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平成30年3月12日判決言渡
平成29年(行ケ)第10088号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成29年12月12日
判決
原告テクニカ合同株式会社
同訴訟代理人弁護士宍戸充
菅尋史
宮内知之
服部啓
同訴訟代理人弁理士森治
被告栗田工業株式会社
同訴訟代理人弁理士大谷保
片岡誠
高久浩一郎
有永俊
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
特許庁が無効2016-800122号事件について平成29年3月22日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,進歩
性判断(相違点の認定,相違点の容易想到性の判断)の誤りの有無である。
1特許庁における手続の経緯
被告は,名称を「気泡シールド工法で発生する建設排泥の処理方法」とする発明
について,平成17年3月23日(以下,「本件出願日」という。)を出願日として
特許出願(特願2005-83412号)をし,平成24年8月17日,その設定
登録を受けた(特許第5063863号。請求項の数3。以下,「本件特許」という。
甲18)。
原告が,平成28年10月21日付けで本件特許の請求項1~3に係る発明につ
いての特許無効審判請求(無効2016-800122号)をしたところ(甲17),
特許庁は,平成29年3月22日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決
をし,その謄本は,同月30日,原告に送達された。
2本件発明の要旨
本件特許の請求項1~3に係る発明(以下,請求項の番号に従って「本件発明1」
のようにいい,本件発明1~3を合わせて「本件発明」という。)の特許請求の範囲
の記載は,次のとおりである(なお,本件特許の明細書及び図面〔甲18〕を「本
件明細書」という。)
(1)本件発明1
【請求項1】
気泡シールド工法で発生する建設排泥に,カチオン性高分子凝集剤を添加すること
なく,アニオン性高分子凝集剤を添加混合し,造粒した後,無機系固化材を添加混
合して固化することを特徴とする気泡シールド工法で発生する建設排泥の処理方法。
(2)本件発明2
【請求項2】
請求項1において,無機系固化材がカルシウムまたはマグネシウムの酸化物を含む
粉末である気泡シールド工法で発生する建設排泥の処理方法。
(3)本件発明3
【請求項3】
請求項1において,無機系固化材が石膏を含む粉末である気泡シールド工法で発生
する建設排泥の処理方法。
3審判における請求人(原告)の主張(無効理由)
本件発明1は,その出願前に頒布された刊行物である甲1~3に記載された発明
及び周知技術(甲7~12)に基づいて,また,本件発明2~3は,甲1~3に記
載された発明及び周知技術(甲4~12)に基づいて,当業者が容易に発明するこ
とができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることがで
きないものであり,本件特許は,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきで
ある。
甲1:特公平7-53280号公報
甲2:特開平6-193382号公報
甲3:特開2002-336671号公報
4審決の理由の要点
(1)本件発明1について
ア甲1発明の認定
甲1には,次の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されている。
「気泡シールド工法より発生する気泡混入掘削ずりに,カチオン性有機高分子凝集
剤を添加混練し,カチオン性有機高分子凝集剤添加混練後に石灰やセメント等の無
機系固化剤を添加混練する,気泡シールド工法より発生する気泡混入掘削ずりの処
理法。」
イ一致点の認定
本件発明1と甲1発明とを対比すると,次の点で一致する。
「気泡シールド工法で発生する建設排泥に,高分子凝集剤を添加混合した後,無機
系固化剤を添加混合して固化する気泡シールド工法で発生する建設排泥の処理方
法。」
ウ相違点の認定
本件発明1と甲1発明とを対比すると,次の点が相違する。
本件発明1では,建設排泥に添加混合する高分子凝集剤として,カチオン性高分
子凝集剤を用いずに,アニオン性高分子凝集剤を用い,高分子凝集剤を添加混合し
た建設排泥を造粒するのに対して,甲1発明では,建設排泥に添加混合する高分子
凝集剤として,カチオン性高分子凝集剤を用い,高分子凝集剤を添加混合した建設
排泥を造粒するか否か明らかでない点。
エ相違点についての判断
(ア)阻害要因の有無について
a甲1には,「本発明は,カチオン性有機高分子凝集剤を気泡混入掘削
ずりに添加混練する事により,粘土粒子等の負電荷を中和し,凝集させ流動性を除
去する事を基本とする。気泡周囲の泥膜が(電荷の中和により親水性を失い,凝集
する事によって)破れると,気泡は混練によって容易に集合し,ずりから放出され
る。気泡を失い,凝集した改質土は流動性が無く,運搬や埋土が容易となる。」(4
欄18行~24行)と記載されている。
甲1の上記記載によると,甲1発明は,カチオン性,すなわち,陽イオン性の有
機高分子凝集剤を気泡混入掘削ずりに添加混練することにより,粘土粒子等の負電
荷を中和するものであり,高分子凝集剤の陽イオンにより,粘土粒子等の負電荷を
中和するものであるといえる。
そうすると,甲1発明において,アニオン性,すなわち,陰イオン性の高分子凝
集剤を建設排泥(気泡混入掘削ずり)に添加混合した場合には,高分子凝集剤の陰
イオンと粘土粒子等の負電荷は,いずれも負の電荷を有するから,電荷が中和され
ないことは明らかである。
したがって,甲1発明において,粘土粒子等の負電荷を中和する働きをする凝集
剤はカチオン性の高分子凝集剤のみであり,他の種類の高分子凝集剤ではこの電荷
を中和することはできないから,甲3の記載による示唆があったとしても,甲1発
明が負電荷の中和を前提としている以上,アニオン性の高分子凝集剤を用いること
は阻害要因となり得る。
b甲3には,「この架橋凝縮を行わせるための凝集材は,ノニオン性,
アニオン性,カチオン性の凝集材の中から適当なものを選択する。」(【0029】)
と,甲7(池田弘「高分子凝集剤についてその種類と使い方」実務表面技術20
巻12号588頁以下)には,「架橋結合の場合,・・・負に帯電した粒子を負の凝
集剤でも凝集させることができる.」(590頁右欄17行~22行)とそれぞれ記
載され,甲8(野田道宏「高分子凝集剤の種類と作用機構」高分子17巻5号40
4頁以下)の第5表には,懸濁物粒度が粗粒と細粒の場合には,高分子凝集剤が非
イオン(同イオン)であっても,有効な場合があることが示されている。
しかし,甲1の前記aの記載のとおり,甲1発明は,粘土粒子等の負電荷の中和
の作用を前提とするものである。そして,気泡シールド工法で発生する建設排泥に
対して,電荷の中和とは異なる凝集機構である架橋結合の作用のみにより凝集を行
った場合にも,消泡や造粒等について同等又はそれ以上の作用効果が得られるか否
かは,いずれの甲号証をみても明らかでない。
また,甲1には,「本発明に用いるカチオン性有機高分子凝集剤は,電荷の中和を
主たる作用機作とする・・・本発明の実施においては,カチオン性有機高分子凝集
剤の架橋吸着作用も効果に寄与するため,カチオン当量値が同等であれば,高分子
量の凝集剤の法が少ない添加量で効果を発揮する。」(3欄33行~41行)と記載
され,架橋吸着作用についても言及されているが,あくまでも主たる作用は電荷の
中和であって,架橋吸着作用は副次的なものである。
そうすると,甲1発明は,粘土粒子等の負電荷の中和の作用を前提とするもので
あるから,甲1発明に甲2発明又は甲3発明のアニオン性高分子凝集剤を適用する
ことには阻害要因がないと断定することはできない。
(イ)動機付けについて
a甲2には,次の発明(以下,「甲2発明」という。)が記載されてい
る。
「アニオン化率5~50モル%のアクリル系有機高分子凝集剤分散液を添加剤とし
て,泥土圧シールド機のスクリューコンベヤのハウジング内に注入し,地層から掘
削した含水土砂に混合することによって,該土砂を適度な流動性を有する凝集状態
の泥土に生成する,泥土圧シールド工法。」
b甲3には,次の発明(以下,「甲3発明」という。)が記載されてい
る。
「シールド工事で発生する泥土を,アニオン性,カチオン性の合成高分子凝集剤や
無機系凝集剤の中から選択することができる凝集剤と撹拌混合し,粒状化するよう
に処理する泥土造粒処理装置。」
c甲1発明は,処理対象となる建設排泥が,気泡シールド工法で生じ
る気泡混入掘削ずりであることを前提とするものであり,気泡を混入させることに
より流動性を生じさせるのに対して,甲2発明では,処理対象となる建設排泥が,
泥土圧シールド工法で生じる,気泡を含まない泥土であって,泥土に含まれる水分
により流動性が生じるものであり,気泡の有無や含水率等の相違により,その性状
や流動性を生じさせる原因が異なっている。
そして,甲1発明の建設排泥の処理方法(気泡混入掘削ずりの処理法)は,建設
排泥(掘削ずり)の流動性を除去するための処理方法であり,この処理方法の検討
に当たり,シールド工法の種類や高分子凝集剤の好ましい添加箇所よりも,処理対
象となる建設排泥自体の性状や流動性を生じさせる原因の検討が,より重要となる
ことは明らかである。
また,処理対象を気泡シールド工法で発生する建設排泥としなければ,消泡によ
り建設排泥の流動性を消失させるという課題も生じないから,甲2発明は,甲1発
明の消泡に関する課題も有していない。
そうすると,甲1発明と甲2発明とは,気泡シールド工法を含む上位概念として
の泥土圧シールド工法により発生する建設排泥をその処理対象とするものであり,
高分子凝集剤の好ましい添加箇所としてシールド機のスクリューコンベア部が例示
されている点で共通しているものの,処理対象となる建設排泥の性状や流動性を生
じさせる原因などの前提が異なっており,それによりその課題も異なるものといえ
る。
したがって,上位概念化した技術分野の共通性等を動機付けとして,甲1発明の
気泡シールド工法で発生する(気泡を含む)建設排泥の処理方法において,建設排
泥に添加混合する高分子凝集剤として,甲2発明におけるアニオン性高分子凝集剤
(アニオン化率5~50モル%のアクリル系有機高分子凝集剤分散液)を,カチオ
ン性高分子凝集剤を併用しないで用いて造粒することは,当業者の通常の創作能力
を超えるものである。
d甲3発明も,甲2発明と同様に,気泡を含まない泥土をその処理対
象とするものであるから,前記cと同様の理由により,上位概念化した技術分野の
共通性等を動機付けとして,甲1発明の気泡シールド工法で発生する建設排泥の処
理方法において,建設排泥に添加混合する高分子凝集剤として,甲3発明における
アニオン性高分子凝集剤(アニオン性の合成高分子凝集剤)を,カチオン性高分子
凝集剤を併用しないで用いて造粒することは,当業者の通常の創作能力を超えるも
のである。
e気泡シールド工法で発生する建設排泥に対して,アニオン性高分子
凝集剤を添加混合した場合に,消泡や造粒等についてカチオン性高分子凝集剤に比
べて同等又はそれ以上の作用効果が得られるか否かは,いずれの甲号証をみても明
らかでないから,アニオン性高分子凝集剤がカチオン性高分子凝集剤と置換可能な
同等物といえるかは明らかでない。
したがって,カチオン性高分子凝集剤は生態毒性が高いとの知見に基づく動機付
けを理由としても,甲1発明に甲2発明又は甲3発明のアニオン性高分子凝集剤を
適用することは,当業者が容易に想到できたとはいえない。
(ウ)作用効果の予測可能性について
a本件明細書の記載(【0008】,【0009】,【0014】,【002
1】)によると,本件発明1は,固化物を建設・土木資材として,都市等における舗
装材料や埋立材料等に使用しても,環境を汚染する心配がないという効果の他に,
気泡シールド工法で発生する建設排泥にカチオン性高分子凝集剤を混練すると,固
化処理を行っても,固化物が塊状となり,それを運搬するには更に砕く工程を要す
るのに対して,気泡シールド工法で発生する建設排泥に対してアニオン性高分子凝
集剤を用いることにより,混合時に造粒されて,運搬性が格段に向上するという効
果(以下,「本件効果」という。)を奏するものである。
bこれに対して,甲1発明は,気泡シールド工法で発生する建設排泥
(掘削ずり)にカチオン性高分子凝集剤を混練するものであり,「気泡を失い,凝集
した改質土は流動性が無く,運搬や埋土が容易となる」(甲1の4欄23行~24行)
としても,これは流動性があるものに比べて運搬等が容易となることを意味してい
ると考えられるから,本件発明1のように造粒されるものではないし,その後固化
処理を行っても固化物が塊状となってしまうものである。そして,甲1には,他に
本件効果を示唆する記載もないから,本件効果は,甲1発明によっては奏されない
ものである。
また,甲2にも,本件効果を示唆する記載は一切なく,甲3には,気泡を含まな
い泥土の造粒のために,ノニオン性,アニオン性,カチオン性の高分子凝集剤を用
いることは記載されているけれども,気泡シールド工法で発生する建設排泥に対し
て,カチオン性高分子凝集剤を添加することなく,アニオン性高分子凝集剤を添加
混合することにより,混合時に造粒されるという効果を示唆する記載はない。
さらに,周知例として示された甲7~12のいずれにも,本件効果を示唆する記
載はない。
そうすると,本件効果は,気泡シールド工法で発生する建設排泥に,カチオン性
高分子凝集剤を添加することなく,アニオン性高分子凝集剤を添加混合することに
より初めて奏される作用効果であって,甲1~3の記載及び周知技術から予測する
ことが困難な顕著なものである。
cしたがって,本件発明1は,予測困難な顕著な作用効果を奏するも
のであるから,甲1発明において,気泡シールド工法で発生する建設排泥に添加混
合する高分子凝集剤として,甲2発明又は甲3発明におけるアニオン性高分子凝集
剤を,カチオン性高分子凝集剤を併用しないで用いて造粒することは,本件出願前
に当業者が容易に想到することができたものではない。
(エ)結論
甲1発明において,気泡シールド工法で発生する建設排泥に添加混合する高分子
凝集剤として,甲2発明又は甲3発明におけるアニオン性高分子凝集剤を,カチオ
ン性高分子凝集剤を併用しないで用いて造粒することは,前記(ウ)のとおり,これに
より甲1~3の記載及び周知技術からは予測困難な顕著な作用効果を生じさせるも
のであり,また,前記(ア)(イ)のとおり,阻害要因の有無や動機付けの観点からも,当
業者が容易に想到できたこととはいえない。
また,いずれの甲号証にも,気泡を含む建設排泥の凝集剤として,アニオン性高
分子凝集剤を用いることは記載されておらず,甲1発明において,気泡シールド工
法で発生する建設排泥に添加混合する高分子凝集剤として,アニオン性高分子凝集
剤を,カチオン性高分子凝集剤を併用しないで用いて造粒することを示唆する記載
もない。
したがって,相違点に係る本件発明1の構成は,甲1~3から当業者が容易に想
到できたこととはいえない。
以上のとおり,本件発明1は,甲1~3に記載された発明及び周知技術(甲7~
12)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2,3について
本件発明2,3は,本件発明1の発明特定事項をすべて含み,さらに他の発明特
定事項を付加したものに相当する発明である。
そして,審判請求書において本件発明2,3に対して引用された甲4~6は,無
機系固化剤としてマグネシウムの酸化物又は石膏を用いることが周知技術であるこ
とを示すための周知例であって,本件発明1の進歩性の判断に影響するものではな
いことは明らかである。
したがって,本件発明2,3は,本件発明1について示した理由と同様の理由に
より,甲1~3に記載された発明及び周知技術(甲4~12)に基づいて当業者が
容易に発明することができたものではない。
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(甲1発明の認定の誤りに伴う相違点の認定の誤り)
