弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人萩原由太郎の上告理由第一点について。
 乙六号証によつては、本件定期預金が昭和二八年一月二八日に担保に供されたと
認められないこと所論のとおりであるとしても、論旨は、原審が傍論として仮定的
にした説示に対する非難であつて、判決に影響のない事項に関する主張たるに帰し、
適法な上告理由とは認められない。
 また原審は、昭和二八年六月二〇日に割増金附定期預金につき質権を設定し、も
つて新たな担保の供与をなした旨の上告人の主張を排斥して、上告人主張の本件定
期預金は、すでに昭和二六年八月以来被上告人のために担保に供されていたもので
あると認定しており、そして、昭和二八年六月二〇日当時破産会社が支払停止の状
態になく、受益者である被上告銀行が本件手形上の契約をなすにつき破産債権者を
害する事実を知らなかつた旨の第一審判決判示を引用しているのである。かかる事
実関係の下においては、破産者と被上告人との間における上告人主張の本件各法律
行為が破産法七二条一号または二号の規定により否認しうべき行為といえない旨の
原判示は正当として是認できる。この点に関する所論はひつきよう原審の認定に副
わない事実関係を前提として原判決の違法をいうに帰し、採るを得ない。
 同第二点について。
 所論の点に関する原審の事実認定は、挙示の証拠により是認できる。そして、原
判決は、昭和二六年七月二八日預入の定期預金につき、同年八月に、現在および将
来の債務を担保するため、これに質権を設定し、その後これが書換え継続されて、
昭和二八年一月預入の定期預金となつたものであつて、引きつづき破産者の債務の
担保に供されていたものであることを認めることができる旨を判示しているのであ
つて、右判示は、上告人の主張するところの昭和二八年六月二〇日質権を認定した
事実を否認する趣旨であることは判文上明らかである。されば所論は、ひつきよう
原審の裁量に属する証拠の取捨、事実の認定を非難するに帰し、所論の違法は認め
られない。
 同第三点について。
 所論の「割増金附貯蓄の取扱に関する法律」は、過当の射倖心をあおることを抑
制するため、割増金につき一定の制限を規定したものであつて、このような規定が
あるからといつて、所論のように割増金附預金が預金者と銀行との間の個別的な預
金契約でないと解さねばならぬものではない。所論は右説示と異なる独自の法律上
の見解ないし原審の認定に副わない事実関係を前提として、原判決の違法をいうも
のであつて採るを得ない。
 同第四点について。
 所論一ないし三にいう諸点についての原審の事実認定は、挙示の証拠により是認
できる。所論はひつきよう原審の裁量に属する証拠の取捨、事実の認定を非難する
に帰し、採るを得ない。また所論四は訴訟法違反をいうが、録音機が故障していて
も、立会書記官は調書をとつていることは記録上明らかであるから、所論の違法は
認められない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    高   木   常   七

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