弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人の控訴を棄却する。
     原審及び当審の訴訟費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人齋藤護の上告理由について
 一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 被上告人は、不動産の売買等を目的とする株式会社であり、兵庫県佐用郡に
別荘地を開発し、いわゆるリゾートマンションであるD(以下「本件マンション」
という)を建築して分譲するとともに、スポーツ施設であるE倶楽部(以下「本件
クラブ」という)の施設を所有し、管理している。
 2 (一) 上告人らは、平成三年一一月二五日、被上告人から、持分を各二分の
一として、本件マンションの一区分である本件不動産を代金四四〇〇万円で買い受
け(以下「本件売買契約」という)、同日手付金四四〇万円を、同年一二月六日残
代金を支払った。本件売買契約においては、売主の債務不履行により買主が契約を
解除するときは、売主が買主に手付金相当額を違約金及び損害賠償として支払う旨
が合意されている。(二) 上告人Aは、これと同時に、被上告人から本件クラブの
会員権一口である本件会員権を購入し(以下「本件会員権契約」という)、登録料
五〇万円及び入会預り金二〇〇万円を支払った。
 3 (一) 被上告人が書式を作成した本件売買契約の契約書には、表題及び前書
きに「E倶楽部会員権付」との記載があり、また、特約事項として、買主は、本件
不動産購入と同時に本件クラブの会員となり、買主から本件不動産を譲り受けた者
についても本件クラブの会則を遵守させることを確約する旨の記載がある。(二) 
被上告人による本件マンション分譲の新聞広告には、「F(E倶楽部会員権付)」
との物件の名称と共に、本件マンションの区分所有権の購入者が本件クラブを会員
として利用することができる旨の記載がある。(三) 本件クラブの会則には、本件
マンションの区分所有権は、本件クラブの会員権付きであり、これと分離して処分
することができないこと、区分所有権を他に譲渡した場合には、会員としての資格
は自動的に消滅すること、そして、区分所有権を譲り受けた者は、被上告人の承認
を得て新会員としての登録を受けることができる旨が定められている。
 4 (一) 被上告人は、本件マンションの区分所有権及び本件クラブの会員権を
販売するに際して、新聞広告、案内書等に、本件クラブの施設内容として、テニス
コート、屋外プール、サウナ、レストラン等を完備しているほか、さらに、平成四
年九月末に屋内温水プール、ジャグジー等が完成の予定である旨を明記していた。
(二) その後、被上告人は、上告人らに対し、屋内プールの完成が遅れる旨を告げ
るとともに、完成の遅延に関連して六〇万円を交付した。上告人らは、被上告人に
対し、屋内プールの建設を再三要求したが、いまだに着工もされていない。(三) 
上告人らは、被上告人に対し、屋内プール完成の遅延を理由として、平成五年七月
一二日到達の書面で、本件売買契約及び本件会員権契約を解除する旨の意思表示を
した。
 二 本件訴訟は、(1) 上告人らがそれぞれ、被上告人に対し、本件不動産の売
買代金から前記の六〇万円を控除し、これに手付金相当額を加えた金額の半額であ
る各二三九〇万円の支払を、(2) 上告人Aが、被上告人に対し、本件会員権の登
録料及び入会預り金の額である二五〇万円の支払を請求するものである。
  原審は、前記事実関係の下において、次のとおり判示して、上告人らの請求を
認容した第一審判決を取り消し、上告人らの請求をいずれも棄却した。すなわち、
(一) 本件不動産と本件会員権とは別個独立の財産権であり、これらが一個の客体
として本件売買契約の目的となっていたものとみることはできない。(二) 本件の
ように、不動産の売買契約と同時にこれに随伴して会員権の購入契約が締結された
場合において、会員権購入契約上の義務が約定どおり履行されることが不動産の売
買契約を締結した主たる目的の達成に必須であり、かつ、そのことが不動産の売買
契約に表示されていたときは、売買契約の要素たる債務が履行されないときに準じ
て、会員権購入契約上の義務の不履行を理由に不動産の売買契約を解除することが
できるものと解するのが相当である。(三) しかし、上告人らが本件不動産を買い
受けるについては、本件クラブの屋内プールを利用することがその重要な動機とな
っていたことがうかがわれないではないが、そのことは本件売買契約において何ら
表示されていなかった。(四) したがって、屋内プールの完成の遅延が本件会員権
契約上の被上告人の債務不履行に当たるとしても、上告人らがこれを理由に本件売
買契約を解除することはできない。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の
とおりである。
 1 前記一4(一)の事実によれば、本件クラブにあっては、既に完成しているテ
ニスコート等の外に、その主要な施設として、屋外プールとは異なり四季を通じて
使用の可能である屋内温水プールを平成四年九月末ないしこれからそれほど遅れな
い相当な時期までに完成することが予定されていたことが明らかであり、これを利
用し得ることが会員の重要な権利内容となっていたものというべきであるから、被
上告人が右の時期までに屋内プールを完成して上告人らの利用に供することは、本
件会員権契約においては、単なる付随的義務ではなく、要素たる債務の一部であっ
たといわなければならない。
 2 前記一3の事実によれば、本件マンションの区分所有権を買い受けるときは
必ず本件クラブに入会しなければならず、これを他に譲渡したときは本件クラブの
会員たる地位を失うのであって、本件マンションの区分所有権の得喪と本件クラブ
の会員たる地位の得喪とは密接に関連付けられている。すなわち、被上告人は、両
者がその帰属を異にすることを許容しておらず、本件マンションの区分所有権を買
い受け、本件クラブに入会する者は、これを容認して被上告人との間に契約を締結
しているのである。
   このように同一当事者間の債権債務関係がその形式は甲契約及び乙契約とい
った二個以上の契約から成る場合であっても、それらの目的とするところが相互に
密接に関連付けられていて、社会通念上、甲契約又は乙契約のいずれかが履行され
るだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないと認められる場合には、
甲契約上の債務の不履行を理由に、その債権者が法定解除権の行使として甲契約と
併せて乙契約をも解除することができるものと解するのが相当である。
 3 これを本件について見ると、本件不動産は、屋内プールを含むスポーツ施設
を利用することを主要な目的としたいわゆるリゾートマンションであり、前記の事
実関係の下においては、上告人らは、本件不動産をそのような目的を持つ物件とし
て購入したものであることがうかがわれ、被上告人による屋内プールの完成の遅延
という本件会員権契約の要素たる債務の履行遅滞により、本件売買契約を締結した
目的を達成することができなくなったものというべきであるから、本件売買契約に
おいてその目的が表示されていたかどうかにかかわらず、右の履行遅滞を理由とし
て民法五四一条により本件売買契約を解除することができるものと解するのが相当
である。
 四 したがって、上告人らが本件売買契約を解除することはできないとした原審
の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及
ぼすことが明らかであるから、この点をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免
れない。そして、原審の確定した事実によれば、上告人らの請求を認容した第一審
判決は正当として是認すべきものであって、被上告人の控訴を棄却すべきである。
 よって、原判決を破棄して被上告人の控訴を棄却することとし、民訴法四〇八条、
三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    大   野   正   男
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    尾   崎   行   信

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