弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。     
         理    由
 上告代理人佐久間信司の上告理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 被上告人は、平成元年一一月一〇日、Eとの間で、同人所有の第一審判決別
紙物件目録記載の土地及び建物(以下、「本件不動産」といい、このうち建物を「
本件建物」という。)について、債務者をE、極度額を三五〇〇万円、被担保債権
の範囲を金銭消費貸借取引等とする根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)の
設定契約を締結した。
 2 被上告人は、平成元年一一月一七日、Eに対し、二八〇〇万円を、平成二年
二月以降毎月一五日に元金一一万七〇〇〇円を当月分の利息と共に支払うなどの約
定により貸し付けた(以下、これによる債権を「本件貸金債権」という。)。
 3 上告人らは、平成五年五月ころから、本件建物を権原なく占有している。
 4 被上告人は、本件貸金債権の残額につき期限の利益が失われた後である平成
五年九月八日、名古屋地方裁判所に対し、本件不動産につき本件根抵当権の実行と
しての競売を申し立て、同裁判所は、同日、不動産競売の開始決定をした。右事件
の開札期日は平成七年五月一七日と指定されたが、上告人らが本件建物を占有して
いることにより買受けを希望する者が買受け申出をちゅうちょしたため、入札がな
く、その後競売手続は進行していない。
 二 本件は、被上告人が、上告人らが本件建物を権原なく占有していることが不
動産競売手続の進行を阻害し、そのために本件貸金債権の満足を受けることができ
ないとして、上告人らに対し、本件根抵当権の被担保債権である本件貸金債権を保
全するため、Eの本件建物の所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使して、本件
建物の明渡しを求めるものである。
 原審は、次のように判示し、被上告人の請求を認容すべきものとした。
 1 本件不動産についての不動産競売手続が進行しないのは、上告人らが本件建
物を占有していることにより買受けを希望する者が買受け申出をちゅうちょしたた
めであり、この結果、被上告人は、本件貸金債権の満足を受けることができなくな
っている。したがって、被上告人には、本件貸金債権を保全するため、Eの本件建
物の所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使する必要があると認められる。
 2 被上告人が請求することができるのは、本件建物の所有者であるEへの明渡
しに限定されるものではなく、被上告人は、保全のために必要な行為として、上告
人らに対し、本件建物を被上告人に明け渡すことを求めることができる。
 三 抵当権は、競売手続において実現される抵当不動産の交換価値から他の債権
者に優先して被担保債権の弁済を受けることを内容とする物権であり、不動産の占
有を抵当権者に移すことなく設定され、抵当権者は、原則として、抵当不動産の所
有者が行う抵当不動産の使用又は収益について干渉することはできない。
 しかしながら、第三者が抵当不動産を不法占有することにより、競売手続の進行
が害され適正な価額よりも売却価額が下落するおそれがあるなど、抵当不動産の交
換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態
があるときは、これを抵当権に対する侵害と評価することを妨げるものではない。
そして、抵当不動産の所有者は、抵当権に対する侵害が生じないよう抵当不動産を
適切に維持管理することが予定されているものということができる。したがって、
右状態があるときは、抵当権の効力として、抵当権者は、抵当不動産の所有者に対
し、その有する権利を適切に行使するなどして右状態を是正し抵当不動産を適切に
維持又は保存するよう求める請求権を有するというべきである。そうすると、【要
旨第一】抵当権者は、右請求権を保全する必要があるときは、民法四二三条の法意
に従い、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができる
と解するのが相当である。
 なお、第三者が抵当不動産を不法占有することにより抵当不動産の交換価値の実
現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるとき
は、抵当権に基づく妨害排除請求として、抵当権者が右状態の排除を求めることも
許されるものというべきである。
 最高裁平成元年(オ)第一二〇九号同三年三月二二日第二小法廷判決・民集四五