(1)甲1には,「本発明におけるカチオン性有機高分子凝集剤の使用法は単独添
加に限定されるものではなく,硫酸アルミニウム,ポリ塩化アルミニウム等の無機
凝集剤との併用添加あるいはカチオン性有機高分子凝集剤添加混練後に高級水性樹
脂〔原告注・「高吸水性樹脂」の誤記である。〕,アニオン系有機高分子凝集剤あるい
は石灰やセメント等の無機系固化剤を添加混練する事もできる。」(4欄10行~1
6行。下線は,原告が付したもの。)との記載がある。
上記記載からすると,甲1がアニオン性有機高分子凝集剤の添加を示唆している
ことは明らかであり,甲1には,カチオン性高分子凝集剤とアニオン性高分子凝集
剤とを併用する技術が開示されている。
そして,甲1には,「本発明は,カチオン性有機高分子凝集剤を気泡混入掘削ずり
に添加混練する事により・・・凝集させ流動性を除去する事を基本とする。」(4欄
18行~20行)との記載があることに鑑みると,カチオン性高分子凝集剤とアニ
オン性高分子凝集剤とを併用して添加混練する場合は応用形に当たり,「添加混練す
る事により・・・凝集させ流動性を除去する」という基本的な目的は,カチオン性
高分子凝集剤とアニオン性高分子凝集剤とを併用して添加混練する場合でも変わら
ないものといえる。
そうすると,審決の甲1発明の認定は誤りであり,甲1発明は,以下のとおり,
認定すべきである(以下,原告主張の甲1発明を「甲1X発明」ともいう。)。
「気泡シールド工法より発生する気泡混入掘削ずりに,カチオン性高分子凝集剤及
びアニオン性高分子凝集剤を併用して添加混練して流動性を除去し,両凝集剤を添
加混練し,掘削ずりを凝集させ流動性を除去した後,石灰やセメント等の無機系固
化剤を添加混練する,気泡シールド工法より発生する気泡混入掘削ずりの処理法。」
(2)審決は,前記(1)のとおり,甲1発明の認定を誤った結果,相違点の認定を
誤っている。甲1X発明は,カチオン性高分子凝集剤とアニオン性高分子凝集剤と
を併用して添加混合して流動性を除去する発明であるから,本件発明1と甲1X発
明との相違点は,以下のとおり,認定すべきである(以下,原告主張の相違点を「相
違点X」ともいう。)。
「本件発明1では,建設排泥に添加混合する高分子凝集剤として,カチオン性高分
子凝集剤を用いずに,アニオン性高分子凝集剤を用い,高分子凝集剤を添加混合し,
建設排泥を造粒するのに対して,甲1発明では,建設排泥に添加混合する高分子凝
集剤として,アニオン性高分子凝集剤とカチオン性高分子凝集剤の併用により添加
混合して建設排泥を凝集させ流動性を除去するが,造粒するか否かまでは明らかで
ない点。」
2取消事由2-1(甲1発明と甲2発明の組合せの阻害事由認定の誤り)
審決は,以下のとおり,甲1発明が粘土粒子等の負電荷を中和するだけのものと
誤認し,そのため,アニオン性高分子凝集剤では粘土粒子等の電荷を中和すること
はないと誤認し,その結果,甲1発明にアニオン性高分子凝集剤からなる甲2発明
を組み合わせるのは阻害要因となり得るという誤った判断をした。
(1)審決は,甲1発明について,後記アの粘土粒子等の負電荷の中和作用のみ
をカチオン性高分子凝集剤の凝集作用であるとしたが,誤りであり,甲1には,次
のとおり,複数の凝集作用が記載されている。
ア粘土粒子等の負電荷の中和作用
イ総電荷の中和作用
ウイオンコンプレックスによる作用
エ架橋吸着作用
(2)前記(1)イの総電荷の中和作用は,甲1に加え,甲3,7,8,25,44
等から,本件出願日当時の技術常識であった。
例えば,甲3の記載(【0027】)によると,電気二重層をもった二つの土粒子
の拡散層同士が重なると,重なり合った拡散層のイオン濃度が上昇し,これに起因
して,土粒子が互いに反発し合って土粒子の集合を阻害するので,電気二重層の総
電荷の抑制や電気二重層の圧縮を行えば泥土を凝集させられる。
また,甲3の記載(【0028】)によると,「電気二重層の総電荷の抑制」を行う
には,その総電荷の量をできるだけ減らすように電荷を中和するのが有効であり,
こうした働きをする凝集材は,アニオン性,カチオン性の合成高分子凝集材や無機
系凝集材の中から選択することができる。したがって,「電気二重層の総電荷の抑制」
のための凝集剤としては,アニオン性でもカチオン性でもよい。
さらに,甲25(マグローヒル科学技術用語大辞典)には,「電気二重層」につい
て,「固体-液体の境界で見出される現象。固体表面に固定されている荷電イオンと,
固体表面に接した液体中に分布しているイオンとからなっている電気二重層。両者
のイオンは,互いに逆符号の電荷をもち,このような二重層では,液体の動きに伴
って,液体中のイオンが固体表面上のイオンに対して移動することになる。」(12
29頁)との記載があり,甲7には,「粒子の大小にかかわらず,粒子相互の間には,
結合しようとする引力と離そうとする斥力が働いている。」(7頁右欄2行~4行),
「斥力としては,電気2重層によって生ずるζ電位によるクーロン反撥力が主とし
て考えられる。」(7頁右欄17行~19行),「拡散層の厚さが,小さくなることを
2重層が圧縮されたという。」(8頁左欄2行~3行),「粒子自身のζ電位や表面電
位粒子表面の活性基の解離性は,pHによって変化する。一方,凝集剤自身の持つ
活性基の解離もpHによって変化する。凝集剤は活性基の解離が多く,したがって
高分子が“のびた”状態の方が効果は大きい。カチオン系凝集剤は酸性側,アニオ
ン系はアルカリ側で効果があり,ノニオン系はその中間にある。」(12頁右欄24
行~31行)との記載がある。
粘土粒子等を含有する水溶液,すなわち泥土においては,水中に負電荷を有する
粘土粒子等が分散しているが,水溶液中には水素イオンH+
(正電荷),水酸化物イ
オンOH-
(負電荷)等のイオンが無数に存在しているから,負電荷を有する粘土
粒子の周りには水素イオンH+
が集まって,電気二重層を形成することになる。し
たがって,泥土(水溶液)中のイオンの存在を無視することはできず,泥土(水溶
液)中に負電荷の粘土粒子等のみが単独で分散しているということはない。
そうすると,当業者であれば,電荷の中和作用という場合,単に,粘土粒子等の
負電荷の中和作用を認識するのみならず,電気二重層における総電荷の中和作用に
ついても認識する。
(3)前記(2)の総電荷の中和作用を模式的に示すと,次のとおりである。
ア第1図のとおり,粘土粒子等は負電荷を有しているが,その周囲(固定
層)は泥土中の正電荷イオンが集まっており,その電荷の一部は土粒子等の近傍に
固まっているが,その外側では泥土の中に広がって負電荷(イオン)と混在した状
態を形成している(拡散層)。この固定層と拡散層とを合わせて電気二重層という。
(第1図)
イ2個の固着層に取り巻かれた土粒子が存在する場合の模式図は,第2図
のとおりである。
(第2図)
ウ電気二重層に取り巻かれた複数個の土粒子に電解質(カチオン性でも,
アニオン性でも,高分子凝集剤は電解質である。)が添加されると,第3図のとおり,
正電荷イオンの濃度も増すため,電気二重層に取り巻かれた複数の粘土粒子等が相
互に接近する。複数個の粘土粒子等と,泥土中の無数の正電荷イオンが相互に接近
して,全体として電気的に中和する(電気二重層の圧縮,総電荷の中和)。そして,
複数個の粘土粒子が接近すると,ファンデルワールス力によって凝集する(甲45
の図-2参照)。
(第3図)
エ甲1には,「気泡周囲の泥膜が・・・破れる」,「電荷の中和により親水性
を失い,凝集する事」,「凝集した改質土は流動性が無く」という効果の記載(4欄
21行~24行)があるが,これらの効果は,粘土粒子等の負電荷の中和作用のみ
で生じるものではない。
(4)前記(1)エの架橋吸着作用は,甲1に加え,甲3,7等から,本件出願日当
時の技術常識であった。
甲3の記載(【0028】)によると,アニオン性,カチオン性にかかわらず,高
分子凝集剤には,架橋吸着作用により土粒子を集合させる作用があり,この凝集作
用は電気二重層の総電荷の抑制や圧縮による凝集をはるかに凌ぐものである。
また,甲7には,「そこで,ここに粒子相互を接着剤で結合するという考えが生ま
れる。すなわち粒子相互にファンデルワールス力しか働かず,その結合力が弱いの
であるから,粒子との結合エネルギーの高いイオン結合や共有結合,水素結合を生
ずる接着剤(凝集剤)をその間に入れてやればよい。これを架橋結合という。」(8
頁右欄8行~15行),「架橋結合の場合,結合阻害因子は取り除いても除かなくて
凝集性にはそう大差はない(ファンデルワールス結合にくらべてそのほかの結合力
がはるかに大きいのだから)。したがって負に帯電した粒子を負の凝集剤でも凝集さ
せることができる。一般に,凝集剤というとアニオン性(負)またはノニオン性(中
性)のものが多いが,最近カチオン性(正)のものも作られてきており,これによ
ると粒子との間にファンデルワールス力や水素結合のほかにイオン結合も加わり一
層有効である。」(同欄17行~28行)との記載がある。
(5)被告は,甲1発明では,カチオン性有機高分子凝集剤を気泡混入掘削ずり
に添加混練することにより,「粘土粒子等の負電荷を中和」し,凝集させ流動性を除
去することが,「基本」及び「主たる」作用であり,「架橋吸着作用」や「イオンコ
ンプレックス作用」は副次的な作用にすぎないと主張するが,甲1発明として,甲
1に開示されている技術事項の中から,「基本」かつ「主たる」作用を有する発明の
みを選び出すことを前提としている点で誤っている。
公知文献との対比に係る進歩性判断においては,公知刊行物の記載全体が「特許
出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物」に当たる。そして,引用
発明とされるのは,引用文献中に複数の技術的思想が開示されている中から一つの
技術的思想を認定することができるというのが判例通説である。
本件の進歩性判断において,本件発明1と対比されるべき甲1発明(引用発明)
とは,甲1に開示されている複数の技術内容の中から,本件発明1に最も近いもの
が選ばれるべきである。それが,気泡混入掘削ずりに,カチオン性高分子凝集剤及
びアニオン性高分子凝集剤を併用して添加混練して流動性を除去するという技術で
ある。また,公知技術としては,当業者も理解する現実的なものでなければならな
いから,甲1に開示されているすべての凝集作用が挙げられなければならない。公
知技術には,文献中の記載の仕方が「基本」的かどうかとか,「主たる」作用を有す
るかどうかは関係がない。
甲1に開示されているカチオン性有機高分子凝集剤は,泥土中において,粘土粒
子等の負電荷の中和作用,総電荷の中和作用,架橋吸着作用,イオンコンプレック
ス作用のすべての作用によって泥土を凝集させるのであり,仮に,粘土粒子等の負
電荷の中和作用が「基本」及び「主たる」作用であったとしても,それにより総電
荷の中和作用,架橋吸着作用等が機能しなくなるものではない。また,被告の上記
主張では,負電荷を帯びた粘土粒子が,付近の正電荷(イオン)を集めて,固着層,
拡散層を形成していることを全く考慮していない。
(6)被告は,甲1には,「カチオン性高分子凝集剤とアニオン性高分子凝集剤と
を併用する技術」は記載されていないと主張するが,以下のとおり,甲1発明は,
気泡シールド工法より発生する気泡混入掘削ずりに,「カチオン性高分子凝集剤及び
アニオン性高分子凝集剤を併用して添加混練して流動性を除去」する構成である。
確かに,甲1には,「カチオン性有機高分子凝集剤添加混練後に・・・アニオン系
有機高分子凝集剤・・・を添加混練する事もできる。」と記載されているが,係助詞
の「も」は,「①類似した事物を幾つか取り出し並べて提示する・・・②他にも類似
の事物が存在することを言外にほのめかす形で,ある事物を提示する。」(甲49)
との意味を有するから,アニオン性高分子凝集剤を先に添加し,カチオン性高分子
凝集剤を後に添加する場合があることを示唆している。「併用」とは,「いっしょに
使うこと。あわせ用いること」(甲50)であって,両者がいずれも凝集作用を有す
る「有機高分子凝集剤」である以上,いずれを先に使用し,いずれを後に使用する
かは,状況に応じた当業者の日常的な選択による設計事項である。
また,甲1発明の従来技術の説明において引用される特願平1-13205号(甲
51:特公平6-91998号)の〔従来の技術〕欄には,「消泡により流動性を除
去する気泡シールド工法」に関する記載があり,実施例においては,アニオン性高
分子凝集剤(合成例-1)と,カチオン性高分子凝集剤(合成例-2,合成例-4)
が使用されているから,甲1に接する当業者は,従来技術の説明から,気泡シール
ド工法において,カチオン性高分子凝集剤のみならず,アニオン性高分子凝集剤を
添加しても,粘土粒子等が凝集され流動性が除去されることを当然に理解し得る。
そして,いずれを先に添加しても,甲1に開示されている,総電荷の中和作用,架
橋吸着作用,イオンコンプレックス作用によって凝集が起こることは明らかである。
さらに,被告は,仮に先にアニオン性(マイナスイオン性)有機高分子凝集剤を
添加してしまうと,「粘土粒子等の負電荷(マイナス電荷)を中和」することができ
ないと主張するが,アニオン性高分子凝集剤は,粘土粒子等の負電荷の中和作用は
有しないものの,総電荷の中和作用,架橋吸着作用を有するから,先にアニオン性
高分子凝集剤を添加すると,総電荷の中和作用,架橋吸着作用等によって凝集する。
(7)被告は,甲3発明は,「泥土」を造粒することに関するものであって,「気
泡」や「気泡混入掘削ずり」に関するものではないと主張するが,「泥土圧シールド
工法」の下位概念として「泥土加圧シールド工法」,「気泡シールド工法」,「ケミカ
ルプラグシールド工法」が位置付けられていることからすると(甲12),「気泡」
や「気泡混入掘削ずり」は,「泥土」の下位概念ということができる。甲28(特開
平6-173583号)においても,「切羽の土砂に添加剤(ベントナイト,作泥土
材,気泡等)を加えて・・・泥土を作成」(【0002】)するとして,土砂に添加剤
として「気泡等」を選択しても,「泥土」が生成されることが記載されている。
また,甲3の記載(【0001】,【0005】,【0006】)には,「シールド工事」
や「泥土」という記載があるが,格別の限定はないから,「気泡シールド工事」や「気
泡混入掘削ずり」も含むというべきである。上記記載によると,従来の泥土造粒処
理装置では,泥土をバッチ方式で処理していたため,泥土の発生現場で泥土を大量
に造粒処理するには不向きであるという問題点があったので,「本発明は・・・泥土
を大量に造粒処理するのに適した泥土固化処理装置を提供することにある」として
いるのであるから,「シールド工法」から「気泡シールド工法」を排除すべき理由は
ない。
したがって,甲3の「泥土」が「気泡混入掘削ずり」を含まない旨の被告の主張
は,失当である。
3取消事由2-2(作用効果の予測可能性の判断の誤り)
審決は,本件発明1の「造粒」に格別の意義があるとの前提で作用効果の予測可
能性に係る認定判断を行っているが,以下のとおり,本件発明1の「造粒」は,本
件出願日当時,周知技術であったから,誤りである。
(1)本件明細書の記載(【0021】,【0022】,【0027】,【0030】)
によると,本件発明1の「造粒」とは,「塊状」に対する概念であり,小さな粒子か
ら大きな粒子を作る過程における「塊状」以前の,部分的かつ均一な凝集と全体的
な水分の存在による流動性がある状態をいうものと認められる。
(2)甲3の記載(【0005】,【0006】,【0008】,【0028】)による
と,「泥土造粒処理」は,従来から広く知られた技術であり,その内容は,凝集剤を
添加して泥土を撹拌することにより,「凝集材に対する泥土の触れ合い回数を飛躍的
に高め」,「凝集材を泥土に均一に混合させること」により,粒状化した状態に処理
するものであったことが認められる。
そして,凝集剤に格別の限定はされておらず,アニオン性,カチオン性の合成高
分子凝集材や無機系凝集材のいずれでもよいとされているから,「造粒」において,
凝集剤が「アニオン性高分子凝集剤」である必要はなく,適宜の高分子凝集剤や天
然高分子を添加混合して混練すれば,自ずと「造粒」されることになる。
(3)以上によると,「造粒」は,本件出願日当時,周知技術であったと認められ
る。
