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主文
1原判決を取り消す。
2処分行政庁が控訴人に対して平成16年4月27日付けでした平成11
年12月1日から平成12年11月30日までの事業年度の法人税の更正
のうち,所得金額2億5574万2515円,納付すべき税額7666万
9100円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定(ただし,同16
年6月29日付け変更決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。
3処分行政庁が控訴人に対して平成16年4月27日付けでした平成12
年12月1日から平成13年11月30日までの事業年度の法人税の更正
のうち,所得金額5億3767万9363円,納付すべき税額1億612
5万1000円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。
4処分行政庁が控訴人に対して平成16年4月27日付けでした平成13
年12月1日から平成14年11月30日までの事業年度の法人税の更正
のうち,所得金額2億5863万7674円,納付すべき税額7757万
9800円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。
5訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴の趣旨
主文と同旨
2控訴の趣旨に対する答弁
()本件控訴を棄却する。1
()控訴費用は,控訴人の負担とする。2
第2事案の概要
1本件は,処分行政庁が,控訴人と控訴人の国外関連者(租税特別措置法66
条の4第1項参照)であるP1(以下「P1社」という。)及びP2(以下
「P2社」といい,P1社と併せて単に,「本件国外関連者」ということがあ
る。)との間で行われた役務提供取引について,控訴人がP1社又はP2社か
ら支払を受けた対価の額が同条2項所定の独立企業間価格に満たないとして,
同条1項の規定に基づき,同役務提供取引が独立企業間価格により行われたも
のとみなして計算した所得金額を基に,法人税の増額更正及び過少申告加算税
賦課決定をしたことから,控訴人が,控訴人がP1社及びP2社から支払を受
けた対価の額は独立企業間価格に満たないものではなく,被控訴人が独立企業
間価格であると主張する金額は独立企業間価格ではない旨主張して,被控訴人
に対し,同更正のうち確定申告及び修正申告に係る所得金額及び納付すべき税
額を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定(ただし,平成16年6月2
9日付け変更決定により一部取り消された後のもの)の各取消しを求めた事案
である。
2原審は,
()本件手数料の額が独立企業間価格に満たないものであるか(争点())に11
ついて,①本件国外関連取引のような役務提供取引において,基本3法と同
等の方法といい得るためには,比較対象取引に係る役務が本件国外関連取引
に係る役務と同種(独立価格比準法)か,あるいは同種又は類似(再販売価
格基準法及び原価基準法)であり,かつ,比較対象取引に係る役務提供の条
件が本件国外関連取引と同様であることを要するものと解するのが相当であ
る,②国(被控訴人)において,(ア)課税庁が合理的な調査を尽くしたにも
かかわらず,基本3法と同等の方法を用いることができないことについて主
張立証をした場合には,基本3法と同等の方法を用いることができないこと
が事実上推定され,納税者(控訴人)側において,(イ)基本3法と同等の方
法を用いることができることについて,具体的に主張立証する必要があるも
のと解するのが相当であるところ,本件において,被控訴人は(ア)を主張立
証したが,控訴人の(イ)の立証はない,③本件において処分行政庁が適用し
た独立企業間価格の算定方法(P3製品と同種又は類似のソフトウェアにつ
いて非関連者間で行われた受注販売方式の再販売取引を比較対象取引に選定
した上で,我が国におけるP3製品の売上高にその売上総利益率(必要な差
異の調整を加えた後のもの)を乗じて,本件国外関連取引において控訴人が
受け取るべき通常の手数料の額(独立企業間価格)を算定するという方法)
は,P3製品の販売において控訴人が果たしている機能及び負担しているリ
スクの観点からすると,受注販売方式を採る再販売取引における再販売者の
機能及びリスクと類似しているということができるから,「取引内容に適合
し,かつ,基本3法の考え方(再販売価格基準法)から乖離しない合理的な
方法」に当たるので,本件算定方法は,再販売価格基準法に準ずる方法と同
等の方法に当たるというべきである,④この観点から本件国外関連取引と本
件比較対象取引とを対比すると,相当程度の同種性又は類似性があることが
認められる,⑤控訴人は,処分行政庁の比較対象取引の選定基準に合理性が
なく,その選定が恣意的であることを理由に,本件比較対象取引を比較対象
取引とすることはできない旨主張するが,比較対象取引の選定基準の合理性
と比較対象取引とするか否かとは直接的な関係がない上,本件比較対象取引
に比較可能性があることについては前示のとおりであり,仮にこの点を措く
としても,本件比較対象取引の選定の経緯に不合理な点を見い出すことはで
きない,⑥再販売価格基準法について定めた租税特別措置法施行令39条の
12第6項は,通常の利益率につき,比較対象取引と当該国外関連取引に係
る再販売取引とが売手の果たす機能その他において差異がある場合には,そ
の差異により生じる割合につき必要な調整を加えた後の割合とする旨規定し
ているところ,本件においては,売掛金及び買掛金に含まれる金利相当額の
調整及び債権回収リスクについて適正な差異の調整が行われているなどとし
て,本件算定方法は再販売価格基準法に準ずる方法と同等の方法に当たり,
本件比較対象取引に比較可能性があると認められるところ,同方法により処
分行政庁が算定した通常の手数料の額(独立企業間価格)が本件手数料の額
を上回ることは明らかである,
()本件各処分に質問検査権限の行使に係る違法事由があるか(争点())に22
ついて,租税特別措置法66条の4第9項は,税務職員による比較対象法人
に対する質問検査権限を創設した規定であって,当該質問検査に係る手続要
件自体が課税処分の要件となるものではないから,当該質問検査に係る手続
が違法であることを理由に,直ちに課税処分が違法であるということはでき
ず,当該質問検査に係る手続が刑罰法規に抵触し,又は公序良俗に反するよ
うな重大な違法がある場合に初めて,当該処分の取消事由となるものと解す
るのが相当であるところ,本件において,控訴人が主張している事実は,控
訴人が処分行政庁の職員が提出を求めた独立企業間価格を算定するために必
要と認められる帳簿書類又はその写しをすべて遅滞なく提出して,処分行政
庁の職員からの事業内容の聴取等にも積極的に協力したにもかかわらず,租
税特別措置法66条の4第9項に基づき本件比較対象法人に対する質問検査
権限を行使し情報を収集したというものであるから,控訴人の上記主張をも
ってしても,処分行政庁がした当該質問検査に係る手続に重大な違法がある
ということはできないなどとして,処分行政庁の職員が同項所定の要件に該
当しないにもかかわらず上記質問検査権限を行使したことを理由に本件各処
分が違法であるとする控訴人の主張を採用することはできない
として,控訴人の請求をいずれも棄却した。
そこで,これを不服とする控訴人が控訴した。
3「関係法令等の定め」,「前提事実」,「争点」及び「当事者の主張の要
旨」は,後記4において当審における控訴人の補充主張を,同5においてこれ
に対する被控訴人の認否及び反論を付加するほか,原判決の「事実及び理由」
の「第2事案の概要」の1ないし4に記載のとおりであるから,これを引用
する。
4当審における控訴人の補充主張
