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平成25年3月19日宣告裁判所書記官
平成24年わ)第769号殺人未遂被告事件
判決
主文
被告人を懲役3年に処する。
未決勾留日数中120日をその刑に算入する。
神戸地方検察庁で保管中の穴あき洋包丁1丁(平成24年領第
2191号符号1-1)を没収する。
理由
【犯罪事実】
被告人は,神戸市兵庫区ab丁目c番d号所在のアパートe3階に居住していたもの
であるが,平成24年9月28日午前11時頃,eの居室から3階廊下に出たところ,同
じe3階の住人で,以前口論をしたことがあったA(当時72歳)から,居室ドアの開閉
を静かにするよう注意された上,その顔面を拳で殴られるなどしたことから,これに腹を
立て,Aを脅して今後このような態度をとらないようにさせようと思い立った。そして,
前記居室から穴あき洋包丁(刃体の長さ約12.2センチメートル,平成24年領第21
91号符号1-1,以下本件包丁という。)を持ち出し,同日午前11時5分頃,e3階の
廊下で,Aに対して,本件包丁の刃先を向け,更に,Aが本件包丁を持った被告人の右手
をつかみ,被告人も左手でAの胸ぐらをつかむなどして揉み合いの状態になる中で,Aの
手をふりほどこうとして,Aの身体の至近距離で本件包丁を持った右手を振り回すなどの
暴行を加え,その際,Aにより加えられた力も相まって,本件包丁の刃先が,Aの左側胸
部に突き刺さったり,右頸部に当たるなどした。その結果,Aに,全治約45日間を要す
る,左側胸部刺創,左第3肋骨骨折,血気胸,右頸部切創,右手背切創等の傷害を負わせ
た。
【証拠の標目】
省略
【補足説明】
1本件の争点等
公訴事実の要旨は,被告人は,平成24年9月28日午前11時5分頃,e3階廊
下において,Aに対し,殺意をもって,手に持った本件包丁をAの左側胸部付近目掛けて
数回突き出して,左側胸部を1回突き刺し,本件包丁でAの右頸部等を切りつけるなどし
たが,Aが助けを求めて叫んだため,Aに犯罪事実記載の傷害を負わせたにとどまり,殺
害の目的を遂げなかった,というものである。
被告人が持っていた包丁の刃がAの身体に刺さるなどし,Aが犯罪事実記載の傷害
を負ったことは争いがない。争点は,第1に,どのような状況で本件包丁の刃がAの身体
に接触したのか(犯行状況),第2に,その際,被告人には殺意があったかどうか(殺意の
有無)である。
2当裁判所の判断
前提事実
以下の事実は,証拠上容易に認められ,かつ当事者間にも概ね争いがない。
ア本件当時,被告人はef号室に,Aはg号室に居住していた。
イ平成24年春頃,被告人がAに対してe3階の共同トイレのドアの開閉音がう
るさい旨注意したことをきっかけに被告人とAとが口論になったことがあった。それ以降,
被告人とAとは言葉を交わすことはなかった。
ウ本件当日である同年9月28日午前11時頃,被告人が炊事のために,f号室
から3階廊下に出たところ,たまたま廊下に居合わせたAが被告人に対して,居室ドアの
開け閉めの音がうるさい旨言ったことから口論となり,怒ったAが被告人の顔面に拳で殴
りかかるなどした(Aは,その拳は被告人の顔面には当たらなかった旨述べるが,被告人
は左目付近を殴られた旨述べており,逮捕直後に撮影された被告人の顔写真からは,被告
人の左目付近が腫れている様子もうかがわれることなどからして,Aの拳は被告人の左目
付近に当たったものと考えられる。)。
エ被告人は,f号室に戻り,同室内に置いてあった本件包丁を持ち,再び3階廊
下に出た。そして,同日午前11時5分頃,3階廊下で,Aに近づき,本件包丁の刃先を
Aに向けた。
オその後,被告人が手に持っていた本件包丁の刃がAの身体に突き刺さったり,
接触するなどし(このときの具体的な状況は争点であり,以下で検討する。),それによ
りAは犯罪事実記載のけがを負った。
カAはeの外に出て110番通報し,同日午前11時39分,被告人はf号室内
で逮捕された。
犯行状況についてのA及び被告人の供述の要旨
アAの供述の要旨
被告人は,包丁を右手に持ち,無言で二,三回A目掛けて突いてきたので,A
は,両手を上げ,のけぞって避けようとしたが,Aの左側胸部(左脇)に本件包丁が刺さ
った。その後,被告人は右上から左下,左上から右下に×字を描くように本件包丁を四,
五回振り下ろした。Aは,被告人から包丁をつかんで取り上げようとしたが,つかめず,
その際小指側の右手背を負傷した。それ以外の傷については,どのようにしてできたかわ
からない。
イ被告人の供述の要旨
被告人は,本件包丁を右手に持ってAに近付き,左腕を曲げてAを押すと共に
右手に持った本件包丁をAに見えるように自分のお腹のあたりまで上げた。すると,Aが
どちらかの手で本件包丁を持った被告人の右手首をつかんだので,被告人もAの胸ぐらを
つかんだ。その後,被告人は,Aの手をふりほどこうと,左右に右手を振るなどしたが,
Aが手を離したことから,被告人もAから体を離した。2人の体が離れるまで,被告人は
Aの胸ぐらと包丁から手を離したことはなかった。また,Aも被告人の包丁を持った右手
首を離したことはなかった。包丁がAに刺さった感触はなかったが,当たったかもしれな
いとは思った。
各供述の信用性
