弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴の趣旨
原判決を取り消す。(1)
被控訴人は,控訴人に対し,平成15年2月28日付けをもってした平(2)
成11年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税の更正処分
(以下「本件更正処分」という)のうち,所得金額6億1124万370。
7円,納付すべき法人税額△7309万7106円を超える部分及び過少申
(「」。)。告加算税の賦課決定処分以下本件賦課決定処分というを取り消す
訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。(3)
2控訴の趣旨に対する答弁
主文同旨
第2事案の概要
1本件は,被控訴人が控訴人に対し,控訴人のシンガポール共和国(以下「シ
」。)(。)ンガポールというにおける子会社であるP1PteLtdP1社
が租税特別措置法(平成12年法律第97号による改正前のもの。以下「措置
法」という)66条の6第1項所定の特定外国子会社等に該当し(中略)。,
同条3項の「債券」に当たるとして,同条1項に規定する課税対象留保金額に
相当する金額を,控訴人の所得の金額の計算上,益金の額に算入して,本件更
(「」。),正処分及び本件賦課決定処分以下本件各処分というをしたことから
これを不服とした控訴人が本件各処分の取消しを求めた事案である。
2「関係法令「前提事実等「税額等に関する当事者の主張「争点」及」,」,」,
び「争点に関する当事者の主張」は,当審における当事者の補充主張を次項に
付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の第2の1ないし5に記載のと
おりであるから,これを引用する。ただし,原判決8頁8行目の「シンガポー
ル政府」を「シンガポール共和国政府」と,同11頁17行目の「○○株式会
社」を「○○株式会社」と改める。
3当審における当事者の補充主張
争点1及び3(措置法66条の6の適用の有無)について(1)
(控訴人の補充主張)
ア租税回避とは,一般的には「異常な法形式が用いられていること」を,
要素とし,また,措置法66条の6のタックスヘイブン対策税制が規制対
象とする租税回避とは「軽課税国(いわゆるタックスヘイブン)にある,
子会社等で我が国株主により支配されているようなものに我が国株主が所
得を留保し,我が国での税負担を不当に軽減すること」をいうから,これ
,。らの規範に該当しない事案には措置法66条の6を適用すべきではない
(中略)シンガポール内国歳入庁からは,P1社がシンガポールの居住
法人であることを示す証明書も発行されている。
したがって,本件には租税回避行為は存在しないから,租税回避行為を
規制対象とする措置法66条の6の適用はないというべきである。
,,イなお形式的には措置法66条の6の要件に当てはまる事案であっても
海外子会社が独立した活動を行うことに合理性が認められ「租税回避行,
為とは評価し難いような事情」が存在する場合には,タックスヘイブン対
(),策税制を適用すべきではないとの立場原判決の立場に立ったとしても
P1社は,その設立当初から,シンガポールにおいて製薬事業を行ってお
り,それで得た利益を原資としてシンガポールで資金運用事業を行うこと
には経済的合理性があり(中略)本件には,上記「租税回避行為とは評,
」,。価し難いような事情が存在し措置法66条の6を適用すべきではない
ウシンガポールにおける10%のタックスリベート(戻し減税)は,19
98年11月にその実施が発表され,翌年の賦課決定から実施されたもの
であって(中略)当時のシンガポールの法人税率は,26%であったか,
ら(中略。したがって,本件には租税回避行為はなく,タックスヘイ,)
ブン対策税制を適用すべきではない。
エタックスヘイブン対策税制は,特定外国子会社等の累積された未処分利
益に対して課税する制度ではなく,特定外国子会社等の合算対象年度にお
ける単年度利益に調整を加えた課税対象留保金額を基として課税する制度
である。
(中略)いずれも,P1社がタックスヘイブン対策税制の対象外であっ
