弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成14年(ワ)第12410号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結の日 平成15年11月12日
          判    決
    原    告     東海理研株式会社
    訴訟代理人弁護士   佐 尾 重 久
    補佐人弁理士     富 澤   孝
    同          山 中 郁 生
    同          岡 戸 昭 佳
    同          奥 田   誠
    同          田 中 裕 人
    同          野 村 茂 樹
    被    告     山崎産業株式会社
    訴訟代理人弁護士   村 林 隆 一
    同          松 本   司
    同          岩 坪   哲
    同          井 上 裕 史
    補佐人弁理士     高 良 尚 志
          主    文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
   被告は、原告に対し、3402万6450円及びこれに対する平成14年1
2月17日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
第2 事案の概要
   本件は、「ポスト用異物収集装置」に関する2つの特許権を有する原告が、
被告によるポスト用異物収集装置の製造販売が各特許権を侵害するものであり、こ
れによって原告が損害を被ったと主張して、被告に対し損害賠償を求めた事案であ
る。
 1 前提となる事実(特に明示した部分以外は当事者間に争いがない。)
  (1) 特許権
   ア 原告は、下記①及び②の各特許権(以下、①の特許権を「本件特許権
A」、②の特許権を「本件特許権B」といい、それぞれの請求項1記載の発明を
「本件発明A」、「本件発明B」といい、両発明を合わせて「本件各発明」とい
う。また、本件各特許権に係る明細書を「本件各明細書」という。)の特許権者で
ある。
    ① 本件特許権A
      発明の名称 ポスト用異物収集装置
      出願日   平成9年2月28日
      出願番号  特願2000-117692号
           (特願平9-46655号の分割)
      登録日   平成12年8月4日
      特許番号  特許第3096040号
      特許請求の範囲 別紙特許公報(特許第3096040号。以下「本
件公報A」という。)の該当欄記載のとおり
    ② 本件特許権B
      発明の名称 ポスト用異物収集装置
      出願日   平成9年2月28日
      出願番号  特願2000-117700号
           (特願平9-46655号の分割)
      登録日   平成12年8月4日
      特許番号  特許第3095750号
      特許請求の範囲 別紙特許公報(特許第3095750号。以下「本
件公報B」という。)の該当欄記載のとおり
   イ 本件発明Aの構成要件は、次のとおり分説できる。
    a ポスト本体の差入口の内側下方で、かつ、ポスト本体内の郵袋の上方
に位置し、前記差入口から投函された郵便物のみを選択して前記郵袋に導く選択手
段と、
    b 前記選択手段で選択された前記差入口から投函された郵便物を除く異
物を収容する異物収容手段と、
    c 少なくとも、揺動自在に配設し、前記差入口から投函された運動エネ
ルギーを低減させる差入口より広い幅を有し、略く字状に折曲した規制板を有し、
前記差入口から投函された郵便物を郵袋に導く投函物案内手段とを具備し、
    d 前記選択手段は、前記異物収容手段を構成する収容箱の上面及び前記
収容箱の前記規制板側の前面から前記収容箱の底部まで異物を導くポスト用異物収
集装置において、
    e 前記選択手段は、前記異物収容手段を構成する収容箱の上面に、前記
差入口に近い位置を高く、前記差入口から離れるに従って低く形成し、前記差入口
の方向に対して直角に所定の間隔で複数の線材を配設し、前記規制板との間に間隙
を形成し、収容箱の立上前面との間にも間隙を形成して収容箱の底部まで異物を導
くこと
    f を特徴とするポスト用異物収集装置。
   ウ 本件発明Bの構成要件は、次のとおり分説できる。
    a ポスト本体の差入口の内側下方で、かつ、ポスト本体内の郵袋の上方
