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平成22年8月9日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(行ケ)第10432号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年7月28日
判決
原告マイクロ・モーション・
インコーポレーテッド
同訴訟代理人弁護士鈴木修
岡本義則
星埜正和
同弁理士田中英夫
被告特許庁長官
同指定代理人鈴木貴雄
小谷一郎
岩崎伸二
深澤幹朗
豊田純一
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのた
めの付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2006−26831号事件について平成21年8月18日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件補正後の発明の要
旨を下記2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が同
請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記
3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案
である。
1特許庁における手続の経緯
(1)出願手続(甲6)及び拒絶査定
発明の名称:バッチ配送システムにおけるバッチの最大化方法
出願番号:特願2000−607130号
出願日:平成12年3月15日
パリ条約による優先権主張日:平成11年(1999年)3月19日(米国)
手続補正日:平成14年3月25日(甲8。以下「本件補正」という。)
拒絶査定:平成18年8月29日付け
(2)審判手続及び本件審決
審判請求日:平成18年11月29日(不服2006−26831号)
審決日:平成21年8月18日
審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
審決謄本送達日:平成21年8月28日
2本願発明の要旨
本件審決が判断の対象とした本件補正後の明細書(甲8。以下「本願明細書」と
いう。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」とい
う。)の要旨は,以下のとおりである。
資材供給源101から資材の宛て先110へ資材を配送するための資材配送シス
テム100を動作させる方法であって,該システムが,
(a)前記資材の配送を開始するステップ303と,
(b)流量計103を通過する前記資材に関して前記流量計から流量情報を受け取
るステップ601と,
(c)前記流量情報に基づいて,前記流量計103を通過する資材の1次測定値を
計算するステップ304と,
(d)前記流量情報に基づいて,前記流量計103を通過する資材の2次測定値を
計算するステップ304と,
(e)前記1次測定値を,前記資材の配送において配送される資材の1次合計値に
加算するステップ305と,
(f)前記2次測定値を,前記資材の配送において配送される資材の2次合計値に
加算するステップ305と,
(g)前記1次合計値が前記1次目標より大きいか或いはこれに等しいかを決定す
るステップ306と,
(h)前記1次合計値が前記1次目標より大きいか或いはこれに等しいとの決定3
06に応答して,前記資材の配送を終了するステップ308と,
(i)前記1次合計値が前記1次目標より小さいとの決定306に応答して,前記
2次合計値が前記2次目標より大きいか或いはこれに等しいかを決定するステップ
307と,
(j)前記2次合計値が前記2次目標より大きいか或いはこれに等しいとの決定3
07に応答して,前記資材の配送を終了するステップ308と,
(k)前記2次合計値が前記2次目標より小さいとの決定307に応答して,前記
のステップ(b)∼(j)を反復するステップと,
を含む方法
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,要するに,本願発明は,本願明細書の特許請求の範囲
の記載が,いわゆるサポート要件又は明確性の要件に違反するものであるばかりで
なく,下記アに記載された発明(以下「引用発明1」という。)に基づいて,又は,
下記イに記載された発明(以下「引用発明2」という。)に下記ウ及びエに記載さ
れた周知技術(以下,その順に従って「周知技術1」などという。)を適用するこ
とにより,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2
項の規定に該当するものであるから,特許を受けることができない,というもので
ある。
ア引用例1:特開平10−160543号公報(甲1)
イ引用例2:特開昭55−79298号公報(甲2)
ウ周知例1:特開平8−258898号公報(甲4)
エ周知例2:特開平9−16549号公報(甲5)
(2)なお,本件審決が認定した引用発明1並びに本願発明と引用発明1との一致
点及び相違点(以下「本件相違点1」という。)は,次のとおりである
ア引用発明1:ガス供給口からガス排出口へガスを送給するための前金式ガス
メータを動作させる方法であって,該前金式ガスメータが,「(ア)前記ガスの送
給を開始するステップと,(イ)計量手段を通過する前記ガスに関して前記計量手
段からガスの通過量検出信号を入力するステップと,(ウ)前記通過量検出信号に
基づいて,前記計量手段を通過するガスのガス連続通過量を算出するステップと,
(エ)前記通過量検出信号に基づいて,前記計量手段を通過するガスの使用残量を
算出するステップと,(オ)前記ガス連続通過量がガス制限通過量より達したかを
決定するステップと,(カ)前記ガス連続通過量が前記ガス制限通過量に達したと
の決定に応答して,前記ガスの送給を終了するステップと,(キ)前記ガスの連続
通過量が前記制限通過量より小さいとの決定に応答して,前記ガスの使用残量がゼ
ロに達したかを決定するステップと,(ク)前記ガスの使用残量がゼロに達したと
の決定に応じて,ガスの送給を終了するステップと,(ケ)前記ガスの使用残量が
前記ゼロに達していないとの決定に応答して,前記(イ)∼(ク)を反復するステッ
プ」を含む方法
イ一致点:資材供給源から資材の宛て先へ資材を配送するための資材配送シス
テムを動作させる方法であって,該システムが,「(a)前記資材の配送を開始す
るステップと,(b)流量計を通過する前記資材に関して前記流量計から流量情報
を受け取るステップと,(c)前記流量情報に基づいて,前記流量計を通過する資
材の1次測定値を計算するステップと,(d)前記流量情報に基づいて,前記流量
計を通過する資材の2次測定値を計算するステップと,(e)前記1次測定値を,
前記資材の配送において配送される資材の1次合計値に加算するステップと,
(f)前記2次測定値を,前記資材の配送において配送される資材の累積値として
算出するステップと,(g)前記1次合計値が前記1次目標より大きいか或いはこ
れに等しいかを決定するステップと,(h)前記1次合計値が前記1次目標より大
きいか或いはこれに等しいとの決定に応答して,前記資材の配送を終了するステッ
プと,(i’)前記1次合計値が前記1次目標より小さいとの決定に応答して,前
記累積値が前記2次目標に達したかを決定するステップと,(j’)前記累積値が
前記2次目標に達したとの決定に応答して,前記資材の配送を終了するステップと,
(k’)前記累積値が前記2次目標に達していないとの決定に応答して,前記のス
テップ(b)∼(j’)を反復するステップ」を含む方法
ウ相違点:2次測定値の扱いに関して,本願発明においては,「(d)前記流
量情報に基づいて,前記流量計を通過する資材の2次測定値を計算するステップ,
(f)前記2次測定値を,前記資材の配送において配送される資材の2次合計値に
加算するステップ,(i)前記1次合計値が前記1次目標より小さいとの決定に応
答して,前記2次合計値が前記2次目標より大きいか或いはこれに等しいかを決定
するステップ,(j)前記2次合計値が前記2次目標より大きいか或いはこれに等