た1997年12月期までに稼得した利益であるから,タックスヘイブン
対策税制の対象外となる利益である(P1社がタックスヘイブン対策税制
の対象とされたのは,1998年12月期のみである。。)
したがって(中略)ことをとらえて,タックスヘイブン対策税制を適,
用するのは失当である。
(被控訴人の補充主張)
,,ア措置法66条の6は租税回避行為の防止を目的とするものではあるが
その適用上「租税回避行為」があることや税負担の「不当な軽減」を図,
る目的があることを要件とはしていない。これは「租税回避行為」とい,
う概念自体が法律要件となるようなものではなく,租税負担の「不当な軽
減」を図る目的という要件も,あまりにも主観的かつ抽象的で,その認定
,,も困難を極めることが予想され適正な執行が妨げられかねないことから
同条3項に適用除外要件を定め,特定外国子会社等が独立企業としての実
体を備え,かつ,その所在地国で事業活動を行うことにつき十分な経済的
合理性がある場合を明確に規定することによって,その適用の範囲を上記
立法目的に即したものにしようとしたものである。
したがって,措置法66条の6第1項の規定が適用されないのは,同条
3項に規定している適用除外要件を満たしているものに限られるのであっ
て,控訴人が主張するように,条文上の根拠もなく,法の適用を制限しよ
うとすることは許されない。すなわち,租税回避行為があることや税負担
の不当な軽減を図る目的があることが同条の適用要件であるとする控訴人
の主張は失当である。
イしたがって,タックスヘイブン対策税制に基づく課税処分が適法である
か否かの判断基準は,あくまでも措置法66条の6の適用要件を充足して
いるか否かに求めるべきであって,控訴人が主張するように「租税回避,
行為とは評価し難いような事情」がある場合には,その適用を除外すべき
(),()であると解すること原判決の立場は課税要件明確主義憲法84条
に違反する。タックスヘイブン対策税制の適用除外要件は,措置法66条
の6に類型化して規定されているのであって,それ以外の要件を付加する
ことは許されない。
ウP1社は,措置法66条の6第3項の適用除外要件を満たしていない。
控訴人は,シンガポールで資金運用事業を行うことには経済的合理性が
あるし,P1社は独立の企業体としての実体を有していると主張するが,
海外における資金運用事業については,本来的に,その場所で行うことに
経済的合理性が見出せないことから,措置法66条の6第3項は,タック
スヘイブン対策税制の適用除外要件から資金運用事業を除外しているし,
(中略)というために不可欠な前提を欠き,独立企業としての実体を有し
ているとはいえず,控訴人の上記主張は失当である。
エ措置法66条の6が租税回避行為を同条の適用要件としていないことに
ついては,原審以来述べてきたところであるが,本件においては,控訴人
の租税回避行為がなかったとはいえない。
(中略,シンガポールでは,タックスリベート制度に限らず,株式等)
,,の譲渡所得のキャピタルゲインは従前から非課税とされていたのであり
(中略)
争点2(日星租税条約7条1項違反の有無)について(2)
(控訴人の補充主張)
国際条約たる日星租税条約の解釈は,専ら条約を規律する一般国際法であ
るウィーン条約によることになるが,これによると,日星租税条約7条1項
の解釈においては,原則として,明文にない例外は認められない。また,条
約の趣旨及び目的に照らして,明文にない例外が許容されるとしても,それ
は厳しく制限されなければならず,日星租税条約が二重課税の排除と脱税の
防止を明示的な趣旨及び目的として規定している以上,租税回避行為に対し
て合理的な課税を行うことは,その許容される例外には当たらない。すなわ
ち,租税回避行為に対して国内法の定めによって課税を行うためには,日星
租税条約上に,所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止の
(。ための日本国政府とフランス共和国政府との間の条約平成8年条約第1号
以下「日仏租税条約」という)の議定書17のような明確な授権規定が。(b)
必要であるが,日星租税条約には,そのような規定はない。したがって,措