アAの供述の信用性
Aの供述については,軽視できない疑問がある。
すなわち,Aは,左脇を負傷した際,両手を挙げていた旨説明するが,包丁に
よる攻撃を受けた際,身体を防御するために反射的に手を身体の前に出して折りたたむな
どするのが自然と考えられ,両手を挙げて身体を包丁の前にさらすような動作をとるのは
いかにも不自然である。また,Aが述べるように被告人が手を自由に動かせる状態で一方
的に繰り返し攻撃したのであれば,Aの胸や腹などにほぼ同様のけがが集中し,相当程度
深い傷が生じてもおかしくないところ,実際にAの負ったけがは,上半身の広い範囲に分
散し,その多くは浅い傷で,傷のつき方も刺創や切創など多様である。しかるに,こうし
た不規則な傷がついた経緯についてはAはほとんど詳しい供述をしておらず,この点でも
供述の正確性に疑いを抱かざるを得ない。更に,Aは,事件直後第三者に対し,2本の包
丁で攻撃されたなどと,明らかに事実に反する説明をしていること,本件当日,Aは,自
ら被告人に対して因縁を付け,被告人を殴るなどした上,被告人が本件包丁を持ち出した
際にも挑発的な言動(「包丁を持ち出さないとけんかもできないのか」との趣旨の発言)を
し,逃げるようなそぶりを一切していないなど,終始けんか腰であったにもかかわらず,
被告人から本件包丁による攻撃を受けるや,それを避ける一方であったというのは不自然
さがあること,被告人とAとは本件の半年前に口論があったものの,その後は関わりがな
かったことからすると,本件当日,Aから殴られるなどして被告人が腹を立てたとはいえ,
一気に包丁で突き刺す行動に出るのもにわかに信じがたいこと等を考慮すると,Aの供述
は相当不正確である可能性があり,その信用性は低いというべきである。
イ被告人の供述の信用性
被告人の供述は,曖昧であったり,要領を得ない点も少なくない(例えば,A
の背中の傷や被告人の右手首の怪我が生じた経緯については,被告人の供述を前提にすれ
ば説明がつかない。)。しかし,前記のように,Aの上半身に生じた多くの不規則な傷につ
いては,被告人が述べるように,包丁を持った右手をつかまれ,必ずしも自由がきかない
状態でその右手を振り回した結果生じたものと考えてさほど不自然さはない。とりわけ,
Aの左脇や左腕のけがは,被告人の説明する状況では,ごく自然に生ずる可能性があり,
その点ではAの供述に比べて遙かに自然である。脅すために本件包丁を示したところ,A
から本件包丁を持った手をつかまれたという流れも,それに至る経緯に照らして違和感は
なく,Aの供述よりも自然である。
そうすると,被告人の供述は,もとより全面的に正確で信用できるとまではい
えないものの,前記のような供述の核心部分については,相応の信用性が認められ,少な
くとも,これを嘘であると断じることはできない。
本件で認定できる犯行状況
以上のとおり,犯行状況についての検察官の主張を支えるほぼ唯一の証拠である
Aの供述が信用できないのに対し,被告人の供述はこれを排除することができないから,
本件犯行状況については被告人の供述を基礎として認定すべきである。すなわち,被告人
は,脅すためにAに包丁を突き付けたところ,Aが被告人の右手首をつかみ,そのまま押
したり引いたりの揉み合いになったため,被告人は手を自由に動かすことができない中で,
Aの手をふりほどこうと手を振り回し,Aにより加えられた力も加わり,結果として包丁
がAの身体に突き刺さったり,体に触れるなどし,犯罪事実記載の傷害が発生した。
殺意の有無
先に認定した犯行状況を前提とすると,被告人は,狙ってAの左側胸部等を刺し
たわけではないから,自身の行為がAが死ぬ危険性の高い行為であるとわかって行ったと
はいえない。よって,被告人には殺意は認められない。
3結論
以上より,被告人には犯罪事実記載どおりの傷害罪が成立するにとどまる。
【法令の適用】
罰条刑法204条
刑種の選択懲役刑を選択
未決勾留日数の算入刑法21条
没収刑法19条1項2号,2項本文
(穴あき洋包丁1丁(平成24年領第2191号符号1-1)
は判示犯行の用に供した物で被告人以外の者に属しない)
訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書
【量刑の理由】
右手をつかまれていたとはいえ,被告人が,その手を振りほどこうとしてAの至近距
離で包丁を振り回した行為はやはり相当に危険な行為であった。左脇の刺創は肋骨を折り
肺まで達して血気胸を生じさせており,結果は軽視できない。本件が傷害事件にまで発展
した責任の一端は,被告人の顔面を殴り,けんか腰の態度に終始したAにもあるといえる
が,その点を踏まえても,同種事件の中では相応に重い事案とみるべきである。
加えて,被告人は,平成17年に隣人トラブルに端を発して,刃物を持ち出し隣人に
傷害を負わせたことにより懲役1年4月の実刑判決を受けたにもかかわらず,その服役後
6年ほどで再び本件犯行に至ったことをも考慮すると,主文程度の実刑は免れないと判断
した。
(求刑懲役10年,穴あき洋包丁の没収)
平成25年3月26日
神戸地方裁判所第4刑事部
裁判長裁判官丸田顕
裁判官片田真志
裁判官倉方ユリ

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