に位置し、前記差入口から投函された郵便物のみを選択して前記郵袋に導く選択手
段と、
    b 前記選択手段で選択された前記差入口から投函された郵便物を除く異
物を収容する異物収容手段と、
    c 少なくとも、揺動自在に配設し、前記差入口から投函された運動エネ
ルギーを低減させる差入口より広い幅を有し、略く字状に折曲した規制板を有し、
前記差入口から投函された郵便物を郵袋に導く投函物案内手段とを具備し、
    d 前記選択手段は、前記異物収容手段を構成する収容箱の上面及び前記
収容箱の前記規制板側の前面から前記収容箱の底部まで異物を導くポスト用異物収
集装置において、
    e 前記選択手段は、前記異物収容手段を構成する収容箱の上面に、前記
差入口に近い位置を高く、前記差入口から離れるに従って低く形成し、前記差入口
の方向に対して直角に所定の間隔で複数の線材を配設し、前記規制板との間に間隙
を形成し、収容箱の立上前面との間にも間隙を形成して収容箱の底部まで異物を導
くとともに、
    f 前記選択手段と前記規制板との間にある間隙を、前記収容箱の立上前
面に配設したスペーサによって設けたこと
    g を特徴とするポスト用異物収集装置。
  (2) 被告は、別紙物件目録記載のポスト用異物収集装置(以下「イ号物件」と
いう。)を製造販売している。イ号物件は、郵便差出箱10号用、同14号
用、同14号S用の3種類があるが、これらは、規制板の幅と差入口の幅及び収容
箱②に配設された線材④の本数に違いがあるだけで、その余の構成は同じである。
イ号物件の構成の記述については、前記目録記載のとおり、当事者間に争いがあ
る。
 2 争点
  (1) 構成要件充足性
   〔原告の主張〕
    イ号物件は、規制板の形状がほぼ直線状である点で、本件各発明の構成要
件cの「略く字状に折曲した規制板」の構成と異なっている。また、イ号物件のう
ち郵便差出箱10号用のものは、規制板の幅が差入口の幅より狭いから、同cの
「差入口より広い幅を有(する)・・・規制板」との構成と異なっている。
 しかし、イ号物件は、上記の点以外は、本件各発明の構成要件をすべて充
足する。
   〔被告の主張〕
 イ号物件は、原告が自認する点以外に、次の諸点で本件各発明の構成要件
を充足しない。
   ア 構成要件aについて
 イ号物件は、選択手段により一定の寸法以下の異物を選択して異物収容
手段に回収するが、一定寸法以上の異物については郵便物とともに郵袋に回収する
構成になっているから、構成要件aの「郵便物のみを選択して前記郵袋に導く」と
の構成を有しない。
   イ 構成要件cについて
 構成要件cの「差入口から投函された運動エネルギーを低減させる」と
はいかなる意味か不明であって、イ号物件はそのような構成を有していない。
   ウ 構成要件dについて
 イ号物件は、選択手段の線材の隙間の大きさ以下の異物を落として収容
箱に回収する構成になっており、収容箱の上面から異物を導くように構成されてい
るのであって、規制板側前面から異物を導く構成にはなっていないから、構成要件
dの「規制板の前面から異物を導く」との構成を具備しない。
   エ 構成要件eについて
 イ号物件において、異物が収容箱に落ちるのは、選択手段の線材の隙間
から落ちるからであり、構成要件eのように「規制板との間に間隙を形成し、収容
箱の立上前面との間にも間隙を形成し」た効果ではない。また、イ号物件において
は、選択手段の線材は差入口に対して略直角に、言い換えれば差入口の方向に設置
されているから、「差入口の方向に対し直角に所定の間隔で複数の線材を配設し」
との構成を具備しない。したがって、イ号物件は、構成要件eを充足しない。
   オ 本件発明Bの構成要件fについて
 イ号物件においては、選択手段と規制板との間にスペーサがなくとも間
隙が生じる構成になっており、スペーサを配設したことと選択手段と規制板との間
にある間隙を設けたこととは無関係であるから、本件発明Bの構成要件fを充足し
ない。
  (2) 均等の成否
   〔原告の主張〕
    イ号物件は、前記(1)の〔原告の主張〕で述べたように、規制板の形状がほ
ぼ直線状である点、及びイ号物件のうち郵便差出箱10号用のものは、規制板の幅
が差入口の幅より狭い点で、本件各発明の構成要件cと相違するが、以下のとお
り、本件各発明の構成と均等である。
   ア 構成要件cの「略く字状に折曲した規制板」について
(ア) 非本質的部分
      本件各発明の特許請求の範囲において、「略く字状に折曲した規制
板」と記載されているのは、従来技術を記載している、いわゆる「おいて書き」の