置法66条の6によってシンガポール法人であるP1社の利得を内国法人で
ある控訴人の収益とみなして課税することは,それ自体が国内法として優位
に執行されるところの日星租税条約7条1項に抵触する。
(被控訴人の補充主張)
日星租税条約7条1項は,二重課税防止条約において一般に認められた原
則を示したものであり,これによると,我が国のタックスヘイブン対策税制
は,法的手法としては,外国の子会社に留保している利益を,持分に応じて
親会社の株主に配当されたものとみなして,自国企業の所得に合算し,自国
企業に課税する制度(擬制配当課税制度)であると解すべきであるから,本
件更正処分は,シンガポール法人の所得に対して課税しておらず,何ら日星
租税条約に抵触するものではない。
争点4(P1社の未処分所得の金額の算出方法)について(3)
アP1社の未処分所得の金額は,シンガポールドル建てで算出すべきか,
又はポンド建てで算出すべきか。
(控訴人の補充主張)
措置法66条の6は,我が国のタックスヘイブン対策税制上ふさわしい
未処分所得の金額を計算することを目的としているから,その計算の基礎
となる「決算」は,海外子会社の所在地国の会社法等の規制に拘束される
と解する必要はないし,同条は,我が国の親会社が子会社を通さないで直
接国際取引をした場合とほぼ等しい税負担を課すことによって,租税回避
を防止することを趣旨目的としているにとどまり,それを超えて,重い税
負担を親会社に課すことを趣旨目的とするものではないと解される。そし
て(中略)ポンド建ての決算に基づいてP1社の未処分所得の金額を算,
出することが上記措置法66条の6の趣旨目的に照らしても正当である。
(被控訴人の補充主張)
措置法66条の6第2項2号には,控訴人が主張する「我が国のタック
スヘイブン対策税制上ふさわしい未処分所得の金額を計算する」などとい
った主観的・抽象的な文言はなく,未処分所得の金額は,同条の規定に従
って計算されるべきである。P1社の1998年12月期の決算について
は,RCBの承認がないから,同期の未処分所得の金額の算出の基となる
決算は,シンガポール会社法に基づく決算,すなわち,シンガポールドル
建ての決算によるべきである。
イ(中略)
第3当裁判所の判断
1争点1(本件事案に措置法66条の6の適用があるか)について。
(中略)そこには租税回避行為は存在しないから,本件事案に租税回避(1)
。」,行為を規制対象とする措置法66条の6を適用する余地はないと主張し
その適用要件とすべき「租税回避行為」の具体的内容について,措置法66
条の6がタックスヘイブン対策税制であることを根拠として,その趣旨目的
から「軽課税国(いわゆるタックスヘイブン)にある子会社等で我が国株,
主により支配されているようなものに我が国株主が所得を留保し,我が国で
の税負担を不当に軽減すること」を目的とする租税回避行為があることと,
その租税回避行為に「異常な法形式が用いられていること」が必要であると
主張するとともに,これらを措置法66条の6の適用要件と解さないとする
と,同条は日星租税条約7条1項に違反することになるとして,日星租税条
約との関係を上記解釈の重要な根拠の一つとして主張しているものと解され
る。
これに対し,被控訴人は,措置法66条の6は租税回避行為の防止を目的
とするものではあるが,その適用上「租税回避行為」があることや税負担,
の「不当な軽減」を図る目的があることを要件とはしていないと主張するの
で,まず,この点について検討する。
措置法66条の6は,いわゆる国際的な租税回避行為を防止するためのタ
ックスヘイブン対策税制として立法されたものであって(甲73の3,18
5,乙37,1項においてタックスヘイブン対策税制が適用される特定外)
国会社等を定義した上で,3項において適用除外要件を定め,特定外国子会
社等(債券の保有等を主たる事業とするものを除く)が独立企業としての。
実体を備え,かつ,その所在地国で事業活動を行うことについて十分な経済
的合理性がある場合には,1項の規定を適用しないとして,課税要件を明確
かつ具体的に定め,その適用範囲を国際的な租税回避の事案に限定するとと
