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平成17年(行ケ)第10104号 審決取消請求事件
(旧事件番号 東京高裁平成16年(行ケ)第426号)
口頭弁論終結日 平成17年4月28日
          判           決
       原      告   ダウ化工株式会社
       訴訟代理人弁理士   渡辺敬介
同          山口芳広 
       被      告   株式会社浜島化成
       訴訟代理人弁護士   柴田 肇
同          大塚公美子
          主           文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
 特許庁が無効2004-35103号事件について平成16年8月17日に
した審決を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は,原告の有する本件特許につき,被告の特許無効審判請求に基づき,
特許庁が特許無効の審決をしたことから,これに不服の原告が,同審決の取消しを
求めた事案である。
第3 当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁における手続の経緯
 原告は,発明の名称を「軽量盛土,その施工方法及びそれに用いる連結
具」とする特許第1809075号発明(昭和60年8月20日出願,平成5年1
2月10日設定登録,以下「本件発明」といい,その特許を「本件特許」とい
う。)の特許権者である。
 被告は,平成16年2月20日,本件特許につき無効審判の請求をした。
特許庁は,同請求を無効2004-35103号事件として審理した上,平成16
年8月17日に「特許1809075号の特許請求の範囲に記載された各発明につ
いての特許を無効とする。」との審決をし,その審決謄本は,同年8月27日原告
に送達された。
(2) 発明の内容
 本件特許出願の願書に添付された明細書(平成5年1月22日付け補正後
のもの,以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲は,下記のとおりであ
る。

「1 硬質発泡プラスチックブロックを積み重ねて構成した軽量盛土であっ
て,上下に突出した歯を有し,しかも上下共に前後方向を向く歯と左右方向を向く
歯とが併存している連結具が,平面相隣接して敷設された硬質発泡プラスチックブ
ロック間に跨がりかつ跨がる各硬質発泡プラスチックブロックに下向きの歯を突き
刺すと共に,上向きの歯を,平面隣接する硬質発泡プラスチックブロック間の継ぎ
目が上下に揃わないようにその上に積み重ねられた硬質発泡プラスチックブロック
に突き刺して上下の硬質発泡プラスチックブロック間に介在されていることを特徴
とする軽量盛土。
2 硬質発泡プラスチックブロックを積み重ねて軽量盛土を構成するに際
し,上下に突出した歯を有し,しかも上下共に前後方向を向く歯と左右方向を向く
歯とが併存している連結具を,平面相隣接して敷設した硬質発泡プラスチックブロ
ック間に跨がりかつ跨がる各硬質発泡プラスチックブロックに下向きの歯を突き刺
して配置し,更にその上に,平面隣接する硬質発泡プラスチックブロック間の継ぎ
目が上下に揃わないように硬質発泡プラスチックブロックを敷設して積み重ねると
共に,上記連結具を,その上向きの歯を上側の硬質発泡プラスチックブロックに突
き刺して,上下の硬質発泡プラスチックブロック間に介在させることを特徴とする
軽量盛土の施工方法。
3 板伏体の周囲に,下向きに突出した複数本の歯と,上向きに突出した複
数本の歯を有し,上向き及び下向きの歯が,歯の形成されていない中央部を境に左
右に分かれて形成されており,しかも上下共に前後方向を向く歯と左右方向を向く
歯とが併存していることを特徴とする軽量盛土工用硬質発泡プラスチックブロック
の連結具。」
(以下,上記請求項1~3に係る発明を,順次,「本件発明1」~「本件発
明3」という。)
(3) 審決の内容
ア審決の詳細は,別添審決謄本写し記載のとおりである。その要旨とする
ところは,本件発明1及び2は,「bulletindeliaisondeslaboratoiresdes
pontsetchausseesN
136Mars-Avril1985」7~20頁(審判甲1-1,本訴甲
5-1,2。以下「甲5文献」という。)に記載された後記引用発明1及び2に基
づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明3は,甲5文
献に記載された後記引用発明3に基づいて,又は,引用発明3及び実公昭57-1
8486号公報(審判甲8,本訴甲7。以下「甲7公報」という。)等にみられる
周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本
件発明1~3に係る特許は,いずれも特許法29条2項の規定に違反してされたも
のであり,同法123条1項1号に該当し,無効とすべきものであるというもので
ある。
イ なお,審決が引用発明1~3として記載した内容は,次のとおりであ
る。
<引用発明1>
「硬質発泡プラスチックブロックを積み重ねて構成した軽量盛土であっ
て,上下に突出した歯を有し,しかも上下共に円の周方向を向く歯を設けた連結具
が,平面相隣接して敷設された硬質発泡プラスチックブロックの上面に下向きの歯
を突き刺すと共に,上向きの歯を,平面隣接する硬質発泡プラスチックブロック間
の継ぎ目が上下に揃わないようにその上に積み重ねられた硬質発泡プラスチックブ
ロックに突き刺して上下の硬質発泡プラスチックブロック間に介在されている,軽
量盛土。」
<引用発明2>
「硬質発泡プラスチックブロックを積み重ねて軽量盛土を構成するに際
し,上下に突出した歯を有し,しかも上下共に円の周方向を向く歯を設けた連結具
を,平面相隣接して敷設した硬質発泡プラスチックブロックに下向きの歯を突き刺
して配置し,更にその上に,平面隣接する硬質発泡プラスチックブロック間の継ぎ
目が上下に揃わないように硬質発泡プラスチックブロックを敷設して積み重ねると
共に,上記連結具を,その上向きの歯を上側の硬質発泡プラスチックブロックに突
き刺して,上下の硬質発泡プラスチックブロック間に介在させる,軽量盛土の施工
方法。」
<引用発明3>
「薄いドーナツ状の金属板の周囲に,下向きに突出した複数本の歯と,上
向きに突出した複数本の歯を有し,上向き及び下向きの歯が,周方向に沿って徐々
にその方向が変化するように設けられた,軽量盛土工用硬質発泡プラスチックブロ
ックの連結具。」
ウ また,審決が,本件発明1~3と引用発明1~3との相違点とするとこ
ろは,次のとおりである。
<相違点1>
「上下に突出した歯が,本件発明1では,上下共に前後方向を向く歯と左
右方向を向く歯とが併存しているのに対し,引用発明1では,上下共に円の周方向
を向いている点」
<相違点2>
「下向きの歯を,本件発明1では,平面相隣接して敷設された硬質発泡プ
ラスチックブロック間に跨って突き刺しているのに対し,引用発明1では,平面相
隣接して敷設された硬質発泡プラスチックブロック間に跨って突き刺しているかど
うか不明な点」
<相違点3>
「上下に突出した歯が,本件発明2では,上下共に前後方向を向く歯と左
右方向を向く歯とが併存しているのに対し,引用発明2では,上下共に円の周方向
を向いている点」
<相違点4>
「下向きの歯を,本件発明2では,平面相隣接して敷設された硬質発泡プ
ラスチックブロック間に跨って突き刺しているのに対し,引用発明2では,平面相
