弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人宮川光治の上告趣意は、事実誤認の主張であつて、適法な上告理由にあた
らない。
 しかし、所論にかんがみ、職権をもつて調査すると、原判決および第一審判決は、
後記のように刑訴法四一一条一号三号により破棄を免れないものと認められる。
 すなわち、本件公訴事実の要旨は、「被告人は、自動車運転の業務に従事するも
のであるが、昭和四二年七月一五日午後六時三〇分ころ、普通乗用自動車を運転し
茅ケ崎市ab丁目c番d号先の交通整理の行なわれていない交差点をe方面からf
方面に向い右折するにあたり、同所において、右折の合図をし、徐行しつつ対向車
両との安全を確認し交差点の中心の直近の内側に寄つて進行すべき注意義務がある
のに、その合図をしたが、(一)対向するA(二〇年)運転の自動二輪車との安全
を確認することなく、かつ、(二)交差点の中心の直近内側に寄らないで小まわり
に時速約三キロメートルで右折進行した過失により、対向して来た右A運転の車両
の前部に自車の右前部を衝突させ、同人を路上に転倒させ、よつて、同人に加療約
四か月を要する右下腿開放骨折の傷害を負わせたものである。」というものであり、
被告人の過失として右(一)(二)の二点を掲げていたが、第一審判決は、このう
ち(一)の過失を認定せず、(二)の過失だけを認定し、その余の点については公
訴事実とほぼ同趣旨の罪となるべき事実(ただし、傷害の加療期間を約二年六月と
する。)を認定判示して、被告人を罰金二万円に処する旨を言い渡した。
 これに対し、原判決は、右(二)の過失は本件事故と直接の関係が認められない
から、この点を本件事故の原因であるとした第一審判決には事実誤認があるとしな
がら、第一審判決挙示の証拠を総合すれば、被告人に右(一)の過失があつたこと
が認められるとし、その具体的内容として、被告人は普通乗用自動車を運転して幅
員約一〇・一メートルの国道を進行し、本件丁字型交差点においてf方面に通ずる
市道へ右折しようとしたが、このような場合、自動車運転者としては対向車線上の
安全を確認し、直進車両の速度、距離等を勘案してその進路を妨げないように運転
すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、直進してくる対向車両一台(以下
前車という。)の通過を待つため国道の中央線に沿つて一時停止した際更に約七一
メートル前方の対向車線上にA運転の自動二輪車(以下A車という。)を認めたが、
前車が通過した後A車の前方を横切つて右折しうるものと軽信し、漫然右折を開始
して約二メートル進行し、自車前部を中央線より約一メートル斜め右前方の対向車
線上に進出させた過失により、A車が約二四・九メートルの距離に迫つたとき危険
を感じて停止したが間に合わず、停止直後に自車前部右側をA車に接触させてA車
をその場に転倒させ、Aに対し第一審判示のような傷害を負わせたものである旨を
認定し、しかしながら第一審判決の事実誤認は判決に影響を及ぼさないとして、結
局被告人側の控訴を棄却している。
 しかし、第一審判決挙示の被告人の司法警察員に対する各供述調書によれば、被
告人は一時停止して前車の通過後約七、八〇メートル前方にA車を発見したが、距
離がまだあると思つて右折を開始したものであることがうかがわれ、その余の証拠
資料によれば、f方面に通ずる市道の幅員は約一七メートル、A車の当時の時速は
約五〇キロメートル程度のものであつたことがうかがわれる。
 ところで、車両が、幅員約一〇・一メートルの車道を進行して交差点に進入し、
幅員約一七メートルの交差道路へ右折のため一時停止している場合、対向直進車と
の距離がなお七〇メートル以上もあるときは、対向車が異常な高速を出している等
の特別な事情がないかぎり、右折車の運転者は、対向車の運転者が交差点進入にあ
たり前方を注視し法規に従つて速度を調節する等正常な運転をすることを期待しう
るのであり、そうであるとすれば、右折車が対向車の到達前に右折し終わることは
通常容易なことと認められるから、仮に被告人が同様の判断をもつて右折を開始し
たとしても、これをただちに軽率な行為として非難し、対向車との安全確認を怠つ
たものと断定することはできないものといわなければならない。
 また、原判決の判示によれば、被告人は右折開始後道路中央線より約一メートル
対向車線上に自車を進出させたときA車が約二四・九メートルの距離に迫つたのを
認めて停止したというのであり、第一審判決の判示によれば、その際被告人車の右
方(北方)の道路部分にはなお幅員四メートル以上の余裕があり、他に何らの障害
物もなく、交差点に進入する時のA車の速度は時速五〇キロメートルであるという
のであるが、もしそうであるとすれば、被告人車が約一メートル中央線を越えたと
しても、Aにおいて、急制動の措置をとるなり、僅かに左転把をしさえすれば、容
易に衝突を回避でたはずであり、被告人としてもAがそのような適切な措置を講ず
るであろうことを期待しうる状況にあつたというべきであるから、原判決判示のよ
うに、被告人が自車を対向車線上に約一メートル進出させたことをもつて本件事故
の原因となる過失にあたるものと解するのも相当でない。
 したがつて、以上の諸点につき検討を加えることなく、ただちに被告人にA車と
の安全確認を怠つた過失が認められるとした原判決には、理由不備、審理不尽また
は重大な事実誤認の疑いがあり、これらの違法は判決に影響を及ぼすことが明らか
であつて、原判決を破棄しなければいちじるしく正義に反するものと認められるか
ら、刑訴法四一一条一号三号により原判決を破棄し、同法四一三条本文により本件
を東京高等裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
 検察官大石 宏公判出席
  昭和四七年四月七日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    色   川   幸 太 郎
            裁判官    村   上   朝   一
            裁判官    小   川   信   雄

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