弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
       事   実
第一 双方の申立
 原告訴訟代理人は、「特許庁が、昭和四三年審判第七、五七〇号事件について、
昭和四四年八月四日にした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」と
の判決を求め、被告指定代理人は、主文同旨の判決を求めた。
第二 請求の原因
原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のように述べた。
一 特許庁における審査、審判等の手続の経緯
 原告は、昭和三七年一二月一○日特許庁に対し、「コンクリート強化用混和剤及
施工法」なる名称の発明について特許出願(昭和三七年特許願第五四、三六九号。
以下「原出願」という。)をしたが、昭和四一年五月九日特許法第四四条第一項に
基づき同特許出願を分割して、発明の名称を「強化コンクリート製品の製造法」と
する新たな特許出願(昭和四一年特許願第二九、二二七号。以下「本願」とい
う。)をしたところ、昭和四三年九月三日拒絶査定を受けた。原告は、これを不服
として、昭和四三年一○月二一日に審判の請求(昭和四三年審判第七、五七○号)
をしたところ、特許庁は昭和四四年八月四日、「本件審判の請求は成り立たな
い。」旨の審決をし、その謄本は同年八月一六日原告に送達された。なお、原出願
発明は、昭和四一年一月二二日出願公告決定があり、同年二月二八日特公昭四一-
三、四六○号をもつて出願公告され、同年六月二二日特許査定となり、特許番号第
四七八、四一○号をもつて設定の登録がされた。
二 本件審決の理由の要旨
 本件審決の理由の要旨は、本願発明の明細書の特許請求の範囲(1)記載の発明
と原出願発明の明細書の特許請求の範囲(1)記載の発明を対比すると、両者とも
強化コンクリートを得ることを目的とするから、その目的は全く同一である。そし
て、前者が「方法」の発明であるのに対し、後者は「物」の発明である点で、両者
はその技術的構成において表現上相違している。しかしながら、前者のコンクリー
ト強化用混和剤を除く各原料を練り混ぜて成形し水養生を行なうことは、コンクリ
ートの製造法として周知であるから、「方法」の点には発明が存在しない。したが
って、前者は単に前記の周知方法において後者と同一のコンクリート強化用混和剤
をセメントに混練するというにすぎないものである。また、後者のコンクリート強
化用混和剤は、コンクリート原料であるセメント、水、砂、砂利と一緒に混練し、
成形、水養生をして強化コンクリートを得るにことによつて、その効果が発揮され
るものであり、後者のコンクリート強化用混和剤の使用条件が何ら限定されていな
い以上、その使用方法は周知のコンクリート製造法に単に添加混練するものと解さ
ざるをえない。してみれば、前者は後者の単なる使用の熊様と全く一致するもの
で、その効果も何ら差異があるものと認められないから、両者は実質上同一発明と
いうほかない。次に、本願発明の明細書の特許請求の範囲(2)記載の発明と原出
願発明の明細書の特許請求の範囲(2)記載の発明も右と同様の理由により実質上
同一と認める。したがつて、原出願を分割して出願した本願は、特許法第四四条一
項にいう適法な分割出願と認められず、出願日の遡及は認められないから、本願の
出願日は昭和四一年五月九日となる。してみれば、本願発明は、その特許出願前の
出願にかかる原出願発明の特許請求の範囲(1)および(2)記載の発明と実質上
同一であること前述のとおりであるから、本願発明は特許法第三九条第一項の規定
により特許を受けることができない、というのである。
三 本願発明の要旨
 本願発明の明細書の「特許請求の範囲」の項(1)に記載の発明の要旨は、
(イ)ポルトランドセメントに、粉末けい酸ソーダと、けい酸の沈澱剤と、塩化カ
ルシウムおよび硫酸カルシウムとを加え、水とともに練り混ぜ、次いで、(ロ)
砂、砂利を加えて練り混ぜを行ない、その後、(ハ)成形を行ない、さらに、
(二)水養生を行なうことの四工程からなる「強化コンクリート製品の製造法」に
あり、また、本願発明の明細書の「特許請求の範囲」の項(2)に記載の発明の要
旨は、(イ)ポルトランドセメントに、粉末けい酸ソーダと、けい酸の沈殿剤と、
塩化カルシウムおよび硫酸カルシウムの多量と、酸化チタンと、硫酸銅と、硫酸鉄
とクロム酸カリとを加え、水とともに練り混ぜ、その後、前記本願発明の「特許請
求の範囲」の項(1)と同様の(ロ)ないし(ニ)の工程を経ることからなる「強
化コンクリート製品の製造法」にある。そして、本願発明は、いずれも時間的経過
とともに順次実施される数工程の結合よりなるものであるから、経時的要素を包含
(方法の逐次性)する方法に関する発明である。
四 原出願発明の要旨
 原出願発明の明細書(昭和四〇年一二月二〇日付意見書に代る手続補正書による
訂正後のものをいう。以下同じ。)の「特許請求の範囲」の項(1)に記載の発明
の要旨は、「粉末けい酸ソーダと、けい酸の沈澱剤と、塩化カルシウムおよび硫酸
カルシウムの多量とを混和してなるコンクリート強化用混和剤」にあり、また、同