しいとの決定に応答して,前記資材の配送を終了するステップ,(k)前記2次合
計値が前記2次目標より小さいとの決定に応答して,前記のステップ(b)∼
(j)を反復するステップ」を備えるものであるのに対し,引用発明1においては,
「(エ)前記通過量検出信号に基づいて,前記計量手段を通過するガスの使用残量
を算出するステップ,(キ)前記ガスの連続通過量が前記制限通過量より小さいと
の決定に応答して,前記ガスの使用残量がゼロに達したかを決定するステップ,
(ク)前記ガスの使用残量がゼロに達したとの決定に応じて,ガスの送給を終了す
るステップ,(ケ)前記ガスの使用残量が前記ゼロに達していないとの決定に応答
して,前記(イ)∼(ク)を反復するステップ」を備えるものである点
(3)また,本件審決が認定した引用発明2並びに本願発明と引用発明2との一
致点及び相違点(以下「本件相違点2」という。)は,次のとおりである
ア引用発明2:石油製品の供給部からタンクローリーへ石油製品を配送するた
めの石油製品の出荷システムを動作させるための方法であって,該出荷システムが,
「(ア)前記石油製品の配送を開始するステップと,(イ)体積計を通過する石油
製品に関して前記体積計から体積流量を受け取るステップと,(ウ)前記体積流量
に関する情報に基づいて,前記体積計を通過する石油製品の充填流量を計算するス
テップと,(エ)前記充填流量が予定量に達したかどうかを決定するステップと,
(オ)前記充填流量が予定量に達したとの決定に応答して,前記石油製品の配送を
終了するステップと,(カ)石油製品の配送を終了した後に,計重したローリーの
重量から石油製品の重量を計量・確認するステップ」を含む方法
イ一致点:資材供給源から資材の宛て先へ資材を配送するための資材配送シス
テムを動作させる方法であって,該システムが,「(a)前記資材の配送を開始す
るステップと,(b)流量計を通過する前記資材に関して前記流量計から流量情報
を受け取るステップと,(c)前記流量情報に基づいて,前記流量計を通過する資
材の1次測定値を計算するステップと,(e)前記1次測定値を,前記資材の配送
において配送される資材の1次合計値に加算するステップと,(g)前記1次合計
値が前記1次目標より大きいか或いはこれに等しいかを決定するステップと,
(h)前記1次合計値が前記1次目標より大きいか或いはこれに等しいとの決定に
応答して,前記資材の配送を終了するステップ」を含む方法
ウ相違点:本願発明は,2次測定値に関して,「(d)前記流量情報に基づい
て,前記流量計を通過する資材の2次測定値を計算するステップと,(f)前記2
次測定値を,前記資材の配送において配送される資材の2次合計値に加算するステ
ップと,(i)前記1次合計値が前記1次目標より小さいとの決定に応答して,前
記2次合計値が前記2次目標より大きいか或いはこれに等しいかを決定するステッ
プと,(j)前記2次合計値が前記2次目標より大きいか或いはこれに等しいとの
決定に応答して,前記資材の配送を終了するステップ」を備え,かつ,「(k)前
記2次合計値が前記2次目標より小さいとの決定に応答して,前記のステップ
(b)∼(j)を反復するステップ」をも含むものであるのに対し,引用発明2は,
体積流量とは異なる流量情報である「石油製品の重量について,体積流量に基づい
て算出した充填流量が予定量に達した後に計算・確認する」のみである点
4取消事由
(1)サポート要件に係る判断の誤り(取消事由1)
(2)明確性の要件に係る判断の誤り(取消事由2)
(3)引用発明1に基づく進歩性判断の誤り(取消事由3)
(4)引用発明2に基づく進歩性判断の誤り(取消事由4)
第3当事者の主張
1取消事由1(サポート要件に係る判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)本願発明の課題
本願発明は,二つの制限要素を目標として設定し,配送される資材の1次合計値,
2次合計値が各目標に達したか否かを決定するため,制限要素の中から一つの制限
要素を取り出して,低い制限値を設定することなく,配送の最大化を図ることを目
的とする資材の配送に関する方法の発明であるところ,方法の発明において,その
方法が何に適用されるのかは,方法そのものの構成要素とはいえないから,これら
を請求項に記載する必要はない。
したがって,本願発明は,その構成における方法をバッチ配送に適用することに
より,「資材供給源から資材の宛て先へ配送される資材の量を最大化する」という
効果を奏するものであって,本願発明の請求項において特定される事項のみでバッ
チ配送における課題を解決することはできないとした本件審決は誤りである。
(2)「1次測定値」及び「2次測定値」の意味
本願発明において,文言上,「1次測定値」,「2次測定値」と定められている
のみならず,各「測定値」が同じものではないことは,本願明細書の記載からも明
らかであり,同じものである場合をも含むとする本件審決は,誤りである。
(3)流量計の意味
本願発明の優先日当時において,「流量」以外の情報(密度や温度に関する情
報)を出力する流量計は周知であったから,当業者が本願発明の「流量計」から得
られる「流量情報」との文言に接した場合,容積流量及び質量流量のみならず,
「流量」以外の情報も得られることは当然に理解できるものである。
(4)小括
以上からすると,本願発明は,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたもの
というべきであって,いわゆるサポート要件を充足するものである。
なお,本件審決は,本願発明の特許請求の範囲について,その記載事項により特
定されるものとして,進歩性について判断しており,本願発明は,その文言自体が
理解可能であることは,本件審決も認めているものである。
〔被告の主張〕
(1)本願発明の課題
本願発明には,「バッチ配送に適用すること」自体が特定されておらず,「資材
の量を最大化する」という課題に対応する事項が必要十分に特定されていない。
(2)「1次測定値」及び「2次測定値」の意味
本願発明の請求項において,「1次測定値」及び「2次測定値」は,それぞれ
「1次合計値」及び「2次合計値」を算出する値として特定されているにすぎない。
したがって,本願発明の請求項は,「体積」,「質量」又は「正味固体」から選
択される物性の異なる2つの測定値を選択するという本願明細書の発明の詳細な説
明に記載された範囲を超え,これを拡張ないし一般化して本願発明の技術的範囲を
記載しているものであって,出願時の技術常識に照らしても,当該請求項に記載さ
れた範囲まで発明の詳細な説明に記載されていたということができるものではない。
(3)流量計の意味
「流量計」から得られる情報は「流量」であると解するのが一般的であり,流量
計によって,流量以外の情報が得られることが周知であるとしても,「流量」以外
の情報までをも計測するものが一般的であるとはいえない。
本願発明の請求項において,「流量情報」と特定しているにもかかわらず,その
「流量情報」には「流量」以外の情報が含まれるとする原告主張は矛盾である。
(4)小括
以上からすると,本願発明は,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたもの
とはいえず,サポート要件を充足するものではない。
なお,本件審決は,本願発明の請求項の記載要件を善解して,念のため,本願発
明の進歩性について判断したものにすぎない。
2取消事由2(明確性の要件に係る判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)流量情報の意味
本願発明の優先日当時,「流量」以外の情報も出力することができる流量計があ
ること,「流量計」から「流量」以外の情報が得られることは,広く知られていた。
本願明細書は,単なる「流量」のみならず,流量以外の流体に関する情報を包摂
する意味で,「流量情報」との用語を用いたものである。当業者にとって,「流量
計」から得られる「流量情報」が単に流量に限られないことは,明確である。
(2)正味固体値の意味
本願明細書の発明の詳細な説明によると,「正味固体」の測定値が,「正味固体
値」であることは,明らかである。
また,「流量情報」には,「流量」以外の情報が含まれるから,かかる「流量情