,,,もに法の適正な執行が担保されるようにした規定であると解され同条が
それ以上に「税負担の不当な軽減を図る目的により,異常な法形式を用い,
た租税回避行為が存在すること」といった要件まで要求していないことは,
条文の文言上,明らかである。
また,租税法規は,侵害規範であり,法的安定性が強く要請されることか
ら,その解釈は,原則として文理解釈によるべきであって,文理解釈によっ
ては規定の意味内容を明らかにすることが困難な場合に初めて,規定の趣旨
目的に立ち戻って,その意味内容を明らかにするという目的的解釈が行われ
るべきところ,控訴人の上記主張は,規定が設けられた趣旨目的から出発し
て,条文にない要件を付加して租税法規の適用範囲を限定しようとするもの
であり,しかも,その付加すべき要件自体が明確性に欠け,公平な解釈適用
を確保することに困難が伴うものであるから,これを採用することはできな
いといわざるを得ない。
もっとも,控訴人の主張は,実質的には,P1社が独立企業としての実体
を有しており(中略)に経済的合理性があるということを述べているもの,
と解することができ,そうであるとすると,争点1における実質的争点は,
本件事案に措置法66条の6第3項の適用除外規定の適用があるか否か(争
点3)いうことに帰着するということになる。
P1社は,その発行済株式総数の90%を控訴人によって保有されてい(2)
る外国法人であるから,措置法66条の6第1項所定の「外国関係会社」に
該当し,かつ,同項所定の「その所得に対して課される税の負担が本邦にお
ける法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低い」という要件
を満たしていること(すなわち,同項所定の「特定外国子会社等」に該当し
ていること)は,引用に係る原判決の前提事実等に認定・判示するとおりで
,,,ありまたP1社が同条3項所定の適用除外要件を満たしていないことは
後記3で検討するとおりであるから,本件事案には同条の適用があるという
べきである。
2争点2(措置法66条の6は日星租税条約7条1項に違反するか)につい。

控訴人は,措置法66条の6は我が国に恒久的施設を有しないシンガポ(1)
ールの海外子会社の利得に対して我が国が課税することを許容することにな
るから,日星租税条約7条1項に違反すると主張する。
しかしながら,措置法66条の6は,一定の要件を満たした海外子会社で
ある特定外国子会社等の所得の一部を,その親会社である「内国法人の収益
の額とみなして」課税するというものであって,海外子会社の利得に対して
課税するものでないことは条文の文言上明らかであるそしてこのみ,,。,「
なし課税」が無制限にできることになっているのであれば,形式的には,内
国法人の所得に課税するという建前を採っていたとしても,実質的には,我
が国に恒久的施設を有しないシンガポールの海外子会社の利得に対して我が
国が課税することとなり,二重課税の防止を目的とする日星租税条約7条1
項の趣旨を潜脱するおそれがあるということになる。しかしながら,措置法
66条の6は,1項において,みなし課税の対象となる海外子会社を,内国
親会社による一定以上の株式等の支配関係にある特定外国子会社等に限定
し,さらに,みなし課税の対象とする海外子会社の未処分所得についても,
その留保された金額の全額ではなく,そのうちの内国親会社が支配する株式
等に対応する金額(課税対象留保金額)のみに限定した上で,3項において
適用除外要件を定め,特定外国子会社等が独立企業としての実体を備え,か
つ,その所在地国で事業活動を行うことについて十分な経済的合理性がある
場合には,1項の規定を適用しないと定めている。そうすると,この1項の
要件に該当し,3項の適用除外要件に該当しない事案においては,海外子会
社の未処分所得のうちの課税対象留保金額は,本来,内国親会社に対して配
当その他の方法によって利益移転されるべきものであって,利益移転がされ
た場合には,我が国おいて親会社の収益そのものとして課税されることにな
るのであるから,その利益移転がされていない場合には,租税回避の防止の
観点から,本来あるべき利益移転が実際にあったものとみなして,我が国が
