弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成27年11月30日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成26年(ワ)第10848号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成27年9月11日
判決
当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告らは,別紙物件目録記載の各製品を生産し,譲渡し,貸し渡し,若しく
は輸入し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡若しくは貸渡しのための展示
を含む。)をしてはならない。
2被告らは,その占有に係る別紙物件目録記載の各製品及びその半製品を廃棄
せよ。
3被告ユニチカ株式会社は,原告に対し,3億0800万円及びこれに対する
平成26年5月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を(被告株式会社
ライフアートプランテックと連帯して)支払え。
4被告株式会社ライフアートプランテックは,原告に対し,3億0800万円
及びこれに対する平成26年5月16日から支払済みまで年5分の割合による金員
を(うち3億0800万円及びこれに対する同月17日から支払済みまで年5分の
割合による金員については被告ユニチカ株式会社と連帯して)支払え。
第2事案の概要
1本件は,発明の名称を「透明不燃性シート及びその製造方法」とする特許第
5142002号の特許権(以下「本件特許権1」といい,同特許権に係る特許を
「本件特許1」といい,その願書に添付した明細書を「本件明細書1」とい
う。)及び発明の名称を「透明不燃性シートからなる防煙垂壁」とする特許第51
42055号の特許権(以下「本件特許権2」といい,同特許権に係る特許を「本
件特許2」といい,その願書に添付した明細書を「本件明細書2」という。ま
た,本件特許権1と本件特許権2を併せて「本件各特許権」といい,本件特許1
と本件特許2を併せて「本件各特許」といい,本件明細書1と本件明細書2を併
せて「本件各明細書」という。)を有する原告が,被告株式会社ライフアートプラ
ンテック(以下「被告LAP」という。)が製造する別紙物件目録記載1の防煙垂
壁(以下「本件防煙垂壁」という。)は,本件特許1の特許請求の範囲の請求項1
ないし3に係る各発明(以下「本件発明1-1」ないし「本件発明1-3」とい
う。)又は本件特許2の特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る各発明(以下
「本件発明2-1」ないし「本件発明2-4」という。また,本件発明1-1な
いし1-3と本件発明2-1ないし2-4を併せて「本件各発明」という。)の
技術的範囲に属し,被告ユニチカ株式会社(以下「被告ユニチカ」という。)が製
造して被告LAPに販売する別紙物件目録記載2のシート(以下「本件シート」と
いう。)は,上記のとおり本件各特許の直接侵害品である本件防煙垂壁の生産にの
み用いるもの又は本件各発明による課題の解決に不可欠なものであり,これについ
て間接侵害(特許法101条1号又は2号)が成立する旨主張して,被告ら双方に
対し,特許法100条1項,2項に基づき,本件防煙垂壁及び本件シート(以下,
両者を併せて「本件防煙垂壁等」という。)の生産,譲渡,貸渡し,輸入又は譲渡
若しくは貸渡しの申出(以下,これらを併せて「譲渡等」という。)の差止め並び
に本件防煙垂壁等及びその半製品の廃棄を求める(なお,原告は,本件シートの譲
渡等をしていない被告LAPに対して本件シートの譲渡等の差止め及び廃棄を求め
る必要性や,本件防煙垂壁の譲渡等をしていない被告ユニチカに対して本件防煙垂
壁の譲渡等の差止め及び廃棄を求める必要性を主張していない。)とともに,被告
らによる特許権侵害の共同不法行為が成立する旨主張して,民法709条,719
条に基づき,損害賠償金3億0800万円及びこれに対する不法行為の後である各
訴状送達日の翌日(被告LAPについては平成26年5月16日,被告ユニチカに
ついては同月17日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金
の連帯支払(ただし,同月16日の遅延損害金については連帯せず被告LAPのみ
の支払)を求める事案である。
2前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実。なお,特に断らない限り,書証の枝番の記載は省略す
る。)
(1)当事者
ア原告は,グラスファイバー製品等の製造,販売等を業とする株式会社である
(弁論の全趣旨)。
イ被告ユニチカは,ガラス繊維製品等の製造,販売等を業とする株式会社であ
る(弁論の全趣旨)。
ウ被告LAPは,内装の施工,メンテナンス等を業とする株式会社である(弁
論の全趣旨)。
(2)本件特許権1
原告は,以下の特許権(本件特許権1)を保有している(甲1,2)。
特許番号第5142002号
出願日平成16年5月11日
登録日平成24年11月30日
発明の名称透明不燃性シート及びその製造方法
特許請求の範囲別紙特許公報(甲2)の【特許請求の範囲】記載
のとおり
ア本件発明1-1(請求項1に係る発明)を構成要件に分説すると,次のとお
りである。
1A透明不燃性シートからなる防煙垂壁であって,
1B該透明不燃性シートが,少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前記
ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む透明不燃性シート
であって,
1C前記硬化樹脂がビニルエステル樹脂であり,
1D前記ガラス繊維織物が30~70重量%であり,前記一対の硬化樹
脂層が70~30重量%であり,
1E前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記
一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以
下であり,
1F前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記
一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差が30以下
であり,
1G全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが20%以下であ
り,
1H輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの表面に50kW/㎡の輻
射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量
が8MJ/㎡以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が
10秒以上継続して200kW/㎡を超えない透明不燃性シートであ
る,
1I防煙垂壁。
イ本件発明1-2(請求項2に係る発明)の構成要件は,上記構成要件1Aな
いし1I(引用に係る請求項1に係る発明の構成要件)と,次の構成要件1Jに分
説される。
1J透明不燃性シートが,前記ガラス繊維織物中の隣接する経糸の間の
隙間が0.5㎜以下であり,又は,前記ガラス繊維織物中の隣接する
緯糸の間の隙間が0.5㎜以下である防煙垂壁。
ウ本件発明1-3(請求項3に係る発明)の構成要件は,上記構成要件1Aな
いし1I(引用に係る請求項1に係る発明の構成要件)又は1Aないし1J(引用
に係る請求項2〔請求項1の引用を含む。〕に係る発明の構成要件)と,次の構成
要件1Kに分説される。
1K透明不燃性シートが,前記透明不燃性シート1㎡当たり,前記一対
の硬化樹脂層の重量が15~500gの範囲である防煙垂壁。
エなお,上記構成要件1Fの「アッベ数」とは,透明体の色収差を評価する数
値であり,3つの波長の光線に対する屈折率から算出される(甲2,4,14,1
5,20,40,55,乙あ20,21,27,72,92,97の2,10
8)。
(3)本件特許権2
原告は,以下の特許権(本件特許権2)を保有している。なお,本件特許2は,
本件特許1の出願からの分割出願に対する特許であり(甲3,4,弁論の全趣
旨),以下,断りのない限り,同特許の出願の時点については,原出願日を基準と
して論ずる。
特許番号第5142055号
原出願日平成16年5月11日
分割出願日平成22年11月24日
登録日平成24年11月30日
発明の名称透明不燃性シートからなる防煙垂壁
特許請求の範囲別紙特許公報(甲4)の【特許請求の範囲】記載
のとおり
ア本件発明2-1(請求項1に係る発明)を構成要件に分説すると,次のとお
りである。
2A建築物の天井に垂下して取り付けられた,透明不燃性シートからな
る防煙垂壁であって,
2B前記透明不燃性シートが,少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前
記ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む透明不燃性シー
トであって,
2C前記ガラス繊維織物が30~70重量%であり,前記一対の硬化樹
脂層が70~30重量%であり,
2D前記透明不燃性シート1㎡当たり,前記一対の硬化樹脂層の重量が
15~500gの範囲であり,
2E前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記
一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以
下であり,
2F前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記
一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差が30以下
であり,
2G全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが20%以下であ
り,
2H輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの表面に50kW/㎡の輻
射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量
が8MJ/㎡以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が
10秒以上継続して200kW/㎡を超えない,透明不燃性シートで
ある,
2I防煙垂壁。
イ本件発明2-2(請求項2に係る発明)の構成要件は,上記構成要件2Aな
いし2I(引用に係る請求項1に係る発明の構成要件)と,次の構成要件2Jに分
説される。
2J前記ガラス繊維織物中の隣接する経糸の間の隙間が0.5㎜以下で
あり,又は,前記ガラス繊維織物中の隣接する緯糸の間の隙間が0.
5㎜以下である防煙垂壁。
ウ本件発明2-3(請求項3に係る発明)の構成要件は,上記構成要件2Aな
いし2I(引用に係る請求項1に係る発明の構成要件)又は2Aないし2J(引用
に係る請求項2〔請求項1の引用を含む。〕に係る発明の構成要件)と,次の構成
要件2Kに分説される。
2K前記1枚のガラス繊維織物の重量が,20~150g/㎡である防
煙垂壁。
エ本件発明2-4(請求項4に係る発明)の構成要件は,上記構成要件2Aな
いし2I(引用に係る請求項1に係る発明の構成要件),2Aないし2J(引用に
係る請求項2〔請求項1の引用を含む。〕に係る発明の構成要件),2Aないし2
I及び2K(引用に係る請求項3〔請求項1の引用を含む。〕に係る発明の構成要
件)又は2Aないし2K(引用に係る請求項3〔請求項2の引用を含む。〕に係る
発明の構成要件)と,次の構成要件2Lに分説される。
2L前記ガラス繊維織物中のガラス繊維の番手が,5tex~70texであ
る防煙垂壁。
(4)本件シート及び本件防煙垂壁
ア被告ユニチカは,平成20年頃,本件シートを開発し,同年5月12日,こ
れについて,認定番号「NM-1927」をもって建築基準法所定の「不燃材料」
としての認定を受けた。被告ユニチカは,同年頃から,被告LAPに対し,本件
シートを販売するようになった(甲7)。
イ被告LAPは,平成20年頃から,被告ユニチカから購入した本件シートを
用いて本件防煙垂壁を製造し,販売するようになった(甲5,6,23,52,5
6,58,59)。
ウ本件防煙垂壁及び本件シートは,少なくとも,次の構成を有する。
(ア)本件防煙垂壁は,建築物の天井に垂下して取り付けられ,不燃透明軽量シー
トである本件シートからなる防煙垂壁である(構成要件1A・1I・2A・2Iを
満たす。)。
(イ)本件シートは,1枚のガラスクロスと,ガラスクロスを挟む一対の硬化樹脂
層とを含む不燃透明軽量シートである(構成要件1B・2Bを満たす。)。
(ウ)本件シートの硬化樹脂は,ビニルエステル系樹脂である(構成要件1Cを満
たす。)。
(エ)本件シートにおいて,ガラスクロスは30~70重量%であり,硬化樹脂層
は70~30重量%である(構成要件1D・2Cを満たす。)。
(オ)本件シート1㎡当たりの硬化樹脂層の重量は,15~500gの範囲内であ
る(構成要件1K・2Dを満たす。)。
(カ)本件シートの全光線透過率は80%以上であり,ヘーズは20%以下である
(構成要件1G・2Gを満たす。)。
(キ)本件シートは,輻射電気ヒーターから本件シートの表面に50kW/㎡の輻
射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/㎡
であり,かつ,加熱開始後20分間,最高発熱速度が10秒以上継続して200k
W/㎡を超えない(構成要件1H・2Hを満たす。)。
(ク)本件シートにおいて,ガラスクロス中の隣接する経糸の間の隙間(間隔)は
0.5㎜以下であり,緯糸の間の隙間(間隔)も0.5㎜以下である(構成要件1
J・2Jを満たす。)。
(ケ)本件シートにおける1枚のガラスクロスの重量は,20~150g/㎡であ
る(構成要件2Kを満たす。)。
(コ)本件シートにおいて,ガラスクロスの糸番手は22.5texである(構成要件
2Lを満たす。)(甲7)。
(5)無効審判及び訂正請求
ア本件特許1について
(ア)被告ユニチカは,平成26年3月10日付けで,本件特許1の請求項1ない
し6に係る発明(本件発明1-1ないし1-3を含む。)についての特許を無効に
することを求めて特許無効審判(無効2014-800037号)を請求した(乙
あ52)。
(イ)上記無効審判事件において,審判長は,平成27年3月16日,本件特許1
の請求項1ないし6に係る発明(本件発明1-1ないし1-3を含む。)について
の特許を無効とする旨の審決の予告をした(乙あ96)。
(ウ)上記無効審判事件において,原告は,平成27年5月18日,本件特許1の
特許請求の範囲を別紙特許請求の範囲(甲69)のとおり請求項ごとに訂正するこ
とを含む訂正請求(以下「本件訂正請求1」といい,同請求に係る訂正を「本件訂
正1」という。また,同訂正後の本件発明1を総称して「本件訂正発明1」とい
う。)をした(甲68)。
同訂正後の本件発明1-1(同訂正後の請求項1に係る発明。以下「本件訂正発
明1-1」という。)を構成要件に分説すると,別紙訂正目録1記載1のとおりで
あり,同訂正後の本件発明1-2(同訂正後の請求項1に係る発明。以下「本件訂
正発明1-2」という。)を構成要件に分説すると,同目録記載2のとおりであ
り,同訂正後の本件発明1-3(同訂正後の請求項3〔同訂正前の請求項3に係る
発明のうち,請求項1を引用する部分〕及び同訂正後の請求項7〔同訂正前の請求
項3に係る発明のうち,請求項2を引用する部分〕に係る各発明。以下,同訂正後
の請求項3に係る発明を「本件訂正発明1-3」といい,同訂正後の請求項7に
係る発明を「本件訂正発明1-7」という。)を構成要件に分説すると,同目録記
載3及び4のとおりである。
イ本件特許2について
(ア)被告ユニチカは,平成26年2月5日付けで,本件特許2の請求項1ないし
4に係る発明(本件発明2-1ないし2-4)についての特許を無効にすることを
求めて特許無効審判(無効2014-800024号)を請求した(乙あ58)。
(イ)上記無効審判事件において,審判長は,平成27年1月26日,本件特許2
の請求項1ないし4に係る発明(本件発明2-1ないし2-4)についての特許を
無効とする旨の審決の予告をした(乙あ95)。
(ウ)上記無効審判事件において,原告は,平成27年3月30日,本件特許2の
特許請求の範囲を別紙特許請求の範囲(甲66)のとおり請求項ごとに訂正する旨
の訂正請求(以下「本件訂正請求2」といい,同請求に係る訂正を「本件訂正
2」という。また,同訂正後の本件発明2を総称して「本件訂正発明2」とい
う。また,本件訂正請求1と本件訂正請求2を併せて「本件各訂正請求」とい
い,その訂正を「本件各訂正」という。また,本件訂正発明1と本件訂正発明2
を併せて「本件各訂正発明」という。)をした(甲65)。
同訂正後の本件発明2-1(同訂正後の請求項1に係る発明。以下「本件訂正発
明2-1」という。)を構成要件に分説すると,別紙訂正目録2記載1のとおりで
あり,同訂正後の本件発明2-2(同訂正後の請求項2に係る発明。以下「本件訂
正発明2-2」という。)を構成要件に分説すると,同目録記載2のとおりであ
り,同訂正後の本件発明2-3(同訂正後の請求項3〔同訂正前の請求項3に係る
発明のうち,請求項1を引用する部分〕及び同訂正後の請求項5〔同訂正前の請求
項3に係る発明のうち,請求項2を引用する部分〕に係る各発明。以下,同訂正後
の請求項3に係る発明を「本件訂正発明2-3」といい,同訂正後の請求項5に
係る発明を「本件訂正発明2-5」という。)を構成要件に分説すると,同目録記
載3及び5のとおりであり,同訂正後の本件発明2-4(同訂正後の請求項4〔同
訂正前の請求項4に係る発明のうち,請求項1を引用する部分〕,同訂正後の請求
項6〔同訂正前の請求項4に係る発明のうち,請求項2を引用する部分〕及び同訂
正後の請求項7〔同訂正前の請求項4に係る発明のうち,請求項3を引用する部
分〕に係る各発明。同訂正後の請求項4に係る発明を「本件訂正発明2-4」とい
