合計」欄記載の金額であり,原告については別
紙3の2「C所定外賃金計算書」の「未払額合計」欄記載金額である(請求金額
は,これらに対する遅延損害金を加えた金額である。)。
(被告の主張)
 原告らが従事した時間外及び休日労働時間数を正確に算定することはできないも
のの,もっとも多く見積もっても平均して1日30分を超えることはなく,時間外
及び休日業務は原告ら両名のうち1名のみがこれを行うものであるから,両名がこ
れを半分ずつ分担したと仮定すると,1名につき1か月(30日として,全ての
日・祝日について業務を行ったと仮定した場合)の時間外及び休日労働時間数は,
7時間30分程度(時間外6時間30分,休日1時間)になる。
 平成12年度におけるAの割増基準額は906円(時間外割増手当1132円,
休日割増手当1223円),原告の割増基準額は647円(時間外割増手当808
円,休日割増手当873円)であるところ,時間外及び休日労働時間数が上記のと
おりであったと仮定して労働基準法所定の割増率にて計算した額は,Aについて金
8581円(時間外7358円,休日1223円),原告について金6125円
(時間外5252円,休日873円)となり,特別手当の額(Aについて月額金1
万5000円,原告について月額金1万円)を下回っている。
 したがって,原告らの時間外ないし休日労働に対する割増手当に相当する額は全
て支払済みであり,未払割増手当はない。
(3) 争点(3)について
(被告の主張)
 原告の請求中,本件について催告がなされた平成13年5月14日から2年以上
前に原告らが就労したことにより発生したと主張する未払賃金請求権は,短期消滅
時効(労働基準法115条)が完成し,これにより消滅したから,被告は,前記消
滅時効を援用する。
 なお,被告は原告らより割増手当の請求を受けたことはなく,原告らに対して,
割増手当請求の不行使を助長する如き欺罔行為・態度に出たことはない。
(原告の主張)
 被告は原告の残業手当請求に対して,所定労働時間を超えて就労することは「以
前から続いている慣習」であり,原告らは割増手当なしに所定外労働に従事する義
務がある旨の誤った教示をしたため,原告らは割増手当請求が遅れたものである。
 このように,被告は原告らに対して,割増手当請求の不行使を助長する如き疑罔
行為・態度に出たものであり,このような状況下においては,原告らの割増手当請
求権の権利行使の遅延は「権利の上に眠っていたもの」とは評価されず,かつ,被
告は自ら原告らの権利不行使を助長していたものであり,被告の消滅時効の援用は
信義則に反し,権利の濫用として許されないというべきである。
(4) 争点(4)について
(原告の主張)
 割増手当の未払は,労働基準法37条違反でもあるから,同法114条により,
未払分と同額の付加金を請求する。
(被告の主張)
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)に対する判断
(1) 証拠(甲14,16,19,24,25,26,27,28,29,乙13,
19,証人J,同I,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら
れる。
ア 本件マンションの管理委託契約
 被告は,本件マンションの管理組合との間で事務管理業務,管理員業務,清掃業
務,設備管理業務を内容とする管理委託契約を締結していた。
 この管理委託契約により被告が受託した管理員業務の内容は,以下のとおりであ
る。
(ア)「受付等の業務」
①外来者の応接,居住者との応対,電話の接受,不在者の郵便物,品物等の受渡及
び拾得物の取扱
②共用部分にかかる鍵の保管及び貸し出し並びに管理用備品の管理
③通知事項の掲示並びに入居者及び退出者の届出の受理
④官公庁との連絡及び粗大ゴミ収集の申込み
(イ)「点検業務」
①建物,諸設備及び諸施設の点検
②照明の点灯及び消灯並びに管球類の点検
③諸設備の運転及び作動状況の点検並びにその記録
④各種警報装置の点検
(ウ)「立会業務」
①諸設備の保守点検の際の立会
②共用部分の営繕工事の立会
③清掃業務の立会
④ゴミ収集の際の立会
(エ)「報告連絡業務」
①定時報告及び緊急時の連絡
②日誌の記録
(オ)「管理補助業務」
①防火管理業務の補助
②未収入金督促業務の補助
 また,同管理委託契約においては,管理員業務の実施態様について,管理員業務
