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判決言渡平成19年4月26日
平成18年(行ケ)第10409号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成19年4月24日
判決
原告インターナショナル・レクチファイ
アー・コーポレーション
訴訟代理人弁護士阿部隆徳
訴訟代理人弁理士山田卓二
同川端純市
被告特許庁長官
中嶋誠
指定代理人市川裕司
同城所宏
同内山進
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2004−1932号事件について,平成18年5月2日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が後記特許の出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これ
に対する不服の審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,
原告がその取消しを求めた事案である。
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,優先権主張日を平成12年(2000年)1月12日(米国)と
した上,平成13年1月12日,名称を「基板を持たない低コストパワー半
導体モジュール」とする発明について,出願(外国語出願。以下「本願」と
いう。特願2001−5156号。公開特許公報は2001−237369
号〔甲2。請求項の数12)をし,平成15年9月19日付けで特許請求〕
の範囲等の補正(甲4。以下「旧補正」という。請求項の数12)をしたが,
拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2004−1932号事件として審理し,その中
で原告は平成16年2月25日付けで再び特許請求の範囲等の補正(甲1。
以下「本件補正」という。請求項の数12)をしたが,特許庁は,平成18
年5月2日,本件補正を却下した上「本件審判の請求は,成り立たな,
い」との審決をし,その謄本は平成18年5月16日原告に送達された。。
(2)発明の内容
ア旧補正(平成15年9月19日付け・甲4)時の特許請求の範囲は,請
求項1∼12から成るが,そのうち【請求項1】の内容は,次のとおりで
ある(以下「本願発明1」という。請求項2∼12は省略。)
【請求項1】低電圧アプリケーションのためのパワーモジュールであって,
周囲枠体および開口したトップと底部を有するモールド形成の絶縁ハウジ
ングと,多数の共通平面の導電性パッドおよびそれに接続された導電性リ
ードを含むリードフレームとを備え,
リードフレームにおける導電性リードは導伝性パッドと共に,周囲枠体
の内側に挿入してモールド化され,そして前記周囲枠体の外部に突き出さ
せ,そして,周囲枠体の内側でリードフレームパッドを支持させており,
そして,
回路を形成するために,導電性パッドを通じ,パワー半導体デバイスを
電気的に相互接続させるための多数のワイヤー接続と,
実質的に共通の面を持ち,前記モジュールから分離している放熱支持体
上に装着できる,リードフレームの導電性パッドの底面と,
を有することを特徴とするパワーモジュール。
イ本件補正(平成16年2月25日付け)後の特許請求の範囲も,請求項
1∼12から成るが,その内容は次のとおりである(このうち【請求項
1】を「本願補正発明1」と【請求項12】を「本願補正発明12」と,
いう。下線は本件補正部分。)

,【請求項1】低電圧アプリケーションのためのパワーモジュールであって
周囲枠体および開口したトップと底部を有するモールド形成の絶縁ハウジ
ングと,多数の共通平面の導電性パッドおよびそれに接続された導電性リ
ードを含むリードフレームとを備え,
リードフレームにおける導電性リードは導伝性パッドと共に,周囲枠体
の内側に挿入してモールド化され,そして前記周囲枠体の外部に突き出さ
せ,そして,周囲枠体の内側でリードフレームパッドを支持させており,
そして,
回路を形成するために,導電性パッドを通じ,パワー半導体デバイスを
電気的に相互接続させるための多数のワイヤー接続と,
実質的に共通の面を持ち,前記モジュールと別体の放熱支持体上に装着
できる,リードフレームの導電性パッドの底面と,
を有することを特徴とするパワーモジュール。
【請求項2】回路は3相インバータ回路である請求項1記載のモジュール。
【請求項3】パワー半導体デバイスは,3相ブリッジ接続したMOSFE
Tからなる請求項1記載のモジュール。
【請求項4】MOSFETは30から75Vの定格である請求項3記載の
モジュール。
【請求項5】信号をパワー半導体デバイスに与えるために,制御回路基板
は,周囲枠体における拡幅されたエリアの上に装着される請求項1記載の
モジュール。
【請求項6】リードフレームの平面上の周囲枠体内部が充填材料で満たさ
れる請求項1記載のモジュール。
【請求項7】ハウジングはモールドによるプラスチックである請求項6記
載のモジュール。
【請求項8】上記MOSFETは,
,底面の上にドレイン電極を,上側表面にソースおよびゲート電極を有し
互いに絶縁され,当モジュールを貫通して周囲枠体内で挿入してモール
ド化された,第1,第2および第3のパラレルの導電性リードにそれぞれ
接続された第1,第2および第3のパッドを含む多数の導電性パッドを有
し,
第4の導電性リードおよび,第4の導電性リードと平行に延在する第5
の導電性リードに接続されたリードフレームのパッドを有し,これらの第
4および第5の導電性リードは当モジュールを貫通して前記周囲枠体内で