巻三号二六八頁は、以上と抵触する限度において、これを変更すべきである。
 四 本件においては、本件根抵当権の被担保債権である本件貸金債権の弁済期が
到来し、被上告人が本件不動産につき抵当権の実行を申し立てているところ、上告
人らが占有すべき権原を有することなく本件建物を占有していることにより、本件
不動産の競売手続の進行が害され、その交換価値の実現が妨げられているというの
であるから、被上告人の優先弁済請求権の行使が困難となっていることも容易に推
認することができる。
 【要旨第二】右事実関係の下においては、被上告人は、所有者であるEに対して
本件不動産の交換価値の実現を妨げ被上告人の優先弁済請求権の行使を困難とさせ
ている状態を是正するよう求める請求権を有するから、右請求権を保全するため、
Eの上告人らに対する妨害排除請求権を代位行使し、Eのために本件建物を管理す
ることを目的として、上告人らに対し、直接被上告人に本件建物を明け渡すよう求
めることができるものというべきである。
 五 本件請求は、本件根抵当権の被担保債権をもって代位の原因とするが、本件
根抵当権に基づいて、その交換価値の実現を阻害する上告人らの占有の排除を求め
るため、所有者に代位して、上告人らに対して本件建物の明渡しを請求する趣旨を
含むものと解することができるから、被上告人の請求を認容すべきものとした原審
の判断は、結論において是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって、裁判官奥田昌道の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文
のとおり判決する。
 裁判官奥田昌道の補足意見は、次のとおりである。
 私は、法廷意見に同調するものであるが、抵当不動産が不法占有されている場合
における抵当権者の救済の在り方について、意見を補足して述べておきたい。
 一 第三者の行為等による抵当権侵害の成否について
 抵当権は、抵当不動産の担保価値(交換価値)を排他的に支配し、競売手続にお
いて実現される交換価値から他の債権者に優先して被担保債権の弁済を受けること
を内容とする物権である。もっとも、抵当権は、抵当不動産を有形的・有体的に支
配する権利ではなく、その交換価値を非有形的・観念的に支配するにとどまり、同
一の不動産上に順位を異にする複数の抵当権が成立し得る。この点において、抵当
権は、留置権、質権といった担保物の占有を要素とする担保物権、あるいは地上権
等の他の制限物権とは異なっている。
 ところで、抵当権に認められる抵当不動産の交換価値に対する排他的支配の権能
は、交換価値が実現される抵当権実行時(換価・配当時)において最も先鋭に現わ
れるが、ひとりこの時点においてのみならず、抵当権設定時以降換価に至るまでの
間、抵当不動産について実現されるべき交換価値を恒常的・継続的に支配すること
ができる点に、抵当権の物権としての意義が存するものとみられる。したがって、
抵当権設定時以降換価に至るまでの間においても、抵当不動産の交換価値を減少さ
せたり、交換価値の実現を困難にさせたりするような第三者の行為ないし事実状態
は、これを抵当権に対する侵害ととらえるべきであり、かかる侵害を阻止し、ある
いは除去する法的手段が抵当権者に用意されていなければならない。
 また、抵当不動産の交換価値は競売手続において実現されるものであるから、第
三者の行為等が抵当不動産の交換価値を減少させ、又は交換価値の実現を困難にさ
せるものとして抵当権の侵害に当たるか否かについては、当該行為等の内容のみな
らず、競売手続における当該抵当権者に対する配当の可能性等も考慮すべきである。
けだし、すべての抵当権者に同等の救済を認めることは適当ではなく、配当を受け
る可能性が全くない後順位抵当権者による救済手段の濫用を防止することも、考慮
しておかなければならないからである。
 二 抵当権に基づく妨害排除請求権について
 物権の実現が妨げられ、又は妨げられるおそれがある場合に、物権の権利者が物
権の効力として妨害者に対し妨害の排除又は予防を請求することができること(物
上請求権)は、広く承認されている。このような物上請求権は、物権の権利者の目
的物に対する事実的支配(占有)が妨げられ、又は妨げられるおそれがある場合に、
あるべき状態を回復するための手段として認められてきたものである。抵当権は目
的物に対する事実的支配(占有)を伴わずにその交換価値を非有形的・観念的に支
配する権利であるが、本件におけるように、第三者が抵当不動産を何らの正当な権
原なく占有することにより、競売手続の進行が害され、抵当不動産の交換価値の実
現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態が生じてい