報」の処理により,「正味固体値」を生成することができることは,当業者にとっ
て明確であり,これを意味不明であるとした本件審決の認定は誤りである。
(3)小括
以上からすると,本願明細書の記載内容は明確であって,いわゆる明確性の要件
も充足するものである。
〔被告の主張〕
(1)流量情報の意味
「流量情報」という語は,「流量」に関する「情報」という一般的な意味の限度
では日本語として明確であるが,それ以外の情報を含むことまで一般的に認識され
ているとはいえない。
また,本願明細書でも,「流量情報」に「流量」以外の情報が含まれることは明
確にされていないから,「流量」以外の情報が含まれるものと解すべきではない。
(2)正味固体値の意味
本願発明の請求項5の発明に用いられている「正味固体測定値」なる語は,技術
的に確立した意味を有する物性値ということはできない。
(3)小括
以上からすると,本願明細書の記載は明確性の要件を充足するものではない。
3取消事由3(引用発明1に基づく進歩性判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)引用発明1の認定の誤り
ア本件審決は,本願発明と引用発明1との対比において,引用発明1の「計量
手段」を「ガス通過量計量手段」と認定している。
しかしながら,引用発明1のガス通過量計量手段は,ガスが通過するガスメータ
本体を含まないものである。
したがって,ガスメータ本体内にある計量手段とガス通過量計量手段を同視する
ことはできない。
イ引用発明1において,計量手段は「ガスの通過量検出信号」を出力するもの
ではないから,引用発明1が「計量手段からガスの通過量検出信号を入力するステ
ップ」を有するとした本件審決の認定は誤りである。
「計量手段から」のガスの通過量検出信号を意味すると思われる「前記通過量検
出信号」についても,同様に誤りである。
さらに,引用発明1においては,使用残量が0に達したときのみ,ガスの供給が
終了するのであるから,ガスの通過量がガス制限通過量に達した際に,ガスの供給
を「終了する」とした本件審決の判断は誤りである。
ウなお,被告は,「ガス通過量計量手段」は「計量手段」の誤記であると主張
するが,本件審決の理由を事後的に書き換えるに等しい主張であり,相当ではない。
(2)一致点の認定の誤り
ア本件審決は,本願発明の各語と引用発明1の各語とを対比した上,一致点を
認定している。
しかしながら,引用発明1は,ガスの通過量が一定量となった場合に,一時的に
ガスの供給を止める安全機構を組み込んだ前金式ガスメータに係る発明であり,本
願発明とは,全体として,別の発明である。したがって,そもそも本願発明と引用
発明1との一致点は存在しない。
イ本願発明は,2つの目標を監視することによって資材供給源から資材の宛て
先へ配送される資材の量を最大化することを前提に,1次目標,2次目標を定めて
いるのに対し,引用発明1には,1次目標,2次目標はない。
また,ガスの使用残量は,引用発明1におけるガスの連続通過量と同じものでは
なく,「前記流量計を通過する資材の」には該当しない。
さらに,引用発明1における,「ガス制限通過量」との比較を行うための「ガス
連続通過量」は,本願発明の「1次測定値」に該当しない。引用発明1には,パル
スの個数から算出された量を,さらに加算して合計値を算出するという構成に関す
る開示もない。
ウ引用発明1において,使用残量は,減算により算出しており,累積値として
算出していない。
制限通過量は,ガスの供給を一時的に停止するための制限要素であって,ガスの
供給を終了する制限要素ではないので,本願発明の1次目標に該当しない。また,
ガス使用残量の計算において,累積値は算出されていない。
エしたがって,引用発明1には,一致点1のうち,「(d)前記流量情報に基
づいて,前記流量計を通過する資材の2次測定値を計算するステップと,(f)前
記2次測定値を,前記資材の配送において配送される資材の累積値として算出する
ステップと,(i’)前記1次合計値が前記1次目標より小さいとの決定に応答し
て,前記累積値が前記2次目標に達したかを決定するステップと,(k’)前記累
積値が前記2次目標に達していないとの決定に応答して,前記のステップ(b)∼
(j’)を反復するステップ」との構成を有するものではない。
オ以上からすると,本願発明と引用発明1とにおいて,本来,一致点は存しな
いが,少なくとも上記イ及びウに指摘した各事項については,これを本願発明と引
用発明1とにおける一致点とした本件審決の判断は誤りであり,本願発明と引用発
明1との相違点として認定されるべきである。
(3)進歩性判断の誤り
ア本件審決は,本願発明の2次測定値に関する判断について,何らの文献を示
すことなく,当業者が単に設計上適宜に決定する程度のことにすぎないとしており,
そのように断定する合理的理由を示していない。
イまた,引用発明1は,単なる前金式ガスメータにすぎず,引用発明1には,
2つの目標を監視することによって資材供給源から資材の宛て先へ配送される資材
の量を最大化するという課題も,これを解決するための方法の開示も示唆もないの
みならず,得られる効果も本願発明とは全く異なるものである。
(4)小括
以上からすると,本願発明について,引用発明1に基づいて進歩性を否定した本
件審決の判断は誤りである。
〔被告の主張〕
(1)引用発明1の認定の誤り
ア本件審決が,引用発明1の認定において記載した「計量手段」は,同発明の
「ガス通過量検出手段」を意味しないことは,本件審決の文言から明白である。
また,引用発明1の「ガス通過量検出信号」は,計量手段の出力する計量値に基
づいて出力される信号であるから,引用発明1が「(イ)計量手段を通過する前記
ガスに関して前記計量手段からガスの通過量検出信号を入力するステップ」を有す
るとした本件審決の判断に実質的な誤りはない
イ原告は,本件審決が「計量手段」と「ガス通過量検出手段」とを同視する点
が誤りであると主張するが,本件審決書の本願発明と引用発明1との対比に関する
記載部分における「ガス通過量計量手段67」が「計量手段」の誤記であることは
明らかである。
ウ引用発明1において,「計量手段」を通過するのは,「ガスの使用残量」で
はなく,「ガス」そのものであることは明らかである。また,原告の主張が,「ガ
ス」が「ガス通過量検出手段67」を通過しないことを主張する趣旨であるならば,
それは,本件審決の「ガス通過量計量手段67」が「計量手段」の明らかな誤記で
あることを前提としない不当な主張にすぎない。
また,引用発明1は,「ガス連続通過量がガス制限通過量に達した場合に,開閉
弁は遮断される…」構成を有するから,それをもって,「(カ)前記ガス連続通過
量が前記ガス制限通過量に達したとの決定に応答して,前記ガスの送給を『終了す
る』ステップ」と認定することに何らの誤りもない。
(2)一致点の認定の誤り
ア本願発明の請求項には,「バッチ配送」に関する事項が特定されていない。
したがって,本願発明は,「資材供給源から資材の宛て先へ資材を配送するため
の資材配送システム」を対象とした方法に関する発明であり,「バッチ配送」のほ
か,引用発明1のような,ガスを配送するシステムにも適用されるものである。
イ本願発明の請求項において特定される事項のみでは,本願発明が「2つの目
標を監視することによって資材供給源から資材の宛て先へ配送される資材の量を最
大化する」という課題を解決する発明に限定されるものではない。
また,引用発明1においては,2つの目標,すなわち,「ガス連続通過量」に対
して「ガス制限通過量」という目標,「使用残量」に対して「ガス使用許容量」か
ら減算されて「ゼロ」になったかという目標がそれぞれ設定されているといえる。
さらに,「ガスの連続通過量」と「ガスの使用残量」とは,いずれも,計量手段
が計量した「ガス」という同じ資材の通過量に基づいて,それぞれ算出されている
ことは明らかである。
なお,引用発明1の「ガス連続通過量」は,本願発明の「1次合計値」に相当す
るものである。
ウ「直前のサイクルで計算された使用残量」から,「当該サイクルでの使用
量」を「減算する」ことは,「直前のサイクルで計算された使用残量」に「当該サ
イクルでの使用量のマイナス値」を「加算する」ことと同義である。さらに,その
