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裁判例


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       主   文
一 被告は、原告aに対し金五八万一八三八円及び内金二九万〇九一九円に対する
昭和四六年五月二五日から、内金二九万〇九一九円に対する本判決確定の日の翌日
から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を、原告bに対し金一九〇万三八
四六円及び内金九五万一九二三円に対する昭和四六年五月二五日から、内金九五万
一九二三円に対する本判決確定の日の翌日から各支払済に至るまで年五分の割合に
よる金員を、原告cに対し金九七万一三六二円及び内金四八万五六八一円に対する
昭和四六年五月二五日から、内金四八万五六八一円に対する本判決確定の日の翌日
から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を、原告dに対し金二六万七八六
四円及び内金一三万三九三二円に対する昭和四六年五月二五日から、内金一三万三
九三二円に対する本判決確定の日の翌日から各支払済に至るまで年五分の割合によ
る金員をそれぞれ支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
四 この判決は、第一項記載の金員のうち主たる認容金額につき各六分の一の限度
において、昭和四六年五月二五日以降の附帯認容金額につき各三分の一の限度にお
いてそれぞれ仮に執行することができる。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告aに対し金五八万四二六二円及びこれに対する昭和四六年五月二
五日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を、原告bに対し金一九一万〇
二七二円及びこれに対する右同日から支払済に至るまで年五分の割合による金員
を、原告cに対し金九七万三四九〇円及びこれに対する右同日から支払済に至るま
で年五分の割合による金員を、原告dに対し金二六万八二四四円及びこれに対する
右同日から支払済に至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 第1項につき仮執行宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
3 担保を供する仮執行免脱宣言。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告b、同cは昭和四三年八月以前から、同aは昭和四四年六月から、同dは
同年一二月から、それぞれ大阪市立淡路中学校に勤務する校務員であつて、地方公
務員法第五七条の「単純な労務に雇用される」地方公務員であり、被告は原告らに
対し給与支払の義務を負う者である。
2 原告らの本来の勤務(以下、本務という)は、月曜日から金曜日までは午前八
時三〇分から午後五時一五分(休憩時間四五分を含む)まで、土曜日は午前八時三
〇分から午後〇時三〇分までである。本務以外の宿直勤務は午後五時一五分から翌
日午前八時三〇分までであり、そのうち午後一〇時から翌日午前五時までの間は深
夜勤務に該当する。また、日曜、祝日の日直勤務は午前八時三〇分から午後五時一
五分までである。
3 原告らは、昭和四三年八月から同四五年八月までの間において、大阪市教育委
員会の指示を受けた淡路中学校長の命令を受けて、本務以外に別紙一記載のとおり
宿直・日直勤務(以下、宿日直勤務という)に従事した。
4 原告らがなした右宿日直勤務に対する労働基準法(以下、法ともいう)第三七
条所定の割増賃金(以下、超過勤務手当という)は、別紙二ないし五各D欄記載の
とおりであり、その算出方法、支払期日は以下(一)ないし(三)記載のとおりで
あり、超過勤務手当算出の基礎となる原告らの本俸及び調整手当の金額は、別紙二
ないし五の本俸、調整手当各欄記載のとおりであり、右によつて算出される超過勤
務手当の計算関係は別紙二ないし五記載のとおりである。
(一) 宿日直勤務の時間数は、超過勤務手当の支給割合を異にする時間帯毎に一
か月を積算し、一時間未満の端数はその端数が三〇分以上のときは一時間とし、三
〇分未満のときは切り捨てる。
(二) 一時間当りの超過勤務手当額は、深夜勤務を除く宿日直勤務については本
俸と調整手当の合計金額を一八七・五で除して得た数に一〇〇分の一二五を乗じた
金額であり、深夜勤務については本俸と調整手当の合計金額を一八七・五で除して
得た数に一〇〇分の一五〇を乗じた金額である。
(三) 超過勤務手当は、当月分を翌月二〇日に支給する。
5 しかるに、被告は原告らに対し宿日直手当として原告らのなした前記宿日直勤
務各一回につき昭和四四年一一月までは金八七五円の、同年一二月以降は金一〇〇
〇円の各割合による金員を支払つた(原告らの受領した宿日直勤務に対応する宿日
直手当の支給金額は別紙二ないし五既受取額欄記載のとおり)のみで、その余の支
払をなさない。
6 よつて、原告らは被告に対し、原告らの前記4記載の超過勤務手当から既に宿
日直手当として受領した金額を差し引いた未払超過勤務手当(別紙二ないし五各F
欄記載の金員)及び被告が法第三七条に違反して超過勤務手当を支払わないので法
第一一四条に基づく右未払超過勤務手当金額と同額の附加金並びに右各金員に対す
る支払期限後である昭和四六年五月二五日から各支払済に至るまで民法所定年五分
の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1ないし5の事実はすべて認める。
三 抗弁
1 原告らの宿日直勤務は、次のような理由により法第四一条第三号にいう断続的
労働に該当し、かつ労働基準法施行規則(以下、規則という)第二三条所定の所轄
労働基準監督署長の許可(以下、二三条許可ともいう)に値する内容のものである
から、法第三二条ないし第四〇条の規定は適用されず、よつて、被告は原告らに対
し、超過勤務手当を支払うべき義務はない。
(一) 原告らの本務の内容は、平常勤務としては一日二回午前・午後の区役所へ
の逓送便、大阪市教育委員会・銀行への連絡、職員室、校長室その他校舎内外の清
掃、施設器具の修理、ガス湯沸かし器を使用して湯茶を沸かすことなどであつて、
常態として身体または精神緊張の少ないものであり、手待時間が作業時間より多く
断続的労働に該当するものである。
(二) 宿日直勤務の内容は、講堂・体育館等の鍵の保管朝夕の校門の開閉、廊下
のシヤツターの閉鎖や職員室・校長室・事務室を施錠し、緊急電話・文書を収受す
ることであり、非常災害等が発生した場合を除いては宿直室において食事をした
り、睡眠をとつたり、テレビをみたり、読書などをしているのが通常の状態であ
