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平成18年9月13日判決言渡
平成17年第5147号損害賠償請求事件()ワ
判決
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は、原告に対し、536万5800円及びこれに対する平成16年4月
19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
事案の要旨1
被告は、原告とは平成16年4月当時同じ大学の同級生であったところ、同
月13日午前1時30分ころから2時ころに原告を含む同級生3人から強姦さ
れたとして、翌14日に警察に相談し、同月18日に上記3人を加害者とする
被害届を提出した。その後、原告は、同年5月16日に逮捕、同月18日に勾
留され、同年6月6日には家庭裁判所に送致され、審判手続に付されたが、同
年7月12日、非行事実なしとの理由による不処分の決定を受けて確定した
(他の2人も同様に逮捕勾留された後、家庭裁判所に送致され、同様の決定を
受けた。。)
原告は、被告が強姦の事実がないのにその事実があったと捜査機関等に対し
て虚偽の申告及び供述をし、これによって原告が逮捕勾留等され、大学から出
校停止処分を受けたために試験を受けることができず、留年を余儀なくされた
として、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償及びこれに対する不法行為
日の翌日である平成16年4月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割
合による遅延損害金の支払を求めた。
2(認定の根拠となった証拠等を()内に示す。直前に示した前提となる事実
証拠のページ番号を〔〕内に示す)。
1当事者()
原告は昭和61年3月28日生まれの男性、被告は昭和59年6月25日
生まれの女性であって、いずれも、平成16年4月にA大学B学部に入学し、
同学部C学科に在籍していた(争いのない事実。)
2被告による被害届の提出()
被告は、警視庁D警察署の警察官に対し、平成16年4月14日、同月1
3日未明に当時の原告宅において原告、E(以下「E」という)及びF。
(以下「F」という)の3名(以下、原告、E及びFの3名を「原告ら」。
という)から強姦されたと申告し、さらに同月18日、同署長に対し、上。
記と同旨の内容の被害届を提出した(争いのない事実、甲5、11。)
3原告の逮捕・勾留・審判手続等()
ア原告は、平成16年5月16日に、強姦致傷の被疑事実により逮捕され
た(争いのない事実、甲6、39、40。)
イその後、原告は、同年5月18日に勾留され、さらに同月27日、同年
6月6日まで勾留が延長され、同年6月6日、強姦致傷の送致事実で東京
家庭裁判所八王子支部に送致された(争いのない事実、甲2、72、88、
108。)
ウ上記送致事実に関する審判手続において、被告は、平成16年6月21
日、宣誓の上、原告ら3人に順次姦淫された旨を供述した(争いのない事
実。)
エ東京家庭裁判所八王子支部は、平成16年7月12日、上記送致事実に
ついて、非行事実がないとの理由により、原告を含む少年ら3名をいずれ
も保護処分に付さない旨の決定をし(以下「本件決定」という、同決定。)
は、同月26日に確定した(争いのない事実。)
争点3
1被告が捜査機関に対して申告した犯罪事実が虚偽であるか否か()
2捜査機関に対する犯罪事実の申告が虚偽であることに関して被告に故意が()
あるか否か(判断する必要がなかった争点)
3被告による犯罪事実の申告と原告の権利侵害との間に因果関係があるか否()
か(判断する必要がなかった争点)
4損害額(判断する必要がなかった争点)()
争点についての当事者の主張4
1争点1(被告が捜査機関に対して申告した犯罪事実が虚偽であるか否か)()()
について
(原告の主張)
被告が捜査機関に対して告知した強姦の事実は、これを裏付ける客観的証
拠がなく、その申告が虚偽であることは、次の事実から明らかである。
ア家庭裁判所によって非行がないと判断されたこと
本件においては、捜査機関によって原告が逮捕され、勾留請求を経て家
庭裁判所に送致されているが、家庭裁判所の少年審判手続において、血液
が付着したズボン、携帯電話の通信履歴、電子メールの履歴などの客観的
証拠や隣室の住人や被告の友人などの第三者の供述など一切の証拠が検討
された上で、被告の供述の不自然さが多数指摘され、原告らに非行がない
と判断された。非行がないということは、すなわち、原告らが強姦をして
いないということである。
イ被告の供述の虚偽性
被告は、平成15年4月14日以降、原告を含む少年3人が被告を順次
強姦したと述べている。しかしながら、この供述は、次の諸点に照らして
虚偽である。
動機の欠如()ア
原告ら少年3人のうち、Eと被告は本件日時の当時において交際して
いたのであり、かつ、性交もしていた。そのEが、原告宅において原告
やF、被告と談笑している時に突然怒鳴って被告を押し倒し、強姦に及
ぶことは不自然である。また、本件日時の直前に隣人から静かにするよ
うに注意を受けていることからすれば、原告ら少年3人は、強姦行為に
及べば被告が助けを求め、その声に応じて隣人が原告宅に駆けつけるこ
とは容易に想像できた。これらのことからすれば、原告らには、原告宅
において被告を強姦する動機はなかった。
被告の持ち物及び被害状況の不自然さ()イ
被告の供述については、本件日時前にE宅に泊まることになっていた
のにTシャツを持参しながらショーツを持参していないのは不自然であ
る。
また、被告が述べる被害状況については、本件日時の当時における原
告宅のベッド等の配置からすれば被告の供述どおりには犯行ができない