()争点()(本件手数料の額が独立企業間価格に満たないものであるか)に11
ついて
ア租税特別措置法66条の4第2項2号柱書き所定の基本3法と同等の方
法を用いることができない場合に当たることの主張立証責任
原判決は,国において,課税庁が合理的な調査を尽くしたにもかかわら
ず,基本3法と同等の方法を用いることができないことについて主張立証
をした場合には,基本3法と同等の方法を用いることができないことが事
実上推定され,納税者側において,基本3法と同等の方法を用いることが
できることについて,具体的に主張立証する必要があるものと解するのが
相当であると判示する。
しかしながら,上記のような事実上の推定を行うことは,本来国にある
べき「基本3法が適用できない」という要件の主張立証責任を事実上納税
者に転換するのと同様の効果がある上,論理則及び経験則に著しく反する
ものであるから認められない。
イ課税庁が「合理的な調査を尽くした」といえるか否かについて
原判決は,①P4調査官の調査過程を認定し,②本件報告書(乙23号
証)中には,「本分析にCPLM(原価基準法)を適用する場合の前提事
項として,販売促進活動及び市場開拓等の,コミッションベースの販売代
理活動を行う,外部の比較対象となるサービスプロバイダを特定するのは,
極めて困難であることがある。」との記載があることを根拠として,課税
庁が合理的な調査を尽くしたにもかかわらず,基本3法と同等の方法を用
いることができないことについての被控訴人の立証があったというべきで
あると判示する。
しかしながら,①原判決の認定に係るP4調査官の調査過程によれば,
課税庁が行った調査は場当たり的なものであって,基本3法と同等の方法
の適用が可能な比較対象取引が存在しないことを合理的に論理づけるに足
りるものであるとは到底いえない。また,②本件報告書(乙23号証)は,
役務提供事業者の取引の中に原価基準法を適用する比較対象取引を見い出
すことは困難であるが,「限られた資本資産しか有さない状態で事業を行
っている,日本の独立販売代理店」の取引が原価基準法の比較対象取引と
なると明示しているのであって,原価基準法を適用する比較対象取引が存
在しないといっているわけではない。これらの点からすると,課税庁が行
った調査をもって,「課税庁が合理的な調査を尽くした」ということは到
底できない。
ウ処分行政庁の採用した本件算定方法の誤り
(ア)控訴人の国外関連取引は,P3製品の販売支援という役務提供取引
であるところ,P3製品は,ディストリビュータ(卸売業者)において
本件国外関連者から直接輸入してリセラー(小売業者)に転売し,小売
業者がエンドユーザーに販売しているものであり,控訴人がその仕入れ
や販売をすることはない。
しかして,処分行政庁が用いた本件算定方法は,控訴人の本件国外関
連者によるディストリビュータ(卸売業者)への売上高に,比較対象取
引の売上総利益率を乗じた金額をもって独立企業間価格の額であるとす
るものであるが,①控訴人が再販売活動を行っていない点,②控訴人自
身の売上高ではなく本件国外関連者のディストリビュータ(卸売業者)
に対する売上高に比較対象取引の売上総利益率を乗じて,通常の利潤の
額を算出している点,③控訴人の再販売価格から通常の利潤の額を控除
した金額を独立企業間価格とするのではなく,「通常の利潤の額」その
ものが独立企業間価格であるとしている点において,再販売価格基準法
(と同等の方法)とは異なるものである。
(イ)原判決は,租税特別措置法66条の4第2項2号ロは,棚卸資産の
販売又は購入以外の取引について,基本3法に準ずる方法と同等の方法
により独立企業間価格を算定することができる旨規定しているところ,
この「準ずる方法」とは,①取引内容に適合し,かつ,②基本3法の考
え方から乖離しない合理的な方法をいうものと解するのが相当であると
判示しながら,本件算定方法が①②の各要件を充足することについて理
由を示さず,あるいは不合理な理由により,「再販売価格基準法に準ず
る方法と同等の方法」であると判示しており失当である。
特に,本件国外関連者と控訴人との本件各業務委託契約上,本件手数
料は,「役務提供に要するコスト+P1社及びP2社のディストリビュ
ータ(卸売業者)に対する売上高の1.5パーセント」と規定されてお
り,控訴人は,役務提供活動によって必ず利益を取得し,損失を被るリ
スクを負担しないものとされている。これに対し,再販売取引における
再販売者は,その実現した売上高が損益分岐点を下回れば損失を被り,
これを上回れば利益を取得するのであって,控訴人と再販売取引におけ
る再販売者とはその負担するリスクにおいて類似しないから,本件算定
方法は,本件国外関連取引の取引内容に適合した合理的な方法とはいえ
ない。
(ウ)原判決は,再販売価格基準法が取引当事者の果たす機能や負担する
リスクが重要視される算定方法であることを指摘し,比較対象取引と機
能及びリスクの点について類似していれば「再販売価格基準法に準ずる
方法(と同等の方法)」で独立企業間価格を算定することができるとし,
本件において,P3製品の販売において控訴人が果たしている機能及び
負担しているリスクは,受注販売方式を採る再販売取引における再販売
者の機能及びリスクと類似しているということができるから,受注販売
方式を採る再販売取引に係る売上総利益率をもって独立企業間価格であ
る通常の手数料の額を算定しようとする本件算定方法は,取引内容に適
合し,かつ,再販売価格基準法の考え方から乖離しない合理的な方法で
あるということができると判示する。
しかし,上記判示は,「準ずる方法」といえるか否かという問題と
「比較対象取引」であるか否かという問題とを混同するものである。機
能及びリスクに差異がない比較対象取引を用いて価格算定をする方法に
は多種多様なものが存在するところ,そのうちの独立価格比準法,再販
売価格基準法及び原価基準法の3つの方法のみが独立企業間価格算定の
基本的方法として認められているのであって,たとえ機能及びリスクが
同一の比較対象取引を用いる移転価格算定方法であったとしても,その
全てが独立企業間価格を合理的に算定する方法とはいえない。
(エ)被控訴人は,①控訴人は,ディストリビュータやリセラー(以下,
両者を併せて「卸売業者等」という。)に対してP3製品の販売支援サ
ービスを行い,その対価を本件国外関連者から受領している,②本件国
外関連者は,ディストリビュータ(卸売業者)に対してP3製品を販売
している,③ディストリビュータ(卸売業者)は,本件国外関連者に対
して,P3製品の購入代金及び控訴人から提供を受けた役務の代価の合
計を支払っている,④本件国外関連者は,控訴人に対して,ディストリ
ビュータ(卸売業者)から受領した金額のうち役務提供の代価部分を支
払っているとの事実関係を前提として,控訴人が行っている取引は,控
訴人が本件国外関連者からP3製品を購入し,販売支援サービスと共に
本件卸売業者に販売する取引(仕入販売取引)と同視できるから,本件
国外関連取引が実質的にこうした仕入販売取引であるとみなして,本件
取引に再販売価格基準法を適用して独立企業間価格を算定することに合
理性があると主張する。
しかしながら,被控訴人の主張する本件算定方法は,以下の点におい
て,「取引内容に適合し,かつ,基本3法の考え方から乖離しない合理
的な方法である」とはいえない。
a控訴人の行っているのは,エンドユーザーの購買意欲を刺激し,結
果として本件国外関連者のディストリビュータ(卸売業者)への売上
高が間接的に増加する効果を有する活動であって,実質的にディスト
リビュータ(卸売業者)への再販売取引そのものと全く同じ活動を行
っているわけではない。
b一般に,同一の製品の再販売取引であったとしても,海外のメーカ
ーから輸入して卸売を行う者の売上総利益率は,輸入者から仕入れて
卸売を行う二次卸取引や小売業者の行う小売取引の売上総利益率と同
一でないから,再販売価格基準法において取引段階に差異がある場合
には比較対象取引にならないところ,被控訴人は,二次卸取引や小売