り、その業務は間歇的である。右勤務は原則として宿直室内ですることをもつて足
り、特別の場合以外は巡視は不要としている。このため、校舎内に火災報知器、防
犯警報器を設置している。また、電話の収受についても校内電話の二回線を宿直室
に切換えることとしているが、官公署等と異なり宿日直勤務中に学校に電話のかか
つてくることはほとんどない。宿直室には、二人分の寝具のほかガスストーブ一
台、簡単な炊事器具、白黒テレビ一台、昭和四五年三月頃からはカラーテレビ一台
が備えてある。そして、校務員の勤務を軽減するため、火元・戸締りの責任は教員
に分担させ、始業時刻より早く登校する生徒のためには生徒管理に必要な教員が出
勤している。
 原告ら主張の宿直勤務時間にくい込む種々の会合の準備の多くは本務の時間内に
なされているものであり、後始末は会合に参加した人と共に行なうのが通常で、会
合は会議室・図書室でなされるが同室の机の配列は会合に適するようになされてい
るから後始末に机を動かしたりすることなどの必要はなく、後始末としては湯茶接
待の片付けがあるにすぎず、宿直勤務を特に加重するものではない。
 原告らは、宿日直勤務中決まつて行なう労働として校舎の施錠及び巡回、職員
室・校長室の清掃並びに早朝の諸業務の三つをあげ、このための実働時間として四
時間半ないし五時間はかかる旨主張するが、組合の実施した実態調査によつても右
三業務のための実働時間は最高一九五分最低九〇分にすぎない。
 なお、宿直勤務につき、午後一〇時から翌日午前五時までは就寝時間である。
 右のような宿日直勤務のうち、宿直勤務については原告ら四名の校務員が、日直
勤務については他の女子校務員一名と共に五名が交替に行なつているのであり、ま
た、原告らの宿日直勤務の回数を軽減するため宿日直補助員としてアルバイトを使
用することもある。
 以上、要するに原告らの宿日直勤務は、法第三二条、第三七条等でいう通常の労
働時間の労働とは異質の極めて軽微かつ間歇的な勤務であり、法第四一条第三号に
いう断続的労働であつて、そのうえ労働時間は僅少で手待時間の極めて長いもので
ある。
(三) ところで、法第四一条第三号の断続的労働の要件として以下の四点があげ
られる。
(1) 作業自体が本来間歇的に行なわれるもので、したがつて、作業時間が長く
継続することなく中断し、しばらくして再び同じような態様の作業が行なわれ、ま
た中断するというように繰り返されるものであること。
(2) 実作業時間の合計より手待時間(労働時間中の実作業に就かない時間であ
つて、休憩時間を含まない)の合計が多く、かつ、実作業時間の合計が八時間を超
えないものであること。
(3) 労働及び手待時間中の危険性ないし有害性または精神緊張度の高いもので
ないこと。
(4) 断続的労働従事者については、労働時間・休憩のみならず休日に関する規
定も適用されないのであるから、ある一日は継続的労働であつても他の日に通常の
勤務に就くというような形を繰り返す勤務については、休日に関する規定を排除し
ても労働保護上差し支えないとする理由が成り立たないので、「常態として断続労
働に従事する者には該当しない」こととなり、除かれるべきであること。
 行政実例は、右四要件を前提として小学校の用務員について原則的に監視または
断続的労働であると認定している。
 また、法第四一条第三号にいう「断続的労働に従事する者」とは、断続的労働を
本務とする者に限定されない。すなわち、同条同号の規定は、その規制対象を必ず
しも断続的労働を本務とする者に限定するものと解すべきではなく、他の業務に従
事する者がその本務以外にこれに附随して宿日直勤務に従事する場合においてもこ
の両種の業務を合わせ一体として考察し、労働密度の点から過度の労働に至らず、
労働時間、休憩及び休日に関する法的規制を宿日直勤務に関する限り除外しても労
働者の保護に欠けるところがないと認められる場合をも包摂する趣旨の規定と解す
るのが相当である。
(四) 規則第二三条は、宿日直勤務のうちでも比較的軽易な労働内容の断続的業
務について法第四一条第三号の適用があることを示したものであり、右の限定され
た趣旨において規則第二三条は法第四一条第三号に基づく解釈規定であると解すべ
きである。
(五) 被告は、原告らに対し一回の宿日直手当として昭和四四年一一月までは金
八七五円を、同年一二月以降は金一〇〇〇円を支給してきた。
 二三条許可に関する昭和三〇年八月一日基発第四八五号通達によれば、同種の労
働者に対して支払われている賃金の一人一日平均額の三分の一を下らない手当額の
支給をすることが右許可の条件となつているところ、前記宿日直手当は右基準をは
かるに超えるもので、宿日直勤務の対価としては充分な金額である。
 また、原告らの宿日直勤務は、昭和二二年九月一三日基発第一七号による二三条
許可の基準に合致し、宿日直の回数に関する昭和二三年四月一七日基収第一〇七七
号が原則として日直については月一回を、宿直については週一回を基準とし、それ
を超えるものは勤務回数が頻繁にわたるものとして許可を与えないとする趣旨にも
該当し、小規模公署の宿日直に関する昭和三四年三月二三日基発第一七六号、人員
僅少な駅の宿直に関する昭和二六年九月一九日基収第四四二二号、昭和三三年二月
一三日基発第九〇号及び前記基収第一〇七七号の例外をなす昭和二三年九月二九日
基収第三四五八号、昭和三三年二月一三日基発第九〇号の通達の趣旨を総合勘案す
るならば、労働密度も薄く精神緊張も少なく、かつ充分睡眠のとれる原告らの宿日
直勤務には、相当な対価を支給しているのであるから二三条許可を受けられるもの
である。
(六) 大阪市教育委員会及び淡路中学校校長は二三条許可を受けていないが、前
記のとおり、原告らの宿日直勤務は実質的に二三条許可を受け得る職務内容である
から、右許可を得ずしてなされた宿日直勤務であつても法第三七条の超過勤務手当
を支払う義務はない。
2 被告は原告らに対し、別紙六記載のとおり特定の用務のため超過勤務を命じ、
右各超過勤務に対応する時間外勤務手当を同別紙記載のとおり支給した。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1の主張は争う。
 同1(一)の事実中、原告らの本務が断続的労働に該当するとの点は争う。原告
らは本務として被告主張の職務を含め次のような職務を行なつている。
(一) 毎日必ず行なう定型的な業務
(1) 清掃業務
 午前八時三〇分の始業時から職員朝会に参加して、教頭または校長から当日の学
校行事、運営についての予定、教職員からの連絡などの伝達を受けた後、校務員全
員が分担箇所を定めて一せいに校門、校庭、校舎周り、道路、便所の清掃作業にと
りかかり午前一〇時頃まで行なう。学校は広く、便所の個数も多いので朝の清掃は
容易な作業ではない。また、運動場、校舎周りの清掃もガラス片を拾い集めたりし
て生徒の怪我や危険を防止することに注意し、諸設備の補修箇所の有無の点検をも
兼ねているのである。
