弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
原告の請求は、棄却する。
訴訟費用中補助参加によつて生じた費用は、補助参加人の、その余は原告の各負担
とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
 原告訴訟代理人は、「特許庁が、昭和四十一年一月二十五日、同庁昭和三八年審
判第三、四八四号事件についてした審決は、手巾類、釦鈕及び装身用ピンの類を除
くその余の指定商品のうち「婦人用靴下、靴下止め、ガーター、スカーフ、ネツカ
チーフ、防じんマスク、ナイトキャップ、コルセット、ブラジャー、ガードル」に
関する部分を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする」との判決を求め、被告訴
訟代理人は、主文第一項同旨および訴訟費用は、原告の負担とする旨の判決を求め
た。
第二 請求の原因
 原告及び補助参加人(以下「原告ら」という。)訴訟代理人は、請求の原因とし
て、次のとおり述べた。
一 特許庁における手続の経緯
 原告は、昭和三十八年八月十三日、被告がその商標権者である別紙第一記載の商
標(以下「本件商標」という)につき登録無効審判を請求し、同年審判第三、四八
四号事件として審理されたが、昭和四十一年一月二十五日、「本件商標の登録は、
その指定商品中手巾類、釦鈕及び装身用ピンの類についてこれを無効とする。その
余の指定商品に関する本件審判の請求は成り立たない。審判費用は、被請求人の負
担とする」旨の審決があり、その謄本は同年二月十七日原告に送達された。
二 本件審決理由の要点
別紙(本件審決理由の要点)記載のとおり。
三 本件審決を取り消すべき事由
 本件審決は、本件商標は、その指定商品中手巾類、釦鈕及び装身用ピンの類のみ
については、旧商標法第二条第一項第十一号に違反して登録されたものとして無効
とすべきものであるとしているが、その余の指定商品のうち、「婦人用靴下」その
他の請求の趣旨掲記の商品については、本件商標は、なお前記法条に違反して登録
されたものであり、その登録は無効とされるべきであるから、これら指定商品に関
する本件審決の判断は誤りであり、違法として取り消されるべきものである。すな
わち、原告は、大正八年十二月十八日、登録第一一○、四五一号の商標「ELIS
ABETH」の英文字をローマン体で横書きして成り、旧々第三類香水、香油、香
袋、白粉、化粧下、化粧液、髪油、燻料その他他類に属せざる化粧品を指定商品と
したもの)につき設定登録を得、その後昭和二十九年三月、同系列の補助参加人会
社の設立に伴い、エリザベス化粧料本舗の名称をも使用して、香水、白粉等の製造
販売の事業を積極的に開発拡張してきたが、右登録商標の態様も時代に応じて変化
させるべく別紙第二記載の商標(以下「引用商標」という)の商標権をも取得し、
長期間継続して盛んに使用してきたので、「エリザベス」、「ELISABET
H」、「ELIZABETH」から成る商標は、口紅、香水につき原告の商標とし
て、昭和三十年末頃には、化粧品の需要者、取引者間において相当程度周知著名な
ものとなつた。しかして、本件審決認定の手巾類、釦鈕、装身用ピンの類に止まら
ず、婦人用靴下その他前掲記の商品は、商取引界における流通の実情にみるに、お
おむね化粧品の問屋で取り扱い、その小売店において展示、販売されているもので
あるから、これらの商品に原告の商標として一般世人間に極めて著名な引用商標が
使用されると、その需要者及び取引者は、これを、あたかも原告の製造販売にかか
るもののように誤認し、その出所につき混同をひき起す虞があるものである。した
がつて、本件商標は、手巾類、釦鈕、装身用ピンの類に止まらず、婦人用靴下その
他前掲記の指定商品についても、なお旧商標法第二条第一項第十一号に違反して登
録されたものであることは明らかである。本件審決は、叙上の点を看過誤認したも
のであり、違法たるを免かれない。
第三 被告の答弁