挿入されモールド化されており,そして,
,ドレイン電極が第1,第2および第3のパッドに良導電的に接続された
前記3つのMOSFETの第1のグループを有し,
ドレイン電極が第4のパッドに良導電的に接続された,3つのMOSF
ETの第2のグループを有し,
前記第5の導電性リードに接続された,第2のグループのMOSFET
のソース電極を有する請求項3記載のパワーモジュール。
【請求項9】MOSFETは3相インバータ回路を形成するためにワイヤ
ー接続される請求項8記載のモジュール。
【請求項10】MOSFETは30から75Vの定格である請求項8記載
のモジュール。
【請求項11】回路基板への電気的な接続を提供する少なくとも一つの電
極と,パワー半導体デバイスの少なくとも一つに電気的に接続された少な
くとも一つの端子を更に備えた請求項8記載のパワーモジュール。
【請求項12】熱的に導伝性で電気的に絶縁する層が,リードフレームの
導電性パッドと放熱部材との間に挿入される請求項8記載のパワーモジュ
ール。
(3)審決の内容
ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その要点は,本願補正発明1は,下記刊行物に記載された発明(以下
「引用発明」という)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をす。
ることができたから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立し
て特許を受けることができず,したがって本件補正は却下されるべきもの
であり,本願発明1も同様に特許法29条2項の規定により特許を受ける
ことができない,としたものである。

特開平11−274358号公報(甲3)
イなお審決は,上記判断に当たり,引用発明の内容,及び本願補正発明1
との一致点及び相違点を,次のとおり認定した。
<引用発明の内容>
「パターン形成された複数のパワー半導体素子等の部品載置部と該部品載置
部の周辺の複数のリードとを有する金属板と,該金属板の部品載置部の底
面領域とリードの所定の底面領域を平坦に覆って封止・固定する第1の樹
脂部と,該第1の樹脂部を2次元的に囲み,該第1の樹脂部の表面と平行
に外側に延出する前記リードを封止・固定するとともに,前記部品載置部
の保持と固定を行う第2の樹脂部である樹脂枠とを備え,該樹脂枠の壁状
の部分を内壁側の部品載置部よりも高く形成し,該樹脂枠の数箇所にねじ
締めつけ部を設けた電子部品用基板に,複数のパワー半導体素子等を前記
部品載置部に載置し金属細線で結線して接続し,製造後,前記ねじ締めつ
け部によってアルミニウム製のフィン等の放熱板に取りつけられる,複数
のパワー半導体素子等を搭載した半導体装置」。
<一致点>
「パワーモジュールであって,周囲枠体および開口したトップと底部を有す
るモールド形成の絶縁ハウジングと,多数の共通平面の導電性パッドおよ
びそれに接続された導電性リードを含むリードフレームとを備え,リード
フレームにおける導電性リードは導伝性パッドと共に,周囲枠体の内側に
挿入してモールド化され,そして前記周囲枠体の外部に突き出させ,そし
て,周囲枠体の内側でリードフレームパッドを支持させており,そして,
回路を形成するために,導電性パッドを通じ,パワー半導体デバイスを電
気的に相互接続させるための多数のワイヤー接続と,実質的に共通の面を
持ち,前記モジュールと別体の放熱支持体上に装着できる,リードフレー
ムの導電性パッドの底面と,を有するパワーモジュール」。
<相違点>
本願補正発明1では,パワーモジュールが低電圧アプリケーションのため
のものであるのに対し,引用発明では,そのように記載されていない点。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決は,本願補正発明1の認定を誤り(取消事由1,本)
願補正発明1と引用発明との相違点を看過し(取消事由2,本願発明1と)
引用発明との相違点を看過した(取消事由3)から,違法として取り消さ
れるべきである。
ア取消事由1(本願補正発明1の認定の誤り)
(ア)本願補正発明1を分説すると,以下のとおりである。
A.低電圧アプリケーションのためのパワーモジュールであって,
B.周囲枠体および開口したトップと底部を有するモールド形成の絶縁
ハウジングと,
C.多数の共通平面の導電性パッドおよびそれに接続された導電性リー
ドを含むリードフレームとを備え,
D.リードフレームにおける導電性リードは導伝性パッドと共に,周囲
枠体の内側に挿入してモールド化され,そして前記周囲枠体の外部に
突き出させ,
E.そして,周囲枠体の内側でリードフレームパッドを支持させており,
F.そして,回路を形成するために,導電性パッドを通じ,パワー半導
体デバイスを電気的に相互接続させるための多数のワイヤー接続と,
G.実質的に共通の面を持ち,前記モジュールと別体の放熱支持体上に
装着できる,リードフレームの導電性パッドの底面と,を有すること
を特徴とする
H.パワーモジュール。
(イ)本願補正発明1の構成要件Bは「周囲枠体および開口したトップ,
と底部を有するモールド形成の絶縁ハウジング」について記述するもの
であり,そこに含まれる「開口した」は「トップ」と「底部」の両方を
修飾するものであり,絶縁ハウジングが「開口したトップ」と「開口し
た底部」を有する。理由は,以下のとおりである。
①本件補正(甲1)によって補正された特許請求の範囲の請求項12
に係る発明(本願補正発明12)は「熱的に導伝性で電気的に絶縁,
する層が,リードフレームの導電性パッドと放熱部材との間に挿入さ
れる請求項8記載のパワーモジュール」である。そして,請求項1。