部分である。略く字状の規制板も直線状の規制板も、本件各特許権の出願前から存
在するものであり、従来から公知のものが本件各発明の本質部分ではあり得ない。
      本件発明Aの本質的部分は、構成要件eの部分にあり、これにより、
タバコやマッチ等の燃焼物やガム等が投入されても、収用箱の底部に収集されるた
めに、投函された郵便物を燃焼させたり汚染させたりすることがないという優れた
作用効果を奏するものである。また、本件発明Bの本質的部分は、構成要件e及び
同fの部分にあり、これにより、上記の本件発明Aの作用効果に加えて、投函され
た郵便物が容易にポスト内部に落下可能なようにするという優れた作用効果を奏す
るものである。
    (イ) 置換可能性
      略く字状の規制板も直線状の規制板も、本件各特許権の出願前から存
在するところ、略く字状の規制板を直線状の規制板に置換しても、本件各発明の目
的を達することができ、同一の作用効果を奏することは明らかである。
    (ウ) 置換容易性
      略く字状の規制板も直線状の規制板も、本件各特許権の出願前から存
在するから、当業者であれば、略く字状の規制板を直線状の規制板に置換すること
は極めて容易に行うことができる。
    (エ) 非容易推考性
      本件各発明は、出願当時の自由技術から当業者が容易に推考できたも
のでない。
    (オ) 意識的除外
      本件各特許権の出願手続において、直線状の規制板を特許請求の範囲
から意識的に除外したという事情はない。
      なお、略く字状の規制板は従来技術であり、拒絶査定や取消審決、無
効審決を免れるために、これに限定したというものでもない。
      被告がその主張において引用する本件各明細書中の記載は、実施例の
規制板の構造を説明しているにすぎない。
   イ 構成要件cの「(規制板が)差入口より広い幅を有し」(イ号物件のう
ち郵便差出箱10号用)について
    (ア) 非本質的部分
      本件各発明の特許請求の範囲において、「差入口より広い幅を有し」
と記載されているのは、従来技術を記載したいわゆる「おいて書き」の部分であ
り、本質的部分ではない。
    (イ) 置換可能性
      規制板の幅が差入口よりも広い方が望ましいのは、差入口の両端の位
置から火のついた煙草の吸い殻が投入された場合に、その方が安定して異物収容箱
に導くのが可能であるからである。
      仮に、規制板の幅が差入口よりも煙草の吸い殻の太さである約8ミリ
メートルより狭いと、差入口の両端から投入された煙草の吸い殻を安定して異物収
容箱に導けない恐れがある。
      しかし、郵便差出箱10号用のイ号物件の規制板の幅は、差入口より
も全体で4ミリメートル、両端においては2ミリメートルずつ狭いにすぎず、機能
的に同一ということができ、本件各発明と同一の作用効果を奏することができるこ
とは明らかである。
    (ウ) 置換容易性
      規制板の幅を差入口より広いものから狭いものに置換することは、当
業者であれば極めて容易に行うことができる。
    (エ) 非容易推考性
      本件各発明は、出願当時の自由技術から当業者が容易に推考できたも
のでない。
    (オ) 意識的除外
      本件各特許権の出願手続において、拒絶査定や取消審決、無効審決を
免れるために、差入口より幅の狭い規制板を特許請求の範囲から意識的に除外した
という事情はない。
      なお、差入口より幅の広い規制板は従来技術であり、上記のような理
由からこれに限定したというものでもない。
   〔被告の主張〕
   ア 構成要件cの「略く字状に折曲した規制板」について
    (ア) 非本質的部分
      本件各発明は、従来技術である特開平9-47354公開特許公報
(甲6)に記載のない「前記選択手段は、・・・前記規制板との間に間隙を形成
し、収容箱の立上前面との間にも間隙を形成して収容箱の底部まで異物を導く」と
の構成(構成要件e)に進歩性が認められたものであるところ、かかる構成を採用
した場合には、規制板は収容箱方向に傾斜していなければ、収容箱に異物を導くこ
とができない。本件各発明の「略く字状の規制板」の構成を「直線状の規制板」に
替えた場合には、規制板は異物を収容箱に導くことができず、本件発明の作用効果
を達し得なくなるから、本件各発明の技術思想とは別個のものと評価されることに
なる。
      よって、規制板が略く字状の構成となっていることは、本件各発明の
本質的部分である。
    (イ) 置換可能性
      上記(ア)のとおり、略く字状の規制板を直線状の規制板に置換したの