は住み込みの管理員によって行われること,執務時間は午前9時から午後6時,休
日は日曜,祝日及び管理員の有給休暇(忌引,夏期休暇及び年末年始休暇を含
む),執務場所は管理員室と定められていた。
イ 面接及び説明会における指示
(ア) 面接時の説明
 被告は,平成9年1月24日に原告らを含む5組の応募者を面接し,被告のK取
締役総務部長,L取締役業務部長,M総務部次長,N総務部課長代理(以下「N」
という)が面接を担当し,会社概要,就業規則・給与規則を説明するとともに,業
務内容を説明した。
(イ) 説明会における指示
 被告は,平成9年3月3日及び同月4日,原告らに対して,労働条件,業務内容
について詳細に説明する採用手続日を設定した。
 被告のNは,平成9年3月3日午前9時から午前11時まで,原告らに対して,
被告就業規則,給与規則の説明を行い,給与等の条件,住み込みに関する条件並び
に所定労働時間,土曜日の休日振替措置及び休日について説明し,原告らの承諾を
得た。
 被告のD課長(以下「D」という)及びE課長代理は,平成9年3月3日午後1
時から午後5時まで及び翌3月4日午前9時から午後5時まで,原告らに対して,
管理員業務マニュアル(甲14)の各項目を読み上げて説明するとともに,時間外
の業務として,冷暖房の運転,停止業務があること,理事会への出席があることを
説明した(但し,結局,理事会への出席はしないこととなった)。また,午前7時
と午後9時のゴミ置き場の開閉,午前7時と午後10時の管理員室の照明の点消灯
について指示した。
 被告は,原告らに対して,平成9年3月3日の説明会の時に高層住宅管理業協会
の作成したマニュアル(甲14)を使用して説明したが,併せて「BQマニュア
ル」(甲16)も交付した。
 この「BQマニュアル」(甲16)は,原告らの前任の管理員であるF管理員
(F管理員は,高齢になったということのほか,住民に対して余りに過剰なサービ
スを行っており,被告が受託している管理員業務契約の内容との乖離が著しくなっ
てきたため,管理組合との関係でこれを是正する必要があると考え,被告から退職
を要請し,平成9年1月末に退職した。)の報告に基づき,被告のDが,平成9年
1月下旬から2月末ころにかけて,高層住宅管理業協会が作成している管理員マニ
ュアル(甲14)の項目を参考にして,マニュアルの体裁に整える方法により作成
したものである。その際,Dは,F管理員が行っていた行為が本来の管理員業務で
あるかどうかを吟味しなかった。
ウ 着任後の指示
(ア) 被告は,具体的な業務については,実際の勤務に就きながら,原告らの前任
の管理員であるFの退職後,通勤で管理員をしていたG(被告は,原告らの前任の
住み込み管理員であるFが平成9年1月29日付で退職したため,それ以降,同年
3月31日までH株式会社に管理員業務を業務委託し,同社から通勤の管理員とし
てGが勤務していた。)からの引継により業務内容を把握させることとし,同年3
月10日から同月31日までの間に実際に本件マンションにおいて,Gから引継を
行った。
(イ) 平成9年4月以降は,原告らのみが本件マンションの管理員業務を遂行し
た。
 もっとも,管理員の業務は,管理員室での受付等実作業に従事しない時間が多
く,軽易であるから,基本的には一人で遂行することが可能であったが,一方が巡
回等で管理員室外に出ている間,他の一方が管理員室で受付等の対応をする必要が
ある場合があることなどから,被告は,夫婦を共に管理員として採用していた。
 被告は,原告らに対して,相互に業務を補完・代替・協力し合って遂行するよう
に求めたが,その際,いずれの業務をいずれが行うかについては原告らの話し合い
による決定に任せていた。
(ウ) 原告らの上司であるD,Iらが定期的に原告らから業務に関する報告を受
け,適宜指示をしていた。
 もっとも,被告は,原告らに対し,現場で各業務を行う原告らの自主的判断に委
ねることが適当であることから,被告はこれを原告らの自主性に委ねていた。
エ 原告らの就労状況
(ア) 平日(月曜日から金曜日)
a 被告は,管理委託契約に従い,原告らの所定労働時間については,午前9時か
ら午後6時(午後12時から午後1時まで休憩)とし,原告らに対し,その時間内
に後記b①ないし⑨の管理員業務を行うよう指示した。
b 原告らは,被告らの指示に従い,平成9年3月の原告らの入社時から平成12
年6月まで,日常的に以下の業務を行った。