取引をもって本件比較対象取引としている。
c控訴人は,本件国外関連者に対して役務を提供してその対価を受領
しているのであって,卸売業者等に対して役務を提供してその対価を
受領する取引を行っておらず,また,ディストリビュータ(卸売業
者)はP3製品の購入代金を支払っているだけであって,控訴人から
提供を受けた役務の代価を支払っているわけではない。
d本件算定方法は,モノとサービスを販売する本件比較対象取引の売
上総利益率を本件国外関連者のディストリビュータ(卸売業者)への
売上高に乗じて通常の利潤の額を算定し,その利潤の額をもってサー
ビスの販売取引の利潤の額とするものであるが,サービスの販売取引
の利益率を算定するためには,モノとサービスを販売する本件比較対
象取引の利益率からモノを販売する取引の利益率を控除する必要があ
るのであって,本件算定方法は合理的な方法であるとはいえない。
eエンドユーザーの中には,控訴人からP3製品の説明等を受けず,
専らリセラー等の活動を受けてP3製品を購入する者も少なくないの
であって,控訴人の活動の結果P3製品の売上げが増加した部分は,
P3製品の売上高全体の一部に過ぎない。それにもかかわらず,控訴
人の活動と関連のない本件国外関連者の売上高全体に対して,本件比
較対象法人の売上総利益率を乗するのは誤りである。
f本件算定方法は,同一の製品につき架空の売買取引を想定し,他の
売買行為を行っている者が取得しているのと同一の利益をさらに取得
することができるとして課税するものであって,同一の利益に対して
2度課税する不合理な方法である。
(オ)本件比較対象取引に比較可能性があるかについて
原判決は,①再販売価格基準法の場合,比較対象取引と国外関連取引
との間に,厳密な類似性は要求されず,同種又は類似の取引であれば足
りる,②再販売価格基準法は,取引当事者の果たす機能や負担するリス
クが重要視される算定方法であることから,比較可能性の判断において
もこの機能やリスクを中心に検討することが有益である,③したがって,
比較対象取引と国外関連取引の機能とリスクに類似する点が多く存在す
れば,両者の機能とリスクに差異が存在する点があっても,比較可能性
は満たされると判示する。
しかしながら,租税特別措置法施行令39条の12第6項は,比較対
象取引と当該国外関連取引に係る棚卸資産の買手が当該棚卸資産を非関
連者に対して販売した取引とが「売手の果たす機能その他において」差
異がある場合には,その差異により生じる割合の差につき必要な調整を
加えた後の割合をもって通常の利益率とする旨規定しており,比較可能
性において考慮されるべき要素は売上総利益率に影響を及ぼす差異全て
であって,機能及びリスクに限定されるわけではない。したがって,原
判決は,租税特別措置法施行令39条の12第6項の解釈を誤っている。
また,原判決は,両者の機能とリスクに差異が存在する点があっても
比較可能性は満たされると考えていたため,上記の差異について十分な
審理を行っていない。
(カ)本件比較対象取引の選定過程について
原判決は,比較対象取引の選定基準が合理性を有するか否かによって,
直ちに,ある取引を比較対象取引とするか否かを決することができるわ
けではないと判示する。
しかし,これは,本件比較対象取引がシークレット・コンパラブルで
あり,被控訴人が同取引の詳細を国家公務員の守秘義務を理由に開示し
ないため,控訴人が比較可能性について反論することが極めて困難であ
ることを看過している。このような証拠の信用性が劣ることは一般的に
認められているところであり,少なくとも本件比較対象取引が合理的な
選定基準に基づき選定されたものであることの立証がなければ,本件比
較対象取引につき比較可能性があると認定することは経験則に反する。
(キ)差異の調整について
原判決は,差異の調整は,当該差異が取引価格の差に表れているこa
とが客観的に明らかであると認められる場合に限って行われるべきも
のと解するのが相当であると判示する。
しかしながら,租税特別措置法施行令39条の12第6項は,通常
の利益率につき,比較対象取引と当該国外関連取引に係る再販売取引
とが売手の果たす機能その他において「差異がある場合には,その差
異により生ずる割合の差につき必要な調整を加えた後の割合とす
る。」と規定しており,差異の調整が必要な場合につき,原判決のよ
うな限定を付す文言上の根拠はない。また,ガイドラインそのOECD
他において国際的に認められている差異調整についての基本的考え方
は,原則として,差異が存在する限り,差異の調整を行わなければ比
較可能性がないとするが,例外的に,差異が価格に影響を与えていな
いか又は価格に与える影響が無視できるほどに僅少である場合には,
差異調整を行わなくとも比較可能性を認めるとするものであり,原判
決は,この趣旨にも反している。
b原判決は,①本件比較対象法人は,あくまでソフトウェアの販売業
務を中心的業務として行っていたのであり,商品の受発注や配送手配
等はその付随的業務として行っていたにすぎないこと,②本件比較対
象取引において,その売上高に対する商品の輸送費の割合は平成13
年度において0.09%,平成14年度においては0.16%である
ところ,控訴人が主張する商品の受発注や配送手配等に係る費用の割
合が上記輸送費の割合に比して特に大きいとは認め難いことから,商
品の受発注や配送手配等に係る差異が取引価格の差に表れていること
が客観的に明らかであるとまではいえないなどと判示する。
しかしながら,本件比較対象取引においては,ソフトウェアの販売
業務(①エンドユーザーとの価格交渉,②エンドユーザーへの商品発
送の手配と引渡,③エンドユーザーへの売買代金の請求,④エンドユ
ーザーからの売買代金の入金管理,⑤ディストリビュータ(卸売業
者)への発注,⑥ディストリビュータ(卸売業者)との価格交渉,⑦
ディストリビュータ(卸売業者)からの請求額の管理,⑧ディストリ
ビュータ(卸売業者)への支払等)が中心業務なのであって,エンド
ユーザーへの商品説明等のサービス(控訴人が行っているのと同一の
業務)は付随業務に過ぎない。したがって,本件比較対象取引の中心
業務である販売業務に帰属する売上総利益率は本件比較対象取引の売
上総利益率の相当部分を占めるものと思われるから,差異調整が必要
であることは明らかである。また,本件比較対象取引においては,本
件比較対象企業が,控訴人の行っていない機能を行うことに要するコ
ストをまかなうに足りるだけ売上総利益率が高くなっているのである
から,その分の差異調整が必要であることも明らかである。
()争点()(本件各処分に質問検査権限の行使に係る違法事由があるか)に22
ついて
ア原判決は,租税特別措置法66条の4第9項は,税務職員による比較対
象法人に対する質問検査権限を創設した規定であって,当該質問検査に係
る手続要件自体が課税処分の要件となるものではないから,当該質問検査
に係る手続が違法であることを理由に直ちに課税処分が違法であるという
ことはできないと判示する。
しかしながら,一般に手続要件の違反が課税の効力に影響を与えないと
されているのは,手続の違反があっても課税の違法性を争えなくなるとい
う不利益を受けるわけではないからであるところ,シークレット・コンパ
ラブルによる課税は,それが認められると納税者による比較可能性につい
ての反論防御が著しく困難になるのであるから,控訴人がシークレット・
コンパラブルによる課税の要件(「法人が帳簿書類又はその写しを遅滞な
く提示し,又は提出しなかった」こと)を充足しない場合には,質問検査
権の行使の結果得られたシークレット・コンパラブルの情報を用いた移転
価格課税は違法となると解するべきである。
イシークレット・コンパラブルの情報を用いた移転価格課税は,その詳細
な情報が納税者に開示されないため,納税者の反論が著しく困難であり,
納税者の利益が害される。仮に,シークレット・コンパラブルの情報を用
いて算定された価格が独立企業間価格とされるならば,比較対象企業の財
