弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は,控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を次のとおり変更する。
(1)被控訴人が平成14年8月21日付けで控訴人aに対してした公文書部
分公開決定のうち,原判決別紙非公開部分の記載内容一覧表記載の部分(た
だし,文書番号13,25,26の部分を除く。)を非公開とした部分を取
り消す。
(2)被控訴人が平成14年8月21日付けで控訴人b,同c及び同dに対し
てした各行政文書部分開示決定のうち,原判決別紙非公開部分の記載内容一
覧表記載の部分(ただし,文書番号13,25,26の部分を除く。)を非
開示とした部分を取り消す。
2訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1千葉県(以下「県」という。)は,県民の県に対する公文書の公開ないし行
政文書の開示の請求に関し,千葉県公文書公開条例(昭和63年千葉県条例第
3号。以下「旧条例」という。),次いで,千葉県情報公開条例(平成12年
千葉県条例第65号。平成13年4月1日施行。以下「新条例」という。)を
制定した。旧条例は,新条例により廃止されたが,新条例の経過措置により,
新条例の施行の際にされている旧条例による公開請求,及び新条例の施行日前
に実施機関の職員が作成し又は取得した公文書については,旧条例が適用され
ることとされた。
県の住民である控訴人らは,それぞれ,旧条例ないし新条例に基づき,上記
各条例が定める実施機関である被控訴人に対し,被控訴人が各県立高校から受
領した学校調査に関する文書の公開又は開示を請求したところ,被控訴人は,
一部について公開又は開示をしない旨の決定をした。
本件は,控訴人らが,被控訴人に対し,上記非公開・非開示決定の取消しを
求めるのに対し,被控訴人が,非公開・非開示部分は,旧条例11条2号にお
いて,非公開とすべきことが定められている「個人に関する情報」に当たると
主張して,控訴人らの請求を争う事案である。なお,控訴人らの上記各公開・
開示請求については,新条例の附則により,旧条例が適用される。
原判決は,控訴人らの請求のうち,原判決別紙非公開部分の記載内容一覧表
記載の文書番号29の部分を非公開・非開示とした部分を取り消し,その余の
請求をいずれも棄却したので,控訴人らが控訴をした。なお,被控訴人は控訴
をしていないので,当審においては,控訴人らの請求が棄却された部分に限っ
て,審理,判断することとなる。
2本件における前提事実,争点に関する当事者の主張は,下記3に当事者の当
審における主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案
の概要」の1項及び2項(原判決3頁25行目から同13頁18行目まで)に
記載のとおりであるから,これを引用する。なお,略語については,原判決2
頁21行目から同3頁24行目までに記載されているとおりとする。
3当事者の当審における主張
(1)控訴人ら
ア本件非公開部分1に記載されている情報は,県立高校に土地を賃貸して
いる貸主の住所,氏名,賃料額等の情報であるが,この情報は,旧条例
(11条2号括弧書き)が公開を義務づけている「事業を営む個人の当該
事業に関する情報」に該当する。また,貸主は,当該土地の所有者である
から,その住所,氏名は土地登記簿に記載されているので,旧条例(11
条2号イ)が公開を義務づけている「法令等の定めるところにより何人も
閲覧することができる情報」に該当する。また,賃料額は,一般人であれ
ばおおよそ見当をつけることができるものであるから,旧条例(11条2
号ロ)が公開を義務づけている「実施機関が作成し,又は収受した情報で,
公表を目的としているもの」に該当する。
イ本件非公開部分2に記載されている情報は,PTAの団体が主催する各
会合に出席した各PTAの役員等の氏名情報であるが,各PTA役員は,
所属する各PTAを代表し,その活動の一環として,上記会合に出席して
いるのであるから,上記氏名情報は,各PTAという団体に関する情報で
あって,旧条例11条2号において,非公開とすべきことが定められてい
る「個人に関する情報」には当たらない。
ウ本件非公開部分3に記載されている情報は,学内やPTAにおける各講
演会で講演した者の氏名情報であるが,各講演は当該講演者の事業である
から,上記氏名情報は,旧条例(11条2号括弧書き)が公開を義務づけ