加算を繰り返し行うことは,その演算結果を累積するものにほかならないから,ガ
スの「使用残量」を資材の「累積値」として認定したことに誤りはない。
エ以上のとおり,本件審決における一致点の認定に誤りはなく,したがって,
相違点を看過した誤りもない。
(3)進歩性判断の誤り
ア一般に,所定量の物品を計量する際,「順次加算してゆき,所定量に達した
ときに計量を終了する手法」は,本願発明の優先日以前において常識的に行われて
いる周知慣用の手法である。
そして,引用発明1において,ガスの使用量が所定の投入物の投入量に対応して
設定されるガス使用許容量に達したかを判断するに当たり,引用発明1のように,
ガス使用許容量からガスの使用量を減算し,ガス使用残量がゼロに達したかを判断
するか,ガスの使用量を順次加算し,ガス使用合計値がガス使用許容量に達したか
を判断するという周知慣用の手法を適用するかについては,当業者が単に設計上適
宜に決定する程度のことにすぎない。
イ本願発明の請求項においては,発明の詳細な説明に記載された「資材供給源
から資材の宛て先へ配送される資材の量を最大化する」という課題に対応した手段
が請求項において特定されていないから,本願発明においては,かかる効果を奏す
るということはできず,例えば,「異なる2つの目標に基づいて,資材供給源から
資材の宛て先へ資材を配送する」程度の効果を奏するものと解されるにすぎない。
したがって,本件審決が,本願発明について,引用発明1と比較して予測されな
いような効果を奏するものとも認められないとした判断に誤りはない。
(4)小括
以上からすると,本件審決が,相違点1についても当業者が容易に想到できるも
のであるとした上で,本願発明の進歩性を否定した判断は,相当である。
4取消事由4(引用発明2に基づく進歩性判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)引用発明2の認定の誤り
ア引用例2が開示する発明は,製油所などにおけるタンクローリー出荷システ
ムの改良に関する発明であり,従来のシステムが,石油製品の充填の前後でローリ
ーの重量を計量し,体積計を使って充填していたところ,体積計による充填精度が
悪く,過剰(過剰充填)や不積(不足充填)が生じやすいという課題を解決するた
めに,従来技術の体積計による充填に換えて,質量計による充填を行い,質量計に
空のローリーを載せ,そのままローリーの重量を測定しながら石油製品を充填する
というものであり,引用例2には,従来技術である体積計を用いた充填作業につい
ての詳細な記載はない。
イ引用例2には,体積計を使用して充填する従来の出荷システムが記載されて
いるといえるが,「体積計から体積流量を受け取るステップ」,「体積流量に関す
る情報に基づいて,体積計を通過する石油製品の充填流量を計算するステップ」,
「充填流量が予定量に達したかどうかを決定するステップ」,「充填流量が予定量
に達したとの決定に応答して,石油製品の搬送を終了するステップ」,「石油製品
の配送を終了した後に,計重したローリーの重量から石油製品の重量を計量・確認
するステップ」が記載されているとはいえない。
ウ本件審決は,引用発明2には,「(カ)石油製品の配送を終了した後に,計
重したローリーの重量から石油製品の重量を計量・確認するステップ」が存すると
するが,引用例2及び本件審決が引用する「LPG出荷設備の集中管理」と題する論
文(小西真裕著・昭和42年公表。甲3。以下「甲3文献」という。)のいずれに
も,空のローリーの重量を計測し,充填後の出荷前にローリーの重量を計測する旨
の記載はあるが,これらからローリー中の石油製品の重量を計量・確認することに
関する記載はない。甲3文献の,「空車計重伝票作成」,「満車計重伝票作成」な
どの記載からすると,甲3文献が開示する電子計算機による合理化は,空車及び満
車における重量測定の結果を自動的に電子計算機に送り,この伝票を自動的に作成
することにあるものと考えられ,空車重量と満車重量とから充填された石油製品の
重量を計算することまでを含むものではないと理解するのが素直な解釈である。
確かに,被告主張のとおり,空車重量と満車重量との差から充填された石油製品
の重量を計算することは,理論上可能ではあるが,引用例2には,石油製品の重量
を計量・確認することに関する記載はないから,理論上可能あるからといって,引
用例2に記載されていない構成を引用発明2の構成として認定すべきではない。
したがって,引用発明2は,上記ステップを有するものではない。
(2)一致点の認定の誤り
本願発明は,2つの目標を監視することによって資材供給源から資材の宛て先へ
配送される資材の量を最大化することを前提に,1次目標,2次目標を定めている
が,引用発明2は,2つの目標を監視することによって資材供給源から資材の宛て
先へ配送される資材の量を最大化するものではないから,引用発明2には,1次目
標,2次目標がない。
また,引用例2には,ローリーの重量を計量することが記載されているだけで,
被告が主張する「実重量」についても複数のステップに基づいて監視されるという
技術思想を内在するものではない。
したがって,本願発明と,「1次測定値」,「2次測定値」,「1次合計値」,
「2次合計値」の概念を有さない引用発明2とは,技術思想が全く異なるものであ
り,本件審決が,両発明の一致点として,「(c)前記流量情報に基づいて,前記
流量計を通過する資材の1次測定値を計算するステップと,(e)前記1次測定値
を,前記資材の配送において配送される資材の1次合計値に加算するステップと,
(g)前記1次合計値が前記1次目標より大きいか或いはこれに等しいかを決定す
るステップと,(h)前記1次合計値が前記1次目標より大きいか或いはこれに等
しいとの決定に応答して,前記資材の配送を終了するステップ」との各構成を指摘
したのは誤りで,本願発明と引用発明2との相違点として認定されるべきである。
(3)周知技術の認定の誤り
周知技術2は,複数の積荷の積み合わせに関する発明であるから,仮に周知例2
に何らかの周知技術が開示されているとしても,その技術は,複数の積荷の積み合
わせに関するものにすぎない。
したがって,本件審決が,特に根拠を示すことなく,周知例2から,ア)資材を
有限の容器(車両等)に収容して配送する際に,容器の最大重量,最大容積等の要
件にもとづいて配送すべき資材の合計値を2つの要件以内とし,積載状態を判断す
ること,及び,イ)配送すべき資材に関する1つのパラメータについて資材が追加
される毎に順次各々のパラメータの値を加算してゆき,当該パラメータについての
加算値が制限値に達する前に資材に関する別のパラメータについて加算した合計値
が当該別のパラメータの制限値に達したかどうかを判断し,何れのパラメータも各
制限値以下である場合には継続して配送を行うようにする手法について,周知の資
材配送技術として,一般化,上位概念化することは相当ではない。
(4)進歩性判断の誤り
ア引用例2が開示する発明は,体積計の使用を排除し,質量計を用いることに
よって目的を達成しようとする発明であり,体積計を使用することは,むしろ発明
の目的に反するものとして積極的に排除されており,体積計を使用する周知技術と
の組み合せについては阻害事由がある。
また,引用例2が開示する発明においては,体積計か質量計のいずれかを用いて,
石油製品を充填すれば足りるのであるから,両者を用いる理由もない。すなわち,
引用例2には,体積計による充填状態の監視に加え,別のチェック機構が必要であ
ることが認識されていたことを示唆する記載はない。
イ引用発明2には,ローリーへの石油製品の充填作業の終了基準として,二つ
の基準を用いて資材供給源から資材の宛て先へ配送される資材の量を最大化すると
の技術思想の開示や,これを必要とする課題の提示ないし示唆もないから,引用発
明2に周知の計量計技術,周知の配送管理技術を組み合わせる動機付けはない。
被告は,本願発明の効果を,「異なる2つの目標に基づいて,資材供給源から資
材の宛て先へ資材を配送する程度」にすぎないものと誤って解釈しているものであ
り,進歩性判断の前提に根本的な誤りがあるものといえる。
(5)小括
以上からすると,本願発明について,引用発明2に周知技術を適用することによ
り進歩性を否定した本件審決の判断は誤りである
〔被告の主張〕