務内容や価格算定の基礎となる数値を知り得ない納税者は,将来年度にお
いて,独立企業間価格を自ら算定し適法な申告納税をすることが不可能と
なり,更正処分を受けるリスクにさらされ続けることになる。したがって,
納税者が申告時に利用できなかった資料に基づき独立企業間価格を算定し
て申告の適否を判断して更正処分を行うことは,法律に「特段の定め」が
ない限り認められないと解するべきであり,上記「特段の定め」は租税特
別措置法66条の4第7項があるのみであるから,同条の4第9項の調査
の結果得られた資料(納税者に入手可能でない資料)を用いて同条の4第
2項に基づき本件各処分を行うことは,同条項に違反するばかりか,国民
生活に法的安定性と予測可能性を保障することを目的とする租税法律主義
(憲法84条)及び適正手続を保障した憲法13条及び31条に違反し,
申告納税主義を採用する法人税法74条及び国税通則法16条の規定にも
違反する。
()過少申告加算税を課すべきでない「正当な理由」があること3
本件各更正処分は,処分行政庁がシークレット・コンパラブルの情報を用
いる以外に独立企業間価格を算定することはできないと判断してしたもので
あるところ,控訴人が非公開であるシークレット・コンパラブルの情報を入
手することは不可能であることは明らかである。
したがって,シークレット・コンパラブルの情報を用いて算定された独立
企業間価格を税額計算の基礎としなかったことについては,真に控訴人の責
めに帰することができない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照
らしてもなお,控訴人の過少申告加算税を付加することは不当又は酷になる
というのが相当であるから,本件においては国税通則法65条4項にいう
「正当な理由」があり,過少申告加算税の付加を決定した本件各賦課決定処
分は取り消されるべきである(最高裁第一小法廷平成18年4月20日判決
・民集60巻4号1611頁,最高裁第三小法廷平成18年4月25日判決
・民集60巻4号1728頁,最高裁第三小法廷平成18年10月24日判
決・民集60巻8号3128頁)。
5当審における控訴人の補充主張に対する被控訴人の認否及び反論
()ア控訴人の主張()ア(基本3法と同等の方法を用いることができない場11
合に当たることの主張立証責任)は,否認又は争う。
なお,課税庁が合理的な調査を尽くしたにもかかわらず基本3法と同等
の方法の適用対象となり得る比較対象取引が見つからない場合に,そのよ
うな比較対象取引は存在せず,当該事案に基本3法と同等の方法を適用す
ることができないと事実上推定することは,何ら論理則及び経験則に反す
るものではない。
イ同()イ(課税庁が「合理的な調査を尽くした」といえるか否かについ1
て)は,否認又は争う。
(ア)そもそも控訴人のように,自らは商品の仕入販売の当事者となるこ
となく,他の法人が卸売業者等に対して販売している商品に関して販売
促進等の役務提供のみを行うという形態の事業を営んでいる法人は,稀
にしか存在しない。また,仮にそのような形態の取引が存在するとして
も,別法人の間で同一の商品の仕入販売とその販売促進等の役割を分担
することは,親子会社のような特殊な関係にある関連者同士であるから
こそ可能なのであって,独立の企業間でこのような取引が行われている
可能性は非常に低い。したがって,本件国外関連取引について,租税特
別措置法66条の4第2項第2号イ,同項第1号イないしハの要件を満
たす比較対象取引を選定することは,もともと極めて困難である。こう
した状況の下にあって,P4調査官は,原判決が判示するように,その
専門的な知識経験に照らし,通常想定できる調査方法を尽くしたものの,
基本3法と同等の方法の適用対象となり得る比較対象取引を見い出すこ
とができなかったものである。
(イ)また,本件報告書(乙23号証)が採用しているのは,「原価基準
法(と同等の方法)」ではなく,「原価基準法に準ずる方法と同等の方
法」であるから,本件報告書を根拠として,原価基準法の適用が可能で
あることが示されていると主張するのは事実に反する。すなわち,原価
基準法と同等の方法の適用対象となる役務提供取引を行っている法人の
場合,そもそも「在庫リスク」を負うことはあり得ないはずであるとこ
ろ,本件報告書にいう「独立販売代理店」は「在庫リスクをほんのわず
かしか負っておらず」と記載されていること(同号証訳文16頁21行
目),本件報告書において選定された比較対象法人8社はいずれも電気
通信製品等の再販売者(仕入販売業者)であることからすると,本件報
告書は,本件国外関連取引が役務提供取引であるにもかかわらず,あえ
て仕入販売取引を比較対象取引に選定しているのであるから,その独立
企業間価格の算定方法が,「原価基準法(と同等の方法)」そのもので
はなく,「原価基準法に準ずる方法と同等の方法」であることは明らか
である。そうすると,本件報告書においても,本件国外関連取引につい
て,基本3法と同等の方法の適用対象となる比較対象取引が存在しない
ことが前提とされているものというべきである。
ウ同()ウ(処分行政庁の採用した本件算定方法の誤り)は否認又は争う。1
(ア)同(イ)について,原判決は,再販売価格基準法が「取引当事者の果
たす機能や負担するリスクが重要視される算定方法であること」を踏ま
えた上で,本件国外関連取引において控訴人が果たしている機能及び負
担するリスクが,受注販売方式を採る再販売取引における再販売者の機
能及びリスクに類似しているといえることから,本件算定方法が再販売
価格基準法に準ずる方法と同等の方法に当たると判示したものであり,
控訴人の原判決に対する批判は当たらない。
(イ)同(ウ)について,原判決は,本件算定方法が再販売価格基準法に準
ずる方法と同等の方法に当たるか否かという問題(原判決46頁以下)
と,本件算定方法に基づいて選定された本件比較対象取引に具体的に比
較可能性が認められるかという問題(原判決51頁以下)とを明確に区
別して判断しているのであるから,控訴人の批判は当たらない。
(ウ)同(エ)について,控訴人は,被控訴人が「控訴人が行っている取引
は,控訴人が本件国外関連者からP3製品を購入し,これを販売支援サ
ービスと共に卸売業者に販売する取引(仕入販売取引)と同視できるか
ら,本件取引が実質的にこうした仕入販売取引であるとみなして,再販
売価格基準法を適用することに合理性があると主張する。」などと述べ,
そのような理解を前提として当該主張を論難するが,それは被控訴人の
主張を曲解するものである。すなわち,被控訴人は,本件国外関連取引
が仕入販売取引ではなく役務提供取引であることを前提に,再販売価格
基準法に準ずる方法と同等の方法を適用することができると主張してい
るものであり,本件国外関連取引を「仕入販売取引であるとみなして,
再販売価格準法を適用する」と主張しているわけではない。したがって,
この点に係る控訴人の主張は,いずれもその前提を誤ったものであり,
失当である。
この点を措くとして,控訴人の個々の主張に対する反論は以下のとお
りである。
a控訴人は,実質的にディストリビュータ(卸売業者)への再販売取
引そのものと全く同じ活動を行っているわけではないから,本件にお
いて,再販売価格基準法を「準ずる方法」として適用する余地はない
旨主張する(控訴人の主張()ウ(エ)a)。1
しかし,被控訴人は,控訴人が「実質的にディストリビュータ(卸
売業者)への再販売取引そのものと全く同じ活動を行っている」とい
えるか否かを問題としているのではなく,P3製品の販売において控
訴人の果たしている機能及び負担しているリスクが,受注販売方式を
採る再販売取引における再販売者の機能及びリスクと類似していると
いうことができることなどから,本件算定方法が再販売価格基準法に
準ずる方法と同等の方法に当たると解しているのであるから,控訴人
の上記主張は理由がない。
b控訴人は,再販売価格基準法において取引段階に差異がある場合に
は比較対象取引にならないところ,被控訴人は二次卸取引や小売取引