ことは明らかであるし、被告の足がEに当たったとの供述は不安定であ
る。また、被告は、布巾様の物を入れられたなどと供述するが、それを
取り出さないままでいたこと自体が不自然であるし、ズボンとショーツ
を脱がされた状況やEがバスタオルをかぶっていたこと、事前謀議もな
いのにEが被告を姦淫している最中に原告とFが音楽を聴いていたこと
なども不自然であり、Eに比して原告とFによる姦淫行為の描写が乏し
く、これらは被告の語る強姦被害の不合理さを物語る。その上、被告は、
強姦によって両大腿部打撲及び左大腿部側のひっかき傷の傷害を受けた
旨申告し、供述しているが、医師の診断書には左大腿打撲症との記載が
あるのみであって、被告は虚偽の申告及び供述をしている。
被告の行動の不自然さ()ウ
被告の供述する被害の後についても、被告が下半身をさらしたまま3
0分もの間横たわったままでいたとの点、その後も下半身をさらしたま
までいて、Eから「帰るぞ」といわれて初めて服を着て原告宅を出た点、
その後加害者かつ首謀者であるEと同人宅に一緒に赴いた点、同人宅に
着いてから同人と1時間ほど話をし、同人が眠った後に自分も床で就寝
した点、翌日大学でEと会って同人宅の鍵を返している点などにおいて、
被告の供述は不自然である。この点について、被告を診察したGクリニ
ックのH医師(以下「H医師」という)は、ショックの直後にとる行。
動として不思議はないと述べているが、そのように考えるよりは、友人
宅で飲んだ後に交際相手の家に泊まりに行ったと考える方がずっと自然
である。
被告は、被害時に着用していたショーツを、それが客観的かつ有力な
証拠となるはずであるのに、大学のゴミ箱に捨てたと供述しているとこ
ろ、その汚れの態様、捨てた場所及びこれとともに着用していたナプキ
ンに関する被告の供述内容及び供述過程には不可解な点が多いし、被告
は携帯電話のメールを保存せず、容量オーバーにより消去されるままに
していたばかりでなく、Eとのメールについて携帯電話の履歴を削除し
ており、これらの被告の行為からは、被害申告後、被害の不存在を示す
材料をなくそうとする意図がうかがわれる。
また、被告は事件直後に他の交際相手とドライブに行き、その後の被
告の携帯電話には売買春を示唆するメールが残っているなど、強姦の被
害者の行動としては不自然である。
ウ被告がに罹患しているとの点についてPTSD
被告は、H医師の診断などを根拠に、被告が外傷後ストレス障害(以()ア
PTSDPTS下「」という)に罹患していると主張する。しかし、被告が。
に罹患していることをもって強姦行為の存在を立証しようとしているD
のに、医師がだと判断した根拠が強姦事件の経験だというのでは、PTSD
循環論法に陥っているといわざるを得ない。また、H医師は事件後初診
までの7か月間の被告の心理状況について述べるものの、少なくともメ
ールの送信記録等にはショックによる反応や急性ストレス障害をうかが
PTSDわせるものはなく、家庭裁判所における証人尋問の際にも被告が
に罹患していることをうかがわせる事情はなかったから、上記心理状況
に関する供述は客観的証拠に反するし、証人尋問の際の被告の様子から
すればの症状として多弁な時期があるというものの、多弁とは評PTSD
価できず、H医師が事件直後の被告の行動についてショックや現実感の
喪失によって説明できるとした点や同じく事件直後に他の交際相手とド
ライブに行ったことや売買春を示唆するメールがあることは性に固着す
る行動をとった結果であるとした点は、被告自身の供述ないし行動を検
討することなく他の患者の経験から結論を導いているものであって、被
告の言動をで説明しきることはできないのである。PTSD
仮に被告がに罹患していたとしても、被告の供述には不合理な()イPTSD
点が上記のとおり多数あるから、その不合理さはに関する一般論PTSD
では説明できない。
(被告の主張)
被告は、原告を含む少年ら3名から強姦された。このことは次の事実から
明らかである。
ア被告が事件後、に罹患していることPTSD
被告は、本件被害に遭ったことによりに罹患している。はPTSDPTSD
大きな苦悩を引き起こすような並外れた脅威や破局的なストレスにさらさ
れた後に生じる精神障害であるから、被告の罹患の前提として被告PTSD
が非常に強いショックを受けるようなできごとを体験又は目撃している必
要がある。しかし、警察署、検察庁及び家庭裁判所の審判廷において被告
は原告らから輪姦の被害にあったことを供述しているが、このような被害
事実が罹患の要因となるようなできごとに該当することは明らかでPTSD
ある。したがって、被告がに罹患したことが被告の供述の真実性をPTSD
示している。
そして、被告がに罹患していると診断したH医師は、被告が同医PTSD
師に対してした発言について、被告の反応や態度を微細に観察した上で専
門的見地から詐病等の可能性を否定してと診断しているのであって、PTSD
その診断過程はきわめて合理的である。
イ被告の供述に虚偽がないこと
虚偽申告の動機の欠如()ア
被告には、わざわざ虚偽の供述をしなければならない事情がない。女
性にとっては、輪姦の事実を他人に知られることさえ大変な苦痛であり、
泣き寝入りする者が決して少なくないのが実情なのであるし、被告が一
旦入学した別の大学を退学して再度受験してA大学に入学したのであり、
大学への執着が人一倍強いのに、大学を辞めざるを得なくなるような虚
偽の供述をするはずがない。
この点について、原告は、Eから別れ話をされた腹いせであると主張
している。しかし、被告はEから別れ話をされたことがなく、交際開始
後わずか5日目で別れ話をされること自体が不自然であるし、別れ話を
するのに、帰宅している被告を夜遅くにわざわざ呼び出したり、別れ話