親会社に対して課税することは,日星租税条約7条1項の趣旨を潜脱するこ
とにはならないものと解される。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
以下,措置法66条の6が日星租税条約7条1項に違反するとの控訴人(2)
のその余の主張についても検討しておく。
ア控訴人は,措置法66条の6は,法人税法11条の実質所得者課税の原
則を具体化したものとして,タックスヘイブン子会社の留保所得が親会社
に帰属することを定めた制度と解すべきであって,シンガポール法人であ
るP1社の事業所得に対して課税するものであるから「恒久的施設なけ,
れば課税なし」という基本原則を明文化した日星租税条約7条1項に抵触
すると主張する。
しかしながら,控訴人の上記主張が採用できないことは,原判決47頁
1行目から同15行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
イ控訴人は,①措置法66条の6は,その条文の文言からも,特定外国子
会社等の利得に対して直接課税する制度であって,日星租税条約7条1項
に違反する,②措置法66条の6は,タックスヘイブン子会社の所得を課
税対象とする制度であり,国内租税法の濫用によって課税権の侵害が行わ
れることがないように,二国間の合意により課税権を調整し,両国間の財
・サービス・資金の流れを円滑化することを目的とした日星租税条約の目
的に反すると主張する。
しかしながら,①の主張は,措置法66条の6第1項柱書きの「その内
国法人の収益の額とみな」すという条文の文言自体から,これを採用する
ことはできないし,②の主張も,措置法66条の6がタックスヘイブン子
会社の所得を直接の課税対象としているとの控訴人の主張を前提とするも
のであるから,採用することができない。
ウなお,控訴人は,フランス国務院が,フランスのタックスヘイブン対策
税制がフランスとスイスとの間の租税条約の事業所得条項に違反するとし
た判決(甲80号証の1)を引用して,自らの主張が正当であると主張す
る。
しかしながら,P2教授の意見書(乙44号証)によると,フランスに
おいては,日本とは異なり,法人税について国外所得非課税主義(国外所
得免除法)を採用する反面,外国会社からの配当を含めて受取配当の95
%を益金不算入としていることから,タックスヘイブン子会社の留保所得
に対しては,法人税の一部としてではなく,分離して直接に課税する(す
なわち,親会社が子会社の適用対象所得について納税義務を負う)という
特殊な立法を採用していることが認められるから,フランスと日本では,
その前提を異にしているものであり,また,フィンランド行政最高裁判所
は,フィンランドのタックスヘイブン対策税制がフィンランドとベルギー
との間の租税条約に違反するかが問題となった事案において,フランス国
務院とは反対の判決(乙47号証)をしており,フランス国務院の見解が
国際租税における主流であるとまで認めるに足りる証拠はないのであるか
ら,フランス国務院の見解をもって本件事案における控訴人の主張を基礎
付けるには足りないといわざるを得ない。
エ控訴人は,国内法と租税条約とが抵触する可能性がある場合には,条約
の解釈は一般国際法であるウィーン条約によることになるところ,日星租
税条約には7条1項の例外が明文で規定されていないから,措置法66条
の6を適用することは,それ自体が国内法として優位に執行されるところ
の日星租税条約7条1項に抵触するとも主張する。
しかしながら,この主張は,措置法66条の6が日星租税条約7条1項
の例外規定であることを前提とするものであるが,上記において検討(1)
したとおり,措置法66条の6が日星租税条約7条1項の例外規定である
と解することは困難である。
また,日星租税条約7条1項は,OECDモデル租税条約7条(事業所
得に対する課税)1項の規定に倣ったものであって,一方の国の企業は他
方の国に所在する恒久的施設を通じて事業を行わない限り当該他方の国に
おいて租税を課されないという二重課税防止条約において一般に認められ
ている原則を示したものであると解されるところ(乙39,40,この)
