弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2被控訴人の請求を棄却する。
第2事案の概要
1本件事案の概要は,次のとおり補正し,後記2のとおり加えるほかは,原判
決の「事実及び理由」中「第2事案の概要等」に記載のとおりであるから,
これを引用する。
(1)原判決2頁21行目の次に行を改めて次のように加える。
「原審は,本件決定のうち,同文書の決裁欄中「係長」の印影を非開示とし
た部分の取消しを求める被控訴人の請求は棄却したが,同文書の第2の2の
(2),(3)及び第5を非開示とした部分の取消しを求める被控訴人の請求は理
由があるとしてこれを認容したので,控訴人が控訴した」。
(2)原判決7頁4行目の「実行性」を「実効性」に改める。
(3)原判決8頁19行目の「乙1」の次に「」を加える。。))
(4)原判決10頁20行目の「捜査の支障に」を「犯罪の捜査等に支障を」
に改める。
(5)原判決11頁2行目の「第31号」の次に「別添2」を加え,5行目の
「支障が生じ」を「支障を生じ」に改める。
2控訴人の当審における追加主張
(1)本件文書の作成者は国の行政機関であり,実施機関である新潟県警察本
部長は,本件文書の「罪名」及び「出所事由」の選定理由,選定経過等は知
らないのであるから,このような場合に実施機関に対し文書の作成者と同様
の主張立証を求めることは慎重でなければならない。
犯罪者が自己の出所情報を警察が把握しているかについて「ある程度(2),
の予測をする」のと「確定的に知る」のとでは,犯罪の捜査等に及ぼす影
響が異なる「出所者の入所罪名「出所者の出所事由の種別」及び「出所。」
情報ファイルの有効活用」を公開することは「凶悪重大犯罪等に係る出所,
情報の活用」に関する制度(以下「本件出所情報活用制度」という)によ。
る捜査の手法,技術,体制等を出所者に知らせることになるところ,出所
情報ファイルの活用の仕方を特定の事例にあてはめて具体的に説明するこ
自体が捜査の手の内を明かすことになるため,控訴人の立証には制約があと
る。そして,ここでいう出所者とは「凶悪重大犯罪等を遂行した前歴者」で
あって,とりわけ,地下鉄サリン事件を実行するような組織,極めて警戒心
の強い極左暴力集団,暴力団等の特殊な犯罪者が本件出所情報活用制度の対
象者となることを知った場合にどのような対抗措置をとるかは予測し難いも
のがあり,出所情報ファイルを逆手に取った,捜査機関も想定し得ない対抗
策が採られるおそれは十分にある。したがって,これらの者に捜査の手の内
を明かすことによって県民の生命・身体・財産が危険にさらされるおそれが
ないとはいえない。
(3)子ども対象・暴力的性犯罪の情報提供制度と本件出所情報活用制度とで
は「罪名」の公開が捜査の実効性に及ぼす影響が異なる。すなわち,前者,
では「罪名」が公開されているが,これは,前者の対象者は「再犯防止措置
対象者」に限られ,登録された対象者も登録解除により対象外になることも
あり「罪名」を公表しても登録要件を公表しない限り,当該出所者が対象,
者になるか否かを確実に知ることはできないからである。そして,いずれの
制度においても「出所事由「具体的活用方針」を公開しないことによって」
制度の実効性を確保することができるようになっている。したがって,前者
に関する通達が公開されていることをもって,後者に関する情報の公開の当
否を論ずるのは適切ではない。
第3当裁判所の判断
1控訴人は,本件文書のうち第2の2の(2)の「出所者の入所罪名,同(3)」
「」「」,の出所者の出所事由の種別及び第5の出所情報ファイルの有効活用は
本件条例7条4号の非開示情報に該当すると主張するので判断する。
(1)上記前提事実,証拠(甲2,3の10∼12,4,5,乙14)及び弁
論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
ア警察庁は,平成17年6月1日より,法務省から,子どもを対象とする
性犯罪前歴者の出所情報の提供を受けており,警察庁生活安全局長及び警
察庁刑事局長は,各都道府県警察の長等にあてて「子ども対象・暴力的,
性犯罪の出所者による再犯防止に向けた措置の実施について」と題する通
達を発出していた。この通達には,この情報提供制度の対象となる具体的
罪名や同制度の活用方針等が記載されており,その内容はすべて公開され
ていた(甲5)。