(2) 逓送業務
 午前一〇時頃には逓送業務がある。市・区役所、教育委員会、他の学校・園から
学校宛の文書が学校所在地の区役所に収集され、逆に学校から右の各機関宛の文書
をまとめて区役所に持参し、区役所でそれら文書の授受を行なう。逓送も物理的な
運搬作業にとどまらず、授受される文書に関する必要な説明の伝達、不備な書類の
補正の指摘があれば、それを担当者に伝えて補正を求めるなどして遂行される。
(3) 入出金業務
 同時刻頃に校費、学級費、PTA会費等の入出金業務のため、金融機関に出かけ
る。預金通帳の数は学校に一通ではなく教員一人で最少限三冊の通帳をもつている
所もある。さらに、校費の各費目、PTA会計等いくつかの通帳があり、これらの
入出金がその必要の都度行なわれ、比較的少額な口であつても厳格な取扱いを求め
られつつ大量の口数の入出金となるから担当校務員の精神緊張と責任は決して軽い
ものとはいえない。
 なお、午前一〇時頃から正午近くまで二名が前記逓送、入出金業務に従事し、残
つた者は後述する常時遂行すべき業務に従事しているのである。
 午後にも約一時間三〇分一名が前記同様の入出金業務に従事する。
(二) 日常的に常時行なわれる業務
(1) 清掃作業及び塵埃の処理などの業務
 前記朝の清掃作業のみで校内の清潔、美観を保持できるものではないので、校務
員が自主的に、場合により管理職や教員の指示に従つて、日常的に午後の勤務とし
て常時側溝、屋上、校舎の裏、生徒の清掃作業で不十分な校舎、講堂等の清掃など
広範な場所を順次清掃し、除草し、整理整頓している。塵埃の処理についても、生
徒が毎日投棄するについて、それを教育的観点を配慮しつつ援助して完成させ、そ
の後始末をつけたうえ、週二回の塵埃の回収時には、回収業者に協力してその処理
を円滑、完全に行なわせる必要がある。これらが常時校務員の業務として遂行され
ている。
(2) 校舎施設、設備、教具類の整備・補修などの営繕業務
 校内の電気・ガス・水道・下水道などの設備の現状を把握し、その簡易な修繕、
専門業者の施工・工事に対する協力もまた校務員の業務である。特に生徒が多数利
用する水道の利用について、漏水の有無や、栓の正常な開閉の可否の点検、あるい
は不良なものの応急的修理を求められ、また、汚物による排水の不調は常時発生す
るといつても過言ではない。したがつて、その都度下水の整備も不可欠な業務とし
てこれを担うのである。窓ガラス・電球の入れ替え、ストーブ・扇風機の設置、調
整、保管、机・椅子・黒板・朝礼台の修理、教材の整備などは校務員がその職務と
して遂行しているところである。また、校務員の中で大工仕事の特技をもつ者は掲
示板・演壇・ベンチ・目隠屏を作り、建物の庇を取付けるほかコンクリート通路・
会所の新設等の作業まで行なつている者もある。
(3) 園芸作業、小動物の飼育などの作業
 学校には多くの樹木・草花があり、花壇・藤棚等が設けられていて、これらの栽
培、剪定、維持、管理の作業も校務員の業務として日常的に行なわれている。鶏・
兎・小鳥・リス・犬・金魚等の小動物の飼育についても同様である。またこれらが
生徒の教育の一環として行なわれる場合にも校務員の手助け、援助がなければなら
ず、樹木・動物の名称、性質、育成方法を教え、作業の手本を示すことも校務員に
よるところが大きいのである。
(4) 受付、監視などの業務
 校務員室は校門の入口付近の設けられ、学校の受付を兼ねている。学校への来訪
者は意外と多く、父兄はもとより、各種業者、地域住民、卒業生、警察・消防署、
教育委員会の職員、市・区役所職員が来訪し、校務員はこれらと応接して必要な連
絡、案内、湯茶の接待をその業務として行なつている。特に生徒の忘れ物(傘・弁
当・教材等)の父兄からの届け、伝達は日常茶飯事であり、これとてゆるがせにで
きないところである。また、開放的な学校の校内には外部からの侵入者もあり、危
険物の持ち込みや、生徒に危害を加える侵入者の発見、危険防止のため監視するこ
とは精神の緊張を伴う業務であることはいうまでもない。
(5) 連絡、物品の授受、搬送、立会などの業務
 前記の逓送業務のほかに学校と他の学校、諸官庁、地域諸団体、PTA役員、医
療機関(保健所・校医)との間の相互間における書類の交付、口頭による伝達によ
つて行なわれる連絡業務もまた種々雑多なものがある。また、教材・給食用材料・
備品等の授受、搬送及び検品、数量の確認、さらには螢光灯・電池・やかん・フイ
ルム・園芸用品・縄・釘等の物品購入の業務も校務員が行なう。これらは随時日常
的に発生する業務であつて、繁閑の差はあつても毎日確実に発生していたことはい
うまでもない。
(6) 湯茶沸し、給食の搬送等生徒の世話をする業務
 これらが生徒と直接的に接して連日校務員によつて行なわれている業務であるこ
とはいうまでもない。
(三) 学校行事に付随して生ずる業務
 学校行事を成功裡に行なうことは教育効果を達成するうえで極めて重要な意味を
もつものであるが、年間学校行事としては、入学式、春の遠足、家庭訪問、プール
の運営、修学旅行、林間・臨海学舎、秋の遠足、運動会、社会見学、教科市・区の
研究会、新一年生の適正入学への広報、耐寒訓練、卒業式があり、これらに付随し
て校務員は入学式、卒業式、運動会の会場整備、飾りつけなどの設営、備品・用具
の点検、備付、収納等の業務を行ない、遠足、林間・臨海学舎、修学旅行、耐寒訓
練に付添つて事故の発生を防止し、迷い子の探索、誘導、必要な救護、連絡等の業
務を行なうのである。また家庭訪問に際しては、教員を家庭に案内する必要もあ
り、研究会についてはその会場の設営、湯茶の接待、その後始末も校務員が行なつ
ているのである。
 これらが円滑に遂行されることの必要及びそれ自体およそ単純な作業とはいい得
ないことはいうまでもないところであろう。まさに校務員は学校教育を遂行するう
えでの不可欠な補助者としてこれをみるべきである。
(四) 突発的な緊急事態によつて発生する業務
 学校には種々の緊急な事態が発生する。その多くは生徒の事故、病気であるが、
教員は授業を放棄することができないので医療機関への同行、父兄への送り届けは
校務員によつて行なわれる。さらに、非行のあつた生徒について、校長等の指示に
より警察へ赴いて身柄を貰い受け、父兄に連絡をとるなどの業務が発生する。そし
て、火災や震災等の事態が発生すれば、防災に努め、学籍簿等を持出し、しかるう
え教員と共に生徒の安全をはかつてこれを救護、誘導すべきことがその任務として
求められていることはいうまでもないところである。
 校務員は以上に記載したような実に広汎で種々雑多な業務を常時かつ随時遂行す
べき義務を負つているのである。前記(一)ないし(四)の業務が混然一体となつ
て間断なく展開され、「手待ち」の状態にはほとんどならないというのが勤務の実
情であるから、単純な業務が間歇的に行なわれているとはいえない。校務員は、か
つて「小使い」と呼ばれ教師に身分的に隷属し、教師の私用も含めて使い走りをす