ている「事業を営む個人の当該事業に関する情報」に該当する。
エなお,仮に,控訴人らが公開を求めている情報が一体的な情報の一部で
あったとしても,被控訴人が既に自ら一部を非公開・非開示としてその余
を公開・開示しているのであるから,公開・開示を請求することができる
ことは明らかである。
オ以上のとおり,本件非公開部分1ないし3に記載されている情報は,い
ずれも旧条例が定める非公開の事由に当たらないのであって,公開・開示
されなければならない。
(2)被控訴人
ア本件非公開部分1に係る校地等の賃貸借については,土地買収のような
公的規制はなく,借上料は自由な交渉によって決定され,教育施設用との
意義を考慮して無償にする場合もあり,少なくとも,地主の教育に対する
考え方,当該学校への親近感など主観的事情が強く反映し,経済的合理性
によって決定されるものではない。したがって,本件非公開部分1に記載
されている情報は,「事業を営む個人の当該事業に関する情報」(旧条例
11条2号括弧書き),「法令等の定めるところにより何人も閲覧するこ
とができる情報」(旧条例11条2号イ),「実施機関が作成し,又は収
受した情報で,公表を目的としているもの」(旧条例11条2号ロ)のい
ずれにも該当せず,非公開とすべきことが定められている「個人に関する
情報」(旧条例11条2号)に当たる。
イ最高裁平成15年11月11日判決は,個人にかかわりのある情報であ
れば,原則として「個人に関する情報」に該当し,また,ある情報が法人
その他の団体に関する情報としての側面を有していても,それが同時に行
為者個人の社会的活動としての側面を有していれば,「個人に関する情
報」に該当すると判断し,これから除外されるものは,公務員の公務遂行
情報,法人等の行為そのものとして評価される行為に関する情報に限定さ
れるとしている。
本件非公開部分2に記載された情報は,各高校のPTA役員・会員がP
TA連合会等の会合に出席したということにかかわる情報であるが,これ
は,他の会合出席者と意見交換する等して自己の知識・経験を高めるとい
う自己研鑽的な性格を有するものであって,PTAの代表者ないしこれに
準ずる地位のある者が出席していても,PTA代表者たる性格は希薄であ
り,少なくとも,PTAという団体の行為そのものと評価されるものでは
ない。
したがって,本件非公開部分2の情報は,非公開とすべきことが定めら
れている「個人に関する情報」(旧条例11条2号)に当たる。
ウ本件非公開部分3に記載された情報は,学内やPTAにおける各講演会
の講演者の氏名情報であるが,講演者は学校から依頼を受けて講演を行っ
たものにすぎず,客観的にみて継続的,反復的な活動が必要となる特定の
目的を設定していて,その目的達成のための手段と予定されている活動と
して講演を行ったものではないのである。したがって,上記情報は,「事
業を営む個人の当該事業に関する情報」には該当せず,講演者の社会活動
にかかわるものとして「個人に関する情報」(旧条例11条2号)に当た
る。
エなお,本件非公開部分1に記載された校地の借用に係る土地の面積,利
用内容,貸主,借上料の有無,金額を記載した部分は,全体が独立した一
体的情報であるから,この中に非公開事由に該当する情報が含まれていれ
ば,全体を非公開とすることができるものである。
オ以上のとおり,本件非公開部分1ないし3に記載された情報は,非公開
とすべきことが定められている「個人に関する情報」(旧条例11条2
号)に当たるので,公開・開示することはできない。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,原判決別表記載の文書番号29の部分を除く控訴人らの請求は
いずれも理由がないものと判断する。その理由は,下記2以下のとおりである。
2旧条例11条柱書は,「実施機関は,次の各号の一に該当する情報が記録さ
れている公文書については,公開しないことができる。」と規定し,その2号
は,「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)
であって特定個人が識別され,又は識別され得るもの。ただし,次に掲げる情
報を除く。イ法令等の定めるところにより,何人でも閲覧することができる
情報ロ実施機関が作成し,又は収受した情報で,公表を目的としているも
のハ法令等に基づく許可,免許,届出等の際に実施機関が作成し,又は収
受した情報で,公開することが公益上必要であると認められるもの」と規定し,