をもって本件比較対象取引としているから,本件算定方法は合理的で
ない旨主張する(同b)。
しかし,一般に,再販売価格基準法の適用対象となる比較対象取引
の選定に当たり,小売又は卸売,一次問屋又は二次問屋等の取引段階
の差異が考慮要素とされているのは,かかる取引段階が異なることに
より,当該取引において再販売者が果たす機能及び負担するリスクが
大きく異なるためである。これに対し,本件算定方法は,あくまでも,
役務提供取引である本件国外関連取引が受注販売方式を採る仕入販売
方式に機能及びリスクの点で類似していることに着目し,受注販売方
式を採る仕入販売取引を比較対象取引に選定して独立企業間価格を算
定しようとするものである。そうであるとすると,取引段階がどのよ
うなものであれ,機能及びリスクの観点から本件国外関連取引との類
似性が認められる受注販売方式を採る仕入販売取引であれば,これを
比較対象取引とすることに何ら問題はないというべきであるから,控
訴人の上記主張は理由がない。
c控訴人は,本件国外関連者に対して役務を提供してその対価を受領
する取引を行っているものであって,卸売業者等に対して役務を提供
して対価を受領する取引は行っておらず,卸売業者等が役務の対価を
支払っているものでもないなどと主張する(同c)。しかし,本件各
業務委託契約書(乙9号証の1・2)によれば,控訴人が,本件各業
務委託契約に基づき,本件国外関連者に対する債務の履行として,卸
売業者等に対して販売促進等のサービスを行うという内容の役務を提
供していたことは明らかである。
また,本件国外関連者は,上記役務提供の対価を控訴人に対して支
払っていたのであるから,そのコストが本件国外関連者と日本の卸売
業者等との間の取引価格に織り込まれていることは明らかである。
d控訴人は,サービスの販売取引をしている控訴人の利益率を算定す
るためには,モノとサービスを販売する本件比較対象取引の利益率か
らモノを販売する取引の利益率を控除する必要があるのであり,本件
算定方法は合理性に欠ける旨主張する(同d)。
しかし,控訴人は,日本において,P3製品の販売促進,マーケテ
ィング,宣伝広告,トレーニングコースの提供,サポートサービスの
提供等を行っていたところ,これらの役務の内容は,再販売取引にお
いて再販売者が果たす機能と類似しているということができる。そう
である以上,控訴人とは異なる再販売者固有の機能は,上記販売促進
等の機能から切り離された純粋な商品の受発注及び配送手配,仕入代
金の支払及び販売代金の受領等の事務処理作業にすぎない。そして,
こうした事務処理作業を通じて商品の取引価格や売上総利益率に影響
するような多大な利益が生じることは想定し難いから,本件算定方法
において,控訴人のいう比較対象法人固有の「モノを販売する取引の
利益率」を比較対象取引の利益率から控除する必要があるとは認めら
れず,結局,控訴人の上記主張は理由がない。
e控訴人は,エンドユーザーの中には専らリセラー等の活動を受けて
P3製品を購入する者も少なくないにもかかわらず,本件算定方法は
本件国外関連者の売上高全体に対して本件比較対象法人の売上総利益
率を乗じている点において誤りであると主張する(同e)。
しかし,本件において問題となっているのは,本件国外関連者の日
本におけるP3製品の販売に関し,再販売者が行っているのと同様の
役務提供を控訴人が行ったことの対価として,控訴人が本件国外関連
者から受け取るべき金額(独立企業間価格)はいくらかという点であ
るから,これを算定する際に,控訴人と同様の機能を果たしている再
販売者の売上総利益率を,本件国外関連者の日本におけるP3製品の
全売上高に乗じることは合理的というべきであり,控訴人の上記主張
は理由がない。
f控訴人の二重課税の主張(同f)について,本件算定方法は,「同
一の製品につき架空の売買取引を想定し」て課税するものではなく,
P3製品の輸入者である卸売業者(ディストリビュータ)の所得につ
いて控訴人に課税するものでもないから,控訴人の主張は失当である。
(エ)控訴人は,比較可能性において考慮されるべき要素は売上総利益率
に影響を及ぼす差異全てであって,機能及びリスクに限定されるわけで
はないから,原判決は租税特別措置法施行令39条の12第6項の解釈
を誤るものであるなどと主張する(控訴人の主張()ウ(オ))。1
しかし,再販売価格基準法は,主として再販売者の果たす機能や負担
するリスクに着目するものであり,独立価格比準法と異なり,比較対象
取引の価格自体を独立企業間価格とするものではなく,一定期間にわた
る類似取引の利益率から独立企業間価格を算定するものであるから,棚
卸資産の厳密な類似性は必要とされず,同種又は類似の棚卸資産の再販
売取引であれば比較可能性のある比較対象取引となるものと解されてい
る。したがって,再販売価格基準法に準ずる方法と同等の方法が適用さ
れる本件においても,棚卸資産(グラフィックソフト)や提供される役
務(販売促進等)の厳密な類似性までが要求されるものではなく,主と
して控訴人及び本件比較対象法人の果たす機能及び負担するリスクの観
点から,本件国外関連取引と本件比較対象取引の類似性の有無を検討す
れば足りるというべきである。
また,原判決は,本件国外関連取引及び本件比較対象取引の具体的内
容について必要な事実を認定し,原判決別紙1記載のとおり,合計18
項目にわたって両取引を対比し,両取引の間に相当程度の同種性又は類
似性があることを認定しているのであるから,その判断は正当である。
(オ)控訴人の主張()ウ(カ)について,比較可能性の要件を離れて,比1
較対象取引の選定過程の合理性(同選定過程が恣意的でないこと)が独
立した課税要件となると解すべき法的根拠はないから,控訴人の主張は
失当である。
(カ)同(キ)について
a控訴人は,差異の調整を行うべき場合を定めた租税特別措置法施行
令39条の12第6項の規定について,差異が存在する限り,差異の
調整を行わなければ比較可能性がないのが原則であるが,例外的に,
差異が価格に影響を与えていないか又は価格に与える影響が無視でき
るほどに僅少である場合には,差異調整を行わなくとも比較可能性を
認めるという趣旨の規定である旨主張する(同(キ)a)。
しかし,国外関連取引と比較対象取引があらゆる取引条件において
完全に一致することは通常あり得ない。仮に,取引価格に影響を及ぼ
す可能性のある差異のすべてについて利益率の調整を行うことができ
なければ比較対象取引とすることができないとすると,比較対象取引
を用いた独立企業間価格の算定は著しく困難なものとなってしまう。
そこで,我が国の移転価格税制においては,その立法段階から,かか
る差異の調整を行うのは,「その違いが取引価格の差に表れてくるこ
とが客観的に明らかであると認められる場合に限るべきである」と解
されてきたものであって,これと同旨の原判決は相当である。
b同(キ)bについて
本件において,控訴人の主張する差異が取引価格の差に表れている
ことが客観的に明らかであるとは認められないから,かかる差異の調
整を行う必要はない。
これを敷衍するに,控訴人は,日本において,P3製品の販売促進,
マーケティング,宣伝広告,トレーニングコースの提供,サポートサ
ービスの提供等を行っていたところ,これらの役務の内容は,再販売
取引において再販売者の果たす機能と類似している。そうすると,控
訴人が果たしていない本件比較対象法人固有の機能は,純粋な商品の
受発注及び配送手配,仕入代金の支払及び販売代金の受領等の事務処
理作業にすぎない(なお,控訴人は,本件比較対象法人が「エンドユ
ーザーとの価格交渉」を行っていると主張するが,本件比較対象法人
は,取引数量,取引金額等に応じて価格を割り引くようなこと(ボリ
ュームディスカウント)は基本的に行っておらず,販売先との価格交
渉をしていないから,控訴人の上記主張は理由がない。)。そして,
ソフトウェアの卸売業者や小売業者は,P3製品のみならず,競合す
る他のメーカーの数多くのソフトウェアを幅広く取り扱っているので