の前にほぼ初対面の原告宅に被告を連れて行くのも不可解である。この
ことからすれば、別れ話云々の主張は、原告らが本件犯行事実を否定す
るために作り出した話に他ならない。仮に別れ話を切り出したことがあ
ったとしても、その腹いせだとすればE1人を訴えれば足りるはずであ
るから、原告をも訴えていること自体が不自然である。
性暴力の被害者の心理と行動()イ
原告や家庭裁判所の決定においては、被告の供述内容に数々の不合理
な点があって信用性を肯定できないと主張ないし指摘する。しかし、こ
のような不合理性は、いずれも、本件犯行行為によって被告が急性スト
レス障害ないしそれに類似する精神状態に陥っていたとすれば不合理と
はいえず、むしろそうした精神状態と整合している。
すなわち、被告が下半身をさらしたまま30分もの間横たわったまま
でいた等、被害直後の行動の点や、E宅に赴いた点、他の交際相手とド
ライブした等の点は、いずれも上記の精神状態から、自分に起こったこ
とが自分でないような感じで、現実感を失っていること等により説明が
可能である。
したがって、上記のように不合理であると指摘された点については、
むしろ上記精神状態によるものとして、被告の供述の信用性が高いこと
を裏付けるものである。
ウ原告らの供述について
他方、Eの供述は、被告の友人の供述と矛盾しているほか、不自然な点
があり、しかも、Eは、携帯電話のメールの一部を意図的に削除し、被告
とEとの性交の日時を偽って、本件被害を隠匿し、被告がEから別れ話を
された腹いせに虚偽の供述をしたとの筋書きを作り出したものというべき
である。
原告も、被害者である被告の訴えを想定して捜査機関に対して積極的に
弁解を述べようとしていた。また原告は、本件における本人尋問の際、記
憶にないとの理由で具体的事実をほとんど供述していない。もし捜査機関
からの取調べにおいて原告が真実を述べていたのだとすれば、その経験を
言葉に発し、それが紙に記録される過程の中で事実を反復して思い出す間
に記憶として固まり、容易に消えないはずである。それなのに、原告は、
真実を隠し、虚構の事実を供述していたため、経験した具体的事実ではな
く過去の供述を思い出して従前の供述と矛盾しないようにしなければなら
なかったため、供述できなかったのである。
2争点2(捜査機関に対する犯罪事実の告知が虚偽であることに関して被告()()
に故意があるか否か)について
(原告の主張)
性交渉自体が当事者間で争いがなく、それが合意の上でのものか否かが争
われている場合はともかく、本件において、原告は、性交渉自体がなかった
のに被告が原告ら少年3名から強姦されたとの虚偽の申告をしたと主張して
いる。性交渉自体がなかったのに強姦があったと申告しておきながらこれに
ついて被告に故意がないことは現実にはあり得ない。
(被告の主張)
本件決定は、結論としては少年を保護処分に付さない旨のものであるが、
原告らが犯行をしたと認定するには証拠上合理的な疑いを拭いきれず、その
犯罪の証明が不十分であるといわざるを得ないことを理由としており、一方
では被告の供述の信用性が高いことが認められている。また、被告の供述内
容は具体的かつ詳細であるし、被告が母親に強姦の事実を告白した場面に関
する供述は被告の母親の供述内容と整合する。
さらに、被告は平成16年4月18日に警察に被害届を提出する前である
同月14日には被告の友人であるI及びJに対して強姦の事実を告げている
ところ、この訴えが虚偽であるとすれば、友人に知らせる必要も利益もなく、
友人から原告らに被告の発言が伝わってしまえば原告らが処罰を免れる行動
に出かねない。
そして、被告は、本件事件の2日後から大学に通学しておらず、本件決定
後の平成16年9月30日付けで大学を退学しており、しかも本件直後から
しばしば自殺願望を述べるなど精神的ストレス症状を呈するようになったし、
被告には虚偽申告の動機が欠如している。この点に関して、Eは、被告がE
から別れ話をされたことに対する腹いせで虚偽申告をしたかのように供述を
しているが、被告には別に交際をしていた男性がいたし、仮にEの述べると
おりであるとすれば、なぜE以外の2名についても犯罪事実を告げなければ
いけないのか理解不能である。
これらのことからすれば、被告には少なくとも虚偽の強姦事実を申告する
故意がないことは明らかである。
3争点3(被告による犯罪事実の申告と原告の権利侵害との間に因果関係が()()
あるか否か)について
(原告の主張)
被告の行為により、原告らは捜査段階から真実を述べていたにもかかわら
ず捜査機関によって逮捕勾留され、それを理由に出校停止処分を受け、前期
試験を受験できなかったために留年を余儀なくされた。これが被告の行為に
よるものであることは明らかである。
(被告の主張)
否認する。
そもそも、無実だというのであれば、原告が適切な対処をすることで逮捕
勾留を避けることができたはずであるから、逮捕勾留は原告が自ら招いた結
果であるという側面がある。
4争点4(損害額)について()()
(原告の主張)
原告は、逮捕・勾留・審判手続をとおして身体を拘束されたことにより、
当時通っていた大学を留年せざるを得なくなり、次の損害(合計536万5
800円)を被った。
ア授業料136万5800円
上記の内訳は次のとおりである。
授業料96万0000円()ア
教育研究諸料18万0000円()イ
施設設備金20万0000円()ウ
研修費1万0000円()エ
父母会費1万2000円()オ
全人購読料3800円()カ
イ慰謝料300万0000円
ウ弁護士費用100万0000円
(被告の主張)
原告が留年したことは不知、授業料の額は認めるが、それが損害となるこ
と及びその余の主張は争う。
また、原告は、本件審判を経て釈放された後、大学に戻らず、そのまま郷