4取消事由2-3(甲1,甲2の組合せによる容易想到性判断の誤り)
(1)本件発明1と甲1X発明は,相違点Xにおいて相違する。
(2)甲2の記載(【0004】,【0007】,【0009】,【0011】)による
と,撹拌機能を備えたチャンバ(スクリューコンベヤ等のハウジングを含む)内に
注入するとは,有機高分子凝集剤を「添加混練」することにほかならず,また,建
設排泥に高分子凝集剤を添加混合して混練することにより,「搬出に好ましい状態の
泥土」,「該掘削土砂は適度な流動性を有する凝集状態の泥土」,「適度な流動性,不
透水性即ち止水性,残土処理性に好ましい泥土」,「生成された泥土が通気性,保水
性を有する」泥土が生成されるのであり,とりわけ「生成された泥土が通気性,保
水性を有することにより,残土処理性を良好にし,例えば,園芸用土壌等に利用で
きること」との記載は,泥土の造粒を示唆していると解されるから,甲2発明にお
いても,本件発明と同様,「造粒」という結果が得られることは明らかである。
そうすると,審決の甲2発明の認定は誤りであり,甲2発明は,以下のとおり,
認定すべきである(以下,原告主張の甲2発明を「甲2X発明」ともいう。)。
「泥土圧シールド工法より発生する掘削ずりである粘土が微量で流動性の高い含水
土砂に,アニオン化率5~50モル%のアクリル系有機高分子凝集剤を添加混練し
て掘削ずりを凝集させ,適度な流動性を有する凝集状態の泥土に造粒する,泥土圧
シールド工法。」
(3)前記(1)(2)によると,甲2X発明の構成を甲1X発明に適用すると,本件
発明1の構成となることは明らかである。
そして,甲1X発明と甲2X発明とは,技術分野が共通しているのみならず,高
分子凝集剤を掘削ずり(建設排泥)に添加混練して流動性を除去するという課題に
おいても共通しており,後記(4)(5)のとおり,甲2X発明の構成を甲1X発明に適
用する動機付けがある。
(4)甲28の記載(【0002】)によると,気泡シールド工法と泥土圧シール
ド工法は,いずれも土圧式シールド工法の改良型であり,土圧式シールド工法に対
して,ベントナイト,作泥土材,気泡等の添加剤を加えて泥土室内に一定の泥土圧
を発生させ,この泥土圧を切羽に作用させて切羽の安定を図るために開発されたの
が「泥土圧シールド工法」であり,その中で,土砂への添加剤として「気泡」を含
むものを選択するのが「気泡シールド工法」である。
また,最新の気泡シールド工法といえども様々な欠点があるから,本件出願日当
時,当業者は,気泡シールド工法,泥土圧シールド工法の長所短所を踏まえて,適
宜工法を選択又は併用する状況にあった(甲29~32)。
そうすると,工法の違いは,甲1X発明と甲2X発明の組合せの動機付けを否定
する理由にはなり得ないところ,甲1X発明において,凝集作用を調整するにあた
って,アニオン性高分子凝集剤とカチオン性高分子凝集剤を併用添加して凝集作用
が強くなりすぎると理解する場合には,アニオン性高分子凝集剤及びカチオン性高
分子凝集剤の添加量を減らすか,あるいは,いずれかの添加を止めることは,当業
者であれば容易に想到し得る。甲1X発明では,カチオン性高分子凝集剤とアニオ
ン性高分子凝集剤とを併用添加することを技術的内容としており,「併用添加」とい
う技術思想の下で両高分子凝集剤をどのような割合又は量で添加するかは,設計事
項である。
そして,甲2X発明は,アニオン性高分子凝集剤を「添加混練」するものであり,
「造粒」という結果が得られるものであるから,甲1X発明において,カチオン性
高分子凝集剤の添加を止めてアニオン性高分子凝集剤のみ添加すれば流動性を除去
する効果が弱まることを理解した当業者は,甲2X発明に接することで,アニオン
性高分子凝集剤を添加混練すれば適度の流動性を有する凝集状態の泥土となり「造
粒」効果を奏することを理解し,本件発明1を想到する。
(5)排出後の残土処理等に高分子凝集剤を利用する限りにおいて,高分子凝集
剤には,架橋吸着作用により土粒子を集合させる作用があり,前記2のとおり,こ
の凝集作用は,電気二重層の総電荷の抑制や圧縮による凝集をはるかに凌ぐもので
あるから,高分子凝集剤を添加混練した場合,それがカチオン性であっても,アニ
オン性であっても,総電荷の中和作用や架橋吸着作用,特に架橋吸着作用により強
力な凝集力が働くので,掘削ずり(建設排泥)から気泡が破泡,消泡する。
また,気泡シールド工法では,起泡材などの水溶液と圧縮空気が同時に発泡装置
へ送り込まれて気泡が作られ,切羽あるいはチャンバ内に注入されるから,気泡内
の空気は高圧の圧縮空気である。気泡を含む建設排泥がチャンバから排出された後
に気泡は自然消泡するが,それは,基本的には,高圧の圧縮空気を内包する気泡を
含む建設排泥が,掘削後,大気中に排出されるので,気圧の低下により気泡が膨張
し泡膜が薄くなり,破泡すること等を繰り返し,速やかに消泡し,泥土(土砂と発
泡剤水溶液)のみが残る。一方,土砂にベントナイト,作泥土材等を添加する場合
には,掘削後,消泡がないから,泥土(土砂と水)のままである。いずれにしても,
所要の時間を経過すると,排出土は泥土のみとなる。
しかも,アニオン性高分子凝集剤の魚毒性は弱いが,カチオン性高分子凝集剤は
淡水で比較的強い魚毒性を示すとの報告等がされていることから(甲9~11),カ
チオン性高分子凝集剤は,アニオン性のものに比べて使用範囲が限定的となるため,
カチオン性高分子凝集剤を止めてアニオン性高分子凝集剤のみ添加する動機付けが
十分に存在する。
(6)被告は,甲1発明と甲2発明とでは,処理対象となる排泥の性状や流動性
を生じさせる原因物質などの前提が大きく異なっており,それにより課題も大きく
異なっているから,甲1発明と甲2発明とを組み合わせることは,当業者が容易に
なし得たことではないと主張するが,以下のとおり,理由がない。
ア甲1の「ベントナイトに替えて気泡を混入する事により掘削土の流動性
と止水性を確保する気泡シールド工法が提案されている」(2欄2行~5行)との記
載から,シールド工法において,泥土圧シールド工法と同様の掘削ずりに「気泡」
を添加することで,泥土圧シールド工法とは異なる特徴を有する処理対象物になる
との結論を導くことはできない。掘削土中の水の含有の程度や掘削土の粒度構成に
よって,「ベントナイト」等,「気泡」等を添加する量が調整されることになるが,
添加剤として「ベントナイト」等を選択しようと,「気泡」等を選択しようと,いず
れも作成されるのは「泥土」とされている(甲28)。したがって,掘削土に添加剤
として気泡混入するか(甲1),掘削土に添加剤として「ベントナイト」等を加える
か(甲2)で,有機高分子凝集剤の処理対象物として格別異なるとはいえない。
審決は,「気泡の有無や含水率等の相違により,その性状や流動性を生じさせる原
因が異なっている」ともいうが,掘削ずりは,そもそも一定程度の流動性を持つも
のであり,気泡の有無が「流動性を生じさせる原因」となるものではないし,「含水
率」についても,掘削ずり自体にある程度内包されているのであるから,程度の問
題,すなわち設計事項にすぎないのであって,流動性の付与に関して気泡とベント
ナイト等とで別異に取り扱うべき理由はない。
イ甲1において,「短時間で気泡混入掘削ずりを固化し,運搬を容易にし埋
土として使用可能な改質土を得る事ができる・・・」(3欄10行~12行)のは,
「気泡混入掘削ずり中にはシルト・粘土分やセルロース系増粘剤を含む場合が多く,
該成分の生成する強固な泥膜は気泡の離脱を妨害するとともに,脱泡残留物におい
てもなお流動性を付与する」と記載されているように,気泡混入掘削ずりの中に強
固な泥膜を形成する増粘剤が含まれる特別の場合であって,気泡混入掘削ずり一般
にいえることではない。通常の気泡混入掘削ずりは自然消泡するが,甲1は,強固
な泥膜を形成する増粘剤が含まれる特別の場合のみを対象とするものではない。
ウ掘削土には自ずと一定程度の流動性があり,気泡によってその流動性を
高めるものであることは,本件明細書に記載されているから(【0003】),被告が
「気泡」を「流動性発現物質」として,流動性が生じる掘削土に対しては用いる余
地がないかのように表現することは,本件明細書と矛盾するものであり,誤りであ
る。気泡シールド工法では,気泡を混入することにより掘削ずりの流動性と止水性
を確保するものであって,流動性のみが気泡添加の理由ではない(甲1,29,3
2,33)。
被告は,甲2発明の処理対象物は,既に「掘削土の流動性が高く」なっているた
め,流動性発現物質として「気泡」を注入する必要はないと主張するが,甲29(特
開昭60-188595号公報)では,「地下水位が高く,含水比の大きい地盤の場
合」でも多量の気泡を供給しており,掘削土の流動性が高いことをもって「気泡」
を注入する必要がないものではない。
気泡混入掘削ずりが,カチオン性有機高分子凝集剤との関係で,ベントナイトの
場合と異なる特別の「性状」を有することを示す合理的な証拠は見当たらない。
5取消事由2-4(動機付けに関する認定判断の誤り)
(1)審決は,甲1発明は「気泡を混入させることにより流動性を生じさせる」
のに対し,甲2発明は「泥土に含まれる水分により流動性が生じる」と認定するが,
誤りである。
甲1の記載(1頁2欄2行~5行,1頁2欄末行~2頁3欄4行)によると,掘
削土に流動性を与えるのは,泥土圧シールド工法であれば「水」ではなく「ベント
ナイト」等であり,気泡シールド工法であれば「気泡」であるが,気泡シールド工
法において流動性を与えるのは必ずしも「気泡」のみとは限らない。
また,甲2発明における掘削ずり(建設排泥)は,粘土が微量しかない「含水土
砂」であり,この「含水土砂」が高い流動性を与えているものであって,泥土圧シ
ールド工法であっても,「水」のみが流動性を与えるものではない。
さらに,甲29の記載(2頁左上欄)によると,気泡シールド工法による掘削ず
り(建設排泥)には,相当量の地下水が含まれ得るのであり,気泡シールド工法と
いっても,気泡のみで流動性を生じさせているものではない。
しかも,前記のとおり,有機高分子凝集剤の添加混練によって,甲1発明では掘
削ずりを凝集させ流動性を除去しており,甲2発明でも掘削ずりを凝集させ,適度
な流動性を有する凝集状態の泥土に造粒しているのであるから,どのようなシール
ド工法から発生する掘削ずりであっても,有機高分子凝集剤を添加混練すれば凝集
作用が働くのである。
このように,「処理対象となる建設排泥の性状や流動性を生じさせる原因」は多岐
にわたっており,しかも,それとは関係なく有機高分子凝集剤の添加混練により凝
集作用が働くのである。
したがって,審決が「甲1発明と甲2発明とは・・・処理対象となる建設排泥の
性状や流動性を生じさせる原因などの前提が異なっており,それによりその課題も
異なるものといえる」と判断したことは,誤りである。
(2)審決は,「処理対象を気泡シールド工法で発生する建設排泥としなければ,
消泡により建設排泥の流動性を消失させるという課題も生じないから,甲2発明は
甲1発明の消泡に関する課題も有していない」と判断したが,誤りである。
前記2のとおり,甲1発明におけるカチオン性高分子凝集剤の凝集作用には,粘
土粒子等の負電荷の中和作用,電荷の中和作用(総電荷の抑制),イオンコンプレッ
クスによる作用(アニオン性高分子凝集剤等との併用の場合),架橋吸着作用が挙げ
られる。甲1には,いずれの作用も,気泡シールド工法によって発生する気泡混入
掘削ずりを凝集して流動性を除去するものであって,甲1発明の「本発明は,短時
間で気泡混入掘削ずりを固化し,運搬を容易にし埋土として使用可能な改質土を得
る事ができる。簡便な処理方法を提供する事を目的とする。」(3欄10行~12行)
という課題解決に寄与するものであることが記載されている。
このように,甲1発明においては,消泡に関する課題のみならず,建設排泥を凝
集して流動性を除去することに関する課題も有し,課題解決に関して甲1発明のカ
チオン性高分子凝集剤又はアニオン性高分子凝集剤の奏する作用・機能は,甲2発
明のアニオン性高分子凝集剤の奏する作用・機能と共通している。
(3)前記4のとおり,気泡は高圧下で水を起泡剤で泡立てたものであって,掘
削後,高圧下で生成された水溶液の膜である気泡が大気中に排出されれば,気圧の
変化により気泡が膨張し泡膜が破れ,水分の蒸発も相まって,速やかに自然消泡す
るものであり,気泡シールド工法と泥土圧シールド工法とで排出後の残土処理等に
格別の差はない。
気泡シールド工法において,特段の事情のない限り,気泡の処理に格別の作業は
必要ない(甲13,14)。「特殊消泡材」は,気泡土中に含まれる気泡をごく短時
間に消泡する薬剤であって,自然消泡を待っていられないような格別の事情のある
場合に使用されるものである(甲32,35)。短時間の処理でなければ,気泡又は
脱泡残留物に起因する流動性を除去するという格別の処理が必要になるものではな
い。前記4のとおり,甲1は,強固な泥膜を形成する増粘剤が含まれる特別の場合
のみを対象とするものではない。
6取消事由3(作用効果の予測可能性の判断の誤り)
(1)審決は,本件発明1の「気泡シールド工法で発生する建設排泥に対してア
ニオン性高分子凝集剤を用いることにより,混合時に造粒されて,運搬性が格段に
向上するという効果」は,甲1発明に甲2発明又は甲3発明のアニオン性高分子凝
集剤を適用することにより初めて得られる作用効果であって,その適用前に予測す
ることは当業者にとって困難であると判断したが,誤りである。
前記のとおり,甲3によると,「造粒」するための凝集剤は,「アニオン性高分子
凝集剤」である必要があるという格別の限定はなく,アニオン性,カチオン性の合
成高分子凝集材や無機系凝集材のいずれでもよく,凝集剤の種類にかかわらず,泥
土に凝集剤を「添加混合して混練」,すなわち,泥土を撹拌することにより,「凝集
材に対する泥土の触れ合い回数を飛躍的に高め」,「凝集材を泥土に均一に混合させ
ること」により,粒状化した状態に処理される。
また,甲2発明においても,泥土圧シールド工法から発生する掘削ずりについて,
建設排泥に高分子凝集剤を添加混合して混練することにより,「搬出に好ましい状態
の泥土」,「該掘削土砂は適度な流動性を有する凝集状態の泥土」,「適度な流動性,
不透水性即ち止水性,残土処理性に好ましい泥土」,「生成された泥土が通気性,保
水性を有する」泥土が生成され,本件発明1と同様,「造粒」という効果が得られる。
このように,審決のいう本件発明1の作用効果は,甲2,3に記載されている公
知技術である。
(2)本件明細書には,カチオン性高分子凝集剤を添加した場合と,アニオン性
高分子凝集剤を添加した場合とを比較する実験結果の記載がないから,カチオン性
高分子凝集剤,又はこれとアニオン性高分子凝集剤を併用した場合と比べてどのよ
うに勝っているのか明らかでない。
本件明細書には,「上記従来法においては,排泥の流動性は消失するものの,通常
の土状態に戻るだけなので,固化処理を行っても,固化物が塊状となり,それを運
搬するには,更に砕く工程を要する等の新たな課題が発生する」(【0009】)との
記載があるが,「通常の土状態」の意味が不明であるし,「上記従来法」とされてい
る甲1には,「固化処理を行っても,固化物が塊状となり,それを運搬するには,更
に砕く工程を要する等」の趣旨の記載はない。むしろ,甲1では,「埋土として使用
可能な改質土を得る事ができる」というのであって,その改質土において「粒状」
のものを排除すべき合理的な理由は存在しない。
(3)原告の実施した実験(甲37)によると,アニオン性高分子凝集剤とカチ
オン性高分子凝集剤による気泡を含む泥土の改質効果に差はなく,どちらも十分な
改質効果を得られ,カチオンによる負電荷の中和による消泡の影響よりも,架橋吸
着作用による流動性の消失が強いという結果が得られている。
(4)被告は,当業者は,甲1発明の「基本」かつ「主たる」作用を奏するため
に必須の成分であるカチオン性高分子凝集剤を添加することなく,アニオン性(マ
イナスイオン性)有機高分子凝集剤を添加すると,「粘土粒子等の負電荷(マイナス
電荷)を中和し,凝集させ流動性を除去する事」ができないと予測すると主張する
が,甲1発明が「カチオン性有機高分子凝集剤を気泡混入掘削ずりに添加混練する
事により,粘土粒子等の負電荷を中和し,凝集させ」ることのみを前提としており,
誤りである。
7取消事由4(本件発明2及び3の進歩性判断の誤り)