るものとみられていた。現在でも右のような状態が完全に解消されているとはいえ
ないが、戦後、教育理念は発展し、学校を教育活動の拠点としてとらえ、学校に勤
務する全職員が一体となつて学校を運営し教育活動も教室内の授業のみに限定して
みるのではなく、生徒の学校における生活全体を広く把握して教育活動を展開する
に至り、校務員も学校に勤務する職員として学校の運営及び生徒の教育活動に参加
する自覚の下に職務を遂行するに至つている。現に、校務員は教育環境を保全する
ために運動場を整備し、校庭の緑化、美観を維持することに尽力し、直接生徒と接
する機会にしつけを教え、危険な行動や非行化する生徒の指導、校外学習の附添、
健康や安全に支障のある場合の養護や連絡などの生活指導を行ない、さらに、授業
を円滑に行なうための教材の購入、備品の整備の業務や学校間、地域との連絡、伝
達業務など文字どおり学校教育の推進にとつて必要不可欠な具体的職務を担つてこ
れを遂行している。また、校務員は常に生徒の学校生活と共同する中でその労働を
展開しているのであり、校務員の作業も未分化な状態であつて、模倣性の強い生徒
に対しまず安全をはかり、手本を示し、注意援助するなどの配慮をもつて遂行され
なければならず、しかも、それらは生徒の発展段階に照応した態様が求められるの
である。それ故、校務員の作業は満足な結果のみならず、作業過程自体が教育的機
能を担うものである点に特徴をもつ。また、学校は地域社会における社会教育の場
であり、学校教育は地域社会によつて支えられている。校務員の業務も学校と地域
社会を結合する役割を担うものがあり、これらの業務も増加し重要なものとなつて
いる。
 以上のように、校務員の担う労働は学校教育の推進にとつて不可欠な職務を分担
し、多種多様な作業が終日生起し、かつ教育的機能を作業自体が帯有するという点
において特徴があり、単純な作業自体が本来間歇的に行なわれるといつたものでは
なく、校務員の労働は精神緊張度の高いものである。また、原告らは昼休みの休憩
時間も満足にとれない程多忙であり、原告らの本務は断続的労働といえるものでは
ない。
2 抗弁1(二)の事実中、原告らが宿日直勤務として講堂・体育館等の鍵の保
管、朝夕の校門の開閉、廊下シヤツターの閉鎖や職員室・校長室・事務室を施錠
し、外部からの緊急電話・文書を収受していること、校内電話の二回線を宿直室に
切換えることとしていること、宿直室には、二人分の寝具のほかガスストーブ一
台、簡単な炊事器具、白黒テレビ一台、昭和四五年三月頃からはカラーテレビ一台
が備えてあること、宿直勤務につき当日午後一〇時から翌日午前五時までは就寝時
間であること、宿直勤務については原告ら四名の校務員が、日直勤務については他
の女子校務員一名と共に五名が交替に行なつていることは認め、その余は否認す
る。昭和四三年四月校舎内に防犯警報器が設置されたが一週間後に作動しなくな
り、その後修理もされていないから原告ら校務員は巡視をせざるを得ない状態であ
る。また、教員が各教室・校長室・職員室等の火元責任者と定められているが、実
際には原告ら校務員が学校の全施設の火気、戸締りの責任を負担している。
原告らは宿日直勤務として以下の業務を行なつている。
(一) 宿直勤務
 宿直勤務は、本務終了後引続き、休憩時間もなく午後五時一五分から翌日午前八
時三〇分までの間継続するが、そこで行なわれる労働の内容は、およそ次に述べる
ようなものである。
(1) 毎回必ず行なわれるもの
(イ) 校舎の施錠及び巡回
 施錠業務とは、学校の業務が終了した後、部外者の侵入を防止するために、すべ
ての出入口の施錠を行ない、また、シヤツターを閉鎖する。しかし、この業務につ
いては、それと同時に他の多くの重要な業務が行なわれている。すなわち、すべて
の教室に立ち入つて残留者の有無を確認し、窓がすべて閉つているか否かも点検し
て、開いている窓があればそれを閉め、また、便所などについては、必ずそこに立
ち入つて外部の侵入者の有無を確認しなければならない。さらに、校内のガスの元
栓の閉鎖、ストーブなどの消火、電灯の消灯、漏水の有無などの確認を行なう。こ
のような施錠及び点検業務は、広い全校舎内を一人の宿直者のみによつて行なうた
め、少なくとも一時間半ないし二時間を要する。
(ロ) 職員室及び校長室の清掃
 職員室と校長室の清掃は、椅子をどけて床のほぼ全面について掃き掃除を行な
い、すべての机の上や書棚の桟などを雑巾で拭き、湯呑や灰皿を清掃することなど
が主な内容となつている。これに要する時間は約一時間である。
(ハ) 早朝の諸業務
 早朝に行なわなければならない主な業務は、すべての出入口の解錠、シヤツター
の開放、校門の開放を行ない、玄関の清掃を行なつたうえ、職員室及び校長室に湯
呑、お茶、ポツトなどを用意し、給食材料の搬入に立会つて数量などの確認や搬入
の手伝いを行なうなどである。こうした早朝の業務は、全体で少なくとも二時間は
要する。
 以上が、宿直勤務者が毎回必ず行なわねばならない業務であり、これらに要する
時間は少なくとも四時間半ないし五時間である。
(2) 毎回必ずあるとは限らないが頻繁にある業務
(イ) プールの設備に関する業務
 夏場はプールの設備を利用するが、それに伴つて、宿直者は水の入れ換え業務や
夜間の安全管理業務などを行なわなければならない。前者は夕方に水を抜き、三な
いし四時間で水が完全に抜けた後注水し、さらに深夜に注水状態を点検して朝まで
に満水になるよう注水量を調整することなどが主な業務内容である。後者は、夜間
侵入してプールで泳ぐ者がいるかどうかに常に注意を払い、そうした者がいる場合
は、すみやかに校外に退去させることがその業務内容である。
(ロ) 各種会合の準備、後片付け
 公立の中学校は、地域住民の生活と密接な関連を有し、社会教育や文化的諸行事
などのための各種の会合が校舎内で夜間頻繁に行なわれており、そのための準備や
会合の後片付けが宿直者の重要な業務となつている。こうした会合は、ほとんどが
午後七時頃から始まるが、その開始までに宿直者は会場の設営や湯茶の準備を行な
う。また会合の終了はほとんどが午後一〇時頃になるが、その後片付けとして、湯
呑・灰皿の清掃、机・椅子の整頓などを行なわなければならない。さらに会合が行
なわれている間も、会合出席者への電話の取りつぎなどの業務が行なわれている。
こうした業務は、少なくとも一時間以上は要するものである。
(ハ) 電話や外来者の応対とその処理
 宿直勤務時間中、学校に電話がかかつてくる場合が多い。たとえば、父兄からの
生徒の下校確認、教員の住所などの問い合わせ、生徒の欠席あるいは遅刻の連絡、
天候が不順な場合の遠足などの学校行事の決行の有無の問い合わせ、警察からの生
徒の補導の連絡など、さまざまな電話がある。宿直者は、そのすべてについて応対
しなければならないと共に、必要に応じて教員への連絡など必要な処置をしなけれ
ばならない。
 また、宿直勤務中には、外来者たとえば取引業者などが学校を訪ねてくる場合が