OECDモデル租税条約7条1項の規定について,OECDモデル租税条
約コメンタリーが「第1項の目的は,一方の締約国の,他方の締約国の居
住者である企業の事業所得に対する課税権の制限を規定することである。
本項は,一方の締約国の,自国の国内法令の従属外国法人規定に基づく自
国の居住者に対する課税権を,これらの居住者に対して課せられる当該租
税が,他方の締約国に居住している企業の利得で,これらの居住者の当該
企業への持分に帰せられる部分に基づき算定されるのにもかかわらず,制
限していない。一方の国によって自国の居住者に対してこのように課され
る租税は,他方の締約国の企業の利得を減少させず,それ故,当該利得に
対して課せられたとはいい得ない」と解説していること(パラグラフ1。
0.1(乙41(103頁,57(105頁,同コメンタリーは,そ)))
の性質上,法的拘束力を有するものではないが,一般的な二重課税防止条
約のモデルとなっているOECDモデル租税条約の各規定の解釈指針を説
明した重要な資料として広く受け入れられていること(甲74の2・3,
76,乙38)にかんがみると,一般的な二重課税防止条約は我が国の措
置法66条の6のような国内法を直ちに制限するものではないとの解釈が
可能である。上記フィンランド行政最高裁判所も,上記ウの判決(乙47
号証)の中で,OECDモデル租税条約コメンタリーがOECD加盟国が
タックスヘイブン対策税制を採用する可能性を容認しているから,OEC
Dモデル租税条約に基づく租税条約が反対の規定を置いていない限り,同
条約は締約国がタックスヘイブン対策税制を適用することを容認しなけれ
ばならないと判示している。
なお,控訴人は,租税回避行為に対して国内法の定めによって課税を行
うためには,日仏租税条約の議定書17のような明確な授権規定が必(b)
要であるところ,日星租税条約にはそのような規定がないことを指摘する
,(),,が上記議定書甲188号証はその規定内容及び規定振りからして
全体として日仏租税条約の各規定の意味内容や趣旨を明らかにするための
補充的な合意としての性質を有するものと解されるし,その17の規(b)
定も,条約の締結によってフランスのタックスヘイブン対策税制の適用が
「妨げられない」ことを確認した解釈規定であって,この規定があること
によって初めてタックスヘイブン対策税制の適用が可能になるという趣旨
「」,で控訴人が主張しているものと解される授権規定とは解されないから
日仏租税条約は,上記OECDモデル租税条約コメンタリーやフィンラン
ド行政最高裁判所判決と同じ立場に立っているものということができる。
以上によると,結局,ウィーン条約等の国際法を根拠とする控訴人の上
記主張は採用することができないというほかはない。
3争点3(P1社は措置法66条の6第3項所定の適用除外要件を満たしてい
るか)について。
当裁判所も,P1社は措置法66条の6第3項所定の適用除外要件を満たし
ていないと判断するその理由は以下のとおり訂正するほかは原判決の事。,,「
」()実及び理由中の第3の3原判決58頁23行目から同67頁12行目まで
に記載のとおりであるから,これを引用する。
原判決66頁8行目の末尾に行を改めて,次のとおり加える。(1)
「ウ(中略)から,本件事案において,P1社は,措置法66条の6第()
1項所定の「その所得に対して課される税の負担が本邦における法人の
所得に対して課される税の負担に比して著しく低い」という要件を満た
しているというべきである。
エ(中略)()
控訴人は,タックスヘイブン対策税制は特定外国子会社等の累積され
た未処分利益に対して課税する制度ではなく,特定外国子会社等の合算
対象年度における単年度利益に調整を加えた課税対象留保金額を基とし
て課税する制度であるところ(中略),
(中略)したがって,控訴人主張の根拠をもってしては上記認定を覆す(2)
に足りないというほかはない」。
4争点4(P1社の未処分所得の金額の算出方法)について
(P1社の未処分所得の金額は,シンガポールドル建てで算出すべきか,(1)
又はポンド建てで算出すべきか)。
当裁判所も,P1社の未処分所得の金額はシンガポールドル建てで算出す