その3号は,「法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。以下「法人
等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であ
つて,公開することにより,当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上若し
くは事業運営上の地位に不利益を与え,又は社会的信用を損なうと認められる
もの。ただし,次に掲げる情報を除く。」と規定している(甲3)。
3関係証拠(甲24の1,2,乙5の1ないし30,乙7,12ないし14)
及び弁論の全趣旨によれば,本件非公開部分1ないし3に関して,次のとおり
の事実が認められる。
(1)本件公開・開示請求文書は,被控訴人が行っている県立高校再編計画策
定作業の資料として,各県立高校の校長から被控訴人教育長あてに提出され
た「学校調査について(回答)」と題する各書面であり,各学校の現状,学
校経営の状況,今後の課題やあり方等が記載されているものである。
(2)ア本件非公開部分1(原判決別表記載の文書番号1ないし4,6,11,
12,14,15,18,20ないし24,27,28)には,各県立高
校がそれぞれ借用している学校敷地,排水管埋設地,通路敷地,ハンドボ
ールコート敷地,テニスコート敷地,農業実習地,演習林敷地,山林及び
分収林等について,これらを貸与している貸主の氏名,住所,賃借料の有
無及び金額などが記載されている。また,貸主のほとんどは不動産登記簿
上の所有名義人であるが,一部に所有名義人の親族が貸主となっているも
のがある。
イまた,上記貸借の状況等に照らすと,上記貸借は,たまたま各県立高校
の所在地や近隣に土地を所有していた個人が,地域の人間関係や学校教育
への協力,援助の趣旨などにより自己の所有地等を提供,貸与したもので
あり,賃料額も,取引相場に基づくようなものではなく,協力,援助の趣
旨を反映したものとなっていて,中には無償のものも存することがうかが
われる。
(3)ア本件非公開部分2(原判決別表記載の文書番号9,10,ただし,同
9のうち平成11年10月2日に行われた講演の講師氏名が記載されてい
る部分を除く)には,①e高校のPTA活動の状況として,平成11年6
月1日に開催された千葉県高等学校PTA連合会11年度総会(α会館大
ホール)に出席した者の氏名(出席した校長の氏名は除く),同年7月7
日及び8日に開催された関東地区高等学校PTA連合大会(鴨川市)に出
席した副会長及び会計等の氏名(出席した教頭の氏名は除く),同年8月
26日及び27日に開催された全国高等学校PTA連合会研究大会(岐阜
市)に出席した者の氏名(出席した校長の氏名は除く),同年10月16
日に開催された千葉県高P連船橋地区研究集会(f高校)に出席した副会
長及び副委員長の氏名(出席した校長及び教諭の氏名は除く),同年11
月22日に開催された千葉県高等学校PTA連合会研究集会(βセンタ
ー)に出席した理事等の氏名,②g高校の平成11年度保護者会事業報告
として,平成11年6月1日に開催された県高P連定期総会(α会館)に
出席した者の氏名(出席した校長の氏名は除く),同年7月3日に開催さ
れた第1回6校PTA連絡協議会(市立h高校)に出席した副会長,会計
監査の氏名(出席した校長の氏名は除く),同年7月6日から8日にかけ
て開催された第45回関東地区高等学校PTA連絡協議会(鴨川市)に出
席した副会長及び会計の氏名(出席した教頭の氏名は除く),同年8月2
5日から27日にかけて開催された第49回全国高等学校PTA連合会大
会(岐阜市)に出席した副会長,会計監査等の氏名(出席した校長の氏名
は除く),同年10月16日に開催された高等学校PTA船橋地区研究集
会(f高校)に出席した者の氏名(出席した校長の氏名は除く),同年1
1月22日に開催された千葉県高等学校PTA研究集会(γセンター)に
出席した者の氏名(出席した校長の氏名は除く),平成12年2月18日
に開催された習志野市青少年補導委員制度30周年記念式典(δホテル)
に出席した副会長等の氏名,同年3月18日に開催された第3回6校PT
A連絡協議会(g高校)に出席した者の氏名がそれぞれ記載されている
(なお,一部は職名も含む。)。
イ県立高校のPTAは,父母と教師の会といわれ,生徒の保護者と教職員
との密接な連絡のもと,学校教育の充実等を図ることを目的とした任意団
体であり,会員の無報酬の活動に支えられて,学校の教育環境の整備への
