弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴
訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主
文と同旨の判決を求めた。
 当事者双方の主張立証の関係は、控訴人が従前の主張を変更して「本件土地区画
整理事業の施行者は、行政庁としての大分市長であつて、控訴人大分市ではない。
従つてその施行に伴つて生じた本訴請求についての債務者も大分市長であつて控訴
人大分市ではない。」と述べたほかは、原判決の事実摘示と同一であるからこれを
引用する。たゞし原判決二枚目表三行目「右換地処分は」の次に「その公告の翌
日」を挿入する。
         理    由
 一 本件土地区画整理事業の施行者が控訴人主張のとおり行政庁としての大分市
長であることは弁論の全趣旨により肯定し得るところであるが、市町村長が地方自
治法一四八条別表第四の四九に基き機関委任事務として主務大臣の命を受けて土地
区画整理事業を施行する場合、その施行に要する費用を当該市町村が支弁すべきこ
とは同法二三二条の明規するところであつて、その趣旨は、行政庁としての市長の
施行する土地区画整理事業であつてもその事業の負担すべき金銭債務は当然地方公
共団体たる市を債務者とする市財政上の債務となることを規定したものと解され
る。従つて施行者が市であつても市長であつてもそのことは控訴人大分市がかゝる
債務を負担する関係に影響を及ぼすものではない。
 被控訴人はその主張の換地処分の結果控訴人に対し取得した清算金交付請求権に
基く清算金の支払を求めるもので、土地区画整理事業の施行者が市であるか市長で
あるかを特に問題とはしていないと認められるから、その主張中控訴人市が施行者
である旨の部分を大分市長が施行者であるとの趣旨に読みかえた上で請求の当否を
判断すれば足りるものというべきである。
 二 被控訴人主張の請求原因事実は、右のとおり読みかえを加えると当事者間に
争いがないから、控訴人は被控訴人に対し原判決別紙清算金支払表記載の第三回な
いし第八回の清算金の支払義務を負担したものということができる。
 三 そこで控訴人主張の抗弁一、について検討する。
 被控訴人が換地処分により所有権を取得した原判決別紙土地目録記載第一、第二
の換地を昭和四一年三月四日訴外ナシヨナル商事株式会社に売渡しその登記を了し
た事実は当事者間に争いがない。控訴人は、右所有権の移転に伴い被控訴人の清算
金交付請求権は土地区画整理法一二九条により当然右訴外会社に移転した、と主張
するのである。
 なるほど同条は格別の留保を付さず「土地区画整理事業の施行にかゝる土地につ
いて、権利を有する者の変更があつた場合においては、この法律又はこの法律に基
く命令、規約、定款若しくは施行規程の規定により、従前のこれらの者に対してし
た処分、手続その他の行為は、新たにこれらの者となつた者に対してしたものとみ
なす」と規定しているから、換地処分が効力を生じたのち換地の所有者に変更があ
つた場合にも、清算金の徴収交付の事務が完了するまでの間は、厳密に言えばいま
だ土地区画整理事業は完了していないのであるから、なおその間は同条の適用があ
る、とする見解も、文理解釈上根拠のないものとはいえない。
 かゝる見地からすると、換地処分後清算未了の間に新たに換地の所有者となつた
者は、換地処分も当人に対して為され清算金の徴収交付の関係も当人について確定
したものとみなされる結果、清算金が交付される揚合には当然その権利を引継ぐ反
面、徴収される場合には当然その義務を承継することになる。
 右の解釈によるときは、清算金を徴収さるべき換地の所有者がその換地を他に処
分しほかに格別の資産を有しないような場合にも、事実上つねにその土地を一般担
保とする形で新所有者から清算金を徴収することができ、その意味では土地区画整
理事業の最終段階としての清算事務を円滑に進行させ関係者間の公平を貫くことに
も資するものといえる。
 土地区画整理事業に関する主務官庁である建設省の行政解釈がその説をとつてい
るのも、従前判例が耕地整理法の適用に関し根拠条文の体裁は異るけれども類似の
場合に同様の解釈を示しているのも、以上のような点を根拠とするものと思われ
る。
 <要旨>しかし、土地区画整理法は、土地区画整理事業施行地区内の土地所有者は
換地処分の公告があればその翌日から従前の土地についてはその所有権を失
い換地計画に定められていたとおりに換地の所有者となること(同法一〇四条一項
は、換地が従前の土地とみなされるという形で規定しているけれども、それは従前