あり,通常は,小売業者がエンドユーザーに対して特定のソフトウェ
アだけの売り込みをすることはないから,仮に控訴人や本件比較対象
法人が行っているような販売促進活動,マーケティング,広告,サポ
ート等の活動が行われなければ,多大な売上げは期待できないものと
考えられる。他方,ソフトウェアという商品の特性からすれば,その
輸送の対象となるのはCD−ROM等の媒体とマニュアル等の文書程
度であるから,その物流に係る費用及び収益が取引価格に有意な影響
を及ぼす要素であるとは考え難い。そうすると,ソフトウェアの再販
売取引において,現に再販売者が得ている利益の源泉は,物流機能そ
れ自体よりも,上記のような販売促進等の機能にあるというべきであ
る。本件比較対象取引において,その売上高に対する商品の輸送費の
割合は平成13年度において0.09パーセント,平成14年度にお
いては0.16パーセントであることをも併せ考慮すると,控訴人の
主張する差異が,本件国外関連取引及び本件比較対象取引の取引価格
の差に表れていることが客観的に明らかであるとは認められないから,
かかる差異の調整を図る必要はない。
()ア控訴人の主張()アについて,控訴人は,租税特別措置法66条の4第22
9項に規定する「法人が第7項に規定する帳簿書類又はその写しを遅滞な
く提示し,又は提出しなかった場合」との要件を充足しない場合には,質
問検査権の行使の結果得られた情報を用いた移転価格課税は違法である旨
主張する。
しかし,租税特別措置法66条の4第9項は,税務職員による比較対象
法人に対する質問検査権限を創設した規定であって,当該質問検査に係る
手続要件自体が課税処分の要件となるものではないから,原判決が判示す
るとおり,当該質問検査に係る手続が違法であることを理由に直ちに課税
処分が違法であるということはできないと解するべきである。そして,本
件において,控訴人は,独立企業間価格を算定するために必要と認められ
る帳簿書類等を遅滞なく提示し,又は提出しなかったものであり,同項所
定の質問検査権限の行使要件は満たされている。したがって,控訴人の上
記主張は理由がない。
イ同イについて,控訴人は,比較対象企業の財務内容や価格算定の基礎と
なる数値を知り得ない納税者は,将来年度において,独立企業間価格を自
ら算定し適法な申告納税をすることが不可能となり,更正処分を受けるリ
スクにさらされ続けることになるから,シークレット・コンパラブルの情
報を用いた移転価格課税は,国民生活に法的安定性と予測可能性を保障す
ることを目的とする租税法律主義(憲法84条)に違反し,適正手続を保
障した憲法13条及び31条に違反し,申告納税主義を採用する法人税法
74条及び国税通則法16条の規定に反するなどと主張する。
しかし,租税特別措置法66条の4第9項は,同項所定の要件を満たす
場合に,課税庁が,比較対象法人に対して質問・検査権限を行使し,非公
開情報を入手して課税処分を行うことを当然に予定しているのであるから,
控訴人の上記違憲の主張は,ひっきょう,同項の規定を設けている我が国
の立法政策を論難するものにすぎず,失当である。
()控訴人の主張()について,控訴人は,非公開であるシークレット・コン33
パラブルの情報を入手することは不可能であるから,シークレット・コンパ
ラブルの情報を用いて算定された独立企業間価格を税額計算の基礎としなか
ったことについて,国税通則法65条4項にいう「正当な理由」がある旨主
張する。
しかしながら,本件において,本件比較対象法人に対する質問検査が実施
されたのは,控訴人が「独立企業間価格を算定するために必要と認められる
帳簿書類」等を遅滞なく提示し,又は提出しなかったためである。
また,控訴人は,本件各事業年度の直近の2事業年度(平成10年11月
期及び平成11年11月期)においては,P3製品の全部又は一部をP1社
から仕入れて日本の卸売業者等に販売する仕入販売方式を採っていたところ,
その当時と手数料方式(役務提供方式)を採っていた本件各事業年度とでは,
控訴人の販売部門の基本的業務に変わりはないにもかかわらず,P3製品の
売上高に対する控訴人の売上総利益率又は受取手数料の割合は,平成10年
11月期が35パーセント,平成11年11月期が33パーセント,本件各
事業年度が24ないし25パーセントであって,控訴人は,その取引形態を
従前の仕入販売方式から手数料方式に変更することにより,控訴人の所得を
低く抑え,その分だけ本件国外関連者に所得移転を行うことにより,我が国
における租税負担を回避することを意図していたものと推認されるところで
ある。
以上のような本件の事実関係の下では,控訴人が,本件国外関連取引の対
価の額が独立企業間価格に満たないものではないと主張し,適正な独立企業
間価格を税額計算の基礎としなかったことについて,真に控訴人の責めに帰
することのできない客観的な事情があったということができないことは明ら
かであり,過少申告加算税を課税する趣旨に照らしても,控訴人に過少申告
加算税を課することが不当又は酷になると評価することもできない。
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
第3当裁判所の判断
1本件において,判断の基礎となる認定事実は,以下のとおり付加,訂正する
ほか,原判決の「事実及び理由」の「第3当裁判所の判断」の1に記載する
とおりであるから,これを引用する。
()原判決27頁20行目の「サポートする」の後に「ため」を加える。1
()原判決28頁1行目から2行目まで(「(ア)」の項)を以下のとおり改2
める。
「(ア)認定ディーラーとは,P1社又は認定卸売業者によってP3製品を
エンドユーザーに販売するディーラーとして指名された者をいう。」
()原判決28頁4行目の末尾に,行を改めて以下のとおり加える。3
「(ウ)顧客とは,認定ディーラー及び認定卸売業者のことをいう。」
()原判決28頁5行目の「(ウ)」を「(エ)」に,同頁7行目の「(エ)」を4
「(オ)」にそれぞれ改める。
()原判決28頁12行目及び13行目にそれぞれ「代理人」とあるのを,5
いずれも「代理店」と改める。
()原判決28行目15行目の「P3製品の」の後に「技術」を加える。6
()原判決29頁3行目から4行目にかけて「ライセンス販売額に相当す7
る」とあるのを,「売上高のことをいう」と改める。
()原判決29頁8行目の「販売促進」を「プロモーション」と,同頁9行8
目の「売上げ」を「サービスの履行」と,同頁11行目の「販売」を「売上
げ」と,同頁12行目の「売上げ」を「サービスの提供」とそれぞれ改める。
()原判決30頁2行目の「原告は」から同頁3行目の末尾までを,「控訴9
人は,英語以外の資料に記載された全てのエンドユーザー契約やその他の財
産上の権利の表示の英語翻訳文をP1社に提供する。」と改める。
()原判決30頁6行目の末尾に,「P1社が費用を請求する一定の場合を10
除き,トレーニングコースの提供の対価として控訴人が受領した収入は全て
控訴人が保持するものとする。」を加える。
()原判決30頁8行目から9行目にかけて「サポート」とあるのを,「支11
援」と改める。
()原判決30頁17行目の末尾に,行を改めて以下のとおり加える。12
「エ雑則
控訴人は,独立契約者であり,本契約のいずれの定めも,販売代理店
又は本人・代理人の関係を創設するものと解釈されてはならない。控訴
人はP1社の代理人ではない。」
()原判決30頁18行目の「エ」を「オ」と改める。13
()原判決31頁15行目の「サポートする」の後に「ため」を加える。14
()原判決31頁18行目から19行目まで(「(ア)」の項)を以下のとお15
り改める。
「(ア)認定ディーラーとは,P2社又は認定卸売業者がP3製品をエンド
ユーザーに販売するディーラーに指名した者をいう。」
()原判決31頁21行目の末尾に,行を改めて以下のとおり加える。16
「(ウ)顧客とは,認定ディーラー及び認定卸売業者のことをいう。」
()原判決31頁22行目の「(ウ)」を「(エ)」に,同32頁2行目の17