協力,会員相互の親睦及び研修等を行うなど,団体として活動している。
PTAは各県立高校ごとに活動しているものであるが,各PTA相互の連
絡,情報交換を行うことによって,各PTAの健全な発達や高校教育の振
興を図ること等を目的として,各PTAの連合会に当たる千葉県高等学校
PTA連合会,関東地区高等学校PTA連合会,社団法人全国高等学校P
TA連合会(以下「全国高等学校PTA連合会」という。)などが組織さ
れている。
このうち,全国高等学校PTA連合会は,その正会員を「この法人の目
的に賛同して入会する都道府県及び政令指定都市単位に結成された高等学
校PTAの団体」と定め(定款5条),意思決定を行うため,「総会,理
事会,評議員会」を置いている(同21条)。このうち総会は,毎年2月
及び6月に開催され,事業計画,収支予算等について議決する機関である。
また,団体としての意思表示を行う会議体のほか,「全国高等学校PTA
連合会大会」のような集会も主催している。この大会は,子供たちの健全
育成,PTA活動の質的向上,情報の共有化を図るために,多数のPTA
の会員を集めて開催されるものである。
次に,関東地区高等学校PTA連合会は,関東地区各県の高等学校PT
A連合会をもって組織する団体である(会則2条)。団体としての意思決
定を行うため,「総会,役員会及び委員会」が置かれている(同10条)。
総会は,各県連代表5名をもって構成され,事業計画や予算等を決議する
機関である(同11条)。そして,そのほかに,各県高等学校PTA連合
会の会員によって構成される「大会」があり,ここでは,表彰等が行われ
ることになっている(同14条)。
また,千葉県高等学校PTA連合会は,各高等学校のPTA会員をもっ
て組織される団体で(会則5条。すなわち,各PTAが団体で加盟するも
のではない。),最高議決機関として総会が置かれていて,各単位PTA
ごとの2名の会員から構成されることとされている(同11条)。
(4)ア本件非公開部分3(原判決別表記載の文書番号5,7ないし9,16,
17,19,30。ただし,29は除き,同9の部分については,平成1
1年10月2日に行われた講演の講師氏名が記載されている部分のみ。)
には,各県立高校について,研究指定校に指定された際に「○○」(東京
大学教授)及び「○○」(京都大学名誉教授)の各テーマで特別講演をし
た講師の氏名,研究指定校に指定された際に「○○」のテーマで講演をし
た講師の氏名,PTA活動の一環として「○○」(i大学教授)のテーマ
で行われた講演会の講師の氏名,PTA校内研修として「○○」のテーマ
で行われた講演会の講師の氏名,PTAの研修委員会の校内研修会として
「○○」のテーマで行われた講演会の講師の氏名,学校主催の「○○」
(j団員)をテーマとして行われた講演会の講師の氏名,学校主催の卒業
生(シドニー五輪出場選手,元k監督,元l投手等)を講師に招いた講演
会の講師の氏名,PTA主催の「○○」(m),「○○」(n),「○
○」(哲学者),「○○」(o短期大学),「○○」(鍼灸院院長)及び
「○○」(p報道局)を各テーマとした講演会の講師の氏名(一部職名も
含む)が記載されている。
イ上記各講師には,公務員(大学教授),会社の社員,プロ野球選手も含
まれるが,その演題,講演者の職業,講演場所,聴講者等に照らすと,各
講演者が,経済的対価等を得るなどの目的で行ったものと考えるのは困難
であって,各学校との個人的な結びつき(卒業生,同一地域への居住,学
校関係者との人的関係)等から,学校教育の向上を願い,これに協力,援
助する趣旨で,講演を引き受けたものであることがうかがわれる。
4本件非公開部分の公開・開示請求の適否
(1)旧条例11条2号の解釈
旧条例11条2号は,「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に
関する情報を除く。)」であって,特定個人が識別され,又は識別され得る
ものについては,同号ただし書所定の除外事由に当たるものを除き,これが
記録されている公文書を公開しないことができる旨規定している。同号にい
う「個人に関する情報」については,「事業を営む個人の当該事業に関する
情報」が除外されている以外には文言上何ら限定されていないから,個人に
かかわりのある情報であれば,原則として同号にいう「個人に関する情報」
に当たるものと解される。
そして,法人その他の団体の従業員が職務として行った行為に関する情報
は,職務の遂行に関する情報ではあっても,当該行為者個人にとっては自己