(1)引用発明2の認定の誤り
ア体積計を使用した充填方法において,「体積計から体積流量を受け取るステ
ップ」,「体積流量に関する情報に基づいて,体積計を通過する石油製品の充填流
量を計算するステップ」,「充填流量が予定量に達したかどうかを決定するステッ
プ」,「充填流量が予定量に達したとの決定に応答して,石油製品の搬送を終了す
るステップ」の順に実施する方法は,引用例2のみならず,本願発明の優先日以前
に公開された特公平2−36478号公報(乙6)及び特公平4−42273号公
報(乙7)に記載されているように,技術常識ともいえる周知技術である。
また,引用発明2の「体積計を使用して充填を行ない」との記載は,当然に,上
記周知技術の構成を有することを意味するものである。
イ甲3文献に,「LPGの取引き単位は重量であり,ローリー出荷については計
重はかりを用いているので問題はない…。」と記載されているとおり,取引を石油
製品の重量で行うことが一般的である以上,空車重量と満車重量から充填された石
油製品の重量を計算することは,当業者であれば容易に認識し得る事項である。
(2)一致点の認定の誤り
引用発明2においては,体積計により「体積流量」を監視するのみならず,出荷
前には過積等が生じていないか質量計で実重量を計量し,「過積の場合は…過剰充
填分を抜き出し所定量になるように調整する」作業により,「実重量」についても
監視するという技術思想が内在する。
したがって,引用発明2においては,充填時の「体積流量」及び充填後の「実重
量」という物性の異なる2つの量を監視するものである。
本願発明と引用発明2との一致点の認定について,本件審決には誤りはなく,相
違点を看過した誤りもない。
(3)周知技術の認定の誤り
周知例2における,「車両に物理的に積載可能か否か,積載量が制限値を越えて
いるか否かを計算」することは,「輸送器の寸法,及び,積載可能重量に基づく制
限値を越えているか否かを計算」することを意味するから,周知例2には,これか
ら積載しようとする積荷が,輸送器の寸法及び積載可能重量との比較で,物理的に
積載可能であるか,重量が制限値を超過していないかを判定し,超過していないと
きには所定の過程のあとに積荷の紐付けを終了して次の積荷に作業を変更し,超過
しているときには当該積荷を別の輸送器との紐付けにまわすという周知技術が開示
されているものということができる。
(4)進歩性判断の誤り
ア引用例2は,体積計による充填を行う場合には,体積計による充填状態の監
視に加え,別のチェック機構が必要であることが認識されていたことを示唆するも
のであり,さらに,引用例2に記載された従来技術は,体積計による充填状態の監
視に加え,質量計により実重量を計量することにより,二重の監視を行っているこ
とを示唆するものである。
引用発明2において,既に実行されている「体積計」及び「質量計」による監視
を行うにあたり,上記「周知の資材配送技術」である「体積,重量の2つのパラメ
ータに基づいて監視する」概念,及び,本件審決が「周知の流量計技術」として記
載した「流体について2つの流量情報を生成する」技術を採用することに,阻害事
由はない。
イ引用発明2と,「周知の資材配送技術」は,前提とする課題(資材の輸送の
効率化)が共通するものであるから,引用発明2に,上記「周知の資材配送技術」
である「体積,重量の2つのパラメータに基づいて監視する」概念を組み合わせる
充分な動機付けが存在するといえる。
(5)小括
以上からすると,本件審決が,相違点2についても当業者が容易に想到できるも
のであるとした上で,本願発明の進歩性を否定した判断は,相当である。
第4当裁判所の判断
1取消事由4(引用発明2に基づく進歩性判断の誤り)について
原告は,本件審決の取消事由として,前記第3の1ないし4のとおり主張するが,
事案にかんがみ,まず取消事由4から検討することとする。
(1)本願発明について
ア本願明細書には,発明の詳細な説明として,以下の記載がある。
(ア)本発明は,バッチ(batch)配送システムに関し,特に資材供給源から資
材の宛て先への資材の配送を最大化するバッチ配送システムに関するものである
(【0001】)。
(イ)配送される資材量を制御し計測する自動化設備によって資材が資材供給源
から資材の宛て先へ配送されるバッチ配送システムは,公知である。バッチ配送プ
ロセスにおける課題は,配送される資材の量を最大化しかつ資材の積載及び輸送の
コストを最小化することである。配送される資材の最大量は,顧客が注文した量と,
質量あるいは容積のような容器の物理的制約と,資材の物理的特性と,資材の輸送
を規定する何らかの政府の統制とを含むがこれに限定されない種々の配送パラメー
タによって制限される(【0002】)。
(ウ)配送される資材がある基準を満たすかあるいはこれを越えるまで資材の配
送を監視することによって,資材の配送が制御されることは公知である。ある基準
とは,バッチ配送プロセスにおいて満たされねばならない配送パラメータにおける
1つの制限である(【0003】)。
(エ)したがって,資材の供給源から資材の宛て先への資材の配送において1つ
の基準のみを監視することは,バッチ配送の最大化をもたらす結果とならないので
問題であることがわかる(【0006】)。
(オ)上記および他の課題は,2つの目標を監視することによって資材供給源か
ら資材の宛て先へ配送される資材の量を最大化する本発明のバッチ配送システムに
よって解決される。1次目標は,宛て先に対する資材の配送のための配送パラメー
タにおける最も重要な制限の量である。典型的には,この1次目標は,顧客が発注
した資材の量と,容器または輸送の主要な制限とのうちの少ない方の量である。
2次目標は,宛て先への資材の配送における2番目に重要な制限の量である
(【0007】)。
(カ)本発明の1つの利点は,宛て先へ配送される資材の量が,1次目標若しく
は2次目標を満たさないか,又は越えないけれども最大化されることである(【0
008】)。
イ本願発明の技術内容
以上の記載からすると,本願発明は,バッチ配送システムにおける資材の配送を
制御する方法について,配送される資材の量を最大化し,かつ資材の積載および輸
送のコストを最小化することを課題とした発明であって,配送する資材の量を制限
する2つの配送パラメータについてそれぞれ目標(最も重要な制限の量である1次
目標及び2番目に重要な制限の量である2次目標)を設定し,資材の配送に当たり
2つの配送パラメータを監視し,いずれかの配送パラメータが目標に達したとき,
配送を終了することを特徴とする発明であるということができる。
(2)引用発明2について
ア引用例2(甲2)には,以下の記載がある。
(ア)特許請求の範囲
タンクローリーを質量計にのせたまま該タンクローリー内の残ガスを排出すると
共に供給管から該タンクローリー内に石油製品を充填しつつ前記質量計にかかる荷
重を指示演算処理機に入力し,該荷重が設定値に達した時に前記指示演算処理機か
らの指令により供給管に取付けた定量弁を閉止することを特徴とする石油製品の出
荷システム
(イ)発明の詳細な説明
a本発明は,石油精製工場等におけるローリー出荷システム等,質量計による
石油製品の出荷システムの改良に関する発明である。
b昭和40年ころから,石油製品の出荷システムの合理化について,小型電子
計算機を導入した各種方法が開発されており,たとえば「LPG出荷設備の集中管
理」(判決注・甲3文献)にその方法が解説されている。
しかしながら,従来の出荷システムでは質量計でローリーの空重量を計量後,体
積計を使用して充填を行ない,その後に再度質量計で実重量を計量してから出荷を
行なっているため,様々な問題点が生じる。すなわち,当該システムでは体積計を
用いて石油製品を充填するため充填精度が悪く,また,体積計の精度やローリー内
の残ガス処理手段等の差異により過積(過剰充填)や不積(不足充填)が生じやす
い。過積の場合は非常に危険で,安全対策上,過剰充填分を抜き出し所定量になる
ように調整する必要がある。一方,不積の場合は輸送費が割高となり不経済である。
c本発明は,従来の体積計に代えて質量計を採用し,タンクローリーを質量計
に載せたままタンクローリー内の残ガスを排出するとともに,供給管からタンクロ
ーリー内に石油製品を充填しつつ質量計にかかる荷重を指示演算処理機に入力し,