「(エ)」を「(オ)」にそれぞれ改める。
()原判決32頁11行目に「卸売業者を訪問し,顧客を誘導する。」とあ18
るのを,「卸売業者及び直接の顧客を訪問する。」と改める。
()原判決32頁13行目から14行目にかけて「卸売業者を訪問し,顧客19
及び戦略提携先を誘導する。」とあるのを,「卸売業者,直接の顧客及び戦
略提携先を訪問する。」と改める。
()原判決32頁15行目から16行目まで(「c」の項)を以下のとおり20
改める。
「c卸売業者その他の顧客からP2社に直接発注された注文について,控
訴人に送付された写しで追跡調査する。」
()原判決33頁2行目から3行目にかけて「販売額に相当する」とあるの21
を,「売上高のことをいう」と改める。
()原判決33頁7行目の「販売促進」を「プロモーション」と,同頁8行22
目及び同頁11行目の「売上げ」をいずれも「サービスの提供」とそれぞれ
改める。
()原判決34頁1行目の「原告は」から同頁2行目の末尾までを,「控訴23
人は,英語以外の資料に記載された全てのエンドユーザー契約やその他の財
産上の権利の表示の英語翻訳文をP2社に提供する。」と改める。
()原判決34頁5行目の末尾に,「P2社が費用を請求する一定の場合を24
除き,トレーニングコースの提供の対価として控訴人が受領した収入は全て
控訴人が保持するものとする。」を加える。
()原判決34頁7行目から8行目にかけて「サポート」とあるのを,「支25
援」と改める。
()原判決34頁13行目の末尾に,行を改めて以下のとおり加える。26
「エ雑則
控訴人は,独立契約者であり,本契約のいずれの定めも,販売代理店
又は本人・代理人の関係を創設するものと解釈されてはならない。控訴
人はP2社の代理人ではない。」
()原判決34頁14行目の「エ」を「オ」と改める。27
2争点()(本件手数料の額が独立企業間価格に満たないものであるか)につ1
いて
()本件において,租税特別措置法66条の4第2項第2号ロ所定の方法に1
より独立企業間価格を算定することができるか否か(本件国外関連取引に係
る独立企業間価格を算定するにつき,同号イ所定の基本3法と同等の方法を
用いることができない場合であるといい得るか否か)についての判断は,原
判決の「事実及び理由」の「第3当裁判所の判断」の2()に記載すると1
ころと同旨であるから,これを引用する。
()そこで,本件において,処分行政庁が用いた独立企業間価格の算定方法2
が租税特別措置法66条の4第2項第2号ロ所定の方法といえるかを検討す
る。
ア処分行政庁が本件取引に適用した独立企業間価格の算定方法は,P3製
品と同種又は類似のソフトウェアについて非関連者間で行われた受注販売
方式の再販売取引を比較対象取引に選定した上で,我が国におけるP3製
品の売上高に上記比較対象取引の売上総利益率(必要な差異の調整を加え
た後のもの)を乗じて,本件国外関連取引において控訴人が受け取るべき
通常の手数料の額(独立企業間価格)を算定するというものである(以下,
この算定方法を「本件算定方法」という。)。
被控訴人は,本件算定方法が租税特別措置法66条の4第2項第2号ロ
所定の再販売価格基準法に準ずる方法と同等の方法である旨主張するので,
以下,この点について検討する。
イ租税特別措置法66条の4第2項第2号ロは,棚卸資産の販売又は購入
以外の取引について,基本3法に準ずる方法と同等の方法により独立企業
間価格を算定することができる旨規定しているところ,この「準ずる方
法」とは,①取引内容に適合し,かつ,②基本3法の考え方から乖離しな
い合理的な方法をいうものと解するのが相当であり,また,「同等の方
法」とは,それぞれの取引の類型に応じて,基本3法と同様の考え方に基
づく算定方法を意味するものであると解されるから,結局,「基本3法に
準ずる方法と同等の方法」とは,棚卸資産の販売又は購入以外の取引にお
いて,それぞれの取引の類型に応じ,取引内容に適合し,かつ,基本3法
の考え方から乖離しない合理的な方法をいうものと解するのが相当である。
そして,本件算定方法が租税特別措置法66条の4第2項第2号ロ所定
の再販売価格基準法に準ずる方法と同等の方法に当たることは,課税根拠
事実ないし租税債権発生の要件事実に該当するから,上記事実については,
処分行政庁において主張立証責任を負うものというべきである。
ウそこで,本件算定方法が,それぞれの取引の類型に応じて,取引の内容
に適合し,かつ,基本3法の考え方から乖離しない合理的な方法といえる
かを検討する。
(ア)この点,再販売価格基準法は,前示のとおり,国外関連取引に係る
棚卸資産の買手が特殊の関係にない者に対して当該棚卸資産を販売した
額(再販売価格)から通常の利潤の額を控除して計算した金額をもって
当該国外関連取引の対価の額(独立企業間価格)とする方法であるが,
この方法が独立企業間価格の算定方法とされているのは,再販売業者が
商品の再販売取引において実現するマージン(上記の「通常の利潤の
額」)は,その取引において果たす機能と負担するリスクが同様である
限り,同水準となると考えられているためである(甲38号証参照)。
すなわち,再販売価格基準法は,取引当事者の果たす機能や負担するリ
スクが重要視される取引方法であることから(乙7,租税特別措置法施
行令39条の12第6項,租税特別措置法(法人税法関係)基本通達6
6の4()−3()()参照),本件算定方法が,取引の内容に適合し,267
かつ,基本3法の考え方から乖離しない合理的な方法であるか否かを判
断するに当たっても,上記の機能やリスクの観点から検討すべきものと
考えられる。
(イ)そこで,本件国外関連取引における控訴人と本件比較対象取引にお
ける本件比較対象法人とが,その果たす機能及び負担するリスクにおい
て類似しているということができるかを検討する。
aまず,本件国外関連取引の実態について検討するに,前記前提事実
に証拠(甲23,24,27,28の1・2,29,原審証人P5)
及び弁論の全趣旨を総合すれば,P3製品は,本件国外関連者とは特
殊の関係にないディストリビュータ(卸売業者)であるP6株式会社,
P7株式会社,P8株式会社等が日本に輸入した上,リセラー(小売
業者。この中には,P9やP10のように個人のエンドユーザーに小
売販売する量販店と,P11やP12のように企業を顧客とし企業へ
の訪問販売活動を通じて小売販売をする法人系リセラーとがある。)
に対して卸売販売をしていること,法人系のリセラーの中には,ディ
ストリビュータから直接仕入れることのできない零細なリセラーに対
してソフトウェアの二次卸を行う業者もあること,控訴人は,本件各
業務委託契約に基づき,①既存のP3製品の販売促進及び新規のP3
製品の紹介及び説明のために,卸売業者を訪問して顧客等を誘導し,
②P3製品のマーケティングの費用を負担し,マーケティング資料を
作成して,マーケティングを行い,③本件国外関連者による日本での
P3製品の販売促進及び宣伝広告を支援し,④卸売業者,ディーラー
及びエンドユーザーに対しP3製品のトレーニングコースを提供し,
⑤顧客に対しサポートサービスを提供するなどの役務提供行為を行っ
ていたこと,本件各業務委託契約上,控訴人の報酬は,日本における
純売上高の1.5パーセント並びに控訴人のサービスを提供する際に
生じた直接費,間接費及び一般管理費配賦額の一切に等しい金額と定
められていたことが認められる。
また,控訴人は在庫リスクを負担せず,顧客からの債権回収リスク
も負担していないことは前示のとおりである。
b他方,本件比較対象取引の実態について検討するに,証拠(乙33,
原審証人P4)及び弁論の全趣旨によれば,本件比較対象法人は,主
としてプロフェッショナル向けのグラフィックソフトの卸売及び小売
を行う業者であり,本件比較対象取引の対象商品は海外のメーカーが
製造したグラフィックソフトであること,本件比較対象法人は,上記
対象商品を輸入業者から仕入れ,これを顧客に再販売していること,