では、本件各発明の作用効果を奏さないから、置換可能性はない。
      また、イ号物件は、折曲していない規制板を使用していることによ
り、規制板の上半部が差入口から奥へと離隔するため、差入口から手などを差し入
れても容易に規制板に届かず、規制板を不正に開いて異物を投入することが困難に
なるとの優れた作用効果を奏する。これに対し、本件各発明では、略く字状に折曲
した規制板を使用しているため、規制板の上半部が差入口に近接する構成となるの
であり、イ号物件のような効果を奏さない。
    (ウ) 置換容易性
      イ号物件は、規制板とバランサーを採用した独特の構成であり、本件
各発明との間に置換容易性はない。
    (エ) 意識的除外
     a 本件各明細書には、本件各発明の作用効果として、「規制板34は
差入口3の反対側に回動するとき、略く字状に折曲されているから、その開口を大
きくすることができ、定常状態では、規制板34自由端から異物収容手段10に異
物を導くことができる。」と記載されている(本件公報A11欄24ないし27
行、本件公報B10欄43ないし46行)。
       原告は、上記の作用効果を意図した上で、本件各発明の構成におい
て、規制板の形状として「略く字状」との限定をしたのであり、折曲のない規制板
は意図的に除外されたものである。
     b さらに、原告は、平成9年2月28日、出願番号特願平9-466
55号(乙22)の特許出願をし、平成12年4月19日、当該出願から本件各発
明を分割出願した。また、平成9年2月28日、原告は、出願番号実願平9-11
93号(乙23)の実用新案登録出願をした。
       上記各出願にかかる各発明及び考案は、いずれも「ポスト用異物収
集装置」に関するものであって、選択手段、異物収容手段及び投函物案内手段を有
し、その投函物案内手段は規制板を有し、その規制板は差入口より広い幅を有し、
かつ、略く字状に折曲している。
       このように、原告は、平成9年にした上記各出願において、すべて
の発明及び考案について、別個の発明又は考案であるという前提にもかかわらず、
いずれも上記構成を必須の構成要素として出願しているのであるから、意図的にこ
のように限定したものと解すべきである。
      したがって、略く字状ではない規制板に均等論を適用する余地はな
い。
   イ 構成要件cの「(規制板が)差入口より広い幅を有し」(イ号物件のう
ち郵便差出箱10号用)について
    (ア) 非本質的部分
      「(規制板が)差入口より広い幅を有し」との構成が本件各発明の非
本質的部分であることは認める。
    (イ) 置換可能性
      本件各発明は、原告が主張するように、規制板が差入口よりも広い幅
を有している公知のポストを前提として課題を解決したというのであるから、従来
使用されていない、規制板が差入口よりも狭い幅のポストに本件各発明の技術的範
囲が及ぶことはあり得ない。
      原告は、煙草の吸い殻の太さを問題とするが、そのような主張は、本
件各明細書の記載を無視するものである。
    (ウ) 置換容易性
      原告が主張するとおり、公知の技術として、規制板の幅は差入口より
広い方が望ましいと当然に考えられていたのであり、それを敢えて差入口よりも狭
い幅に変更することは、置換容易性があるとはいえない。
    (エ) 意識的除外
      前記アの被告の主張(エ)bのとおりであるから、差入口よりも幅の狭
い規制板に均等論を適用する余地はない。
  (3) 明白な無効理由の存否(出願前公知)
   〔被告の主張〕
    本件各特許権の出願前に、以下のような事実経過が存在した。
   ア 原告は、平成8年6月11日、本件各発明の構成をすべて記載した図面
を作成し、社団法人郵政ニューオフィス研究会に送付した。
   イ 社団法人郵政ニューオフィス研究会は、同年8月24日、郵政省郵務局
輸送企画課企画調整係のA次席に上記図面を送付した。
   ウ 社団法人郵政ニューオフィス研究会は、同月26日、Bに上記図面を送
付した。
   エ 郵政省は、同年10月7日、上記図面が含まれる入札通知を、入札業者
に交付した。
    本件各発明は、いずれも特許権の出願前である上記ア、イ又はウの時点で
日本国内において公知となったものであるから、無効理由が存在することが明白で
ある。したがって、本件各特許権に基づく権利行使は権利の濫用として許されな
い。
    なお、上記の図面は、原本1枚だけのものではなく、複写物が作成されて
いたものであり、それは頒布によって公開することを目的としていたものである。
