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平成27年11月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成26年(ワ)第1459号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論の終結の日平成27年9月29日
判決
東京都江戸川区<以下略>
原告株式会社シラヤマ
同訴訟代理人弁護士宗田親彦
鈴木太一
鈴木英之
同補佐人弁理士宇野晴海
広島県呉市<以下略>
被告株式会社ダイクレ
同訴訟代理人弁護士木下洋平
同補佐人弁理士佐藤晃一
亀卦川巧
主文
1被告は,別紙被告製品目録3記載の鋼製地覆を製造し,使用し,譲渡し,
貸し渡し,若しくは輸出し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならな
い。
2被告は,別紙被告製品目録3記載の鋼製地覆,その半製品及びそれらを製
造するための金型を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,794万7000円及びこれに対する平成26年3
月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4原告のその余の請求を棄却する。
5訴訟費用は,これを3分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負
担とする。
6この判決は,第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1主文第1項,第2項同旨
2被告は,原告に対し,1720万6051円及びこれに対する平成26年
1月31日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
第2事案の概要
以下,中間判決(同判決書写しは別添のとおり)において用いられた略語は,
本判決においてもそのまま用いる。
本件は,発明の名称を「道路橋道路幅員拡張用地覆ユニット及び道路橋道路
幅員拡張用地覆ユニット設置方法」とする特許権,及び意匠に係る物品を「道
路橋道路幅員拡張用張出し材」とする意匠権を有する原告が,被告による被告
製品1ないし3の製造,譲渡等は原告の上記特許権及び意匠権を侵害すると主
張して,被告に対し,特許法100条1項,2項ないし意匠法37条1項,2
項に基づいて,被告製品3の譲渡等の差止め及び廃棄等を求めるとともに,不
法行為に基づき,損害賠償金1720万6051円及びこれに対する訴状送
達日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支
払を求める事案である。
なお,当裁判所は,平成27年7月30日,上記特許権侵害に基づく請求に
ついて,被告製品2及び3が本件発明の技術的範囲に属する(被告製品1は同
技術的範囲に属さない)旨の中間判決を言い渡した。
1前提事実(証拠等を掲げた事実以外は,当事者間に争いがない。)
本件の前提事実は,中間判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」
の「1前提事実」を引用する(なお,以下,特許第3377764号に係る
原告の特許権を「本件特許権」という。)ほか,以下のとおりである。
(1)原告の意匠権
ア(ア)原告は,次の意匠権を有している(以下,この意匠権を「本件意匠
権1」といい,その登録意匠を「本件意匠1」という。)。なお,本件
意匠1は,下記イの登録意匠を本意匠とする関連意匠である。
登録番号意匠登録第1118381号
出願日平成11年7月26日
登録日平成13年6月22日
意匠に係る物品道路橋道路幅員拡張用張出し材
(イ)本件意匠1は,本判決添付の意匠公報(意匠登録第1118381
号)の【図面】記載のとおりである。
イ(ア)原告は,次の意匠権(以下,この意匠権を「本件意匠権2」といい,
その登録意匠を「本件意匠2」という。また,本件意匠権1及び同2を
総称して「本件意匠権」といい,本件意匠1及び同2を総称して「本件
意匠」という。)を有している。なお,本件意匠2は,本件意匠1を関
連意匠とする本意匠である。(甲18)
登録番号意匠登録第1117920号