審決は,本件発明2及び3は,本件発明1について示した理由と同様の理由によ
り,甲1~3に記載された発明及び周知技術(甲4~12)に基づいて当業者が容
易に発明することができたものではないと判断したが,誤りである。
(1)本件発明2について
本件発明2は,本件発明1に「無機系固化材がカルシウムまたはマグネシウムの
酸化物を含む粉末である」との構成を加えたものである。
しかし,甲1発明は,「石灰やセメント等の無機系固化材を添加混練する」もので
あるところ,「石灰」とは,通常「酸化カルシウム」のことであり(甲38),「セメ
ント」の種類の中には「マグネシアセメント」があり,この「マグネシア」とは「酸
化マグネシウム」の慣用名である(甲39)。
そうすると,本件発明2の「無機系固化材がカルシウムまたはマグネシウムの酸
化物を含む粉末である」との構成は,甲1発明との相違点とはならないから,本件
発明2と甲1発明との相違点は,本件発明1と甲1発明との相違点と同じである。
そして,本件発明1と甲1発明との相違点が容易想到であることは,前記のとお
りである。
(2)本件発明3について
本件発明3は,本件発明1に「無機系固化材が石膏を含む粉末である」との構成
を加えたものである。
しかし,甲1発明は「石灰やセメント等の無機系固化材を添加混練する」もので
あるところ,「セメント」の種類の中には「石膏」が含まれる(甲38)。
そうすると,本件発明3の「無機系固化材が石膏を含む粉末である」との構成は,
甲1発明との相違点とはならないから,本件発明3と甲1発明との相違点は,本件
発明1と甲1発明との相違点と同じである。
そして,本件発明1と甲1発明との相違点が容易想到であることは,前記のとお
りである。
第4被告の主張
1取消事由1(甲1発明の認定の誤りに伴う相違点の認定の誤り)に対し
原告は,甲1には,「気泡混入掘削ずりに,カチオン性高分子凝集剤及びアニオン
性高分子凝集剤を併用」することが記載されていると主張するが,以下のとおり,
この主張は誤りである。
(1)甲1には,「本発明におけるカチオン性有機高分子凝集剤の使用法は単独添
加に限定されるものではなく,硫酸アルミニウム,ポリ塩化アルミニウム等の無機
凝集剤との併用添加あるいはカチオン性有機高分子凝集剤添加混練後に高級水性樹
脂,アニオン系有機高分子凝集剤あるいは石灰やセメント等の無機系固化剤を添加
混練する事もできる。」(4欄10行~16行。下線は,被告が付したもの。)との記
載がある。
しかし,この前半部分には,「硫酸アルミニウム,ポリ塩化アルミニウム等の無機
凝集剤との併用添加」と記載されているから,カチオン性有機高分子凝集剤と「併
用添加」できるものは「無機凝集剤」であり,「アニオン系有機高分子凝集剤」では
ない。また,後半部分には,「カチオン性有機高分子凝集剤添加混練後に高級水性樹
脂,アニオン系有機高分子凝集剤あるいは石灰やセメント等の無機系固化剤を添加
混練する事もできる。」と記載されているから,アニオン系有機高分子凝集剤を「カ
チオン性有機高分子凝集剤添加混練後に」(添加順序の限定あり)添加できると記載
されているのであり,カチオン性高分子凝集剤とアニオン性高分子凝集剤とを「併
用添加」(添加順序の限定なし)できるとは記載されていない。
このように,甲1の上記記載には,「カチオン性高分子凝集剤とアニオン性高分子
凝集剤とを併用する技術」は記載されていない。
(2)甲1の記載(4欄17行~24行)によると,甲1は,「カチオン性有機高
分子凝集剤を気泡混入掘削ずりに添加混練する事により,粘土粒子等の負電荷を中
和し,凝集させ流動性を除去する事を基本とする」ものであり,「電荷の中和により
親水性を失い,凝集する」ものである。そのため,仮に先にアニオン性(マイナス
イオン性)有機高分子凝集剤を添加してしまうと,「粘土粒子等の負電荷(マイナス
電荷)を中和」することができない。
したがって,甲1発明は,カチオン性(プラスイオン性)有機高分子凝集剤を添
加して「粘土粒子等の負電荷(マイナス電荷)の中和」を行うことを必須の要件と
しており,これにより気泡混入掘削ずりの流動性を除去した後であれば,任意にア
ニオン性(マイナスイオン性)有機高分子凝集剤を添加することが許容されている
にすぎない。
原告主張のように,甲1発明について,「気泡シールド工法より発生する気泡混入
掘削ずりに,カチオン性高分子凝集剤及びアニオン性高分子凝集剤を併用」すると
認定すると,「必須成分であるカチオン性高分子凝集剤を添加する前に,任意成分で
あるアニオン性高分子凝集剤を添加」する態様も含まれてしまうが,そのような態
様では,「粘土粒子等の負電荷(マイナス電荷)を中和」するという,甲1発明の作
用を奏することができない不都合が生じることは,上記のとおりである。
また,原告の主張では,気泡混入掘削ずりの流動性を除去するための凝集剤が,
カチオン性高分子凝集剤及びアニオン性高分子凝集剤の双方であることになるが,
甲1発明では,カチオン性高分子凝集剤のみで気泡混入掘削ずりの流動性を除去す
るから,この点においても誤りである。
2取消事由2-1(甲1発明と甲2発明の組合せの阻害事由認定の誤り)に対

原告は,審決は,甲1発明が粘土粒子等の負電荷を中和するだけのものと誤認し,
その結果,甲1発明にアニオン性高分子凝集剤からなる甲2発明を組み合わせるの
は阻害要因となり得るという誤った判断をしたと主張するが,以下のとおり,審決
の阻害事由の認定に誤りはない。
(1)甲1の記載(3欄33行~41行,4欄17行~24行)によると,甲1
発明では,カチオン性有機高分子凝集剤を気泡混入掘削ずりに添加混練することに
より,「粘土粒子等の負電荷を中和」し,凝集させ流動性を除去することが,「基本」
及び「主たる」作用である。「カチオン性有機高分子凝集剤の架橋吸着作用も効果に
寄与する」と付加的に記載されているとおり,「架橋吸着作用」は副次的な作用にす
ぎない。
このように,甲1発明では,カチオン性有機高分子凝集剤を気泡混入掘削ずりに
添加混練することにより,「粘土粒子等の負電荷を中和」し,凝集させ流動性を除去
することが,「基本」及び「主たる」作用であり,この点は,甲1発明の前提である。
そして,「粘土粒子等の負電荷を中和」させることができる凝集剤は,カチオン性
(プラスイオン性)有機高分子凝集剤のみである。仮に,カチオン性(プラスイオ
ン性)有機高分子凝集剤に代えてアニオン性(マイナスイオン性)有機高分子凝集
剤を用いた場合,甲1発明の「基本」及び「主たる」作用である,「粘土粒子等の負
電荷を中和」させることができなくなり,甲1発明が成立し得なくなる。
したがって,甲1発明に甲2発明を組み合わせることには,阻害事由があるから,
これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(2)甲1には,総電荷の中和については記載されていない。原告が総電荷の中
和に関する記載として指摘した記載は,いずれも粘土粒子等の負電荷の中和に関す
る記載である。甲1には,「総電荷」という語句も,「電気二重層」という語句も記
載されておらず,総電荷の中和に関する記載はない。
また,甲3には,「泥土」の凝集において,「電気二重層の総電荷の抑制」が有効
であると記載されているが(【0028】),甲3発明は,泥土造粒処理装置に係る発
明であり,「泥土」を造粒することに関するものであって,「気泡」や「気泡混入掘
削ずり」に関するものではないから,「泥土」とは異なる「気泡混入掘削ずり」につ
いては一切記載されていない。
このように,甲1及び甲3のいずれにも,「気泡混入掘削ずり」における「電気二
重層の総電荷の抑制」や「電気二重層の総電荷の中和」といった事項は,一切記載
されていない。
(3)甲1の記載(4欄25行~28行)によると,甲1発明において,イオン
コンプレックスは,CMC等のアニオン性増粘剤が存在するという条件を満たす場
合に生じる作用であるから,副次的な作用にすぎず,粘土粒子等の負電荷の中和が
「基本」かつ「主たる」作用であることに変わりはない。
また,イオンコンプレックスは,カチオン性有機高分子凝集剤の作用であること
から,カチオン性有機高分子凝集剤をアニオン性有機高分子凝集剤に置換すること
の動機付けにならない。
3取消事由2-2(作用効果の予測可能性の判断の誤り)に対し
原告は,審決は,本件発明1の「造粒」に格別の意義があるとの前提で作用効果
の予測可能性に係る認定判断を行っているが,本件発明1の「造粒」は,本件出願
日当時,周知技術であったから,誤りであると主張するが,以下のとおり,本件発
明1と甲1発明の相違点を「造粒」と「カチオン性高分子凝集剤を添加することな
く,アニオン性高分子凝集剤を添加混合」の二つに分離して捉えている点において,
誤りである。
本件明細書の記載(【0008】,【0009】,【0021】)によると,従来法で
ある甲1では,気泡シールド工法から発生する排泥にカチオン性高分子凝集剤を添
加するため,「通常の土状態に戻るだけ」であるのに対して,本件発明1では,気泡
シールド工法から発生する排泥にアニオン性高分子凝集剤を添加するため,「混合時
に粒状となり,同時に造粒される」。
このように,本件発明1において,気泡シールド工法から発生する「建設排泥に
添加混合する高分子凝集剤として,カチオン性高分子凝集剤を用いずに,アニオン
性高分子凝集剤を用い,高分子凝集剤を添加混合した」ことと,「建設排泥を造粒す
る」こととは,一体として従来法である甲1に対する相違点を構成しているのであ
る。
4取消事由2-3(甲1,甲2の組合せによる容易想到性判断の誤り)に対し
原告は,甲2X発明の構成を甲1X発明に適用する動機付けがあり,甲2X発明
の構成を甲1X発明に適用すると,本件発明1の構成となると主張するが,以下の
とおり,本件発明1は,甲1発明,甲2発明の組合せから容易に想到し得るもので
はない。
(1)甲1発明の処理対象物(掘削土)は,気泡混入掘削ずりである。この気泡
混入掘削ずりは,掘削時に掘削土の流動性を確保するために,シェービングクリー
ム状の気泡を混入したものである(甲32,33)。したがって,下図に模式的に示
すとおり,気泡混入掘削ずりは,土粒子(下図中の着色部分)と,それを囲む気泡
部とを有する。
また,甲1発明の課題は,「短時間で気泡混入掘削ずりを固化し,運搬を容易にし
埋土として使用可能な改質土を得る事ができる。簡便な処理方法を提供する事」(甲
1の3欄10行~12行)にある。
そして,甲1発明では,その解決手段として,当該気泡混入掘削ずりにカチオン
性高分子凝集剤を添加混練することにより流動性を消失させている。
他方,甲2の記載(【請求項1】,【0007】,【0008】)によると,甲2発明
の処理対象物は,透水係数が100
~10-3
cm/secの高透水性地層の掘削に
より発生する掘削土であり,すでに「掘削土の流動性が高く」なっているため,流
動性発現物質として「気泡」を注入する必要はない。このように,甲2発明の処理
対象物には「気泡」は存在し得ないため,気泡の存在に起因する課題も存在しない。
以上のとおり,甲1発明と甲2発明とでは,処理対象となる排泥の性状や流動性
を生じさせる原因物質などの前提が大きく異なっており,それにより課題も大きく
異なっている。
(2)甲1発明の本質は,地盤等の掘削自体にあるのではなく,掘削によって発
生した掘削ずりの処理にあり,甲1発明における処理対象物は,地盤ではなく掘削
ずりである。そして,当業者であれば,掘削ずりが流動性を有するために運搬性に
劣る場合には,まずは掘削ずりの流動性原因物質に着目し,その流動性原因物質の
種類・特性に応じて,その原因物質を除去・改質することを課題として設定した上
で,種々の課題の解決手段を試みることにより,課題解決に至るものである。
甲2発明における流動性原因物質は,流動性の高い含水土砂自体であり,気泡で
はない。そのため,甲2発明には,流動性原因物質である気泡を消泡・改質するた
めの動機付けになるような記載はない。
(3)以上のとおり,甲1発明と甲2発明とは,課題が大きく異なり,甲2発明
には甲1発明の課題解決のための動機付けになるような記載はないから,甲1発明
と甲2発明とを組み合わせることは当業者が容易になし得たことではない。
(4)原告は,甲1発明において,凝集作用を調整するに当たって,アニオン性
高分子凝集剤とカチオン性高分子凝集剤を併用添加して凝集作用が強くなりすぎる
と理解する場合には,アニオン性高分子凝集剤及びカチオン性高分子凝集剤の添加
量を減らすか,あるいは,いずれかの添加を止めることは,当業者であれば容易に
想到し得ると主張するが,甲1発明では,カチオン性高分子凝集剤の添加が必須で
あり,カチオン性高分子凝集剤を添加して粘土粒子等の負電荷を中和することが「基
本」かつ「主たる」作用効果であるから,仮に凝集作用が強くなりすぎたとしても,
カチオン性高分子凝集剤を添加しないことはあり得ない。
(5)原告は,アニオン性高分子凝集剤の魚毒性は弱いが,カチオン性高分子凝
集剤は淡水で比較的強い魚毒性を示すとの報告等がされていることから,カチオン
性高分子凝集剤は,アニオン性のものに比べて使用範囲が限定的となるため,カチ
オン性高分子凝集剤を止めてアニオン性高分子凝集剤のみ添加する動機付けが十分
に存在すると主張するが,当業者が甲1発明の魚毒性に関する知見を有していたと
しても,甲1発明において,甲1発明の作用効果が奏され得なくなるような変更を
行うこと,すなわち,甲1発明の作用効果にとって必須成分であるカチオン性有機
高分子凝集剤を添加しないことは,当業者が容易になし得たことではない。
5取消事由2-4(動機付けに関する認定判断の誤り)に対し
(1)原告は,甲1の記載によると,掘削土に流動性を与えるのは,泥土圧シー
ルド工法であれば「水」ではなく「ベントナイト」等であると主張するが,泥土圧
シールド工法で注入する「ベントナイト」等を含む作泥土剤は水が大半を占めてい
るし,「水だけの注入で粘性を下げる場合もある」ことや,土の含水比と変形のしや
すさ(コンシステンシー)との関係などから,泥土圧シールド工法においては,ベ
ントナイトの有無にかかわらず,「水」が流動性を付与する物質であるといえる(乙
1,2)。
(2)原告は,気泡シールド工法と泥土圧シールド工法とで排出後の残土処理等
に格別の差はないと主張するが,以下のとおり,原告の主張は,誤りである。
甲1の記載(2欄12行~3欄5行)によると,気泡混入掘削ずりにおいては,
気泡は離脱し難く,また,脱泡残留物においてもなお流動性を付与する等の格別の
理由があるからこそ,気泡混入掘削ずりには,気泡又は脱泡残留物に起因する流動
性を除去するという格別の処理が必要になる。そして,甲1発明においては,気泡
混入掘削ずりにカチオン性有機高分子凝集剤を添加することにより,気泡混入掘削
ずりは通常の土状態に戻る。
他方,甲2発明においては,掘削土は「含水土砂」(甲2【0009】)であるた
め,泥水状であり,気泡は添加されていない。そのため,甲2発明においては,気
泡や脱泡残留物が流動性を付与するという格別の理由はなく,したがって,気泡や
脱泡残留物に起因する流動性を除去するという格別の処理は行わない。
このように,気泡混入掘削ずりには,気泡又は脱泡残留物に起因する流動性を除
去するという格別の処理が必要であるため,気泡シールド工法と泥土圧シールド工
法とでは排出後の残土処理等に格別の差があることは明らかである。
6取消事由3(作用効果の予測可能性の判断の誤り)に対し
原告は,本件発明1の作用効果は,甲2,3に記載されている公知技術であると
主張するが,以下のとおり,甲1発明,甲2発明及び甲3発明からは,本件発明1
の作用効果は予測不可能である。
(1)本件明細書の記載(【0001】,【0008】~【0010】,【0014】,
【0021】)によると,本件発明1の作用効果は,従来例(甲1)と比べて優れた
作用効果であり,具体的には,「気泡シールド工法で発生する建設排泥」に「アニオ
ン性高分子凝集剤を使用することで,混合時に粒状となり,同時に造粒される」た
め,「通常の土状態に戻るだけ」とはならず,「施工性の優れた十分な強度を有する
粒状固化物とすることができ」るというものである。
他方,甲1発明に係る気泡混入掘削ずりの処理方法は,「カチオン性高分子凝集剤」
(請求項1)を添加することを必須としており,また,「カチオン性有機高分子凝集