それが、郵政省のA次席に交付され、あるいは民間会社のBに交付されたことは、
上記図面が多数の者が見えるような状態に置かれたことを意味する。
    また、上記図面について、守秘義務が課されていたとはいえない。すなわ
ち、国家公務員であってもすべての事項について守秘義務を負うものではないとこ
ろ、上記図面を含む書類には秘密であることを示す印が付されていなかったのであ
るから、秘密扱いをしていなかったことは明らかである。
   〔原告の主張〕
    被告の主張は争う。
    特許法29条1項3号にいう刊行物とは、公衆に対して頒布により公開す
ることを目的として複製された文書、図面その他これに類する情報伝達媒体をい
い、公開的なものであるから印刷物の内容を秘密にしているものあるいは私文書を
多数の友人に配布するために印刷したものはこれに当たらないと解すべきである。
被告が主張する図面は、原告が作成し、技術検討を目的として、社団法人郵政ニュ
ーオフィス研究会に送付したものであり、公衆に対して頒布により公開を目的とし
たものでもなければ、複製されたものでもない。
    また、郵政省の職員は、国家公務員法により守秘義務を負っていたし、社
団法人郵政ニューオフィス研究会は郵政省から業務委託を受け、実質的に郵政省の
窓口の役割を担っていた公益法人であるから、その職員は国家公務員に準ずるもの
であり、守秘義務を負っていたのは明らかである。さらに、Bは、株式会社ジイケ
イ設計の従業員であったが、同社は、社団法人郵政ニューオフィス研究会から、郵
政省が指名競争入札用仕様書の添付図面として各会社に送付するための図面作成を
請け負っていたものである。指名競争入札では、談合等の防止のために、事前に仕
様書の図面等が各会社に漏れないようにしているから、図面について守秘義務があ
ることは、株式会社ジイケイ設計も、Bも理解していたことは明らかであり、同人
も守秘義務を有していた。
    したがって、被告の主張アないしウの事実によって、本件各発明が公知に
なったとはいえない。
    さらに、郵政省が平成8年10月7日に上記図面が含まれる入札通知を入
札業者に交付したこと(被告の主張エ)については、原告の意思に反して公知とな
ったものであり、これが無効理由とならないことは、被告が申し立てた無効審判請
求事件において、請求不成立審決が確定しているところである。
  (4) 損害
   〔原告の主張〕
    被告は、下記のとおり、イ号物件を備えた郵便差出箱を製造し、平成14
年3月18日ころ、郵政事業庁に対して販売した。
     郵便差出箱10号  単価5万5500円 個数2758個
     郵便差出箱14号  単価3万4000円 個数4192個
     郵便差出箱14号S 単価4万2500円 個数1051個
               (代金合計3億4026万4500円)
    被告が上記郵便差出箱の製造販売によって得た利益は、上記代金合計額の
10パーセントである3402万6450円を下らない。
   〔被告の主張〕
    否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
 1 イ号物件は、少なくとも、規制板の形状がほぼ直線状である点及び規制板の
幅が差入口の幅より狭い点(郵便差出箱10号用のもの)で、本件各発明の構成と
相違することは、原告の自認するところである。したがって、イ号物件は、文言上
は本件各発明の構成要件cを充足するものではない。
 2 原告は、上記相違点につき、本件各発明と均等であってその技術的範囲に属
する旨主張するので、まず、争点(2)ア(規制板の形状についての均等の成否)につ
いて判断する。
  (1) 特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場
合であっても、① 当該部分が特許発明の本質的部分ではなく、② 当該部分を対
象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一
の作用効果を奏するものであって、③ このように置き換えることに、当業者が、
対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、④ 
対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれか
ら出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、⑤ 対象製品等が特許発明の特
許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特