隣接して敷設された硬質発泡プラスチックブロック間に跨って突き刺しているかど
うか不明な点」
<相違点5>
「上下に突出した歯が,本件発明3では,上下共に前後方向を向く歯と左
右方向を向く歯とが併存しているのに対し,引用発明3では,上下共に円の周方向
を向いている点」
<相違点6>
「本件発明3では,上向き及び下向きの歯が歯の形成されていない中央部
を境に左右に分かれて形成されているのに対し,引用発明3では,板状体の全周に
亘ってほぼ連続的に形成されている点」
(4) 審決の取消事由
 審決は,甲5文献記載の引用発明1~3の認定を誤った(取消事由1)
上,本件発明1と引用発明1との相違点2,本件発明2と引用発明2との相違点4
及び本件発明3と引用発明3との相違点6並びに本件発明1~3の作用効果に関す
る判断を誤った(取消事由2~4)ものであるから,違法として取り消されるべき
である。
 なお,本件発明1と引用発明1との相違点1,本件発明2と引用発明との
相違点3及び本件発明3と引用発明3との相違点5に係る審決の認定判断について
は争わない。
ア 取消事由1(引用発明1~3の認定の誤り)
 審決は,甲5文献に記載された発明として引用発明1~3を認定した
が,いずれも誤りである。
(ア) 引用発明1について
 甲5文献には,①「ポリスチレンブロックを積んで盛り土を造り上げ
るためには,まず,底面に厚さ0~50mmの砂の層を設けて地面を平坦化しなけ
ればならない。ポリスチレンブロックを積んでいく作業は二人の作業者でできる。
ブロックの各層の積み方はその直下部に置いたブロックの方向に対して直角に配置
する方がよい(図2参照)。層同志が相対的に滑りを起こさないようにするために
は,ポリスチレンボード固有の摩擦力に頼るか,金属製または木製の組み立て用繋
留具で簡単に足で踏んで隙間に押し込めるものを使うとよい。このようにして,盛
り土を5.5mの高さにすることができた。他の方式ではこれほど高くすることは
不可能である」(訳文9頁下から第2段落),②「ポリスチレンの各層間の摩擦係
数は0.5である。しかし,どんなときにも各層間で水平方向の滑り動きが生じな
いようにしたい場合がある。そのような場合は両面連結具(ブルドッグ〈Bulldog〉
直径117mm-図4参照)(判決注,以下「甲5文献記載の両面連結具」とい
う。)を使用することができる。この繋留具は容易に下側ブロックに押し込むこと
ができ,上側ブロックを位置決めしてから置くときに押し込めば自然に
はめ込まれて固定できる」(同14頁第1段落)との記載がある。
 甲5文献の上記記載は,連結具が,上下の硬質発泡プラスチックブロ
ックが相対的に水平方向に滑らないよう,上下の硬質発泡プラスチックブロックを
連結するために用いられるものであり,上下の硬質発泡プラスチックブロック間に
挟み込まれるものであることを明らかにしている。そして,甲5文献に示される,
上向き及び下向きの歯を有する連結具を,上下の硬質発泡プラスチックブロック間
に挟み込んで連結する場合,安定した連結状態を得られるよう,連結対象となる上
下2個の硬質発泡プラスチックブロックから連結具がはみ出さないように突き刺す
べきことは当然であるから,甲5文献において,上下1個ずつの硬質発泡プラスチ
ックブロック間に連結具全体を挟み込んで突き刺していることは,技術的に当然の
ことというべきである。
 また,甲5文献には,③「ポリスチレンは単体では真珠玉形状をした
製品であり,型内で発泡させて成形することができるので,道路建設のための盛り
土材としてふさわしい形状のブロックを得ることができる。通常は0.1×1×3m
まれに0.5×1×5m直方体形状を使用する」(訳文7頁下から第3段落),④
「このコンセプトは当時,常識的には受け入れられなかったが,この方法が失敗す
るという理由も見当たらなかった。したがって,在来の1m厚の盛り土材に代わ
り,2×0.5mのポリスチレンブロック材を試用し,その上に50cmの車道層
を敷設することになった」(同12頁下から第2段落)との記載がある。上記記載
から明らかなように,連結具で連結すべき硬質発泡プラスチックブロックは,縦横
メートルオーダーの大きさがあるのに対して,甲5文献記載の両面連結具は,上記
②の記載とおり,直径117mmのものである。例えば,0.1×1×3mもの大
きさの硬質発泡プラスチックブロックを,直径12cmにも満たない連結具で上下
に連結する場合に,わざわざ平面相隣接する硬質発泡プラスチックブロック間にま
たがる位置に連結具を突き刺すことは,技術常識的に考えられないから
,甲5文献記載のものにおいては,上下1個ずつの硬質発泡プラスチックブロック
間に全体を挟み込んで連結具を突き刺すことになるのは必然というべきである。
 加えて,甲5文献に示されるポリスチレンブロック,すなわち,発泡
スチロールが割れたり欠けたりしやすい材質であることは公知の事実であり,ま
た,甲5文献記載の両面連結具が,全周にわたってほぼ連続的に形成された上向き
の歯と下向きの歯を有するものであることも明らかである(本文16頁のFig.
4)から,甲5文献記載の両面連結具を,相隣接するブロック間にまたがって突き
刺した場合,ほぼ連続的に形成された歯が,割れや欠けを生じやすいポリスチレン
ブロックの端部に突き刺さることになるため,ブロックの割れや欠けを助長するこ
とになるのは明白である。そうすると,甲5文献において,ポリスチレンブロック
が割れたり欠けたりしやすい特性を有することと,連結具が全周にわたってほぼ連
続的に形成された歯を有することとは,当該連結具を平面相隣接するブロック間に
またがって突き刺すという構成を想到することを妨げる事由となるというべきであ
る。
 以上のとおり,甲5文献記載のものにおいて,連結具を,上下1個ず
つの硬質発泡プラスチックブロック間に全体を挟み込んで突き刺すことは,技術的
に当然又は必然のことである。したがって,引用発明1の認定に当たっては,「連
結具を,上下1個ずつの硬質発泡プラスチックブロック間に全体を挟み込んで突き
刺していること」をも認定すべきところ,審決の引用発明1の認定は,この点を看
過したものであって,誤りである。そして,その結果,審決は,本件発明1と引用
発明1との相違点の認定に際し,両者は,連結具の突き刺し位置の点において明確
に相違しているにもかかわらず,当該相違点を看過するとの誤りを犯したものであ
るから,引用発明1の認定の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすべきものである。
(イ) 引用発明2について
 上記(ア)と同様の理由により,引用発明2の認定に当たっては,「連
結具を,上下1個ずつの硬質発泡プラスチックブロック間に全体を挟み込んで突き
刺していること」をも認定すべきところ,審決の引用発明2の認定は,この点を看
過したものであって,誤りである。そして,その結果,審決は,本件発明2と引用
発明2との相違点の認定に際し,両者は,連結具の突き刺し位置の点において明確
に相違しているにもかかわらず,当該相違点を看過するとの誤りを犯したものであ
るから,引用発明2の認定の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすべきものである。
(ウ) 引用発明3について
 引用発明3については,本件発明3と引用発明3との相違点6の認定
において,引用発明3の上向きの歯と下向きの歯が全周に亘ってほぼ連続的に形成
されていことが挙げられていることからすれば,これが引用発明3の構成として加
えられるべきであり,審決の引用発明3の認定は,この点を看過したものであっ