荷重が設定値に達した時に指示演算処理機からの指令により供給管に取付けた定量
弁を閉止することを特徴とする石油製品の出荷システムである。
d本発明に用いる質量計はタンクローリーの空重量及び実重量を計量できるも
のであり,質量計にかかった荷重は指示演算処理機へ入力信号として送られる。こ
の指示演算処理機には電子計算機が含まれており,ここで質量計から送られてきた
入力信号を受け取り,あらかじめ設定された重量値と比較演算し,質量計にかかる
荷重が設定値に達した時に,この指示演算処理機から供給管に設置された定量弁に
信号が発せられる。定量弁は指示演算処理機からの信号に基づいて自動的に閉止し,
その結果タンクローリーへの石油製品の供給が停止される。
eなお,充填中の質量計の重量値は常に指示演算処理機に入力しておく。製品
充填量が定量値に達すると指示演算処理機の指令によって定量弁が自動的に閉じら
れ,充填が終了する。
f本発明システムは,システムが簡素化されているため操作が容易であり,従
来の容積充填方式と異なり,重量を直接計量しながら充填するため充填精度が高く,
過積や不積が防止されることにより,運送コストも低減し,安全性が大きい。
イ引用発明2の技術内容
(ア)以上の記載からすると,タンクローリーによる石油製品の出荷システムに
関し,「従来の出荷システム」は,質量計でタンクローリーの空重量を測定後,体
積計を使用して石油製品を充填し,その後,再度実重量を測定していたところ,か
かるシステムは,体積計を使用していたため,充填精度が悪く,過積(過剰充填)
や不積(不足充填)が生じやすいという課題があったことから,引用発明2には,
タンクローリーへの過積や不積を防止し,安全で経済的な輸送を行うために,従来
の体積計に代えて質量計を採用したシステムとし,石油製品をタンクローリーに充
填しつつタンクローリーの荷重を質量計で計測し,指示演算処理機は,質量計から
の入力信号を受け取り,製品充填量が予め設定された重量値(定量値)に達したと
き,定量弁を閉じ,充填を終了するという技術が開示されているものである。
(イ)引用発明2は,「従来の体積計に代えて質量計を採用したシステム」であ
り,石油製品をタンクローリーに充填しつつタンクローリーの荷重を質量計で計測
し,指示演算処理機は,質量計からの入力信号を受け取り,製品充填量が予め設定
された重量値(定量値)に達したとき,定量弁を閉じ,充填を終了するものである
ことからすると,引用例2における「従来の出荷システム」は,対比上,体積計か
ら石油製品の流量(体積流量)に関する信号を受け取り,体積計を通過しタンクロ
ーリーに充填された石油製品の体積(充填流量)を計算し,充填流量が予定量に達
したとき,石油製品の供給を停止するものであったということができる。
したがって,「従来の出荷システム」におけるタンクローリーへの石油製品の充
填方法は,「体積計から体積流量を受け取るステップ」,「体積流量に関する情報
に基づいて,体積計を通過する石油製品の充填流量を計算するステップ」,「充填
流量が予定量に達したかどうかを決定するステップ」,「充填流量が予定量に達し
たとの決定に応答して,石油製品の搬送を終了するステップ」を有していたものと
いうことができる。
(ウ)また,引用例2における「従来の出荷システム」は,タンクローリーの空
重量と充填後の実重量を測定しているところ,充填後の実重量から空重量を控除す
れば,タンクローリーに充填された石油製品の重量を求めることができることは明
らかである。
しかも,引用例2には,「従来の出荷システム」において,過積の場合は,安全
対策上,過剰充填分を抜き出し,所定量になるように調整する必要があったことが
記載されている。
(エ)さらに,甲3文献には,石油製品(LPG)の取引単位は「重量」であると
記載されていることからすると,「従来の出荷システム」は,過積載の防止,ある
いは所定の取引量に達しているか否かを判断するために,タンクローリーの空重量
と充填後の実重量を測定し,タンクローリーに充填された石油製品の重量を計量・
確認する技術であったものということができる。
(オ)したがって,引用例2の「従来の出荷システム」におけるタンクローリー
への石油製品の充填方法は,「石油製品の配送を終了した後に,計重したローリー
の重量から石油製品の重量を計量・確認するステップ」を有するものである。
ウ本件審決の引用発明2の認定
以上からすると,引用例2には,タンクローリーへの石油製品の充填方法に関す
る「従来の出荷システム」として,「(ア)前記石油製品の配送を開始するステッ
プと,(イ)体積計を通過する石油製品に関して前記体積計から体積流量を受け取
るステップと,(ウ)前記体積流量に関する情報に基づいて,前記体積計を通過す
る石油製品の充填流量を計算するステップと,(エ)前記充填流量が予定量に達し
たかどうかを決定するステップと,(オ)前記充填流量が予定量に達したとの決定
に応答して,前記石油製品の配送を終了するステップと,(カ)石油製品の配送を
終了した後に,計重したローリーの重量から石油製品の重量を計量・確認するステ
ップ」を含む方法(引用発明2)が開示されているものである。
したがって,本件審決の引用発明2の認定に何らの誤りはない。
この点について,原告は,引用例2は,従来技術の体積計による充填に代えて,
質量計による充填を行う発明を開示しているのであって,従来技術である体積計を
用いた充填作業についての詳細な記載はなく,充填作業に体積計が用いられている
ことも,体積流量の計量の手法も,記載されていないとなどと主張する。
しかしながら,本件審決は,引用例2に記載された「従来の出荷システム」を,
引用発明2とするものであり,引用例2の記載から,「従来の出荷システム」の具
体的内容を理解することができることは,先に指摘したとおりである。
原告の主張は,採用することができない。
(3)一致点の認定について
ア前記(2)のとおり,引用発明2のタンクローリーへの石油製品の充填方法は,
体積計を使用して充填を行ない,その後,石油製品の重量を測定するものであって,
「体積計から体積流量を受け取るステップ」,「体積流量に関する情報に基づいて,
体積計を通過する石油製品の充填流量を計算するステップ」,「充填流量が予定量
に達したかどうかを決定するステップ」,「充填流量が予定量に達したとの決定に
応答して,石油製品の搬送を終了するステップ」,「石油製品の配送を終了した後
に,計重したローリーの重量から石油製品の重量を計量・確認するステップ」を含
むものである。
かかる充填方法は,体積流量及び重量の測定を含み,これらの情報は,いずれも
タンクローリーに充填される石油製品の流量に関連した情報であるから,「流量情
報」ということができる。
また,体積流量及び重量は,いずれも測定値であるから,それぞれ,「1次測定
値」及び「2次測定値」ということができる。
そして,予定量は,タンクローリーに充填される石油製品の充填流量,すなわち
体積に係る「目標」であるから,「1次目標」ということができ,予定量と比較さ
れる体積流量の累積値(合計値)は,「1次合計値」ということができる。
さらに,「予定量に達したかどうかを決定する」ことは,「目標より大きいか或
いはこれに等しいかを決定する」ことに相当する。
イ以上からすると,引用発明2における各ステップは,本願発明における,
「(c)前記流量情報に基づいて,前記流量計を通過する資材の1次測定値を計算
するステップと,(e)前記1次測定値を,前記資材の配送において配送される資
材の1次合計値に加算するステップと,(g)前記1次合計値が前記1次目標より
大きいか或いはこれに等しいかを決定するステップと,(h)前記1次合計値が前
記1次目標より大きいか或いはこれに等しいとの決定に応答して,前記資材の配送
を終了するステップと」に相当すると認められる。
したがって,本件審決の一致点の認定にも,何らの誤りはなく,したがって,相
違点を看過した誤りもない。
ウこの点について,原告は,引用発明2は,2つの目標を監視することによっ
て資材供給源から資材の宛て先へ配送される資材の量を最大化するものではなく,
しかも,「1次目標」,「2次目標」はないことなどから,両発明は,技術思想が
全く異なるなどと主張する。
しかしながら,本願発明は,バッチ配送システムにおいて,配送される資材の量