剤を気泡混入掘削ずりに添加混練する事により,粘土粒子等の負電荷を中和し,凝
集させ流動性を除去する事を基本」(甲1の4欄17行~20行)とするから,この
作用により気泡がずりから放出され,「気泡を失い,凝集した改質土は流動性が無く,
運搬や埋土が容易となる。」(甲1の4欄23行~24行)のである。
したがって,当業者は,このような「基本」かつ「主たる」作用を奏するために
必須の成分であるカチオン性高分子凝集剤を添加することなく,アニオン性(マイ
ナスイオン性)有機高分子凝集剤を添加すると,「粘土粒子等の負電荷(マイナス電
荷)を中和し,凝集させ流動性を除去する事」ができないと当然に予測する。
本件発明1は,この予測に反し,気泡シールド工法で発生する建設排泥に「アニ
オン性高分子凝集剤を使用することで,混合時に粒状となり,同時に造粒される」
ため,「施工性の優れた十分な強度を有する粒状固化物とすることができ」るという
予測し得ない優れた効果を奏する。
(2)甲2発明は,気泡シールド工法ではなく,「泥土圧シールド工法」に関する
ものであり(請求項1),甲2発明の処理対象物は,透水係数が100
~10-3
cm
/secの高透水性地層の掘削により発生する掘削土であることから,本件発明1
のように気泡シールド工法で発生する建設排泥(気泡混入掘削ずり)を処理対象物
とする発明とは全く異なる。甲2発明における処理対象物は,既に「掘削土の流動
性が高く」なっているため,流動性発現物質として「気泡」を注入する必要はない。
同様に,甲3発明も,処理対象物が「泥土」であり,気泡シールド工法で発生す
る建設排泥(気泡混入掘削ずり)とは全く異なる。甲3にも,流動性発現物質とし
て「気泡」を注入する旨の記載はない。
さらに,甲1~3のいずれにも,「泥土」の処理方法に関する技術を「気泡混入掘
削ずり」に適用し得る旨の記載も示唆もない。
したがって,甲1発明,甲2発明及び甲3発明からは,気泡シールド工法で発生
する建設排泥に,「アニオン性高分子凝集剤を使用することで,混合時に粒状となり,
同時に造粒される」ため,「施工性の優れた十分な強度を有する粒状固化物とするこ
とができ」るという本件発明1の作用効果は,予測不可能である。
(3)原告は,本件明細書には,カチオン性高分子凝集剤を添加した場合と,ア
ニオン性高分子凝集剤を添加した場合とを比較する実験結果の記載がないから,カ
チオン性高分子凝集剤,又はこれとアニオン性高分子凝集剤を併用した場合と比べ
てどのように勝っているのか明らかでないと主張するが,以下のとおり,本件明細
書には,アニオン性高分子凝集剤を添加した本件発明1がカチオン性高分子凝集剤
を添加した場合と比べて勝っている点が明確に記載されている。
ア本件明細書には,「上記従来法においては,排泥の流動性は消失するもの
の,通常の土状態に戻るだけ」(【0009】)であるのに対し,「本発明の場合,ア
ニオン性高分子凝集剤を使用することで,混合時に粒状となり,同時に造粒される」
(【0021】)ことが明確に記載されているから,従来例と比べて本件発明1がど
のように勝っているのかは明確である。
また,本件明細書の実施例では,「スコップで得られた固化物をすくって容器に入
れて見ると,簡単にすくえ,容器に入れた後も,投入時の形をそのまま維持した」
(【0041】)ことが記載されており,本件発明1の優れた作用効果は,実験結果
によって明確に示されている。
イ被告の行った追加実験(乙3)でも,気泡を含有する土に対して,アニ
オン性高分子凝集剤を添加して2分間混練すると,5~10mm大の造粒物が形成
されたのに対し,カチオン性高分子凝集剤を添加して2分間混練しても,元の土状
態に戻るだけであり,造粒物が形成されなかった。
これに対し,原告の行った実験(甲37)では,アニオン性高分子凝集剤又はカ
チオン性高分子凝集剤を0.1%加え,ミニスランプ値にて下がった高さを確認す
る工程で,どの程度の混合を行ったのかが記載されておらず,「造粒」の有無も確認
されていない。
7取消事由4(本件発明2及び3の進歩性判断の誤り)に対し
本件発明1は,前記のとおり,進歩性を有するから,本件発明2及び3も,進歩
性を有することは明らかであり,これと同旨の審決に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1本件発明について
(1)本件明細書(甲18)には,以下の記載がある。
ア技術分野
【0001】
本発明は気泡シールド工法で発生する建設排泥の処理方法に関する。
イ背景技術
【0002】
加泥材を切羽やチャンバ内に注入して切羽の安定を図る泥土圧シールド工法を改
良した気泡シールド工法が実用化されている。この気泡シールド工法は,起泡剤を
主原料として気泡生成装置が気泡を生成し,当該気泡を切羽やチャンバ内に注入し
ながら掘進作業を進める工法である。
【0003】
気泡シールド工法は,1.砂礫地盤の場合,気泡のベアリング効果によって掘削
土の流動性が高まる,2.気泡には圧縮性があるため,切羽圧の変動を少なくする,
3.土粒子の間隙に存在する地下水が微細な気泡と置換することで,掘削土の止水
性が高まる,4.粘土やベントナイトを使用しないため,坑内を汚さず,作業環境
が向上する,5.注入設備や気泡生成装置が小規模で済む,等の優れた特徴がある。
【0004】
一方,気泡シールド工法からは,安定した気泡を含む排泥土である建設排泥が発
生する。
このような建設排泥は流動性に優れているところから,トラック等で運搬すること
が困難となるため,通常固化処理された後,埋立てに供されたり,更に処理を加え
てレンガ等の建設・土木資材として再利用されたりする。
【0005】
気泡シールド工法から発生した建設排泥の場合,このような処理を行うには,前
記の気泡を十分に消泡しないと,固化処理排泥が軽石状となって土木・建設資材と
して必要な十分な強度(コーン指数)を示さなくなる。
【0006】
この現象を防ぐ為に多量の固化材を添加すると,コーン指数は高くなるが,塑性
状態となり,粘性が高くなって機器等に付着しやすくなる。加えて貯留槽等ですぐ
に圧密化してしまい,作業性が悪くなる。
【0007】
このため,この排泥は先ず自然放置や消泡剤の添加により,消泡されていた。し
かし,消泡しても,汚泥中にシルトやセルロース系増粘剤を含む場合が多く,該成
分の生成する強固な泥膜は気泡の離脱を妨害する上に脱泡残留物においてもなお流
動性を有する。
【0008】
この問題を解決するために,特公平7-53280号公報には,特定のカチオン
当量を有するカチオン性高分子凝集剤を気泡シールド工法から発生する排泥に混錬
し,流動性を消失させる処理法が提案されている。この際,石灰やセメント等の無
機系固化材を添加混合することもできる旨記載されている。
ウ発明が解決しようとする課題
【0009】
しかしながら,上記従来法においては,排泥の流動性は消失するものの,通常の土
状態に戻るだけなので,固化処理を行っても,固化物が塊状となり,それを運搬す
るには,更に砕く工程を要する等の新たな課題が発生するうえ,得られた固化物を,
例えば,都市等の舗装材料等の建設・土木資材として使用すると,排泥の処理に用
いられた残留カチオン性高分子凝集剤が雨水等によって地下水等に溶出し,環境汚
染を引き起こす可能性があった。
【0010】
本発明は,上記従来の問題点を解決し,気泡シールド工法から発生する建設排泥
の運搬性を改善し,かつ得られた固化物を再利用しても,環境汚染を引き起こす可
能性がない処理方法を提供するものである。
エ課題を解決するための手段
【0011】
本発明は,気泡シールド工法で発生する建設排泥に,カチオン性高分子凝集剤を
添加することなく,アニオン性高分子凝集剤を添加混合し,造粒した後,無機系固
化材を添加混合して固化することを特徴とする気泡シールド工法で発生する建設排
泥の処理方法に関する。
【0012】
本発明においては,無機系固化材としては,カルシウムまたはマグネシウムの酸
化物を含む粉末を使用することが好ましい。固化物を建設・土木資材として使用す
るのであれば,無機系固化材としては,pHが中性域の固化処理排泥が得られるよ
うに,石膏を用いることが好ましい。
オ発明の効果
【0014】
本発明の気泡シールド工法で発生する建設排泥の処理方法によれば,建設排泥を
施工性の優れた十分な強度を有する粒状固化物とすることができ,運搬性が格段に
向上するうえ,かくして得られた該固化物を建設・土木資材として,都市等におけ
る舗装材料や埋立材料等に使用しても,環境を汚染する心配はなく,有効活用する
ことが可能となる。
カ発明を実施するための最良の形態
【0016】
本発明の対象となる建設排泥は,気泡剤を含む気泡シールド工法で発生する建設
排泥である。
【0017】
本発明で用いられるアニオン性高分子凝集剤としては,ポリアクリルアミドの部
分加水分解物,ポリアクリル酸,アクリル酸とアクリルアミドとの共重合体,アク
リルアミドと2-アクリルアミドアルキルスルホン酸の共重合体等の合成高分子凝
集剤が挙げられる。
【0018】
前記アニオン性高分子凝集剤のアニオン化率は3~100モル%程度であり,分
子量は100万以上のものが好ましい。
【0019】
これら合成高分子凝集剤の添加量は,建設汚泥に対して0.005~0.5重量%
程度とする。
【0020】
添加混合方法としては,連続ミキサー,強制攪拌ミキサー等の混錬機やパワーシ
ョベル,バックホウ,スックリューコンベア等の土木機械を用いることができる。
【0021】
本発明の場合,アニオン性高分子凝集剤を使用することで,混合時に粒状となり,
同時に造粒される。
【0022】
建設排泥に前記高分子凝集剤や天然高分子を添加混合して混錬,造粒した後,無
機系固化材を添加する。
【0023】
無機系固化材としては,セメント,生石灰,酸化マグネシウム等のアルカリ金属
の酸化物や石膏等を主成分として含む粉末が挙げられる。
【0024】
特に,都市部等における舗装材料等の建設・土木材料として使用する場合には,
固化処理土のpHが中性に維持されるように石膏,特に半水石膏を使用することが
好ましい。
【0025】
前工程で造粒された建設排泥にこれら無機系固化材を添加,混合する方法として
は,前記バックホウ等の他,2軸式パドルミキサー,ドラムミキサー,ロータリー
ミキサー等を使用することができる。
【0026】
無機系固化材の添加量は,建設汚泥1m3に対して20~200kg程度,好ま
しくは,50~100kg程度とする。添加後,30~60秒後に所定の効果が現
れるが,30分以上放置して十分化学反応を起こさせることが好ましい。
【0027】
本発明の場合,これら建設排泥は造粒状態で固化されるため,貯留槽等に静置し
ても,塊状となることはなく,粒状状態を保った形で固化される。
【0028】
本発明で得られる固化物は,コーン指数として100kN/m2以上,特に石膏を使
用した場合には600kN/m2以上の十分な強度を得ることができる。
【0029】
こうして得られた固化物は十分な強度を有する粒状物となっているため,トラッ
ク等による運搬が極めて容易となり,そのまま埋め立て用資材として使用しても良
いし,また,その後成分を調整し,焼成して煉瓦等の建設用資材として有効活用し
ても良い。
【0030】
本発明においては,気泡シールド工法から発生する建設排泥にアニオン性高分子
凝集剤を添加すると,塑性流動性状態の排泥のコンシステンシーを改質し,気泡の
効果を低減するとともに,造粒作用により,汚泥の自由水を土粒子に取り込み,見
掛け上の含水比を低下させる。その結果,排泥を固化に適した状態に改質し,かつ,
無機系固化材の添加量を低減する。
【0031】
無機系固化材は,造粒された排泥の自由水の一部と化学的に反応し,排泥を固化
する。
【0032】
こうして生成された粒状固化物は十分な強度を有する粒状体となっているため,
運搬性に優れており,そのまま埋立用資材として使用することができるし,また,
該固化物に,必要に応じて粘土鉱物やアルカリ金属酸化物等を添加,成形後,焼成
して煉瓦等の舗装材料として使用することもできる。
【0033】
特に,無機系固化材として,石膏を使用すると,固化処理土のpHが中性に維持
されるので,環境汚染の心配がなくなり,埋立や舗装材料等,再利用先の用途が広
がる。
キ産業上の利用可能性
【0042】
本発明は,気泡シールド工法で発生する建設排泥に,アニオン性高分子凝集剤ま
たは天然高分子を添加混合し,造粒した後,無機系固化材を添加混合して固化する
ようにしたので,固化物を埋立や都市等における舗装材料等の建設・土木資材とし
て再利用しても,十分な強度を有し,かつ,汚染物質が溶出して地下水汚染を引き
起こす心配もない。
(2)前記(1)によると,本件発明について,次のとおり認めることができる。
ア本件発明は,気泡シールド工法で発生する建設排泥の処理方法に関する
(【0001】)。
イ気泡シールド工法から発生した建設排泥は,気泡を十分に消泡しないと,
固化処理排泥が軽石状となって土木・建設資材として必要な十分な強度(コーン指
数)を示さなくなる。そして,この現象を防ぐために多量の固化材を添加すると,
コーン指数は高くなるが塑性状態となり,粘性が高くなって機器等に付着しやすく
なる。加えて貯留槽等ですぐに圧密化してしまい,作業性が悪くなる。このため,
この排泥は,まず自然放置や消泡剤の添加により消泡されていた。しかし,消泡し
ても,汚泥中にシルトやセルロース系増粘剤を含む場合が多く,この成分の生成す
る強固な泥膜は,気泡の離脱を妨害する上,脱泡残留物においてもなお流動性を有
する。従来,このような問題を解決するために,特定のカチオン当量を有するカチ
オン性高分子凝集剤を気泡シールド工法から発生する排泥に混錬し,流動性を消失
させる処理法が提案されていた。(【0004】~【0008】)
しかし,上記のような従来の処理法においては,排泥の流動性は消失するものの,
通常の土状態に戻るだけなので,固化処理を行っても固化物が塊状となり,それを
運搬するには,更に砕く工程を要する等の新たな課題が発生する上,得られた固化
物を,都市等の舗装材料等の建設・土木資材として使用すると,排泥の処理に用い
られた残留カチオン性高分子凝集剤が雨水等によって地下水等に溶出し,環境汚染
を引き起こす可能性があった(【0009】)。
このような問題を解決するために,本件発明は,気泡シールド工法から発生する
建設排泥の運搬性を改善し,かつ,得られた固化物を再利用しても,環境汚染を引
き起こす可能性がない処理方法を提供することを目的とする(【0010】)。
ウ上記目的を達成するために,本件発明は,気泡シールド工法で発生する
建設排泥に,カチオン性高分子凝集剤を添加することなく,アニオン性高分子凝集
剤を添加混合し,造粒した後,無機系固化材を添加混合して固化することを特徴と
し,また,無機系固化材としては,好ましくは,カルシウム又はマグネシウムの酸
化物を含む粉末を使用すること,また,固化物を建設・土木資材として使用するの
であれば,無機系固化材としては,好ましくは,pHが中性域の固化処理排泥が得
られるように,石膏を用いることを特徴とする(【0011】,【0012】)。
エこれにより,本件発明は,建設排泥を施工性の優れた十分な強度を有す
る粒状固化物とすることができ,運搬性が格段に向上するうえ,かくして得られた
この固化物を建設・土木資材として,都市等における舗装材料や埋立材料等に使用
しても,環境を汚染する心配はなく,有効活用することが可能となった(【0014】)。
2本件発明1の容易想到性について
(1)甲1発明について
ア甲1には,以下の記載がある。
(ア)産業上の利用分野
「本発明は土木工事において気泡を注入しながら掘削する気泡シールド工法や気泡
試錐工法より発生する気泡混入掘削ずりの処理法に関する。」(1欄11行~14行)
(イ)従来の技術と問題点
「従来,シールド工法等においてはベントナイト泥を使用し,残土処分が困難であ
った。これを解決する為,ベントナイトに替えて気泡を混入する事により掘削土の
流動性と止水性を確保する気泡シールド工法が提案されている。該気泡混入工法の
一般的操作条件は,発泡剤水溶液あたり3~30倍の発泡倍率の泡を掘削土の体積あ
たり10~100%容量添加混練するものであり,この様にして得られた気泡混入掘削
ずりのスランプ値は3~10cm程度を示す事が多い。気泡シールド工法以外にボーリ
