弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を仙台高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人片岡政雄の上告趣意について。
 職権を以つて調査するに、本件公訴事実となつている被告人の談話の記事は昭和
三〇年七月三〇日附A新報の「年少者も酷使? B営業所人権問題労基署でも調査
へ」なる見出しの下に掲載された記事の一部分をなすものであるが、本件記事全体
の内容は、本件被告人がCに人権侵害の事実ありとして法務局相馬支局に提訴する
と共に相馬署に告発の手続をとり、これに基き同支局が調査を開始した事実および
相馬労働基準監督署でも労働基準法違反容疑ありとして調査を進めている事実なら
びにこの問題についての世人の動きと関心を客観的に叙述したうえ、末尾に関係者
(D法務局相馬支局長、相馬労基署E監督官、本件被告人、C所長)の談話を要約
して附記したものであることは該記事自体(証第四号)に徴し明らかであつて、苟
も人権侵害、労働基準法違反等の疑があるとして関係官庁において該事実の有無に
ついて調査を開始したという事実の如きは公益に影響を及ぼすべき問題であるから
報道機関としての新聞紙がこれを取り上げ報道することは許容さるべきところであ
り、また該記事の作成、編集の方法、記事の内容等をみても、ことさらに事実を歪
曲したり、あるいは、当該事実の存在を暗示するような取り上げ方をしたとは認め
られず、特に、本件公訴事実となつている被告人の談話の部分も、その内容が真実
であるかの如く報道しているわけではなく、反対当事者の立場にあるCおよび関係
官庁の係官等の談話と併せて掲載し、本件の問題について関係者がそれぞれ、この
ように述べていることを、一の事実として掲載報道しているに過ぎないものと認め
られる。
 右の如き取り上げ方をした本件記事を綜合的全体的に観察する場合に、関係者の
一人の談話として末尾に掲載された本件被告人の談話の部分のみが果して名誉毀損
に該当する事実の摘示といえるか否か、更に、本件記事を取材しその原稿を作成し
これを編集者に提供したF記者およびこれを編集し新聞紙に掲載発行した編集責任
者に名誉毀損罪の正犯としての客観的および主観的要件が備わつているか否かの点
につき、すなわち原判決が正犯としている名誉毀損罪の成立についての原審の判断
は未だ十分首肯せしめるに足りないものがある。原判決は被告人の所為は名誉毀損
罪の幇助に該るものとしているのであるが、その前提となる正犯の確定について審
理不尽延いては法令違背の違法があり、これを破棄しなければ著しく正義に反する
ものと認めざるを得ない。
 よつて刑訴四一一条一号、四一三条本文に則り主文の如く判決する。
 この判決は裁判官池田克及び同河村大助の少数意見ある外全裁判官一致の意見で
ある。
 裁判官池田克、同河村大助の少数意見は、次のとおりである。
 多数意見後段の説示によると、原判決は、本件記事を取材して編集者に提供した
F記者及びこれを編集して新聞紙に掲載発行した編集責任者を本件名誉毀損罪の正
犯としているけれども、同記者等が正犯としての客観的及び主観的要件をそなえて
いるか否かの点については未だ十分に首肯せしめるに足りないものがあるとする。
その説示するところ抽象に過ぎ具体的に趣旨を捕捉し難いものであるが、これを多
数意見前段の説示と照合すると、その意味するところは、F記者等の右行為は、同
記者等の正当な業務行為の範囲に属し違法性が阻却される場合に当るものと認めら
れるにも拘らず正犯の成立あるものとした原判決には首肯し得ないものがあるとす
ると共に、右のようにF記者等の行為を正当業務行為の範囲に属するものとしてみ
ると、F記者の取材に応じた被告人の行為に対し原判決の如く幇助犯の成立を認め
ることは無意義となり、ただ、間接正犯の成否を問題とする余地を残すこととなる
ので、この問題を審判する必要があるものとしたものと解される。
 そうだとすると、この多数意見には賛同することができない。なるほど多数意見
も指摘するとおり、人権侵害、労働基準法違反等の疑があるとして関係官庁におい
て該当事実の有無について調査を開始したという事実は、公益に影響を及ぼすべき
問題でもあるから、報道機関としての新聞紙がこれをニユースとして取り上げ報道
することは、もとより許容されるべきところであるが、そのニユースは、公平且つ
正確であると共に真実に符合するものであることが要請されるのであつて(この点
につきF記者も、A新報福島支局記者Gも、いずれも第一審公判においてニユース
