弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人は無罪。
         理    由
 弁護人小田村元彦が陳述した控訴趣意は、記録に編綴の同弁護人提出の控訴趣意
書に記載のとおり(但し、六枚目裏九行目の「原判示第二事実」を「原判示第一事
実」と訂正する)であるから、これを引用する。
 弁護人の控訴趣意中、事実誤認について。
 所論は、原判決は本件第一、第二の公訴事実につき、すべて有罪を認定している
が、被告人は本件店舗につき、Aに対抗しうる賃借権を有し、これに基き、本件犯
行当時の前後を通じ(Bの退去に関係なく)占有を継続しでいたものであるから、
(一)原判示第一の所為は賃借権者として当然許容されることであり、また同判示
第二の所為は占有侵奪に該らない。(二)、かりに共同占有者Bが本件店舗をAに
明渡した事実があつたとしても、被告人は右賃借権による占有の継続を確信してい
たものであるから、同判示第一、第二の所為については、いずれも故意を欠如し、
あるいは後者につき不法領得の意思を欠いていたことになり、いずれにしても無罪
である、というにある。
 そこで検討するに、本件記録および原裁判所で取り調べた証拠によれば、(一)
本件店舗はCの所有物であつたところ、昭和四〇年四月二七日Dがこれを期間の定
めなく、賃料月額五、〇〇〇円で賃借し、その後同年六月八日被告人が代表者代表
取締役である有限会社E不動産(いわゆる個人会社)がCの同意を得てこの賃借権
を譲受け、爾来被告人は同店舗でバナナやちり紙等の販売をしていたが、同年一二
月下旬本件店舗の隣で履物販売をしていたBから同店舗の賃借方の申込みを受ける
に及んで、これを一応拒絶したうえ新たに同人との間に原判示のとおりの約定をな
して本件店舗で同人と共同で履物販売業をはじめ、以後同人と共同でこれを占有し
ていたこと。(二)、この店舗には、右賃借権設定前の昭和三九年二月一三日、既
にF商事株式会社に抵当権が設定されており、これは同四〇年六月二六日抵当権の
実行に着手され、同四一年二月七日Aが競落許可決定を経て同年三月四日所有権取
得登記をなしたこと。(三)、そこでAは、本件店舗をBが前記のように使用して
いるのをみて、同人を相手に明渡請求の訴を起し、同年一一月一六日勝訴したの
で、Bもわずらわしくなつて判決の確定をまつまでもなく本件店舗における右営業
を廃止することに定め、被告人と協議したところ被告人もこれに応じ、Bが被告人
の商品を引きとつて清算することになつた。その後Bは商品引揚げを同月二六日と
定めてこれを被告人に通知し、同日本件店舗から被告人の商品を運び出してこれを
空にしたのであるが、このときBとしては本件店舗をめぐる紛争からのがれたい一
心でその占有を積極的に被告人ないしはAのどちらにも譲渡する意思はなく、これ
を放棄する意思であり、従つて、本件店舗のシヤツタードアの内外錠の鍵を壁に掛
けたままにしておいたのであるが、これを右荷物引揚完了後間もなく同店舗を訪れ
たAが勝手に使用して右ドアに施錠して戸締りを完了し、もつて本件店舗の占有を
取得したこと(四)、右のようにAが占有を取得したときから四日後に、被告人は
前記賃借権およびこれに基く占有を確保するため本件各公訴事実の如く、シヤツタ
ードアの内外錠を損壊してその取り替えをなし、同日自動車の格納をしたうえ新た
に施錠して戸締りし、もつて本件店舗の占有を取得し、更に二日程してシヤツター
ドアにE不動産と白ペンキで表示して自己の占有を公示したこと等の事実が認めら
れる。
 そこで、右認定事実を前提にして考察するに、
 まず、後叙のように被告人は原判示各所為のとき本件店舗につきAに対抗しうる
賃借権を有していたのであるが、その故に、所論のように判示第一の所為が当然許
容されるものとはいえない。ついで後叙のように被告人の原判示第一の所為および
同第二の自動車の格納行為は、被告人が本件店舗の占有をAによつて、侵奪されこ
れを奪回する以前にすなわち被侵奪中に為されたものであり、しかも被告人がこれ
に反して占有が継続していると確信していたと認め難い以上、如何に右賃借権を被
告人が有しておつたとしても、右第一の所為をもつて所論のように器物損壊罪の故
意を欠如するものとか、同第二の所為をもつて不動産侵奪罪の侵奪行為に該当せぬ
とか或は、同罪の故意ならびに不法領得の意思を欠如するものとは、到底認めるこ
とができない。
 しかしながら、更に職権で按ずるに、被告人は前記履物販売業を経営していた当
時、Bと本件店舗の共同占有者であつたことは明らかであるから、他の共同占有者
である同人と、その占有の根拠である本件店舗における履物業を廃止することおよ
び同人が同店舗から引揚げることを約したと同時に同人からその占有簡の易の引渡
しを受けたものと解すべきであり、仮にこのとき簡易の引渡がなかつたとしても、
前叙のようにBが店舗から引揚げたとき、その占有を放棄する意思であつたのであ
るから、共同占有の性質上当然にこの時点において同人の占有は被告人にいわば復