① 管理員室での受付等の業務
② コンテナの台数確認
③ 水道水の点検
④ 建物内外の巡回
⑤ 自転車置き場の整理
⑥ リサイクルごみの整理
⑦ 工事業者や来訪者の駐車依頼への対応
⑧ 宅配物等の受渡し
⑨ 管理日報,管理業務報告書の記載
c 被告は,Aが平成12年6月27日に死亡した後,被告は,翌28日から同年
7月3日まで(7月2日を除く)の間,代替管理員を派遣して,管理員業務に当た
らせ,その後は,株式会社Oに委託し,通勤の管理員として同社のPが月曜日から
土曜日の午前9時から午後6時まで管理員業務を行った。また,被告と原告らとの
間の雇用契約では,夫婦で住込み勤務することが条件とされていたが,被告は,原
告の引越や再就職のことを考慮し,勤務期間を9月14日までとするとともに,日
中の管理員業務については,基本的に就労義務を免除し,特別な用務や引継に必要
がない限りは,自由に過ごしてよいこと,ただ,管理員室の照明の点消灯,ゴミ置
き場の開閉と冷房の運転,停止については,これを行うよう指示し,原告はこれを
承諾した。
 このため,原告は,平成12年6月28日以降は,本件マンションの管理業務を
所定労働時間内には行っていない。
(イ) 平日の午前9時以前及び午後6時以降
a 被告は,原告らに対し,平日午前9時以前及び午後6時以降について,以下の
業務を行うよう指示した。
① 午前7時 管理員室の照明点灯
 原告らの居住場所である管理員居宅に隣接する管理員室の照明を点灯するもので
ある。
② 午前7時 ゴミ置き場の扉の開錠,開錠の確認
 管理員居宅から数メートルの場所にあるゴミ置き場の扉を開錠するものである。
清掃担当の武田が行うこともあったが,それでも開錠の確認は原告らがしていた。
③ 午前8時30分 テナントの冷暖房装置の運転開始
 ただし,冷房については6月から9月のみ,暖房については12月から3月のみ
の季節的業務である。
 冷房については,管理員居宅から10数メートルの距離にある機械室内の冷房の
スイッチを押す作業であり,暖房については機械室内の小型ボイラーを着火させ,
着火を確認する作業である。
④ 午後8時 テナントの冷暖房装置の運転停止
 機械室内の冷暖房装置のスイッチを切る作業である。
⑤ 午後9時 無断駐車の確認及び発見後の対応
 管理員居宅の裏にある駐車場をみて無断駐車の確認をし,発見した場合には車両
の車体に無断駐車禁止の貼り紙をする作業である。
⑥ 午後9時 ゴミ置き場の扉の施錠
⑦ 午後10時 管理員室の照明消灯
b 原告らは,遅くとも平成9年4月1日から平成12年9月15日まで(ただ
し,平成12年6月28日以降は原告ひとりで),被告の指示に従い,前記aの各
業務に従事した。
 もっとも,平成9年4月1日から同月9日までの午前7時の点灯及び午後10時
の消灯はしておらず,午前7時の点灯及び午後10時の消灯を完全に励行したの
は,同年5月14日以降であった。
 また,原告らは,管理員室に在室するのは午前9時から午後6時までであり,そ
れ以外の時間及び休日については,「本日の受付は終了しました」との札を出し,
管理員室の窓口を閉じて隣の居室にいたが,住民からのインターホンによる呼び出
しには応じていた。また,居住者不在の場合の書留郵便,宅配便の受取り,保管,
居住者への交付もしていた。
(ウ) 土曜日における勤務
a 被告の就業規則上,土曜日は休日とされているが,被告と管理組合との業務委
託契約上は業務を行うことになっていたため,被告は,土曜日は,原告らのいずれ
か一人が業務を行い,業務を行った者については,翌週の平日のうち1日を振替休
日とすることとし(以下「土曜日の休日振替措置」という。),原告らの承認を得
ていた。
 被告の業務指示は,原則として上記(ア)及び(イ)で述べた平日と同様である。但
し,土曜日の勤務は1名で行うため,巡回等で管理員室を空ける場合に他方が待機
する必要はないこと,冷暖房運転の停止時刻が午後6時であることが異なる。
b しかし,原告らは,実際は,業務の性質が平日の業務と余り変わらないもので
あることや住民の要望もあったため,平成9年4月1日から平成12年9月15日
まで(ただし,平成12年6月28日以降は原告ひとりで)の原告らの土曜の勤務
状況は,平日の勤務状況とほとんど変わらない状況であった。
(エ) 日曜・祝日における指示内容
a 被告は,日曜・祝日は,原告らの休日であることから,被告は,上記(イ)記載