い,同訂正後の請求項6に係る発明を「本件訂正発明2-6」といい,同訂正後
の請求項7に係る発明を「本件訂正発明2-7」という。)を構成要件に分説する
と,同目録記載4,6及び7のとおりである。
3争点
(1)本件防煙垂壁は本件各発明の技術的範囲に属するか(争点1)
ア本件防煙垂壁は構成要件1E・2Eを充足するか(争点1-1)
イ本件防煙垂壁は構成要件1F・2Fを充足するか(争点1-2)
ウ本件防煙垂壁は本件各発明の作用効果を奏しないことによりその技術的範囲
に属しないといえるか(争点1-3)
(2)本件シートの譲渡等が本件各特許権の間接侵害となるか(争点2)
ア本件シートの譲渡等につき特許法101条1号が成立するか(争点2-1)
イ本件シートの譲渡等につき特許法101条2号が成立するか(争点2-2)
(3)本件各発明についての特許は特許無効審判により無効とされるべきものと認
められるか(争点3)
ア無効理由1(乙あ1を主引例とする進歩性欠如)は認められるか(争点3-
1)
イ無効理由2(乙あ8を主引例とする進歩性欠如)は認められるか(争点3-
2)
ウ無効理由3(乙あ9を主引例とする進歩性欠如)は認められるか(争点3-
3)
エ無効理由4(乙あ10を主引例とする進歩性欠如)は認められるか(争点3
-4)
オ無効理由5(実施可能要件違反)は認められるか(争点3-5)
カ無効理由6(サポート要件違反)は認められるか(争点3-6)
キ無効理由7(明確性要件違反)は認められるか(争点3-7)
ク無効理由8(発明未完成)は認められるか(争点3-8)
(4)訂正の対抗主張(再抗弁)は認められるか(争点4)
ア本件各訂正は訂正要件を充足するか(争点4-1)
イ本件各訂正により無効理由が解消するか(争点4-2)
ウ本件防煙垂壁は本件各訂正発明の技術的範囲に属するか(争点4-3)
(5)損害額(争点5)
4争点に対する当事者の主張
(1)争点1(本件防煙垂壁は本件各発明の技術的範囲に属するか)について
【原告の主張】
ア争点1-1(本件防煙垂壁は構成要件1E・2Eを充足するか)について
本件シートにおけるガラスクロスを構成するガラス組成物及び硬化樹脂層を構成
するビニルエステル樹脂の各屈折率は,「JISK7142」のB法(ベッケ
法)に従って測定すると,前者は1.564ないし1.565,後者は1.570
であり,両者の差は約0.005ないし0.006である。
したがって,本件シートからなる本件防煙垂壁は,本件発明1-1ないし1-3
の構成要件1E及び本件発明2-1ないし2-4の構成要件2Eを充足する。
イ争点1-2(本件防煙垂壁は構成要件1F・2Fを充足するか)について
本件シートにおけるガラスクロスを構成するガラス組成物及び硬化樹脂層を構成
するビニルエステル樹脂の各アッベ数は,前者は56.4,後者は28.5であ
り,両者の差は約27.9である。
したがって,本件シートからなる本件防煙垂壁は,本件発明1-1ないし1-3
の構成要件1F及び本件発明2-1ないし2-4の構成要件2Fを充足する。
ウ争点1-3(本件防煙垂壁は本件各発明の作用効果を奏しないことによりそ
の技術的範囲に属しないといえるか)について
本件シート及び本件防煙垂壁は,照明の光を当てると青色の色彩を呈するものと
はいえないし,仮に多少の青みを帯びるとしても,着色が抑えられたシートを提供
するという本件各発明の作用効果を奏しない理由にはならない。
エ小括
以上を前記前提事実(4)ウと総合すれば,本件防煙垂壁は,本件各発明の技術的
範囲に属し,被告LAPによる本件防煙垂壁の譲渡等は,本件各特許権の直接侵害
を構成する。
【被告らの主張】
ア争点1-1(本件防煙垂壁は構成要件1E・2Eを充足するか)について
本件シートの樹脂組成物の屈折率に関する原告の測定方法は,本件各明細書(本
件明細書1の段落【0095】及び【0096】,本件明細書2の段落【009
6】及び【0097】)に記載された樹脂の屈折率の測定方法(A法)と相違す
る。本件シートにおけるガラスクロスを構成するガラス組成物と硬化樹脂層を構成
する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以下であると認めることはできない。
したがって,本件シートからなる本件防煙垂壁は,本件発明1-1ないし1-3
の構成要件1E及び本件発明2-1ないし2-4の構成要件2Eを充足しない。
イ争点1-2(本件防煙垂壁は構成要件1F・2Fを充足するか)について
本件シートの製造に用いたガラスヤーン(糸)「ECE2251/0(22.5tex)」と同一の
ガラス組成物であるガラスマーブル「EFガラス原材料201012」のアッベ数は,
Vブロック法に従って測定した屈折率に基づいて算出すると,63.1である。こ
れと本件シートにおける硬化樹脂層を構成するビニルエステル樹脂のアッベ数(2
8.5)との差は,34.6であり,30を超える。
したがって,本件シートからなる本件防煙垂壁は,本件発明1-1ないし1-3
の構成要件1F及び本件発明2-1ないし2-4の構成要件2Fを充足しない。
ウ争点1-3(本件防煙垂壁は本件各発明の作用効果を奏しないことによりそ
の技術的範囲に属しないといえるか)について
本件各発明は,可視光領域の散乱による着色が抑えられた無色透明のシートを提
供するという作用効果を有するところ,本件シートからなる本件防煙垂壁は,照明
の光を当てると青色の色彩を呈するものであるから,上記作用効果を奏せず,した
がって,本件各発明の技術的範囲に属しないというべきである(いわゆる作用効果
不奏効の抗弁が成立する。)。
エ小括
以上によれば,本件防煙垂壁は,本件各発明の技術的範囲に属さず,被告LAP
による本件防煙垂壁の譲渡等は,本件各特許権の直接侵害を構成しない。
(2)争点2(本件シートの譲渡等が本件各特許権の間接侵害となるか)について
【原告の主張】
ア争点2-1(本件シートの譲渡等につき特許法101条1号が成立するか)
について
本件シートは,そもそも被告LAPの依頼により本件防煙垂壁用のシートとして
開発されたものであり,本件防煙垂壁に使用するという用途の他に,社会通念上,
経済的・商業的・実用的な用途は存在しないから,本件防煙垂壁の生産にのみ用い
る物であるといえる。
しかるに,被告ユニチカは,平成20年頃から現在に至るまで,本件シートを製
造し,被告LAPに販売している。
したがって,被告ユニチカの上記行為は,特許法101条1号に該当し,本件各
特許権に対する間接侵害が成立する。
イ争点2-2(本件シートの譲渡等につき特許法101条2号が成立するか)
について
本件シートは,上記アのとおり,本件防煙垂壁の生産に用いる物である上,本件
各発明の構成要件に鑑みると,その発明による課題の解決に不可欠なものである。
また,被告ユニチカは,原告から,本件シートと本件各特許との関係に関する平
成25年8月1日付け通知書を受領していることから,遅くとも同通知書の受領日
以降は,本件各発明が特許発明であること及び本件シートが本件各発明の実施に用
いられることを知りながら,業として本件各シートを製造,販売等しているもので
ある。
したがって,被告ユニチカの上記行為は,特許法101条2号に該当し,本件各
特許権に対する間接侵害が成立する。
【被告ユニチカの主張】
ア争点2-1(本件シートの譲渡等につき特許法101条1号が成立するか)
について
本件シートは,防煙垂壁の他に,間仕切りやパーテーション用材料等にも使用で
きるものであり,本件防煙垂壁の生産にのみ用いる物ではない。
また,被告ユニチカは,平成25年2月に被告LAPに対してごく僅かな量の本
件シートを販売したことを除けば,平成24年10月31日までしか同被告に対し
て本件シートを販売しておらず,本件各特許の登録日(同年11月30日)以降に
おいて同被告その他の防煙垂壁の施工業者に対し本件シートを販売していない。
したがって,被告ユニチカによる行為について,特許法101条1号の間接侵害
は成立しない。
イ争点2-2(本件シートの譲渡等につき特許法101条2号が成立するか)
について
争う。
なお,上記アのとおり,被告ユニチカが本件各特許の登録日以降総じて本件シー
トを販売していないことなどからすると,被告ユニチカによる行為について,特許
法101条2号の間接侵害は成立しない。
(3)争点3(本件各発明についての特許は特許無効審判により無効とされるべき
ものと認められるか)について
ア争点3-1(無効理由1〔乙あ1を主引例とする進歩性欠如〕は認められる
か)について
【被告らの主張】
本件発明1-1ないし1-3は,本件各特許出願前である平成5年8月31日に
頒布された刊行物である米国特許第5240058号明細書(乙あ1)に記載され
た発明(以下「乙あ1発明」という。)に,①乙あ第8ないし14号証に記載され
た技術及び周知技術(乙あ2ないし7,19ないし21)又は②乙あ第8ないし1
4,16,18及び23号証に記載された技術並びに周知技術(乙あ2ないし7,
15,17,19ないし22,37)を組み合わせることにより,当業者が容易に
発明することができた。
本件発明2-1ないし2-3は,乙あ1発明に,①乙あ第8ないし12及び14
号証に記載された技術並びに周知技術(乙あ2ないし7,19ないし21)又は②
乙あ第8ないし12,14,16,18及び23号証に記載された技術並びに周知
技術(乙あ2ないし7,15,19ないし22,37)を組み合わせることによ
り,本件発明2-4は,更に乙あ第49ないし51号証に記載された技術を組み合
わせることにより,それぞれ当業者が容易に発明することができた。
以上によると,本件各発明は,乙あ1発明に基づいて当業者が容易に発明するこ
とができたものであるから,進歩性を欠く。したがって,本件各発明についての特
許は,特許法29条2項に違反してされたものであり,同法123条1項2号に該
当するから,特許無効審判により無効にされるべきものである。
【原告の主張】
(ア)乙あ1発明における煙封じ込めカーテンは,難燃性のものにすぎず不燃性の
ものではないから,本件各発明とは構成要件1A・1B・2A・2Bの「不燃性」
の要素の有無という点において相違する。また,本件各特許の出願当時,防煙垂壁
に透明性を備えることが周知の課題であったとは認められず,乙あ1発明における
煙封じ込めカーテンを透明にする動機付けが存在していたとは認められないから,
本件各発明の構成要件1A・1B・2A・2Bにおける「透明」という要素を具備
させることが当業者にとって容易に想到し得たということはできない。
(イ)乙あ1記載の煙封じ込めカーテンにおいて使用する樹脂としてビニルエステ
ル樹脂からなる硬化樹脂を採用すること(本件各発明の構成要件1C)について
は,当業者が容易に想到し得た事項ではない。
(ウ)本件各発明の構成要件1D・1E・1F・1G・1H・2C・2E・2F・
2G・2Hについては,乙あ1発明に何ら示唆されておらず,これらの要件を具備
させることが当業者にとって容易に想到し得たということはできない。
(エ)そもそも,本件各発明においては,「透明で,着色が抑えられ,不燃性で,
落下して割れることを防止できる」という従来品では同時に満たすことができな
かった複数の優れた特性を同時に実現できる防煙垂壁又は遮煙スクリーンを得ると
いうユニークな課題が設定されているところ,このような解決課題の設定自体,当
業者が容易に着想し得ないものであった。
(オ)以上によると,本件各発明は,乙あ1発明に基づいて当業者が容易に発明す
ることができたものとはいえず,進歩性を有する。したがって,本件各発明につい
ての特許は,特許法29条2項に適合しており,無効にされるべきものではない。
イ争点3-2(無効理由2〔乙あ8を主引例とする進歩性欠如〕は認められる
か)について
【被告らの主張】
本件発明1-1ないし1-3は,本件各特許出願前である平成4年2月25日に
頒布された刊行物である米国特許第5090163号明細書(乙あ8)に記載され
た発明(以下「乙あ8発明」という。)に,①乙あ第1,9,10,13及び14
号証に記載された技術並びに周知技術(乙あ2ないし7,15,19ないし21)
又は②乙あ第1,9ないし14,16,18及び23号証に記載された技術並びに
周知技術(乙あ2ないし7,15,17,19ないし22,37)を組み合わせる
ことにより,当業者が容易に発明することができた。
本件発明2-1ないし2-3は,乙あ8発明に,①乙あ第1,9,10,13及
び14号証に記載された技術並びに周知技術(乙あ2ないし7,15,19ないし
21)又は②乙あ第1,9ないし12,14,16,18及び23号証に記載され
た技術並びに周知技術(乙あ2ないし7,15,19ないし22,37)を組み合
わせることにより,本件発明2-4は,更に乙あ第49ないし51号証に記載され
た技術を組み合わせることにより,それぞれ当業者が容易に発明することができ
た。
以上によると,本件各発明は,乙あ8発明に基づいて当業者が容易に発明するこ
とができたものであるから,進歩性を欠く。したがって,本件各発明についての特
許は,特許法29条2項に違反してされたものであり,同法123条1項2号に該
当するから,特許無効審判により無効にされるべきものである。
【原告の主張】
(ア)乙あ8には,「カーテン煙幕組立品」の記載はあっても,「防煙垂壁」の記
載はない。また,乙あ8には,煙シールドが透明であり得ることが開示されている
ものの,乙あ8発明は,発明の思想全体としては透明とは相反する態様を包含して
いるものであって,本件各発明の構成要件1A・1B・2A・2Bにおける「透
明」という要素を実質的に具備しないものというべきである。さらに,本件各発明
の構成要件1A・1B・2A・2Bにおける「不燃性」という要素を具備させるこ
とが当業者にとって容易に想到し得たということはできない。
(イ)本件各発明の構成要件1B・2Bにおける「少なくとも1枚のガラス繊維織
物と,前記ガラス繊維織物を挟む一対の樹脂層とを含むシート」という要素及び構
成要件1C・2Cを具備させることが当業者にとって容易に想到し得たということ
はできない。
(ウ)本件各発明の構成要件1D・1E・1F・1G・1H・2C・2E・2F・
2G・2Hについては,乙あ8発明に何ら示唆されておらず,これらの要件を具備
させることが当業者にとって容易に想到し得たということはできない。
(エ)そもそも,本件各発明においては,「透明で,着色が抑えられ,不燃性で,
落下して割れることを防止できる」という従来品では同時に満たすことができな
かった複数の優れた特性を同時に実現できる防煙垂壁又は遮煙スクリーンを得ると
いうユニークな課題が設定されているところ,このような解決課題の設定自体,当
業者が容易に着想し得ないものであった。
(オ)以上によると,本件各発明は,乙あ8発明に基づいて当業者が容易に発明す
ることができたものとはいえず,進歩性を有する。したがって,本件各発明につい
ての特許は,特許法29条2項に適合しており,無効にされるべきものではない。
ウ争点3-3(無効理由3〔乙あ9を主引例とする進歩性欠如〕は認められる
か)について
【被告らの主張】
本件発明1-1ないし1-3は,本件各特許出願前である平成7年に頒布された
刊行物である社団法人強化プラスチック協会主催の学会「40thFRPCON-EX'95」の
講演要旨集(乙あ9)に記載された発明(以下「乙あ9発明」という。)に,①乙
あ第1,10及び14号証に記載された技術並びに周知技術(乙あ2ないし7,1
9ないし21)又は②乙あ第1,10ないし14,16,18及び23号証に記載
された技術並びに周知技術(乙あ2ないし7,15,17,19ないし22,3
7,41ないし44)を組み合わせることにより,当業者が容易に発明することが
できた。
本件発明2-1ないし2-3は,乙あ9発明に,①乙あ第1,10及び14号証
に記載された技術並びに周知技術(乙あ2ないし7,19ないし21)又は②乙あ
第1,10ないし12,14,16,18及び23号証に記載された技術並びに周
知技術(乙あ2ないし7,15,19ないし22,37,41ないし44)を組み
合わせることにより,本件発明2-4は,更に乙あ第49ないし51号証に記載さ
れた技術を組み合わせることにより,それぞれ当業者が容易に発明することができ
た。
以上によると,本件各発明は,乙あ9発明に基づいて当業者が容易に発明するこ
とができたものであるから,進歩性を欠く。したがって,本件各発明についての特
許は,特許法29条2項に違反してされたものであり,同法123条1項2号に該
当するから,特許無効審判により無効にされるべきものである。
【原告の主張】
(ア)乙あ9発明は,「ガラスクロス補強難燃シート」であり,本件各発明とは技
術分野が相互に異なり,不燃性を具備しなければならない防煙垂壁を用途とするこ
とは想定されておらず,本件各発明の構成要件1A・1I・2A・2Iにおける
「防煙垂壁」という要素を具備させることが当業者にとって容易に想到し得たとい
うことはできない。また,乙あ9発明は,本件各発明とは構成要件1A・1B・2
A・2Bの「透明」及び「不燃性」の各要素の有無という点において相違する。
(イ)本件各発明の構成要件1D・1E・1F・1G・1H・2C・2E・2F・
2G・2Hについては,乙あ9発明に何ら示唆されておらず,これらの要件を具備
させることが当業者にとって容易に想到し得たということはできない。
(ウ)そもそも,本件各発明においては,「透明で,着色が抑えられ,不燃性で,
落下して割れることを防止できる」という従来品では同時に満たすことができな
かった複数の優れた特性を同時に実現できる防煙垂壁又は遮煙スクリーンを得ると
いうユニークな課題が設定されているところ,このような解決課題の設定自体,当
業者が容易に着想し得ないものであった。
(エ)以上によると,本件各発明は,乙あ9発明に基づいて当業者が容易に発明す
ることができたものとはいえず,進歩性を有する。したがって,本件各発明につい
ての特許は,特許法29条2項に適合しており,無効にされるべきものではない。
エ争点3-4(無効理由4〔乙あ10を主引例とする進歩性欠如〕は認められ
るか)について
【被告らの主張】
本件発明1-1ないし1-3及び2-1ないし2-3は,本件各特許出願前であ
る平成5年5月21日に頒布された刊行物である特開平5-123869号公報
(乙あ10)に記載された発明(以下「乙あ10発明」という。)に,①乙あ第1
及び9号証に記載された技術並びに周知技術(乙あ2ないし7,19ないし21)
又は②乙あ第1,9,11,12,14,18及び23号証に記載された技術並び