の社会的活動としての側面を有し,個人にかかわりのあるものであることは
否定できないので,上記の職務の遂行に関する情報も,原則として同号にい
う「個人に関する情報」に含まれるものと解される。
もっとも,同条は,2号において「個人に関する情報」から「事業を営む
個人の当該事業に関する情報」を除外した上で,3号において「法人その他
の団体(国及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情
報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報」と定めて,個人に関する情
報と法人等に関する情報とをそれぞれ異なる類型の情報として非公開事由を
規定しているので,旧条例においては,法人等を代表する者が職務として行
う行為等,当該法人等の行為そのものと評価される行為に関する情報につい
ては,専ら法人等に関する情報としての非公開事由が規定されているものと
解するのが相当であるから,法人等の行為そのものと評価される行為に関す
る情報は,同条2号の非公開情報に当たらないものと解される(なお,この
ような情報には,法人その他の団体の代表者又はこれに準ずる地位にある者
が当該法人等の職務として行う行為に関する情報のほか,その他の者の行為
に関する情報であっても,権限に基づいて当該法人等のために行う契約の締
結等に関する情報が含まれると解される。)。
さらに,旧条例は,県民の県政に対する理解と信頼を深め,県政の公正な
運営の確保と県民参加による行政の一層の推進を図ることを目的とするもの
であるところ,この目的達成のためには,県の公務員のみならず,国又は他
の地方公共団体の公務員についても,情報公開の責務を負うものというべき
であるから,国及び地方公共団体の公務員の職務の遂行に関する情報につい
ては,公務員個人の社会的活動としての側面があることを考慮しても,公務
員個人の私事に関する情報が含まれている場合を除き,「個人に関する情
報」には当たらないというべきである。
(以上,最高裁平成15年11月11日第三小法廷判決・民集57巻10
号1387頁,最高裁平成15年11月21日第二小法廷判決・民集57巻
10号1600頁参照)
(2)本件非公開部分1について
ア本件非公開部分1に記載されている情報は,各県立高校に土地を貸与し
ている貸主の氏名,住所,賃借料の有無及び金額などであるところ,これ
らは個人にかかわりのある情報ということができる。したがって,上記情
報は,旧条例11条2号の「個人に関する情報」に当たるということがで
きる。
イこれに対し,控訴人らは,本件非公開部分1は,「事業を営む個人の当
該事業に関する情報」に当たるので「個人に関する情報」に当たらないと
主張する。
しかし,前記のように,上記貸与は,たまたま各県立高校の所在地や近
隣に土地を所有するなどしていた個人が,地域の人間関係や学校教育への
協力,援助の趣旨などにより自己の所有地等を提供,貸与したものであり,
賃料額も,取引相場に基づくようなものではなく,協力,援助の趣旨を反
映したものとなっていて,中には無償のものも存することがうかがわれる
のである。そして,「事業」の意義をどう定義するかはともかく,「事業
を営む個人の当該事業に関する情報」にいう「事業」というためには,当
該事業をその個人が営むと評価される必要があるところ,「事業を営む」
といえるためには,当該個人の当該活動が反復・継続されているようなも
のであって,かつ,当該個人の社会生活において相応の比重を占め,その
活動を職業として行うと評価できるないしそれと同視できるようなもので
あることが必要というべきである。その意味で,たとえばある個人がたま
たま身内など特定のつながりのある者1人に土地を居住用に貸しただけと
いうような場合を考えると,それをもって当該個人が土地の賃貸業という
事業を営んでいるとは評価できないのである(親が子に居住用に土地を貸
したからといって,それだけで親が賃貸業を営んでいるとはいわない。)。
本件のような学校用地の貸借についても,上記のように,地域の人間関係
や学校教育への協力・援助の趣旨で,たまたま貸すというようなことがう
かがわれるのであるから,特段の事情のない限り,学校用地に土地を貸し
ていることをもって賃貸業という事業を営んでいると評価するのは相当で
ないというべきである。なお,本件で,この特段の事情があるとは認めら
れない。
ウ次に,控訴人らは,土地の貸主は通常当該土地の所有者であるところ,
土地登記簿に所有者の住所,氏名の記載があるので,貸主の住所,氏名は,
