弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主       文 
被告人は無罪。
理       由
第1 訴因変更後の本件公訴事実は,「被告人は,平成16年7月18日午前零時40分ころ,札
幌市a区b条c丁目d番e号所在のAアパート201号室B方において,C(当時37歳)に対し,そ
の頭髪をわしづかみにした上,その腹部を足蹴にするなどの暴行を加えた。」 というものであ
る(以下,この暴行を「本件暴行」という。なお,訴因変更前の公訴事実は,上記「腹部」を「頭
部」としていたものであった。)。被告人は,捜査・公判を通じて,本件当時,本件現場であるB
方で,Cと一緒にいたことはあるが,同人に対し本件暴行を加えたことはないと述べている。
第2 C,D,E及び被告人の捜査官に対する各供述調書,証人C,同D及び同Fの各証言並
びに被告人の公判供述等の関係証拠によれば,以下の事実が認められ,これらについては
関係者の供述に格別不一致はない。
すなわち,被告人は,本件当時,養親のB方アパートで,同女及び交際相手のGと同居して
いた。Cは,平成16年7月15日からB方で寝起きしていたところ,本件前日である同月17日の
日中,Bに性行為を求めた。その後,Cは,この事実を知ったG並びにその知人であるE,F及
びHから,同日午後8時ころから数時間にわたって,断続的に顔,頭,胸などの上半身に殴る
蹴るの暴行を受けた(なお,Cは,翌18日病院に行き,加療約2週間を要する頭部・胸部・顔
面打撲,鼻骨骨折の傷害という診断を受けた。)。
同月18日午前零時過ぎころ,B方にはC及び上記4名のほかEの交際相手で途中から訪れ
ていたDらがいたが,そこに被告人が帰ってきた。このころ,Cは,B方居室奥の壁付近の床に
座って,出血した鼻をちり紙で押さえており,G,E及びDは,Cから玄関方向に1m程度離れ
て,横に並ぶように座り又は立っていた。被告人は,Gら上記3名からさらに玄関寄りの所に来
て,Cの様子を見たが,GらからCに暴行を加えた上記の理由を告げられると,同人に対し腹を
立てた。
第3 その後の出来事についての関係者の供述内容を検討する。
1 Cは,要旨,「自分が奥の壁付近に正座をし,鼻血を拭くちり紙をもらったところ,D,E及
びGの向こう側に被告人が立っているのに気がついた。その後,被告人から,何考えてるんだ
とか,顔を上げれと言われた。被告人は,Gの横を通って手の届く所まで来た。そして,被告人
から,髪をわしづかみにされて引っ張られ,顔が上に向いた。次いで,あばらの左右どちらか
分からないが,足で二,三回強く蹴られた。周囲の人が被告人の身体を制止したかは分からな
い。」と本件公訴事実に沿う証言をしている。
ところが,検察官請求の証人Dは,「Gらから事情を聞いた被告人は,Cに声を掛けた後,飛
び掛かっていくような感じで,同人に向かっていったが,D,E,G及びFが被告人の身体を押
さえて止めた。そのようなことが二,三回あったが,被告人がDらよりもC側に出たことはなかっ
た。被告人は,Dらに押さえられていた際に,足で蹴ろうとして,その足がEに当たった。被告
人がCの髪をわしづかみにしたのは見ていない。」と供述している。検察官請求のEの検察官
調書及び弁護人請求の証人Fの証言も基本的には同趣旨であり,被告人も,公判において,
立腹してCに近づこうとしたが,DやFらに止められ,足をばたつかせたなどと述べている。
2 上記D,E及びFの各供述は,Cの証言と明らかに矛盾するものである。まず,Dらは,C
が証言する本件暴行(髪をわしづかみにしたこと,二,三回あばらを強く蹴ったこと)を供述して
いない。Cによれば,被告人は,Gの横を通って手の届く所まで来て本件暴行を振るっており,
周囲の人が被告人を制止したかは分からないというのであるが,Dらによれば,被告人は,Dら
に制止されて,一度もそのような位置に達したことはなかったというのである。また,Dらによれ
ば,被告人はDらに身体を押さえられており,Cが証言するような態様の暴行を行うことはほと
んど不可能である。
検察官は,論告において,要旨,「被告人は,座っているDらの隙間からCに歩み寄り,Dら
が被告人の身体をつかむなどして制止しようとしたが,なおもCに向かっていき,その頭髪をわ
しづかみにし,さらに,Dらに身体を押さえられながらも,Cの身体に向けて繰り返し足を突き出