ング等においてもビット部の冷却と掘削ずりの搬出を目的として孔内に泡を注入す
る工法も知られている。
これら気泡混入工法から発生する掘削ずりの処理方法として特公昭58-47560号公
報には自然報知〔判決注・「報知」は「放置」の誤記と認める。〕による消泡が記載
され,特公昭59-49999号公報には消泡材の添加による消泡処理が記載されている。
しかし,気泡混入掘削ずり中にはシルト・粘土分やセルロース系増粘剤を含む場合
が多く,該成分の生成する強固な泥膜は気泡の離脱を妨害するとともに,脱泡残留
物においてもなお流動性を付与する。この為,単なる消泡処理では未だ十分な対処
法とは言えない。一方特願昭63-259367,特願平1-13205及び特願平1-13206
には発泡剤を含まぬシールド工法掘削残土に対し高分子凝集剤を添加混練する技術
が記載されている。」(1欄15行~3欄8行)
(ウ)発明の課題
「本発明は,短時間で気泡混入掘削ずりを固化し,運搬を容易にし埋土として使用
可能な改質土を得る事ができる。簡便な処理方法を提供する事を目的とする。
また,本発明は気泡混入掘削ずりを改質固化するにあたり,都市部の狭い敷地から
なる施工現場においても,保管,供給,混合等が容易な薬品及び薬注法を提供する
事を目的とする。」(3欄9行~16行)
(エ)課題を解決する為の手段
「本発明は気泡混入掘削ずりに,カチオン当量値が2meq/g以上であるカチオン性
有機高分子凝集剤を添加混練する事により構成される。
本発明に用いるカチオン性有機高分子凝集剤は公知のものであって,具体的にはエ
ピハロヒドリン,アルキレンジハライド,アルキレン多価エポキサイド等を連結剤
としてアミンまたはアンモニアを縮合させた反応物(特公昭38-26794,特公昭41
-17965,特公昭51-22471,特公昭56-37844等)又はホルムアルデヒドを連結剤
としてジシアンジアミド,メラミン,グアニジン等の縮合反応物あるいはポリエチ
レンイミン,ポリジメチルジアリルアンモニウムクロライド,ジアルキルアミノア
ルキルメタアクリレートあるいはジアルキルアミノアルキルアクリルアミドの塩及
び又はその四級化物の(共)重合対等を例示する事ができる。
本発明に用いるカチオン性有機高分子凝集剤は,電荷の中和を主たる作用機作とす
る為,そのカチオン当量値の高い事が望まれ,少なくとも2meq/g以上のカチオ当
量値〔判決注・「カチオ当量値」は「カチオン当量値」の誤記と認める。〕を有する
ものが良好な効果を発揮する。カチオン当量値の測定方法は通常PH4.0におけるコ
ロイド滴定により求められる。本発明の実施においては,カチオン性有機高分子凝
集剤の架橋吸着作用も効果に寄与するため,カチオン当量値が同等であれば,高分
子量の凝集剤の法〔判決注・「法」は「方」の誤記と認める。〕が少ない添加量で効
果を発揮する。気泡混入掘削ずりとカチオン製有機高分子凝集剤〔判決注・「カチオ
ン製」は「カチオン性」の誤記と認める。〕の混練法は特に限定されるものではなく,
連続ミキサー,強制撹拌ミキサー等の混練機を使用する他,パワーショベル,バッ
クホウ,スクリューコンベア等の土木機械を用いて混練する事もできる。特にシー
ルド機のスクリューコンベア部に注入する工法は,既設の装置を利用する為,新規
の処理用敷地等を必要とせず都市部における実施は容易となる。
気泡混入掘削ずりと混練するカチオン性有機高分子凝集剤の添加量は気泡混入掘削
ずり1m3
に対し,ポリマー純分0.01~1kgを使用する。該高分子凝集剤を粉末状態
で添加した場合はママ粉を生じ易く,高性能の撹拌混練装置を必要とする。気泡混
入掘削ずりと簡易に混練する為には該高分子凝集剤を粘度10,000cp以下の定粘度
液の状態で添加する事が望ましい。液状化する方法としては水に溶解し,濃度0.5
~50%程度の凝集剤水溶液として添加する方法が最も安価である。しかし,高含水
比のずりを処理する場合等水分増加を忌避する場合はポリマー微粒子を油または塩
水溶液注に分散させて液状化した高分子凝集剤が望ましい。また,本発明における
カチオン性有機高分子凝集剤の使用法は単独添加に限定されるものではなく,硫酸
アルミニウム,ポリ塩化アルミニウム等の無機凝集剤との併用添加あるいはカチオ
ン性有機高分子凝集剤添加混練後に高級水性樹脂〔判決注・「高級水性」は「高吸水
性」の誤記と認める。〕,アニオン系有機高分子凝集剤あるいは石灰やセメント等の
無機系固化剤を添加混練する事もできる。」(3欄17行~4欄16行)
(オ)作用
「本発明は,カチオン性有機高分子凝集剤を気泡混入掘削ずりに添加混練する事に
より,粘度粒子〔判決注・「粘度」は「粘土」の誤記と認める。〕等の負電荷を中和
し,凝集させ流動性を除去する事を基本とする。
気泡周囲の泥膜が(電荷の中和により親水性を失い,凝集する事によって)破れる
と,気泡は混練によって容易に集合し,ずりから放出される。気泡を失い,凝集し
た改質土は流動性が無く,運搬や埋土が容易となる。
この様な作用は泥中にCMC等のアニオン性増粘剤が存在する場合でも有効であり,
カチオン性有機高分子凝集剤はこれらアニオン性高分子とイオコンプレックス〔判
決注・「イオコンプレックス」は「イオンコンプレックス」の誤記と認める。〕をつ
くり,水不溶性とする事により,増粘作用を消失させる。この様な効果は従来の消
泡剤には全く期待する事のできないものであり,本発明の優位性を立証するもので
ある。」(4欄17行~31行)
イ前記アの記載によると,甲1に記載されている発明について,次のとお
り認めることができる。
(ア)甲1に記載されている発明は,気泡シールド工法より発生する気泡混
入掘削ずりの処理法に関する(前記ア(ア))。
(イ)従来,シールド工法等においてはベントナイト泥を使用し,残土処分
が困難であった。これを解決するため,ベントナイトに替えて気泡を混入すること
により掘削土の流動性と止水性を確保する気泡シールド工法が提案されている。し
かし,気泡混入工法から発生する掘削ずりの処理をするに際し,気泡混入掘削ずり
中にはシルト・粘土分やセルロース系増粘剤を含む場合が多く,この成分の生成す
る強固な泥膜は気泡の離脱を妨害するとともに,脱泡残留物においてもなお流動性
を付与する。このため,単なる消泡処理ではいまだ十分な対処法とはいえない。(前
記ア(イ))
(ウ)甲1に記載されている発明は,短時間で気泡混入掘削ずりを固化し,
運搬を容易にし埋土として使用可能な改質土を得ることができる簡便な処理方法を
提供することを目的とし,また,気泡混入掘削ずりを改質固化するに当たり,都市
部の狭い敷地からなる施工現場においても,保管,供給,混合等が容易な薬品及び
薬注法を提供することを目的とする(前記ア(ウ))。
(エ)上記目的を達成するため,甲1に記載されている発明は,気泡混入掘
削ずりに,カチオン当量値が2meq/g以上であるカチオン性有機高分子凝集剤を添
加混練することにより構成した。また,カチオン性有機高分子凝集剤の使用法は単
独添加に限定されるものではなく,硫酸アルミニウム,ポリ塩化アルミニウム等の
無機凝集剤との併用添加あるいはカチオン性有機高分子凝集剤添加混練後に高吸水
性樹脂,アニオン系有機高分子凝集剤あるいは石灰やセメント等の無機系固化剤を
添加混練することにより構成した。(前記ア(エ))
(オ)甲1に記載されている発明は,カチオン性有機高分子凝集剤を気泡混
入掘削ずりに添加混練することにより,粘土粒子等の負電荷を中和し,凝集させ流
動性を除去することができる。気泡周囲の泥膜が,電荷の中和により親水性を失い,
凝集することによって破れると,気泡は混練によって容易に集合し,ずりから放出
される。そのため,気泡を失い,凝集した改質土は流動性が無く,運搬や埋土が容
易となる。(前記ア(オ))
ウ前記ア,イによると,甲1には,以下の発明が記載されていると認めら
れる(以下,当裁判所認定の甲1に記載されている発明を「甲1J発明」という。)。
「気泡シールド工法より発生する気泡混入掘削ずりに,カチオン性有機高分子凝集
剤を添加混練し,カチオン性有機高分子凝集剤添加混練後にアニオン系有機高分子
凝集剤あるいは石灰やセメント等の無機系固化剤を添加混練する,気泡シールド工
法より発生する気泡混入掘削ずりの処理法。」
(2)本件発明1と甲1J発明との相違点
本件発明1と甲1J発明とを対比すると,下記アの点で一致し,下記イの点で相
違する。
ア一致点
「気泡シールド工法で発生する建設排泥に,高分子凝集剤を添加混合した後,無機
系固化剤を添加混合して固化する気泡シールド工法で発生する建設排泥の処理方
法。」
イ相違点(以下,当裁判所認定の相違点を「相違点J」ともいう。)
本件発明1では,建設排泥に添加混合する高分子凝集剤として,カチオン性高分
子凝集剤を用いずに,アニオン性高分子凝集剤を用い,高分子凝集剤を添加混合し
た建設排泥を造粒するのに対して,甲1J発明では,建設排泥に添加混合する高分
子凝集剤として,カチオン性高分子凝集剤を用い,カチオン性高分子凝集剤を添加
混合後に,アニオン系有機高分子凝集剤又は無機系固化剤を添加混合するが,高分
子凝集剤を添加混合した建設排泥を造粒するか否か明らかでない点。
(3)相違点Jの容易想到性
ア甲2発明について
(ア)甲2には,以下の記載がある。
a産業上の利用分野
【0001】
・・・この発明は泥土圧シールド工法に関するものであり,さらに詳しくは回転式
カッタを備えたメカニカルシールド機により土砂層を掘削し,掘削した土砂を凝集
状態の泥土にして排出移送する泥土圧シールド工法に関するものである。
b従来の技術
【0004】ところで,泥土加圧シールド工法においては,泥土圧シールド機のカ
ッタで掘削した掘削土砂に適当な添加剤即ち作泥土剤を加えて搬出に好ましい状態
の泥土を作り,該泥土に流動性を付与して坑外へ排出するものであり,特に,掘削
土砂には流動性,止水性,残土処理性等が要求される。上記泥土圧シールド工法を
達成する泥土加圧シールド機については,切羽即ちカッタを前面に設けた隔壁の後
方にチャンバを形成し,該チャンバ内にカッタで掘削した掘削土砂と作泥土剤を混
練する攪拌翼が設けられている。掘削した土砂はチャンバ内で作泥土剤と混練され
て泥土となり,チャンバとスクリューコンベヤ内に充填されるが,この充填泥土は
シールドジャッキの作動で発生する推力によってチャンバ内の泥土に泥土圧を発生
させ,該泥土圧をカッタに作用する土砂圧及び水圧に対抗させ,シールド機の掘進
と排土を行っている。
【0005】しかしながら,泥土圧シールド機に使用される上記の各種作泥土剤で
処理した泥土は,流動性の点で十分でなく,例えば,チャンバ内のスクリューコン
ベヤによる搬出,次いでベルトコンベヤに載せて搬出する場合に,チャンバ内の泥
土をスクリューコンベヤ内へ充填し難く,スクリューコンベヤでベルトコンベヤへ
良好な移送ができず,また,泥土をベルトコンベヤ上に良好に載置できず,泥土の
坑外への搬出が良好に行われないという問題がある。或いは,坑外へ搬出した残土
の処理性に欠け,掘削土砂を産業廃棄物として処理する必要があった。また,これ
ら上記の作泥土剤で処理した泥土は,止水効果も十分でなく,透水性の高い砂層,
細砂層,砂礫層等の地層の地盤においては,スクリューコンベヤ部から地下水が坑
内へ噴出するトラブルが発生し易い欠点があった。
【0006】これらの問題を解決するため,分子量100万以上のアクリル系水溶
性高分子をシルト粘土泥水に多量添加して分散状態とした泥漿剤を調整し,該泥漿
剤を添加剤として透水性の高い砂層,細砂層,砂礫層等の土砂に混練することによ
って,該土砂を適度な流動性を有する凝集状態の泥土にして,生成した泥土を前記
チャンバー外へ排出移送する泥土圧シールド工法が提案されている(特開平3-1
31400号公報)。しかし,上記の工法は工程が煩雑で不経済であるという問題が
ある。
c発明が解決しようとする課題
【0007】
・・・この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,透水係数が100
~1
0-3
cm/secの高透水性地層であっても,該土砂を凝集させて泥土とし,該泥
土を容易に取り扱えるようにすることができる凝集剤を泥土圧シールド機のチャン
バ内などへ注入し,カッタで掘削したチャンバ内の掘削土砂と混練して搬出に良好
な流動性を確保し,スクリューコンベヤでベルトコンベヤへスムースに移送でき,
更に泥土をベルトコンベヤ上に多量に載置でき,それによって泥土の坑外への搬出
が効率良く且つ大量に搬出でき,しかも,この凝集剤が植物の生育阻害物質や有害
物質を含んでおらず,且つ生成された泥土が通気性,保水性を有することにより,
残土処理性を良好にし,例えば,園芸用土壌等に利用できることを特徴とする泥土
圧シールド工法を提供することである。
d課題を解決するための手段
【0008】
・・・本発明者らは,上記問題に鑑み鋭意研究した結果,ある種のアクリル系有機
高分子凝集剤分散液を使用することにより上記課題を解決することができることを
見いだし本発明を成すに到った。本発明の請求項1の発明は,地層を掘削するにあ
たり切羽を前面に設けた隔壁の後方に形成したチャンバーまたは掘削土排出装置内
にアクリル系有機高分子凝集剤分散液を注入し,生成した掘削土を前記チャンバー
外へ排出移送することを特徴とする泥土圧シールド工法である。本発明の請求項2
の発明は,分子量が100万以上であり,かつアニオン化率5~50モル%のアク
リルアミド系有機高分子凝集剤分散液を使用することを特徴とする請求項1に記載
の泥土圧シールド工法である。本発明の請求項3の発明は,JISA1218(土
の透水試験方法)による透水係数が100
~10-3
cm/secの地層を掘削するこ
とを特徴とする請求項1に記載の泥土圧シールド工法である。
e作用
【0009】
・・・掘削する地層中に含まれる粘土が微量であり,その地層の透水係数が約100
~10-3
cm/secであると,掘削土の流動性が高くスクリュウコンベアから噴
出する。アクリル系有機高分子凝集剤分散液(以下,凝集剤と略す)を添加剤とし
て上記地層から掘削した含水土砂に混合することによって,該土砂は適度な流動性
を有する凝集状態の泥土に生成される。即ち,上記凝集剤は該土砂との凝集物であ
る泥土を形成し,該泥土が適度な流動性,止水性,残土処理性を有するようになる。
上記凝集作用は,セルロース誘導体の如き分散剤では期待できないものであり,ア
クリル系有機高分子凝集剤に特有の性質である。また,凝集剤は安定であるので該
土砂との混練場所へ圧送する注入配管等で閉塞等は発生することがない。この発明
による泥土圧シールド工法は,アクリル系有機高分子凝集剤を泥土圧シールド機の
チャンバ(スクリューコンベヤ等のハウジングを含む)内に注入したので,該掘削
土砂は適度な流動性を有する凝集状態の泥土に生成される。それ故に,この泥土圧
シールド機のカッタによって掘削された切羽面の掘削土砂に対する安定保持が得ら
れると共に,掘削土砂が凝集状態の泥土を形成するので,スクリューコンベヤによ
るスムースな排出が行われ,残土の取り扱いが容易となる。
f実施例
【0010】
・・・以下,この発明による泥土圧シールド工法について説明する。まず,この発
明による泥土圧シールド工法を達成できる泥土圧シールド機の一例を図1及び図2
に示す。図1はこの発明による泥土圧シールド工法を適用する泥土圧シールド機の
設備の一例を示す概略説明図,及び図2は図1の泥土圧シールド機の要部の拡大図
である。この泥土圧シールド機1は,一種の密閉型シールド機,開放型シールド機
等を含むものであり,掘削土砂に不透水性を与えると共に流動性を与えるために作
泥土材としてアクリル系有機高分子凝集剤を注入する工法を適用するものであり,
モーター16により駆動される切羽即ちカッタ15を前面に設けた隔壁11の後方
にチャンバ2を形成してい〔判決注・「してい」は「している」の誤記と認める。〕。
該チャンバ2内には,カッタ15で掘削した掘削土砂と該凝集剤を混練する攪拌翼
14,該混練物即ち泥土をチャンバ2外へ送り出すモーター17により駆動される
スクリューコンベヤ13等を備えている。
【0011】この泥土圧シールド機1については,チャンバ2内の掘削土砂は,加
圧手段で積極的に加圧される場合,土砂自体の土圧或いは掘削された土砂によって
土圧がかかる場合がある。チャンバ2には,該凝集剤を注入するため凝集剤注入口