段の事情もないときは、対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等な
ものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁
判所第三小法廷平成10年2月24日判決・民集52巻1号113頁参照)。
 そこで、本件各発明の規制板をイ号物件の規制板に置き換え
ることについて、上記各要件を充足しているか否かについて検討する。
  (2) まず、本件各発明における「規制板」の意義、機能について検討する。
   ア 本件各発明の特許請求の範囲の記載によれば、規制板は、差入口から投
函された郵便物を郵袋に導く投函物案内手段を構成するものであり、揺動自在に配
設され、差入口から投函された物の運動エネルギーを低減させるものである。
   イ 本件各明細書の発明の詳細な説明には、次のような記載があることが認
められる(甲3、4)。
    (ア) 【発明の属する技術分野】、【発明が解決しようとする課題】の項
      本件各発明は、ポストの差入口より投入された郵便物以外の、例え
ば、タバコやマッチ等の燃焼物やガム等が投函されたはがきや封書等の郵便物の燃
焼や、ポスト内部の汚染を防止するためのいたずら防止用のポスト用異物収集装置
に関するものである(本件公報A、B段落番号【0001】)。従来のポストは、
悪戯等によって差入口より郵便物以外の上記のような異物が投入されたときに、郵
袋内にある郵便物や郵袋自体を燃焼させたり、汚染してしまう可能性があったの
で、本件各発明は、新設のポストに配設することができ、郵便物以外の異物を投入
されたときでも、郵袋内の郵便物が損傷することのないポスト用異物収集装置の提
供を課題とするものである(同【0006】、【0007】)。
    (イ) 【発明の実施の形態】の項
     「ガイド板35の端部31と端部32の間のポスト本体1の郵袋5側には、差
入口3から投函されたものに衝突して運動エネルギーを低減させる差入口3より広
い幅を有し、略く字状に折曲した規制板34を配設している。規制板34はガイド板
35との間をヒンジで接続されており、自重によって略垂直に吊り下がってい
る。・・・その規制板34の自由端である下端は、差入口3側に彎曲されていて、線
材21の折曲端部から所定の距離離れた位置となっており、しかも、線材21の折曲端
部から下方部分との間にも隙間を形成している。」(本件公報A【0032】、本
件公報B【0030】)
     「上記実施の形態の投函物案内手段30の規制板34は、投函物案内手段
30の板状物に軸支され、揺動自在としたものであり、また、所定の質量以下のも
の、例えば、はがき、手紙等では、規制板34と線材21との間に隙間を形成してある
から、そこから、または、規制板34の自由端である下端を若干開放(回動)させ
て、郵袋5内に導くことができる。更に、規制板34は、盗難防止板6を開放した状
態でたばこ等を投げ入れたとしても、その質量により、容易に回動せず、しかも、
下部の隙間を通過できないから、所定の間隔で形成して配設した複数本の線材21か
らなる選択手段20により、確実に異物収容手段10によって収容できる。そして、規
制板34は差入口3の反対側に回動するとき、略く字状に折曲されているから、その
開口を大きくすることができ、定常状態では、規制板34自由端から異物収容手段
10に異物を導くことができる。」(本件公報A【0041】、本件公報B【003
9】)
    (ウ) 【発明の効果】の項
     「したがって、揺動自在に配設し、前記差入口から投函された運動エネ
ルギーを低減させる略く字状に折曲した規制板は、差入口から投函されたものに衝
突し、所定の質量以上の運動エネルギーを受けると容易に回動し、それを郵袋内に
導くことができる。また、差入口より投函されたはがき等の軽量な郵便物は、規制
板に当たり選択手段の上を通り、郵袋へ落下することができ、また、差入口より投
げ込まれた異物は、規制板に当たり、反射し、選択手段を通して収容箱へ落下する
から、火を付けた直後の長いたばこ及びパイプ付きのたばこにおいても、収容箱に
収容することができ、これらの郵便物以外のたばこ等の異物が収集され、郵袋側に
落下しないので、郵袋内にある郵便物や郵袋自体を燃焼や汚染から守ることができ
る。」(本件公報A【0053】、本件公報B【0051】)
   ウ 以上のような本件各明細書の記載によれば、本件各発明の規制板は、揺
動自在に配設されていて、差入口から郵便物が投函された場合は、その質量によっ