出願日平成11年7月26日
登録日平成13年6月22日
意匠に係る物品道路橋道路幅員拡張用張出し材
(イ)本件意匠2は,本判決添付の意匠公報(意匠登録第1117920
号)の【図面】記載のとおりである。
(2)本件意匠の構成
ア本件意匠1
(ア)基本的構成態様
正面視左右方向に長く,長手方向に中空の直方体(中空筒体)を有し,
中空筒体の正面側の面(前面側)の外方に向けて底面側の面(底面側)
が全面に亘って延伸して延伸部が形成され,底版部(底面側と延伸部か
らなる)の下面に,その左右方向の全面に亘って下方に延びる四角板状
体(腹板)が形成され,中空筒体の背面側の面(背面側)の下の底面側
の下面から,腹板の最低位までを直線状に繋ぐ三角板状体(リブ)が左
右方向に複数形成されている。
(イ)具体的構成態様
a中空筒体,延伸部,腹板,及びリブは,それぞれ,薄板で形成され,
中空筒体の前面側,平面側の面(上面側),及び背面側は,左右方
向の両端部の全面に亘って2層構造で,内側の層が底面側よりも左
右方向に延在して嵌込片が形成され,底面側と延伸部の前後方向寸
法の比率は約7:5で,前面側と腹板の上下方向寸法の比率は約
4:3である。
b延伸部の上面には,前面側の外面から延伸部の端部まで直線状に延
びる直方体(補強リブ)が左右方向両端から端に位置する補強リブ
までの間隔と延伸部上の補強リブ同士の間隔が1:2になるように
等間隔に6本設けられている。
c前面側には,それぞれの延伸部上の補強リブの真上に位置する,上
下に狭い間隔を空けて2つ並んだボルト(前面側ボルト)が,上側
と下側のそれぞれにおいて,上下方向の位置が一致するように設け
られている。
d延伸部の,前面側より遠位で,且つ,左右及び中央の3箇所に想定
される一対の補強リブの間の中央部には,左右方向に長い楕円形の
孔(底版部固定用ボルト孔)が1個ずつ設けられている。
e背面側の上下方向中間位置より僅かに下の位置には,ボルト(背面
側ボルト)が,前面側ボルトと左右方向に同じ位置に1個ずつ,上
下方向の位置が一致するように設けられている。
f中空筒体の左右両端部の内側には,前面側,背面側,及び底面側と
連続し,底面側上面から上面側下面までの高さの約8割の高さを有す
る仕切り板(底版部の補強リブ)が設けられている。
g腹板は,延伸部と底面側の境に近い延伸部の下面に形成されている。
hリブは,左右及び中央の3箇所に想定される一対の背面側ボルトの
間の中央部に位置するように1枚ずつ設けられている。
イ本件意匠2
(ア)基本的構成態様
本件意匠1と同じ。
(イ)具体的構成態様
以下の点を除き,本件意匠1と同じである。
a底面側と延伸部の前後方向寸法の比率は約1.1:0.3で,前面
側と腹板の上下方向寸法の比率は約1.4:0.9である。
c前面側には,それぞれの補強リブの真上に位置する,上下に広い間
隔を空けて2つ並んだ前面側ボルトが,上側と下側のそれぞれにおい
て,上下方向の位置が一致するように設けられている。
g腹板は,底面側の前後方向の中央より僅かに前面側寄りの下面に形
成されている。
(3)被告の行為
被告製品は,「スチールウイング」という製品名のプレキャスト鋼製張出
し地覆であり,本件意匠に係る物品である道路橋道路幅員拡張用張出し材と
同一又は類似である。被告製品の意匠は,別紙被告製品目録1ないし3記載
のとおりである(以下,被告製品1の意匠を「被告意匠1」といい,被告製
品2の意匠を「被告意匠2」といい,被告製品3の意匠を別紙被告製品目録
3の「4カタログ上の被告製品の記載」の符号に従って「被告意匠3(1)」
ないし「被告意匠3(2)」といい,これらを総称して「被告意匠」とい
う。)。
2争点
本件の争点は,中間判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の
「2争点」を引用するほか,以下のとおりである。
(1)被告意匠の構成(争点1)
(2)被告製品の製造等は本件意匠権を侵害するか(争点2)
(3)本件特許権又は本件意匠権の侵害により原告が受けた損害の額(争点3)
3争点に関する当事者の主張
本件の争点に関する当事者の主張は,中間判決の「事実及び理由」欄の「第
2事案の概要」の「3争点に関する当事者の主張」を引用するほか,以下
のとおりである。
(1)争点1(被告意匠の構成)について