に周知技術(乙あ2ないし7,19ないし22,37,41ないし44)を組み合
わせることにより,本件発明2-4は,更に乙あ第49ないし51号証に記載され
た技術を組み合わせることにより,それぞれ当業者が容易に発明することができ
た。
以上によると,本件各発明は,乙あ10発明に基づいて当業者が容易に発明する
ことができたものであるから,進歩性を欠く。したがって,本件各発明についての
特許は,特許法29条2項に違反してされたものであり,同法123条1項2号に
該当するから,特許無効審判により無効にされるべきものである。
【原告の主張】
(ア)乙あ10発明は,「繊維強化樹脂シート」であり,本件各発明とは技術分野
が相互に異なり,不燃性を具備しなければならない防煙垂壁を用途とすることは想
定されておらず,本件各発明の構成要件1A・1I・2A・2Iにおける「防煙垂
壁」という要素を具備させることが当業者にとって容易に想到し得たということは
できない。また,乙あ9発明は,本件各発明とは構成要件1A・1B・2A・2B
の「不燃性」の要素の有無という点において相違する。
(イ)本件各発明の構成要件1D・1E・1F・1G・1H・2C・2E・2F・
2G・2Hについては,乙あ10発明に何ら示唆されておらず,これらの要件を具
備させることが当業者にとって容易に想到し得たということはできない。
(ウ)そもそも,本件各発明においては,「透明で,着色が抑えられ,不燃性で,
落下して割れることを防止できる」という従来品では同時に満たすことができな
かった複数の優れた特性を同時に実現できる防煙垂壁又は遮煙スクリーンを得ると
いうユニークな課題が設定されているところ,このような解決課題の設定自体,当
業者が容易に着想し得ないものであった。
(エ)以上によると,本件各発明は,乙あ10発明に基づいて当業者が容易に発明
することができたものとはいえず,進歩性を有する。したがって,本件各発明につ
いての特許は,特許法29条2項に適合しており,無効にされるべきものではな
い。
オ争点3-5(無効理由5〔実施可能要件違反〕は認められるか)について
【被告らの主張】
本件各明細書には,①屈折率の差が0であってアッベ数の差が7.5である場合
の実施例が示されているのみであり,これ以外では,どのような指針に従ってガラ
ス繊維と硬化樹脂を組み合わせることにより本件各発明の防煙垂壁を製造できるの
か把握することができず,②ガラス繊維を構成するガラス組成物の屈折率の測定方
法等について記載されていない(ガラス組成物の屈折率については複数の測定方法
が知られており,測定原理の違いによって測定値が異なる。)から,その屈折率を
一義的な値として測定するための事項を把握することができず,③ガラス繊維を構
成するガラス組成物のアッベ数の測定温度や被検サンプルの調製方法等についても
記載されていないから,そのアッベ数を一義的な値として測定するための事項を把
握することができず,④アッベ数の算出において使用する3波長の屈折率の有効数
字について言及されていないから,アッベ数の差を一義的な値として特定すること
ができず(屈折率のいずれかに小数第3位の値が1変動するだけでアッベ数が大幅
に変動する。),⑤屈折率の測定方法の違いによって生じるアッベ数の数値の相違
や屈折率の測定誤差によって生じるアッベ数の誤差をどのように評価しどのように
取り扱うかについて記載されていないから,当業者が「アッベ数の差が30以下」
に該当するか否かを判定することができず,⑥本件各発明が特定する「アッベ数の
差が30以下」の全範囲について「着色を抑える」効果が得られない。
以上によると,本件各明細書における発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件
各発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない
から,特許法36条4項1号の記載要件(実施可能要件)を満たさない。したがっ
て,本件各発明についての特許は,同法123条1項4号に該当するから,特許無
効審判により無効にされるべきものである。
【原告の主張】
本件各特許の請求項に記載されているガラス繊維を構成するガラス組成物と硬化
樹脂層を構成する樹脂組成物を特定することは当業者によって容易であり,当業者
に過度な試行錯誤を課すものではない。また,本件各発明の部材を特定するために
用いた特性である屈折率やアッベ数は,標準的なものであるか,又は当業者に慣用
されているものであるから,屈折率やアッベ数の試験・測定方法を示さなくても,
当業者は容易に本件各発明を実施することができる。さらに,「屈性率の差が0.
02以下」,「アッベ数の差が30以下」という数値限定は,防煙垂壁の「着色を
抑える」という課題を解決するために望ましい値を設定したものであり,当該範囲
の望ましい値の部材を選択すれば発明の課題解決に資するものであることを示した
ものにすぎない。
これらの点も含め,被告らの主張は失当であり,本件各明細書における発明の詳
細な説明の記載は,当業者が本件各発明を実施することができる程度に明確かつ十
分に記載されたものといえるから,特許法36条4項1号の記載要件に適合してい
る。したがって,本件各発明についての特許は,無効にされるべきものではない。
カ争点3-6(無効理由6〔サポート要件違反〕は認められるか)について
【被告らの主張】
本件各明細書には,①屈折率の差が0であってアッベ数の差が7.5である場合
の実施例が示されているのみであり,屈折率の差が0.02であってアッベ数の差
が30である場合にまで本件各発明の課題を解決できると認識できる範囲として一
般化することはできず,②屈折率の測定方法の違いによって生じるアッベ数の数値
の相違や屈折率の測定誤差によって生じるアッベ数の誤差をどのように評価しどの
ように取り扱うかについて記載されていないから,当業者が「アッベ数の差が30
以下」に該当するか否かを判定することができず,③「アッベ数の差が30以下で
あれば着色が抑えられる」旨記載されているが,アッベ数の差が15程度を超える
と着色が生じるから,同記載は事実に反する。
以上によると,本件各発明は,発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない
から,特許法36条6項1号の記載要件(サポート要件)を満たさない。したがっ
て,本件各発明についての特許は,同法123条1項4号に該当するから,特許無
効審判により無効にされるべきものである。
【原告の主張】
前記オにおいて指摘した点などを考慮すると,被告らの主張は失当であり,本件
各発明は,発明の詳細な説明に記載されたものといえるから,特許法36条6項1
号の記載要件に適合している。したがって,本件各発明についての特許は,無効に
されるべきものではない。
キ争点3-7(無効理由7〔明確性要件違反〕は認められるか)について
【被告らの主張】
ガラス組成物の屈折率の測定値は,測定方法の種類,測定温度,測定に供する被
検サンプルの調製方法等に応じて変動するため,これらの事項を明確に規定してい
なければ,一義的な値として特定することができない。それにもかかわらず,本件
各特許の特許請求の範囲は,これらの事項について何ら規定しておらず,本件各明
細書にもこれらの事項を明確にする記載はないから,ガラス繊維を構成するガラス
組成物の屈折率を一義的に特定することができない。それゆえ,「ガラス繊維を構
成するガラス組成物と硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差」(構成要
件1E・2E)の範囲を具体的に特定することができず,その外延が不明確になっ
ている。
また,アッベ数は,3波長の屈折率の設定の仕方によって数値が変動するにもか
かわらず,本件各明細書には,アッベ数の算出において使用する3波長の屈折率の
有効数字については開示されておらず,ガラス繊維を構成するガラス組成物及び硬
化樹脂層を構成する樹脂組成物のアッベ数を一義的に特定することができない。そ
れゆえ,「ガラス繊維を構成するガラス組成物と硬化樹脂層を構成する樹脂組成物
とのアッベ数の差」(構成要件1F・2F)の範囲を具体的に特定することができ
ず,その外延が不明確になっている。
以上によると,本件各発明の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発
明を明確に記載したものとはいえないから,特許法36条6項2号の記載要件(明
確性要件)を満たさない。したがって,本件各発明についての特許は,同法123
条1項4号に該当するから,特許無効審判により無効にされるべきものである。
【原告の主張】
屈折率やアッベ数は,一般に利用される指標であり,本件各明細書において定義
もされているところ,屈折率については,本件各明細書に引用したJISK7
142により測定方法が特定されている。そして,本件各発明については,特許請
求の範囲の記載から,発明概念が明確に特定されている。
したがって,本件各発明の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明
を明確に記載したものといえるから,特許法36条6項2号の記載要件に適合して
おり,本件各発明についての特許は,無効にされるべきものではない。
ク争点3-8(無効理由8〔発明未完成〕は認められるか)について
【被告らの主張】
本件各発明は,「ガラスを構成するガラス組成物」と「硬化樹脂層を構成する樹
脂組成物」との屈折率の差及びアッベ数の差を発明特定事項としているところ,①
本件各明細書には,樹脂組成物中の一成分である樹脂(SSP50C-06)の屈
折率及びアッベ数が記載されているにすぎず,樹脂と他の添加剤(パーカドックス
及びパーキュア-HO)の混合物である樹脂組成物自体の屈折率及びアッベ数は一
切示されていないし,②本件各特許の出願時において,上記樹脂(SSP50C-
06)以外の樹脂であっても本件各発明の課題を達成できる技術的根拠を得ていな
かった。
以上によると,本件各発明は,課題を達成できるであろうという発明者の願望や
発明の契機となる着想の域にとどまっており,発明として完成していないから,特
許法2条1項に規定する「発明」ということはできない。したがって,本件各発明
についての特許は,同法29条1項柱書きに違反してされたものであり,同法12
3条1項2号に該当するから,特許無効審判により無効にされるべきものである。
【原告の主張】
防煙垂壁を構成するガラス組成物と硬化樹脂層の屈折率の差を小さくして透明に
し,アッベ数の差を小さくして着色を抑えるという本件各発明の技術的内容は,当
業者が公知文献を参考にしつつ反復実施して目的とする技術効果を挙げることがで
きる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されている。
したがって,本件各発明は,発明として完成しており,特許法2条1項所定の
「発明」に当たる。本件各発明についての特許は,同法29条1項柱書きに違反せ
ず,無効にされるべきものではない。
(4)争点4(訂正の対抗主張〔再抗弁〕は認められるか)について
ア争点4-1(本件各訂正は訂正要件を充足するか)について
【原告の主張】
(ア)本件各訂正のうち,別紙訂正目録1記載の構成要件1TL,1TM,1T
N,1TO,1TP,1TQ,1TR,1TS及び1TTに係る訂正並びに別紙訂
正目録2記載の構成要件2TM,2TN,2TO,2TP,2TQ,2TR,2T
S,2TT,2TU,2TV,2TW,2TY及び2TZに係る訂正は,いずれも
特許法134条の2第1項ただし書1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目
的とする訂正である。
(イ)上記(ア)の各訂正は,発明特定事項を直列的に付加するものや計算値の有効数
字を規定するものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,
特許法134条の2第9項で準用される同法126条6項の「実質上特許請求の範
囲を拡張し,又は変更するもの」には該当しない。
また,上記(ア)の各訂正は,本件各明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて
導かれる構成を内容とするものであるから,特許法134条の2第9項で準用され
る同法126条5項の「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載し
た事項の範囲内」における訂正である。
(ウ)本件各訂正のうち,上記(ア)以外の訂正は,特許法134条の2第1項4号に
規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引
用しないものとすること」を目的とする訂正であり,何ら実質的な内容の変更を伴
うものではないから,同条9項で準用される同法126条5項及び6項に適合する
ものであることは明らかである。
(エ)以上によると,本件各訂正は,訂正要件を満たす適法なものである。
【被告らの主張】
(ア)本件各訂正のうち,別紙訂正目録1記載の構成要件1TL,1TO,1T
P,1TQ,1TR,1TS及び1TTに係る訂正並びに別紙訂正目録2記載の構
成要件2TM,2TO,2TP,2TQ,2TR,2TT,2TU,2TV,2T
W及び2TYに係る訂正は,ガラス組成物の屈折率の測定方法やアッベ数の有効数
字の桁数等について新規事項を追加するものである。したがって,本件各訂正は,
願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項を超えた訂正であ
り,特許法134条の2第9項,126条5項に違反する。
(イ)また,本件各訂正のうち,別紙訂正目録1記載の構成要件1TRに係る訂正
及び別紙訂正目録2記載の構成要件2TTに係る訂正は,「特許請求の範囲の減
縮」を目的とする訂正ではなく,特許法134条の2第1項ただし書各号に該当し
ない。
(ウ)上記のほか,本件各訂正が訂正要件を満たす旨の原告の主張は,争う。
(エ)以上によると,本件各訂正は,訂正要件を満たさない不適法なものである。
イ争点4-2(本件各訂正により無効理由が解消するか)について
【原告の主張】
本件各訂正により,無効理由1ないし8が成り立たないことが一層明確になった
(例えば,無効理由7については,本件各訂正において,測定方法,有効数字及び
ガラス繊維を構成するガラス組成物を特定したことにより,明確性要件を充足する
ことが一層明らかになった。)。
【被告らの主張】
本件各訂正によっては,無効理由1ないし8は解消されない。
ウ争点4-3(本件防煙垂壁は本件各訂正発明の技術的範囲に属するか)につ
いて
【原告の主張】
本件防煙垂壁は,本件各訂正発明の技術的範囲に属する。
【被告らの主張】
原告の主張は争う。
(5)争点5(損害額)について
【原告の主張】
ア本件各特許登録日の翌日である平成24年12月1日から本件訴訟提起時で
ある平成26年5月1日までの間における被告LAPによる本件防煙垂壁の販売数
量は,2万5000㎡を下らない。
そして,原告の販売する本件各特許に係る防煙垂壁の1㎡当たりの利益は1万1
200円であるから,特許法102条1項の規定により,被告LAPによる本件各
特許権の直接侵害行為(及びこれについての被告ユニチカの共同不法行為)により
原告が受けた損害の額は2億8000万円となる。
イ原告は,被告らの不法行為により,専門家である弁護士及び弁理士に委任し
て本件訴訟の提起をすることを余儀なくされた。その費用として,2800万円の
損害が生じている。
ウしたがって,被告らの不法行為による原告の損害の額は,3億0800万円
である。
【被告らの主張】
原告の主張は争う。
第3当裁判所の判断
1争点3-1(無効理由1〔乙あ1を主引例とする進歩性欠如〕は認められる
か)について
(1)認定事実
前記前提事実に掲記の証拠及び弁論の全趣旨並びに当裁判所に顕著な事実を総合
すると,次の事実が認められる。
ア本件各明細書の記載
本件明細書1及び本件明細書2には,いずれも次の記載がある(甲2,4)。
「本発明は,透明不燃性シート及びその製造方法に関する。」(本件各明細書の
段落【0001】)
「建築基準法及び建築基準法施行令は,建築物の火災時に発生する煙や有害ガス
の流動を妨げ,避難や消化活動が円滑に行えるよう排煙設備を設けることを規
定している。そして,排煙設備や遮煙設備の一環として,オフィスビル,
ショッピングモール等の建築物には防煙垂壁や遮煙スクリーンが設置されるこ
とが多い。」「防煙垂壁は,建築物の天井に取り付けられるので,一般的に
は,視野を妨げないように,透明な板ガラスが用いられている。《中略》板ガ
ラスやポリイミド製フィルムは,不燃性に優れていて,火災の時にも燃えな
い。」「しかし,防煙垂壁としての板ガラスは,落下防止のための措置を施し
ても,落下して割れることがあった。例えば,平成15年5月26日18時2
4分頃,岩手,宮城県境沖を震源として発生した,M7,震度6弱の「三陸南
地震」では,防煙垂壁ガラスの破損が報告されている。そこで,防煙垂壁とし
て,板ガラス以外の素材のニーズがある。」「特許文献1は,不燃シート材を
開示している。この不燃シート材では,ガラス繊維織物と樹脂層との屈折率の
差について規定しておらず,不燃シート材は必然的に不透明である。そして,
不透明な不燃シート材を防煙垂壁に用いる場合には,視野を妨げ,オフィス,
商業施設等の美観を損ねるので,建築材料としては問題があった。そこで,透
明で,不燃性に優れ,かつ,割れない建築材料が所望される。」「【特許文献
1】特開2003-276113号公報」(本件各明細書の段落【0002】
ないし【0006】)
「硬化樹脂層の屈折率測定方法は,JISK7142の「プラスチックの屈
折率測定方法」(Determinationoftherefractiveindexofplastics)に従う。具体
的には,ガラス繊維織物が含まれていない硬化性樹脂のフィルムを,ガラス繊
維織物を含む場合と同じ条件で作成し,アッベ屈折計を用いて測定する。」
(本件明細書1の段落【0037】,本件明細書2の段落【0038】)
「アッベ数は,透明体の色収差を評価する数値であり,可視光領域の散乱の評価
に用いられる。材料のアッベ数Vは次のように定義される。」「V=(nD-
1)/(nF-nC)」「nD,nF,nCは材料の波長がそれぞれD-589.
