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裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴人訴訟代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し、別紙物件目
録記載の宅地について水戸地方法務局土浦支局昭和二十七年十一月二十五日受附第
三三二三号を以つて、債権者国税庁のためなされた昭和二十七年十一月二十二日附
酒税担保提供による債権額三十四万二千円の抵当権設定登記の抹消登記手続をせ
よ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴
人指定代理人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方代理人の事実上及び法律上の陳述は、控訴人訴訟代理人において、本
件抵当権の被担保債権たる請求権は、国家の統治権の作用たる徴税権に基ずき、酒
類製造業者に対し公法上の義務として酒税を納付せしめるもので、私人間の財産上
の権利とはその性格を全く異にすること、またこの抵当権の実行は裁判所で行う任
意競売の方法によらず、旧酒税法施行規則第五十条に規定するように国税滞納処分
の公売の例によること等を考え合わせると、国家が公権力の作用として「酒税の担
保として提供を受ける」という行政処分によつて取得する公法上の特殊の担保権と
いうべきもので、民法上の抵当権とは本質的に異なるものであるから、抵当権とい
う名を用うるとしても、民法の抵当権に関する規定の適用ないし準用はないと云わ
なければならない。そしてかかる物権的効力を有する公法上の担保権を創設した酒
税法ではその内容を全然規定せず、僅かに旧酒税法施行規則第四十四条で「(前
略)税務署長は抵当権の登記を登記所に嘱託すべし」と規定するに止まるのみであ
る。かくの如きは民法第百七十五条からみても無効であり、従つて本件抵当権設定
登記も無効というべく、よつて控訴人は本訴の第一次の請求原因として、本件各土
地の所有権に基ずきこの無効の本件抵当権設定登記の抹消を求める。
 仮りに本件担保権が抵当権若しくは抵当権に準ずる権利であつて、法律上有効で
あるとすれば、予備的に第二次の請求原因として、右担保権は原審で主張したとお
り、訴外昭華酒造株式会社(以下単に訴外会社という)が昭和二十七酒造年度に製
造し移出申告をした焼酎十五石に対する正規の酒税を既に昭和二十八年三月三十一
日迄に全額納付したので、被担保債権の弁済により消滅したのであるから、本件抵
当権設定登記の抹消を求める。なお原審で主張した請求原因事実中、昭和二十八年
四月八日訴外下総酒造株式会社に焼酎十四石を代金八万四千円で売渡し、その際右
移出焼酎に対する税金については、訴外会社において納付することを所轄税務署で
承認し、且つその税金も訴外会社が納付した結果、訴外会社が既に納付した他の税
額と併せて、本件抵当権の被担保債権たる酒税額を超過したこととなり、本件抵当
権は消滅したという趣旨の主張(原判決二枚目記録一一九丁表十一行目ないし同丁
裏九行目)は、これを撤回する。
 被控訴人の主張する訴外会社が焼酎乙類六石八斗八升を当初から密造の意思を以
つて製造し、これが移出申告洩れであること、その酒税額が被控訴人主張のとおり
であること、及びその石数が同会社の正規に製造した焼酎の石数と併せて、同会社
が昭和二十七酒造年度に容認せられた石数六十五石の範囲内であることは認める
が、右密造の六石八斗八升に対する酒税逋脱税は、正式に容認されたのでなく不法
に製造した行為に対する懲罰的制裁的の意味で課税されるもので、本件担保権の被
担保権の範囲外であるから、本件担保権はすでに被担保債権の消滅により消滅して
いる。なお右六石八斗八升の焼酎の密造場所は、酒税法第十四条によつて酒類製造
の免許を受けた土浦市大字ab番地訴外会社工場及びその敷地内並びに右同所訴外
A方宅地内である。と述べ、
 被控訴人指定代理人において、本件抵当権は酒税徴収の担保のため設定されたも
のであるが、かかる公法上の権利のため私法で規定する担保権、本件の場合では抵