2は請求項8に技術的限定を加えて限定し,また,請求項8は請求項
3に技術的限定を加えて限定し,さらに請求項3は請求項1(本願補
正発明1)に技術的限定を加えて限定したものであることからすれば,
本願補正発明12は本願補正発明1を技術的に限定した,本願補正発
明1とは別異の発明である。
そこで,本願補正明細書(甲1,2,4)を見ると,その段落【0
016】には「…薄い絶縁材料による底部の層70は,ハウジング,
50の底全体に対して位置し,パッド30,31,32,33および
34を,互いに,かつ,このハウジングが設けられるユーザーの放熱
板から電気的に絶縁する。…」と記載されている。そして,この記載
と本願補正発明12を対比すると,本願補正発明12における「リ,
ードフレームの導電性パッドと放熱部材との間に挿入され」て「熱的
に導伝性で電気的に絶縁する層」が,本願補正明細書(甲1,2,
4)に記載された実施形態の層70に相当することは明らかである。
そうすると,本願補正明細書(甲1,2,4)の図2に描かれた,
「絶縁層70を含むパワーモジュール」が本願補正発明12の実施形
態に相当するものであり「絶縁層70を省略して底部を開口したパ,
ワーモジュール」が本願補正発明1の実施形態に相当するものである。
②本願補正明細書(甲1,2,4)の段落【0016】には「…ハ,
ウジング50は,パッド32,31,30および33のトップ面のそ
れぞれを露出させるための窓51,52,53および54を持つ。周
囲枠体60は,ハウジング50と一体構造であり,かつそのハウジン
グ50を囲み,ボルト差し込みの開口61,62,63,64がハウ
ジングのコーナーに設けられる。薄い絶縁材料による底部の層70は,
ハウジング50の底全体に対して位置し,パッド30,31,32,
33および34を,互いに,かつ,このハウジングが設けられるユー
ザーの放熱板から電気的に絶縁する。…」と記載されている。
そうすると,上記記載によれば,窓51,52,53及び54を形
作る構成部分と周囲枠体を形作る構成部分がハウジング50を構成す
る部分であることが明らかである。他方,本願補正明細書(甲1,2,
4)には,絶縁層70に関して,これがハウジングの一部を構成する
部分であるといったことを示唆する記載又はそのことを明確に示す記
載は一切ない。
③以上の①,②からすれば,絶縁層70を除いた本願補正発明1のパ
ワーモジュールにおける絶縁ハウジングの底部はトップと同様に開口
しており,開口した底部に露出した導電性パッドの底面が「モジュー
ルと別体の放熱支持体上に装着できる(構成要件G)ようになって」
いるものである。
したがって,本願補正発明1の構成要件Bにおける「周囲枠体およ
び開口したトップと底部を有するモールド形成の絶縁ハウジング」は,
「周囲枠体及び「開口したトップ」と「開口した底部」を有するモー
ルド形成の絶縁ハウジング」を意味するというべきである。
(ウ)①被告は,本願補正発明1において「絶縁ハウジング」に関する直
接の限定は「周囲枠体及び開口したトップと底部を有するモールド形
成の絶縁ハウジング」のみであり,開口した底部に露出した導電性パ
ッドの底面を有するとまで限定されているとは言えない旨主張する。
しかし,本願補正発明1の構成要件Gにおける「…前記モジュー
ルと別体の放熱支持体上に装着できる,リードフレームの導電性パ
ッドの底面と,を有する…」とは,導電性パッドの底面が放熱支持
体上に装着可能な状態にあることを意味するところ「装着可能な状,
態」とは一般的には直接的に装着できる状態と解される。そして,
導電性パッドの底面がモジュールと別体の放熱支持体上に直接的に
装着可能になるためには,導電性パッドの底面がモジュール(すな
わちハウジング)の底面から露出していることが前提である。
②また被告は,絶縁ハウジングが熱的に導伝性のある絶縁材料製であ
れば,導電性パッドの底面を露出させる必要がない旨を主張する。
しかし,絶縁ハウジングが熱的に導伝性を有することで,絶縁ハウ
ジング自体からの放熱効果が得られ,放熱支持体を介して装着する放
熱材による放熱作用と相俟ってモジュール全体としての放熱能力が高
まることからすれば,絶縁ハウジングが熱的に導伝性のある絶縁材料
製であることは,導電性パッドの表面を放熱支持体上に間接的に装着
する場合に限らず,直接的に装着する場合においても好ましい態様で
ある。したがって,絶縁ハウジングが熱的に導伝性のある絶縁材料製
にすることの示唆があるにしても,それが必ずしも,導電性パッドの
底面を露出させる必要がないことを示唆するものではない。
③また被告は,本願補正明細書(甲1,2,4)の発明の詳細な説明
及び図面において「開口した底部」及び「露出した導電性パッド」の
記載はどこにもなく,逆に,絶縁ハウジングの底部に電気的に絶縁す
る層が設けられ,導電性パッドを露出させないことが記載されている
旨を主張する。
しかし,本願補正明細書(甲1,2,4)においては,絶縁ハウジ
ング(50)と導電性パッド(31,33)を含むリードフレームと,
絶縁ハウジング(50)の底部に配置された絶縁層(70)とを含む
パワーモジュールの構成が明確に開示されている(段落【0015】
【0016】等。さらに,図2には,絶縁ハウジング(50)と絶)
縁層(70)は異なるハッチングパターンを用いて異なる別材として
描かれており,底部の開口に,絶縁ハウジング(50)とは別体の絶
縁層(70)が配置された絶縁ハウジング(50)が開示されている。
そして原告は,本願補正発明1のパワーモジュールを特定するため
に必要な事項として,図2等に開示した構成要素のうち,絶縁ハウジ
ング(50)と導電性パッド(31,33)を含むリードフレームと
を選択し,底部の絶縁層70については,本願補正発明1の発明特定