2nm,F-486.1nm,C-656.3nmの光に対する屈折率であ
る。」(本件明細書1の段落【0038】ないし【0040】,本件明細書2
の段落【0039】ないし【0041】)
「透明不燃性シートのヘーズの測定方法は,JISK7105の「プラス
チックの光学的特性試験方法」(TestingMethodsforOpticalPropertiesof
Plastics),「6.4ヘーズ」に従う。具体的には,積分球式測定装置を用い
て拡散透過率及び全光線透過率を測定し,その比によって表す。」「H=Td
/Tt×100」「H:ヘーズ(%)Td:拡散透過率(%)Tt:全光線
透過率(%)」(本件明細書1の段落【0045】ないし【0047】,本
件明細書2の段落【0046】ないし【0048】)
イ乙あ1発明について
本件各特許の出願日(平成16年5月11日)に先立つ平成5年8月31日に頒
布された刊行物である米国特許第5240058号明細書(乙あ1)には,次の記
載がある。
「この発明は,防火装置,特に防煙カーテンに関する。」(抄録)
「本発明によって提供されるカーテン封じ込めシステムは,建築物の屋根デッキ
の下側から垂下され,その端が床よりもはるかに上方の高さにある煙封じ込め
カーテンに関する。そのようなシステムの主目的は,建物内の火によって発生
した煙を小さな天井エリアに閉じ込め,自動的に始動した換気装置の手段に
よって,その煙の迅速な引き抜きを可能にすることです。」(カラム3の66
行ないしカラム4の6行)
「図2は,ルーフデッキ10に通常平行な方向に梁の中心線の各サイドに外側に突
出する上部フランジ14を有する棒梁12に支持されたルーフデッキ10を例証して
いる。煙閉じ込めカーテン20は,事前に3つの部分を通してあけられた穴に
通って置かれた一連のネジ及びナット26によって角鉄22と平鉄24の間のその上
縁で留められる。カーテン20は,比較的重い樹脂含浸ガラス繊維織物からな
り,基本的に垂直方向に垂れ下げられる。」(カラム4の33ないし42行)
「カーテン120は,通常の低圧で煙を基本的に通さない比較的軽量な樹脂で被覆
したガラス繊維織物からなる。」(カラム5の5ないし7行)
ウ不燃材料等について
(ア)昭和45年政令第333号による改正で追加された建築基準法施行令126
条の2第1項では,排煙設備の設置を不要とする1つの場合として,「間仕切壁,
天井面から50センチメートル以上下方に突出した垂れ壁その他これらと同等以上
に煙の流動を妨げる効力のあるもので不燃材料で造り,又は覆われたもの(以下
「防煙壁」という。)」と規定されている部分があり,平成12年政令第211号
による改正後の同施行令108条の2では,不燃性能及びその技術的基準につい
て,「建築材料に,通常の火災による火熱が加えられた場合に,加熱開始後20分
間」「燃焼しない」等の要件を満たしていることと規定されている(顕著な事
実)。平成12年7月19日に発行された建設省住宅局建築指導課監修『平成12
年6月1日施行改正建築基準法(2年目施行)の解説』においては,これらの規定
が掲載された上,後者の改正については,「20分間とするのは,建築材料の近傍
の家具等が燃焼している状態を想定した場合には20分の加熱を考慮しておけば十
分な時間であることから,20分としているものである。また,従来の試験方法に
よって合格としてきた水準が,近年材料の不燃性について評価する場合に世界的に
用いられているISO(国際標準化機構)が定める試験法の下で基準適合性が認め
られるには,20分間以上の加熱により確認することが可能であることによる。」
と解説されている(乙あ15)。
(イ)一般財団法人建材試験センター(JTCCM)が平成12年6月1日に制定
した防耐火性能試験・評価業務方法書には,発熱性試験の試験条件について,「試
験中は,輻射電気ヒーターから試験体の表面に50kW/㎡の輻射熱を照射す
る。」と記載された上,その判定について,「加熱試験の結果,各試験体が次の基
準を満足する場合に合格とする。(1)加熱開始後20分間の総発熱量が,8MJ/
㎡以下であること。(2)加熱開始後20分間,防火上有害な裏面まで貫通する亀裂
及び穴がないこと。(3)加熱開始後20分間,最高発熱速度が,10秒以上継続し
て200kW/㎡を超えないこと。」と記載されている(乙あ22)。
また,上記法人のウェブサイト(平成26年6月27日時点)には,上記(2)の
技術的基準について,「通常の材料については,裏面まで貫通する孔及びき裂が生
じた場合及び変形によって裏面側の空間が見える場合には,所定の性能を有しない
と判断することとしています。但し,膜構造に使われる材料のように裏面側に可燃
物がないことが明らかである場合には,0.5㎜〔判決注:乙あ第37号証に
「0.5?四方」とあるのは,印刷の設定上の問題によるもので,「0.5㎜」の
趣旨であると認める(弁論の全趣旨)。〕四方以下の孔であれば,貫通していても
所定の性能を有するものとして取り扱われます(平成14年5月から適用)。」と
記載されている(乙あ37)。
(ウ)平成15年9月30日に頒布された刊行物である特開2003-27611
3号公報(乙あ18)には,次の記載がある。
「輻射電気ヒーターから基材の表面に50kW/㎡の輻射熱を照射する発熱性試
験において,加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/㎡以下であり,且つ加
熱開始後20分間,最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/㎡を超え
ない基材であって,前記基材が,ガラス繊維織物の少なくとも片面に樹脂層を
設けて成り,該ガラス繊維織物の経糸および緯糸の密度合計が59本/25㎜
以上であり,該経糸または緯糸の撚数が4回/25㎜以下であり,且つ該ガラ
ス繊維織物の通気性が7㎝3
×㎝-2
×s-1
以下であることを特徴とする不燃
シート材。」(【請求項1】)
「平成12年6月1日施行された改正建築基準法に伴い,防火材料の性能規定化
がなされ,不燃材料については,加熱開始後20分間,①燃焼しないものであ
ること,②防火上有害な変形,溶融,き裂その他の損傷を生じないものである
こと,③避難上有害な煙又はガスを発生しないものであること,と定められ
た。」「さらに,前記①と②に関しては,さらに細かく発熱性試験が定めら
れ,輻射電気ヒーターから基材の表面に50kW/㎡の輻射熱を照射し,ⅰ)
加熱開始後の20分間の総発熱量が8MJ/㎡以下,ⅰⅰ)加熱開始後20分
間,防火上有害な裏面まで貫通する亀裂および穴がないこと,ⅰⅰⅰ)加熱開
始後20分間,最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/㎡を超えない
こと,と定められた。」(【0002】,【0003】)
「本発明に用いられるガラス繊維織物の経糸および緯糸の撚数については,4回
/25㎜以下が好ましい。即ち,4回/25㎜以上の経糸および緯糸を用いて
ガラス繊維織物を製織すると,ガラス糸としての集束性が高まり,バスケット
ホールと呼ばれる経糸と緯糸により囲まれたガラス糸のない部分の面積が大き
くなり,該織物の通気性を7㎝3
×㎝-2
×s-1
以下にする事が困難となるため
である。」「従って,更なる通気性の低下を図るためには,経糸または緯糸の
少なくともどちらか一方に撚数が3回/25㎜以下の合撚糸を用いることが,
特に好ましくなってくる。」(【0012】,【0013】)
「ガラス繊維織物の少なくとも片面に樹脂層を設けた不燃シート材を加熱する
と,難燃性が非常に高いと言われている,フッ素樹脂・シリコーン樹脂であっ
ても,その殆どは樹脂が熱分解を受け揮散してしまい,ガラス繊維織物の表面
の樹脂がなくなり,ガラス繊維織物が現れてくる。」(【0015】)
「本発明で用いられる不燃シート材の樹脂層の樹脂量については,膜材料等の建
築材料向けには300~700g/㎡が好ましく,且つ不燃シート材の全体の
厚さが,0.45㎜以上になるように成形されることが好ましい。」(【00
18】)
(エ)平成13年11月9日に頒布された刊行物である特開2001-31123
5号公報(乙あ23)には,次の記載がある。
「難燃性樹脂加工を施したガラス繊維布帛を基材とし,加熱強度50kW/㎡で
の発熱試験による下記性能の全てを満たすことを特徴とする不燃性クロス。
(ⅰ)20分間のサンプル面積に対する最高発熱速度が10秒以上継続して2
00kW/㎡を超えない(ⅰⅰ)20分間のサンプル面積に対する総発熱量
が8MJ/㎡以下である(ⅰⅰⅰ)20分間,裏面まで貫通する亀裂及び穴
がない(ⅰⅴ)20分間一酸化炭素の二酸化炭素に対する濃度比が0.2以
下又は一酸化炭素濃度が50ppm以下である。」(【請求項1】)
エ透明性等について
(ア)昭和52年10月27日に頒布された刊行物である特公昭52-43014
号公報(乙あ7)には,次の記載があり,昭和55年11月14日に頒布された刊
行物である特公昭55-44984号公報(乙あ6)にも,同旨の記載がある。
「この発明は,建築基準法によって,一定以上の広さの部屋の天井に,所定の幅
の仕切り壁を垂設することが定められている防煙用仕切り壁の取付け構造の改
良に関する。」「上記仕切り壁は,天井下面に垂設されるものなので,通常は
透明なガラス板を用いて室内の美観を損ねないようにしている。」(1欄22
ないし28行)
(イ)昭和52年11月9日に頒布された刊行物である実公昭52-49208号
公報(乙あ2)には,次の記載がある。
「建物内の所用個所でその天井部から下方に垂設すべくなした防煙区画用垂れ壁
であって,透明体で構成してあることを特徴とする防煙区画用垂れ壁。」(実
用新案登録請求の範囲)
「平常時についてみると,防煙区画用垂れ壁が上述のように透明体であることに
より,これが不透明体であるものに比し照明による光を透過せしめて照明効果
の低下を少なくできると共に,防煙区画用垂れ壁を透して向側を広く見透せ,
空間を広く感じさせ得る利点がある。」(2欄32ないし37行)
「本考案では,これを透明体で構成するものであるから,上述①,②の優れた効
果を発揮するものであり乍ら,全体としては圧迫感,重圧感がなく,かつ明る
く広いイメージを与えて近代的な感覚に溢れる防煙区画用垂れ壁を提供でき
る」(3欄10ないし15行)
(ウ)昭和53年9月28日に頒布された刊行物である実公昭和53-40005
号公報(乙あ5)には,次の記載がある。
「従来防煙用垂れ壁としては室内等の美観を損なわないため通常ガラス板が用い
られている」(1欄33ないし34行)
(エ)昭和55年9月26日に頒布された刊行物である実公昭55-41234号
公報(乙あ4)には,次の記載がある。
「本案は建築物の天井面より固定的に下方へ突出して設けられる防煙垂れ壁に関
するものである。」(1欄24ないし25行)
「固定式のものは価格の点で可動式のものに比べ有利であって多く採用されて居
り,且つ美観を損い或いは照明効果を阻害しないように壁板として硝子を用い
るのが一般的である」(1欄32ないし35行)
(オ)平成11年3月23日に頒布された刊行物である特開平11-76442号
公報(乙あ3)には,次の記載がある。
「垂れ壁本体5は,例えば,無色透明の板ガラス5aで構成する。このような板ガ
ラス5aを用いれば,居住者に防煙垂れ壁の存在を意識させることがなく,天井
1の近傍の見通しが確保できて圧迫感を生じさせない。」(【0011】)
オ屈折率等について
(ア)平成7年に頒布された(弁論の全趣旨)刊行物である社団法人強化プラス
チック協会主催の学会「40thFRPCON-EX'95」の講演要旨集(乙あ9)には,「ガ
ラスクロス補強透明難燃シート(エスロンUTシート)」に関し,次の記載があ
る。
「難燃透明シート(エスロンUTシート)について」「架橋性樹脂シートの弱点
である強度を補強する為,今回はガラスヤーンクロスを用いた。《中略》火花
を貫通させない透明かつ柔軟なと言う市場要求があり,技術的興味とマッチし
たので開発したが,用途としては単にカーテン類に留まらず種々考えられ
る。」
「技術的要点」「2)ガラスと樹脂組成物との屈折率をある範囲内に調整し,
又,クロス内の空気を完全に脱泡することで透明が維持される。」
「製品の特徴」「2)透明である又透明着色が可能である。ヘイズ値20~3
0無着色シートでの全光線透過率89%」
なお,「Table3mechanicalpropertiesofproduct」と題する表には,「通常品」
の重量が328g/㎡であり,「引裂強度補強品」の重量が375g/㎡であ
ることが記載されている。
(イ)平成5年5月21日に頒布された刊行物である特開平5-123869号公
報(乙あ10)には,次の記載がある。
「光線透過性を有する無機繊維からなる織物又は不織布に難燃性熱硬化性樹脂組
成物を含浸して硬化した繊維強化樹脂シートであって,上記難燃性熱硬化性樹
脂組成物の硬化後における屈折率Aと上記無機繊維の屈折率Bとの関係が,次
式(1)を満足するものであり,かつ,繊維強化樹脂シートの平行光線透過率
が全光線透過率の80%以上であることを特徴とするウエルディングカーテン
材。
B+0.015≧A≧B-0.005・・・・・(1)」(【請求項
1】)
「難燃性熱硬化性樹脂組成物が,ハロゲン化アリールのアクリル誘導体もしくは
ハロゲン元素を含む不飽和ポリエステル樹脂,該誘導体もしくは不飽和ポリエ
ステル樹脂を溶解し得る液状架橋剤,及び燐含有モノマーよりなり,ハロゲン
元素が15~50重量%,燐が1~10重量%含有されていることを特徴とす
る請求項1記載のウエルディングカーテン材。」(【請求項2】)
「炭素繊維等の無機繊維の織物,シリコーンでコーティングしたガラス繊維の織
物又は不織布等からなるウエルディングカーテン材は,JIS-A-1323
に規定されている火災安全の評価基準に満足するものであるが,不透明である
か,曇った状態であってその向こう側を見通すことができないという問題が
あった。そこで,覗き孔をあけ,そこに透明軟質塩化ビニル樹脂シートを貼っ
て覗き窓を形成しているが,そのための手間と費用が嵩み,また,覗き窓部分
は火花により孔があく危険性があった。」「この発明は,上記の点に鑑み,難
燃性であることは勿論のこと,ノロやスパッタ等の高温の火花に触れても孔が
あくことがなく,かつ,透明性を有し,覗き窓を設けなくともカーテンの向こ
う側を見通すことができるウエルディングカーテン材を提供することを目的と
する。」(【0005】,【0006】)
「この発明において,光線透過性を有する無機繊維の織物又は不織布としては,
例えば,ガラス繊維のヤーンやロービングを平織り,綾織り,繻子織りなどし
た織物,ガラス繊維チョップドストランドマットなどのガラス繊維不織布など
があげられる。」(【0010】)
「この発明のウエルディングカーテン材においては,繊維強化樹脂シートに使用
された熱硬化性樹脂組成物の硬化後における屈折率Aと無機繊維の屈折率Bと
が,B+0.015≧A≧B-0.005の関係を満足し,難燃性繊維強化樹
脂シートの平行光線透過率が全光線透過率の80%以上であることにより,繊
維強化樹脂シートは,白濁せずに透明性を維持し,カーテンの向こう側を見通
すことができる。」(【0020】)
「この発明のウエルディングカーテン材は,繊維強化樹脂シートに使用された熱
硬化性樹脂組成物の硬化後における屈折率Aと無機繊維の屈折率Bとが,B+
0.015≧A≧B-0.005の関係を満足し,難燃性繊維強化樹脂シート
の平行光線透過率が全光線透過率の80%以上の透明性がある。」(【003
8】)
この記載の前提となる【表1】では,実施例1について,全光線透過率が9
1.8%,平行光線透過率が78.6%であった旨,実施例3について,全光
線透過率が90.9%,平行光線透過率が78.2%であった旨が開示されて
いる(【0037】)。そして,全光線透過率から平行光線透過率を減じて拡
散透過率を算出した上,拡散透過率を全光線透過率で除してヘーズを算出する
と,上記実施例1及び実施例3のヘーズはいずれも約14%である。なお,実
施例1では,基本難燃性熱硬化性樹脂組成物に,ビニルエステル樹脂の骨格を
形成するビスフェノールA-エポキシアクリレートが含まれている(【002
3】)。
(ウ)平成15年8月7日に頒布された刊行物である国際公開第03/06453
5号パンフレット(乙あ11)には,次の記載がある。
「本発明の目的は線膨張係数が小さく,透明性,耐熱性,耐溶剤性に優れ,ガラ
スに代替可能な透明複合体組成物を提供することにある。」(明細書2頁18
及び19行)
「透明樹脂(a)とガラスフィラー(b)からなり,透明樹脂(a)は,架橋後の屈折率が
ガラスフィラー(b)よりも低い1種以上の反応性モノマーと,ガラスフィラー
(b)よりも高い1種以上の反応性モノマーとを架橋して得られる共重合体で
あって,(a)と(b)との屈折率差が0.01以下である透明複合体組成物は,波
長550nmにおける光線透過率が80%以上と透明性が高く,しかも低線膨
張係数であって,耐熱性,耐溶剤性にも優れるとの知見を得て本発明を完成す
るに至った。」(明細書2頁26行ないし3頁6行)
「前記透明樹脂(a)とガラスフィラー(b)との屈折率差は,優れた透明性を得るた
め0.01以下である必要があり,0.005以下であるのがより好まし
い。」(明細書4頁16及び17行)
「樹脂とガラスとのアッベ数が近いと広い波長領域において両者の屈折率が一致
し,広い波長領域で高い光線透過率が得られる。」(明細書8頁16ないし1
8行)
(エ)平成5年11月9日に頒布された刊行物である特開平5-294671号公
報(乙あ12)には,次の記載がある。
「屈折率(Nd)が1.570~1.600,アッベ数が50以下の光学定数を
有することを特徴とするポリカーボネート樹脂強化用ガラス繊維。」(【請求
項1】)
