弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
原判決を破棄する。
本件を仙台高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人佐藤欣哉ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)
について
 1 本件は,山形県のa町(以下「町」という。)の住民である上告人らが,被
上告人が町長在職中に町の財産である砂利を低廉な価格で第三者に譲渡したことに
より,町が損害を被ったとして,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前
のもの)242条の2第1項4号に基づき,町に代位して,被上告人に対し損害賠
償を求めている事案である。
 2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 株式会社D(以下「D」という。)は,平成10年及び同11年に町の所
有地から砂利を無償で採取し,これを株式会社E工務店に売却した。
 (2) Dによる上記の砂利採取に関し,被上告人は,町長として,平成12年3
月8日,Dとの間で次のとおり合意した(以下,この合意を「本件合意」といい,
本件合意に係る町からDに対する砂利の譲渡を「本件譲渡」という。)。
 ア Dが平成10年に採取した砂利が2万0150m3であることを確認し,D
は町に対し砂利採取料として1m3当たり20円,合計40万3000円を支払う。
 イ Dが平成11年に採取した砂利が2万4460m3であることを確認し,D
は町に対し砂利採取料として1m3当たり20円,合計48万9200円を支払う。
 (3) Dは,平成12年3月10日,町に対し,本件合意に基づく砂利採取料合
計89万2200円を支払った。
 (4) 町議会は,平成12年3月17日,本件合意に基づきDから町に支払われ
た砂利採取料を財産収入として計上した平成11年度の一般会計補正予算(以下「
本件補正予算」という。)を可決した。町議会における本件補正予算の審議におい
ては,議員から1m3当たり20円という本件譲渡の単価が適正な対価といえるの
かどうか質問があり,これに対し,町長側においては,近傍区域の類似の取引事例
における単価を参考にして上記単価を決定したことなどを説明した。
 (5) 被上告人は,本件譲渡が適正な対価によるものであると主張するとともに
,仮に本件譲渡が適正な対価によらないものであったとしても,本件補正予算の可
決をもって地方自治法237条2項の議会の議決を欠いた瑕疵は治癒されたと主張
している。
 3 原審は,本件譲渡が適正な対価によるものであるかどうかにつき判断するこ
となく,要旨次のとおり述べて,本件譲渡については地方自治法237条2項の議
会の議決を欠いた違法はないとして,上告人らの請求を棄却すべきものとした。
 (1) 普通地方公共団体が地方自治法237条2項の議会の議決を経ずに財産の
譲渡又は貸付け(以下,両者を併せて「譲渡等」という。)をした後,議会が,そ
の対価に着目して当該譲渡等の必要性及び妥当性について審議し,これを妥当なも
のとして認める趣旨の議決をしたときは,仮に当該譲渡等が適正な対価によらない
ものであったとしても,同項の議会の議決を欠いた瑕疵は治癒されると解するのが
相当である。そして,この場合において,同項の議会の議決があったというために
は,議会において当該譲渡等が適正な対価によらないものであるとの認識を持って
議決することまでは必要なく,実質的に対価の妥当性が審議されていればそれで足
りるというべきである。
 (2) 町議会は,本件補正予算の審議において,対価との関連で本件譲渡の必要
性及び妥当性について審議し,これを妥当なものと認めた上,本件補正予算を可決
したのであるから,仮に本件譲渡が適正な対価によらないものであったとしても,
本件補正予算の可決をもって地方自治法237条2項の議会の議決があったという
ことができるのであって,同項の議会の議決を欠いた瑕疵は治癒されたというべき
である。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
 地方自治法237条2項は,条例又は議会の議決による場合でなければ,普通地
方公共団体の財産を適正な対価なくして譲渡し,又は貸し付けてはならない旨規定
している。一方,同法96条1項6号は,条例で定める場合を除くほか,財産を適
正な対価なくして譲渡し,又は貸し付けることを議会の議決事項として定めている。
これらの規定は,適正な対価によらずに普通地方公共団体の財産の譲渡等を行うこ
とを無制限に許すとすると,当該普通地方公共団体に多大の損失が生ずるおそれが
あるのみならず,特定の者の利益のために財政の運営がゆがめられるおそれもある
ため,条例による場合のほかは,適正な対価によらずに財産の譲渡等を行う必要性
と妥当性を議会において審議させ,当該譲渡等を行うかどうかを議会の判断にゆだ
ねることとしたものである。このような同法237条2項等の規定の趣旨にかんが
みれば,同項の議会の議決があったというためには,当該譲渡等が適正な対価によ
らないものであることを前提として審議がされた上当該譲渡等を行うことを認める
趣旨の議決がされたことを要するというべきである。議会において当該譲渡等の対
価の妥当性について審議がされた上当該譲渡等を行うことを認める趣旨の議決がさ
れたというだけでは,当該譲渡等が適正な対価によらないものであることを前提と
して審議がされた上議決がされたということはできない。
 これを本件についてみると,原審は,町議会が本件補正予算を可決するに当たり
本件譲渡が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上その
議決がされた事実を確定しておらず,原審が確定した事実関係の下においては,本
件補正予算の可決をもって本件譲渡につき地方自治法237条2項の議会の議決が
あったということはできない。
 5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本件譲渡の対価
が適正な対価といえるのかどうかなどについて更に審理を尽くさせるため,本件を
原審に差し戻すのが相当である。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 横尾和子 裁判官 泉 徳治 裁判官 島
田仁郎 裁判官 才口千晴)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