帰するから、いずれにしても本件店舗の占有は、Aがこれを前叙のようにして取得
する以前に被告人の単独占有に帰したものと認めざるを得ない(なお仮に、被告人
が右履物業を営業中、本件店舗をBを占有代理人として占有していたものと解して
も、Bとの間に前叙右営業廃止の約定がなされたときないしは同人がこの約に従い
本件店舗から引揚げたときに矢張り被告人は本件店舗の直接占有を取得したといえ
る。)。そして、Aの前叙占有の取得による被告人の前叙単独直接占有の喪失は、
被告人の意思にもとずかずになされたことは明らかであるから、被告人はAによつ
て占有を侵奪されたことになる。 <要旨>しかして、被告人はAに対し、右占有の
回収を得るための占有訴権を有することは多言を要しないところ、更に被告
人の原審第二回公判期日における供述、Aの検察官に対する昭和四二年八月一一日
付供述調書、実況見分調書によれば、Aが本件店舗の占有を取得したとき以降、前
叙被告人がシヤツタードアーの内外錠を取り替えたときまで、本件店舗内には被告
人の陳列棚が三脚程残置されていたことが認められ、また前叙のようにAの占有が
戸締りをすることによつてなされたものであり、他方同人の検察官に対する昭和四
二年八月三日付供述調書によれば、Aは右占有取得前から被告人が前記賃借権にも
とずく占有の存在およびその継続の意思を主張していることを知悉していたことが
認められるうえに、被告人が本件店舗の前叙錠を取り替えるまでにはAの右占有取
得後四日しか経過していないのであるから、結局、Aの本件建物に対する右占有
は、被告人との関係において、被告人の右錠取り替えのときまでに、未だ安定した
生活秩序として確立していなかつたものと認めるのが相当である。
 そして、平和秩序維持のため物に対する事実的支配の外形を保護せんとする占有
制度の趣旨および作用からいつて、占有侵奪者であるAの占有が前叙のように未だ
平静に帰して新しい事実秩序を形成する前である限り、被侵奪者である被告人の喪
失した占有は未だ法の保護の対象となつているものと解すべく、従つて、被告人は
Aの右占有を実力によつて排除ないしは駆逐して、自己の右占有を回収(奪回)す
ることが法律上許容されるものと解される。(いわゆる自救行為として)。
 してみると、被告人の前叙シヤツタードアーの内外錠の取り替えならびに自動車
の格納は、その目的は何であれ、ともかく本件店舗に対する前記賃借権の存続を前
提とするものであり、しかも右賃借権は、Aが本件店舗の所有権を取得した当時な
お被告人の本件店舗に対する占有は継続しており、右賃借権はAの所有権に対し対
抗力を有していたことが明らかであるから、その後被告人が右の様に一時的に占有
を喪失してもAに対して対抗力を失うべき理はないので、これに基く従前からの占
有を確保するために、Aから本件店舗の占有を奪回する手段方法として為されたも
のであることは、原審において取り調べた各証拠により明らかであるとともに、そ
の手段方法としても必ずしも不当とはいえないのであるから、被告人が右錠の取り
替えの一環としてなした原判示第一の旧内外錠の損壊行為ならびに自動車の格納行
為には違法性がないものというべきである。
 そして、被告人の右占有の奪回は右内外錠を取り替えたうえ自動車を格納し、こ
れに施錠することによつて完了したものと認められるから(ちなみにAにはこの奪
回に対する占有訴権のないことはむろんである)、これの二日程後になされた被告
人の原判示第二のその余の所為が不動産の侵奪行為に該当しないことは多言を要し
まい。
 すると原判決には、これらの点を看過し、もつて事実を誤認した違法があり、こ
れが判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は結局理由がある。
 そこで量刑不当の論旨に対する判断を省略して刑事訴訟法三九七条により原判決
を破棄し、同法四〇〇条但書により更に自ら判決する。
 本件公訴事実の要旨は
 「被告人は
 第一 昭和四一年一一月三〇日頃、佐世保市a町b番地A所有の木造亜鉛鍍鋼板
葺二階家店舗において、同店舗のシヤツタードアについていた内外錠を情を知らな
いG、Hをしてハンマー、タガネ等をもつて損壊させ、もつて他人の器物を損壊
し、
 第二 前回日頃、何らの権限なく、前記店舗内に自動車一台を格納した上、同年
一二月二日頃、右店舗のシヤツタードアにE不動産事務所と白ペンキで表示し、同
シヤツタードアに自己が新しく取付けさせた内外錠を施錠し、もつてA所有の右店
舗の階下部分(床面積一〇・五七平米)を侵奪し
たものである。」
 というにあるが、前叙説示のとおり本件各公訴事実については犯罪の証明がない
ことに帰するから、刑事訴訟法三三六条により無罪の言渡をする。
 よつて、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 岡林次郎 裁判官 緒方誠哉 裁判官 池田良兼)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