当権を設定することのできる根拠は、旧酒税法(昭和十五年法律第三五号)第四十
三条第一項及び旧酒税法施行規則(昭和十五年勅令第一四五号)第四十条第一項、
第四十一条、第四十四条第三項に基ずくものであつて、法律上有効である。なお本
件抵当権については改正酒税法(昭和二十八年法律第六号全文改正)附則第一頂第
二項により、改正法施行前の旧規定が適用せらるべきものである。仮りに民法上の
抵当権でないとしても、右旧酒税法及び同法施行規則各条の趣旨からみて、抵当権
に準ずる担保権であるというべく、抵当権に関する規定を準用すべきものである。
以上何れに解すとしても、担保権の実行については旧酒税法第四十五条同法施行規
則第五十条によつて、国税滞納処分の公売の例によるのである。
 本件抵当権の被担保債権たる訴外会社の納付すべき昭和二十七酒造年度の酒税の
うち、同会社の未納にかかる分というのは、次のとおりである。即ち同会社には焼
酎乙類六石八斗八升の申告洩れ犯則石数(一部は無断で製造場より他に移出して酒
税を逋脱し、一部は酒税逋脱の目的で隠匿した犯則)に対する酒税額として、基本
税十五万七千百八十円(旧酒税法第二十七条による。アルコール濃度の差異により
一石当の税率異るも、六石八斗八升の内訳につき一々計算して合計し、十円未満切
捨てた結果、上記金額となる。次の加算税額につきまた同じ。)、加算税五万七干
六百七十円(旧酒税法第二十七条の二による。)、以上二口合計二十一万四千八百
五十円が未納であり、且つ右六石八斗八升というのは、同会社に対する昭和二十七
酒造年度の容認石数六十五石の範囲内で製造されたものであるから、本件担保債権
の範囲内であり、従つて本件抵当権はまた消滅していない。右六石八斗八升の製造
場所が控訴人主張の如くであることは、否認する。なお控訴人の請求原因の主張の
一部の撤回には異議がない。この撤回した主張に対する被控訴人の陳述も撤回す
る。と述べた外は、原判決事実摘示の記載と同一であるから、ここにこれを引用す
る。
 証拠として、控訴人訴訟代理人は、甲第一ないし第四号証、第五号証の一ないし
四、第六号証(第一号証、第六号証はいずれも写)を提出し、原審及び当審証人
B、同Aの各証言、原審及び当番における控訴人本人尋問の結果並びに当審におけ
る検証の結果を援用し、乙第一号証の成立を認めてこれを利益に援用し、被控訴人
指定代理人は、乙第一号証を提出し、原審証人C、当審証人Dの各証言を援用し、
甲第二、第四号証の成立は知らない、その余の甲号各証の成立(同第一号証、第六
号証は原本の存在も)は認めると述べた。
         理    由
 別紙物件目録記載の宅地四筆が控訴人の所有に属する事実、及び控訴人が昭和二
十七年十一月十日訴外昭華酒造株式会社(以下単に訴外会社という)のため、同会
社が昭和二十七酒造年度(昭和二十七年十月一日より昭和二十八年九月三十日ま
で)に製造する酒類を移出した際国に納付すべき酒税(基本税及び加算税)のうち
金三十四万二千円の担保として右宅地を被控訴人に提供し、被控訴人において昭和
二十七年十一月二十五日右各宅地ことに前掲請求趣旨記載の如き抵当権設定登記を
嘱託して、現に該登記がなされている事実は当事者間に争がない。
 ところが控訴人は、前示事実摘示に掲げた如き理由によつて右抵当権設定登記は
無効であるから、所有権に基ずきこれが抹消を求めると主張するので審按するに、
旧酒税法(昭和十五年三月二十九日法律第三五号。同法は昭和二十八年二月二十八
日法律第六号により全部改正せられ、その附則第一項第二項によると、その施行の
日である同年三月一日前に課した、又は課すべきであつた酒税についてはなお従前
の例によるべきこととなつているから、本件についてはすべて改正前の酒税法の規
定により判断する。以下酒税法というはすべて改正前の旧法を指す。)第四十三条
第一項によると「政府は酒類製造者に対し命令の定むる所に依り酒税に付担保を提
供すべきこと(中略)を命ずることを得」と定められ、その担保の何たるやについ
ては何等明定するところがないが、同条にいう命令である旧酒税法施行規則(昭和
十五年四月一日勅令第一四五号。同規則は酒税法の全部改正に伴い昭和二十八年二
月二十八日政令第二十七号、酒税法施行令をもつて全部改正せられたが、旧酒税法