べきであると判断する。その理由は,原判決の「事実及び理由」中の第3の
4(原判決67頁14行目から同70頁3行目まで)に記載のとおりで(1)
あるから,これを引用する。ただし,原判決69頁10行目の冒頭の「エ
原告」から同頁14行目冒頭の「する」までを次のとおり改める。。
「エ控訴人は,①シンガポール会社法は適正な課税所得を計算するために
制定されたものではなく,RCBの承認を得たかどうかは決算に係る計
算書類の効力に何らの影響も及ぼさない,②措置法66条の6の趣旨目
的からすると,その計算の基礎となる「決算」について所在地国の会社
法等の規制に拘束されると解する必要はないし,親会社に重い税負担を
課すべきではないなどとして,P1社の経営実態を最もよく反映するポ
ンド建て決算に基づいて未処分所得の額を算出すべきである旨主張す
る」。
(中略)(2)
ア(中略)
イ(中略)
ウ(中略)
エ(中略)
法人税基本通達2−2−12(甲39,62)は,課税の公平という観
点から,客観的に覚知し得る事実に基づいて課税をし,企業の恣意が入り
やすい費用の見越し計上を防止する必要があることにかんがみ,損金に算
入することができる確定した債務といえるためには,①当該費用に係る債
務が成立し,②当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実
が発生し,③その金額を合理的に算定し得るものであることが必要である
としている。この通達は,上記の観点及び趣旨に照らして合理的な基準で
あると認められるところ(中略),
オ控訴人は,英国の税務係争の大部分は訴訟手続ではなく,和解交渉手続
により解決に至ること,和解交渉手続において企業側が額を提示するとい
うことは,提示額と同額の税金債務を将来負うことになることを企業側に
認識させるという効果を生み出すという英国特有の税制及び慣行があるこ
とを前提にすると(中略),
しかしながら,そもそも,控訴人が主張する上記英国の税制及び慣行の
根拠となる意見書(甲69号証)の記載によっても,企業が自らが提示し
た支払税額を後になって覆すことが事実上困難であるということを超え
て,企業側の提示額を最低限とする追加法人税額の法的支払義務までもが
生ずると解することができるのか疑問があるのみならず(中略),
5まとめ
そうすると,本件事案には措置法66条の6が適用されることになり,控訴
人に係る措置法66条の6第1項に規定する特定外国子会社等であるP1社の
1998年(平成10年)12月期における課税対象留保金額を,控訴人の平
成11年12月期の所得の計算上,益金の額に算入して算出した控訴人の課税
所得金額及び納付すべき税額は,引用に係る原判決の別紙2記載の被控訴人の
主張額と同額であり(なお,本件争点に関する部分を除き,計算の基礎となる
金額及び計算方法については,当事者間に争いがない,これらの金額及び。)
税額は本件更正処分における控訴人の平成11年12月期の法人税に係る課税
所得金額及び納付すべき税額を上回るから,本件更正処分は適法である。
また,上記のとおり本件更正処分は適法であるところ,本件賦課決定処分に
おいて過少申告加算税の対象とした税額の計算の基礎となった事実が本件更正
処分前における税額の計算の基礎とされなかったことについて国税通則法65
条4項に規定する正当な理由があるとは認められないから,控訴人の平成11
年12月期の法人税に係る過少申告加算税の額は上記控訴人が納付すべき税額
に同条1項及び2項に規定する割合を乗じて算出した金額であり,この金額は
上記別紙2記載の被控訴人の主張額と同額であるから,本件賦課決定処分も適
法である。
第4結論
以上によれば,本件各処分は適法であり,控訴人の請求はいずれも理由がな
い。
よって,これと同旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,こ
れを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第16民事部
裁判長裁判官宗宮英俊
裁判官坂井満
裁判官原優

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