弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由について
 一、 本訴は所有権に基づく家屋明渡請求訴訟であつて、被上告人は所有者訴外
Aから係争家屋を買い受けて所有権を有すると主張するに対し、上告人は係争家屋
は前主訴外Bから訴外Cを経て訴外Dに転売され同訴外人が所有者であると抗争し
た。原判決は、証拠に基づいて「本件家屋について昭和二七年六月五日大阪法務局
受付第八一九二号を以て被控訴人(被上告人)が同月二日所有者Aから売買を原因
として所有権を取得したものとして所有権移転登記手続がなされていることが認め
られるから、反証のないかぎり、右登記簿の記載に基づき被上告人は昭和二七年六
月二日所有者Aから売買により本件家屋の所有権を取得した真実の所有者であると
推定すべきである。」と判示し、本件の証拠ではこの推定をくつがえして上告人の
主張を認めるに足る反証はない、と判断した。この点について論旨は、原審の右判
断は登記の推定力を過大に評価して証拠を解釈したと主張する。
 二、 わが不動産登記制度のもとにおいては、登記に公信力は認められていない
ことは所論のとおりである。しかしながら不動産物権の得喪変更については登記を
もつてその対抗要件と定められていて、登記は当該不動産の権利の表章としての作
用を営むものであるから、現に効力のある登記は正当な真実の権利状態と符号しこ
れを反映する蓋然性は極めて高度に存するものと認められる。したがつて登記簿上
の所有名義人は、反証のないかぎり、これに伴う実質的な権利を有するもの、すな
わち、右不動産を所有するものと推定すべきである(最<要旨第一>高裁判所昭和三
四年一月八日判決、民集一三巻一号一頁参照)。この不動産所有権の登記に認めら
れる事実推定の及ぶ範囲は、登記簿上に表章された所有権が登記簿上の
現在の所有名義人に帰属しているという権利状態であり、かつこれにとどまるので
あつて、登記簿に記載された権利変動の態様や過程にまで登記の推定力は及ぶもの
ではないのである。なんとなれば不動産所有権の得喪変更の生じた都度その実体関
係に符合する権利変動の態様やその過程を登記に如実に反映し、形影相い伴うもの
とすることは一つの理想どはあろう。しかしながら現行の登記申請手続やその審査
に、この理想をみたすに足る技術的円満性を希求することは無理を強いるものであ
り、またそれは必ずしも法の厳格に要求し達成せんとするものとも思われない(事
実において、中間省略登記、担保権の取得の場合における所有権取得の登記、所有
権取得登記の抹消登記に代えての所有権移転登記、判決に因る登記、その他、この
ような真実の実体関係とは必ずしも一致しない登記も少なくなく、しかもその合法
正当性はなんびとも否定しえないであろう。)。そうだとすれば、登記簿の記載が
真実の権利変動の態様や過程に符合する蓋然性は、推定を定立させるまでに高度に
は存しないといわねばならないのである。したがつて前示のごとく、登記簿の記載
に基づき本件不動産についての被上告人の前所有者はAであり、同人から被上告人
へ昭和二七年六月二日売買を原因としてその所有権が移転したものと推定すべきも
のとした原判決の判示には、登記の推定力についての判断を誤つた不当があるとい
わなければならない。しかしながら、本件は所有権の帰属そのものが争点であり、
所有権帰属の過程や要件事実そのものいかんは本件の判断に影響を及ぼすものでは
ないから、右の不当は原判決破棄の理由とならない。
 三、 上告人は、原審は登記の推定力を過大に評価し採証の法則を誤り、登記の
推定力というよりは登記の公定力を認めるにひとしい不合理を犯していると主張す
る。しかしながら原審は登記に公信力を認めたものでなく、被上告人は、反証のな
いかぎり登記簿の記載に基づき本件係争家屋の真実の所有者であると推定すべきで
あり、所有権の帰属について上告人の主張に副う証拠もあるが、結局右推定をくつ
がえして上告人の主張を認<要旨第二>めるに足る反証は存しないと判断したもので
あることが原判文上明らかである。登記の推定力は証拠の価値判断につ
いての自由心証の一発現たるいわゆる裁判上の推定(事実上の推定)ではなく、法
律効果を生ずる要件事実の証明に代えて、登記簿に登載されている事実を立証する
ことによつて直接に権利状態を推定するのであるから、いわゆる法律上の推定にほ
かならない。したがつてそのかぎりにおいてあたかも立証責任が転換されたと同様
の効果を生じ、推定の覆滅は単なる反証では足らず、推定により不利益を受ける相
手方が、推定された権利状態と相い容れない権利状態の立証、もしくは推定された
権利状態の不存在の立証をなすべく、これを尽さない以上、推定がそのまま真実と
されるほかはないのである。ひつきよう所論は右の意味における反証の責任を上告
人に負担させた原審の正当な法律上の判断を、独自の見解のもとに攻撃し、原審の
専権に属する証拠の取捨判断を非難するに帰する。所論は採用できない。
 四、 上告人は、原審は証拠の解釈を誤つて、伝聞や推測に基づくものでないも
のを伝聞や推測と判断し、排斥した違法等があると主張する。よつて記録を検する
に、第一審証人B(記録八一丁以下)の「Eが管理していた家を自分が買いFに転
売し、さらにFからその家と敷地を買つた」旨の証言部分、又第一審証人E(記録
八七丁以下)の「姪のA所有の家を管理していたがこれをBに買つて貰つた。その
後Cが買い自分は登記所へ登記のためCと同行した」旨証言する部分等は伝聞や推
測に基づくものでないことは明らかであるが、その他第一審証人G(記録七二丁以
下)同H(記録一〇九丁以下)同I(記録一一三丁以下)の証言中本件家屋の所有
権移転に関する部分が伝聞や推測に基づくものであることは明瞭であり、乙第二号
証(記録九五丁以下)乙第三号証(記録九七丁以下)は、いずれも上告代理人が関
係者の供述を録取した文書であるから、やはり伝聞証拠に属するものである。した
がつて原審が「各証拠のうち控訴人の主張に副う部分は、そのほとんどが伝聞や推
測に基づくもの」であると判示したのは当然であり、しかも原審はそれらの証拠は
他の証拠と対比して信用しないとしたものであり、乙第八号証の三には上告人の指
摘する記載もあるが(記録一五四丁)それに反する記載もあることは上告人の認め
るところであり、結局所論は原審の専権に属する証拠の取捨判断を非難するに帰す
る。原審には証拠の解釈を誤つた違法はない。
 五、 よつて本件上告は理由がないから、民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第
八九条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 平峯隆 裁判官 大江健次郎 裁判官 北後陽三)

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