「本発明の目的は,PC樹脂の補強材として使用しても,樹脂成形体の透明性を
損なわせることがなく,しかも樹脂成形体に色付きを発生させることもないガ
ラス繊維を提供することである。」「本発明者等は,上記事情に鑑み,種々の
研究を重ねた結果,ガラス繊維のNdがPC樹脂のそれと一致していても,両
者のアッベ数が大きく相違すると,光線の波長によって屈折率が異なり,樹脂
成形体に色付きが発生することを見いだし,本発明を提案するに至った。」
(【0007】,【0008】)
「アッベ数は,透明媒質体の光の分散に関する性質を規定する量のことであり,
PC樹脂のアッベ数は,約30である。」「PC樹脂とガラス繊維のアッベ数
が大きく異なると,Ndより紫外域に近づいた波長における屈折率,例えば光
源波長486.1μmにおける屈折率(以下,NFという),及びNdより赤
外域に近づいた波長における屈折率,例えば光源波長656.3μmにおける
屈折率(以下,NCという)が大きく異なることになる。」「このようなPC
樹脂と,ガラス繊維からなる樹脂成形体に対し,白色光が照射されると,例え
ばNFやNCの波長において,PC樹脂とガラス繊維の界面で光線が散乱し,
このため樹脂成形体に色付きが発生する。」(【0010】ないし【001
2】)
「屈折率とアッベ数がPC樹脂のそれらと近似しているNo.1と2の試料から
なるガラス繊維を用いた樹脂成形体は,良好な透明性を有し,しかも色付きも
認められなかった。」(【0025】)
(オ)平成13年9月26日に頒布された刊行物である特開2001-26136
7号公報(乙あ14)には,次の記載がある。
「透明な樹脂に充填するガラスフィラーであって,樹脂の有する屈折率に比べて
±0.0025の範囲内にある屈折率を有するとともに,樹脂の有するアッベ
数に比べて±5.0の範囲内にあるアッベ数を有することを特徴とする透明樹
脂用ガラスフィラー。」(【請求項1】)
「本発明でいう透明な樹脂は,フェノール樹脂,尿素樹脂,不飽和ポリエステル
樹脂,エポキシ樹脂,ビニルエステル樹脂等の熱硬化性樹脂や《中略》等の熱
可塑性樹脂があり,中でも透明エポキシ樹脂が最適である。」(【000
7】)
「屈折率を±0.0025の範囲内としたのは,ガラスフィラーの充填による屈
折率の異方性の発生を防止し透過率の低下を防ぐためである。また,アッベ数
を±5.0の範囲内としたのは,ガラス粒子の屈折率の傾きを樹脂の屈折率の
傾きにほぼ一致するように調整して,ガラス粒子の屈折率と樹脂の屈折率とが
ナトリウムD線上のみならず,それよりも短い波長域でも一致し広い波長域に
おける高い透過率を確保するためである。」(【0008】)
カビニルエステル樹脂等について
(ア)平成9年4月28日に頒布された刊行物である特開平9-110948公報
(乙あ13)には,次の記載がある。
「ウレタン変性ビニルエステル樹脂(A)または(A)中に存在する水酸基の一
部または全部に多塩基酸無水物(B)を付加させて得られるウレタン変性酸付
加ビニルエステル樹脂(A’)と,分子内に少なくとも1個の二重結合を有す
る反応性単量体(C)を含有してなり,(A)が1分子内に平均1.2個以上
のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(D)に不飽和一塩基酸(E)を付加させ
て得られるビニルエステル樹脂(F)及び/または1分子内に1個の水酸基を
有する(メタ)アクリレート(G)と1分子内に平均1.5個以上のイソシア
ネート基を有するポリイソシアネート成分(H)を,(H)成分中のイソシア
ネート基と(F)および(G)中の合計水酸基の当量比が0.01~1.2に
なるように反応させて得られたものであることを特徴とするビニルエステル樹
脂組成物。」(【請求項1】)
「さらにビニルエステル樹脂組成物100重量部に対し0.1~5.0重量部の
硬化触媒,0.01~10.0重量部の内部離型剤,0~400重量部の充填
剤等の添加剤を含んでなる請求項1記載のビニルエステル樹脂組成物を0.2
~10重量部の増粘剤とともにガラス繊維に含浸させ,増粘させたシート状又
はバルク状樹脂組成物。」(【請求項9】)
「ビニルエステル樹脂硬化物は,耐熱性,耐食性,靱性,耐煮沸性,光沢,透明
性等に優れ,近年種々の分野で使用されてきている。」(【0002】)
(イ)平成11年に化学工学会・化学装置材料委員会・有機材料分科会が日本の化
学会社を対象に行った有機材料使用実績のアンケート調査の結果によると,GFR
P(ガラス繊維強化プラスチックないしガラス繊維強化熱硬化性樹脂(甲47,乙
あ16参照))におけるマトリックス(母材)樹脂として最も多く使用されている
のは,ビニルエステル樹脂であった(乙あ17,弁論の全趣旨)。
キガラスクロスの糸の間隔,番手等について
平成4年7月1日のJIS規格改正(同月22日官報公示)に係る日本工業標準
調査会審議の「ガラスクロスJISR3414」(乙あ49)では,表2
「無アルカリ平織ガラスクロス」において,①経糸・緯糸それぞれについて,密度
が50本/25㎜以上(すなわち間隔が0.5㎜以下)であるガラスクロスが幾つ
か記載されており,②経糸・緯糸いずれについても,番手が5tex~70texの範囲
に収まるものが多く掲げられている。
また,平成11年3月20日のJIS規格改正に係る日本工業標準調査会審議の
「ガラス糸JISR3413」(乙あ51)にあっても,表2「無アルカリ
ガラス糸の種類」において,番手が5tex~70texの範囲に収まるものが多く掲げ
られている。
ク地震による防煙垂壁の落下・破損について
(ア)社団法人日本ABC協会(新聞雑誌部数公査機構)により「日本で一番多く
の方に読まれている建築雑誌」として認証を受けたこともある(乙あ102,弁論
の全趣旨)日経BP社発行の雑誌である『日経アーキテクチュア』2003年(平
成15年)7月7日号(乙あ42)中の「防煙垂れ壁のガラスがまた落下懸念さ
れる破損ガラスによる人身被害」という記事には,次の記載がある。
「5月26日に発生した宮城県沖の地震(最大震度6弱)で防煙垂れ壁のガラス
が割れて落下した建物が見つかった。同じようなガラス落下の例は阪神大震災
や芸予地震でも確認されている。人身事故につながる可能性があり,放置でき
ない問題だ。ガラス防煙垂れ壁の耐震対策が急務になっている。」
「ガラス防煙垂れ壁のメーカーであるミヨシのAⅰ社長が,宮城県沖の地震で破
損したガラス防煙垂れ壁を現地で調査した。」「Aⅰ氏は「割れたガラスが天
井から落下するのはたいへん危険だ。絶対に防がなければならない」と話す。
氏が提案する耐震対策のポイントは三つだ。①ガラス防煙垂れ壁を揺れにくく
する②揺れてもガラスが壁などに強くぶつからないようにする③ガラスが割れ
ても落ちないようにする-ことだ。《中略》「これらの対策でも,ガラスの破
損や落下が心配になるなら,ガラスを使うのをやめるしかないだろう」とAⅰ
氏は話している。」
(イ)雑誌『建築技術』2003年(平成15年)8月号(乙あ43)中の「三
陸南地震におけるガラス防煙垂壁の被害記録と教訓」という記事には,平成15
年5月26日に岩手,宮城県境沖を震源として発生した三陸南地震について,現
地調査の結果として,「一般に震度の大きい方がガラス破損,部材破損も甚大
で,数多く発生すると思いがちであるが,施行条件の違いによっても被害に差が
あるものがあった。」との記載がされ,同年10月号(乙あ44)中の「三陸南
地震におけるガラス防煙垂壁の被害記録と教訓-その2-」という記事には,再
度の現地調査の結果として,「今回の調査でも前回同様に壁,柱の端部のガラス
破損,落下が多く見られた。」との記載がされた。さらに,同年12月号(乙あ
45)中の「十勝沖地震におけるガラス防煙垂壁の被害記録と教訓」という記事
には,同年9月26日に北海道十勝沖を震源として発生した十勝沖地震につい
て,現地調査の際,「防煙垂壁のガラスが落下する危険があるため,業者は即撤
去・補修を行ったが,施主側との見積交渉にかかる時間との戦いでもあった。」
との記載がされている。
(2)主引例(乙あ1)について
前記(1)イの認定事実によると,乙あ1発明は,防火装置,特に防煙カーテンの
技術分野に関する発明であり,「建築物の屋根デッキの下側から垂下された,樹脂
被覆ガラス繊維織物からなるシート状の煙封じ込めカーテン」であると認められ
る。
(3)本件発明1-1について
ア本件発明1-1と乙あ1発明との対比
(ア)一致点
前記(1)ア,イ,ウ(ア)の認定事実に証拠(甲2,4,乙あ1,110)及び弁論
の全趣旨を総合すると,乙あ1発明の「屋根デッキの下側から垂下された」「煙封
じ込めカーテン」は,本件発明1-1の構成要件1A・1Iの「防煙垂壁」に相当
し,また,乙あ1発明の「樹脂被覆ガラス繊維織物」は,本件発明1-1の「少な
くとも1枚のガラス繊維織物と,前記ガラス繊維織物を挟む一対の樹脂層と,を含
む」ものに相当するものと認められる。
そうすると,本件発明1-1と乙あ1発明とは,「シートからなる防煙垂壁で
あって,シートが,少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前記ガラス繊維織物を挟
む一対の樹脂層とを含む」点(構成要件1Aの「シートからなる防煙垂壁」・1
B・1I)において一致しているというべきである。
(イ)相違点1
本件発明1-1では,前記(ア)の「シート」が,「不燃性」であり,構成要件1
Hの「輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの表面に50kW/㎡の輻射熱を照
射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/㎡以下であ
り,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/㎡
を超えない」ものであることが特定されているのに対し,乙あ1発明では,このよ
うな特定(構成要件1Aの「不燃性」・1H)がない点において,両発明は相違し
ている。
(ウ)相違点2
本件発明1-1では,前記(ア)の「シート」が,「透明」であり,構成要件1E
の「ガラス組成物と樹脂組成物との屈折率の差が0.02以下」で,構成要件1F
の「アッベ数の差が30以下」であり,構成要件1Gの「全光線透過率が80%以
上」かつ「ヘーズが20%以下」であることが特定されているのに対し,乙あ1発
明では,このような特定(構成要件1Aの「透明」・1E・1F・1G)がない点
において,両発明は相違している。
(エ)相違点3
本件発明1-1では,「樹脂」が,「硬化樹脂」で,さらには「ビニルエステル
樹脂」であり,「ガラス繊維織物」と「樹脂」との重量比が,「ガラス繊維織物が
30~70重量%であり,硬化樹脂層が70~30重量%」であることが特定され
ているのに対し,乙あ1発明では,このような特定(構成要件1Bの「硬化」・1
C・1D)がない点において,両発明は相違している。
イ本件発明1-1と乙あ1発明との相違点に関する検討
(ア)相違点1に関する検討
前記(1)ウの認定事実によると,本件特許1の出願当時,①防煙垂壁において,
これを不燃性のものにすることは,周知の課題であったこと,②輻射電気ヒーター
から試験体の表面に50kW/㎡の輻射熱を照射する発熱性試験において,加熱開
始後20分間の総発熱量が8MJ/㎡以下であり,かつ加熱開始後20分間,最高
発熱速度が10秒以上継続して200kW/㎡を超えないことを不燃性の要件とす
ることも周知のものであったと認められる。
したがって,乙あ1発明において,防煙垂壁を不燃性のものにするという周知の
課題を達成するために,これを構成するシートについて,後記(ウ)のとおり,可燃
物である樹脂の種類や量を調整して,「輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの
表面に50kW/㎡の輻射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間
の総発熱量が8MJ/㎡以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が1
0秒以上継続して200kW/㎡を超えない」不燃性のものとすることは,本件特
許1の出願当時,当業者が容易に想到し得たものというべきである。
(イ)相違点2に関する検討
前記(1)ア,エの認定事実によると,本件特許1の出願当時,防煙垂壁におい
て,これを無色透明,すなわち透明で着色を抑えたものにすることは,周知の課題
であったと認められる。
そして,前記(1)オの認定事実に照らすと,ガラス組成物と樹脂組成物からなる
複合体において,透明で着色を抑えたものにするために,ガラス組成物と樹脂組成
物との屈折率の差及びアッベ数の差をいずれも小さくすることは,上記出願当時か
ら技術常識であったと認められる。また,前記(1)オ(ア),(イ)の認定事実に照らす
と,シートが透明性を備えるためには,全光線透過率は高く,ヘーズ(曇り度)は
小さい方が好ましいことも,上記出願当時から技術常識であったと認められる。そ
して,これらに加え弁論の全趣旨に照らすと,ガラス組成物と樹脂組成物との屈折
率の差を「0.02以下」,アッベ数の差を「30以下」とし,シートの全光線透
過率を「80%以上」,ヘーズを「20%以下」とすることは,当業者が適宜設定
し得たこととみられる一方,こうした数値限定に格別の技術的意義があるものとは
うかがわれない(当該数値限定によって当業者が予測できない程度に際立って優れ
た効果を有するといった事情もうかがわれない。)。
そうすると,乙あ1発明において,防煙垂壁を透明で着色を抑えたものにすると
いう周知の課題を達成するために,これを構成するシートについて,ガラス組成物
と樹脂組成物との屈折率の差を0.02以下,アッベ数の差を30以下とし,全光
線透過率を80%以上,ヘーズを20%以下とすること(なお,ここでは,上記相
違点2に係る本件発明1-1の構成である,ガラス組成物と樹脂組成物との屈折率
の差を0.02以下,アッベ数の差を30以下とするとの点に関し,明確性要件違
反がないとする原告の主張を一応の前提とする。)は,本件特許1の出願当時,当
業者が容易に想到し得たものというべきである。
(ウ)相違点3に関する検討
前記(1)オ(イ),(オ),カの認定事実によると,本件特許1の出願当時,不燃性を要
求されるシートにおいて,耐熱性等に優れるビニルエステル樹脂を用いることは,
周知技術であったと認められる。
また,前記(1)ウ(ウ)で認定したとおり,ガラス繊維織物と樹脂からなる不燃シー
トを加熱すると,樹脂は揮散してなくなり,ガラス繊維織物だけになることに照ら
しても,乙あ1発明において,シートを不燃性とするために,可燃物である樹脂の
量を調整することは,当業者が容易になし得たことというべきであり,その際,
シートの不燃性の程度や強度等を考慮して,ガラス組成物と樹脂との重量比につい
て,「ガラス繊維織物が30~70重量%であり,硬化樹脂層が70~30重
量%」という数値を設定することは,当業者が適宜なし得たこととみられる一方,
こうした数値限定に格別の技術的意義があるものとはうかがわれない(当該数値限
定によって当業者が予測できない程度に際立って優れた効果を有するといった事情
もうかがわれない。)。
そうすると,乙あ1発明において,「樹脂」を「硬化樹脂」である「ビニルエス
テル樹脂」とし,「ガラス繊維織物」と「樹脂」との重量比について「ガラス繊維
織物が30~70重量%であり,硬化樹脂層が70~30重量%」とすることは,
本件特許1の出願当時,当業者が容易に想到し得たものというべきである。
ウ本件発明1-1の容易想到性について
以上を総合すると,本件発明1-1は,その出願当時,乙あ1発明及び上述した
周知技術等に基づいて当業者が容易に発明することができたものというべきであ
る。
(4)本件発明1-2について
ア本件発明1-2と乙あ1発明との対比
本件発明1-2は,本件発明1-1において,更に,構成要件1Jの「透明不燃
性シートが,前記ガラス繊維織物中の隣接する経糸の間の隙間が0.5㎜以下であ
り,又は,前記ガラス繊維織物中の隣接する緯糸の間の隙間が0.5㎜以下であ
る」という特定を付加したものである。
したがって,本件発明1-2と乙あ1発明とは,前記(3)アの一致点及び相違点
を有するほか,上記特定の有無も相違点となる。
イ上記アの相違点に関する検討
前記(1)キの認定事実によると,本件特許1の出願当時,経糸の間隔及び緯糸の
間隔が0.5㎜以下となっているガラス繊維織物が周知であったと認められる。そ
して,前記(1)ウ(ウ)で認定したとおり,特開2003-276113号公報(乙あ
18)において,ガラス繊維織物と樹脂からなる不燃性シートについて,経糸と緯
糸により囲まれたガラス糸のない部分の面積を小さくすべきことが記載されている
ことを考慮すると,乙あ1発明において,シートの不燃性を向上させるために,ガ
ラス繊維織物における経糸の間隔及び緯糸の間隔がいずれも密になっている上記ガ
ラス繊維織物を用いることは,当業者が容易になし得たことというべきである。ま
た,その際,膜構造に使われる材料において発熱性試験で0.5㎜四方以下の孔が
開かなければ不燃材料として認定され得ること(前記(1)ウ(イ))などを考慮して,
上記経糸及び緯糸の各間隔について,「0.5㎜以下」という数値を設定すること
は,当業者が適宜なし得たこととみられる一方,こうした数値限定に格別の技術的
意義があるものとはうかがわれない(当該数値限定によって当業者が予測できない
程度に際立って優れた効果を有するといった事情もうかがわれない。)。
そうすると,乙あ1発明において,シートについて,「ガラス繊維織物中の隣接
する経糸の間の隙間が0.5㎜以下であり,又は,ガラス繊維織物中の隣接する緯
糸の間の隙間が0.5㎜以下である」とすることは,本件特許1の出願当時,当業