によるべき場合には改正前の施行規則によるべきは当然であるから、酒税法と同様
改正前の旧施行規則により判断する。以下施行規則というはすべて旧施行規則を指
す。)第四十条第一項には「税務署長酒税保全上必要ありと認むるときは酒類製造
者に対し金額及期間を指定し酒税に付担保を提供すべきこと(中略)を命ずること
を得」る旨を、又同施行規則第四十一条には「前条の場合に於て提供すべき担保の
種類は左に掲ぐるものに限る(一ないし三号略)四、土地五、火災保険に附したる
建物(六、七号略)」と定めてあるので、土地が酒税についての担保物として提供
せられるものであることが判り、更に同施行規則第四十四条第三項に「担保として
土地、建物又は工場財団を提供したる者あるときは国税庁長官又は税務署長は抵当
の登記を登記所に嘱託すべし」と定めてあるので、これらすべてを綜合して考えて
みると、以上の法律及びこれに基ずく勅令の各条文は文言としては、すべての担保
に共通するようまとめて書かれているがためでもあると思われるが、何<要旨>とな
くはつきりせず曖昧な表現の仕方ではあるけれども、とにかくこれらにより税務署
長が酒税につき担保を提供すべきことを命し(施行規則第四十条第一項)、
これに応じて酒類製造者又は第三者から土地を提供する旨の意思表示がなされたと
きは、その土地につき将来納付すべき酒税のために担保権の設定がなされたことと
なり、その担保権は、施行規則第四十四条第三項で前示の如く抵当権登記の嘱託を
すべき旨規定していることからみて、民法に規定する物権としての抵当権(所謂根
抵当権)そのものであると解することができる。してみれば民法第百七十五条が、
すべて物権を創設するにはその種類、内容、効力のすべてに亘り、法律によるべき
ものと定めている趣旨にも反するものではなく、また法律によるならば、酒税徴収
権の如き公法上の金銭的請求権を担保するために、民法で規定する担当権を設定す
ることを認めるのは、少しも差支ないことと云わねばならぬ。そして抵当権である
以上、これについては他の法律で別段の定めをしない限り民法の該当規定の適用を
みるべきであるが、控訴人の指摘する酒税担保のための抵当権の実行につきその目
的物を公売に附することとなつている点は、酒税法第四十五条において、他の担保
物と区別せず一括してではあるが「金銭以外の担保物(中略)を公売に付して税金
及び公売の費用に充て」るべき旨を定め、酒税法施行規則第五十条において「酒税
法第四十五条の規定による公売の手続に関しては国税滞納処分の場合に於ける公売
の例に依る」こととなつていて、これが民法の抵当権実行方法即ち競売法の任意競
売による方法の特別規定となつているのであるから、これまた前示解釈の妨げとな
るものではない。控訴人の本訴第一次の主張は、要するに以上説示するところと異
なる見解に立つものであつて採用し難く、本件抵当権(根抵当権)は畢竟法律に基
ずき、正当に設定せられた有効なる民法上の抵当権と解すべきであるから、これが
無効であることを前提として、土地所有権に基ずきその抹消を求める控訴人の第一
次の本訴請求は失当である。
 よつて更に控訴人が予備的に主張する、右抵当権が被担保債権の消滅によつてす
でに消滅したものであるか否かにつき、判断を進める。訴外会社が前記昭和二十七
酒造年度において製造し、所轄土浦税務署に移出申告をした焼酎十五石に対する酒
税二十八万三千四百七十円については、既に完納となつていることは、当事者間に
争なく、控訴人はこれを以つて、本件被担保債権(昭和二十七酒造年度の酒税請求
権)は全部消滅したと主張するに対し、被控訴人は、右納付にかかる酒税だけでな
く、なお訴外会社が同一年度に製造し移出申告をしなかつた焼酎乙類六石八斗八升
あり、これを被控訴人が発見してこれに対する酒税二十一万四千八百五十円の課税
を決定し納入を告知した分が、未だ納付してないから、本件被担保債権はまた消滅
していないと主張し、訴外会社が酒税を完納した焼酎十五石の外に、同一酒造年度
に焼酎乙類六石八斗八升を製造しており、これが移出申告洩れであること、この申
告洩れ分に対する酒税は、酒税法第二十七条による基本税十五万七千百八十円及び
同法第二十七条の二による加算税五万七千六百七十円、合計二十一万四千八百五十