の各事項について指示した以外には,原告らに対して,一切業務を行うよう指示し
ていなかった。また,年末年始の休日(12月30日から1月3日)や夏期休暇
(8月14日から16日),ゴールデンウィーク中の休日も同様であり,やむを得
ず仕事をした場合は代休をとるよう指示していた。
b しかしながら,原告らは,実際は,業務の性質が平日の業務と余り変わらない
ものであることや住民の要望(平日に代休をとろうとしても住民の要望に応えざる
を得なくなる。)もあったため,平成9年4月1日から平成12年9月15日まで
(ただし,平成12年6月28日以降は原告ひとりで)の原告らの日曜・祝日の勤
務状況は,平日の勤務状況とほとんど変わらない状況であった。
 以上の事実が認められる。なお,被告は管理日報の記載の信用性を争っている
が,この管理日報は被告に指示で作成し,これに被告担当者の方で報告について決
裁をしている以上,記載されている所要時間及び平成12年1月27日の午前5時
30分から5分間の連絡はともかく,それ以外は原告らの就労実態を示すものとし
て採用するのが相当である。
(2) 以上の認定事実及び前記第2の2の事実を踏まえて判断する。
ア 労基法32条の労働時間(以下「労基法上の労働時間」という。)とは,労働
者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,実作業に従事していない時間
(以下「不活動時間」という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは,労働
者が不活動時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することが
できるか否かにより客観的に定まるものというべきである。
 そして,不活動時間において,労働者が実作業に従事していないというだけで
は,使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず,当該時間に労働者
が労働から離れることを保障されていて初めて,労働者が使用者の指揮命令下に置
かれていないものと評価することができる。
 したがって,不活動時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には
労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして,当該時間において労働契
約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には,労働からの解放が
保障されているとはいえず,労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというの
が相当である。
イ 原告らは,前記のとおり,全日にわたって,午前7時(管理人室照明点灯,ゴ
ミ置き場開鍵)から指示業務を開始し,午後10時(巡回後,管理人室照明消灯)
で指示業務を終えている。
 この間,住み込みの管理員として,その労働密度はともかく,指示業務に従事し
ており(土曜や休日についても,平日と勤務状況に変化がなかったのであるし,原
告らが相互に業務を補完・代替・協力し合って遂行するよう被告も求めていた以
上,土曜や休日についても,平成12年6月27日までは原告ら2名が従事したも
のと扱うのが相当である。),また,代休取得もしていない(被告が代休をとるよ
う指示していたとしても,原告らが代休をとらない限り,休日扱いにはできな
い。)。また,原告らは,被告が直接申し送りしていない住民要望(時間外の宅急
便等の受渡)に応えているが,これも「BQマニュアル」に記載されており,被告
の所定業務であると見るのが相当である(被告は,同マニュアルを参考のために渡
したとするが,被告が作成し,特にその記載に従わないよう禁止して原告らに渡し
たものでない以上,原告らがこれに従った業務をしたとしても,これを被告に指示
していない業務に従事したものでないということはできない。)。
 そして,各指示業務は,断続的であり,その各所要時間が短いけれども,原告ら
はそれを遂行するため,当該遂行場所に出向いていたのであるし,その間も住民要
望に応えるという役務の提供を求められており,通勤の管理員と比較するときは,
個人的な生活時間という側面も併せ持つ住み込みの管理員であることを考慮して