 被告訴訟代理人は、答弁として、次のとおり述べた。
 請求原因事実中、本件に関する特許庁における手続の経緯、本件商標及び引用商
標の構成等並びに本件審決理由の要点がいずれも原告主張のとおりであることは認
めるが、その余は否認する。本件審決の認定は正当であり、原告ら主張のような違
法の点はない。被告の調査したところによれば、引用商標は、化粧品の商標とし
て、原告ら主張のように周知著名ではない。引用商標を使用した化粧品は、東京
都、京阪神地区の著名百貨店、著名化粧品店においてはほとんど取り扱われていな
い。現今著名商標を附した著名商品が著名百貨店で取り扱われないことはありえな
いものである。被告の本件商標は、指定商品靴下及び婦人用肌着について永年の使
用により周知著名である。化粧品と靴下及び婦人用肌着類とは商品を全く異にし、
売場又は販売店を異にするものであるから、同一又は類似の商標を使用しても互い
に混同又は誤認を生ずる虞はない。
第四 証拠関係(省略)
       理   由
(争いのない事実)
一、本件に関する特許庁の手続の経緯、本件商標及び引用商標の各構成並びに本件
審決理由の要点がいずれも原告ら主張のとおりであることは、当事者間に争いのな
いところである。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二、原告らは、本件審決を違法として取り消すべき事由として、原告の引用商標が
化粧品につき周知著名であり、しかも、婦人用靴下その他の請求の趣旨掲記の商品
は化粧品と同一問屋、小売店において取り扱われるものであるから、これらの商品
に引用商標を使用するときは、その需要者及び取引者は、これを原告又は補助参加
人会社の製造販売するものであるかのように誤認する虞があり、本件商標は、旧商
標法第二条第一項第十一号の規定に違反して登録されたものであるところ、本件審
決はこれを看過誤認したものである旨主張するが、原告らのこの主張は理由がない
ものといわざるをえない。すなわち、成立に争いのない甲第八号証の一から五十
九、同第九号証の一から五十八、乙第三号証から第十七号証及び証人【A】の証言
を総合すると、原告がその商標権者である引用商標は、原告及び補助参加人会社に
おいて、その製造販売する化粧品に使用し、宣伝に努めた結果、本件商標の登録さ
れた昭和三十八年七月当時においては、化粧品、とくに、口紅、香水等につき、取
引者及び需要者の間にある程度認識されるに至つたが、これを婦人用靴下その他の
原告ら主張の商品に使用した場合、一般取引者、需要者がこれらの商品をもつて、
原告又は補助参加人会社の製造販売するものであると信ずる虞があるとみるを相当
とする程度に著名周知であつたとはいえないものであつた事実を認定しうべく、前
掲甲号各証中右認定に抵触する部分は、その記載内容及び記載事項の性質に徴し、
到底信を置きがたく、他に右認定を覆えし、原告らの主張を肯認するに足る資料は
ない(前掲甲号各証、たとえば、甲第八号証の一には、「引用商標は、昭和三十年
末には口紅、香水等につき取引者、需要者の間に広く認識されるに至り著名商標と
なつた。この頃より化粧品問屋並びに小売店にあつては通常化粧品と婦人用靴下…
……といつた商品とを同一店舗で取扱い同じ売場にて展示販売するようになつたの
で、殊に需要者の間にあつては、婦人用靴下等の商品をも原告らの製造販売に係る
商品であるとの誤認混同を惹起するようになつた。かかる商取引事情のもとで、今
後引き続いて婦人用靴下等に(エリザベス)の文字を使用するにおいては化粧品と
その出所につき混同を生ずるおそれがあるとの御証明を願います」旨の原告らの依
頼に答え、財団法人日本粧業会会長の名において、「右証明します」として前記引
用事項の事実であることを証明した旨の記載があるが、これらの証明事項、とく
に、「昭和三十年末には……取引者、需要者の間に広く認識されるに至り著名商標
となつた」、「化粧品と婦人用靴下……を同一店舗で取扱い」、「婦人用靴下等を
原告ら化粧会社の商品であるとの誤認混同を惹起するようになつた」「出所につき