事項からは除外し,本願補正発明12の発明特定事項に含めているも
のである。
また,絶縁ハウジングの「底部の開口」については本願補正明細書
(甲1,2,4)の図2に示されている。すなわち,同図2に示すパ
ワーモジュールの構成から,本願補正発明1の発明特定事項からは除
外した絶縁層(70)を単に消去した図を考えれば,ハウジング(5
0)の底部に開口があることは容易に理解できる。
④被告は,本願補正発明1の課題,目的,課題を解決するための手段
の観点,及び段落【0015】の記載から,熱管理及び電気的絶縁の
ため,熱導伝性の絶縁層をモジュールに対する放熱支持から絶縁する
ために,リードフレーム素子の下に横たわるように設け,導電性パッ
ドを露出させないことを前提としていることが明らかである旨主張す
る。
しかし,段落【0005】の「本発明によると,パワー部品は,
リードフレームのリードフレーム拡幅部に直接に装着され,…その
ハウジングにより支持される。熱導伝性の絶縁層は,モジュールに
対する放熱支持体から絶縁するために,リードフレーム素子の下に
横たわる。…」との記載は,本願補正発明12の構成を開示したも
のであり,本願補正発明1に対応するものではない。
被告主張のように,リードフレームと放熱支持体間において電気
的絶縁を図ることは必要であるが,放熱支持体自体が絶縁性を有す
る場合(甲6参照,リードフレームと放熱支持体間に絶縁層を配置)
することは不要となる。本願補正発明1はそのような放熱支持体自
体が絶縁性を有する場合をも想定している。
したがって,リードフレーム下部に絶縁層を有しない本願補正発
明1の構成によっても,リードフレームと放熱支持体間の電気的絶
縁性を確保することができ,本願補正発明の課題,目的を達成する
ことは可能である。
⑤被告は,本願補正発明1と本願補正発明12の関係について,本願
補正発明12は,当該絶縁する層の位置構成が,絶縁ハウジングの底
部のうちリードフレームの導電性パッドと放熱部材との間であること
を限定したものである旨主張する。すなわち,被告は,本願補正発明
1はすでに本願補正発明12の「絶縁する層」を構成要素として含ん
でおり,本願補正発明12は,その「絶縁する層」の位置を限定(内
的付加)したものであると主張する。
しかし,本願補正発明1には構成要素として,本願補正発明12の
「熱的に導伝性で電気的に絶縁する層」は含まれておらず,また,本
願補正発明1においてそれに対応する構成要素も見当たらない。そう
すると,本願補正発明1と本願補正発明12の関係において,本願補
正発明12が本願補正発明1の一部の構成要素をさらに限定(内的付
加)したものであるとする,被告の主張には合理性がない。
本願補正発明12は,本願補正発明1に対して,リードフレームの
導電性パッドと放熱部材との間に挿入された「熱的に導伝性で電気的
に絶縁する層」という,新たな構成要素を追加(外的付加)したもの
であると解するのが妥当である。
⑥被告は,構成要件Gには「導電性パッドの底面」を絶縁ハウジン,
グの底部に露出させて直接「モジュールと別体の放熱支持体上に装
着できる」と記載されておらず,技術常識上そのように解釈するこ
とはできない旨主張する。
しかし,本願補正発明1のリードフレームの底面は,間接的な装
着状態及び直接的な装着状態の双方の状態を可能とするものである。
上記④で述べたように,放熱支持体自体が絶縁性を有する場合(甲
6参照,リードフレームと放熱支持体間に別途絶縁手段を配置する)
必要はない。その場合,リードフレームの底面を,底部の層70の
ような絶縁手段を介して放熱支持体上に装着する必要はなく,直接
的に放熱支持体上に装着することができる。被告の主張はこのよう
な直接的に放熱支持体上に装着する態様については考慮していない。
イ取消事由2(本願補正発明1と引用発明との相違点の看過)
(ア)審決は「引用発明における「金属板の部品載置部の底面領域とリ,
ードの所定の底面領域を平坦に覆って封止・固定する第1の樹脂部と,
該第1の樹脂部を2次元的に囲み,該第1の樹脂部の表面と平行に外側
に延出する前記リードを封止・固定するとともに,前記部品載置部の保
持と固定を行う第2の樹脂部である樹脂枠…該樹脂枠の壁状の部分を内
壁側の部品載置部よりも高く形成し」の「第1の樹脂部」と「第2の樹
脂部である樹脂枠」は,本願補正発明1における「周囲枠体および開口
したトップと底部を有するモールド成形の絶縁ハウジング」に相当す
る(6頁25行∼32行)と述べ,引用発明の「第1の樹脂部」と。」
「第2の樹脂部としての樹脂枠」が本願補正発明1の「絶縁ハウジン
グ」に相当すると認定している。
(イ)しかし,引用発明(甲3)に記載されている図1(b),図3(b),
図4,図5(b),図6(b),図7(b),図8(b),図9(b)のいずれ
に表された断面図においても,第1の樹脂部と樹脂枠によって構成さ
れる引用発明のハウジングはその底部が「第1の樹脂部(2)によっ」
て完全に塞がれている。したがって,引用発明において部品載置部は
底部に露出しておらず,この部品載置部の底面は「モジュールと別体
の放熱支持体上に装着できる」ものでない。すなわち,本願補正発明
1の構成要件Bの絶縁ハウジングは上記アに記載したように「開口し
た底部」を有するものであるのに対し,引用発明のハウジングは底部
が「第1の樹脂部」により塞がれた,すなわち底部が開口していない
構造を有する。したがって,引用発明のハウジングは,底部が開口し
た本願補正発明1のハウジングではなく,むしろ本願補正発明1のハ
ウジングの底部の開口に絶縁層70を配置した構成,すなわち本願補
正発明12のパワーモジュール全体の構成に類似するものであり,本
願補正発明1のハウジングとは全く異なるものである。