て,誤りである。
イ 取消事由2(本件発明1と引用発明1との相違点2に関する判断及び本
件発明1の作用効果に関する判断の誤り)
 審決は,本件発明1と引用発明1との相違点2について,「連結具によ
り平面相隣接して敷設された硬質発泡プラスチックブロック相互も連結する程度の
ことは,盛土を一体化し,施工中及び施工後の盛土全体の安定性を高めるために当
業者が当然配慮する程度のことにすぎない」(審決謄本7頁第1段落)と判断した
上,「本件発明1が奏する作用効果は,上記のとおり引用発明1と同等ないしは当
業者が容易に予期し得る程度のものであって何ら格別なものではない」(同頁第2
段落)と判断した。
(ア) しかしながら,引用発明1は,上記ア(ア)のとおり,技術的に当然
又は必然のこととして,連結具を,上下1個ずつの硬質発泡プラスチックブロック
間に全体を挟み込んで突き刺しているものであると認められるから,平面相隣接し
て敷設された硬質発泡プラスチックブロック間にまたがって突き刺している本件発
明1とは,連結具の突き刺し位置が全く異なっている。また,甲5文献には,「こ
のようにして,盛り土を5.5mの高さにすることができた。他の方式ではこれほ
ど高くすることは不可能である」(訳文9頁下から第2段落)と記載され,引用発
明1によって十分な安定性が得られ,引用発明1以上に安定性を高めることは不可
能であることを明らかにしている。そうとすれば,連結具を,上下1個ずつの硬質
発泡プラスチックブロック間に全体を挟み込んで突き刺すことで十分な安定性が得
られ,しかも,これ以上に安定性を高めることが不可能であるとされている引用発
明1に基づき,連結具の突き刺し位置を,本件発明1のような位置に変更すること
は容易に着想し得ないものというべきである。
 加えて,上記ア(ア)のとおり,甲5文献記載のものにおいて,ポリス
チレンブロックが割れたり欠けたりしやすい特性を有することと,連結具が全周に
わたってほぼ連続的に形成された歯を有することとは,当該連結具を平面相隣接す
るブロック間にまたがって突き刺すという構成を想到することを妨げる事由となる
というべきである。
(イ) また,そもそも,引用発明1における連結具は,上記引用に係る記
載からも明らかなように,硬質発泡プラスチックブロックを高く積み上げるために
用いられているのに対し,本件発明1は,耐震性の向上及び施工性の向上を目的と
して連結具を使用しているものであるから,両者は,連結具の使用目的において明
らかに異なる。
 本件発明1における連結具の使用目的のうち,耐震性の向上の点は,
本件明細書(甲4)に「連結具3によって,発泡ブロック1が上下方向のみならず
左右方向にも相互に連結されることにより,発泡ブロック1の一体性が高められ,
耐震性が向上する」(補正公報(3)頁右欄第4段落)と記載されているとおりであ
る。この耐震性の向上という効果は,上下の硬質発泡プラスチックブロックの一体
化という観点からは不安定な箇所である,平面相隣接する硬質発泡プラスチックブ
ロック間にまたがる位置に連結具を突き刺すという構成をあえて採用し,全体とし
て,揺れに対する適度な許容性をもった一体化構造とすることにより得られるもの
である。そして,当該作用効果は,発泡プラスチックブロックを高く積み上げるた
めに,連結具を,上下1個ずつの硬質発泡プラスチックブロック間に全体を挟み込
んで突き刺している引用発明1からは得ることができず,当業者が容易に予想する
こともできない。
 施工性の向上の点は,本件明細書に「連結具3で発泡ブロック1を仮
止めしながら施工することができるので,軽く動きやすい発泡ブロック1を安定さ
せた状態で施工でき,また地盤に多少の凹凸や部分的傾斜があっても,これによっ
て発泡ブロック1間に大きな隙間が生じてしまうのを押えながら施工できる。従っ
て,良好な施工性が得られる」(補正公報(3)頁右欄第6段落)と記載されていると
おりである。引用発明1は,上下の硬質発泡プラスチックブロックを連結するだけ
のものであるから,例えば,最下段の硬質発泡プラスチックブロックの敷設や,中
間に介在されることがあるコンクリート床版上第1段目の硬質発泡プラスチックブ
ロックの敷設においては,連結具による仮止めを行うことができない。したがっ
て,いずれの段においても連結具による仮止めを行いながら硬質発泡プラスチック
ブロックの積み重ね作業を行えるという本件発明1の当該作用効果は,引用発明1
からは得ることができず,当業者が容易に予想することもできない。
 ところで,甲5文献は,「― ブロックの第一層は良好な平坦面の上
に置かねばならない。もしこの条件が不十分である場合は,盛り土部分の上側層の
水平維持が困難になるであろう。
― ポリスチレンブロックの下側層が平坦に設置されたことを確認した
後でなければ次の新たな層を積層してはならない。もしブロック各層が良好な接触
状態にないと,盛り土自身の維持にはあまり影響はないが,車道層の湾曲変形が大
きくなるのでメインテナンス作業に時間がかかることになる」(訳文13頁下から
第4段落~第3段落)として,下側のブロック,とりわけ最下層である第1層目の
ブロックの敷設状態が重要であることを示しているところ,本件発明1の上記作用
効果は,甲5文献においても重要性が認められている第1層目のブロックの敷設状
態を良好に維持しやすくするという重要な作用効果であるということができる。ま
た,別の観点から見れば,甲5文献は,上記のように,第1層目のブロックの敷設
状態を良好なものとすることの重要性について開示していながら,平面相隣接する
ブロック間にまたがって連結具を突き刺すことについては全く開示も示唆もしてい
ないのであって,このことは,連結具を本件発明1のような位置に突き刺すことに
よって第1層目のブロックの良好な敷設状態を維持するという効果の予測困難性を
示すものである。
(ウ) 以上のとおり,審決は,相違点2に係る本件発明1の構成が,引用
発明1からは着想できない特異な構成であるにもかかわらず,「当業者が当然配慮
する程度のことにすぎない」と判断し,さらに,本件発明1が奏する作用効果が,
引用発明1からは得ることができず,当業者が容易に予想することもできないもの
であるにもかかわらず,「引用発明1と同等ないしは当業者が容易に予期し得る程
度のものであって何ら格別なものではない」と判断したものであって,明らかに誤
りである。
ウ 取消事由3(本件発明2と引用発明2との相違点4に関する判断及び本
件発明2の作用効果に関する判断の誤り)
 審決は,本件発明2と引用発明2との相違点4について,「連結具によ
り平面相隣接して敷設された硬質発泡プラスチックブロック相互も連結する程度の
ことは,盛土を一体化し施工中及び施工後の盛土全体の安定性を高めるために当業
者が当然配慮する程度のことにすぎない」(審決謄本8頁第2段落)と判断した
上,「本件発明2が奏する作用効果は,上記のとおり引用発明2と同等ないしは当
業者が容易に予期し得る程度のものであって何ら格別なものではない」(同頁第3
段落)と判断した。
 しかしながら,上記イと同様の理由により,審決の上記各判断は,いず
れも誤りである。
エ 取消事由4(本件発明3と引用発明3との相違点6に関する判断及び本
件発明3の作用効果に関する判断の誤り)
 審決は,本件発明3と引用発明3との相違点6について,「部材への突
き刺し部(歯)を有する連結具を使用して,該連結具より極めて脆弱な部材相互を
その端部間で連結しようとする場合に,部材の端部に割れが生じないよう突き刺し
部の存在しない領域(本件発明3の「中央部」)を連結具に設ける程度のことは,
当業者が当然配慮する程度のことにすぎない。あるいは,部材への突き刺し部