イ警察庁は,平成17年9月1日より,法務省から,殺人,強盗等の凶悪
重大犯罪や,これらの犯罪に結びつきやすく再犯のおそれが大きい侵入窃
,(,)。,盗薬物犯罪等に係る出所情報の提供を受けている甲24そして
この情報提供制度の対象罪種は20数罪種であること,対象者は,年間約
2万3000人であり,出所者全体の8割程度に及ぶこと,これにより,
これまで個別事件ごとに容疑者が浮上する都度法務省に照会していた前歴
者の出所情報の確認が容易になり,同種犯罪が発生した場合の迅速な捜査
に役立つ旨の警察庁等のコメントがあったこと等がマスコミを通じて報じ
られていた(甲3の10∼12。)
ウ犯罪白書(平成17年度版)は,出所事由の種類として「満期釈放,,」
「仮出獄「不定期刑終了「恩赦「刑執行停止「刑の執行順序の」,」,」,」,
変更(労役場へ「余罪取調べ(代用監獄へ「逃走「死亡」を挙)」,)」,」,
げている(乙14。)
(2)ところで,本件条例7条4号が,非開示情報として「公にすることに,
より,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安
全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき
相当の理由がある情報」と規定したのは,将来予測としての専門的技術的判
断を要する当該情報の性質にかんがみ,これを公にすることにより犯罪の捜
査等に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が判断した情報については,そ
の実施機関の第一次的な判断を尊重し,裁判所は,その実施機関の予測的判
断が合理性を持つ判断として許容される限度内のものであるかどうかを審理
判断するのが相当であるという趣旨によるものと解される。そして,この実
施機関の予測的判断の相当性(おそれがあると実施機関が認めることにつ「
き相当の理由がある情報」に該当するか否か)を審査するに当たっては,そ
の判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により当該判断が全く
事実の基礎を欠くかどうか,又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこ
と等により当該判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らか
であるかどうかについて審理し,それが認められる場合に限り,当該判断が
合理性を持つ判断として許容される限度を超え,相当性を欠くものとするこ
とができると解するのが相当である。そして「おそれがあると実施機関が,
認めること,すなわち実施機関が判断の基礎とした事実及びその事実に対」
する評価(予測を含む。以下同じ)の内容自体は,当該実施機関に主張立。
証責任がある。控訴人は,本件文書の作成者は国の行政機関であり,実施機
関である新潟県警本部長は,本件文書の「罪名」等の選定理由,選定経過等
は知らないのであるから,このような場合に実施機関に対し文書の作成者と
同様の主張立証を求めることは慎重でなければならないと主張するが,上記
の趣旨に照らし,採用することができない。
そこで,この観点に立って,本件文書中第2の2の(2),(3)及び第5の部
分を本件条例7条4号に該当するとした控訴人の判断が合理性を持つ判断と
して許容される限度内のものであるといえるかどうかを,項を改めて,控訴
人の個別の主張に即して検討することとする。
(3)ア控訴人は,本件文書中「出所者の入所罪名」及び「出所者の出所事由
の種別」として記載されている情報を公にすることは,出所者に対し,警
察が出所者の出所した事実を把握していることを教示するのと同じ結果と
なる旨主張する。
しかし,前記認定事実によれば,の対象罪種が本件出所情報活用制度
20数罪種に及び,対象者は出所者全体の8割程度に及ぶこと,すなわち
出所者の大部分が本件出所情報活用制度の対象にされていることは,既に
マスコミ等を通じて公表されているのであるから,重い犯罪を犯して刑に
,,服したという自覚のある者は上記情報が公にされるのを待つまでもなく
自身がこの制度の対象とされていることを当然に認識し,又は認識し得る
状況にあるものと考えるのが自然である。控訴人は,出所者が,制度の対
象とされていることを予測し得ることとこれを確実に知ることとは異なる