里に戻り、翌年4月から大学に戻ったものの、その年度も夏まで通うことな
く、自分の意思で大学での勉学を断念している。したがって、大学を4年間
で修了できなかったことを理由とする請求には理由がない。また、A大学に
おける単位取得に当たっては、出席が非常に重視される仕組みになっている
が、原告は、このことを入学時に知らされていたから、被告が刑事告訴した
ことを知った時点で回避する方策をとるべきなのに、これをとっていない。
第3当裁判所の判断
事実認定1
前記第2の2の前提となる事実に加え、証拠等によれば、次の事実が認めら
れる(認定の根拠となった証拠等を()内に示す。直前に示した証拠のページ
番号等を〔〕内に示す。以下同じ。。)
1原告らと被告との関係()
ア原告らは、平成16年(以下、断りのない限り、日付の記載は平成16
。、年のことである)4月、A大学B学部C学科に入学し(原告は1年3組
EとFは同1組、同月6日から翌7日にかけて箱根で行われた研修合宿)
において互いに知り合った(甲8〔2、3、9〔2、3、44〔2。〕〕〕)
また、原告らは、被告とも、同じように研修合宿の時に知り合った。こ
れがきっかけでEと被告(1年2組(甲10〔2)とが仲良くなった〕)
(甲8〔3、9〔2ないし4。〕〕)
イ被告は、4月7日夜にEのアパートを訪れて泊まったが、その際、Eが
被告に対してつきあいたい旨を表明したところ、被告がこれに応じたこと
から、2人は交際を始めた(なお、この際、Eは被告と性交をしたと供述
しているが、被告は、性的行為はしたが性交まではしていないと供述して
いる。被告は、同月9日にもEのアパートに泊まり、その際、2人は性。)
交をした(甲9〔4、14〔3。〕〕)
2本件日時前後の行動()
ア4月12日、原告とEは、相談の上、Eが原告宅に泊まりに行くことに
なった。この点について、原告は、同日昼休みころ、Eから「被告との、
ことを相談したい。今日、被告が泊まることになっているがその前に原告
の家に行っていいか」との申し出があり、これに対して原告が応じたと供
述している(甲44〔2、308。これに対し、Eは、単に、原告のア〕)
パートに遊びに行く約束をした旨を供述している(甲10〔3、48〕
〔5。〕)
他方、同日、Eは、大学構内で被告と会い、原告が所属するサッカー部
の練習を見学した際、被告に対し、同日の夜に泊まりがけで遊びに来るよ
うに誘った。この点に関し、Eは、同日に自分は原告宅に行くが被告はど
うすると問いかけ、被告に対して原告宅に行くことを誘ったと供述してい
る(甲10〔3、48〔5。これに対して、被告は、大学構内でE宅〕〕)
に来るよう誘われたのであって、これに応じて待ち合わせ場所であるK駅
に着いた後に、Eから原告宅へ行こうと誘われた旨を供述している(甲1
4〔4、89〔3、226〔別紙反訳書1−3頁。〕〕〕)()
イ原告とEは、同日20時ころ、K駅近くにあるセブンイレブンで待ち合
わせをした上、2人で原告宅に向かい、21時ころ到着した(甲10、4
4。)
Eは、同日21時ないし22時ころ、原告の携帯電話を借りてIに対し
て電話をかけ、被告と出会ってからつきあうのが早すぎたと感じており、
Eの被告に対する現在の心境は本当の恋愛感情とは違うものなので困惑し
ている旨を伝えて同女に相談したところ、同女は、いまEが同女に対して
述べたことを被告に対しても述べて話し合ったらどうかと持ちかけた(甲
58〔5。〕)
他方、被告は、大学から一度帰宅したが、Eと携帯電話や携帯電話を用
いた電子メール(以下「携帯メール」という)のやりとりの結果、被告。
が泊まりがけで遊びに行くことになり、被告は、同日23時前ころ、原告
宅及びE宅の最寄り駅であるK駅に到着した。Eは同駅前で被告を迎え、
同駅近くのセブンイレブンで焼酎等を購入した後、2人で、徒歩で原告宅
へ向かい、23時20分ころ到着した(甲10、14、132〔2、。
4)〕
ウその後、原告、E及び被告が原告宅で話をしていたところ、4月13日
0時30分ころ、それまで大学のサークルの飲み会に参加していたFが原
告宅に到着したことから、4人で酒等を飲みながら話をしたり、音楽を聴
いたりしたほか、原告の友人から原告に対してかかってきたテレビ電話に
4人で応対していた。その際、E及び被告は原告のベッドの上に座り、原
告とFはベッド近くの床に座っていた(甲10、14、44)。
エ被告は、原告宅に着いてから翌13日1時20分ころまでの間に、母親
と携帯メールや電話を数回している。
オ同月13日1時ないし1時30分ころ、原告ら4名が騒がしくて眠れな
いとの理由で、隣室の住人からインターフォン越しに注意を受けた(甲1
0、14、44、52。)
カ同月13日2時ないし3時ころ、被告とEは原告宅を後にし、タクシー
でE宅に向かい、2人はE宅で床についた(甲48〔11ないし14。〕)
3被告による事実の申告等()
ア翌朝、Eが1人で登校した後、被告は、入浴した上でE宅を出て14時
30分ころ大学へ到着し、授業を受けた。同授業が15時30分ころ終了
したため、被告はEと携帯メールで連絡を取り、大学内の食堂で待ち合わ
せ、Eに対して同人宅の鍵を返した上(被告は、Eとの待ち合わせ時間ま
でにトイレで自分のショーツを捨てたと供述している(甲18、帰宅)。)
し、その後19時から1時間ほど、他の交際相手とドライブをした(甲。
18〔5、6、226〔76、77)〕〕
4月14日朝、被告の母親であるLは、被告の様子が普段と異なると認
識し、被告に対して問いただしたところ、被告は、Lに対して、E、原告
及びFの3人から強姦された旨を申告した(甲18〔7、19。〕)
Lは、上記を承け、電話で大学に相談したところ(甲19、42、乙7
〔5、大学職員からは警察に行った方がよいといわれたことから、4月〕)
14日19時ころ、D警察署へ赴き、被害相談をした(甲19、乙7