再販売先は,主としてコンピュータゲーム製作会社,デザイン会社,
専門学校等の教育機関等のグラフィックソフトのエンドユーザーであ
るが,他方,卸売も行っており,本件比較対象法人はソフトウェアの
流通過程における卸売業者(2次卸)及び小売業者に相当する企業で
あること,本件比較対象法人は,小売業者として,専門学校や大学の
教員を訪問してデモンストレーションを行い,イベント等を開催して
潜在顧客に上記対象商品を宣伝し,エンドユーザー向けに業界紙,ダ
イレクトメール,ウェブ広告等を通じて広告を出し,エンドユーザー
からの質問やクレームを受け付けて処理をするというサポートサービ
スを提供するとともに,卸売業者として,卸売先の業者と共に潜在顧
客先に赴いて製品のデモンストレーションをするなどの販売促進活動
をしていたこと,本件比較対象取引は,仕入販売取引であるが,受注
販売方式を採っており,在庫リスクはほとんどなく,売掛先が大企業
等の信用の高い顧客が多く,貸倒れのリスクが小さいことが認められ
る。
c以上を前提に,本件国外関連取引において控訴人が果たす機能と,
本件比較対象取引において本件比較対象法人が果たす機能とを比較す
るに,上記認定事実のとおり,本件国外関連取引は,本件各業務委託
契約に基づき,本件国外関連者に対する債務の履行として,卸売業者
等に対して販売促進等のサービスを行うことを内容とするものであっ
て,法的にも経済的実質においても役務提供取引と解することができ
るのに対し,本件比較対象取引は,本件比較対象法人が対象製品であ
るグラフィックソフトを仕入れてこれを販売するという再販売取引を
中核とし,その販売促進のために顧客サポート等を行うものであって,
控訴人と本件比較対象法人とがその果たす機能において看過し難い差
異があることは明らかである。
被控訴人は,本件国外関連取引が仕入販売取引でなく役務提供取引
であることを前提に,P3製品の販売において控訴人の果たしている
機能及び負担しているリスクが,受注販売方式を採る再販売取引にお
ける再販売者の機能及びリスクと類似しているので,本件算定方法は,
再販売価格基準法に準ずる方法と同等の方法に当たると主張し,控訴
人と異なる再販売者固有の機能は,上記販売促進の機能から純粋な商
品の受発注及び配送手配,仕入金額の支払及び販売代金の受領等の事
務処理作業にすぎず,このような事務処理作業を通じて商品の取引価
格や売上総利益率に影響するような多大な利益が生じ得ることは想定
し難いとし,したがって,控訴人の利益率を算定するには,モノとサ
ービスを販売する本件比較対象取引の利益率からモノを販売する取引
の利益率を控除する必要はないとしている。
しかしながら,再販売業者が行う販売促進等の役務の内容が控訴人
の提供する役務の内容と類似しているとしても,およそ一般的に価格
設定にかかわるそれ以外の被控訴人主張の上記要因等が単なる事務処
理作業としてほとんど考慮する必要がないものとはいい難いのであっ
て(本件において,考慮する必要性がないことを裏付けるに足りる具
体的な証拠はない。),本件役務提供取引において控訴人の果たす機
能と本件比較対象法人の果たす機能との間には捨象できない差異があ
るものといわざるを得ない。
また,上記のとおり控訴人はグラフィックソフトの販売を行ってい
ないから,収受すべき手数料にはグラフィックソフトの販売利益が含
まれないことになるのに対し,本件比較対象法人の総売上利益率には
グラフィックソフトの販売利益も含まれることになる。すなわち,控
訴人は上記の役務提供に見合った利益を取得すべきことになるのに対
し,本件比較対象法人は再販売取引及び販売促進等の役務提供に見合
った利益(その売上総利益率が,本件算定方法において用いられる
「通常の利益率」(租税特別措置法66条の4第2項第1号ロ,同項
第2号ロ,租税特別措置法施行令39条の12第6項)である。)を
取得することになるものと解されるのであり,本件比較対象法人の行
う役務提供の内容が本件国外関連取引において控訴人が行う役務提供
内容と類似しているとしても,本件比較対象法人は,製品の再販売
(卸売・小売)も行っているのであり,その総利益には製品の再販売
の利益も含まれることになる。これに対して,本件国外関連者と特殊
の関係のない卸売業者がP3製品を仕入れて,販売利益を得て再販売
し,これと平行して控訴人がリセラー(小売業者)に対して販売促進
等を行うことにより本件国外関連者に役務を提供していることになる
場合においても,卸売業者は再販売利益を得ているのであり,一方,
控訴人には製品を再販売することによる利益はないことになるのであ
るから,本件算定方法のように,我が国におけるP3製品の売上高に
本件比較対象法人の売上総利益率を乗じて得られる利益額の中には,
卸売業者が本件国外関連者からP3製品を仕入れて小売店等に再販売
して取得する販売利益も含まれている蓋然性が高いというべきである。
さらに,本件算定方法においては,我が国におけるP3製品の売上
高に上記売上総利益率を乗じて独立企業間価格を算出しているが,証
拠(甲23,原審証人P5)及び弁論の全趣旨によれば,上記の売上
高の中には控訴人がおよそ関与しないままP3製品が売却された場合
も含まれるのであって,上記売上高は租税特別措置法66条の4第2
項第2号ロにいう再販売価格とは異なる要素を含むものである。
d本件国外関連取引において控訴人が負担するリスクと,本件比較対
象取引において本件比較対象法人が負担するリスクとを比較するに,
控訴人は,本件各業務委託契約上,本件国外関連者から,日本におけ
る純売上高の1.5パーセント並びに控訴人のサービスを提供する際
に生じた直接費,間接費及び一般管理費配賦額の一切に等しい金額の
報酬を受けるものとされ,報酬額が必要経費の額を割り込むリスクを
負担していないのに対し,本件比較対象法人は,その売上高が損益分
岐点を上回れば利益を取得するが,下回れば損失を被るのであって,
本件比較対象取引はこのリスクを想定(包含)した上で行われている
のであり,控訴人と本件比較対象法人とはその負担するリスクの有無
においても基本的な差異があり,これは受注販売形式を採っていたと
しても変わりがない。本件比較対象取引において,この負担リスクが
捨象できる程軽微であったことについては,これを認めるに足りる的
確な証拠はない。
(ウ)以上によれば,本件国外関連取引において控訴人が果たす機能及び
負担するリスクは,本件比較対象取引において本件比較対象法人が果た
す機能及び負担するリスクと同一又は類似であるということは困難であ
り,他にこれを認めるに足りる証拠はない。本件算定方法は,それぞれ
の取引の類型に応じ,本件国外関連取引の内容に適合し,かつ,基本3
法の考え方から乖離しない合理的な方法とはいえないものといわざるを
得ない。
エそうすると,処分行政庁が本件取引に適用した独立企業間価格の算定方
法は,租税特別措置法66条の4第2項第2号ロに規定する「再販売価格
基準法に準ずる方法と同等の方法」に当たるということはできない。
()したがって,本件において,本件算定方法を用いて独立企業間価格を算3
定した過程には違法があり,結局,租税特別措置法66条の4第1項に規定
する国外関連取引につき「当該法人が当該国外関連者から支払を受ける対価
の額が独立企業間価格に満たない」との要件を認めることはできないことに
なるから,上記独立企業間価格を用いてした本件各更正は違法であり,これ
を前提とする本件各賦課決定も違法である。
3以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,控訴人の本件各請求
はいずれも理由があるからこれを認容すべきであり,これと異なる原判決を取
り消すこととして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第16民事部
裁判長裁判官宗宮英俊
裁判官黒津英明
裁判官大竹昭彦

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