者が容易に想到し得たものというべきである。
ウ本件発明1-2の容易想到性について
以上を前記(3)に総合すると,本件発明1-2は,その出願当時,乙あ1発明及
び上述した周知技術等に基づいて当業者が容易に発明することができたものという
べきである。
(5)本件発明1-3について
ア本件発明1-3と乙あ1発明との対比
本件発明1-3は,本件発明1-1又は本件発明1-2において,更に,構成要
件1Kの「透明不燃性シートが,前記透明不燃性シート1㎡当たり,前記一対の硬
化樹脂層の重量が15~500gの範囲である」という特定を付加したものであ
る。
したがって,本件発明1-3と乙あ1発明とは,前記(3)ア,(4)アの一致点及び
相違点を有するほか,上記特定の有無も相違点となる。
イ上記相違点に関する検討
前記(3)イ(ウ)で検討したところによれば,本件特許1の出願当時,乙あ1発明に
おいて,シートを不燃性とするために,可燃物である樹脂の量を調整することは,
当業者が容易になし得たことというべきである。また,その際,樹脂層の重量につ
いて,「1㎡当たり15~500g」という数値を設定することは,特開2003
-276113号公報(乙あ18)に「ガラス繊維織物と樹脂からなる不燃性シー
トの樹脂量については,建築材料向けには300~700g/㎡が好ましい」旨の
記載があること(前記(1)ウ(ウ))に照らしても,当業者が適宜なし得たこととみら
れる一方,こうした数値限定に格別の技術的意義があるものとはうかがわれない
(当該数値限定によって当業者が予測できない程度に際立って優れた効果を有する
といった事情もうかがわれない。)。
そうすると,乙あ1発明において,シートについて,「シート1㎡当たり,硬化
樹脂層の重量が15~500gの範囲である」とすることは,本件特許1の出願当
時,当業者が容易に想到し得たものというべきである。
ウ本件発明1-3の容易想到性について
以上を前記(3),(4)に総合すると,本件発明1-3は,その出願当時,乙あ1発
明及び上述した周知技術等に基づいて当業者が容易に発明することができたものと
いうべきである。
(6)本件発明2-1について
ア本件発明2-1と乙あ1発明との対比
本件特許2は,本件特許1の出願からの分割出願に対する特許であるところ,本
件発明2-1は,本件発明1-1において,構成要件1Cを除く一方,①構成要件
2Aの「建築物の天井に垂下して取り付けられた」という特定及び②構成要件2D
の「前記透明不燃性シート1㎡当たり,前記一対の硬化樹脂層の重量が15~50
0gの範囲であり」という特定を付加したものである。
上記①の点については,前記(2)のとおり,乙あ1発明は,「建築物の屋根デッ
キの下側から垂下された」ものであるから,この点は相違点とはならない。
また,上記②の点については,構成要件1Kと同じであるから,その相違点に係
る容易想到性については,前記(5)において検討したとおりである。
以上を前記(3)に総合すると,本件発明2-1は,その出願当時,乙あ1発明及
び上述した周知技術等に基づいて当業者が容易に発明することができたものという
べきである。
(7)本件発明2-2について
本件発明2-2は,本件発明2-1において,更に,構成要件2Jの「前記ガラ
ス繊維織物中の隣接する経糸の間の隙間が0.5㎜以下であり,又は,前記ガラス
繊維織物中の隣接する緯糸の間の隙間が0.5㎜以下である」という特定を付加し
たものである。
この点については,構成要件1Jと同じであるから,その相違点に係る容易想到
性については,前記(4)において検討したとおりである。
以上を前記(6)に総合すると,本件発明2-2は,その出願当時,乙あ1発明及
び上述した周知技術等に基づいて当業者が容易に発明することができたものという
べきである。
(8)本件発明2-3について
ア本件発明2-3と乙あ1発明との対比
本件発明2-3は,本件発明2-1又は本件発明2-2において,更に,構成要
件2Kの「前記1枚のガラス繊維織物の重量が,20~150g/㎡である」とい
う特定を付加したものであり,この点も乙あ1発明との相違点となる。
イ上記相違点に関する検討
弁論の全趣旨に照らすと,ガラス繊維織物の重量について,「20~150g/
㎡」という数値を設定することは,当業者が適宜なし得たこととみられる(原告
は,この点を積極的に争っていない。)一方,こうした数値限定に格別の技術的意
義があるものとはうかがわれない(当該数値限定によって当業者が予測できない程
度に際立って優れた効果を有するといった事情もうかがわれない。)。
そうすると,乙あ1発明において,「1枚のガラス繊維織物の重量が,20~1
50g/㎡である」とすることは,本件特許2の出願当時,当業者が容易に想到し
得たものというべきである。
ウ本件発明2-3の容易想到性について
以上を前記(6),(7)に総合すると,本件発明2-3は,その出願当時,乙あ1発
明及び上述した周知技術等に基づいて当業者が容易に発明することができたものと
いうべきである。
(9)本件発明2-4について
ア本件発明2-4と乙あ1発明との対比
本件発明2-4は,本件発明2-1ないし本件発明2-3において,更に,構成
要件2Lの「前記ガラス繊維織物中のガラス繊維の番手が,5tex~70texであ
る」という特定を付加したものであり,この点も乙あ1発明との相違点となる。
イ上記相違点に関する検討
前記(1)キの認定事実及び弁論の全趣旨に照らすと,ガラス繊維織の番手(太
さ)について,「5tex~70tex」という数値を設定することは,当業者が適宜な
し得たこととみられる一方,こうした数値限定に格別の技術的意義があるものとは
うかがわれない(当該数値限定によって当業者が予測できない程度に際立って優れ
た効果を有するといった事情もうかがわれない。)。
そうすると,乙あ1発明において,「1ガラス繊維織物中のガラス繊維の番手
が,5tex~70texである」とすることは,本件特許2の出願当時,当業者が容易
に想到し得たものというべきである。
ウ本件発明2-4の容易想到性について
以上を前記(6)ないし(8)に総合すると,本件発明2-4は,その出願当時,乙あ
1発明及び上述した周知技術等に基づいて当業者が容易に発明することができたも
のというべきである。
(10)原告の主張について
以上に対し,原告は,①本件各特許の出願当時,防煙垂壁に透明性を備えること
が周知の課題であったとは認められず,乙あ1発明における煙封じ込めカーテンを
透明にする動機付けが存在していたとは認められないから,本件各発明の構成要件
1A・1B・2A・2Bにおける「透明」という要素を具備させることが当業者に
とって容易に想到し得たとはいえない,②乙あ1記載の煙封じ込めカーテンにおい
て使用する樹脂としてビニルエステル樹脂からなる硬化樹脂を採用すること(本件
各発明の構成要件1C)については,当業者が容易に想到し得た事項ではない,③
本件各発明の構成要件1D・1E・1F・1G・1H・2C・2E・2F・2G・
2Hについては,乙あ1発明に何ら示唆されておらず,これらの要件を具備させる
ことが当業者にとって容易に想到し得たということはできない,④本件各発明にお
いては,「透明で,着色が抑えられ,不燃性で,落下して割れることを防止でき
る」という従来品では同時に満たすことができなかった複数の優れた特性を同時に
実現できる防煙垂壁又は遮煙スクリーンを得るというユニークな課題が設定されて
いるところ,このような解決課題の設定自体,当業者が容易に着想し得ないもので
あったなどと主張して,本件各発明は,乙あ1発明に基づいて当業者が容易に発明
することができたものとはいえない旨主張する。
しかしながら,次のとおり,原告の上記主張はいずれも採用することができな
い。
ア上記①の点については,前記(3)イ(イ)で説示したとおりであって,特公昭5
2-43014号公報(乙あ7)に「建築基準法によって,天井に垂設することが
定められている防煙用仕切り壁は,天井下面に垂設されるものなので,通常は透明
なガラス板を用いて室内の美観を損ねないようにしている。」旨の記述があり(前
記(1)エ(ア)),本件各明細書においても「防煙垂壁は,建築物の天井に取り付けら
れるので,一般的には,視野を妨げないように,透明な板ガラスが用いられてい
る。」(【0003】)と自認されていること(前記(1)ア)などに照らせば,本
件各特許の出願当時,防煙垂壁に透明性を備えることが周知の課題であったと認め
られるから,原告の主張は,その前提を欠き,採用することができない。
イ上記②の点については,前記(3)ア(ア),イ(ア),(ウ)で説示したとおり,乙あ1
発明の「煙封じ込めカーテン」(屋根デッキの下側から垂下されたシート状の煙封
じ込めカーテン)は,シートからなる防煙垂壁に相当し,これを不燃性のものとす
ることは,周知の課題であったところ,不燃性を要求されるシートにおいてビニル
エステル樹脂を用いることは周知技術であったのであるから,当業者が構成要件1
Cを容易に想到し得たことは明らかというべきである。
ウ上記③の点については,前記(3)イ(ア)ないし(ウ)で説示したとおり,当業者
が,周知の事項ないし技術常識を適用し,適宜数値を設定することにより,本件各
発明の構成要件1D・1E・1F・1G・1H・2C・2E・2F・2G・2Hを
容易に想到し得たことは明らかというべきである。
エ上記④の点については,前記(3)イ(ア),(イ)で説示したとおり,本件各特許の
出願当時,防煙垂壁において,これを「透明で,着色が抑えられた」ものにするこ
と及び「不燃性」のものとすることが周知の課題であったのであるから,これらの
課題を組み合わせることは,当業者が容易に想到し得たことが明らかである。
さらに,前記(1)クの認定事実に照らすと,上記出願当時,防煙垂壁について,
地震の際に「落ちて割れないもの」とすることが好ましいことも周知であったと認
められ,同一の製品に関するこれら周知の課題を全て解決できることが望ましいこ
とは当たり前の事であるから,原告が主張する本件各発明の解決課題は,当業者で
あれば当然考慮するものというべきであって,ユニークな課題であるとか当業者が
容易に着想し得ないものであったということはできない。また,この点を暫く措く
としても,原告が「落ちて割れない素材」とするガラス繊維織物と硬化樹脂層の組
み合わせは,乙あ1発明でもともと「樹脂被覆ガラス繊維織物」となっていたもの
のうち,樹脂としてビニルエステル樹脂を選択した場合の素材と同じものにすぎな
いところ,前記(3)イ(ウ)で説示したところによると,本件各特許の出願当時,不燃
性を要求されるシートにおいて,耐熱性等に優れるビニルエステル樹脂を用いるこ
とは,周知の技術であったのであるから,「落ちて割れない」という課題を特段設
定するかにかかわらず当業者が容易になし得たことというべきである。
以上のとおり,上記出願当時,当業者が本件各発明を容易に発明することができ
たことに変わりはないから,原告の主張を採用することはできない。
(11)小括
以上のとおり,本件各発明は,本件各特許の出願前に頒布された刊行物に記載さ
れた乙あ1発明及び上述した周知技術等に基づいて当業者が容易に発明することが
できたものであるから,進歩性を欠く。したがって,本件各発明についての特許
は,特許法29条2項に違反してされたものであり,同法123条1項2号に該当
するから,訂正の対抗主張(訂正の再抗弁)が認められない限り,特許無効審判に
より無効にされるべきものである。
2争点3-7(無効理由7〔明確性要件違反〕は認められるか)について
(1)認定事実
証拠(甲11,25,31,乙あ27ないし29,75,89)及び弁論の全趣
旨によると,(a)一般に,ガラス組成物やプラスチック等の屈折率の測定方法とし
て,①最小偏角法(プリズム状に加工した試料に入射する光の入射角を走査して,
分光器を用いて入射光と屈折光との偏角の最小値を求める方法),②焦点移動によ
る方法(光学顕微鏡などの集光観察系の対物側に平行平板試料を挿入したときの焦
点の移動量からの屈折率を求める方法),③浸液法(対象物を粉砕して粉末状に
し,その試料粉末を屈折率浸液に浸し,光学顕微鏡で粒子と浸液との境界に発生す
るベッケ線現象を観察して測定する方法。液浸法,ベッケ法,B法ともいう。),
④臨界角法(ガラス融液又は樹脂組成物から作成した板状又はフィルム状の試料片
を屈折率既知の標準プリズムの上面に置き,標準プリズムと試料との界面にほぼ平
行に光を照射し,屈折計で測定する方法。A法ともいう。),⑤Vブロック法(V
ブロックプリズム上に同ブロック状の試料を載せ,プリズムの壁面の法線上から光
を入射し,屈折率を算出する方法)などがあること,(b)測定方法が異なれば測定
値も異なる数字になる(例えば,同じ試料であっても,A法によるか,B法による
かによって,測定値は異なる数字となる。)ことがあり,(c)同じガラス組成物に
ついて,Vブロック法による測定値が浸液法(B法)による測定値と比べて最大で
+0.0077になることもあること,(d)上記(a),(b)の事実は本件各出願当時か
ら知られていたことが認められる。
(2)検討
ア上記(1)の認定事実によると,ガラス組成物の屈折率については,いくつか
の測定方法があり,測定方法が相違すると,測定値も異なることがあるというので
ある。
ところが,本件各特許の特許請求の範囲の記載では,屈折率の測定方法が特定さ
れていないし,また,本件各明細書における発明の詳細な説明にも,ガラス組成物
の屈折率の測定方法は記載されていない。
そうすると,本件各発明における「ガラス繊維を構成するガラス組成物」の「屈
折率」は,いかなる測定方法による屈折率であるかが不明であり,測定値を一義的
に定めることができないから,その内容が特定されているとはいえない。
したがって,「ガラス繊維を構成するガラス組成物と硬化樹脂層を構成する樹脂
組成物との屈折率の差が0.02以下」という構成要件(1E・2E)は,その範
囲を具体的に特定することができず,明確性を欠くものといわざるを得ない。
イまた,アッベ数は,前記前提事実(2)エ及び前記1(1)アの認定事実のとお
り,3波長における屈折率の値を用いて算出するものであるから,上記アのとおり
「ガラス繊維を構成するガラス組成物」の「屈折率」が特定されていない以上,
「ガラス繊維を構成するガラス組成物」の「アッベ数」も特定されないこととな
る。
したがって,「ガラス繊維を構成するガラス組成物と硬化樹脂層を構成する樹脂
組成物とのアッベ数の差が30以下」という構成要件(1F・2F)は,その範囲
を具体的に特定することができず,明確性を欠くものといわざるを得ない。
(3)原告の主張について
これに対し,原告は,樹脂組成物の屈折率については,本件各明細書において
「硬化樹脂層の屈折率測定方法は,JISK7142の「プラスチックの屈折
率測定方法」(Determinationoftherefractiveindexofplastics)に従う。」(本件明
細書1の段落【0037】,本件明細書2の段落【0038】)と記載され,測定
方法が特定されていることを指摘した上,差をとる対象である個々の屈折率は同じ
測定方法で測定するものと考えるのが合理的であるから,ガラス組成物についても
樹脂組成物と同じ測定方法によることが当業者に明らかである旨主張して,本件各
発明における「ガラス繊維を構成するガラス組成物と硬化樹脂層を構成する樹脂組
成物との屈折率の差が0.02以下」及び「ガラス繊維を構成するガラス組成物と
硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差が30以下」という構成要件は
明確である旨主張する。
しかしながら,証拠(乙あ28)によれば,「JISK7142の「プラス
チックの屈折率測定方法」」には,フィルムを屈折計を用いて測定するA法と,粉
体を顕微鏡を用いて測定するB法とがともに含まれることが認められるから,そも
そも,原告が引用する本件各明細書の上記記載部分によっては,硬化樹脂層の屈折
率の測定方法は,未だ特定されているとはいえない。
また,証拠(乙あ27ないし29)及び弁論の全趣旨に照らすと,測定対象とな
る試料に応じて屈折率の測定方法も異なり得るから,ガラス組成物と樹脂組成物と
の屈折率の差をとるからといって,ガラス組成物の屈折率の測定方法について,樹
脂組成物の屈折率と必ずしも同一の測定方法がとられると断定することはできな
い。それにもかかわらず,原告は,本件各明細書において,わざわざ「硬化樹脂層
の屈折率測定方法は,JISK7142の「プラスチックの屈折率測定方法」
(Determinationoftherefractiveindexofplastics)に従う。」と説明する一方,「ガ
ラス繊維織物」ないし「ガラス繊維を構成するガラス組成物」の屈折率測定方法に
ついて全く言及していない。
そうすると,前記(2)で説示したとおり,本件各発明については,屈折率の差及
びアッベ数の差が一義的に特定されず,ひいては,本件各特許の特許請求の範囲の
記載を読む者において,本件各明細書の記載を参酌しても,当該発明の内容を明確
に理解することができず,権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて
予測可能性を奪うおそれがあるものとなっているというほかはない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(4)小括
以上によると,本件各特許の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発
明を明確に記載したものということができない。したがって,本件各発明について
の特許は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対し
てされたものであり,同法123条1項4号に該当するから,訂正の対抗主張(訂