12が設けられている。この凝集剤は,凝集剤分散液貯槽6から凝集剤圧送ポンプ
19によって凝集剤フロー9を経て坑外に設けた注入ポンプ10に送り込まれる。
更に,注入ポンプ10に送り込まれた凝集剤は,凝集剤フロー9を経て調節バルブ
20で注入量を調節されて凝集剤注入口12からチャンバ2内へ注入される。必要
があれば,水注入配管7から水を混合し水溶液状態として注入することもできる。
一方,カッタ15で掘削した掘削土砂は,チャンバ2内に注入された凝集剤と攪拌
翼14によって混合され,チャンバ2から排出に好ましい状態,即ち,適度な流動
性,不透水性即ち止水性,残土処理性に好ましい泥土に作られる。凝集剤と掘削土
の混練はスクリュウコンベアなどのハウジング内の任意の場所で行うことができる。
【図2】
(イ)前記(ア)の記載によると,甲2には,審決認定のとおり,以下の甲2発
明が記載されていると認められる。
「アニオン化率5~50モル%のアクリル系有機高分子凝集剤分散液を添加剤とし
て,泥土圧シールド機のスクリューコンベヤのハウジング内に注入し,地層から掘
削した含水土砂に混合することによって,該土砂を適度な流動性を有する凝集状態
の泥土に生成する,泥土圧シールド工法。」
なお,原告は,「造粒」の点を含めて甲2発明を認定すべきである旨主張するが,
後記オのとおり,この点について判断するまでもなく,審決に違法がないと判断す
ることができるものである。
イ甲3発明について
(ア)甲3には,以下の記載がある。
a発明の属する技術分野
【0001】
・・・本発明は,推進工事,シールド工事,基礎工事,浚渫工事のような建設工事
等で発生する泥土を固化材と混合して固化する泥土固化処理装置に関する。
b従来の技術
【0003】・・・建設工事等で発生する泥土のリサイクルの必要性が高まっている。
こうした要請から,これまで利用価値のなかった泥土について,施工業者自らが泥
土の発生現場で固化材を混合して改質処理を施すことにより,これを強度の高い一
般建設残土と同等の土砂に改質して利用価値を創出し,改質処理現場から再利用先
へと直接搬送して,路盤材,埋め戻し土,宅地造成土,土手の盛土等の種々の用途
に再利用する技術の開発が進められている。
【0004】その技術の開発の一つとして,泥土を粒状化するように処理するため
の泥土造粒処理装置の開発が試みられている。こうした泥土の造粒処理を行うと,
造粒処理により生成し粒状泥土生成物を路床材として再利用することができる。ま
た,その場合,粒状泥土生成物の強度を高めると路盤材としても再利用することが
できる等,処理した泥土の付加価値を高めることができ,更にはその用途を拡大す
ることができる。
c発明が解決しようとする課題
【0005】
・・・しかしながら,これまで開発された泥土造粒処理装置は,泥土をバッチ方式
で処理するため,処理する泥土の量が多いと,その泥土の造粒処理に多大の時間を
要し,泥土の発生現場で泥土を大量に造粒処理するには不向きであった。特に,建
設工事で発生する泥土は,膨大な量に及ぶため,迅速に大量処理することが必要で
あるが,泥土をバッチ方式で処理する従来の泥土造粒処理装置では,こうした要求
に応えることができない。
【0006】本発明は,こうした従来の技術の問題点を解消してよう〔判決注・「し
てよう」は「しよう」の誤記と認める。〕とするものであって,その技術課題は,泥
土を大量に造粒処理するのに適した泥土固化処理装置を提供することにある。
d課題を解決するための手段
【0007】
・・・本発明は,こうした技術課題を達成するため,多数の独立した撹拌羽根を回
転軸に対して傾斜させて固着した撹拌機を,泥土を凝集材と共に撹拌羽根で巻き込
んで剪断破砕しながら凝集材と撹拌混合し得るように複数個並設して多軸撹拌機を
構成し,この多軸撹拌機の後端側及び前端側にそれぞれ泥土供給口及び泥土排出口
を設け,泥土供給口の前方から泥土排出口の後方へ向けて,吸水材を多軸撹拌機内
に供給するための吸水材供給手段と,凝集材を多軸撹拌機内に供給するための少な
くとも一つの凝集材供給手段とを順次設けて,泥土供給口から供給された泥土を多
軸撹拌機により粒状化するように処理して泥土排出口へ排出できるように泥土造粒
処理装置を構成した。
【0008】このように構成された本発明の泥土造粒処理装置にあっては,造粒処
理しようとする泥土が含水比の著しく高い泥土でない場合,多軸撹拌機を回転駆動
して,泥土及び凝集材を,それぞれ泥土供給口及び凝集材供給手段を通じて多軸撹
拌機内に供給する。そうすると,多軸撹拌機は,泥土を凝集材と共に撹拌羽根に巻
き込んで,剪断破砕して細分化しながら泥土排出口側へ搬送する。このとき,泥土
を撹拌羽根により剪断破砕して細分化することに加えて,撹拌羽根による泥土の剪
断破砕及び搬送の双方の動作に伴って泥土を積極的に撹拌するため,凝集材に対す
る泥土の触れ合い回数を飛躍的に高めることができて,凝集材を泥土に均一に混合
させることができる。そのため,泥土は,泥土排出口へ排出されるときには確実に
凝集され,凝集された無数の土粒子間に自由水を満遍なく抱合して,粒状化した状
態に処理され,泥土排出口へ排出される。
【0009】また,造粒処理しようとする泥土が含水比の著しく高い場合は,こう
した造粒処理を行う際に吸水材を吸水材供給手段により多軸撹拌機内に供給する。
そうすると,多軸撹拌機は,前記したメカニズムと同様のメカニズムにより泥土を
積極的に撹拌するため,吸水材に対する泥土の触れ合い回数を飛躍的に高めること
ができて,凝集材と同様,吸水材を泥土に均一に混合させることができ,泥土中の
自由水を吸水材で効果的に吸水することができる。そのため,凝集材で凝集させる
ことが困難な含水比の著しく高い泥土であっても,泥土は,泥土排出口へ排出され
るときには確実に凝集され,凝集された無数の土粒子間に自由水を満遍なく抱合し
て,粒状化した状態に処理することができる。そして,以上述べた泥土の造粒処理
は,多軸撹拌機により連続的に行うことができてるため,本発明の泥土造粒処理装
置によれば,泥土を大量に造粒処理することが可能になる。
e発明の実施の形態
【0011】符号50で表す泥土造粒処理装置は,第1の具体化例では,後に詳述
する多軸撹拌機70と,この多軸撹拌機70上に後方から前方に向けて順次配列さ
れた,後に詳述する吸水材供給手段51,第1の凝集材供給手段54,第2の凝集
材供給手段57及び固化材供給手段60とを設けて構成され,支持フレーム80上
に設置されている。なお,本明細書では,泥土を投入する側を「後方」とし,固化
処理した泥土を排出する側を「前方」として技術内容を記載する。
【0018】第1の凝集材供給手段54は,第1の凝集材投入ホッパ54aと第1
の凝集材切り出し装置55とで構成され,第2の凝集材供給手段57は,第2の凝
集材投入ホッパ57aと第2の凝集材切り出し装置58とで構成される。ここに示
す例では,凝集材投入ホッパ54a,57aに固体状の凝集材B,Cを投入し,凝
集材切り出し装置55,58を通じて多軸撹拌機70内に凝集材を供給するように
しているが,凝集材B,Cについては,水に混合した溶液状のものを多軸撹拌機7
0内に定量供給するようにしてもよく,多軸撹拌機70への凝集材の供給手段は適
宜選択することができる。凝集材切り出し装置55,58は,切り出し羽根55a,
58aやケーシング及びロータを備えていて吸水材切り出し装置52と同様の構造
を有し,吸水材切り出し装置52と同様の動作をする。これらの凝集材切り出し装
置55,58は,使用する凝集材の種類及び泥土の含水比や土質等に応じて適切な
量の凝集材を定量供給し,これにより,泥土に対する凝集材の混合比率を常に適切
な値に保持できるようにするものである。
【0019】凝集材供給手段54,57で多軸撹拌機70内に供給される凝集材B,
Cは,処理対象となる泥土を凝集して泥土を造粒処理,すなわち粒状化するように
処理する働きをする。主たる凝集材Bは,泥土を凝集する際に不可欠のものとして
常に使用する。補助の凝集材Cは,この主たる凝集材Bを補完する働きをし,必要
に応じて使用する。泥土造粒処理装置の本質的な機能である泥土の造粒処理は,専
らこれらの凝集材B,Cにより実現することができる。泥土の含水比が約150%
以下と著しくは高くない場合,主たる凝集材Bを,必要に応じて補助の凝集材Cと
共に泥土に添加して撹拌混合すると,泥土を凝集して団粒化させることができる。
その場合,主たる凝集材Bでも,泥土への添加量は,0.1~0.2%前後とごく
微量で足りる。なお,凝集材については,後に詳述する。
【0022】こうした固化材を泥土に添加して混合すると,固化材内の生石灰によ
り消化吸収反応(水和反応)と発熱反応が生じて,泥土中の水分を生石灰中に吸収
し熱で蒸発させて泥土の含水比を低下させる。こうして含水比を低下させた土砂は,
単に脱水処理されるだけではなく,生石灰中のカルシウムイオンによる土砂の凝集
化作用やポゾラン反応と,この反応に関与しなかった残余の生石灰による炭酸化反
応とにより,強度が上昇して固化するとともに,水が浸入するころで再利用しても,
再汚泥化することがないように改質される。
【0023】多軸撹拌機70内への固化材の供給は,こうした反応を利用すること
により粒状泥土生成物の強度を高めることを主目的として行うものであり,必要に
応じて行う。例えば,粒状泥土生成物を,強度が要求される道路表面の路盤材や路
床材に使用するときには,強度の向上のために固化材を添加することとし,強度の
要求されない植栽土として使用するときには,必ずしも固化材を添加する必要はな
い。また,アルカリ性を嫌う用途に使用するときには,固化材を添加しないように
する。このように固化材を添加するか否かやその分量は,発注者が要求する粒状泥
土生成物の品質やその使用目的に応じて選択される。
【0024】ここで,多軸撹拌機70に供給する凝集材について言及する。凝集材
は,泥土中の土粒子を集合させることを容易に行えるようにするのに役立つ薬剤で
ある。この凝集材は,無機系凝集材と有機高分子凝集材とに大別することができる。
このうち無機系凝集材の代表的なものとしては,硫酸第二鉄,塩化第二鉄,硫酸ア
ルミニウム(硫酸バンド),ポリ塩化第二鉄(PFC),ポリ塩化アルミニウム(P
AC)等の鉄又はアルミニウム化合物を挙げることができる。この無機系凝集材は,
主として,凝集助剤や凝結助剤として有機高分子凝集材と併用する。
【0025】有機高分子凝集材としては,主として合成高分子凝集材を使用し,こ
の合成高分子凝集材は,ノニオン性,アニオン性,カチオン性のものに分けること
ができる。このうちノニオン性のものは,分子内に解離基をほとんどもたない水溶
性の高分子であり,アミド基,水酸基,エーテル基等を親水基としてもつ。アニオ
ン性のものは,水中で負の電荷をもつ水溶性の高分子であり,解離基としてカルボ
キシル基やスルホン基等をもつ。カチオン性のものは,分子内にアミノ基をもち,
そのアミノ基の解離によって水中で正の電荷を高分子に与える。ノニオン性及びア
ニオン性の合成高分子凝集材は,通常,高分子量のものほど凝集力が大きい。ノニ
オン性及びアニオン性の合成高分子凝集材の代表的なものとしては,ポリアクリル
アミド及びその加水分解物を挙げることができる。カチオン性の合成高分子凝集材
の代表的なものとしては,ポリアミノアルキル(メタ)アクリレートを挙げること
ができる。
【0026】凝集材は,泥土に適切に混合すると,泥土中の土粒子を集合させて,
土粒子間の自由水を,集合した土粒子間に包み込むように抱合する。そのため,泥
土の含水比が著しく高くない限り,土粒子は,表面側が湿り気の少ない見掛け上乾
燥した状態になって集合して,粘り気のない状態の泥土の粒状体が生成される。
【0027】一般に,土粒子は,その外側を包囲する固定層と,更に外側を包囲し
て水素イオン濃度の高い拡散層(対イオン部)とからなる電気二重層をもつ。こう
した電気二重層をもつた二つの土粒子が接近して双方の拡散層同士が重なると,重
なり合った拡散層のイオン濃度が上昇し,これに起因して,土粒子が互いに反発し
合って土粒子の集合を阻害する。そのため,多数の各土粒子は,分散して泥土状を
なす。端的にいえば,泥土は,多数の微細土粒子とその土粒子間の自由水からなる
が,一般に土粒子の表面は,マイナス帯電しているため,各土粒子は,互いに反発
し合って安定した分散状態を保ち,その結果,固まらずにドロドロした泥土の状態
を保っている。したがって,泥土中の土粒子の集合を容易に行えるようにするには,
その集合の阻害要因となっている電気二重層の総電荷の抑制や電気二重層の圧縮
(電気二重層を薄くすること)を行えばよく,こうした電気二重層の総電荷の抑制
や圧縮によって泥土を凝集させることができる。
【0028】このうち電気二重層の総電荷の抑制を行うには,その総電荷の量をで
きるだけ減らすように電荷を中和するのが有効であるが,こうした働きをする凝集
材は,アニオン性,カチオン性の合成高分子凝集材や無機系凝集材の中から選択す
ることができる。また,電気二重層の圧縮に役立つ凝集材は,無機系凝集材の中か
ら選択することができる。さらに,凝集機構には,以上の凝集機構とは原理の異な
る架橋凝縮がある。この架橋凝縮は,高分子の官能基による土粒子への吸着架橋(イ
オン結合,水素結合)により土粒子を集合させるものであり,電気二重層の総電荷
の抑制や圧縮による凝集を遥かに凌ぐ凝集力を発揮する。この架橋凝縮を行わせる
ための凝集材は,ノニオン性,アニオン性,カチオン性の凝集材の中から適当なも
のを選択する。
【0029】以上述べた凝集材は,主たる凝集材,補助の凝集材の何れに使用する
かの凝集材の使用目的,更には,泥土が有機質か無機質かの泥土の種類,泥土が粘
度〔判決注・「粘度」は「粘土」の誤記と認める。〕,シルト,コロイド等の何れに該
当するかの泥土の土粒子径,泥土の含水比等の泥土の性状に応じて適宜選択して使
用する。例えば,通常の泥土は,アニオン性又はノニオン性の凝集材で凝集するこ
とが可能であるが,建設工事で発生する泥土の中には,工事中にベントナイトが添
加されたものもあり,こうした泥土は,アニオン性又はノニオン性の凝集材だけで
は,凝集させることができないので,主たる凝集材Bとしてアニオン性又はノニオ
ン性のものを使用するほか,補助の凝集材Cとしてカチオン性のものを添加するこ
とにより,泥土を凝集させる。また,高分子凝集材の性能は,PHへの依存性が大
きいので,泥土が酸性の場合はカチオン性やノニオン性のものを,アルカリ性の場
合はアニオン性やノニオン性のものを,中性の場合はノニオン性もの〔判決注・「も
の」は「のもの」の誤記と認める。〕を使用することも考える。
【図1】
(イ)前記(ア)の記載によると,甲3には,審決認定のとおり,以下の甲3発
明が記載されていると認められる。
「シールド工事で発生する泥土を,アニオン性,カチオン性の合成高分子凝集剤や
無機系凝集剤の中から選択することができる凝集剤と撹拌混合し,粒状化するよう
に処理する泥土造粒処理装置。」
ウ甲1J発明と甲2発明又は甲3発明の組合せの動機付けについて
(ア)甲1J発明は,前記2(1)イのとおり,短時間で気泡混入掘削ずりを固
化し,運搬を容易にし埋土として,使用可能な改質土を得ることができる簡便な処
理方法を提供することを目的としたものであり,カチオン性有機高分子凝集剤を気
泡混入掘削ずりに添加混練することにより,粘土粒子等の負電荷を中和し,凝集さ
せ流動性を除去することができるようにしたものであり,気泡周囲の泥膜が,電荷
の中和により親水性を失い,凝集することによって破れて,気泡は混練によって容
易に集合し,ずりから放出されるようにしたものである。
そうすると,甲1J発明において,甲1に開示される課題を解決するために,「カ
チオン性有機高分子凝集剤を気泡混入掘削ずりに添加混練すること」は,必須の事
項であるといえる。したがって,甲1J発明において,「カチオン性有機高分子凝集
剤」を添加しないという構成にすることは,通常,当業者が容易に想到し得ること
ではない。
(イ)甲2には,前記ア(イ)のとおりの甲2発明が,また,甲3には,前記イ
(イ)のとおりの甲3発明が記載されていると認められるが,いずれも,シールド工法
による排泥は「気泡シールド工法」により発生する気泡が混入した排泥に特定され
たものではないから,甲2発明及び甲3発明において,気泡周囲の泥膜を破り排泥
から気泡を放出するということを想到することは困難である。