よくある。その場合もその応対を行なうとともに必要な処置をとらなければならな
い。
(二) 日直勤務
 日直勤務は、午前八時三〇分から午後五時一五分までであるが、この間に従事す
る業務の主な内容は、電話や外来者の応対とその処理、校舎や校庭を使用する各種
会合や行事の準備と後片付け、プールや運動器具などの設備の安全管理などがある
が、その具体的内容は宿直勤務の場合とほぼ同様である。
(三) 以上述べた宿日直勤務の実態の特徴はおおむね次の諸点にある。
(1) 宿日直勤務中に従事する業務の内容は、本務と同一ないし類似のものが多
くある。ただその性格は教育的なものから管理的なものへとその重点が移行する
が、出火や盗難などの事故が発生すれば法的及び社会的責任を追求される立場にあ
り、その意味で精神緊張が要求される業務である。
(2) 宿日直勤務の間は、そのすべてが拘束された時間であることはもちろんで
あるが、そのなかで実労働時間の占める割合がかなり高いことが重要な特徴であ
る。特に、宿直勤務の場合は毎回必ず行なわなければならない業務が実労働時間と
して少なくとも四時間半ないし五時間もあり、それに毎回必ずあるとは限らない
が、頻繁に行なわれる業務が数多くあり、そうしたものを含めると毎回の宿直勤務
中には少なくとも六時間以上の実労働時間があるといわなければならない。
(3) 本件で問題とされている宿日直勤務は、それだけが独立して単発的に行な
われるのではない。すなわち、宿直勤務の場合は本務に引き続いて行なわれ、その
終了後に翌日の本務が継続するため、結局、必ず連絡して三二時間もの長期間が拘
束された時間となる(しかもそこに占める実労働時間の割合は少なくとも六割から
七割にもなる)。しかもこうした宿直勤務が週二回も強制されていたのである。ま
た、日直勤務の場合も本務及び宿直に引き続いて行なわれることがよくあり、こう
したときも連続した三二時間のすベてが拘束時間となる。なお、本件では、なかに
は宿直勤務を連続して二日間行なつている者もあり、この場合は結局五六時間もが
連続して拘束時間となつている。
(4) 宿直勤務については、そのなかに就寝時間が午後一〇時から翌日午前五時
まで認められているが、この時間帯ももちろん拘束時間であつて自由で解放された
時間ではない。特に、いつ災害や事故が発生したり、電話や来訪者の応対をしなけ
ればならないかもわからず、常に待機時間的な意味をも兼ねており、仮眠程度の睡
眠しかとれないのが実態である。また、就寝時間にあたる深夜は、宿直者の身体の
安全に対する危険性が著しく高く、現実に学校の宿直者が殺人等の被害者となるケ
ースが数多く発生している。こうしたことからも就寝時間帯の宿直者の精神緊張度
は相当に高いものとなつている。
3 抗弁1(三)及び(四)は争う。
 労働基準法は、第四章の労働時間等を規定するにあたつて、当該労働者の従事す
る労働については、本務とか付随的労務とかの区別をせず、その労働者の労働全体
を通覧して、その労働の性格を規定するという態度をとつている。したがつて、た
とえば法第三七条の適用に関しても、同一の労働者がある労働についてはその適用
を受け、他の労働についてはその適用を否定されるというような事態を全く予定し
ていないのである。すなわち、第四章の労働時間等に関する原則規定の適用が除外
される例外的な場合は、法第四一条に該当する場合のみであるが、この規定は、あ
くまで一定の業務に従事する労働者を対象としているのであつて、その時々に従事
する労働そのものを対象としているのではない。したがつて、たとえば当該労働者
の従事する労働が全体的にみて監視または断続的労働である場合は、その労働者
は、第四章の労働時間等に関する原則的規定の適用を全く排除されるが、逆に当該
労働者の従事する労働が、全体的にみて監視または断続的労働でない場合は、その
労働者は、第四章の労働時間等に関する原則的規定の適用を全面的に受けるのであ
り、たとえ部分的に監視または断続的労働を行なつたとしても、その部分だけ例外
的な取扱いを受けるのではない。これが、第四章の労働時間等に関する規定の仕方
であり、このことは、行政当局も是認しているところである。すなわち、行政当局
は、法第四一条第三号の解釈について、断続的労働に常態として従事する者である
ことを要件としており、たとえば、「一週のうち第一日目は監視、断続的労働、第
二日、第三日目は通常の労働、第四日目はまた監視、断続的労働といつたように、
断続的労働と通常の労働とを繰り返すような労働者については、断続的労働とはみ
なされない」としている(昭和二八・二・一三基収第六三一一号)。
 法第四章の労働時間等に関する規定、特に第四一条の規定を以上のように解する
ことは、その文理上からも当然であるが、このことは、法が労働者保護法であるこ
とからもまた当然といわなければならない。すなわち、八時間労働制及びそれに付
随する規定は、労働そのものが本来従属的なものであることから、これに一定の時
間的限定を加えることによつて労働者を保護しようとしているのである。したがつ
て、この制度は本来従事する労働の種類にかかわらず全労働者に適用されるべきも
のであるが、政策的にその例外を認めるとしても、それは、当該労働者の従事する
労働全体の内容を評価して、この規定の適用を除外しても、その労働者にとつて過
酷にならないと認められる場合に限られなければならない。このことは、逆に、そ
の従事する労働全体の内容を評価して、適用除外を認めるべき例外的な場合とは認
められない労働者についてはこの規定に基づく厳格な時間的限定が守られなければ
ならず、八時間を超えて行なわれる労働は、それが監視的であろうと断続的であろ
うと、その内容にかかわりなく、すべて特別な労働として本人の同意なしに強制さ
れてはならないのであり、このように規定することによつてはじめて労働者保護法
に値するといえるのである。
 規則第二三条は、本来の業務(これは監視または断続的労働ではない)を別にも
つ者が、その業務の終了後に付随的に従事する宿日直という特別の労働のみを対象
としており、これは、前述した法第四一条の規定の仕方と全く異質のものである。
したがつて、規則第二三条の根拠を法第四一条第三号に求める解釈は法第四一条第
三号の要件として、断続的労働に常態として従事する者であることを要求している
前述の行政解釈と論理的に矛盾するといわなければならない。また、規則第二三条
は、規定されている位置からみても、法第四一条第三号の解釈規定とはいえない。
すなわち、規則第二三条は、法第四一条とは関係のない労働時間の計算に関する規
則第二二条と第二四条との間に位置しており、法第四一条第三号に基づくものとし
て規定されている規則第三四条とはあまりにもかけ離れた位置に規定されている。
むしろ、規則第二三条は、右のように労働時間に関する規定のなかに位置され、か
つその文理上においても「法第三二条の規定にかかわらず」とされていることから