(歯)を有する連結具において,突き刺し部の存在しない領域を有する連結具は,
甲第8号証(判決注,甲7公報)等にみられるように従来周知のものであり,当業
者が該周知技術を採用して相違点6として摘記した本件発明3の構成とする点に格
別困難性は認められない」(審決謄本9頁下から第4段落~第3段落)と判断した
上,「本件発明3が奏する作用効果は,上記のとおり引用発明3と同等ないしは当
業者が容易に予期し得る程度のものであって何ら格別なものではない」(同頁下か
ら第2段落)と判断した。
(ア) しかしながら,上記ア及びイのとおり,甲5文献は,連結具を平面
相隣接する硬質発泡プラスチックブロック間にまたがって突き刺すことを,開示も
示唆もしていないものである。にもかかわらず,引用発明3に係る連結具を,極め
て脆弱な部材相互をその端部間で連結する際に使用することを想定すること自体,
何ら根拠がない。
 そして,甲5文献が,連結具を平面相隣接する硬質発泡プラスチック
ブロック間にまたがって突き刺すことを開示も示唆もしていない一方,引用発明3
の上向きの歯と下向きの歯が「全周に亘ってほぼ連続的に形成されている」こと及
びポリスチレンブロックが割れたり欠けたりしやすい特性を有することは,連結具
を平面相隣接するブロック間にまたがって突き刺すことを想到することを妨げる事
由となるものである。しかも,甲5文献には,「このようにして,盛り土を5.5
mの高さにすることができた。他の方式ではこれほど高くすることは不可能であ
る」(訳文9頁下から第2段落)と記載され,連結具の突き刺し位置を変更する余
地がないことを示している。
 そうすると,引用発明3の連結具を,平面相隣接するブロック間にま
たがって突き刺すという想定は,甲5文献から,当業者が容易に想到し得るもので
はないから,相違点6に係る本件発明3の構成の容易想到性をいう審決の上記判断
は,その前提において誤りである。
 さらに,本件明細書(甲4)に示されている,「連結部3の下向きの
歯2bは,歯2a,2bのない中央部を境に左右に分かれているので,この中央部
を発泡ブロック1間の継ぎ目付近に当るように連結具3を取り付けることで,歯2
bが発泡ブロック1の端部に刺さって当該端部が割れやすくなることを防止でき
る」(補正公報(3)頁右欄下から第4段落)との作用効果が,引用発明3からは得る
ことができず,当業者が容易に予想することもできないことは明らかである。
(イ) ところで,審決は,甲7公報について,「第1図の記載によれば,
図面上,上向きの突片2と下向きの突片3とが交互に形成されていることにより,
上向きの突片2,2及び下向きの突片3,3は,それぞれ平坦部を介して断続的に
設けられていることが当業者に明らかな事項である」(審決謄本5頁下から第2段
落)としている。しかしながら,甲7公報の第1図に示される連結具は,円盤の外
周に沿って複数の三角形状の切り欠きを連続的に入れて,円盤の外周に残された複
数の三角形部分を上下交互に折り曲げることにより,上向きの突片2,2及び下向
きの突片3,3としたものであることが自明である。この甲7公報の第1図に示さ
れる連結具においては,上向きの突片2,2相互間と,下向きの突片3,3相互間
とにおいて,それぞれ間隔が開くことは必然であって,この間隔が何らかの目的の
ために意図的に形成されたものではないことは明らかである。したがって,上向き
の突片2,2相互間と,下向きの突片3,3相互間の間隔は,当業者に対し,特定
の技術的意義を示すものということはできず,この連結具から当業者に明らかな事
項は,せいぜい,上向きの突片2,2及び下向きの突片3,3をそれ
ぞれ等間隔で設けるという程度のことでしかない。
 にもかかわらず,審決は,上記(1)のとおり,「部材への突き刺し部
(歯)を有する連結具において,突き刺し部の存在しない領域を有する連結具は,
甲第8号証(判決注,甲7公報)等にみられるように従来周知のものであり,当業
者が該周知技術を採用して相違点6として摘記した本件発明3の構成とする点に格
別困難性は認められない」としている。しかしながら,上記のとおり,甲7公報の
第1図から当業者に明らかな事項は,せいぜい,上向きの突片2,2及び下向きの
突片3,3をそれぞれ等間隔で設けるという程度のことでしかなく,上向きの突片
2,2及び下向きの突片3,3の形成領域を左右に分けることまでは全く明らかで
はないから,甲7公報は,相違点6に係る本件発明3の構成を着想させるものでは
ないし,相違点6に基づく上記(2)の作用効果を予想させるものでもない。
(ウ) 以上のとおり,審決は,相違点6に係る本件発明3の構成が,引用
発明3からは着想できない特異な構成であるにもかかわらず,「当業者が当然配慮
する程度のことにすぎない」と判断し,さらに,本件発明3が奏する作用効果が,
引用発明3からは得ることができず,当業者が容易に予想することもできないもの
であるにもかかわらず,「引用発明3と同等ないしは当業者が容易に予想し得る程
度のものであって何ら格別なものではない」と判断したものであって,明らかに誤
りである。
2 請求原因に対する認否
 請求原因(1)~(3)の事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。
3 被告の反論
 審決に原告主張の違法はなく,原告の取消事由の主張はいずれも理由がな
い。
(1) 取消事由1(引用発明1~3の認定の誤り)について
ア 原告は,甲5文献記載のものにおいて,連結具を,上下1個ずつの硬質
発泡プラスチックブロック間に全体を挟み込んで突き刺すことは,技術的に当然又
は必然のことであるとした上,審決の引用発明1及び2の認定は,その点を看過し
たものであって誤りである旨主張する。
 しかしながら,原告主張のような連結具の使用態様は,甲5文献から当
然に導き出せるものではなく,原告の上記主張は客観性に欠けるものである。
 甲5文献は,「すでに施工された状況について,実施するときの基本的
な注意事項,現在抽出された長所と問題点」についての報告書であるから,仮に,
連結具の使用につき,ブロックの端部に使用する場合に「ブロックの割れや欠けを
助長する」ような問題点があれば,そのような使用についての報告がなされるのが
当然であるが,甲5文献には,連結具の使用に際し,例えば,下層のブロック端部
に連結するような使用は避けるべきである等の注意事項は一切記載されていない。
したがって,甲5文献については,連結具を使用するべき位置及びその態様につい
ては全く記載がないというほかはなく,その点は,使用者の判断にゆだねられてい
るものと理解すべきである。
 逆に,甲5文献においては,連結具をポリスチレンブロックのどこに使
用するかについては記載されていないのに対し,ブロックの積み方については,
「ブロックの各層の積み方はその直下部に置いたブロックの方向に対して直角に配
置する方がよい(図2参照)」(訳文9頁下から第2段落)と明確に記載してい
る。そうすると,長方形のブロックを上記の積み方に従って配置する場合,直下の
ブロック表面には,上位において平面相隣接するブロックの境界線が複数存在する
ことになる(甲5文献本文12頁のFig.2参照)から,連結される片方のブロ
ック表面に突き刺した連結具が,他方のブロックでは平面相隣接して敷設されたブ
ロック間にまたがる状態となり得ることは容易に理解することができるものであ
る。
 なお,原告は,甲5文献記載の両面連結具の大きさが117mmである
との記載があることを,その主張の根拠としているが,甲5文献の当該記載は,連
結具の寸法の一例を示したものにすぎないと理解すべきである。そして,原告主張