は「プレス・コード」に依拠していた旨供述しているところである。そして、その
「プレス・コード」とは、昭和二〇年九月一九日附連合国最高司令官の日本政府に
対する覚書「新聞規則」を指すものであるが、そこには、「ニユースは、厳格に真
実に符合するものたるべき」ことが、ニユースの最重要の基準として規定されてい
たところであつて、講和条約発効後の今日においても、その準則性には変りがない)、
本件において、F記者等が本件ニユースの取材報道に当り公平正確を期したことは
認められるとしても、F記者の原審公判における「自分は被告人の談話内容を真実
と考えたのではなく、事実の判断は読者にまかせる考えであつた」旨の証言からも
窺えるとおり、右被告人の談話ニユースが真実に符合するかどうかにつき調査した
何等の形跡も記録上認められないのであるから、F記者等の行為は、未だ以てその
正当業務の範囲に属する行為であるとすることはできない。
 しかし、右のように解するからといつて、原判決が認定した如きF記者等の正犯
の事実を肯定し得るものとするのではない。これを結論的にいえば、F記者等の行
為は本件名誉毀損罪の正犯としての主観的要件を欠き、従つて、被告人に対し幇助
犯としての刑責を負わしめるに由なく、本件の如き事実関係のもとにおいては、い
わゆる間接正犯にも当らないものと解するのが相当である。以下においてこれを詳
述する。
 原判決挙示の証拠によれば、F記者はA新報相馬通信部の外勤記者として、被告
人とCとの間に被告人が乗合自動車の運転中料金を横領したとの嫌疑により身体検
査を受けたこと及び退職する際に採られた手続の問題をめぐつて紛争を生じている
ことを耳にしていたところ、右紛争が被告人の申告によつて福島地方法務局相馬支
局及び相馬労働基準監督署の調査の対象となるに及び、これを社会ニユース記事と
して取材することを決意し、D法務支局長、E労働基準監督署監督官、被告人及び
Cに各面接し、それぞれ談話の要領を書き留める等の取材活動をした上、A新報に
報道記事として掲載すべき原稿を作成してこれを同新報本社に送付提供したこと、
及び本社編集者がこれに「年少者も酷使? B営業所人権問題、労基署でも調査へ」
なる見出しを付して編集した記事(証第四号)中、原判示引用の「解雇されたHさ
んの話」の部分がF記者の右書き留めた要領と同内容のものであり、且つ、右原稿
の一部をなすものであることを認定し得るのではあるが、第一審第二回公判調書中
のF記者の証言記載によれば、新聞は公正でなければならないので本件記事も、こ
れが取材に当つては厳正公平を期し、被告人の談話のみでなく反対当事者の立場に
あるC及び関係官庁係官等の談話をも併せて取材して原稿にまとめたもので、Cの
名誉を傷つける考えは毛頭なかつたのであり、現在においても同人の名誉を傷つけ
るものとは考えていない旨の供述があり、原審第二回公判調書中の同記者の証言記
載によつても、被告人とCとの紛争問題は巷のニユース・ソースから耳に入つてい
たが、それが実際面に現われて関係官庁の調査の対象とされるに至つたのでこれを
取材することとしたわけであり、このような事件は公共の利害に関し、且つ、問題
の性質上一方に偏しないように関係者の話を聞き掲載報道のため原稿を本社に提供
することは、新聞記者の義務であると考えたとの趣旨の供述があるのであつて、こ
れらの供述記載を本件記事(証第四号)の全構造と対照し、その他本件全証拠につ
いて勘案しても、F記者及びA新報編集者等にCの名誉を毀損する故意があつたも
のと認めることはできない。
 してみると、F記者の取材に応じた被告人は、原審の如く幇助犯を構成するもの
ということを得ないのみならず、F記者は以上の証拠からも明らかなとおり、被告
人、C間の紛争が当事者間の問題たるにとどまらず当該所轄官庁の調査の対象とな
るに及んでは公益に影響を及ぼすべき問題であるとしてこれをA新報に社会ニユー
ス記事として掲載報道するため被告人を右記事の取材に加功せしめたものであり、
被告人は単に同記者の問に答えたに過ぎないものであつてみると、本件記事の掲載
発行については、いわゆる間接正犯にも問擬し得ないものと解するを相当とする。
 よつて、被告人に対しては無罪の言渡しをすべきものと思料する。
 検察官 村上朝一出席
  昭和三五年一二月一六日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一

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