(ウ)以上によると,粘土粒子等の負電荷を中和し,気泡周囲の泥膜を破る
ために,「カチオン性有機高分子凝集剤を気泡混入掘削ずりに添加混練する」構成と
した甲1発明において,負電荷を中和するためのカチオン性(陽イオン性)の高分
子凝集剤に代えて,甲2発明又は甲3発明に開示されたアニオン性(陰イオン性)
の高分子凝集剤を採用することは,通常,当業者が容易に想到し得るものではなく,
甲1に明示された課題解決の機序である「粘土粒子等の負電荷を中和し,気泡周囲
の泥膜を破る」ことに反する構成となるから,そのような組み合わせをする動機付
けがあるとはいえない。
さらに,甲2発明及び甲3発明は,「カチオン性有機高分子凝集剤」の使用を否定
するものではないから,仮に,甲1J発明に,甲2発明及び甲3発明を適用し得た
としても,本件発明1の「カチオン性高分子凝集剤を添加することなく」という特
定事項まで導くことはできない。
(エ)以上によると,甲1J発明のカチオン性有機高分子凝集剤に代えて甲
2発明又は甲3発明に開示されるアニオン性高分子凝集剤を適用し,相違点Jに係
る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到できたことということはで
きない。
エ原告の主張に対する判断
(ア)取消事由1(甲1発明の認定の誤りに伴う相違点の認定の誤り)につ
いて
原告は,甲1には,甲1X発明として,「気泡シールド工法より発生する気泡混入
掘削ずりに,カチオン性高分子凝集剤及びアニオン性高分子凝集剤を併用して添加
混練して流動性を除去した後,石灰やセメント等の無機系固化材を添加混練する,
気泡シールド工法より発生する気泡混入掘削ずりの処理法。」の発明が記載されてお
り,本件発明1と甲1X発明との相違点Xは,「本件発明1では,建設排泥に添加混
合する高分子凝集剤として,カチオン性高分子凝集剤を用いずに,アニオン性高分
子凝集剤を用い,高分子凝集剤を添加混合し,建設排泥を造粒するのに対して,甲
1発明では,建設排泥に添加混合する高分子凝集剤として,アニオン性高分子凝集
剤とカチオン性高分子凝集剤の併用により添加混合して建設排泥を凝集させ流動性
を除去するが,造粒するか否かまでは明らかでない点。」と認定すべきであると主張
する。
しかし,甲1には,「本発明におけるカチオン性有機高分子凝集剤の使用法は単独
添加に限定されるものではなく,硫酸アルミニウム,ポリ塩化アルミニウム等の無
機凝集剤との併用添加あるいはカチオン性有機高分子凝集剤添加混練後に高級水性
樹脂〔判決注・「高級水性」は「高吸水性」の誤記と認める。〕,アニオン系有機高分
子凝集剤あるいは石灰やセメント等の無機系固化剤を添加混練する事もできる。」
(4欄10行~16行)と記載されており,アニオン系有機高分子凝集剤の添加混
練については,「カチオン性有機高分子凝集剤添加混練後」に行うことができるとさ
れているにすぎない。前記(1)のとおり,甲1には,「粘土粒子等の負電荷を中和し,
気泡周囲の泥膜を破る」ことが課題解決の機序として明示されていることに照らし
ても,アニオン性(陰イオン性)の高分子凝集剤の添加混練は,負電荷を中和する
ためのカチオン性(陽イオン性)の高分子凝集剤の添加混練後に限る趣旨を記載し
たものとみるのが合理的である。上記引用箇所の末尾に「添加混錬する事もできる。」
として「も」が使用されているのは,上記引用箇所の冒頭の「単独添加に限定され
るものではなく」を受けたものであって,アニオン系有機高分子凝集剤の添加混練
後又はそれと同時にカチオン性有機高分子凝集剤を添加混練することを記載又は示
唆したものとみることはできない。
以上によると,甲1には,甲1X発明が記載されているということはできず,本
件発明1との相違点が相違点Xであると認めることもできないから,取消事由1は
理由がない。
(イ)取消事由2-1(甲1発明と甲2発明の組合せの阻害事由認定の誤り)
について
a原告は,甲1には,カチオン性高分子凝集剤の凝集作用として,粘
土粒子等の負電荷の中和作用のほか,総電荷の中和作用,イオンコンプレックスに
よる作用,架橋吸着作用が記載されており,アニオン性高分子凝集剤は,粘土粒子
等の負電荷の中和作用は有しないものの,総電荷の中和作用,架橋吸着作用を有す
るから,先にアニオン性高分子凝集剤を添加すると,総電荷の中和作用,架橋吸着
作用等により凝集するなどと主張する。
確かに,前記(1)ア(エ)(オ)のとおり,甲1には,「カチオン性有機高分凝集剤はこれ
らアニオン性高分子とイオコンプレックス〔判決注・「イオコンプレックス」は「イ
オンコンプレックス」の誤記と認める。〕をつくり,水不溶性とする事により,増粘
作用を消失させる。」,「本発明の実施においては,カチオン性有機高分子凝集剤の架
橋吸着作用も効果に寄与する」と記載されており,カチオン性高分子凝集剤の凝集
作用として,粘土粒子等の負電荷の中和作用のほか,イオンコンプレックスによる
作用,架橋吸着作用が明記されている。また,前記イ(ア)eのとおり,甲3には,土
粒子が電気二重層を持ち,これが土粒子の集合の阻害要因となっていることから,
電気二重層の総電荷の抑制や電気二重層の圧縮(電気二重層を薄くすること)によ
って泥土を凝集させることができることが記載されており(【0027】,【002
8】),証拠(甲7,8,25,44)によると,このことは,本件出願日当時の技
術常識となっていたものと認められる。
しかし,前記(1)ア(オ)のとおり,甲1には,「本発明は,カチオン性有機高分子凝
集剤を気泡混入掘削ずりに添加混練する事により,粘度粒子〔判決注・「粘度」は「粘
土」の誤記と認める。〕等の負電荷を中和し,凝集させ流動性を除去する事を基本と
する。」と記載されており,甲1J発明は,粘土粒子等の負電荷を中和し,気泡周囲
の泥膜を破るために,「カチオン性有機高分子凝集剤を気泡混入掘削ずりに添加混練
する」構成としたものである。そうすると,甲1J発明のカチオン性高分子凝集剤
の凝集作用として,粘土粒子等の負電荷の中和作用以外の作用を有することが知ら
れており,それらの作用が甲1に記載されていたとしても,カチオン性(陽イオン
性)の高分子凝集剤に代えてアニオン性(陰イオン性)の高分子凝集剤を採用する
ことは,甲1に明示された課題解決の機序である「粘土粒子等の負電荷を中和し,
気泡周囲の泥膜を破る」ことに反する構成とすることになるから,当業者が甲1J
発明に基づいて容易に想到し得るものということはできない。
原告は,引用発明には,引用文献中に複数の技術的思想が開示されている中から
一つの技術的思想を認定することができるなどと主張するが,上記のとおり,甲1
に「本発明は,カチオン性有機高分子凝集剤を気泡混入掘削ずりに添加混練する事
により,粘度粒子〔判決注・「粘度」は「粘土」の誤記と認める。〕等の負電荷を中
和し,凝集させ流動性を除去する事を基本とする。」との記載があることは,甲1J
発明に甲2発明又は甲3発明を組み合わせる動機付けの有無の判断に当たり,検討
されるべきものであって,甲1J発明のカチオン性高分子凝集剤の凝集作用として,
粘土粒子等の負電荷の中和作用以外の作用を有することが知られており,それらの
作用が甲1に記載されていたからといって,上記判断が左右されることはない。
b原告は,「泥土圧シールド工法」の下位概念として「泥土加圧シール
ド工法」,「気泡シールド工法」,「ケミカルプラグシールド工法」が位置付けられて
いることからすると(甲12),甲1発明の「気泡」や「気泡混入掘削ずり」は,甲
3発明の「泥土」の下位概念ということができ,甲3の「シールド工事」や「泥土」
には,「気泡シールド工事」や「気泡混入掘削ずり」も含むなどと主張する。
しかし,下位概念である「気泡混入掘削ずり」において課題とされる「気泡混入
掘削ずりの消泡」は,下位概念である「気泡混入掘削ずり」の固有の課題であって,
上位概念である「泥土」一般において課題となるものではないから,甲3発明の「泥
土」が甲1J発明の「気泡混入掘削ずり」の上位概念であることは,甲1J発明の
「気泡混入掘削ずりの消泡」という課題を甲3発明においても課題としていること
を意味するものではなく,前記ウ(イ)のとおり,気泡周囲の泥膜を破り排泥から気泡
を放出するということを想到することは困難であるから,甲1J発明と組み合わせ
る動機付けがあるとは認められない。
(ウ)取消事由2-3(甲1,甲2の組合せによる容易想到性判断の誤り)
について
a原告は,工法の違いは,甲1X発明と甲2X発明の組合せの動機付
けを否定する理由にはなり得ないところ,甲1X発明において,凝集作用を調整す
るに当たって,アニオン性高分子凝集剤とカチオン性高分子凝集剤を併用添加して
凝集作用が強くなりすぎると理解する場合には,アニオン性高分子凝集剤及びカチ
オン性高分子凝集剤の添加量を減らすか,あるいは,いずれかの添加を止めること
は,当業者であれば容易に想到し得るなどと主張する。
しかし,甲1には,アニオン系有機高分子凝集剤の添加混練については,「カチオ
ン性有機高分子凝集剤添加混練後」に行うことができるとされているにすぎず,カ
チオン性高分子凝集剤及びアニオン性高分子凝集剤を併用添加する甲1X発明が記
載されているということはできないことは,前記(ア)のとおりである。原告の主張は,
その点でその前提を欠くものであるし,甲1J発明において,アニオン性高分子凝
集剤の添加混練はカチオン性高分子凝集剤の添加混練後に行うことができるにすぎ
ないから,カチオン性高分子凝集剤を添加することなくアニオン性高分子凝集剤を
添加することは甲1の記載に反するものである。
b原告は,排出後の残土処理等に高分子凝集剤を利用する限りにおい
て,高分子凝集剤には,架橋吸着作用により土粒子を集合させる作用があり,この
凝集作用は,電気二重層の総電荷の抑制や圧縮による凝集をはるかに凌ぐものであ
るから,高分子凝集剤を添加混練した場合,それがカチオン性であっても,アニオ
ン性であっても,総電荷の中和作用や架橋吸着作用,特に架橋吸着作用により強力
な凝集力が働くので,掘削ずり(建設排泥)から気泡が破泡,消泡するなどと主張
する。
しかし,甲1J発明のカチオン性高分子凝集剤の凝集作用として,粘土粒子等の
負電荷の中和作用以外の作用を有することが知られていたとしても,カチオン性(陽
イオン性)の高分子凝集剤に代えてアニオン性(陰イオン性)の高分子凝集剤を採
用することは,甲1に明示された課題解決の機序である「粘土粒子等の負電荷を中
和し,気泡周囲の泥膜を破る」ことに反する構成となるから,当業者が甲1J発明
に基づいて容易に想到し得るものということはできないことは,前記(イ)aのとおり
である。
c原告は,高圧の圧縮空気を内包する気泡を含む建設排泥は,掘削後,
大気中に排出されるので,気圧の低下により気泡が膨張し泡膜が薄くなり,破泡す
ることを繰り返し,速やかに消泡し,泥土のみが残り,土砂にベントナイト,作泥
土材等を添加する場合にも,所要の時間を経過すると,排出土は泥土のみとなる,
掘削土に添加剤として気泡混入するか(甲1),掘削土に添加剤として「ベントナイ
ト」等を加えるか(甲2)で,有機高分子凝集剤の処理対象物として格別異なると
はいえないなどと主張する。
しかし,「気泡混入掘削ずり」において課題とされる「気泡混入掘削ずりの消泡」
は,「気泡混入掘削ずり」の固有の課題であって,土砂にベントナイト,作泥土材等
を添加する場合において課題となるものではないことは明らかであって,前記ウ(イ)
のとおり,甲2発明から気泡周囲の泥膜を破り排泥から気泡を放出するということ
を想到することは困難であるから,甲1J発明と甲2発明とを組み合わせる動機付
けがあるとは認められない。
d原告は,アニオン性高分子凝集剤の魚毒性は弱いが,カチオン性高
分子凝集剤は淡水で比較的強い魚毒性を示すとの報告等がされていることから,カ
チオン性高分子凝集剤は,アニオン性のものに比べて使用範囲が限定的となるため,
カチオン性高分子凝集剤を止めてアニオン性高分子凝集剤のみ添加する動機付けが
十分存在すると主張する。
しかし,甲1発明のカチオン性(陽イオン性)の高分子凝集剤に代えてアニオン
性(陰イオン性)の高分子凝集剤を採用することは,甲1に明示された課題解決の
機序である「粘土粒子等の負電荷を中和し,気泡周囲の泥膜を破る」ことに反する
構成となることは,前記(イ)aのとおりであるから,カチオン性高分子凝集剤とアニ
オン性高分子凝集剤との間に魚毒性について差異があるとしても,当業者が甲1J
発明のカチオン性高分子凝集剤に代えてアニオン性高分子凝集剤のみを添加する動
機付けとなるものではない。
(エ)取消事由2-4(動機付けに関する認定判断の誤り)について
a原告は,甲1発明と甲2発明とは,処理対象となる建設排泥の性状
や流動性を生じさせる原因などの前提が異なっており,それによりその課題も異な
るものといえる旨の審決の判断は,誤りである,掘削後,高圧下で生成された水溶
液の膜である気泡が大気中に排出されれば,気圧の変化により気泡が膨張し泡膜が
破れ,水分の蒸発も相まって,速やかに自然消泡するものであり,気泡シールド工
法と泥土圧シールド工法とで排出後の残土処理等に格別の差はないなどと主張する。
しかし,「気泡混入掘削ずり」において課題とされる「気泡混入掘削ずりの消泡」
は,「気泡混入掘削ずり」の固有の課題であって,土砂にベントナイト,作泥土材等
を添加する場合において課題となるものではないことは明らかであって,甲1J発
明と甲2発明とを組み合わせる動機付けがあるとは認められないことは,前記(ウ)c
のとおりである。
b原告は,甲1発明においては,消泡に関する課題のみならず,建設
排泥を凝集して流動性を除去することに関する課題も有し,課題解決に関して甲1
発明のカチオン性高分子凝集剤又はアニオン性高分子凝集剤の奏する作用・機能は,
甲2発明のアニオン性高分子凝集剤の奏する作用・機能と共通しているなどと主張
する。
しかし,前記2(1)のとおり,甲1J発明は,気泡混入掘削ずり中にはシルト・粘
土分やセルロース系増粘剤を含む場合が多く,この成分の生成する強固な泥膜は気
泡の離脱を妨害するとともに,脱泡残留物においてもなお流動性を付与するため,
単なる消泡処理ではいまだ十分な対処法とはいえないという従来技術の問題を踏ま
えたものであり,カチオン性有機高分子凝集剤を気泡混入掘削ずりに添加混練する
ことにより,粘土粒子等の負電荷を中和し,凝集させることで,気泡周囲の泥膜を
破って消泡し,流動性を除去することができるというものであるから,甲1J発明
は,気泡混入掘削ずりの消泡を課題とするものであると認められる。甲1J発明の
カチオン性高分子凝集剤の凝集作用に粘土粒子の負電荷の中和作用以外の作用が認
められるとしても,甲1の記載に照らすと,甲1J発明は,気泡混入掘削ずりの消
泡という課題とは別に,建設排泥を凝集して流動性を除去することに関する課題を
有すると認めることはできない。そして,甲2発明には,気泡混入掘削ずりの消泡
という課題がないことは,前記aのとおりである。したがって,甲1J発明と甲2
発明とは課題が共通するものとはいえないから,課題解決に関し,甲1J発明のカ
チオン性高分子凝集剤と甲2発明のアニオン性高分子凝集剤の奏する作用・機能と
が共通するということはできない。
オ小括
以上によると,取消事由2-2(作用効果の予測可能性の判断の誤り),取消事由
3(作用効果の予測可能性の判断の誤り)について判断するまでもなく,本件発明
1に係る審決の結論に影響を及ぼすべき違法はない。
3本件発明2,3の容易想到性について
本件発明2,3は,本件発明1の発明特定事項をすべて含み,さらに他の発明特
定事項を付加したものである。
そして,本件発明1について,当業者が容易に発明することができたものではな
いことは,前記2のとおりであるから,本件発明2,3についても,前記2と同様
の理由により,当業者が容易に発明することができたものではない。
取消事由4は,本件発明1と甲1発明との相違点が容易想到であることを前提と
する点において,理由がない。
4結論
以上によると,原告の請求は,理由がないから,これを棄却することとして,主
文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森義之
裁判官
森岡礼子
裁判官
古庄研

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