〔6。〕)
4月15日には産婦人科医の診察を受けたが、精液は検出されなかった
(甲13、乙7〔7。〕)
イまた、被告は、Iに対し、4月14日14時30分ころから16時ころ
までの間に、E、原告及びFから順次強姦された旨を携帯メールで相談し
(甲17、58〔3、Jに対し、15日0時過ぎ、同旨を携帯メールで〕)
伝えた(甲17、51〔6ないし8。〕)
これを承けて、Iは、上記携帯メールを受信し、閲覧した際に横にいた
同級生の女性とともに、同日の大学の授業が終了した後、16時ころ、E
を呼び出し、Eに対し上記携帯メールを見せたところ、Eは「俺はいいけ
ど、X(原告)とFに迷惑はかけられない「Y(被告)のことは心配で悪く」、
いえないし、普通に友達として仲良くやりたい」と述べ、強姦の事実を否
定した(甲58〔5ないし7。〕)
ウ4月18日、D警察署長に対し、本件被害届が提出された(甲11。)
4原告らの本件日時以降の行動、逮捕・勾留()
ア本件日時以降の行動
他方、E、原告及びFは、いずれも4月13日にも大学に登校した。
同日11時から13時まで、大学の食堂において、Eは、原告及びJに
対して、Eが被告に対して13日に別れようと言ったところ、Yが大学に
行かないと言った旨、上記Jには被告の支えになってほしいし、Eが被告
のことを心配していることを伝えて欲しい旨などを伝え、その際、原告は、
被告も軽かったなどと述べていた(甲58〔3、4。〕)
イ逮捕・勾留等
原告は、5月16日夕方ころ、D警察署の警察官が原告宅を訪れ、同署
に任意同行された上、同所において次の被疑事実により逮捕された(争い
のない事実、甲6、39、40、原告本人〔2、3。〕)
「被疑者Xは、E、氏名不詳の男と共謀の上、平成16年4月13日東京
都a市bc丁目d番e号f,g号室被疑者居室において、Eの顔見知りの
Y(当19歳)と飲酒雑談中、同女を強いて姦淫しようと企て、同日午前
1時30分ころから午前2時ころまでの間、同所において、同女に対し、
Eにおいて「おまえは軽いだろ、ヤンキーだろ」等と申し向け、同女を、
ベッドに押し倒して馬乗りになり、布切れ様の物を押し込んでその口を塞
ぎ、両手首を掴んで押さえつける等の暴行を加え「殴るぞ「おとなしく、」
していれば殴んねぇから」等と脅迫してその反抗を抑圧したうえ、E、X、
氏名不詳の男の順に、それぞれ強いて同女を姦淫し、その際、前記暴行に
より、同女に対し、全治7日を要する左大腿打撲症等の傷害を負わせたも
のである」
その後、原告は、同年5月18日に勾留され(その際、刑事訴訟法39
条1項に規定する者及び原告の父母以外の者との接見並びに文書(新聞、
雑誌及び書籍を含む)の授受の禁止が決定された(甲87、さらに同)。)
月27日、同年6月6日まで勾留が延長され、同年6月6日、次の送致事
実で東京家庭裁判所八王子支部に送致された(争いのない事実、甲2、8
8、108、原告本人〔3。〕)
「被疑者は,E及びFと共謀の上,平成16年4月13日午前1時30分
ころ,東京都a市bc丁目d番e号f,g号室の被疑者方において,Eの
交際相手であるY(当時19歳)と4人で飲酒雑談中,やにわに,Eにお
いて「やりてえ」などと怒鳴りながら同女を押し倒して馬乗りになり,,
抵抗する同女の口に布巾様のものを押し込み,同女の両腕を押さえつけ,
拳を振り上げて同女の顔面直前まで振り下ろした上「おとなしくしろ,
よ「殴るぞ」などと申し向けるなどの暴行,脅迫を加え,被告の反抗を」
抑圧した上,E,被疑者,Fの順に同女を姦淫し,その際,被告に対し,
全治7日間を要する左大腿骨部打撲傷等の傷害を負わせたものである」。
5客観的証拠に関する鑑定等()
ア捜査機関は、4月18日、被告が本件日時前後に身につけていたカーデ
ィガン、半袖シャツ、ブラジャー及びズボンの任意提出を受けてこれらを
領置し、見分したところ、カーディガンの左右の袖と背中に被告のものと
は異なると思われる毛髪が発見され、ズボンの内側、陰部相当部分に血液
が付着していることが発見された(甲23ないし28、30。)
捜査機関は、4月20日、上記ズボンの陰部相当部分付着物における精
液混入の有無、及び、被告から任意提出を受けた唾液の血液型について、
5月6日に同じく被告が本件日時前後に身につけていたカーディガン及び
半袖シャツの精液混入の有無についてそれぞれ鑑定嘱託し(甲117ない
し122、125、いずれも精液の混入は認められなかったとの結果及)
び被告の血液型が型であるとの結果を得た(甲123、124、12O
6及び127。また、6月11日には、上記ズボンの陰部相当部分の付)
着物について、人血か否か、人血であれば血液型が何かについて鑑定嘱託
され、人血であって血液型が型であるとの結果を得た(甲164ないO
し166。)
イ原告及び原告付添人らは、原告宅のベッド上にあったマットカバー及び
マットについて、被告の血液が付着しているか否かについての鑑定を求め
(甲190、これに対し、東京家庭裁判所八王子支部は、上記マットカ)
バー及びマットについて、人血及び精液の付着の有無及び血液型の判定に
ついて鑑定人をして鑑定させたところ、上記マットには型の人血が付O
着していたがマットカバーには人血の付着はなく、かつ、両者について精
液の付着はないとの結果を得た(甲206、253。また、同裁判所同)
支部は、上記マットに付着していた型の人血について鑑定を実施ODNA
したところ、原告の型と一致した(甲250、276、278及びDNA
279。)
6家庭裁判所の決定()
東京家庭裁判所八王子支部は、平成16年7月12日、上記送致事実につ
いて、被害状況等に関する被告供述には真実味が感じられることは否定でき
ないとしながらも(甲286〔16、その重要部分も含めて多数の疑問点〕)
があるから、E、原告及びFの供述が全面的には信用できないとしても、被