被告意匠の構成に関する当事者の主張は,別紙被告意匠の構成1ないし3
(2)記載のとおりであり,概ね中間判決の「事実及び理由」欄の「第2事
案の概要」の「3争点に関する当事者の主張」の「(1)争点(1)について」
と同旨の理由により,原告は,被告製品は腹板及びリブに相当するブラケッ
トを具えている旨主張し,被告は,被告製品における張出地覆とブラケット
を一体として評価することはできない旨主張する。
(2)争点2(被告製品の製造等は本件意匠権を侵害するか)について
ア原告の主張
(ア)本件意匠の要部
道路橋道路幅員拡張用張出し材の取引者・需要者は,道路橋を管理等
する地方公共団体又は道路橋工事を受注したゼネコン業者(下請業者を
含む。)である。取引者・需要者は,製品のカタログの右断面図等から,
鋼製中空筒体,延伸部,腹板,補強リブ等の製品全体の基本的構成態様
を認識するし,かかる基本的構成態様が道路橋の幅員を拡幅する技術に
照らして重要な物品の形状である。本件意匠の出願時において,道路橋
の道路幅員を拡幅するための「張出地覆」という形状(基本的構成態様)
の工業製品は存在しなかったことからも,基本的構成態様自体が要部で
あるといえる。
これに対して,補強リブの本数又は配置比率,前面側ボルトが設けら
れている位置及び個数,背面側ボルトが設けられている位置及び個数等
は,橋梁内部の鉄筋探査の結果等に従って,その都度必要に応じて変更
されるものにすぎず,もともと安全性等機能上の必要性に応じて変化す
るものであるから,これらは要部たり得ない。
したがって,本件意匠の要部は,基本的構成態様である。
(イ)本件意匠と被告意匠の類否
本件意匠と被告意匠は全て要部である基本的構成態様を共通にしてい
る。本件意匠と被告意匠とには,①補強リブの本数又は配置比率,②前
面側ボルトが設けられている位置及び個数,③背面側ボルトが設けられ
ている位置及び個数等といった差異があるが,これらは,橋梁内部の鉄
筋探査の結果等に従って,機能上必要に応じて定まるものにすぎない。
また,補強リブは舗装層によって隠れる部分であるし,この種の物品を
背面から評価することはないため,上記①,③についてはこの点からも
微細な差違にすぎない。そして,被告意匠と本件意匠の要部に係る構成
の共通性は,要部以外の微細な差異を凌駕するものである。
したがって,本件意匠と被告意匠は,取引者・需要者に共通の美感を
生じさせるから,被告意匠は本件意匠にいずれも類似する。
イ被告の主張
(ア)本件意匠の要部
道路橋道路幅員拡張用張出し材は,取引者・需要者である道路橋を管
理等する地方公共団体の注文を受けて,その道路橋に合った製品を設
計・製造し,その橋ごとに施工する完全な受注生産品である。したがっ
て,取引者・需要者たる地方公共団体は,製品自体ではなく,カタログ
に載っている施工中又は施工後の道路橋等の写真,完成予想図あるいは
その現場を見て判断するが,その際取引者・需要者が最も注意を惹かれ
る部分は,施工完了後も露出する前面側及び背面側,特に,施工後に橋
の利用者にとって最も目に付く前面側の舗装層によって隠れない部分で
ある。原告は,基本的構成態様自体が要部であると主張するが,道路橋
道路幅員拡張用張出し材において,基本的構成態様自体が要部になり得
るはずがない。意匠の要部は,意匠に係る物品の性質・用途等を考慮し
て,どの部分が視覚的に注意を惹きやすいかが問題となるのであって,
本物品の技術のみに着目して要部を認定するのは誤りである。
本件意匠の要部において特徴的なのは,前面側ボルトが,それぞれの
補強リブの真上に,上下2本ずつ並び,道路橋道路幅員拡張用張出し材
が左右方向に連結された際,その補強リブ及び前面側・背面側ボルトが
全て等間隔に並ぶよう配置されている点である。本件意匠1及び同2は
本意匠と関連意匠の関係にあるから,両者の共通する部分である前面側
及び背面側の前記特徴が要部に当たるものである。
(イ)本件意匠と被告意匠の類否
被告意匠はいずれも,腹板及びリブが形成されていないという点にお
いて本件意匠とは基本的構成態様が異なる上,具体的構成態様につい
ても,前記(ア)のとおりの本件意匠の要部の特徴に比べて,補強リブ
の本数又は配置比率,前面側ボルト及び背面側ボルトが設けられてい
る位置及び個数で相違するから,本件意匠の要部における特徴的な構
成を有しない。
したがって,本件意匠と被告意匠とは類似しない。