このように,本願補正発明1の構成要件Bの絶縁ハウジングが「開
口した底部」を有するものであるにも拘わらず「開口していない底部,
を有する第1の樹脂部」を含む引用発明のハウジングが「開口した底,
部」を含む本願補正発明1の絶縁ハウジングに相当するとした審決の
対比は,本願補正発明1と引用発明の相違点を看過したものである。
(ウ)被告は,引用発明(甲3)の「この金属板の少なくとも前記部品載
置部の底面領域を覆う第1の樹脂部(請求項1)の記載に基づき」【】
「金属板」の底面が「第1の樹脂部」により完全に覆われるとまでは
限定されるとはいえず,引用発明のハウジングの底部が「第1の樹脂
部」によって完全に塞がれているとする原告の主張には理由がない旨
主張する。
しかし,引用発明において部品載置部の底面領域のみが第1の樹脂部
で覆われた状態で形成される第1の樹脂部の開口は,上記(イ)に記載し
たような本願補正発明1の絶縁ハウジングの底部の開口とは異なるもの
である。
ウ取消事由3(本願発明1と引用発明との相違点の看過)
上記イと同様に,審決は,本願発明1と引用発明との相違点も看過した
ものである。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)∼(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3被告の反論
。審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない
(1)取消事由1に対し
ア本願補正発明1において「絶縁ハウジング」に関する直接の限定は,,
「周囲枠体および開口したトップと底部を有するモールド形成の絶縁ハウ
ジング(構成要件B)のみであり,他に「周囲枠体」と「リードフレー」
ム(導電性リードと導電性パッド」との関係が限定されているものの,)
「絶縁ハウジングの底部」と「リードフレームの導電性パッド」との関係
は何ら限定されていない。すなわち,原告は,開口した底部に露出した導
電性パッドの底面が「モジュールと別体の放熱支持体上に装着できる」よ
うになっている旨主張するが,本願補正発明1は「開口した底部に露出し
た導電性パッドの底面」を有するとまで限定されているとはいえない。
イ本願補正明細書(甲1,2,4)の段落【0015】に「ハウジング,
50」について「ハウジング50は好ましくは,モジュールが装着され,
る導電性のリードフレーム及び放熱材を電気的に絶縁できる,熱的に導伝
性の絶縁材料である」と記載されるように,熱的に導伝性の絶縁材料製。
「絶縁ハウジング」であれば「導電性パッド」の底面を露出させなくと,
も「絶縁ハウジング」の底部を介して「モジュールと別体の放熱支持体,
上に装着できる」ようになることは,技術的に明らかである。
ウ本願補正明細書(甲1,2,4)の発明の詳細な説明,図面には「開,
口したトップ「開口した底部」との記載はどこにもなく「絶縁層70」,,
を省略し底部を開口したパワーモジュールの断面図」は,本願補正明細書
(甲1,2,4)に記載されていない。
エ本願補正発明1の課題,目的,課題を解決するための手段の観点から見
ると,本願補正明細書(甲1,2,4)の段落【0003【0004】】,
の記載から,本願補正発明1では,基板を排した構造のパワーモジュール
において,その熱管理及び電気的絶縁のため「熱導伝性の絶縁層」を,
「モジュールに対する放熱支持から絶縁するために,リードフレーム素子
の下に横たわる」ように設け,導電性パッドを露出させないことを前提と
していることが明らかである。
オ本願補正発明12は,本願補正発明1を引用し,それを更に限定したも
のであるから,本願補正発明1とは別発明であるとしても,本願補正発明
1の発明特定事項に相当するものを全て具備しており,本願補正発明1に
含まれるものである。そうであれば,本願補正発明12の実施形態は,本
願補正発明1の技術的事項をより具体化したものに他ならず,本願補正発
明1の実施形態でもあるといえる。
カ本願補正発明1の構成要件Gには「導電性パッドの底面」を絶縁ハウ,
ジングの底部に露出させて直接「モジュールと別体の放熱支持体上に装着
できる」と記載されているわけではないし,技術常識上,構成要件Gをそ
のように解することはできない。
すなわち,本願補正明細書(甲1,2,4)の段落【0005【00】,
15【0016】にも,パワーモジュールのリードフレームと放熱支持】,
体とを,絶縁層,絶縁材料を介在させて電気的に絶縁することが記載され
ている。このように,パワーモジュールのリードフレームと放熱支持体と
が接触して導通しないように,両者間を電気的に絶縁することが該モジュ
ールにとって必須であることは,該絶縁をしなければ,該リードフレーム
の各導電性パッド,各導電性リード間が該放熱支持体を介して短絡し,各
導電性パッド,各導電性リードの電位を保持できず,該モジュールとして
。機能しないのであるから,該モジュールを機能させる上の技術常識である
(2)取消事由2に対し
ア上記(1)で述べたとおり,本願補正発明1の「周囲枠体および開口したト
ップと底部を有するモールド形成の絶縁ハウジング(構成要件B)は,」
原告が主張するような導電性パッドの底面を露出する「開口した底部」を
有していない。そして,構成要件Bの「底部」は,該「開口した底部」に
は限定されず,それ以外の「底部」を含むものである。
一方,引用発明は,熱導伝性の「第1の樹脂部」を介して部品載置部が
別体の放熱板上に装着できることは,明らかである。
したがって,本願補正発明1の「周囲枠体および開口したトップと底部
を有するモールド形成の絶縁ハウジング(構成要件B)と,引用発明の」
「第1の樹脂部」と「第2の樹脂部である樹脂枠」とに,原告が主張する