正の再抗弁)が認められない限り,特許無効審判により無効にされるべきものであ
る。
3争点4(訂正の対抗主張〔再抗弁〕は認められるか)について
(1)争点4-1(本件各訂正は訂正要件を充足するか)について
ア前記2(2)で説示したとおり,本件各特許の特許請求の範囲(登録時のも
の)の記載では,屈折率の測定方法が特定されていないし,また,本件各明細書
(登録時のもの)にも,ガラス組成物の屈折率の測定方法は記載されておらず,原
告が引用する本件明細書1の段落【0037】,本件明細書2の段落【0038】
における「JISK7142の「プラスチックの屈折率測定方法」」に従う旨
の記載部分には,硬化樹脂層の屈折率の測定方法が記載されているものの,フィル
ムを屈折率計を用いて測定するA法と,粉体を顕微鏡を用いて測定するB法のいず
れとするのかは,特定されていない(なお,本件明細書1の段落【0037】,本
件明細書2の段落【0038】における「具体的には,ガラス繊維織物が含まれて
いない硬化性樹脂のフィルムを,ガラス繊維織物を含む場合と同じ条件で作成し,
アッベ屈折計を用いて測定する。」との記載部分は,A法を説明したものであり,
また,本件明細書1の段落【0095】及び【0096】,本件明細書2の段落
【0096】及び【0097】に記載された樹脂の屈折率の測定方法は,A法に該
当するものと解される。)。
これに対し,本件各訂正発明では,別紙訂正目録1及び別紙訂正目録2記載のと
おり,「前記屈折率の値は,JISK7142に従って測定される測定値であ
り」という構成要件1TL(本件訂正発明1-1)及び構成要件2TM(本件訂正
発明2-1,本件訂正発明2-7),「前記ガラス繊維織物を構成するガラス組成
物の屈折率の値はJISK7142のB法におけるプラスチックをガラスに替
えた方法に従って測定される測定値であり」という構成要件1TO(本件訂正発明
1-2)及び構成要件2TR(本件訂正発明2-3),「前記屈折率の値は,JI
SK7142に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値であり」と
いう構成要件1TP(本件訂正発明1-3)又は「前記ガラス繊維織物を構成する
ガラス組成物の屈折率の値はJISK7142のB法におけるプラスチックを
ガラスに替えた方法に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値であり」
という構成要件1TT(本件訂正発明1-7)及び構成要件2TQ(本件訂正発明
2-2,本件訂正発明2-4,本件訂正発明2-5,本件訂正発明2-6)が記載
されており,この点でガラス組成物の屈折率の測定方法に係る新規事項(新たな技
術的事項)が追加されていることが明らかである。
したがって,本件各訂正のうち,構成要件1TL(本件訂正発明1-1),構成
要件1TO(本件訂正発明1-2),構成要件1TP(本件訂正発明1-3),構
成要件1TT(本件訂正発明1-7),構成要件2TM(本件訂正発明2-1,本
件訂正発明2-7),構成要件2TQ(本件訂正発明2-2,本件訂正発明2-
4,本件訂正発明2-5,本件訂正発明2-6),構成要件2TR(本件訂正発明
2-3)を付加する部分は,いずれも願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は
図面に記載した事項の範囲においてするものではなく,特許法134条の2第9
項,126条5項に違反する。
イこれに対し,原告は,前記2(3)のとおり,差をとる対象である個々の屈折
率は同じ測定方法で測定するものと考えるのが合理的であることを根拠として,本
件各訂正発明におけるガラス組成物の屈折率の測定方法に関する上記各事項につい
ては,本件各明細書(登録時のもの)の発明の詳細な説明の記載,すなわち「硬化
樹脂層の屈折率測定方法は,JISK7142の「プラスチックの屈折率測定
方法」(Determinationoftherefractiveindexofplastics)に従う。」との記載(本件
明細書1の段落【0037】,本件明細書2の段落【0038】)から導かれる内
容であり,新規事項の追加に当たらない旨主張する。
しかしながら,前記2(2),(3)で説示したとおり,原告の引用する「JISK
7142の「プラスチックの屈折率測定方法」」に従うとする硬化樹脂層の屈折率
の測定方法についての記載部分では,フィルムを屈折率計を用いて測定するA法
と,粉体を顕微鏡を用いて測定するB法のいずれとするのかは,特定されていない
し,また,技術的には,ガラス組成物の屈折率の測定方法についてはいくつかの方
法が存するところ,樹脂組成物の屈折率の測定方法が記載されているからといっ
て,ガラス組成物の屈折率の測定方法が必ずしも一義的に導かれるものではなく,
ガラス組成物の屈折率と樹脂組成物の屈折率の差を発明特定事項としていることを
もって,必ずしも各組成物の屈折率の測定方法が同一であると一義的に導かれるも
のでもない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
ウなお,上記に加え,本件各特許の登録時の特許請求の範囲及び本件各明細書
の記載を読んだ者が,本件各訂正により付加された各測定方法以外の方法による測
定値を前提に構成要件を充足しないと考えて製品の製造等を進めていた場合には,
上記訂正によって不測の損害を被るおそれがあり得るところ,原告は,そのような
おそれがないことを主張立証しているとはいえないから,同訂正は,「実質上特許
請求の範囲を拡張し,又は変更するものであってはならない」(特許法134条の
2第9項,126条6項)との要件を満たしていると断ずることはできない。
エ以上によると,訂正要件に関するその余の点について判断するまでもなく,
本件各訂正は,訂正要件を満たさないというべきである。
(2)争点4-2(本件各訂正により無効理由が解消するか)について
仮に,本件各訂正が訂正要件を満たすとしても,前記1で説示したところによれ
ば,本件各訂正発明の乙あ1発明との相違点に係る構成は,当業者が容易に想到し
得たものというべきであるから,無効理由1(乙あ1を主引例とする進歩性欠如)
が解消しないことは明らかである。
なお,本件発明1-1,本件発明2-1,本件発明2-4につき「前記屈折率の
値は,JISK7142に従って測定される測定値であり」という構成要件1
TL(本件訂正発明1-1)又は構成要件2TM(本件訂正発明2-1,本件訂正
発明2-7)を付加しても,また,本件発明1-3につき「前記屈折率の値は,J
ISK7142に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値であり」
という構成要件1TP(本件訂正発明1-3)を付加しても,フィルムを屈折率計
を用いて測定するA法と,粉体を顕微鏡を用いて測定するB法のいずれとするのか
は,特定されていないというべきであるから,これらについて明確性要件違反が解
消されるものではない。
(3)小括
以上によれば,無効理由1(乙あ1を主引例とする進歩性欠如)については前記
(1)及び(2)の観点から,無効理由7(明確性要件違反)については前記(1)の観点
(ただし,本件発明1-1,本件発明2-1,本件発明1-3のうち請求項を引用
する部分,及び本件発明2-4のうち請求項3を引用する部分については,前記
(1)及び(2)の観点)から,いずれにしても訂正の対抗主張(再抗弁)は成立しな
い。
4争点3及び4のまとめ
以上のとおり,本件各発明についての特許は,特許法29条2項及び123条1
項2号(進歩性欠如)並びに同法36条6項2号及び123条1項4号(明確性要
件違反)に該当し,訂正の対抗主張(再抗弁)は成立しないから,特許無効審判に
より無効にされるべきものと認められる。したがって,原告は,被告らに対し,本
件各特許権を行使することができないものというべきである(同法104条の3第
1項)。
第4結論
以上の次第で,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は,いずれ
も理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
嶋末和秀
裁判官
笹本哲朗
裁判官
天野研司
(別紙)
当事者目録
福島市<以下略>
原告日東紡績株式会社
同訴訟代理人弁護士浅村昌弘
同松川直樹
同補佐人弁理士金井建
同井上洋一
兵庫県尼崎市<以下略>
被告ユニチカ株式会社
同訴訟代理人弁護士山田威一郎
同中村小裕
同訴訟代理人弁理士水谷馨也
同補佐人弁理士田中順也
同阿部清二
同毛利裕一
奈良市<以下略>
被告株式会社ライフアートプランテック
同訴訟代理人弁護士西田正秀
同谷口宗彦
同神原浩
同訴訟代理人弁理士永田元昭
同大田英司
(別紙)
物件目録
1防煙垂壁
不燃認定番号NM-1927のガラスクロス入りビニルエステル系樹脂
塗装シートを用いた防煙垂壁
2シート
不燃認定番号NM-1927のガラスクロス入りビニルエステル系樹脂
塗装シート(例えば,商品「ユークリアーシート」「U-CLEARSH
EET」)
(別紙)
訂正目録1
1本件訂正発明1-1(請求項1)
1A透明不燃性シートからなる防煙垂壁であって,
1B該透明不燃性シートが,少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前記
ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む透明不燃性シート
であって,
1C前記硬化樹脂がビニルエステル樹脂であり,
1D前記ガラス繊維織物が30~70重量%であり,前記一対の硬化樹
脂層が70~30重量%であり,
1E前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記
一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以
下であり,
1F前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記
一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差が30以下
であり,
1G全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが20%以下であ
り,
1H輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの表面に50kW/㎡の輻
射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量
が8MJ/㎡以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が
10秒以上継続して200kW/㎡を超えない透明不燃性シートであ
り,
1TL前記屈折率の値は,JISK7142に従って測定される測
定値であり,
1TM前記ガラス繊維はEガラスからなる,
1I防煙垂壁。
2本件訂正発明1-2(請求項2)
1A透明不燃性シートからなる防煙垂壁であって,
1B該透明不燃性シートが,少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前記
ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む透明不燃性シート
であって,
1C前記硬化樹脂がビニルエステル樹脂であり,
1D前記ガラス繊維織物が30~70重量%であり,前記一対の硬化樹
脂層が70~30重量%であり,
1E前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記
一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以
下であり,
1F前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記
一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差が30以下
であり,
1G全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが20%以下であ
り,
1H輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの表面に50kW/㎡の輻
射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量
が8MJ/㎡以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が
10秒以上継続して200kW/㎡を超えない透明不燃性シートであ
り,
1J前記透明不燃性シートが,前記ガラス繊維織物中の隣接する経糸の
間の隙間が0.5㎜以下であり,又は,前記ガラス繊維織物中の隣接
する緯糸の間の隙間が0.5㎜以下であり,
1TN前記硬化樹脂層の屈折率の値は,JISK7142のB法に
従って測定される測定値であり,
1TO前記ガラス繊維織物を構成するガラス組成物の屈折率の値はJI
SK7142のB法におけるプラスチックをガラスに替えた方法
に従って測定される測定値であり,
1TM前記ガラス繊維はEガラスからなる,
1I防煙垂壁。
3本件訂正発明1-3(請求項3)
1A透明不燃性シートからなる防煙垂壁であって,
1B該透明不燃性シートが,少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前記
ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む透明不燃性シート
であって,
1C前記硬化樹脂がビニルエステル樹脂であり,
1D前記ガラス繊維織物が30~70重量%であり,前記一対の硬化樹
脂層が70~30重量%であり,
1E前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記
一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以
下であり,
1F前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記
一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差が30以下
であり,
1G全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが20%以下であ
り,
1H輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの表面に50kW/㎡の輻
射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量
が8MJ/㎡以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が
10秒以上継続して200kW/㎡を超えない透明不燃性シートであ
り,
1K前記透明不燃性シートが,前記透明不燃性シート1㎡当たり,前記
一対の硬化樹脂層の重量が15~500gの範囲であり,
1TP前記屈折率の値は,JISK7142に従って少なくとも小
数第3位まで測定される測定値であり,
1TM前記ガラス繊維はEガラスからなる,
1I防煙垂壁。
4本件訂正発明1-7(請求項7)
1A透明不燃性シートからなる防煙垂壁であって,
1B該透明不燃性シートが,少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前記
ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む透明不燃性シート
であって,
1C前記硬化樹脂がビニルエステル樹脂であり,
1D前記ガラス繊維織物が30~70重量%であり,前記一対の硬化樹
脂層が70~30重量%であり,
1E前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記
一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以
下であり,
1TQ前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前
記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差として,
有効数字を少なくとも2桁でそれぞれ求めた前記ガラス組成物と前記
樹脂組成物のアッベ数の差が30以下であり,
1G全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが20%以下であ
り,
1H輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの表面に50kW/㎡の輻
射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量
が8MJ/㎡以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が
10秒以上継続して200kW/㎡を超えない
1TRように成形される透明不燃性シートから選択される透明不燃性
シートであり,
1K前記透明不燃性シートが,前記透明不燃性シート1㎡当たり,前記
一対の硬化樹脂層の重量が15~500gの範囲であり,
1J前記ガラス繊維織物中の隣接する経糸の間の隙間が0.5㎜以下で
あり,又は,前記ガラス繊維織物中の隣接する緯糸の間の隙間が0.