と主張するけれども,このような警察の制度の対象者に該当するか否かと
いう抽象的な標識に関する認識の程度の違いが,出所者のその後の行動に
差異をもたらすとは考え難い。他に,控訴人主張のような評価を相当とす
ることができる事実の主張立証があるとは見られない。
イ控訴人は,本件文書中「出所情報ファイルの有効活用」の項目に記載さ
れている情報について,出所情報ファイルを利用した捜査手法は既に公表
された犯人の絞り込みというだけにとどまらないから,これを公にするこ
とは,警察が当該出所者に対しどのような捜査を行おうとしているのかを
教示するのと同じ結果となる旨主張する。これは,上記情報の中に犯人の
絞り込み以外の捜査手法に言及した部分があることを前提とする主張であ
るとも考えられる。
しかし「出所情報ファイルの有効活用」の項目の本文はわずか3行程,
度にすぎず,本件文書(通達)が,法務省から警察庁に提供された出所情
報を警察庁において整理,編集することにより作成した電磁的記録の有効
活用及び適正な取扱いの確保を目的として警察内部の運用指針を示したも
のであり,個別具体的な犯罪の捜査に関するものではないことを考慮に入
れると,このような文書の外形自体に照らし,上記の項目の部分にこれを
公開すると犯罪の捜査等に支障を及ぼすおそれのある情報が記録されてい
るものと考えることは困難であり,控訴人が指摘する出所情報ファイルを
逆手に取った対抗措置(抽象的に主張されているだけで具体性のある主張
とはいえない)を講じることを可能にするような情報が記録されている。
と推認することも困難である。他に,控訴人主張のような評価を相当とす
ることができる事実の主張立証があるとは見られない。
ウ控訴人は,出所者が犯罪を企図する場合,検挙を逃れるために最大限の
注意を払うから,自身が出所したことを警察が了知していることなどを知
れば,出所後の行動や犯行手口等の選択をより注意深く行い,周囲に対す
る警戒を強め,さらには出所情報ファイルを逆手に取った対抗措置を講じ
るなどして,当該出所情報を活用した捜査の実効性を著しく低下させ,犯
罪の捜査等に支障を及ぼすおそれがある旨主張する。
しかし,本件出所情報活用制度の対象者が出所者全体の8割程度に及ぶ
ことが広く報道されたことにより,重い犯罪を犯して刑に服したという自
覚のある者は,自身がこの制度の対象とされていることを当然に認識し,
又は認識し得る状況にあるものと考えられることは上記のとおりであるか
ら,本件文書中の「出所者の入所罪名」及び「出所者の出所事由の種別」
として記載されている情報を公にすることにより,初めてこのような出所
。,者が警察に対抗する措置を講じることになるものとは認め難い控訴人は
地下鉄サリン事件を実行するような組織,極めて警戒心の強い極左暴力
集団,暴力団等の特殊な犯罪者が本件出所情報活用制度の対象者となる
ことを知った場合にどのような対抗措置をとるかは予測し難く,捜査機
関も想定し得ない対抗策が採られるおそれは十分にある旨主張するが,
上記情報が公にされるのこのような特殊な犯罪者であれば,なおさら,
を待つまでもなく,自身がこの制度の対象とされていることを当然に認識
しているはずであるということができる。他に,控訴人主張の予測的判断
を相当とすることができる事実の主張立証があるとは見られない。
エ以上によれば,本件文書中第2の2の(2),(3)及び第5の部分を本件条
例7条4号に該当するとした控訴人の判断は,その予測的判断を支える事
実の基礎を欠くか,又はその前提とした事実に対する評価が明白に合理性
を欠くものとして,社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかと
いうべきであって,合理性を持つ判断として許容される限度内のものであ
ると認めることはできない。
2以上によれば,本件決定のうち,本件文書の第2の2の(2),(3)及び第5を
非開示とした部分の取消しを求める被控訴人の請求は,理由があるから認容す
べきであり,これと同旨の原判決は相当である。
よって,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決
する。
東京高等裁判所第22民事部
裁判長裁判官石川善則
裁判官倉吉敬
裁判官德増誠一

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