ような差異はない。
イなお,引用発明の特許請求の範囲(甲3)の「請求項1】…この金属,【
板の少なくとも前記部品載置部の底面領域を覆う第1の樹脂部…」との記
載からみて,その「金属板」の底面が「第1の樹脂部」により完全に覆わ
れるとまで限定されているとはいえない。すなわち,引用発明には底部を
完全に覆う「第1の樹脂部」のみ記載されているのではなく,それ以外の
「第1の樹脂部」も記載あるいは示唆されているといえる。したがって,
引用発明のハウジングはその底部が「第1の樹脂部」によって完全に塞が
れているとの原告主張にも理由がない。
(3)取消事由3に対し
本願発明1についても,上記(2)と同様な理由により,審決に本願発明1と
引用発明の相違点の看過はない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯,(2)(発明の内容,(3)(審決))
の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,審決の違法の有無に関し,原告主張の取消事由ごとに判断する。
2取消事由1(本願補正発明1の認定の誤り)について
,(1)本件補正により補正された本願補正発明1の記載は,原告主張のとおり
次のとおり分説することができる。
A低電圧アプリケーションのためのパワーモジュールであって,
B周囲枠体および開口したトップと底部を有するモールド形成の絶縁ハウ
ジングと,
C多数の共通平面の導電性パッドおよびそれに接続された導電性リードを
含むリードフレームとを備え,
Dリードフレームにおける導電性リードは導伝性パッドと共に,周囲枠体
の内側に挿入してモールド化され,そして前記周囲枠体の外部に突き出さ
せ,
Eそして,周囲枠体の内側でリードフレームパッドを支持させており,
Fそして,回路を形成するために,導電性パッドを通じ,パワー半導体デ
バイスを電気的に相互接続させるための多数のワイヤー接続と,
G実質的に共通の面を持ち,前記モジュールと別体の放熱支持体上に装着
できる,リードフレームの導電性パッドの底面と,を有することを特徴と
する
Hパワーモジュール。
(2)上記(1)のように,本願補正発明1の構成要件Bの文言は「周囲枠体お,
よび開口したトップと底部を有するモールド形成の絶縁ハウジングと」とい
うものであり「トップ」はカタカナ表記「底部」は漢字表記で,両者の,,
表記が異なっているものであるから,日本語の理解としては,構成要件Bに
おいて「開口した」との文言が「トップ」と「底部」の両者を修飾する,,
ものと一義的に理解することは困難である。そうすると,構成要件Bは,ハ
ウジングが「トップ」と「底部」を有し「トップ」は開口したものである,
ことを規定するに止まるというべきであり,それ以上に「底部」の構造に,
ついて何らかの限定を加えたものと理解することはできない。
(3)このことは,本願補正明細書(甲1,2,4)の発明の詳細な説明,図
面の記載からも裏付けられる。
ア本願補正明細書(甲1,2,4)の発明の詳細な説明,図面には,以下
の記載がある。
(ア)発明の属する技術分野
本発明は,パワーモジュールに関し,特にパワー半導体の部品(die)
のための基板を持たないパワー半導体が低コストの3相インバータモジ
ュールに関する(段落【0001。】)
(イ)発明が解決しようとする課題
パワーの部品を担うために用いられた基板は,パワーモジュールのコ
ストで重要な部分をなし,それ故,最小限の面積に制限される。このよ
うに構成することは,モジュールのコストを低減するには好ましいが,
一方,適した熱管理および電気的絶縁が必用となる(段落【000
3。】)
本発明は,上述した課題を解決するためになされたものであり,基板
を排した構造のモジュールを提供することを目的とする(段落【000
4。】)
(ウ)課題を解決するための手段
本発明によると,パワー部品は,リードフレームのリードフレーム拡
幅部に直接に装着され,そのパワー部品は,モジュールの絶縁ハウジン
グ内で挿入され,モールド化され,かつ,そのハウジングにより支持さ
れる。熱導伝性の絶縁層は,モジュールに対する放熱支持体から絶縁す
るために,リードフレーム素子の下に横たわる。IMSや他の基板は追
加されない。好ましい実施形態では,モジュールは,例えば電気的パワ
ーステアリング用モータのために使用される車搭載用の3相インバータ
回路である(段落【0005。】)
(エ)発明の実施の形態
最初に図8を参照すると,特に電力パワーを制御する自動車の使用へ
のアプリケーションを持つ3相インバータ回路の例示的な電気回路図が
示されている。端子20および21は,車のバッテリーに接続されるD
C端子であり,端子U,VおよびWは3相出力端子であり,パワーAC
モータが適した整流器を介し,DCブラシレスモータのようなDCモー
タに接続される。これらは車システムではごく一般に使用される。通常
の3相インバータ回路が示されている。パワーMOSFETS1から
S6を通常のシーケンスで動作させるために,MOSFETS1から
S6のためのASICおよび他の制御回路要素が備えられる。この発明
は,低電圧のアプリケーションに特に適する。本発明の部品は,インタ
ーナショナル・レクチファイヤー・コーホレーションより市販されてい
る,30から75ボルトの規格で,サイズ4.0から6の部品である。
例えば,1000ボルトまでの電圧規格または10ボルトのような低電
圧が使用される(段落【0006。】)
通常のモジュールによるハウジングの内部に部品を装着するために使
用される基板は,高価である。本発明によれば,部品が端子のリードフ
レームの伸張部に直接に装着されることで,この基板は排除される。イ