のように,連結具の大きさによってその用途が決定するといい得るのであれば,甲
5文献記載の両面連結具について,その寸法のみを大きくした相似形の連結具であ
れば,相隣接するブロック間にまたがって使用することも可能であるということに
なる。
 以上によれば,引用発明1及び2については,「平面相隣接して敷設さ
れた硬質発泡プラスチックブロック間に跨って突き刺しているかどうか不明」(審
決謄本6頁第3段落,7頁下から第2段落)と認定するのが相当であり,審決の引
用発明1及び2の認定に誤りはない。
イ また原告は,引用発明3について,上向きの歯と下向きの歯が全周に亘
ってほぼ連続的に形成されている点をも含めて認定すべきであり,審決の引用発明
3の認定は,この点を看過したものであって,誤りである旨主張する。
 しかしながら,審決は,原告主張に係る上記構成について,相違点6と
して認定した上,その点に対する判断を明確に示しているから,仮に,引用発明3
の認定において当該構成を認定しなかったとしても,審決を取り消すべき事由に当
たらないことは明らかである。
(2) 取消事由2(本件発明1と引用発明1との相違点2に関する判断及び本件発
明1の作用効果に関する判断の誤り)について
ア 原告は,相違点2に係る本件発明1の構成は,引用発明1からは着想で
きない特異な構成であり,本件発明1が奏する作用効果も,引用発明1からは得る
ことができず,当業者が容易に予想することもできないものである旨主張する。
 しかしながら,相違点2に係る本件発明1の構成は,要するに,連結具
をどこに使用するかを選択しただけであり,そうした使用態様の発見は,従来技術
を使用する際に当業者が常に意識するものであるから,当業者が施工に当たり考慮
すべき範囲内の事項であることは明らかである。また,それによる本件発明1の作
用効果も,当業者が容易に予想することができる範囲内のものというべきである。
イ また原告は,甲5文献の「このようにして,盛り土を5.5mの高さに
することができた。他の方法ではこれほど高くすることは不可能である」(訳文9
頁下から第2段落)との記載を部分的に引用した上,引用発明1においては,「上
下1個ずつ」ブロックを連結するものであるかのように主張する。
 しかしながら,甲5文献の該当部分の記載は,「層同志が相対的に滑り
を起こさないようにするためには,ポリスチレンボード固有の摩擦力に頼るか,金
属製または木製の組み立て用繋留具で簡単に足で踏んで隙間に押し込めるものを使
う」(同段落)ことによって,「盛り土を5.5mの高さにすることができた」と
いうものであって,むしろ,連結具を使用しない態様が示唆されている。そして,
「層同志の相対的な滑り」についてはポリスチレンボード固有の摩擦力で対処させ
た場合に,連結具を使用する態様を想定すれば,相隣接するブロックにまたがって
連結具を突き刺す態様を容易に想像することができるというべきである。
ウ さらに原告は,本件発明1には,施工性の向上という効果があり,当該
作用効果は,引用発明1からは得ることができず,当業者が容易に予測することも
できない旨主張する。
 しかし,引用発明1に係る連結具によっても,下層において水平方向に
相隣接するブロックにまたがるように連結具を配置しさえすれば,下層のブロック
を仮止めすることが可能であるから,原告の上記主張は失当である。
 また,原告は,甲5文献の「ブロックの第一層は良好な平坦面の上に置
かねばならない」(訳文13頁下から第4段落)との記載を援用するが,当該記載
は,「発泡スチロールを道路建設用盛り土に使用したノルウェーでの施工例」(訳
文11頁の表題)から考察された留意事項であり,道路建設に発泡スチロールを用
いる場合において,施工後の盛り土の状態を安定させるための注意事項を示したに
すぎず,施工の容易性等に関する記載ではない。むしろ,当該記載を全体として見
れば,平坦でない状態の面に第1層を置いて盛り土を構築すること自体は可能であ
るが,このような施工をすると,「盛り土自身の維持にはあまり影響はないが,車
道層の湾曲変形が大きくなるのでメンテナンス作業に時間がかかる」(訳文13頁
下から第3段落)ことを示唆しているものであるから,甲5文献記載のものも,多
少の凹凸や部分的傾斜があっても実施し得るのであって,原告主張の施工性の向上
の点は,本件発明1に特有の作用効果ではない。
(3) 取消事由3(本件発明2と引用発明2との相違点4に関する判断及び本件発
明2の作用効果に関する判断の誤り)について
 原告の取消事由3の主張が失当であることは,上記(2)のとおりである。
(4) 取消事由4(本件発明3と引用発明3との相違点6に関する判断及び本件発
明3の作用効果に関する判断の誤り)について
ア 原告は,甲5文献が,連結具を平面相隣接する硬質発泡プラスチックブ
ロック間にまたがって突き刺すことを開示も示唆もしていない一方,引用発明3の
上向きの歯と下向きの歯が「全周に亘ってほぼ連続的に形成されている」こと及び
ポリスチレンブロックが割れたり欠けたりしやすい特性を有することは,連結具を
平面相隣接するブロック間にまたがって突き刺すことの想到阻害事由となる旨主張
する。
 しかし,甲5文献記載の連結具について,ブロック間にまたがって突き
刺すことが容易に想到し得ることは,上記(1)及び(2)のとおりであり,その際,ポ
リスチレンブロックの端部が割れたり欠けたりすることがないように,連結具を設
計変更するとすれば,連結具の一部に歯を構成しない領域を設けることも,当業者
における常識的な考慮事項である。
イ また原告は,甲7公報は,上向きの突片2,2及び下向きの突片3,3
の形成領域を左右に分けることを示すものではない旨主張する。しかしながら,甲
7公報に,「前記基板の中央部は平板となっていて」(1頁2欄4行目)と明確に
記載されていること等からすれば,突片のない領域を中心として左右に突片が設け
られる構成が開示されていることは明らかである。
 また,審決は,「部材への突き刺し部(歯)を有する連結具において,
突き刺し部の存在しない領域を有する連結具は,甲第8号証(判決注,甲7公報)
等にみられるように従来周知のもの」(審決謄本9頁下から第3段落)と判断して
いるところ,「等」との記載があることから明らかなとおり,審決は,請求人であ
る被告が審判手続において提出した他の証拠(乙4-1~10)をも参照して当該
周知技術を認定したものであって,甲7公報のみから当該周知技術を認定したもの
ではない。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容)及び(3)(審
決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
 そこで審決の適否につき,以下,原告主張の取消事由ごとに判断することと
する。
2 取消事由1(引用発明1~3の認定の誤り)について
(1) 引用発明1の認定の誤りについて
 審決が認定した引用発明1に対し,原告は,甲5文献記載のものにおい
て,連結具を,上下1個ずつの硬質発泡プラスチックブロック間に全体を挟み込ん
で突き刺すことは,技術的に当然又は必然のことであるとした上,引用発明1の認
定に当たっては,「連結具を,上下1個ずつの硬質発泡プラスチックブロック間に
全体を挟み込んで突き刺していること」をも認定すべきところ,審決の上記認定
は,この点を看過したものであって,誤りである旨主張する。
ア そこで検討すると,甲5文献には,以下の各記載がある。
・ 「軽量材を使用する盛り土は,圧縮しやすい土壌の土地部分を交通に
使うための補強用に約20年前から使われてきた。この技術は,発泡スチロールが