しても、法第四一条とはかかわりのない独立した法第三二条(労働時間)の例外規
定と解するしかないであろう。行政解釈は、規則第二三条は、法第三四条(休憩)
及び第三五条(休日)の適用をも排除しており、単に法第三二条だけをあげている
のは例示にすぎないとしているが、あまりにもご都合主義的な解釈である。
 規則第二三条は、法第三二条の例外を定めた規定で、しかも法第四一条にその根
拠が求められず、法上にはどこにもその根拠条文を見い出すことはできないから、
規則制定権の範囲を逸脱する点において憲法に違反すると共に、労働条件に関する
基準を法律によらないで定めたものとして憲法第二七条第二項に違反する無効な規
定といわなければならない。
 規則第二三条につき憲法違反の疑問を強く呈しつつも、わが国で宿日直勤務が広
く行なわれている実態から、これを違憲・無効な規定といいきることに躊躇を感
じ、宿日直勤務を野放し状態にせず監督庁の許可にかかわらしめた方が保護法的目
的にかなうという理由で、これを合憲的に解そうとするものがあるが、こうした考
え方は、立法論と解釈論とを混同したものであり、労働者保護を目的として、労働
条件の最低基準を定めた法の解釈としては正しくない。けだし、わが国で宿日直勤
務が広く行なわれている実態があるということから、解釈的にもこれを是認しよう
とする態度は、定められた最低基準以下の実態を規範化するものであつて、労働条
件の最低基準を定めた強行規定としての法の生命を失わせるものである。
 また、宿日直勤務を野放し状態にせず、監督官庁の許可にかかわらしめる方が労
働者保護の目的にかなうという善意の発想も、労働者保護という観点からすれば一
歩後退した議論であつて、法が労働条件の最低基準を定めたものであるならば、こ
れを厳格に解釈してそれに反する違法状態を除去する強力な行政指導をこそ監督官
庁に求めるべきである。いずれにしても、時々しか行なわれず、しかも労働密度も
それほど高くない付随的な労働について、厳格な手続と割増賃金を要求することは
現実的でないという考え方は安易すぎる。前述したように、本来本務について八時
間労働制が適用される場合は、それを超える労働はその内容如何にかかわりなく、
特別な労働として本人の同意なしに強制されないなど保護規定の適用が徹底されて
はじめて八時間労働制の労働者保護法としての趣旨が生かされるといわなければな
らない。
 以上のように、本務が監視または断続的労働でない場合は法第四一条第三号に該
当せず、また、規則第二三条が憲法に違反する無効な規定であることからすれば、
右1(一)記載のとおり、本務が監視または断続的労働でないことが明白な本件で
は、それに引き続く宿日直勤務は、その内容にかかわりなく、法第三七条に基づく
所定の時間外割増賃金が支払われるべき労働といわなければならない。
4 抗弁1(五)は争う。
 本件宿日直勤務は規則第二三条の「断続的な業務」にあたらない。
 仮りに、規則第二三条が合憲・有効な規定であるとしても、違憲・無効の疑いが
多分にあると共に、法で定められたものの例外を認めるものであるから、その解釈
は厳格にされるべきである。特に規則第二三条は、本来断続的な労働でない通常の
本務をもつ者が引き続き宿日直勤務をする場合であるから、そこでの「断続」の解
釈は本務を対象として判断される法第四一条第三号の「断続」よりもより厳格にな
されなければならない。この点は、行政解釈も認めているところであり、「常態と
してほとんど労働する必要のない職務のみを認める趣旨」であるとしている(昭和
二二年九月一三日基発第一七号)。規則第二三条を合憲と解釈するならば、少なく
とも「断続」の意味をこのように解することが最低の条件といわなければならな
い。
 前記通達は、「断続」の意味をこのように解釈すると共に、許可を与えるための
基準を勤務態様、手当、頻度、設備などの面で設定している。このうち、勤務態様
については、「原則として通常の労働の継続は許可せず、定時的巡視、緊急の文書
または電話の収受、非常事態発生の準備等を目的とするものに限つて許可するこ
と」としている。この点を本件宿日直勤務についてみると、前述のような実態から
してこの基準に合致しないことは明らかである。特に、本件の場合は通常の労働の
継続にあたる労働が多くあり、また、実労働時間の占める割合が著しく高いことな
どから、とうてい「常態としてほとんど労働する必要のない勤務」などといえるよ
うな実態ではない。
 また、前記許可基準のうち、頻度の点については「一定期間における勤務回数が
頻繁にわたるものについては許可を与えない」こととし(昭和二三年一月一三日基
発第三三号)、具体的には「原則として日直については月一回を、宿直については
週一回」を基準としている(昭和二三年四月一七日基収第一〇七七号)。この点に
ついても、本件では宿直については全員必ず週二回行なうこととされ、また、日直
についても必ずしも月一回に限らず二回以上行なう場合が多く、極端な場合は、宿
直が連続して二日間行なわれるため拘束時間が連続して五六時間にも及んだり、あ
るいは宿直、日直、宿直、本務が連続して行なわれるため拘束時間が四八時間に及
ぶ場合もあり、この基準を著しく逸脱している。なお、行政の設定した許可基準で
は、例外として人員が不足し、かつ「勤務の労働密度が薄い場合」には、実態に応
じて週一回を超える宿直、月一回を超える日直についても許可して差支えないとし
ている(昭和二三年九月二九日基収第三四五八号、昭和三三年二月一三日基発第九
〇号)。しかし、本件宿日直勤務の前述したような実態からすれば、「勤務の労働
密度が薄い場合」にあたらないことはいうまでもなく、したがつて、こうした例外
に該当しないことは明白である。
 以上のように、勤務の態様及び頻度についての二つの基準からみて、本件宿日直
勤務は二三条許可が与えられるような「断続的な業務」にはあたらない。また、こ
うした基準以外にも、前述した宿日直勤務の諸特徴からしても、法第四章の原則規
定の適用が除外されてもよいような「断続的な業務」とはとうていいえない。した
がつて、仮に規則第二三条が有効な規定であつたとしても、本件ではその適用を受
ける余地はないといわなければならず、本件宿日直勤務には所定の割増賃金が支払
わなければならない。
5 抗弁1(六)につき、前段は認め、後段は争う。
 被告は、本件宿日直勤務につき規則第二三条の許可を受けていない。二三条許可
は、法第四章に規定された諸原則の適用除外を受けるための絶対要件であり、この
「許可」を受けていない本件では、当然所定の割増賃金が支払われなければならな
い。
 被告は、右許可を受けていなくても、宿日直勤務の実態が許可を得られるような
「断続的な業務」である場合には、割増賃金の支払義務は生じないと主張するが、
勤務の実態を論ずるまでもなく、許可を受けてないという手続的瑕疵のみによつ
て、法第四章の諸原則の適用除外を受けるための要件を欠いているといわなければ