も,各指示業務間の時間は,次の業務を開始するまで滞留することが命ぜられた状
態と同視すべきであり,その間は被告の指揮命令下に置かれていると認めるのが相
当である(これに反し,個別の所要時間を検討すべきとする被告の主張は,採用で
きない。)。
 したがって,原告らは,少なくとも,平成9年5月14日から平成12年9月1
5日まで,平成12年1月27日の午前5時30分から午後7時までを除き,別紙
2「労働時間(各年月)」記載のとおりの時間外労働に従事した(平成12年6月
28日から同年9月15日までは原告ひとりで従事した)ものと認めるのが相当で
ある。
2 争点(2)及び(3)に対する判断
(1) 原告らの前記1の所定外労働時間に対する割増手当は,特別手当の支払により
一部弁済され,かつ一部については労働基準法による2年の消滅時効期間が徒過
し,被告がこの消滅時効を援用する旨の意思表示をしているから,原告の請求でき
る未払割増手当は,平成11年4月分以降のもののみである(被告は平成13年5
月14日から2年以上前のものについて消滅時効が成立すると主張するが,被告に
おける割増手当は毎月末日締めの翌月25日払いとされていおり,平成11年4月
分の割増手当の支払日は同年5月25日であり,同年5月分の割増手当の支払日は
同年6月25日であり,それぞれ当該日払日が「権利ヲ行使シ得ル時」であり,平
成13年5月14日時点では,いずれもまだ2年の消滅時効期間が完成していない
のであるから,被告の前記主張は採用できない。)。
(2) 被告は,「所定労働時間を超えて就労することは以前から続いている慣習であ
り,原告らは割増手当なしに所定外労働に従事する義務がある」旨の誤った教示を
したことを認めるに足りる証拠はなく,仮にそのようなことがあったとしても,被
告が割増手当の請求を妨害したようなことはないから,被告の消滅時効に関する主
張が信義則違反であるとはいえない。
(3) そうすると,原告らが被告に請求できる未払割増手当の額は,平成11年4月
から平成9月分のものであり,別紙4「認定表」の未払額欄のとおりである。
3 争点(4)に対する判断
 被告は,原告らに積極的に時間外労働を求めたわけではないこと,一定の割増手
当相当分(特別手当)を支払っていることから,付加金の支払を認めるまでの悪質
性はない。
 したがって,原告の被告に対する付加金請求には理由がない。
4 結語
 以上の次第であり,原告の本訴請求は,A分の平成11年4月1日から平成12
年6月27日までの未払割増手当分428万8649円及びうち平成11年4月1
日から平成12年5月31日までの未払割増手当405万5202円に対する各支
払期日から退職日である平成12年6月27日までの商法の定める年6パーセント
の割合による遅延損害金13万3086円並びにうち平成11年4月1日から平成
12年5月31日までの未払割増手当分405万5202円に対する退職日の翌日
である平成12年6月28日から,うち同月1日から同月27日までの未払割増手
当分23万3447円に対する支払期日の翌日である同年7月26日から各支払済
までの賃確法6条の定める年14.6パーセントの割合による遅延損害金,原告分
の平成11年4月1日から平成12年9月15日までの未払割増手当分353万7
509円及びうち平成11年4月1日から平成12年7月31日までの未払割増手
当326万8233円に対する支払期日から退職日である同年9月15日までの商
法の定める年6パーセントの割合による遅延損害金13万5733円並びにうち平
成11年4月1日から平成12年7月31日までの未払割増手当326万8233
円に対する退職日の翌日である同年9月16日から,うち同年8月分の未払割増手
当21万5288円に対する支払期日の翌日である同年9月26日から,うち同月
1日から同月15日までの未払割増手当5万3988円に対する支払期日の翌日で
ある同年10月26日から,各支払済までの賃確法6条の定める年14.6パーセ
ントの割合による遅延損害金の限度で理由があるから認容することとし,その余の
部分については理由がないから棄却することとする。
 よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第19部
裁判官  鈴木拓児

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