の土地に成立していた諸種の法律関係がそのまゝ換地に乗り移ることをあらわすだ
けのことであつて、権利の客体として新旧の土地が入れかわることを否定するもの
ではない)、従つて従前の土地より価値の高い換地を得たときはその超過分を清算
金として施行者に支払い、価値の低い換地を得たときは不足分を清算金として施行
者から交付されるが、その権利義務もまたあらかじめ換地計画に定められていたと
おりに、同日確定するもの、と定めている(同条七項)。かような規定からする
と、清算金は換地処分により、低い価値の土地の代わりに高い価値の土地を得た
者、或はその逆の関係にある者が支払い又は支払わるべきものであつて、その関係
は換地処分の発効と同時にこれらの者と施行者との間に具体的に確定し、独立した
債権又は債務として換地の所有者に帰属するものと考えるのが自然である。すなわ
ち、土地区画整理事業においては、換地処分公告の段階で諸手続のつみかさねによ
る法律効果は最終的に完成し、新たに換地について従前の土地に対する所有権その
他の権利関係が移行し、その清算としての債権債務も確定するから、以後単にその
債権債務の履行が残されているにすぎない段階において、土地区画整理に関する法
律関係の承継を規定した土地区画整理法一二九条が適用さるべき実質上の根拠はす
でに失われているものといわざるを得ない。
 そればかりでなく、換地処分が発効しその登記も完了したのちにおいて、その土
地を買受けようとする者は、通常その土地の使用価値ないし交換価値自体を標準と
して代価を定め売買契約を締結するものと考えられるのであつて、よしんばその土
地が以前区画整理の対象となつていた事実はこれを知つたとしても、換地処分後な
お相当長期間その清算関係が残存することがあるとか、しかもその清算関係は当然
買主に移行するという行政解釈が行われているなどということを知り、そのような
ことを前提として売買契約の条項を定めるなどとは先ず考えがたいから、控訴人の
主張する土地区画整理法一二九条の解釈は、取引の実情にも反するといわなければ
ならない。
 また、換地処分公告の翌日から換地は従前の土地とみなされ、これに対する所有
権等物権の変動はすべて民法一七七条および不動産登記法の全面的適用を受けるこ
とになる。しかるに控訴人主張の見解によれば、換地と同時にその所有者につき確
定した清算金徴収の先取特権は、その存在・内容につき登記を経由することなくし
て、その後の換地所有権取得者に対抗しうることを認める結果を招来するものとい
うべく、これは物権公示の精神を破ることになり、土地取引の安全を阻害するおそ
れがある。
 しかも、もし控訴人主張のような解釈をとるとすると、施行者としては、換地に
つき所有権の移転がありその登記が為された以上、前所有者に対する清算金の交付
は正当な権利者に対する弁済とならず当然には免責が得られないのであるから、本
件のように長期間にわたり何回にも分けて清算金を交付する場合には厳密に言えば
その都度登記の原簿を調べて所有権の移転のないことをたしかめた上で交付しなけ
ればならないこととなる。勿論支払の都度、当日又は数日前の日付の登記簿抄本を
提出させてその調査に代えるようなことは考えられようが、それは便法であつて理
論に忠実な処理とはいえないばかりでなく、もともと一旦確定した債権者に対して
債権者でなくなつていないことを証明しなければ支払わないという取扱をしなけれ
ばならぬよろにする前記解釈自体が問題とさるべきであろう。
 以上のような諸点を考え合わせると、控訴人主張の土地区画整理法一二九条の解
釈にはにわかに賛同しがたいのであつて、当裁判所としては、換地処分発効後にお
いては同条の適用がないとする被控訴人の主張にくみせざるを得ない。従つて控訴
人の抗弁一、はこれを採用することができない。
 四 控訴人の抗弁二、に関する当裁判所の判断は原判決理由中の当該部分の説示
と同一であるからこれを引用する。従つて同抗弁もまたこれを採用しない。
 五 そうすると、控訴人に対し原判決別紙清算金支払表記載の第三回ないし第八
回の各交付額合計三〇万〇、五七六円と右各金額につき各支払日の翌日から完済ま
で年五分の法定遅延損害金の支払を求める限度で被控訴人の請求は正当であるか
ら、これを認容した部分の原判決は相当で本件控訴は理由がない。
 よつて、民訴法三八四条一項、八九条に従い主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 亀川清 裁判官 蓑田速夫 裁判官 柴田和夫)

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