円であること、並びに右申告洩れの石数は酒税完納の分の石数と合わせても、右訴
外会社が右酒造年度分として製造を容認せられた石数六十五石の範囲内であること
は当事者間に争なく、右申告洩れ分に対する酒税が現に未納であることは、成立に
争なき甲第三号証(東京国税局長より訴外会社に対する通告書)、原審証人B、同
Aの各証言(各一部)及び弁論の全趣旨から認めることができる。而して本件抵当
権が、昭和二十七酒造年度に訴外会社製造にかかる酒類を移出した際に納付すべき
酒税を担保するため設定せられたものであることは、前顕の如く当事者間に争なき
ところであつて、なお成立に争なき乙第一号証(土浦税務署長宛酒税担保提供書)
及び原審証人Cの証言を綜合すれば、本件担保設定前当時の土浦税務署の係長から
担保提供者たる控訴人に対し、担保は昭和二十七酒造年度における容認石数全部に
対する酒税についての担保であつて、その被担保金額の限度は容認石数の一ケ月当
りの三倍即ち三ケ月分に一万九千円を乗じたものであることを十分説明してあり、
控訴人が酒造者たる訴外会社と連名で土浦税務署宛て提出した酒税担保提供書にも
「昭和二十七酒造年度中製造したる酒類を移出した際納付する基本税並に加算税金
三十四万二千円也の納税担保として提供します」と明記してある事実が認められる
から、控訴人被控訴人間では、本件抵当権の被担保債権の範囲についての合意は、
右提供書の文言どとおりに一致していたものというべく、(原審及び当審証人B、
同Aの各証言、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果中にはこの認定に牴触
するような部分も存するが措信し難く、成立に争なき甲第二号証中に「当会社製造
の酒類を移出に際し基本税及加算税即ち正常の課税担保としてのみ」云々の字句存
することは、同証が訴外会社より原名に宛てた担保借入証であることからみて、別
段この認定の妨げとなるものでない)控訴人の主張する前記未納の二十一万四千八
百五十円の酒税が同一酒税年度の基本税及び加算税を合算した酒税であつて、且つ
それが同酒造年度容認石数の範囲内で製造された六石八斗八升に対するものである
ことは、前示の如く当事者間に争ないので、結局本件抵当権の被担保債権の範囲に
属する酒税に、未だ右金額の未納があり、本件抵当権はまた消滅しないものと云わ
ねばならぬ。控訴人は、右申告洩れ六石八斗八升は訴外会社が当初から密造の意思
で製造したもので、これに対し懲罰的制裁的の意味で課せられる逋脱税たる酒税に
までは、本件担保権が及ばない旨を主張するけれども、前示甲第三号証及び原審証
人Bの証言(一部)によれば、右六石八斗八升は訴外会社においてそのうち二石二
斗は無届で訴外二、三の酒店に販売移出して酒税を逋脱し、残り四石六斗八升は酒
税を逋脱せんとして所持隠匿していたものであることが認められる(この認定に反
する当審証人Aの証言部分は措信しない)とは云え、これに対する刑罰としての罰
金相当額まで担保するのでないことは勿論であるが、これに課せらるべき酒税とし
ての基本税及び加算税(税を逋脱し又は逋脱せんとしたものであると、正当に移出
申告したものであると、その他移出したとみなされたものであるとを問わず)を担
保すべきものであることは、酒税担保という性質からえより当然のことであるのみ
ならず、前示の如く当事者間の意思においても合致しているとみるべきものである
ので、控訴人の主張するような見解を採り以つて前示判断を覆すことはできない。
然らば控訴人が第二次的に、本件抵当権の担保する債権はすべて弁済したから抵当
権また消滅しているという主張も失当である。
 以上説示のとおり控訴人の本訴請求は、第一次第二次ともに失当として棄却を免
れず、これと同趣旨に出でた原判決は結局相当であつて、本件控訴はその理由がな
いから、民事訴訟法第三百八十四条に則りこれを棄却すべきものとし、控訴費用に
つき同法第九十五条第八十九条を適用して、主文のように判決する。
 (裁判長判事 斎藤直一 判事 菅野次郎 判事 坂本謁夫)
 (別紙物件目録は省略する。)

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