ならない。その理由としては、まず、規則第二三条及び法第四一条第三号の規定
が、いずれも文理的に、断続的労働であることの実態があることのほかに許可を得
ること自体を原則規定の適用除外のための独立の要件としていることがあげられ
る。また、法の立法目的、すなわち、法は労働者保護法として労働条件の最低基準
を定めたもので、強行法規性を有することはいうまでもなく、その点からすれば、
この基準については使用者による恣意的な扱いを許す余地はないから、行政庁の許
可という手続面での準則はこうした最低基準を現実の労使関係の場において維持さ
せるための重要な担保であり、使用者がこれに違反した場合には、単に刑事制裁を
受けるにとどまらず、特別な民事上の免責効果も付与されないと解すべきである。
特に、本件のように、法で定められた最低基準自体が例外的に適用されない場合を
規定しているときには、その要件は厳重に定められるべきであり、使用者による恣
意的扱いをより一層排除するために、実態面のみならず手続面での要件について
も、それが充足されない限り、こうした例外的な割増賃金の支払義務の不発生とい
う民事上の効果そのものが発生しないといわなければならない。
 したがつて、本件では、労働基準監督署長の許可を受けていないことは明らかで
あるから、宿日直勤務の実態を論ずるまでもなく、当然所定の割増賃金が支払われ
なければならない。
6 抗弁2の事実は認める。
第三 証拠(省略)
       理   由
一 請求原因1ないし5の事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、抗弁1について検討する。
 抗弁1の事実中、大阪市教育委員会及び淡路中学校校長が二三条許可を受けてい
ないことは当事者間に争いがない。
 ところで、原告らは、法第四一条第三号及び規則第二三条の適用範囲並びに規則
第二三条の法的有効性について争うので、まずこの点について考察する。
 法第四一条第三号は、労働密度が特に稀薄で、身体または精神緊張が比較的少な
く、労働若しくは業務が間歇的であるため、労働時間中においても手待ち時間が多
く実作業時間が少ない労働に従事する労働者について、その労働の特殊性の故に労
働時間、休憩及び休日に関する厳格な法の規定を等しく適用することがかえつて他
の労働の規制と実質的均衡を失する結果になる場合において、法定の厳格な制限を
加えることなく所轄行政官庁の規制にゆだねることによつて当該労働者の保護に欠
けることがないようにするとの趣旨のもとに規定されたものであり、右立法趣旨か
らすれば、法第四一条第三号は、その規制対象を断続的労働を本務とする者に限定
していると解すべきではなく、他の業務に従事する者がその本務以外にこれに附随
して宿日直勤務に従事する場合においても、本務とこれに附随する宿日直勤務を合
わせ一体として考察し、労働密度の点から過度の労働に至らず、労働時間、休憩及
び休日に関する法的規制を宿日直勤務に関する限り除外しても労働者の保護に欠け
るところがないと認められる場合をも包摂する趣旨の規定と解するのが相当であつ
て、規則第二三条は、右のような労働内容をもつ宿日直勤務という断続的業務につ
いて法第四一条第三号の適用のあることを示す、いわば同法条の特殊な場合の解釈
規定と解すべきである。
 よつて、原告らの前記主張は理由がない。
 右のとおり、規則第二三条は法第四一条第三号の解釈規定であるから、規則第二
三条にいう所轄労働基準監督署長の許可は、法第四一条第三号の行政官庁の許可に
相当するものであるが、法第四一条第三号は法第四章及び第六章の労働時間、休憩
及び休日に関する規定の適用を除外するにあたり、当該労働が単に監視または断続
的労働であるとの実体的要件のみならず行政官庁の許可を形式的要件としているの
である。すなわち、法は届け出や行政官庁の認定(たとえば第一九条第二項等)と
行政法上一般的禁止の解除を意味する許可とを用語上区別したうえで法第四一条第
三号においては許可を要件としていること、同条第三号は、監視または断続的労働
という労働密度の稀薄な特殊な労働につきその特質に相応した規制をするため、形
式的な労働時間や休憩及び休日に関する制限をとり除きはするものの、実質的に法
第四章及び第六章の規定する労働時間、休憩及び休日に関する規定の趣旨を生か
し、それを確保し、もつて労働者を保護するとの労働基準法の目的を達成するため
右制限の除去を行政官庁の許可にかからしめたものであり、これを詳論するなら
ば、監視または断続的労働といつても千差万別であるため同条第三号の許可を付し
得る労働か否かにつき実態調査をし、実状を十分把握したうえで許可・不許可を決
する必要があり、また、許可するに際しても全面的かつ画一的に第四章及び第六章
の労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用・不適用を決するのではなく、当該
許可に附款を付することによつて労働の実態に即応した労働時間、休憩及び休日に
関する規制をなし、もつて労働者の保護に十全を期することとしたのであり、単に
監視または断続的労働であるか否かを認定すれば足りるというものではないこと、
さらには、行政官庁は一般に許可制度を通じて社会情勢に即応した労働行政目的を
実現すべき責務を負つているものということができるところ、労働者の労働時間、
休憩及び休日に対する行政官庁の監督的機能の実効性を十分に担保することから
も、法第四一条第三号の許可は文字どおり一般的禁止を特定の場合(本件では監視
または断続的労働の場合)に特定人に解除するとの意味の許可と解さなければなら
ないのである。
 そこで、法第四一条第三号所定の許可の意義を右のように解した場合、法は前記
実体的、形式的二要件を法第四章及び第六章で定める労働時間、休憩及び休日に関
する規定の適用除外の要件としているところ、監視または断続的労働に従事する者
について、同条の許可を受けないで法第四章及び第六章で定める労働時間、休憩及
び休日に関する規定に反する労働に従事させた場合には、右労働が実体的要件を充
足するものであつたとしても形式的要件を充足していないために右規定の適用を除
外される旨主張し得ないものと解するのが相当である。これは、前記説示のごとく
規則第二三条が、法第四一条第三号の解釈規定であり、同条の許可と二三条許可と
は同一のものと解すべきであるから、二三条許可を受けていない場合にも右と同様
に規則第二三条の適用を主張し得ず、法の原則にもどるものと解さねばならない。
 そうだとすれば、二三条許可を受けていない被告の場合には、被告のその余の主
張を判断するまでもなく、被告は原告らに対し本務を超える宿日直勤務に対し法第
三七条によつて割増賃金を支払う義務がある。
 そして、前記割増賃金の計算の基礎となる賃金は、「通常の労働時間又は労働日
の賃金」(法第三七条第一項)であるところ、原告らの宿日直勤務に対する割増賃
金額は前記のとおり当事者間に争いがない。
