弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人Aの弁護人馬場照男の上告趣意について。
 論旨第一、二点は、それぞれ事実誤認、単なる法令違反の主張であり、同第三点
は量刑不当の主張であつて、いずれも刑訴四〇五条の適法な上告理由に当らない。
 同被告人の弁護人塚崎直義、同村上信金の上告趣意第一点及び弁護人鍛治利一の
上告趣意第三点について。
 所論は第一審判決を維持した原判決の判例違反をいうけれども、原審において控
訴趣意として主張せられず(原審では、ただ共謀者間における買収資金の授受であ
ると主張するにとどまる)、従つてその判断を経ない事項であるから、適法な上告
理由とならない。のみならず原判決は、第一審判決が判示第一の(一)、(二)に
おいて、被告人AがBから判示日時、場所において判示の趣旨の下に金一〇万円及
び金二〇万円の各供与を受け、同第五の(一)において、被告人Aが外三名と共謀
してC、Dの両名に対し判示日時、場所において判示趣旨の下に金八万円を供与し
たと各認定したことは正当であつて、右B、A間の右金員の授受をもつて投票買収
を共謀した者の間における買収資金の授受と認めることはできないと判断している
のであり且つ所論の各証拠並びに一件記録によつても所論のような共謀関係を認め
なければならないものではない。しかるに所論引用の各判例は、数人が共謀して投
票の報酬となるべき資金を受領しこれを選挙人に供与する場合において、右共謀者
間における供与資金授受の行為は、それのみでは公職選挙法違反の罪とならないと
の趣旨を判示したものであつて、本件とは異なつた事実に関する判例であり、本件
に適切でないから、判例違反の論旨は採るをえない。
 同被告人の弁護人塚崎直義、同村上信金の上告趣意第二点は量刑不当の主張であ
つて、適法な上告理由に当らない。
 被告人Eの弁護人塚崎直義、同村上信金の上告趣意(上申書を含む)について。
 論旨第一、二点は、第一審判決及びこれを維持した原判決の判例違反をいうけれ
ども、原審において控訴趣意として主張せられず、従つてその判断を経ない事項で
あるから、適法な上告理由とならない。また原判決には所論の経験則違反その他法
令違反は認められない。同第三点は量刑不当の主張であつて、適法な上告理由に当
らない。
 被告人Fの弁護人塚崎直義、同村上信金の上告趣意について。
 論旨第一点は事実誤認、単なる法令違反の主張であり、同第二点は量刑不当の主
張であつて、いずれも適法な上告理由に当らない。
 被告人Gの弁護人塚崎直義、同村上信金の上告趣意について
 論旨第一点は原判決の判例違反をいうけれども、原審において控訴趣意として主
張せられず、従つてその判断を経ない事項であつて適法な上告理由とならず、同第
二点は量刑不当の主張であつて適法な上告理由に当らない。
 被告人A、同Eの弁護人鍛治利一の上告趣意第一点について。
 所論は、第一審判決が所論供述調書の謄本を証拠としたことが憲法三七条二項に
違反すると主張するけれども、原審において控訴趣意として主張せられず、従つて
その判断を経ない第一審の訴訟手続に関する事項であつて、適法な上告理由となら
ない(論旨引用の当裁判所大法廷判決は刑訴応急措置法一七条に関するもので本件
に適切でない)。
 同第二点について。
 所論は、原判決が「自白を補強すべき証拠は必らずしも自白にかかる事実のすべ
てにわたつてこれを裏付けるものであることを必要とせず、自白にかかる事実の真
実性を保障しうるものであれば十分である。従つて第一審判決において被告人Eが
供与を受けた『金額』を同被告人の自白のみによつて認定したとしても、これをも
つて訴訟手続に違反した判決ということはできない」と判示したことをもつて憲法
三八条三項並びに引用の判例に違反すると主張する。しかし、自白の補強証拠に関
する原判決の右判断は、論旨引用の判例をも含めて当裁判所屡次の判例(昭和二三
年(れ)第七七号、同二四年五月一八日大法廷判決、集三巻六号七三四頁、同二三
年(れ)第一一二号、同年七月一四日大法廷判決、集二巻八号八七六頁)の趣旨と
するところであつて、所論の判例違反並びに憲法違反は存しないから、論旨は採る
をえない。
 同第四点は量刑不当の主張であつて、適法な上告理由に当らない。
 被告人四名の弁護人穐山定登の上告趣意は量刑不当の主張であつて、適法な上告
理由に当らない。
 被告人四名の弁護人今西貞夫、同穐山定登の上告趣意第一点は違憲をいうけれど
も、その実質は量刑不当の主張であり、同第二点は量刑不当、事実誤認の主張であ
つて、いずれも適法な上告理由に当らない。
 被告人四名の弁護人穐山定登、同海野普吉の上告趣意について。
 論旨第一点ないし第六点は、いずれも単なる訴訟法違反、事実誤認、量刑不当の
主張であり、同第七点は、第一審判決が被告人の自白を唯一の証拠として共謀の事
実を認定したものとしてその違憲をいうけれども、原審において控訴趣意として主
張せられず、従つてその判断を経ない事項であつて適法な上告理由とならない。か
りにしからずとしても共犯者たる共同被告人甲の自白調書も共同被告人乙の自白調
書の補強証拠となり得ることは当裁判所の判例(前掲昭和二三年七月一四日大法廷
判決)の趣旨とするところであり、所論共謀の事実は第一審判決挙示の証拠(共同
被告人の各供述調書)によつて認められるから、違憲の主張は前提を欠き採るをえ
ない。
 同第八点は、原判決の維持した第一審判決が公職選挙法二五二条一項の規定を適
用しない旨を判示していないことをもつて所論憲法の各条項に違反すると主張する。
しかし、公職選挙法二五二条一項、三項が憲法一四条、四四条に違反するものでな
いことは当裁判所の判例(昭和二九年(あ)第四三九号、同三〇年二月九日大法廷
判決)とするところであるから、右違憲の論旨は採るをえない。
 被告人四名の弁護人川本彦四郎の上告趣意第一点は違憲をいうけれども、その実
質は同第二点とともに量刑不当の主張であつて、適法な上告理由に当らない。
 また記録を精査しても、本件において刑訴四一一条を適用すべきものとは認めら
れない。
 よつて同四〇八条により主文のとおり判決する。
 この判決は、弁護人穐山定登、同海野普吉の上告趣意第八点に対する裁判官池田
克の少数意見を除き、全裁判官の一致した意見によるものである。
 右裁判官池田克の少数意見は昭和二九年(あ)第三〇四五号、同三〇年五月一三
日言渡し第二小法廷判決所掲の同裁判官の少数意見のとおりである。
  昭和三〇年五月二〇日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    池   田       克

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