告供述にはEらの供述を排斥できるだけの信用性があると認め難く、したが
って、被告供述によってEらが被告を強姦したと認定するには証拠上合理的
な疑いを拭いきれず、その犯罪の証明は不十分なものといわざるを得ないと
判示した上で(同〔17、Eらについてはいずれも犯罪の証明がないこと、〕)
すなわち非行がないことになるとして、原告を含む少年ら3名をいずれも保
護処分に付さない旨の決定をし(本件決定、同決定は、同月26日に確定)
した(争いのない事実、甲286、289。)
7被告の精神科通院等()
ア通院の事実
被告は、平成17年1月25日、Gクリニックを初めて受診し、それ以
降、同クリニックでH医師の診察を受けている(乙8の1。)
イH医師の診断
H医師が、同日、被告から事情を聴取し、被告の表情、言語表現、身振
り、会話全体の疎通性等を診察ないし観察したところ、被告が、自ら意図
的に作出できないような大きな怯えを見せながら、同医師の質問に対して
やっと答える状態であって、語ることに対する極度の苦痛が感じられ、同
供述には、怒りよりもむしろ加害者に対する直接的恐怖が前面に出ており、
妄想的供述とは見受けられず、信憑性が認められた。
その上で、同医師は、被告は、妄想型パラノイア(好訴パラノイア)な
どの他の精神障害(虚偽性障害)ではなく、人格障害でもないと判断した。
その理由として、同医師は、虚偽性障害というのは自分が自分であること
をどこかで強く否定し、自分が嘘をつき、それが現実であると認識するこ
とによって生きていられる病気であるのに対し、被告の場合は強姦の事実
を述べているものの、それを現実であると認識することで生きていられる
という様子は全く見受けられず、むしろ逆にそれによって人が信用できな
くなって死を望む状態となっていること、これが虚偽性障害によるものだ
とすれば、同医師に対してのみならず家族等に対しても一貫して同じこと
を述べることはできないはずであることを挙げている(証人H〔2ないし
5、12、46、47。すなわち、同医師は、被告には、上記のように〕)
極度の怯え、恐怖、不安、感情失禁、自殺念慮、無力感、悪夢、Eと原告
とFから順次強姦されたことに関するフラッシュバック、回避、解離症状
などの外傷後ストレス障害の典型症状がみられたため、同医師は、被告は
3人の男性から強姦を受けたことを原因として急性ストレス障害の症状と
なり、平成16年4月13日から1か月以上を経過した後、に移行PTSD
したと診断した。なお、同日、被告は、同クリニックにおいて、(うSPS
つ病を判定する試験)を受け、66点との結果を出しており、相当ひどい
うつ状態であると診断された(乙8の1〔2、乙9の1〔2、証人H。〕〕
〔1、5、15、24、26、27、41、44)〕
ウ被告の言動に対するH医師の見解
H医師は、被告が、[1]4月13日1時30分ころから2時ころまでの
間、E、原告及びFから順次強姦されたと供述していることに関し、強姦
されている約20分間にわたって口の中に布巾様の物を入れられたままで
特に手で取り出そうとせず、しかも[2]強姦終了後約30分間にわたって
下半身裸のままでおり、[3]被告の供述によれば主犯者となるべきEのア
パートに2人で行って宿泊し、同人宅の風呂に入ったこと、[4]13日に
は他の恋人とドライブに行ったことをそれぞれ供述していることについて、
[1]ないし[3]の点は、被告に起こったことについて被告自身が分かったよ
うで分かっていない状態にあり、困惑、混乱して現実感を失っていること
からすれば当然のこととして説明できるし、[4]の点は、事件後も現実感
を失っているのでとりあえず取れる行動をとると思われるので、その行動
の中に恋人との行動があった可能性があると述べ、性暴力の被害者には、
事件によって性に対する意識が大きく変化し、自己の性を大切にできなく
なる者も多いと指摘している。また、同医師は、被告が汚れたショーツを
鞄に入れたまま授業を受けたり、生理中にもかかわらずショーツや生理用
品を購入することなく肌に直接ズボンをはいて大学に行き、授業を受けて
いることを示す供述についても、同様に自意識を喪失した状態での行動で
あって、急性ストレス障害やその後のの存在を強く裏付けると述べPTSD
ている(甲9の1〔4ないし7、証人H〔5、6、9、10。。〕〕)
エ被告の状態
H医師は、被告の病状は、基本的には死にたいと一貫して述べている状
態であり、初診時よりは改善して日常生活は一応できているが、何かあっ
たらいつ自殺をするか分からない状況であって、出廷を強要すると生命の
保証がないと言っても過言ではないと述べている(甲9の1〔4、証人。〕
H〔12)〕
争点1(被告が捜査機関に対して告知した犯罪事実が虚偽であるか否か)に2()
ついて
1本件の問題点()
ア被告が捜査機関に対して告知した犯罪事実が虚偽、すなわち客観的真実
に反するというためには、平成16年4月13日1時30分から2時ころ
までの間に、E、原告及びFが被告を順次強姦していないとの事実が認め
られる必要があるところ、この点に関し、原告は、同年7月12日に東京
家庭裁判所八王子支部がした決定において非行がないと判断され、このこ
とがすなわち原告らが強姦をしていないことを基礎づけると主張する。
しかしながら、仮に同決定が上記のとおりの判断をしていたとしても、
その判断自体はもとより、それを基礎付ける事実認定が当裁判所を拘束す
るものではない。その上、前記16のとおり、上記決定においては、被告()
供述には真実味が感じられることは否定できないとしながらも、Eらの供
述を排斥できるだけの信用性がなく、強姦の証明が不十分であると判示さ
れているから、同決定が「非行がないことになる」とした部分は、非行が
あると裁判上認定できるだけの証拠がなかったとの趣旨に理解すべきもの