を最大化し,かつ資材の積載及び輸送のコストを最小化することを課題とした発明
であるところ,引用発明2は,タンクローリーによる石油製品の出荷システムに係
る発明であって,引用例2においても,過積の場合は危険である一方,不積の場合
は輸送費が割高になり不経済であることが記載されている。
そして,資材配送システムにおいて,配送される資材の量を最大化し,かつ資材
の積載及び輸送のコストを最小化することは,当業者にとって自明な課題であると
いうことができるから,引用発明2においても,当然,当該課題は認識されていた
ものというべきであって,本願発明及び引用発明2は,技術分野及び解決しようと
する課題が共通するということができる。
また,本願発明は,かかる課題を,2つの目標(1次目標及び2次目標)を監視
することによって解決したものであるところ,引用発明2は,タンクローリーに充
填される石油製品の体積(充填流量)が予定量,すなわち「目標」に達したかどう
かを決定し,充填流量が予定量に達したとの決定に応答して,石油製品の配送を終
了するものであるから,本願発明と同様の手段によって,同様の課題を解決する発
明ということができる。
したがって,引用発明2は,技術分野及び課題において,本願発明と共通し,課
題を解決するための手段及び作用が同質のものであるから,本件審決において,本
願発明と引用発明2とを対比し,一致点を認定したことに誤りはない。
また,本件審決は,本願発明が,1次目標を監視することに加え,2次測定値に
基づいて2次目標を監視し,いずれかの目標に達したとき,配送を終了するもので
あるのに対し,引用発明2は,1次目標に達したとき,2次測定値である重量に基
づいて,充填された石油製品の重量を計量・確認する点については,相違点2とし
て認定しているのであるから,本件審決の認定が,技術思想の相違を看過したもの
ということもできない。
(4)周知技術について
ア周知例2には,以下の記載がある。
(ア)特許請求の範囲
輸送に関する基準値データを有する輸送基準値知識データベースと,輸送手段の
選択のための拘束条件データを有する輸送手段拘束条件知識データベースと,積荷
を輸送手段に積載するための評価条件データを有する積荷積載評価条件知識データ
ベースと,積荷選択ルールと輸送手段選択ルールと積荷・輸送手段紐付け判定ルー
ルとを含む積み合わせ処理ルールを有する積み合わせ処理知識データベースと,前
記輸送基準値知識データベース,前記輸送手段拘束条件知識データベース及び前記
積荷積載評価条件知識データベースに含まれる知識データと入力データに基づいて
積み合わせ処理を繰り返し行い結果を前記積み合わせ処理知識データベースに出力
する積み合わせ処理推論制御手段と,積み合わせの効率を判定するためのデータを
有する積み合わせ効率化判定条件知識データベースと,積荷選択ルールと輸送手段
選択ルールと積荷・輸送手段紐付け判定ルールと効率化判定ルールとを含む効率化
処理ルールを有する効率化処理知識データベースと,前記輸送基準値知識データベ
ース,前記輸送手段拘束条件知識データベース,前記積荷積載評価条件知識データ
ベース及び前記積み合わせ効率化判定条件知識データベースに含まれる知識データ
と入力データに基づいて効率化処理を行い結果を前記効率化処理知識データベース
に出力する効率化処理推論制御手段と,を備え,決定しようとする積み合わせ結果
についての積み合わせ効率を輸送手段の積載容量に対する積み合わせ可能な積荷の
積載量により指標化して評価し,一定の効率以上の積み合わせ案を作成することを
特徴とする積み合わせ処理装置(【請求項1】)
(イ)発明の詳細な説明
aこの発明は,トラックなどの車両や貨車等の輸送手段に,製品等の積荷を積
み合わせて運搬する際の積み合わせ計画案を計算機を用いて作成処理する積み合わ
せ処理装置に関するものである(【0001】)。
b積荷をトラック,貨車等の輸送器にいかに効率よく積み合わせるかという問
題は,基本的には組合せ問題であり,計算機で処理を行う場合,積み合わせる組み
合せのすべてについて比較しながら最もよい組合せを求めればよい。
しかしながら,このような方法では積み合わせ対象となる積荷および輸送器の数
が増加するに伴い計算量が著しく増加する(【0002】)。
c従来の積み合わせ処理装置は,積荷や輸送器の数が多い場合,積み合わせ案
の作成に長時間を要し実用的でなかったり,ベテラン作業者の経験則を取り込んだ
知識ベースに基づいてある推論過程において最もよいと判断される積み合わせ案を
選定することはできるが,最終的に最適又は一定水準以上の積み合わせ案が得られ
るという保証はないという問題点があった。
本発明は,かかる課題を解決するため,ベテラン作業者の経験則を取り込んだ知
識ベースに基づき,できるだけ効率がよく,しかも常に一定の積み合わせ効率以上
であることを保証する積み合わせ案を短時間に作成することができる積み合わせ処
理装置を提供するものである(【0015】,【0016】)。
d本発明の積み合わせ処理装置は,輸送基準値知識データベースと輸送手段拘
束条件知識データベースと積荷積載評価条件知識データベースと積み合わせ効率化
判定条件知識データベースと,複数の選択・判定ルールからなる積み合わせ処理ル
ールを有する積み合わせ処理知識データベースと,積み合わせ処理推論制御手段と
により,与えられた制約条件に適合する合理的な積み合わせ案を作成するとともに,
積荷選択ルールと輸送手段選択ルールと積荷・輸送手段紐付け判定ルールと効率化
判定ルールとを含む効率化処理ルールを有する効率化処理知識データベースと,効
率化処理推論制御手段とにより,積み合わせ効率を積み合わせ効率指数として指標
化し,この効率指数により複数の積み合わせの良し悪しを定量的に評価・判定する
過程を繰り返し,積み合わせ効率指数がよりよくなるように処理を行い,一定の効
率以上の積み合わせ案を作成することができ,輸送コストの削減を図ることができ
る(【0021】)。
e輸送器拘束条件知識ベース部には輸送器の寸法や積載可能重量等の積載容量
データが格納されており,輸送器拘束条件知識ベース部から得られる積荷の積載ル
ールにより,これから積載しようとする積荷が当該輸送器に物理的に積載可能か否
か,積載量が制限値オーバであるか否かを計算して判定する。この判定がNOであ
る場合,次のステップに進む。次のステップでは,積荷積載評価条件知識ベース部
に格納されている積荷の形状,組合せ等の積載評価条件から得られる積載ルールに
より,積荷の形状や製品の組合せの可否,例えば,「製品Xと製品Yとは同一の輸
送器には積載不可」等の制約条件を判定し,明らかにすることができる。
前記判定がYESである場合,積荷の紐付けを終了し,次の積荷への変更を指定
して,再度積み合わせ処理を実行する。また,先のステップでYES,次のステッ
プでNOの判定が出た場合,積荷を輸送器から除外し,別の輸送器との紐付けにま
わす(ステップS345,S346)(【0033】,【0034】)。
イ周知例2が開示する技術
以上の記載からすると,周知例2には,車両や貨車等の輸送手段により製品や原
材料等の積荷,すなわち資材を積み合わせて積載して運搬する場合,経験則に基づ
く積荷の積載ルールとして,輸送器の寸法及び積載可能重量などの制限条件をいず
れも満たす必要があるという課題が開示されている。
そして,車両や貨車等の輸送手段は,少なくとも輸送器の寸法及び積載可能重量
という制限条件を有する「有限の容器」ということができ,周知例2に記載されて
いるように,車両や貨車等の輸送手段に資材を積み合わせる場合,複数の制限条件
が存在する場合には,複数の制限条件をいずれも満たしているかを判断しながら資
材を積み合わせることは,一般に行われている経験則である。周知例2は,寸法や
重量が異なる複数の荷物の「積み合わせ」を前提とするが,かかる経験則は,特定
の対象物を有限の容器に積み込む際にも当然に適用されるものである。
また,周知例2には,これから積載しようとする積荷が2つの積載ルール(2つ
の制限条件)の両方を満たしているか否かについて,自動計算機を用いて判定する
ために,積荷を追加した場合に,まず,最初のステップにおける積載ルール(第1
の制限条件)を満たしているか否かを判定し,かかる積載ルールを満たす場合は,