盛り土に使われるようになった1970年代前半から有望なものとして見直され始
めた。」(訳文6頁第1段落)
・ 「ポリスチレンブロックを積んで盛り土を造り上げるためには,まず
底面に厚さ0~50mmの砂の層を設けて地面を平坦化しなければならない。ポリ
スチレンブロックを積んでいく作業は二人の作業者でできる。ブロックの各層の積
み方はその直下部に置いたブロックの方向に対して直角に配置する方がよい(図2
参照)。層同志が相対的に滑りを起こさないようにするためには,ポリスチレンボ
ード固有の摩擦力に頼るか,金属製または木製の組み立て用繋留具で簡単に足で踏
んで隙間に押し込めるものを使うとよい。このようにして,盛り土を5.5mの高
さにすることができた。他の方式ではこれほど高くすることは不可能である。」
(訳文9頁下から第2段落)
・ 「ポリスチレンの各層間の摩擦係数は0.5である。しかし,どんな
ときにも各層間で水平方向の滑り動きが生じないようにしたい場合がある。そのよ
うな場合は両面繋留具(ブルドッグ〈Bulldog〉直径117mm-図4参照)を使用
することができる。この繋留具は容易に下側ブロックに押し込むことができ,上側
ブロックを位置決めしてから置くときに押し込めば自然にはめ込まれて固定でき
る。」(同14頁第1段落)
・ 「ポリスチレンは単体では真珠玉形状をした製品であり,型内で発泡
させて成形することができるので,道路建設のための盛り土材としてふさわしい形
状のブロックを得ることができる。通常は0.1×1×3m,まれに0.5×1×5
mの直方体形状を使用する。」(訳文7頁下から第3段落)
・ 「このコンセプトは当時,常識的には受け入れられなかったが,この
方法が失敗するという理由も見当たらなかった。したがって,在来の1m厚の盛り
土材に代わり,2×0.5mのポリスチレンブロック材を試用し,その上に50c
mの車道層を敷設することになった。」(同12頁下から第2段落)
 以上の各記載並びに甲5文献に示されたブロックの積み方に関する図面
(本文12頁Fig.2)及び甲5文献記載の両面連結具の写真(同16頁Fi
g.4)を総合すれば,甲5文献には,審決が引用発明1として認定したとおり,
「硬質発泡プラスチックブロックを積み重ねて構成した軽量盛土であって,上下に
突出した歯を有し,しかも上下共に円の周方向を向く歯を設けた連結具が,平面相
隣接して敷設された硬質発泡プラスチックブロックの上面に下向きの歯を突き刺す
と共に,上向きの歯を,平面隣接する硬質発泡プラスチックブロック間の継ぎ目が
上下に揃わないようにその上に積み重ねられた硬質発泡プラスチックブロックに突
き刺して上下の硬質発泡プラスチックブロック間に介在されている,軽量盛土」と
の発明が記載されていると認めるのが相当である。
 なお,甲5文献には,ブロックの積み方について,「ブロックの各層の
積み方はその直下部に置いたブロックの方向に対して直角に配置する方がよい(図
2参照)」との記載(訳文9頁下から第2段落)及び図面(本文12頁Fig.
2)はあるものの,連結具を配置すべき位置については,これを直接明らかにする
記載等は見当たらない。
イ これに対し,原告は,上記各記載及び図面等に加え,甲5文献に示され
るポリスチレンブロックが割れたり欠けたりしやすい材質であるとの事実があるこ
とを考慮すれば,甲5文献記載のものにおいて,連結具を,上下1個ずつの硬質発
泡プラスチックブロック間に全体を挟み込んで突き刺すことは,技術的に当然又は
必然のことである旨主張する。
 確かに,原告が主張するとおり,①甲5文献記載の両面連結具の直径は
117mm(訳文14頁第1段落)であるのに対し,甲5文献において使用される
ポリスチレンブロックは「通常は0.1×1×3m,まれに0.5×1×5mの直方
体形状」(訳文12頁下から第2段落)のものであること,②甲5文献記載の両面
連結具は,甲5文献の写真が示すとおり,板状帯の全周にわたってほぼ連続的に形
成された歯を有するものであること,③甲5文献で使用されるポリスチレンブロッ
クは,割れたり,欠けたりしやすい材質のものであること(顕著な事実)等を考慮
すれば,仮に,甲5文献記載の両面連結具を,水平方向に隣り合う複数のブロック
にまたがる位置に配設することとした場合には,甲5文献記載の両面連結具の歯が
ブロックの端部に円形状に噛み込むこととなる結果,ブロック端部の破損を伴いや
すいことは,技術常識に照らし,当業者(その発明の属する技術の分野における通
常の知識を有する者)が容易に想起することであると認められる。
 そうすると,甲5文献に接した当業者は,甲5文献記載の発明において
は,甲5文献記載の両面連結具を水平方向に隣り合う複数のブロックにまたがる位
置に配設することはないと理解するのが通例であり,原告の上記主張は,その限り
において正当な指摘を含むものというべきである。
 しかしながら,甲5文献に,連結具を配置すべき位置を直接明らかにす
る記載等がないことは上記アのとおりであって,審決が,甲5文献に記載された発
明である引用発明1の構成として,連結具の配置位置の点を認定しなかったとして
も,そのことをもって直ちに誤りであるとまではいうことができない。しかも,審
決は,本件発明1と引用発明1との相違点2として,前記のとおり,「下向きの歯
を,本件発明1では,平面相隣接して敷設された硬質発泡プラスチックブロック間
に跨って突き刺しているのに対し,引用発明1では,平面相隣接して敷設された硬
質発泡プラスチックブロック間に跨って突き刺しているかどうか不明な点」と認定
した上,相違点2について検討を加えているところ,甲5文献記載の両面連結具を
水平方向に隣り合う複数のブロックにまたがる位置に配設することはないとの原告
主張の点を考慮しても,当業者は,相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到
し得ることは後記3(1)のとおりであるから,引用発明1の構成として連結具の配置
位置の点を認定しなかったことは,審決の結論に影響を及ぼさないことが明らかで
ある。
ウ したがって,いずれにしても,原告の主張する引用発明1の認定の誤り
の点は,審決を取り消すべき事由に当たらないというべきである。
(2) 引用発明2の認定の誤りについて
 審決が認定した引用発明2に対し,原告は,上記(1)と同様の理由により,
引用発明2の認定に当たっては,「連結具を,上下1個ずつの硬質発泡プラスチッ
クブロック間に全体を挟み込んで突き刺していること」をも認定すべきところ,審
決の引用発明2の認定は,この点を看過したものであって,誤りである旨主張す
る。
 しかし,原告の上記主張を採用することができないことは,上記(1)におい
て判示したとおりである。
(3) 引用発明3の認定の誤りについて
 審決が認定した引用発明3に対し,原告は,引用発明3については,上向
きの歯と下向きの歯が全周に亘ってほぼ連続的に形成されている点をも含めて認定
すべきであり,審決の引用発明3の認定は,この点を看過したものであって,誤り
である旨主張する。
 しかし,原告も自認するとおり,審決は,原告主張に係る上記構成につい
て,本件発明3と引用発明3との相違点6として,前記のとおり,「本件発明3で
は,上向き及び下向きの歯が歯の形成されていない中央部を境に左右に分かれて形
成されているのに対し,引用発明3では,板状体の全周に亘ってほぼ連続的に形成
されている点」を認定した上,その点に対する判断を明確に示しているから,引用
発明3の認定において当該構成を認定しなかったことは,審決の結論に影響を及ぼ
さないことが明らかであって,審決を取り消すべき事由に当たらないというべきで