混同を生ずるおそれがある」などの事項は、如何なる調査資料に基づく証明なの
か、はたしてそれが事実なのか、はたして証明者がこれを確信したのか等々甚だし
く疑問をいだかざるをえない。乙第三号証以下の証明書についても、ほぼ同様のこ
とがいえる。このような証明書の記載が全面的信頼をおくには値しないものである
ことは何人の眼にも明らかなところであろう)。
(むすび)
三、叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由
に本件審決の取消を求める原告らの本訴請求は、理由がないものというほかはな
い。よつて、これを棄却することとし、
訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八十九条、第九十四条
を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 三宅正雄 石沢健 奈良次郎)
別紙本件審決理由の要点
 本件商標の構成等は別紙第一記載のとおりであるところ、「エリザベス」、「E
LIZABETH」なる文字よりなる商標が請求人(原告)の製造する化粧品中主
として高級なものについて使用せられていること、このような商標を附した化粧品
が請求人の姉妹会社である株式会社エリザベス(補助参加人)によつて市販せられ
その結果上記商標が請求人の製造販売にかかる商品についてではないとしても、何
人かの製造販売にかかる化粧品について使用せられる商標として化粧品の需要者取
引者間においては相当程度周知なものとなつていることは請求人の提出した証拠そ
の他職権により調査したところ等を綜合勘案して判断すれば推認するに足りる。し
かしながら、「ELIZABETH」、「エリザベス」といえば、一般世人が直ち
に請求人の製造、販売にかかる高級化粧品を直感するほどの顕著な程度において周
知、著名となつていないものでないことも職権により調査したところにより明らか
である。
 以上の事実に基づいて本件商標が、化粧品について使用する請求人の上記商標と
商品の出所について混同を生ずるものであるかどうかつについて判断するに、本件
商標にかかる指定商品は、被服その他本類に属する商品であつて、一応の用途、製
造者等において異なるものと認められるところであるが、この指定商品中の手巾
類、釦鈕及び装身用ピン類については商取引の経験則上その販売店を同じくする場
合が少なくないことからこの点において両者の商品はその取引系統を同一にするも
のであるというを相当とする。
 したがつて、上記商標の著名度等を併せ考えれば、前記した商品の取引者、需要
者は「ELIZABETH」「エリザベス」なる文字を有する商標が使用される化
粧品の販売業者と同一またはなんらかの関係を有する製造販売業者によつて製造販
売されたものであるかの如く、その出所について混同を生ずるものであることは経
験則上はたまた取引の実際に照らして明白なものと認められる。
 したがつて、本件商標は旧商標法第二条第一項第一一号に該当し、商標法施行法
第一○条第一項によつてなおその効力を有する旧商標法第一六条第一項第一号の規
定によつて指定商品中手巾類、釦鈕及び装身用ピンについてこれを無効とすべきも
のである。
別紙第一 本件商標
 構成 ローマン体で「ELIZABETH」の英文字を書しその下に楷書体風で
「エリザベス」の片仮名文字を併記して成るもの
<11615-001>
 登録出願 昭和二十九年十月四日
 登録 昭和三十八年七月十七日
 登録番号 第六二一、○○八号
 指定商品 旧第三十六類 被服その他本類に属する商品
別紙第二 引用商標
 構成 ゴシツク体で、「エリザベス」の片名文字を左横書きした下に筆記体で
「ELIZABETH」の英文字を併記して成るもの
 登録出願 昭和二十八年三月十一日
 登録 昭和二十八年十一月三十日
 登録番号 第四三六、○四三号
 指定商品 旧第二類 染料、顔料、媒染料及び塗料

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