であって、非行事実が現実に存在しないと積極的に判示しているものでは
ないから、原告のこの主張は前提を欠くものといわざるを得ない。
イ原告は、次に、被告の供述に信用性がないことを犯罪事実が客観的真実
に反する理由として主張する。
しかしながら、被告の供述に信用性がないというだけでは、被告の供述
から事実を認定できないというにすぎないから、被告供述に信用性がない
からといって直ちに強姦の事実がないと積極的に認定することはできない。
ウところで、原告らは、本件日時においては、原告らがずっと酒を飲みな
がら話をしており、その後2時ころになってEと被告とが原告宅を出て行
ったと供述し、これに対して、被告は、本件日時において、E、原告、F
の順で強姦されたと供述している。
したがって、被告の供述が客観的真実に反するというためには、原告ら
の供述が客観的真実であることが認められる必要がある。
そこで、原告らの供述について検討すると、原告らの供述は、少なくと
も本件日時前後に関して捜査段階から一貫しているものの、本件日時から
原告らの逮捕まで1か月以上あり、原告らが口裏合わせをすることは十分
可能であったこと、Eと原告の各携帯電話について、本件日時前後の携帯
メール等が削除されたことが認められるところ、上記期間のメールのみが
削除され、他に特段の操作がされた形跡が認められないことからすれば
(甲161、169、175ないし177、原告らはこれらのメールを)
意図的に削除したものと推認されるところ、特定期間のメールを目的もな
く削除することは通常は考えられないことに照らせば、削除されたメール
には第三者の目に触れると不都合な内容を含むものであった可能性があり、
これらからすれば原告らが口裏合わせをした可能性がある(なお、この点
について、原告は被告の携帯メールも消去されていると指摘しているが、
それは原告も認めているとおり保存容量を超えたことにより自動的に消去
されたものであって、意図的に消去したものでない点で根本的に異なって
いる。その上、原告は、本件訴訟における本人尋問の際、本件日時前後。)
の行動について覚えていないとの回答を繰り返しており、原告の供述を前
提とすれば本件前後の行動も当時における日常的なものであって特に印象
的なものではないにしても、捜査機関及び家庭裁判所において繰り返し供
述した内容として記憶に残っていても不思議はないと考えられることから
すれば不自然であるといわざるを得ない。特に、原告は、すでに家庭裁判
所において前記のとおりの決定を得て身柄拘束について国家からの補償を
受けているにもかかわらず(原告本人〔11、敢えて本訴提起に及んで〕)
いるのであるから、被告の行動を許容し難いとの強い思いを有しており、
そのような感情は、被告の外形的な行動自体もさることながら、むしろ行
動の動機に対する非難に強く基礎付けられているのが通常であるが、原告
は、この点についても現時点において明確な認識を有しておらず、当時E
とこの点についてどのようなやりとりをしたかも記憶していないのであっ
て(原告本人〔31、32、自らが被害者であるとの意識を有している〕)
のか否かについても疑問が生ずるところである。これらのことに鑑みれば、
原告らの供述を安易に全面的に信用することはできない。
他方、被告の供述は原告らの供述内容と矛盾するものであるから、被告
の供述に一定の信用性が認められれば、原告らの供述内容について合理的
疑いが生ずるというべきである。そこで、次において、被告の供述内容に
ついて検討することとする。
2被告の供述の信用性()
ア被告の供述は原告らの具体的発言内容や具体的行動等を具体的かつ詳細
に述べたものであり、かつ、本件日時における一連の供述内容は迫真性に
も富むものである。しかも、原告宅の隣人が、とにかくテンションの高い
男の声が終始聞こえたと供述しているところ(甲52〔3、上記供述に〕)
おいては、最も声の大きいEが終始叫んだり話したりしていたことが述べ
られていることからすれば、これと矛盾しないということができる。
のみならず、被告の供述については、前記17イのとおり、H医師が虚()
偽ではなく真実を述べているものと判断しており、これが精神科医として
の専門的見地から前記17イのとおりの理由に基づいた判断であって、か()
つ、その内容もある程度首肯し得ることに照らすと、被告の供述は、全く
信用できないとはいい難く、一定程度信用すべきものであることは否定で
きないというべきである。
イこれに対して、原告は、被告供述について内容の不合理性を指摘する。
しかしながら、原告が指摘する諸点のうち、被告の足がEの股間に当た
った気がしたとの供述、ズボンとショーツを脱がされた状況についての供
述及びEがバスタオルをかぶっていたとの供述については、いずれも被告
が仮に強姦という事態に直面したとすれば精神的衝撃の強さから目の前の
人物以外の周囲に対する認識能が低下していたとしても不自然とはいい難
いし、バスタオルをかぶっていたことが不可解であるとしても、そのこと
から供述自体を虚偽と断ずることはできないし、むしろそのような不可解
な事柄を含むことは、当該供述が作為的なものでなく記憶どおりのものと
の評価も成り立つところである。
また、Eによる姦淫終了後原告に姦淫されるまでに3ないし5分あった
のに、抵抗したり逃げたりするそぶりを見せていない点、Eによる姦淫行
為からFによる同行為の終了までずっと布巾様の物を口に入れられたまま
でいたとの供述、姦淫行為後約30分間にわたって下半身裸のままでいた
との供述、原告宅を出た後Eとともに同人宅に赴いたこと、替えのショー
ツを買うことなくズボンをはいて行動したこと、他の交際相手とドライブ
したこと等の行動に関する供述、及び、被告の携帯メールの内容が強姦被
害者のものとして不自然に見える点については、いずれも、前記17イの()