ある。
(4) 以上によれば,原告の取消事由1の主張は,いずれも理由がない。
3 取消事由2(本件発明1と引用発明1との相違点2に関する判断及び本件発
明1の作用効果に関する判断の誤り)について
 審決は,本件発明1と引用発明1との相違点2について,「連結具により平
面相隣接して敷設された硬質発泡プラスチックブロック相互も連結する程度のこと
は,盛土を一体化し,施工中及び施工後の盛土全体の安定性を高めるために当業者
が当然配慮する程度のことにすぎない」(審決謄本7頁第1段落)と判断した上,
「本件発明1が奏する作用効果は,上記のとおり引用発明1と同等ないしは当業者
が容易に予期し得る程度のものであって何ら格別なものではない」(同頁第2段
落)と判断した。これに対し,原告は,相違点2に係る本件発明1の構成の容易想
到性について,引用発明1は,技術的に当然又は必然のこととして,連結具を,上
下1個ずつの硬質発泡プラスチックブロック間に全体を挟み込んで突き刺している
ものであると認められること等からすれば,引用発明1に基づき,連結具の突き刺
し位置を,本件発明1のような位置に変更することは容易に着想し得ないものであ
り,また,甲5文献記載のものにおいて,ポリスチレンブロックが割れたり欠けた
りしやすい特性を有することと,連結具が全周にわたってほぼ連続的に形成された
歯を有することとは,当該連結具を平面相隣接するブロック間にまたが
って突き刺すという構成を想到することを妨げる事由となる旨主張し,さらに,本
件発明1の効果について,本件発明1の耐震性の向上及び施工性の向上という効果
は,いずれも,引用発明1からは得ることができず,当業者が容易に予想すること
もできない旨主張する。
(1) そこで,まず,相違点2に係る本件発明1の構成の容易想到性について検討
する。確かに,甲5文献に接した当業者は,甲5文献記載の発明においては,甲5
文献記載の両面連結具を水平方向に隣り合う複数のブロックにまたがる位置に配設
することはないと理解するのが通例であり,その限りにおいて原告の上記主張が正
当な指摘を含むものであることは,上記2(1)イにおいて判示したとおりである。
 しかしながら,甲5文献記載の両面連結具自体を水平方向に隣り合う複数
のブロックにまたがる位置に配設することはないとしても,木造建築において木製
部材間を接続する「かすがい」に見られるように,隣接する部材を金具によって連
結して強固な接続を図ることは,建築ないし土木の分野に携わる当業者にとって極
めて一般的な手法である(顕著な事実)から,本件発明1及び引用発明1における
ように,平面隣接する硬質発泡プラスチックブロック間の継ぎ目が上下に揃わない
ように硬質発泡プラスチックを積み重ねていく(本件明細書〔甲4〕の第3図,甲
5文献本文12頁のFig.2参照)に際し,連結具によって上下方向を固定する
のみならず,同時に,水平方向に隣り合うブロックをも連結するという程度のこと
は,当業者が必要に応じ当然に試みることにすぎないということができる。
 他方,甲5文献は,「― ブロックの第一層は良好な平坦面の上に置かね
ばならない。もしこの条件が不十分である場合は,盛り土部分の上側層の水平維持
が困難になるであろう」(訳文13頁下から第4段落)として,最下段のブロック
の敷設状態が重要であることを開示しているところ,そもそも,引用発明1で用い
られるポリスチレンブロックは非常に軽量なものであるから,例えば,強風下で作
業を行うような場合,上下方向へのブロックの連結によって固定することが不可能
な最下段のブロックについては,水平方向に隣り合うブロックを相互に連結しない
限り,作業を円滑に進めることが困難となる場合があることは,当業者にとって自
明である。したがって,引用発明1の実施に当たり,連結具によって上下方向を固
定するのみならず,同時に,水平方向に隣り合うブロックをも連結する必要があり
得ることは,甲5文献に接した当業者が当然に認識することというべきである。
 なお,この点について原告は,甲5文献が,第1層目のブロックの敷設状
態を良好なものとすることの重要性について開示していながら,平面相隣接するブ
ロック間にまたがって連結具を突き刺すことについては開示も示唆もしていないこ
とは,本件発明1による施工性向上の効果の予測困難性を示すものである旨主張す
るが,上記において例示したとおり,引用発明1の現実の実施に当たり,水平方向
のブロックの連結が必要となる場合があり得ることは,当業者において,当然に認
識されるべき事項であると考えられるから,この点に関する原告の主張は採用の限
りではない。
 さらに,甲5文献には,「層同志が相対的に滑りを起こさないようにする
ためには・・・金属製または木製の組み立て用繋留具で簡単に足で踏んで隙間に押
し込めるものを使うとよい」(訳文9頁下から第2段落,下線付加)と記載されて
いるとおり,実施に当たり,甲5文献記載の両面連結具以外の繋留具を用いること
も開示されていると認められるから,甲5文献は,引用発明1で用いる連結具とし
て,甲5文献記載の両面連結具そのものではなく,施工の実際に合わせた適切な構
成の連結具を適宜工夫ないし選択することも示唆しているというべきである。そう
とすれば,甲5文献記載の両面連結具自体は,水平方向に隣り合う複数のブロック
にまたがる位置に配設するのに不適当な構造であるとしても,上記の「かすがい」
に見られるとおり,部材への突き刺し部を有する連結具において,突き刺し部の存
在しない領域を有する連結具は従来周知のものであると認められることから,これ
を参考にして,突き刺し部の存在しない領域を有する連結具を工夫することによっ
て,上下方向を固定するのみならず,同時に,水平方向に隣り合うブロックをも連
結する程度のことは,引用発明1の実施に当たり,当業者が適宜工夫
すべき事項であるというほかはない。
 以上によれば,原告主張に係る,引用発明1においては,連結具を,上下
1個ずつの硬質発泡プラスチックブロック間に全体を挟み込んで突き刺していると
の点,甲5文献記載のものにおいて,ポリスチレンブロックが割れたり欠けたりし
やすい特性を有し,連結具が全周にわたってほぼ連続的に形成された歯を有すると
の点を考慮しても,当業者は,引用発明に基づいて相違点6に係る本件発明1の構
成を容易に想到し得たものというべきである。
 なお,原告は,甲5文献に,「このようにして,盛り土を5.5mの高さ
にすることができた。他の方式ではこれほど高くすることは不可能である」(訳文
9頁下から第2段落)と記載されていることを指摘するが,引用された文献に,そ
こに記載された技術が最善であるとする記載があるとの一事をもって,当業者が当
該技術に更に工夫,改良を加えることが妨げられるものではないから,この点に関
する原告の主張は,上記の判断を左右するものではない。
(2) 次に,本件発明1の作用効果の点について検討する。
ア 原告は,本件明細書(甲4)に「連結具3によって,発泡ブロック1が
上下方向のみならず左右方向にも相互に連結されることにより,発泡ブロック1の
一体性が高められ,耐震性が向上する」(補正公報3頁右欄第4段落)と記載され
る耐震性の向上という効果は,上下の硬質発泡プラスチックブロックの一体化とい
う観点からは不安定な箇所である,平面相隣接する硬質発泡プラスチックブロック
間にまたがる位置に連結具を突き刺すという構成をあえて採用し,全体として,揺
れに対する適度な許容性をもった一体化構造とすることにより得られるものであ
り,当該作用効果は,発泡プラスチックブロックを高く積み上げるために,連結具
を,上下1個ずつの硬質発泡プラスチックブロック間に全体を挟み込んで突き刺し