(3)争点3(本件特許権又は本件意匠権の侵害により原告が受けた損害の額)
について
ア原告の主張
被告製品1の設置延長は,合計99.3メートルであり,被告製品2の
設置延長は,131.923メートルである。被告製品の1メートル当た
りの単価は,22万5555円であり,同業者の利益率は30パーセント
であるから,被告が得た利益は,1564万6051円を下らず,特許法
102条2項,意匠法39条2項により,原告は少なくとも同額の損害を
被ったものと推定される。原告が本件訴訟に要した弁護士費用は,156
万円を下らない。以上によれば,原告が受けた損害の額は1720万60
51円である。
イ被告の主張
否認ないし争う。被告製品2の販売による被告の売上高は,2409万
円であり,同業者の利益率は30パーセントであるから,被告が得た利益
は,722万7000円である。
第3当裁判所の判断
当裁判所の判断は,中間判決の「事実及び理由」欄の「第3当裁判所の判
断」を引用するほか,以下のとおりである。
1争点1(被告意匠の構成)について
中間判決の「事実及び理由」欄の「第3当裁判所の判断」の「1争点
(1)について」記載のとおり,被告製品における張出地覆とブラケットは一体
の製品として製造,販売されていると評価するのが相当であると認められるか
ら,被告意匠の構成としてブラケットの構成も特定すべきであるといえるが,
原告も自認するとおり,張出地覆とブラケットは,形式的には2つの部品に分
かれているのであるから,被告意匠の基本的構成態様にはブラケットが独立し
た部品であることが特定される必要があるというべきである。
なお,被告意匠3(1)及び同(2)は,被告製品のカタログ(甲7,乙1)記載
の意匠であるところ,原告の主張するとおり,カタログからは細部が不明とい
うほかない。
したがって,被告意匠の構成については,当事者間に争いのない事実及び弁
論の全趣旨(原告の平成26年10月31日付「請求の趣旨変更の申立書」の
別紙被告製品目録1及び2,被告の同年11月17日付「準備書面(5)」の1
5,16頁等)によれば,別紙被告意匠の構成1ないし3(2)の当裁判所の判
断欄記載のとおり認定すべきである。
2争点2(被告製品の製造等は本件意匠権を侵害するか)について
(1)本件意匠と被告意匠との対比
ア本件意匠と被告意匠とは,いずれも,基本的構成態様において,正面視
左右方向に長く,長手方向に中空の直方体(中空筒体)を有し,中空筒体
の正面側の面(前面側)の外方に向けて底面側の面(底面側)が全面に亘
って延伸して延伸部が形成されている点において共通するが,被告製品に
おける,底版部(底面側と延伸部からなる)の下面にその左右方向の全面
に亘って下方に延びる床版取付部は,別部品であるブラケットの一部であ
り,天板部を介して取り付けられている点,及びブラケットのリブは水切
り垂下部から床版取付部の下方までを直線状に繋いでいる点において相違
する。
イ本件意匠と被告意匠1及び同2とは,いずれも,具体的構成態様におい
て,構成イ(別紙被告意匠の構成1ないし3(2)の当裁判所の判断欄記載
の構成符号。以下同じ。)の補強リブの本数又は配置比率,構成ウの前面
側ボルトが設けられている位置及び個数,及び構成オの背面側ボルトが設
けられている位置及び個数で相違する。また,その他の構成ア,エ,カ,
キ,ク,ケについては,本件意匠2と被告意匠1及び同2の構成クが共通
する点を除いては,それぞれ細部において相違する部分がある。
また,本件意匠と被告意匠3(1)及び同(2)とは,構成イ,ウ,エ,オ,
ケについて被告意匠の構成の細部が認定できないため,共通するとはいえ
ない。構成クについては,本件意匠1と被告意匠3(1)及び本件意匠2と
被告意匠3(2)とが共通し,本件意匠1と被告意匠3(2)及び本件意匠2と
被告意匠3(1)とは相違する。その他の構成ア,カ,キについては,それ
ぞれ細部において相違する部分がある。
(2)本件意匠の要部
ア証拠(甲5,7,乙1)及び弁論の全趣旨を総合すれば,意匠に係る物
品「道路橋道路幅員拡張用張出し材」は,完全な受注生産品であり,取引
者・需要者たる道路橋を管理等する地方公共団体等は,原告や被告の発行
する製品カタログ等の記載に基づき取引をすると考えられるところ,原告
の販売する製品のカタログ(甲5)に掲載されている写真又は図はいずれ