とおり被告がその後に罹患したとの診断及び前記17ウで認定したPTSD()
見解とを併せ考えれば、強姦という大きな精神的衝撃を受けた者がとる行
動としてむしろ自然なものということもできるのであって、被告の供述の
信用性を高める事情であるとの評価も成り立ち得る。
そして、以上を前提とすれば、前記15アのとおり被告が本件日時前後()
において着用していたズボンの陰部相当部分に被告と同じ血液型の血液が
付着していたことは、替えのショーツを買うことなくズボンをはいていた
との被告供述を裏付ける客観的証拠となる(なお、ズボンに付着した血液
が本件日時前後のものでない可能性もないわけではないが、そのことをう
かがわせるに足りる証拠はない。さらに、この点の供述の信用性を肯定。)
すれば、被告がショーツの替えを持参することなく原告宅に赴いたとの供
述も信用できることになり、この点が、被告がショーツを捨てたとの供述
の信用性にも関わるものであることからすれば、被告の供述の信用性が全
体として高まることになる。
ウ以上からすれば、原告の指摘は被告の供述の信用性を完全に失わしめる
ものとはいい難く、他方で上記の評価を前提とすれば被告の供述はなお一
定の信用性を維持し得るというべきであるが、本件においては、上記の評
価も成り立つということができるにとどまり、積極的に上記の評価をすべ
きことをうかがわせるに足りる証拠がない。したがって、被告の供述は、
全面的には信用することはできず、これを根拠に告訴事実を積極的認定す
ることは困難であるものの、反面、上記のとおり、その信用性を全面的に
否定することもできず、少なくとも一定程度の信用性があるというべきで
ある。
なお、Eが突然叫んで被告を強姦しようとしてきたのに対して原告とF
が音楽を聴いていて傍観ないし無視した態度をとっていたとの被告の供述
は、原告らに、例えば、Eが強姦するから他の2人はみていればよいなど
の事前謀議がない限り不自然であるといわざるを得ないところ、原告とE
とは被告が原告方に来る以前にそのような謀議を行うことも可能であった
と認められるのに対し、Fについては被告よりも後に原告宅に到着してい
ることからすると、そのような事前謀議が存在したとみるのにはいささか
困難がないでもないが、Fが原告及びEと電話によって謀議を行った可能
性も否定できないから、この点は上記供述の信用性を決定的に損なうもの
ではない。また、原告は、ショーツを捨てた場所に関する被告の供述に変
遷があると指摘し、確かに、捜査機関は被告がA大学B学部2階の女子ト
イレにショーツを捨てたものと認識して裏付け捜査をしたのに対し(甲6
5、被告は、家庭裁判所においてショーツを捨てたのは1階の女子トイ)
レであると述べているものの(甲226〔別紙反訳書1−50頁、被告()〕)
の捜査機関に対する供述調書中にはB学部の女子トイレに捨てたという部
分があるにとどまり、1階か2階かについては何ら触れていないのである
から(甲18〔6、89〔19、供述の変遷があったか否かが明らか〕〕)
でなく、上記指摘は前提を欠くものである。
エ他方、本件のように当事者の主張が対立する事件においては、いずれか
の主張を裏付ける客観的証拠の存在が重要であり、捜査機関は、実体的真
実発見のために特に初動捜査において客観的証拠の獲得を図るべきである。
しかし、捜査機関は、前記13及び5のとおり、4月14日19時ころ被()()
告の母親から相談を受けながら、直ちに医師の診察を受けることや当日の
着衣等を確保するよう助言した形跡がなく、同月18日に被害届の際に提
出された被告のカーディガンに被告のものとは異なると思われる毛髪が付
着していることを認識しながら、これを鑑定に付した形跡もない。また、
被告が本件当時着用していたショーツは、精液が付着していた可能性があ
るなど本件を解明するのに最も重要な客観的証拠であり、上記被害届の際
には提出されなかったのであるから、捜査機関としてはこの時点でその所
在を十分に確認すべきであったにもかかわらず、そのような努力の形跡が
なく、5月11日付けの供述調書作成時にようやく被告から大学のトイレ
に捨てたとの供述を録取したものの(甲16〔4、その裏付けのための〕)
現場確認は16日後の同月27日(甲65、清掃婦からの事情聴取はさ)
らに6日後の6月2日になってようやく行われたものの、特段の成果もな
く終わっているのである。
このように初動捜査が必ずしも十分に行われなかった結果、本件につい
ては客観的証拠が不足し、強姦の事実の有無を確定するに至らなかったも
のといわざるを得ない。
3まとめ()
以上によれば、原告らが被告に対して強姦をせず、原告宅において会話を
していたのみであるとの事実については、これに沿う原告らの供述を全面的
には信用できないばかりか、これに反する被告の供述には一定程度の信用性
が認められるのであるから、同事実を認定するについて合理的な疑いが生ず
るといわざるを得ない。したがって、原告らが被告に対して強姦をせず、原
告宅において会話をしていたのみであるとの事実を認定することはできず、
被告が捜査機関に対して申告した犯罪事実が客観的真実に反し、虚偽である
と断ずることはできない。
結論3
以上から、被告が捜査機関に対して告知した犯罪事実が虚偽であるとはいえ
ない以上(争点1、他の争点について判断するまでもなく、被告について虚())
偽告訴等に基づく損害賠償義務が発生しないことは明らかである。したがって、
原告の請求には理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第34部
裁判長裁判官藤山雅行
裁判官金光秀明
裁判官萩原孝基

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