て容易に回動して郵袋内に導き、軽量の郵便物や差入口から投入されたたばこ、マ
ッチ等の異物の場合は規制板に当たって通過を規制する(この場合は、選択手段に
よって、郵便物は郵袋に、異物は収容箱に導かれる。)機能を有するものである。
そして、本件各発明が規制板を略く字状の折曲した形状としたことは、規制板が差
入口の反対側に回動するとき、その開口を大きくすることができ、また、下端が差
入口側に接近するようになっているから、定常状態(吊り下がった状態)では、規
制板下端部(自由端)から異物を異物収容手段に導くことができるという作用を奏
するところに意義があるものと解される。なお、乙第20号証(甲6と同じ。特開
平9-47354公開特許公報)によれば、本件各特許権の出願以前から、略く字
状に折曲した規制板のみならず単なる直線状の規制板も存在したことが認められる
から、本件各発明は、従来技術として存在した規制板のうちから、直線状のもので
はなく、略く字状に折曲した形状を発明の構成として採用したものと解することが
できる。
  (3) 次に、イ号物件の規制板についてみると、イ号物件の規制板がほぼ直線状
の形状であることは前記のとおりである。そして、検乙第1号証の2及び弁論の全
趣旨によれば、イ号物件の規制板も、揺動自在に配設されていて、差入口から郵便
物が投函された場合は、その質量によって容易に回動して郵袋内に導き、軽量の郵
便物や差入口から投入されたたばこ、マッチ等の異物の場合は規制板に当たって通
過を規制する機能を有するものであり、イ号物件も、前記(2)で取り上げたような、
本件各明細書に記載された作用効果を奏し、本件各発明の目的を達することはでき
るものと認められる。
  (4) そこで、本件各発明の規制板をイ号物件の規制板に置き換えることに、当
業者がイ号物件の製造販売時に容易に想到することができたものであるか否かを検
討する。
    検乙第1号証の2及び弁論の全趣旨によれば、イ号物件の規制板は、差入
口に対面する部分の形状は側面からみて直線状であるものの、別紙物件目録添付の
図面1、4、ア及びエに図示されているとおり、その裏面上方に重り(バランサー
⑥)が取り付けられていること、これにより、ポスト内に揺動自在に配設された規
制板は、他の部材によって規制されない状態においては、差入口の奥の上方から差
入口の方向の下方に向けて傾斜した状態で静止することが認められる。
    ところで、検乙第1号証の2及び弁論の全趣旨によれば、イ号物件におい
て、上記のように傾斜した状態で静止する規制板を用いている理由としては、ポス
トの差入口から異物が投げ入れられた場合に、投げ入れられた異物を規制板によっ
て円滑に異物収容手段に導くことを可能にするという目的に加え、被告が主張する
ように、規制板の上半部を差入口から奥へと離隔させることによって、差入口から
手などを差し入れても容易に規制板に届かず、規制板を不正に開いて異物を投入す
ることを困難ならしめるという目的もあるものと認められるところ、これは、単な
る直線状の規制板においては達することができない効果であることは明らかであ
る。
    原告は、略く字状に折曲した規制板を単なる直線状の規制板に置換するこ
とを前提として均等を主張するが、上に述べたとおり、イ号物件の規制板は、その
裏面上方に重り(バランサー)を取り付けることによって、上記のように傾斜した
状態で静止するという作用と、これによって、差入口から手などを差し入れても容
易に規制板に届かず、規制板を不正に開いて異物を投入することを困難ならしめる
という効果を得るものであって、この重りを単なる直線上の規制板に加えられた設
計事項にすぎないということはできないから、原告の上記主張は相当でない。した
がって、均等の要件としての置換容易性の成否について検討するに際しては、略く
字状に折曲した規制板を、上記のようなイ号物件の規制板に置換することについて
の置換容易性を検討すべきである。
    しかるところ、前記(3)のとおり、本件各特許権の出願以前から、略く字状
に折曲した規制板のみならず単なる直線状の規制板も存在したものであるが、被告
によるイ号物件の製造とこれを取り付けた郵便差出箱の販売以前において、イ号物
件の規制板のように、規制板の裏面上方に重りを取り付け、これによって差入口の
奥の上方から差入口の方向の下方に向けて傾斜した状態で静止するように設計され
た規制板が存在したことや、そのような構成が知られていたことは、原告も主張し
ておらず、本件の全証拠によっても、そのような事実を認めることはできない。
    そうすると、被告によるイ号物件の製造とこれを取り付けた郵便差出箱の