 なお、被告は、原告らの宿直勤務時間のうち午後一〇時から翌日午前五時までは
就寝中の時間であるとの指摘をし、右時間が完全に仕事から離れることを保障され
た時間であるかのごとき主張をするので、以下若干の検討を加える。
 宿直勤務の午後一〇時から翌日午前五時までは就寝時間であることについては当
事者間に争いがなく、成立(甲第四号証については原本の存在も)に争いのない甲
第四号証、第八号証の一ないし四〇六、第九号証、第一一、一二号証及び乙第二号
証の一ないし四二並びに証人eの証言及び原告a本人尋問の結果を総合すると、宿
直勤務日の午後一〇時から翌日午前五時まで(以下、これを深夜という)就寝して
差支えないとの取扱いはなされてはいたが、右就寝について明確な定めがあつた訳
ではなく、まして右時間帯を休憩時間とする旨の明確な定めもなかつたこと、原告
らが別紙一記載の宿直勤務をした時には校務員一人が宿直勤務をなす、いわゆる単
直制であつて、宿直室において火災その他緊急の事態が発生した場合に備えて寝泊
りする必要があり、それ故自由に淡路中学校外へ外出することが許されてはおら
ず、また、宿直勤務の具体的遂行は慣行に従つて運用されてきていたが、PTAそ
の他の会合が催された場合、使用許可は午後一〇時までであつても実際はそれ以降
に及ぶ場合があり、ときには午前〇時頃になることもあつたこと、そして、右会合
の後片付けは原則として主催者がすることになつていたが校務員がすることもあ
り、また、右会合終了後使用した室や校門などの施錠をする作業も残つていたこ
と、宿直時間中の電話は校務員室に切換えられており深夜学校への電話があつた場
合応対を余儀なくされること、深夜に外部から侵入する者があつた場合、とりわけ
夏場にプールを使用するために来る者が多く、それらの者を学校外へ排除する仕事
があつたこと、さらに原告らは校舎等の管理をはじめとする右のような職務を遂行
するため深夜巡視することがあつたことを認めることができ外に右認定を左右する
に足る証拠はない。
 右認定事実によれば、原告らは、深夜時間中就寝することができるとの取扱いに
なつていたものの、これを休憩時間などのように完全に仕事から離れることを保障
する旨規則等によつて規定されていた訳ではなく、現に原告らは午後一〇時以降も
職務に従事しあるいは電話の応対などの必要が生ずればこれに従事しなければなら
なかつたのであるから、原告らは深夜時間中も完全に仕事から離れることを保障さ
れていたということはできず、いわば単なる仮眠をなす程度の時間であると解する
のが相当である。
 よつて、被告は、原告らの午後一〇時から翌日午前五時までの宿直勤務について
深夜の割増賃金の支払を免かれることはできないのである。
三 抗弁2の事実は当事者間で争いがない。
四 そうすると、被告は原告らに対し、別紙二ないし五各D欄記載の超過勤務手当
から抗弁2記載の個別的に命じた超過勤務に対して支給された別紙六記載の割増賃
金額と原告らが既に宿日直手当として受領した金額(別紙二ないし五各E欄記載の
金額)を差し引いた未払超過勤務手当金(原告aについては金二九万〇九一九円、
同bについては金九五万一九二三円、同cについては金四八万五六八一円、同dに
ついては金一三万三九三二円)の支払義務を有するものということができる。
五 次に法第一一四条に基づく附加金の請求について検討する。
 被告は、大阪市教育委員会及び淡路中学校校長が二三条許可を受けることなしに
原告らに宿日直勤務を命じ従事させたのであるから、超過勤務手当を支払わねばな
らないにも拘らず宿日直手当として宿日直勤務一回につき昭和四四年一一月まで金
八七五円、同年一二月以降金一〇〇〇円を支給した(ただし、別紙六記載の個別的
に命じた超過勤務については除外する)のみで今日に至るもその余の超過勤務手当
を支払わないのであるから、法第三七条に違反するものであること明らかといわな
ければならない。
 よつて、当裁判所は被告に対し、法第一一四条に基づき、原告aについては金二
九万〇九一九円、同bについては金九五万一九二三円、同cについては金四八万五
六八一円、同dについては金一三万三九三二円の附加金の支払を命ずることとす
る。
 なお、附加金の支払義務は法第一一四条により使用者に課せられた義務の違背に
対する制裁として裁判所がその支払を命ずることによつて発生する義務であるか
ら、右附加金の支払義務は本判決の確定時に遅滞に陥るものと解するのが相当であ
る。
六 以上の次第で、原告aの本訴請求は金五八万一八三八円及び内未払超過勤務手
当金二九万〇九一九円に対する支払期後である昭和四六年五月二五日から、内附加
金二九万〇九一九円に対する本判決確定の日の翌日から各支払済に至るまで民事法
定利率年五分の割合による遅延損害金の、原告bの本訴請求は金一九〇万三八四六
円及び内未払超過勤務手当九五万一九二三円に対する支払期後である昭和四六年五
月二五日から、内附加金九五万一九二三円に対する本判決確定の日の翌日から各支
払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の、原告cの本訴請求
は金九七万一三六二円及び内未払超過勤務手当金四八万五六八一円に対する支払期
後である昭和四六年五月二五日から、内附加金四八万五六八一円に対する本判決確
定の日の翌日から各支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金
の、原告dの本訴請求は金二六万七八六四円及び内未払超過勤務手当金一三万三九
三二円に対する支払期後である昭和四六年五月二五日から、内附加金一三万三九三
二円に対する本判決確定の日の翌日から各支払済に至るまで民事法定利率年五分の
割合による遅延損害金の各支払を求める限度において理由があるからこれを認容
し、その余はいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴
訟法第八九条、第九二条但書を、仮執行宣言の申立については、右未払超過勤務手
当金の三分の一(主たる認容金額の六分の一)及びそれに対する昭和四六年五月二
五日以降の遅延損害金の三分の一の各限度において相当と認め同法第一九六条第一
項を適用し、その余の仮執行宣言申立及び担保を供する右免脱宣言の申立について
は、その必要がないものと認めてこれを却下することとし、主文のとおり判決す
る。
(裁判官 上田次郎 松山恒昭 上垣猛)
(別紙一~六) 省略

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〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
時給 当社規定による
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シフトは週40時間以上
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