旧条例11条2号イの「法令等により何人でも閲覧することができる情
報」に当たると主張する。
しかし,控訴人らの主張する不動産登記簿は所有者を公示するものであ
って賃貸借の貸主を公示するものではなく,また,賃貸人がすべて所有者
に当たるということもできず,現に本件でも所有名義人の親族が貸主とな
っているものも存するというのであるから,上記住所,氏名の情報が「法
令等により何人でも閲覧することができる情報」に当たるものと認めるこ
とはできない。
エさらに,控訴人らは,地代の額は一般人であればおおよそ見当をつける
ことができるものであるから,旧条例11条2号ロの「実施機関が作成し,
又は収受した情報で,公表を目的とするもの」に該当すると主張する。
確かに,旧条例11条2号ロの「公表を目的とするもの」とは,必ずし
も実施機関において公表することを直接の目的として実施機関が作成し,
又は取得したものに限られるものではなく,一般に周知されたないし容易
に調査することができる資料等から知られ得るような情報等,公表するこ
とがもともと予定されているものも含まれる(最高裁平成13年(行ヒ)
第83号同15年10月28日第三小法廷判決・裁判集民事211号28
7頁,最高裁平成15年(行ヒ)第295号同17年10月11日第三小
法廷判決・裁判所時報1397号)。
しかし,前記のように,上記貸借の地代の額は,取引相場に基づくよう
なものではなく,学校教育への協力,援助の趣旨を反映したものとなって
いて,中には無償のものも存することがうかがわれるのであるから,一般
人であればおおよそ見当を付けることができるようなものでないことは明
らかである。
上記主張は,到底採用することができない。
オ以上によれば,本件非公開部分1に記載されている情報は,旧条例11
条2号により公開しないことができる「個人に関する情報」に当たるもの
というべきである。
(3)本件非公開部分2について
ア本件非公開部分2に記載されている情報は,全国高等学校PTA連合会
研究大会等のPTAの連合組織主催の会に出席した各高校のPTA役員等
の氏名等の情報であるところ,上記会への出席は出席者個人の社会的活動
ということができるので,個人にかかわりのある情報ということができる。
したがって,上記情報は,旧条例11条2号の「個人に関する情報」に当
たるということができる。
イこれに対し,控訴人らは,各PTAの役員が,所属するPTAの活動の
一環として,これを代表して上記会に出席したのであるから,PTAとい
う団体に関する情報であって,「個人に関する情報」には当たらないと主
張する。
この点については,前記のように,法人等の従業員が職務として行った
行為に関する情報も原則として「個人に関する情報」に当たるが,法人等
の代表者又はこれに準ずる地位にある者が当該法人等の職務として行う行
為に関する情報又はその他の者が権限に基づいて当該法人等のために行う
契約の締結等に関する情報その他の法人等の行為そのものと評価される行
為に関する情報は非公開情報に当たらないというべきである。
ところで,本件で問題となる会は以下のようなものである。
①全国高等学校PTA連合会大会,②関東地区高等学校PTA連合会大会,
③千葉県高等学校PTA連合会総会,④関東地区高等学校PTA連絡協議
会,6高PTA連絡協議会,⑤全国高等学校PTA連合会研究大会,千葉
県高等学校PTA連合会研究集会,同船橋地区研究集会,⑥習志野市青少
年補導委員制度30周年記念式典
このうち,①の全国高等学校PTA連合会は,前記のように,正会員を
「この法人の目的に賛同して入会する都道府県及び政令指定都市単位に結
成された高等学校PTAの団体」と定め,意思決定のため「総会,理事会,
評議員」が置かれているが,ここで問題とされる全国高等学校PTA連合
大会は,そういった正式の機関ではなく,子供たちの健全育成,PTA活
動の質的向上,情報の共有化を図るため傘下のPTA会員が多数参加して
開かれるもので,およそ団体としての意思決定を行う場ではないのである
から,たとえPTA副会長の肩書等を有する者がそれに参加したとしても,
それは所属するPTAの代表者又はこれに準ずる地位にある者として当該
団体(PTA)の職務を行うもので団体の行為そのものと評価されるもの
でないことは明らかである。
②の関東地区高等学校PTA連合会は,関東地区県の高等学校PTA連
合会を持って組織される団体であるが,その大会は,各県高等学校PTA
連合会の会員によって構成され,表彰を行うなどの場であるのである(別
