弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中「当審における未決勾留日数中七十日を原判決の懲役八月の刑
に算入する。」との部分を破棄する。
     原審における未決勾留日数九日を第一審判決の懲役八月の刑に算入する。
     検祭官のその余の部分に対する本件上告および被告人の本件上告をいず
れも棄却する。
         理    由
 被告人本人の上告趣意一は、原判決に対する論難の趣旨を含むものでないから不
適法であり、同二は、事実誤認の主張を出ないものであつて、適法な上告理由に当
らない。
 弁護人坂田豊喜の上告趣意は、事実誤認、量刑不当の主張であつて、適法な上告
理由に当らない。
 福岡高等検察庁検事長柳川真文の上告趣意について。
 記録によれば、被告人は昭和三六年一一月二四日福岡地方裁判所において第一審
判決判示第一の一の罪につき懲役一年二月(未決勾留日数中一二〇日裁定算入)、
同二の罪につき懲役八月、同三の罪につき懲役二月の各言渡を受けたものであるが、
これよりさき起訴前の昭和三六年六月三日右一の罪につき勾留状の執行を受け、後
記の経緯により、右罪に対する刑の執行が開始された日の前日である昭和三七年二
月二日まで引き続き勾留を継続されていたこと、前記第一審判決に対し昭和三六年
一二月七日全部控訴の申立をしたが、同月九日前記三の罪につき控訴を取り下げ、
同月一四日から、これに対する前記懲役二月の刑(未決勾留日数一三日法定通算)
の執行を受け、昭和三七年一月三一日刑期満了したが、同年二月三日さらに前記一
の罪につき控訴を取り下げ、即日これに対する前記懲役一年二月(未決勾留日数一
二〇日裁定算入)の執行を受けたこと、しかして、原判決は前記二の罪についての
控訴を棄却するとともに、原審における未決勾留日数中七〇日を、これに対する前
記懲役八月の刑に算入する旨言い渡したものであることを明認することができる。
 してみれば、被告人の原審における未決勾留日数(本件控訴申立の日である昭和
三六年一二月七日から本件勾留の継続された昭和三七年二月二日まで計五八日)中、
昭和三六年一二月一四日から昭和三七年一月三一日までの四九日間は、前記三の罪
についての刑の執行と競合していたのであり、懲役刑の執行として一個の拘禁のみ
が存在していたものと解すべきであつて、かかる場合に重複する未決勾留日数を本
刑に算入することは不当に被告人に利益を与えるものとして違法であり、かつ、昭
和三七年二月三日以後は、本刑に算入すべき未決勾留日数の存しないこと明白であ
るので、原判決中、原審未決勾留日数七〇日の本刑算入を言い渡した部分は、所論
各判例に違反するとともに、刑法二一条の適用を誤つた違法があるものというべく、
論旨は理由があり、原判決中の右部分は刑訴四〇五条二号、四一〇条一項本文、四
一一条一号により破棄を免かれない。
 よつて、同四一三条但書により原判決中「当審における未決勾留日数中七十日を
原判決の懲役八月の刑に算入する。」との部分を破棄し、刑法二一条に則り原審に
おける未決勾留日数九日を第一審判決の懲役八月の刑に算入し、原判決その余の部
分に対する検祭官の上告は上告趣意として何らの主張がなく、従つてその理由がな
いことに帰し、被告人の本件上告は全部理由がないから、刑訴四一四条、三九六条
により右各上告をいずれも棄却し、同一八一条一項但書により、当審における訴訟
費用は被告人に負担させないこととし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決
する。
 検察官 玉沢光三郎公判出席
  昭和三九年一〇月二七日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    田   中   二   郎

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