も単体の意匠ではなく施工中又は施工後の道路橋等のものであり,前面側
斜視及び背面側斜視からの写真が多いこと,被告製品のカタログ(甲7,
乙1)に掲載されている図面は右断面図(別紙被告製品目録3記載のもの)
であり,写真は前面側及び前面側斜視からのものであること,施工完了後
に露出する部分は主として本件意匠の前面側及び背面側であることが認め
られ,また,橋の施工後の使用態様に鑑みれば,橋の利用者等による視線
にさらされやすいのは前面側の舗装層によって隠れない部分であることが
認められる。そうすると,取引者・需要者としては,製品カタログ等の記
載を見て施工後に露出する部分に特に注意して取引をすると考えられ,前
面側の舗装層によって隠れない部分が要部であると認められる。なお,本
件意匠1及び同2は本意匠と関連意匠の関係にあるから,要部は両者で共
通する部分であると考えられるところ,前面側の特徴は前記第2の1「前
提事実」(2)記載のとおり概ね共通するといえる。
イこの点,原告は,本件意匠の基本的構成態様自体が要部であると主張す
るところ,その趣旨は,右断面図等の側面視による本件意匠の構成を要部
として主張する趣旨であると解されるが,かかる側面視の構成は,橋の施
工により左右方向に連結され隠れてしまう部分であるから,取引者・需要
者が,「道路橋道路幅員拡張用張出し材」の取引に当たってかかる部分に
特に注意して取引をするとは認めがたく,原告の上記主張は採用できない。
現に,前記ア記載のとおり,原告の販売する製品のカタログには,取引
者・需要者が側面視による本件意匠の構成を認識し得るような右断面図等
は掲載されていない。
原告は,さらに,本件意匠の基本的構成態様が道路橋の幅員を拡幅する
技術に照らして重要な物品の形状であること,同種の基本的構成態様を備
える公知意匠は存在しなかったこと,前面側ボルト等は機能的必要性に応
じて変化するものであることなどを主張するが,いずれも,意匠に係る物
品の性質・用途等を考慮して視覚的に取引者・需要者の注意を惹きやすい
部分を認定する要部認定に当たって重視することはできず,前記要部の認
定を左右するものではない(なお,現に,本件意匠と基本的構成態様が類
似する意匠(乙26ないし30)が,本件意匠に係る意匠登録出願よりも
後に意匠登録出願されて意匠登録されている。)。
(3)本件意匠と被告意匠との類否
ア本件意匠の要部(前面側の舗装層によって隠れない部分)において特徴
的なのは,前面側ボルトが,上下に2つ並び,上側と下側のそれぞれにお
いて,上下方向の位置が一致するように設けられており,左右方向両端か
ら端に位置する前面側ボルトまでの間隔と前面側ボルト同士の間隔が,
1:2になっていることであるといえる。
イ他方,被告意匠1及び2の前面側には,底面側に近い位置に,1列の前
面側ボルトが設けられているが(具体的構成態様ウ),これは施工後に露
出する部分ではない(甲7,11,13,乙1,21)ため,施工後の前
面側はボルト等の突起物のない状態となる。
すなわち,別紙要部(前面側)の比較図(但し,「乃至4」とある
部分を削除する。)記載のとおり,本件意匠においては,施工後におい
ても,前面側ボルトが上下方向の位置が一致するように上下に2つずつ等
間隔に整然と並んでいる点が特徴的で,本件意匠自体からも前面側ボルト
が強い印象を受けるが,被告意匠においては,前面側ボルトが施工後は視
認できない位置にあり,この印象の差違は大きい。
なお,被告意匠3(1)及び同(2)の前面側の構成については前記1記載の
とおり細部が不明というほかないから,要部が共通するとはいえない上,
被告意匠3(1)及び同(2)に基づいて実際に施工された被告意匠2の前面側
の構成は上記のとおりであって,本件意匠とは要部に大きな差違があるの
であるから,結局,被告意匠3(1)及び同(2)についても,被告意匠1及び
同2と同様に,要部に大きな差違があるというべきである。
ウこの点,原告は,前面側ボルトの取り付け位置等は現場での機能的要請
等で決定されるものであって,美観とは全く無関係の事情であると主張す
る。しかしながら,これは本件意匠に係る図面から離れて本件意匠の範囲
を定めようとする主張であって失当と言わざるを得ない上,ボルトの位置
が美観とは無関係の事情であるともいえないから,原告の上記主張には理
由がない。
エそうすると,本件意匠と被告意匠は,要部において構成態様に大きな差