ている引用発明1からは得ることができず,当業者が容易に予想することもできな
い旨主張する。
 しかしながら,引用発明1に基づいて当業者が相違点2に係る本件発明
の構成を容易に想到し得ることは,上記(1)のとおりであり,そうとすれば,「上下
方向のみならず左右方向にも相互に連結されることにより,発泡ブロック1の一体
性が高められ,耐震性が向上する」という程度の効果は,当該構成から容易に予想
し得るものであるというほかはないから,原告の上記主張は採用の限りでない。
イ 次に原告は,本件明細書(甲4)に「連結具3で発泡ブロック1を仮止
めしながら施工することができるので,軽く動きやすい発泡ブロック1を安定させ
た状態で施工でき,また地盤に多少の凹凸や部分的傾斜があっても,これによって
発泡ブロック1間に大きな隙間が生じてしまうのを押えながら施工できる。従っ
て,良好な施工性が得られる」(補正公報(3)頁右欄第6段落)と記載される施工性
の向上の効果について,引用発明1は,上下の硬質発泡プラスチックブロックを連
結するだけのものであり,最下段の硬質発泡プラスチックブロックの敷設等におい
ては連結具による仮止めを行うことができないから,いずれの段においても連結具
による仮止めを行いながら硬質発泡プラスチックブロックの積み重ね作業を行える
という本件発明1の当該作用効果は,引用発明1からは得ることができず,当業者
が容易に予想することもできない旨主張する。
 しかしながら,引用発明1に基づいて当業者が相違点2に係る本件発明
の構成を容易に想到し得ることは,上記(1)のとおりであるところ,そのようにした
場合,最下段における敷設等を含め,すべての段において連結具による仮止めを行
うことが可能となることは,当業者が当然に予想し得ることというほかはないか
ら,原告の上記主張は採用の限りではない。
 なお,原告は,甲5文献の第1層目のブロックの敷設に関する記載(訳
文13頁下から第4段落~第3段落)を援用して,上記施行性の向上の効果の重要
性を主張するとともに,甲5文献が,第1層目のブロックの敷設状態を良好なもの
とすることの重要性について開示していながら,平面相隣接するブロック間にまた
がって連結具を突き刺すことについては開示も示唆もしていないことは,当該効果
の予測困難性を示すものであるとも主張するが,この主張が採用の限りでないこと
は,上記(1)において説示したとおりである。
(3) 以上によれば,本件発明1と引用発明1との相違点2及び本件発明1の作用
効果に関する審決の上記判断に誤りはないことになるから,原告の取消事由2の主
張は理由がない。
4 取消事由3(本件発明2と引用発明2との相違点4に関する判断及び本件発
明2の作用効果に関する判断の誤り)について
 審決は,本件発明2と引用発明2との相違点4について,「連結具により平
面相隣接して敷設された硬質発泡プラスチックブロック相互も連結する程度のこと
は,盛土を一体化し施工中及び施工後の盛土全体の安定性を高めるために当業者が
当然配慮する程度のことにすぎない」(審決謄本8頁第2段落)と判断した上,
「本件発明2が奏する作用効果は,上記のとおり引用発明2と同等ないしは当業者
が容易に予期し得る程度のものであって何ら格別なものではない」(同頁第3段
落)と判断した。
 これに対し,原告は,取消事由2と同様の理由により,審決の上記各判断は
いずれも誤りである旨主張するが,原告の取消事由2の主張に理由がないことは上
記3のとおりであるから,原告の取消事由3の主張も理由がない。
5 取消事由4(本件発明3と引用発明3との相違点6に関する判断及び本件発
明3の作用効果に関する判断の誤り)について
 審決は,本件発明3と引用発明3との相違点6について,「部材への突き刺
し部(歯)を有する連結具を使用して,該連結具より極めて脆弱な部材相互をその
端部間で連結しようとする場合に,部材の端部に割れが生じないよう突き刺し部の
存在しない領域(本件発明3の「中央部」)を連結具に設ける程度のことは,当業
者が当然配慮する程度のことにすぎない。あるいは,部材への突き刺し部(歯)を
有する連結具において,突き刺し部の存在しない領域を有する連結具は,甲第8号
証(判決注,甲7公報)等にみられるように従来周知のものであり,当業者が該周
知技術を採用して相違点6として摘記した本件発明3の構成とする点に格別困難性
は認められない」(審決謄本9頁下から第4段落~第3段落)と判断した上,「本
件発明3が奏する作用効果は,上記のとおり引用発明3と同等ないしは当業者が容
易に予期し得る程度のものであって何ら格別なものではない」(同頁下から第2段
落)と判断した。これに対し,原告は,甲5文献が,連結具を平面相隣接する硬質
発泡プラスチックブロック間にまたがって突き刺すことを開示も示唆もしていない
一方,引用発明3の上向きの歯と下向きの歯が「全周に亘ってほぼ連
続的に形成されている」こと及びポリスチレンブロックが割れたり欠けたりしやす
い特性を有することは,連結具を平面相隣接するブロック間にまたがって突き刺す
ことを想到することを妨げる事由となるなどとして,引用発明3の連結具を,平面
相隣接するブロック間にまたがって突き刺すという想定は,甲5文献から,当業者
が容易に想到することができるものではなく,審決の上記判断は,その前提におい
て誤りである旨主張する。
(1) しかしながら,上記3(1)において説示したとおり,連結具によって上下方
向を固定するのみならず,同時に,水平方向に隣り合うブロックをも連結するとの
構成は,引用発明1に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるというべきで
あり,また,その際,「かすがい」に見られるとおり,部材への突き刺し部を有す
る連結具において,突き刺し部の存在しない領域を有する連結具は従来周知のもの
であると認められるから,甲5文献記載の両面連結具及び当該周知技術を参考にし
て,突き刺し部の存在しない領域を有する連結具を工夫する程度のことは,当業者
が実施に当たり適宜行い得る事項というほかはない。
 したがって,相違点6に係る本件発明3の構成につき容易想到性を肯定し
た審決の上記判断に誤りはない。
(2) また原告は,本件明細書(甲4)に示されている,「連結部3の下向きの歯
2bは,歯2a,2bのない中央部を境に左右に分かれているので,この中央部を
発泡ブロック1間の継ぎ目付近に当るように連結具3を取り付けることで,歯2b
が発泡ブロック1の端部に刺さって当該端部が割れやすくなることを防止できる」
(補正公報(3)頁右欄下から第4段落)との作用効果は,引用発明3からは得ること
ができず,当業者が容易に予想することもできない旨主張するが,当該作用効果
は,連結具について突き刺し部の存在しない領域を設けることの正に直接的な目的
ともいい得る事項であるから,上記(1)のとおり,当業者において,相違点6に係る
本件発明3の構成が容易に想到し得るものである以上,当該作用効果について容易
に予想し得ることも明らかである。
(3) 以上によれば,その余の点につき検討するまでもなく,原告の取消事由4の
主張は理由がない。
6 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
 よって,原告の本訴請求は理由がないから棄却することとして,主文のとお
り判決する。
     知的財産高等裁判所第2部
         裁判長裁判官 中野哲弘
    裁判官大鷹一郎
    裁判官 早田尚貴

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