に各県連代表者5名から構成される総会があり,そこで事業計画や予算を
決議することとされている。)から,この大会に副会長の肩書等を有する
者が参加したからといって,その行為が所属するPTAの代表者ないしそ
れに準じる者としてその職務を行うもので団体の行為そのものと評価され
るようなものでないことが明らかである。
③の千葉県高等学校PTA連合会は,各高等学校のPTA会員をもって
組織される団体で,各PTAが団体で加盟するものではないのであるから,
確かにその総会は千葉県高等学校PTA連合会の最高議決機関であること
が認められるが,それにPTAの副会長の肩書等を持つ者が参加し,議決
に参加したからといって,その行為はその所属するPTAという団体を代
表してするものとみることはできないことが明らかである。
④の各会議についても,その名称からして,単なる意思疎通(連絡協
議)の場にすぎないことが明らかで,各PTAが団体として集まって何か
を決定する場ではないと認められるし,⑤の会議も,その名称からして,
PTAという団体が集まって何かを決定するような場でないことが明らか
であり,このような会合に副会長の肩書等を有する者が出席したとしても,
その行為が団体の代表者ないしそれに準じる者としてその職務を行うもの
で団体の行為そのものと評価されるとはいえないことが明らかである。⑥
についても,会合への出席自体をとらえて,所属するPTAという団体の
行為そのものとして評価されるようなものでないことが明らかである。
ウ以上によれば,本件非公開部分2は,旧条例11条2号により公開しな
いことができる「個人に関する情報」に当たるものというべきである。
(4)本件非公開部分3について(ただし,原判決別表記載の29の部分は除
く。)
ア本件非公開部分3に記載されている情報は,学校活動やPTA活動で行
われた講演会の講師の氏名等の情報であるところ,上記講演は講演者個人
の社会的活動ということができるので,個人にかかわりのある情報という
ことができる。したがって,上記情報は,旧条例11条2号の「個人に関
する情報」に当たるということができる。
イこれに対し,控訴人らは,各講演は当該講演者の事業であるから,上記
氏名情報は「事業を営む個人の当該事業に関する情報」に当たると主張す
る。
しかし,前記のように,「事業を営む」といえるためには,当該個人の
その活動が反復・継続されるようなもので,かつ,当該個人の社会生活に
おいて相応の比重を占め,職業として行うと評価できるものないしそれと
同視できるようなものであることが必要であるというべきところ,各講演
の演題,講演者の職業,講演場所,聴講者等に照らすと,各講演者が,経
済的対価を得るなどの目的で行ったものと考えるのは困難であって,各学
校との個人的な結びつき(卒業生,同一地域への居住,学校関係者との人
的関係)等から,学校教育の向上を願い,これに協力,援助する趣旨で,
たまたま講演を引き受けたことがうかがわれるのであり,各講演者が講演
という事業を営むなどとは認め難いというべきである。したがって,上記
氏名情報が「事業を営む個人の当該事業に関する情報」に当たるというこ
とはできない。
また,講演者が公務員の場合についても,上記のように,それは公務の
遂行とは無関係に,各学校との個人的な結びつき等からたまたま講演を引
き受けたことがうかがえるのであるから,あくまで公務員個人の私的領域
にかかわるもので,私事に属するものということができるのであって,
「個人に関する情報」に当たるというべきである。なお,講演者が会社等
の団体に属する者であるとしても,上記によれば,その講演が当該団体の
行為そのものと評価されるようなものでないことも明らかである。
ウ以上によれば,本件非公開部分3は,旧条例11条2号により公開しな
いことができる「個人に関する情報」に当たるものというべきである。
5結論
以上の次第で,原判決別表記載の29の部分を除く,被控訴人の本件各非公
開・非開示決定は適法であり,控訴人らの本訴取消請求はいずれも理由がない
こととなる。
よって,原判決は相当であり,本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄
却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第9民事部
裁判長裁判官大坪丘
裁判官宇田川基
裁判官新堀亮一

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