次のステップにおける積載ルール(第2の制限条件)を満たしているか否かを判定
し,いずれかのステップにおける積載ルールを満たさない場合は,当該判定処理を
終了する構成が開示されている。
以上からすると,周知例2において開示されているように,資材の配送において,
設定された2つのパラメータのいずれもが,それぞれの制限条件を満たしているか
否かを判定する処理において,まず第1のパラメータについて,第1の制限条件を
満たしているか否かを判定し,第1の制限条件を満たしていると判定した場合は,
次に,第2のパラメータについて,第2の制限条件を満たしているか否かを判定し,
第1のパラメータについての判定又は第2のパラメータについての判定のいずれか
において,制限条件を満たしていないと判定した場合は,当該判定処理を終了する
ことは,電子計算機を用いた判定処理において通常行われる処理手段であるという
ことができる。
ウしたがって,本件審決において,「資材を有限の容器に収容して配送する際
に,容器の最大重量,最大容積等の要件に基づいて配送すべき資材の合計値を2つ
の要件以内とし,積載状態を判断すること」及び「配送すべき資材に関する1つの
パラメータについて資材が追加されるごとに順次各々のパラメータの値を加算して
ゆき,当該パラメータについての加算値が制限値に達する前に資材に関する別のパ
ラメータについて加算した合計値が当該別のパラメータの制限値に達したかどうか
を判断し,何れのパラメータも各制限値以下である場合には継続して配送を行うよ
うにする手法」を「周知の資材配送技術」として認定したことに何らの誤りはない。
エこの点について,原告は,周知例2は,複数の積荷の積み合せに関するもの
であるから,開示される周知技術は,複数の積荷の積み合せにおける技術に関する
ものにすぎないなどと主張する。
しかしながら,本件審決は,先に指摘したとおり,車両や貨車等の輸送手段によ
る資材の配送一般における経験則や,計算機を用いた処理における通常の手段を前
提として,前記「周知の資材配送技術」を認定しており,周知例2は,その例示と
して示されたものにすぎない。また,周知技術2は,周知例2の「これから積載し
ようとする積荷が当該輸送器に物理的に積載可能か否か,積載量が制限値オーバで
あるか否かを計算して判定する」との記載からも明らかなとおり,積荷を輸送器に
積載し,輸送するに当たり,容器である貨車等の最大重量,最大容積等の2つのパ
ラメータについて,その制限をいずれも満たしつつ輸送の効率化を図る発明である
から,「複数の積荷の積み合わせ」にその用途が限定される技術のみを開示してい
るものではない。原告の主張は採用できない。
(5)本願発明の進歩性について
ア本願発明の容易想到性
引用発明2において,タンクローリー内に充填できる石油製品の量は,石油製品
の体積及び荷重により制限されるものであるところ,周知例2において開示されて
いるとおり,車両や貨車等の輸送手段により資材を積み合わせて積載して運搬する
場合,輸送器の寸法及び積載可能重量などの複数の制限条件をいずれも満たす必要
があること,すなわち,複数のパラメータのうち,いずれかのパラメータが制限条
件(目標)に達するまで積載可能であることが,経験則として知られていたことか
らすると,引用発明2に開示された出荷システムにおいて,少なくとも石油製品の
体積又は荷重(重量)のいずれかが,それぞれの予定量(目標)に達するまで,タ
ンクローリー内に石油製品を充填することができること,換言すれば,いずれかが
予定量(目標)に達した場合には,それ以上充填することができないことは,当業
者であれば,自明のことというべきである。
そして,石油製品の体積及び荷重(重量)は,いずれも石油製品の流量に関する
情報,すなわち流量情報であって,測定可能な量であるから,「1次測定値」及び
「2次測定値」ということができ,また,タンクローリーの積載可能量や積載可能
重量,法令による制限などにより定まる体積の制限値及び荷重(重量)の予定量は,
石油製品を充填するに当たっての「1次目標」及び「2次目標」ということができ
るから,先に指摘した複数の制限条件をいずれも満たしているかを判断しながら資
材を積み合わせる(あるいは特定の資材を積み込む)という経験則をシステムとし
て実現すれば,1次測定値に基づいて1次目標を監視するとともに,2次測定値に
基づいて2次目標を監視し,いずれかの目標に達したとき,配送を終了する構成と
なることはむしろ当然である。
また,2つのパラメータのいずれもが,それぞれの制限条件を満たしているか否
かを判定する処理は,周知技術2が開示するとおり,計算機を用いた処理における
通常の手段であり,上記経験則を計算機を用いたシステムとして実現すれば,本願
発明に特定された構成となることは,当業者であれば容易に想到し得ることである。
イしたがって,本願発明は,引用発明2及び周知の技術に基づいて当業者が容
易に発明することができたものであるとした本件審決の判断に誤りはない。
ウこの点について,原告は,引用例2において開示されている発明は,体積計
の使用を排除し,質量計を用いることで目的を達しようとする発明であり,体積計
の使用は,積極的に排除されているから,体積計を使用する周知技術と組み合せる
ことの阻害事由があるなどと主張する。
確かに,引用例2には,「従来の出荷システム」が,体積計を使用していたため,
充填精度が悪く,過積や不積が生じやすいという課題があったことから,かかる課
題を解決するため,従来の体積計に代えて質量計を採用したことが記載されている。
しかしながら,本件審決は,「質量計」を採用した発明を引用発明2として認定
したものではなく,体積計を用いた「従来の出荷システム」を引用発明2と認定し,
容易想到性の判断の基礎としているのであって,原告の主張は,その前提自体が誤
りである。
また,原告は,引用例2には,ローリーへの石油製品の充填作業の終了基準とし
て,2つの基準を用いるとの技術思想の開示や,これを必要とする課題の提示ない
し示唆もないから,引用発明2に周知の計量計技術及び周知の配送管理技術を組み
合わせる動機付けはないなどと主張する。
しかしながら,引用発明2は,タンクローリーに充填された石油製品の体積(充
填流量)が予定量に達したとき,タンクローリーへの石油製品の供給を停止すると
ともに,タンクローリーの空重量と充填後の実重量から,タンクローリーに充填さ
れた石油製品の重量を求め,タンクローリーに充填された石油製品の重量を計量・
確認する発明であるから,タンクローリーに石油製品を充填する場合,石油製品の
体積(充填流量)及び重量の制限条件があることは,当業者において,当然認識さ
れていたものということができる。
さらに,配送される資材の量を最大化し,かつ資材の積載及び輸送のコストを最
小化することは,資材配送システムにおける自明な課題であり,また,車両や貨車
等の輸送手段に資材を積み合わせる場合等,複数の制限条件がある場合には,すべ
ての制限条件を満たしているかを判断しながら資材を積み合わせることは,一般に
行われている経験則であることは先に指摘したとおりであるから,引用発明2にお
いて,石油製品の体積(充填流量)及び重量の2つの制限条件に基づいて充填の終
了を判断することは,当業者であれば,当然に考えることであって,動機付けもあ
ったということができる。原告の主張は,採用できない。
2本件審決の判断の当否
以上によると,引用発明2に,周知技術を適用し,相違点2に係る構成を採用す
ることが,当業者において容易に想到し得るものであるとした本件審決の判断に誤
りはない。
したがって,取消事由4(引用発明2に基づく進歩性判断の誤り)から検討する
こととしたため,判断を留保した原告主張の取消事由1(サポート要件に係る判断
の誤り)及び取消事由2(明確性の要件に係る判断の誤り)に理由があったとして
も,また,取消事由3(引用発明1に基づく進歩性判断の誤り)に理由があったと
しても,取消事由4に理由がない以上,原告の本件出願を拒絶すべきであるとした
本件審決の判断は相当であるといわなければならない。
3結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官本多知成
裁判官荒井章光

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