5㎜以下であり,
1TS前記硬化樹脂層の屈折率の値は,JISK7142のB法に
従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値であり,
1TT前記ガラス繊維織物を構成するガラス組成物の屈折率の値はJI
SK7142のB法におけるプラスチックをガラスに替えた方法
に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値であり,
1TM前記ガラス繊維はEガラスからなる,
1I防煙垂壁。
※下線部は訂正箇所。ただし,他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該
他の請求項の記載を引用しないものとする訂正箇所については点線とした。
(別紙)
訂正目録2
1本件訂正発明2-1(請求項1)
2A建築物の天井に垂下して取り付けられた,透明不燃性シートからな
る防煙垂壁であって,
2B前記透明不燃性シートが,少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前
記ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む透明不燃性シー
トであって,
2C前記ガラス繊維織物が30~70重量%であり,前記一対の硬化樹
脂層が70~30重量%であり,
2D前記透明不燃性シート1㎡当たり,前記一対の硬化樹脂層の重量が
15~500gの範囲であり,
2E前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記
一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以
下であり,
2F前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記
一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差が30以下
であり,
2G全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが20%以下であ
り,
2H輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの表面に50kW/㎡の輻
射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量
が8MJ/㎡以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が
10秒以上継続して200kW/㎡を超えない,透明不燃性シートで
あり,
2TM前記屈折率の値は,JISK7142に従って測定される測
定値であり,
2TN前記ガラス繊維はEガラスからなる,
2I防煙垂壁。
2本件訂正発明2-2(請求項2)
2A建築物の天井に垂下して取り付けられた,透明不燃性シートからな
る防煙垂壁であって,
2B前記透明不燃性シートが,少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前
記ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む透明不燃性シー
トであって,
2C前記ガラス繊維織物が30~70重量%であり,前記一対の硬化樹
脂層が70~30重量%であり,
2D前記透明不燃性シート1㎡当たり,前記一対の硬化樹脂層の重量が
15~500gの範囲であり,
2E前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記
一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以
下であり,
2TO前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前
記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差として,
有効数字を少なくとも2桁でそれぞれ求めた前記ガラス組成物と前記
樹脂組成物のアッベ数の差が30以下であり,
2G全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが20%以下であ
り,
2H輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの表面に50kW/㎡の輻
射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量
が8MJ/㎡以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が
10秒以上継続して200kW/㎡を超えない,透明不燃性シートで
あり,
2J前記ガラス繊維織物中の隣接する経糸の間の隙間が0.5㎜以下で
あり,又は,前記ガラス繊維織物中の隣接する緯糸の間の隙間が0.
5㎜以下であり,
2TP前記硬化樹脂層の屈折率の値は,JISK7142のB法に
従って測定される測定値であり,
2TQ前記ガラス繊維織物を構成するガラス組成物の屈折率の値はJI
SK7142のB法におけるプラスチックをガラスに替えた方法
に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値であり,
2TN前記ガラス繊維はEガラスからなる,
2I防煙垂壁。
3本件訂正発明2-3(請求項3)
2A建築物の天井に垂下して取り付けられた,透明不燃性シートからな
る防煙垂壁であって,
2B前記透明不燃性シートが,少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前
記ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む透明不燃性シー
トであって,
2C前記ガラス繊維織物が30~70重量%であり,前記一対の硬化樹
脂層が70~30重量%であり,
2D前記透明不燃性シート1㎡当たり,前記一対の硬化樹脂層の重量が
15~500gの範囲であり,
2E前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記
一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以
下であり,
2F前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記
一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差が30以下
であり,
2G全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが20%以下であ
り,
2H輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの表面に50kW/㎡の輻
射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量
が8MJ/㎡以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が
10秒以上継続して200kW/㎡を超えない,透明不燃性シートで
あり,
2K前記1枚のガラス繊維織物の重量が,20~150g/㎡であり,
2TP前記硬化樹脂層の屈折率の値は,JISK7142のB法に
従って測定される測定値であり,
2TR前記ガラス繊維織物を構成するガラス組成物の屈折率の値はJI
SK7142のB法におけるプラスチックをガラスに替えた方法
に従って測定される測定値であり,
2TN前記ガラス繊維はEガラスからなる,
2I防煙垂壁。
4本件訂正発明2-4(請求項4)
2A建築物の天井に垂下して取り付けられた,透明不燃性シートからな
る防煙垂壁であって,
2B前記透明不燃性シートが,少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前
記ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む透明不燃性シー
トであって,
2C前記ガラス繊維織物が30~70重量%であり,前記一対の硬化樹
脂層が70~30重量%であり,
2D前記透明不燃性シート1㎡当たり,前記一対の硬化樹脂層の重量が
15~500gの範囲であり,
2E前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記
一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以
下であり,
2F前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記
一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差が30以下
であり,
2G全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが20%以下であ
り,
2H輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの表面に50kW/㎡の輻
射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量
が8MJ/㎡以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が
10秒以上継続して200kW/㎡を超えない,透明不燃性シートで
あり,
2L前記ガラス繊維織物中のガラス繊維の番手が,5tex~70texであ
り,
2TP前記硬化樹脂層の屈折率の値は,JISK7142のB法に
従って測定される測定値であり,
2TQ前記ガラス繊維織物を構成するガラス組成物の屈折率の値は前記
JISK7142のB法におけるプラスチックをガラスに替えた
方法に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値であり,
2TN前記ガラス繊維はEガラスからなる,
2I防煙垂壁。
5本件訂正発明2-5(請求項5)
2A建築物の天井に垂下して取り付けられた,透明不燃性シートからな
る防煙垂壁であって,
2B前記透明不燃性シートが,少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前
記ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含み,
2E前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記
一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以
下であり,
2F前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記
一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差が30以下
である
2TS透明不燃性シートのうち,
2C前記ガラス繊維織物が30~70重量%であり,前記一対の硬化樹
脂層が70~30重量%であり,
2D前記透明不燃性シート1㎡当たり,前記一対の硬化樹脂層の重量が
15~500gの範囲であり,
2G全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが20%以下であ
り,
2H輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの表面に50kW/㎡の輻
射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量
が8MJ/㎡以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が
10秒以上継続して200kW/㎡を超えない,
2TTように成形される透明不燃性シートから選択される透明不燃性
シートであり,
2J前記ガラス繊維織物中の隣接する経糸の間の隙間が0.5㎜以下で
あり,又は,前記ガラス繊維織物中の隣接する緯糸の間の隙間が0.
5㎜以下であり,
2K前記1枚のガラス繊維織物の重量が,20~150g/㎡であり,
2TP前記硬化樹脂層の屈折率の値は,JISK7142のB法に
従って測定される測定値であり,
2TQ前記ガラス繊維織物を構成するガラス組成物の屈折率の値は前記
JISK7142のB法におけるプラスチックをガラスに替えた
方法に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値であり,
2TN前記ガラス繊維はEガラスからなる,
2I防煙垂壁。
6本件訂正発明2-6(請求項6)
2A建築物の天井に垂下して取り付けられた,透明不燃性シートからな
る防煙垂壁であって,
2B前記透明不燃性シートが,少なくとも1枚のガラス繊維織物と,前
記ガラス繊維織物を挟む一対の硬化樹脂層と,を含む透明不燃性シー
トであって,
2C前記ガラス繊維織物が30~70重量%であり,前記一対の硬化樹
脂層が70~30重量%であり,
2D前記透明不燃性シート1㎡当たり,前記一対の硬化樹脂層の重量が
15~500gの範囲であり,
2E前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前記
一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02以
下であり,
2TU前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前
記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差として,
有効数字を少なくとも2桁でそれぞれ求めた前記ガラス組成物と前記
樹脂組成物のアッベ数の差が30以下であり,
2G全光線透過率が80%以上であり,かつ,ヘーズが20%以下であ
り,
2H輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの表面に50kW/㎡の輻
射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量
が8MJ/㎡以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が
10秒以上継続して200kW/㎡を超えない,透明不燃性シートで
あり,
2J前記ガラス繊維織物中の隣接する経糸の間の隙間が0.5㎜以下で
あり,又は,前記ガラス繊維織物中の隣接する緯糸の間の隙間が0.
5㎜以下であり,
2L前記ガラス繊維織物中のガラス繊維の番手が,5tex~70texであ
り,
2TV前記硬化樹脂層の屈折率の値は,JISK7142のB法に
従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値であり,
2TQ前記ガラス繊維織物を構成するガラス組成物の屈折率の値はJI
SK7142のB法におけるプラスチックをガラスに替えた方法
に従って少なくとも小数第3位まで測定される測定値であり,
2TN前記ガラス繊維はEガラスからなる,
2I防煙垂壁。
7本件訂正発明2-7(請求項7)
2A建築物の天井に垂下して取り付けられた,透明不燃性シートからな
る防煙垂壁であって,
2TW前記透明不燃性シートとして,少なくとも1枚のガラス繊維織物
を挟むように一対の硬化樹脂層を含浸させた際に,透明に成形され,
2TX前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前
記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物との屈折率の差が0.02
以下になっていて,
2TY前記ガラス繊維織物中のガラス繊維を構成するガラス組成物と前
記一対の硬化樹脂層を構成する樹脂組成物とのアッベ数の差として,
有効数字を少なくとも2桁でそれぞれ求めた前記ガラス組成物と前記
樹脂組成物のアッベ数の差が30以下になっている,
2TZシートのうち,以下の構成を具備するシートが用いられている,
防煙垂壁:
2C前記ガラス繊維織物が30~70重量%であり,前記一対の硬化樹
脂層が70~30重量%であり,
2D前記透明不燃性シート1㎡当たり,前記一対の硬化樹脂層の重量が
15~500gの範囲であり,
2H輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの表面に50kW/㎡の輻
射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量
が8MJ/㎡以下であり,加熱開始後20分間,最高発熱速度が10
秒以上継続して200kW/㎡を超えない,透明不燃性シートであ
り,及び
2K前記1枚のガラス繊維織物の重量が,20~150g/㎡であり,
2L前記ガラス繊維織物中のガラス繊維の番手が,5tex~70texであ
る;
2TM前記屈折率の値は,JISK7142に従って測定される測
定値であり,
2TN前記ガラス繊維はEガラスからなる,
2I防煙垂壁。
※下線部は訂正箇所。ただし,他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該
他の請求項の記載を引用しないものとする訂正箇所については点線とした。

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