し,腹部を二,三回蹴りつけた。」と主張して,C,D及びEの各供述を統合しようとしている。し
かし,そのような事実経過を供述する者は存在せず,上記のように相矛盾するCとDらの供述
から検察官主張の事実を導くことは不可能である。なお,Dは,Cを見たら頭に手を当ててお
り,もしかしたら同人の頭に被告人の足が当たったのではないかと思ったと述べているが,他
方で,被告人の足に対して自分たちが盾ないし障害になっても不思議ではないと思うとも述べ
ており,D証言は上記検察官の主張を裏付けるものとはいえない。
第4 そこで,上記各供述の信用性を検討する。
1 C証言は,弁護人も指摘するとおり,断片的であいまいである。髪をわしづかみにされた
ときの自分の動き,蹴られた状況やそれによる自分の動き,被告人の暴行が収まった経緯など
につき,質問されても具体的あるいは積極的に語ることのできた部分はわずかである。Cは,
本件前に数時間にわたってFらから,かなりの傷害を負う暴行を受けており,そのために,意識
がぼうっとなったことを認めているところ,証言においては,本件暴行(訴因によれば午前零時
40分ころ)までに時間がたっていたので,意識は元に戻っていたと述べている。しかし,Dは,
本件当夜の午後11時を過ぎてもなお,GとEが5分か10分にわたり,Cを叩いたり蹴ったりした
と証言している。Cは,午前零時過ぎに被告人が帰ってきた様子にも気付いていない(C証
言)。さらに,Cは,捜査初期の平成16年7月20日供述に係る警察官調書では,要旨,「7月1
7日の午後8時ころ,B方で七,八名の男女に殴られたり蹴られたりして,ケガをさせられた。初
めに男から右胸を強く蹴られ,それからの記憶があいまいだが,顔面を拳で殴られたり,体を
蹴られたりした。実際にどのくらいやられたのかは,途中,気絶していて分からない。私が意識
を戻したところ,蹴られてからどのくらいたったかは分からないが,鼻血が出ており,全身がだる
い状態で,相当やられたんだなと思った。そのうち,病院に連れて行ってもらった。」などと供述
するのみである。すなわち,意識を回復して鼻血に気づいた後に,新たな暴行を受けたことは
供述していなかったのである。
Cの証言態度は不誠実なものとは認められないが,これらの点にかんがみると,本件暴行に
関するC証言は,必ずしもそれ自体で信用性が高いものとはいえず,他に同証言を裏付ける
客観的な証拠もない。
2 D,E,F及び被告人については,同人らが口裏合わせをしたことをうかがわせる証拠は
ない。Dは,被告人の知人であるEの交際相手であるが,その証言態度,証言内容において,
あえて虚偽の供述をしている様子はない。Fは,被告人の友人で本件訴訟に関心を示してお
り,検察官調書では,被告人を完全には止めきれず,被告人はCに手や足が届くくらいの距離
まで近づいた,見てはいないが被告人の蹴りがCに当たったと思うなどと,被告人の勢いやCと
の距離について証言と異なる供述をしている。しかし,FやDなどが被告人の身体を抱えたりつ
かんだりして,その動きを止めようとしていた点では一貫している。
被告人については,捜査段階には,Cに立腹して立ち向かっていったことを供述せず,ただ
立ち上がったときに,勘違いをしたGやEから肩を押さえられたなどと述べていた。その理由に
ついて,被告人は,逮捕当日(平成16年7月21日)の任意同行に続く取調べのときに,公判
供述のような供述をしたが,取調官から,違うだろう,蹴った足が当たっている,髪の毛をつか
んでるなどと言われたので,逮捕後は,何も知らないと供述するようになったと述べている。十
分な説明とはいえないにしても,一概に排斥することはできない。
そして,D,Fら4名の供述は基本的に一致し,相互にその信用性を補強しているといえる。
3 以上によれば,被告人から本件暴行を受けたというC証言について,信用性を認めること
はできない。
第5 そして,他に本件公訴事実を認めることのできる証拠は存在せず,本件公訴事実につい
ては犯罪の証明がない。よって,刑事訴訟法336条により,被告人に対し無罪の言渡しをする
こととし,主文のとおり判決する。
平成16年12月17日
札幌地方裁判所刑事第1部
裁 判 官  半  田  靖  史

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