ンバータ以外のどのような回路も形成することができ,更に,Nおよび
PチャンネルのMOSFETまたはIGBT,ダイオード,サイリスタ
およびこれと同様なもののごとき部品,または部品の混合も使用するこ
とができ,本発明の利点を享受できることに注目される(段落【000
9。】)
…ハウジング50の境界から突き出ている導体U,V,W,20およ
び21に対し,リードフレームのトリミング後に,リードフレームがハ
ウジング50により支持される。ハウジング50は好ましくは,モジュ
ールが装着される導電性のリードフレームおよび放熱材を電気的に絶縁
できる,熱的に導伝性の絶縁材料である。しかしながらハウジング50
はモジュールのコスト低減のために熱的に導電性材料で形成される必要
はない…(段落【0015。】)
部品S1からS6にアクセスして部品に接続できるように,ハウジン
グ50は,パッド32,31,30および33のトップ面のそれぞれを
露出させるための窓51,52,53および54を持つ。周囲枠体60
は,ハウジング50と一体構造であり,かつそのハウジング50を囲み,
ボルト差し込みの開口61,62,63,64がハウジングのコーナー
に設けられる。薄い絶縁材料による底部の層70は,ハウジング50の
底全体に対して位置し,パッド30,31,32,33および34を,
互いに,かつ,このハウジングが設けられるユーザーの放熱板から電気
的に絶縁する。リードフレームのパッドは,部品S1からS6により生
じた熱的エネルギーを,リード端子を通じ,放熱部材と接触して設けた,
熱的に導電性の絶縁層へ導くよう作用することに注目できる。熱エネル
ギーが高いパーセントで熱的導電性絶縁層を通じて拡散し,残りはリー
ド端子を通じて拡散する(段落【0016。】)
(オ)発明の効果
以上説明したように,本発明は,パワー用の部品を,モジュールの絶
縁ハウジング内に挿入されたリードフレームのリードフレーム拡幅部に
直接に装着したものであり,IMSや他の基板の追加は必用ないため,
モジュールを安価に構成できる(段落【0022)】
(カ)図2,3には,絶縁ハウジングの底部に絶縁層(70)が設けられ,
導電性パッドを露出させないものが記載されており,他の図面を見ても,
絶縁ハウジングの底部が開口しているものはない。
イ以上のア(ア)∼(カ)を見ても,本願補正明細書(甲1,2,4)の発明
の詳細な説明(特に,発明が解決しようとする課題,課題を解決する手段,
発明の実施の形態)や図面においては,本願補正発明1の構成要件Bのハ
ウジングが「トップ」と「底部」を有し「トップ」は開口したものであ,
ることを裏付ける記載はあるが,それ以上に「底部」の構造について何,
らかの限定を加えたものと理解できる記載は見当たらない。
(4)以上によれば,本願補正発明1の絶縁ハウジングが「開口したトップ」
と「開口した底部」とを有するとはいえないものであるから,同絶縁ハウジ
ングが「開口した底部」を有することを前提とする取消事由1の主張は,そ
の前提を欠き,理由がない。
(5)原告の主張に対する補足的説明
ア原告は,本願補正発明12における「リードフレームの導電性パッド,
と放熱部材との間に挿入され」て「熱的に導伝性で電気的に絶縁する層」
が,本願補正明細書(甲1,2,4)に記載された実施形態の層70に相
当することは明らかであり,本願補正明細書(甲1,2,4)の段落【0
016】の記載によれば,窓51,52,53及び54を形作る構成部分
と周囲枠体を形作る構成部分がハウジング50を構成する部分であること
が明らかである,他方,本願補正明細書(甲1,2,4)には,絶縁層7
0に関して,これがハウジングの一部を構成する部分であるといったこと
を示唆する記載又はそのことを明確に示す記載は一切ないと主張する。
しかし,たとえ絶縁層70がハウジング50の一部を構成する部分でな
かったとしても,このことから当然に,本願補正発明1の絶縁ハウジング
が「開口した底部」を有することとなるとはいえないものであるところ,
本願補正発明12の特許請求の範囲の文言自体をみても,ハウジングの底
部の構造について特段限定のない本願補正発明1を前提に,パワーモジュ
ールを構成するハウジングの底部の構造について限定をしたものと理解す
ることを妨げるようなものではない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
イ原告は,本願補正発明1の構成要件Gにおける「…前記モジュールと別
体の放熱支持体上に装着できる,リードフレームの導電性パッドの底面と,
を有する」とは,導電性パッドの底面が放熱支持体上に装着可能な状態に
あることを意味するところ「装着可能な状態」とは一般的には直接的に,
装着できる状態と解され,導電性パッドの底面がモジュールと別体の放熱
支持体上に直接的に装着可能になるためには,導電性パッドの底面がモジ
ュール(すなわちハウジング)の底面から露出していることが前提である
と主張する。
しかし,上記「装着可能な状態」が一般的には直接的に装着できる状態
と解することができるとしても,上記記載のみから,絶縁層(70)を介
して間接的に装着する状態が排除されているとまで読みとることはできず,
ハウジングの底部が開口している場合も開口していない場合も,モジュー
ルと別体の放熱支持体上に装着できることに変わりはない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
ウ(ア)原告は,本願補正明細書(甲1,2,4)においては,絶縁ハウジ
ング(50)と導電性パッド(31,33)を含むリードフレームと,
絶縁ハウジング(50)の底部に配置された絶縁層(70)とを含むパ
ワーモジュールの構成が明確に開示されており(段落【0015【0】