違があり,両意匠を全体として観察した際に,看者に対し異なる美感を起
こさせるものと認められる。
したがって,本件意匠と被告意匠はいずれも類似しているということは
できない。
(4)以上によれば,被告製品の製造等は,本件意匠権を侵害しない。
3争点3(原告が受けた損害の額)について
以上によれば,本件意匠権侵害に基づく原告の請求は理由がない一方,中間
判決が判断したとおり,被告製品2及び3は本件特許における本件発明の技術
的範囲に属するが,そのうち既に設置済みであるのは被告製品2のみであるか
ら,結局,争点3については,被告製品2に係る特許法102条2項に基づく
損害額についてのみ判断すべきこととなる。
(1)証拠(乙16ないし20,37ないし42。枝番を含む。)によれば,
被告製品2の売上高は,2409万円であると認められる。また,被告の利
益率を30パーセントとして計算すべきことについては当事者間に争いはな
い。したがって,被告製品2により被告が得た利益は722万7000円で
あると認められ,同額が原告が受けた損害の額であると推定される。
(2)弁論の全趣旨に照らして,被告による本件特許権の侵害行為と相当因果
関係のある弁護士費用は72万円とするのが相当である。
(3)したがって,原告が受けた損害の額は794万7000円と認められる。
4結論
以上によれば,本件特許権侵害に基づく原告の請求は,被告製品3の譲渡等
の差止め及び廃棄等を求める部分,並びに損害賠償金合計794万7000円
及びこれに対する不法行為の後であると証拠(乙37,38)上認められる平
成26年3月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害
金の支払を求める限度で理由がある。また,本件意匠権侵害に基づく原告の請
求は理由がない。
よって,上記の限度で原告の請求を認容し,その余は理由がないから棄却す
ることとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官沖中康人
裁判官廣瀬達人
裁判官宇野遥子
(別添意匠公報は省略)
(別紙)
被告製品目録1
【乙22号証等に基づく被告製品(祓川新橋)】
1既設橋梁の改修に使用されるプレキャスト鋼製張出し地覆
但し,祓川新橋(三重県松阪市稲木町)に設置されたもの
2製品名張出し地覆「スチールウイング」
3製造会社名株式会社ダイクレ(被告)
4被告製品の図面
5図面における符号の説明
1地覆
1a前面側
1b上面側
1c背面側
2底版部
2a延伸部
2b底面側
4a前面側ボルト
4b背面側ボルト
6a床版取付部
6dリブ
11張出地覆
12コンクリート床版
以上
(別紙)
被告製品目録2
【乙23,24号証等に基づく被告製品(境田橋)】
1既設橋梁の改修に使用されるプレキャスト鋼製張出し地覆
但し,境田橋(熊本県球磨郡相良村)に設置されたもの
2製品名張出し地覆「スチールウイング」
3製造会社名株式会社ダイクレ(被告)
4被告製品の図面
5図面における符号の説明
1地覆
1a前面側
1b上面側
1c背面側
2底版部
2a延伸部
2b底面側
4a前面側ボルト
4b背面側ボルト
6a床版取付部
6dリブ
11張出地覆
12コンクリート床版
以上
(別紙)
被告製品目録3
1既設橋梁の改修に使用されるプレキャスト鋼製張出し地覆のうち,ブラケット
部を具えるもの。但し,延伸部が地覆除去部に固定されるもの(中空筒体状の地
覆の底面側の面(以下「底面側」という)の一部が床版に設置するとされている
ものについては,底面側と床版の設置幅が,既設地覆の地覆幅未満のもの)。
2製品名スチールウイング
3製造会社名株式会社ダイクレ(被告)
4カタログ上の被告製品の記載
(1)底面側が床版に設置するとされていないもの
(2)底面側の一部が床版に設置するとされているもの
5「既設地覆の地覆幅」と「底面側と床版の設置幅」の略図
以上
(別紙)要部(前面側)の比較図

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弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
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採用担当宛