るときは、右不法占有者に対し、抵当権者は、抵当権に基づき、妨害の排除、すな
わち、不動産の明渡しを請求することができるものといわなければならない。もち
ろん、この場合に、抵当権者が自己への明渡しを請求し得るのか、抵当不動産の所
有者への明渡しを請求し得るにとどまるのかは、更に検討を要する問題である。
 三 抵当権者による所有者の妨害排除請求権の代位行使について
 抵当権の侵害に対する救済手段として、抵当権そのものに基づく妨害排除請求権
が認められるならば、更にそれ以外に、抵当不動産の所有者の有する妨害排除請求
権を抵当権者が代位行使することを認めることについては、異論があり得よう。第
一の問題点は、民法四二三条の定める債権者代位権は「自己ノ債権ヲ保全スル為メ」
に認められるものであるところ、抵当権侵害の場合において被保全債権となるもの
は何かである。第二の問題点は、債権者代位権のいわゆる転用事例(不動産所有権
の相次譲渡の場合における転得者による中間者の登記請求権の代位行使や、不動産
賃借権に対する侵害の場合における賃借人による所有者の妨害排除請求権の代位行
使)においては、権利の代位行使は、他に適切な救済手段が存しないためにやむな
く認められた便法とされているのに、抵当権侵害の場合には、抵当権者について抵
当権に基づく妨害排除請求権を認めることで十分ではないかとの反対論が考えられ
ることである。
 第一の点については、次のように考えられる。抵当権設定者又は抵当不動産の譲
受人は、担保権(抵当権)の目的物を実際に管理する立場にある者として、第三者
の行為等によりその交換価値が減少し、又は交換価値の実現が困難となることのな
いように、これを適切に維持又は保存することが、法の要請するところであると考
えられる。その反面として、抵当権者は、抵当不動産の所有者に対し、抵当不動産
の担保価値を維持又は保存するよう求める請求権(担保価値維持請求権)を有する
ものというべきである。そして、この担保価値維持請求権は、抵当権設定時よりそ
の実行(換価)に至るまでの間、恒常的に存続する権利であり、第三者が抵当不動
産を毀損したり抵当不動産を不法占有したりすることにより、抵当不動産の交換価
値の実現が妨げられるような状態が生じているにもかかわらず、所有者が適切な措
置を執らない場合には、この請求権の存続、実現が困難となるような事態を生じさ
せることとなるから、抵当権者において、抵当不動産の所有者に対する担保価値維
持請求権を保全するために、抵当不動産の所有者が侵害者に対して有する妨害停止
又は妨害排除請求権を代位行使することが認められるべきである。
 第二の債権者代位権の転用事例における補充性(他に適切な救済手段がないこと)
の点については、抵当権に基づく妨害排除請求権の要件及び効果(請求権の内容)
につき論議が尽くされているとはいい難く、なお検討を要する点が存する現状にお
いては、代位請求による救済の道を閉ざすべきではないと考える。
 ところで、代位権行使の効果として抵当権者は抵当不動産の占有者に対して直接
自己への明渡しを請求することができるかの点については、抵当権者は抵当不動産
の所有者の妨害排除請求権(明渡請求権)を同人に代わって行使するにすぎないこ
と、抵当不動産の所有者の明渡請求権の内容は同人自身への明渡しであることから
すれば、抵当権者による代位行使の場合も同じであると考えるべきもののようにも
みえるが、抵当不動産の所有者が受領を拒み、又は所有者において受領することが
期待できないといった事情があるときは、抵当権者は、抵当不動産の所有者に代わ
って受領するという意味において、直接自己への明渡しを請求することができると
解するのが相当である。そして、本件のような事実関係がある場合は、原則として、
抵当権者は、直接自己に抵当不動産を明け渡すよう求めることができるものという
べきである。その場合に抵当権者が取得する占有は、抵当不動産の所有者のために
管理する目的での占有、いわゆる管理占有であるといい得る。
 なお、いかなる場合に代位権を行使することが認められるかについては、事案に
応じ検討すべき問題があるが、本件のように抵当権者による競売申立てがなされて
いる事案においては、代位権行使を認めることに何の支障もないと考える。
(裁判長裁判官 山口 繁 裁判官 小野幹雄 裁判官 千種秀夫 裁判官 河合
伸一 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 福田 博 裁判官 藤井正
雄 裁判官 元原利文 裁判官 大出峻郎 裁判官 金谷利廣 裁判官 北川弘治
 裁判官 亀山継夫 裁判官 奥田昌道 裁判官 梶谷 玄)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