016】等,さらに,図2には,絶縁ハウジング(50)と絶縁層)
(70)は異なるハッチングパターンを用いて異なる別材として描かれ
ており,底部の開口に,絶縁ハウジング(50)とは別体の絶縁層(7
0)が配置された絶縁ハウジング(50)が開示されていると主張する。
(イ)しかし,本願補正明細書(甲1,2,4)の段落【0015,】
【0016】において絶縁ハウジングの底部に配置された絶縁層を含む
パワーモジュールの構成が開示されているとしても,このことから当然
に,本願補正発明1の絶縁ハウジングが「開口した底部」を有するとい
えることにはならない。また,図2において,絶縁ハウジング(50)
と絶縁層(70)が異なるハッチングパターンを用いて異なる別材とし
て描かれ,底部の開口に,絶縁ハウジング(50)とは別体の絶縁層
(70)が配置された絶縁ハウジング(50)が開示されているとして
も,このことと,当該別体の絶縁層が消去された発明が開示されている
かどうかということとは論理的に直接の関係はないと言わざるを得ない
から,図2において絶縁層(70)がなくハウジング(50)の底部に
開口があるものも開示されているということは困難である。
(ウ)そもそも,原告が指摘する本願補正明細書(甲1,2,4)の段落
【0016】には「…薄い絶縁材料による底部の層70は,ハウジン,
グ50の底全体に対して位置し,パッド30,31,32,33および
34を,互いに,かつ,このハウジングが設けられるユーザーの放熱板
から電気的に絶縁する」とあり,異なる部材であるにしても,ハウジ。
ングの底全体には絶縁材料の層が位置していることが分かる。さらに,
同明細書の段落【0005】には「本発明によると,パワー部品は,,
リードフレームのリードフレーム拡幅部に直接に装着され,そのパワー
部品は,モジュールの絶縁ハウジング内で挿入され,モールド化され,
かつ,そのハウジングにより支持される。熱導伝性の絶縁層は,モジュ
ールに対する放熱支持体から絶縁するために,リードフレーム素子の下
に横たわる」と記載され,ハウジングの底部に絶縁層が横たわるもの。
であることが分かる。これらの各記載は,絶縁層70を省略して底部を
開口したパワーモジュールが本願補正発明1に対応する実施態様である
との原告主張に沿わないものであり,本願補正発明1はハウジングの底
部の構造について特段限定しないものとの理解を妨げないものである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
エ原告は,本願補正明細書(甲1,2,4)の段落【0005】の「本発
明によると,パワー部品は,リードフレームのリードフレーム拡幅部に直
接に装着され,…そのハウジングにより支持される。熱導伝性の絶縁層は,
モジュールに対する放熱支持から絶縁するために,リードフレーム素子の
下に横たわる」との記載は,本願補正発明12の構成を開示したもので。
あり,本願補正発明1に対応するものではない,リードフレーム下部に絶
縁層を有しない本願補正発明1の構成によっても,リードフレームと放熱
支持体間の電気的絶縁性を確保することができ,本願補正発明の課題・目
的を達成することは可能である,と主張する。
しかし,上記(2)∼(4)の説示に照らしても,本願補正明細書(甲1,2,
4)の段落【0005】の当該記載が,本願補正発明1に対応するもので
はないというべき根拠はないし,たとえリードフレーム下部に絶縁層を有
しない本願補正発明1の構成によってリードフレームと放熱支持体間の電
気的絶縁性を確保することができ,本願補正発明の課題・目的を達成する
ことが可能であるとしても,そのこと自体は,本願補正発明1をそのよう
な構成と理解しても本願補正明細書(甲1,2,4)の記載と矛盾はしな
いことを示したに止まり,本願補正発明1の構成がリードフレーム下部に
絶縁層を有しないことの積極的根拠を示したことにはならない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
オ原告は,本願補正発明1(請求項1)と本願補正発明12(請求項1
2)の関係において,本願補正発明12が本願補正発明1の一部の構成要
素をさらに限定(内的付加)したものであるとはいえないと主張する。
しかし,本願補正発明(請求項12)を見ると,同項は,請求項8の記
載を引用して「熱的に導伝性で電気的に絶縁する層が,リードフレーム,
の導電性パッドと放熱部材との間に挿入される請求項8記載のパワーモジ
。,ュール」と規定している。そして,請求項8は請求項3の全部を引用し
請求項3は請求項1の全部を引用したものであるから,請求項12は,請
求項1を全部引用したものといえる。そうすると,請求項12は,ハウジ
ングの底部の構造について特段限定のない本願補正発明1を前提に,パワ
ーモジュールを構成するハウジングの底部の構造について限定をしたもの
と理解することを妨げないというべきである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
3取消事由2(本願補正発明1と引用発明との相違点の看過,取消事由3)
(本願発明1と引用発明との相違点の看過)について
原告の取消事由2,取消事由3に係る主張は,その内容自体から,いずれも
取消事由1を前提とするものであることが明らかであるが,上記2に説示した
とおりの次第で取消事由1の主張には理由がないのであるから,その余につい
て検討するまでもなく,取消事由2,3の主張も理由がない。
4結語
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官田中孝一

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