販売の当時、上記のようなイ号物件の規制板は新規な構成であったというべきであ
り、当業者に知られていたとはいえず、他に、当業者において、略く字状に折曲し
た規制板をイ号物件の規制板に置き換えることが容易であったということを肯定さ
せるような事情も認められない。
    したがって、本件各発明の略く字状に折曲した規制板をイ号物件の規制板
に置換することについては、均等成立のための前記要件③を満たさないというべき
である。
  (5) よって、上記のような規制板を備えたイ号物件は、他の均等要件について
検討するまでもなく、本件各発明の構成と均等であるということはできないから、
本件各発明の技術的範囲に属しない。
 3 結論
   以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の
請求は理由がない。
   よって、主文のとおり判決する。
     大阪地方裁判所第21民事部
         裁判長裁判官   小  松  一  雄
            裁判官   田  中  秀  幸
            裁判官   守  山  修  生
(別紙)       
           物  件  目  録
1 図面の説明
 (ただし、図面1ないし4が原告主張のもの、図面アないしオが被告主張のもの
である。)
  図面1 ポスト用異物収集装置の断面図(ただし、郵便差出箱10号のもの)
  図面2 異物収容手段の斜視図
  図面3 原告図面1のA-A断面図
  図面4 ポスト用異物収集装置の断面図(ただし、郵便差出箱14号及び14
号Sのもの)
  図面ア 異物収集装置を備えたポストの縦断面図(ただし、郵便差出箱10号
のもの)
  図面イ 異物収容手段及び選択手段の斜視図(ただし、郵便差出箱10号のも
の)
  図面ウ 図面アのA-A断面図
  図面エ 異物収集装置を備えたポストの縦断面図(ただし、郵便差出箱14号
及び14号Sのもの)
  図面オ 図面エのA-A断面図
2 構成
 (ただし、項目番号を除いて、括弧外が原告主張のもの、括弧外から下線部を除
き、括弧内を付加したものが被告主張のものである。)
(1) 全体の構成
   選択手段と、異物収容手段(規定外投函物収容手段)と、投函物案内手段と
から構成されるポスト用異物収集装置
(2) 選択手段
  ア ポスト本体の差入口の内側下方で、かつ、ポスト本体内の郵袋の上方に位
置し、差入口から投函された郵便物のみを(、その寸法で)選択して、(一定寸法
以上の投函物を)郵袋に導く選択手段①を具備している。
  イ 選択手段①は、異物収容手段を構成する収容箱②の上面及び収容箱②の規
制板側③の前面から収容箱②の底部まで異物(一定寸法以下の投函物)を導くよう
に構成されている。
  ウ 選択手段①は、異物収容手段を構成する収容箱②の上面に、差入口に近い
位置を高く、差入口から離れるに従って、低く形成し、差入口(の方向)に対して
直角に(平行に)所定の間隔で複数の線材④を配設されている。
  エ 選択手段①と規制板③との間には間隙が形成されるとともに、(選択手段
①と)収納箱②の立上前面との間にも間隙を形成してあり(る)、これにより収納
箱の底部まで異物を導く。
  オ 収納箱②の立上前面にスペーサ⑤が配設され(ている)、これにより、選
択手段と規制板との間に間隙を設けるようにしてある。
(3) 異物収容手段(規定外投函物収容手段)
   選択手段①で選択された差入口から投函された郵便物(一定寸法以上及び一
定重量以上の投函物)を除く異物(投函物)を収容箱②で収容している。
(4) 投函物案内手段
   揺動自在に配設され、差入口から投函された物体の運動エネルギーを低減さ
せる、(上端部奥側にバランサー⑥を突設し、奥側から収容箱②側に下降傾斜した
状態で静止し得る、)ほぼ直線状の(差入口よりも狭い幅の〔郵便差出箱10号〕
又は広い幅の〔同14号、14号S〕折曲させていない)規制板③を有し、差入口
から投函された郵便物(投函物のうち、一定重量以上の投函物)を郵袋に導く投函
物案内手段を具備している。
   規制板③の幅及び差入口の幅は、それぞれ以下のとおり。
               規制板③の幅     差入口の幅
    郵便差出箱10号  286ミリメートル  290ミリメートル
    郵便差出箱14号  280ミリメートル  240ミリメートル
    郵便差出箱14号S 280ミリメートル  240ミリメートル
(別紙)
図面1図面2図面3図4図面ア図面イ図面ウ図面エ図面オ

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