明細書の「特許請求の範囲」の項(2)に記載の発明の要旨は、「粉末けい酸ソー
ダと、けい酸の沈澱剤と、塩化カルシウムおよび硫配カルシウム多量と、酸化チタ
ンと、硫酸銅と、硫酸鉄と、クロム酸カリとを混和してなるコンクリート強化用混
和剤」にある。そして、原出願発明は、いずれも時間的経過とともに実施される工
程の結合でなく、混和剤それ自体に関するから、物の発明である。
五 本件審決の違法事由について
本件審決は、次に述べる理由から違法であつて、取り消されるべきである。
1 審決は、本願発明は原出願発明と目的が全く同一であると認定しているが、本
願発明はその発明の実施により、「壁、堰堤その他のコンクリート製品」を提供す
ることを目的とするのに対し、原出願発明はその発明の実施により「剤」を提供す
るのであるから、両者目的物が全く相違し、両者の発明の直接の目的は同一ではな
い。
2 特許法上「物の発明」と「方法の発明」とは全く別の発明であることは、特許
法第二条で「物の発明」と「方法の発明」との実施行為を区別している点、特許法
第三八条ただし書で、「物の発明」と「方法の発明」とを別個の発明と断じ、特に
この二種の出願を一出願として出願することを許している点(特許法第三一条の
「追加の特許の要件」をも参照)、特許法第一○一条の規定において、侵害とみな
す行為について、「物の発明」と「方法の発明」とを区別している点、旧特許法時
代の確認審判において、「物の発明」と「方法の発明」との権利関係の確認につい
ては、技術内容を詳細に審理することなく、単に「物の発明」と「方法の発明」と
は全く別個のものであることを理由に請求を認めなかった取扱例(現行特許法にお
いても、この点の基本的考え方が変更される程の改正は、されていない。)等に照
らして、明らかであり、審決が本願発明と原出願発明が同一であると判断したのは
誤りである。
3 審決は、原出願発明と本願発明とは技術的構成からみて表現上相違するのみと
いうが、原出願発明は「コンクリート強化用混和剤」そのものの技術的構成である
のに対し、本願発明は原出願発明の混和剤をポルトランドセメントと水を加えて混
練し、これに砂、砂利を練り混ぜ、後に成形し、水養生することにより強化コンク
リート製品を製造する方法であるから、後者は「水とセメントを使用しての混
練」、「砂、砂利を加えての混練」、「成形」、「水養生」という操作的技術が加
わつている点で前者と相違し、したがつて、両者は全体の技術的構成において相違
し、単に表現上の相違にとどまるものというをえない。この点に関し、審決は、原
出願発明にない本願発明の構成上の技術は、単に原出願発明の使用方法にすぎない
ものと解しうることを理由に、両者は実質的に同一発明というのであるが、本願発
明の技術が原出願発明の構成上の必須要件となつていない以上、原出願発明の明細
書を本願発明の出願前に頒布された刊行物として新規性、進歩性を判断する場合は
ともかく、原出願発明の明細書に記載された「強化コンクリート製品の製造法」と
「コンクリート強化用混和剤」とが同一発明かどうかを定めるに当たつて、審決の
ような解釈を加えて、原出願発明の要旨を認定することは、要旨の認定を誤つたも
ので違法である。
4 審決は、
本願発明の構成要件の中から最も重要な要件である特殊の「コンクリート強化用混
和剤」を除くと、本願発明には方法として発明が存在しないというが、このような
認定は不合理であり、不適法のものである。方法に関する発明の新規性は、その方
法に使用される材料をも含めた全体によつて判断されるべきである。すなわち、方
法の発明における工程の順序および大要に特に新しい点がないとしても、その工程
中に新規の発明があれば、その方法には十分に「方法」として、新規の発明が存在
するとみるべきである。本願発明は、その第一工程において新規性、進歩性がある
から、全体としても新規性、進歩性を有し、当然特許法第二九条の規定により特許
されるべきである。
5 審決は、原出願発明は、そのコンクリート強化用混和剤の使用条件について何
らの限定をしていないから、その使用方法は周知のコンクリート製造法に単にコン
クリート強化用混和剤を添加混練するものと解すべきものとしており、この点は一
応首肯できるけれども、原出願発明のコンクリート強化用混和剤は本願発明と異な
るコンクリートの製造法にも使用できるものであつて、周知のコンクリートの製造
方法への適用は、ただ一の実施例にすぎない。したがつて、この周知のコンクリー
ト製造法のみを採り上げて原出願発明を判断したことは、事実の認定を誤つたもの
というベきである。
6 審決は、本願発明からコンクリート強化用混和剤を除いたものと原出願発明の
使用方法とがともに周知であるとしているが、一出願中に二発明が含まれているか
どうかを判断する段階においては、新規性は問題とならない。もし、審決の論法を
もつてすれば、本願発明のコンクリート強化用混和剤を除いたものが、仮に新規有
用なものであつたとしても、それが原出願発明の使用方法としてその明細書に説明
されている場合は両発明を実質的に同一発明としなくてはならないこととなる。そ
れでは、法が発明の対象を物と方法とに区別し、それぞれについて特許権を付与す
る機会を与え、また、分割出願を認めて出願人を保護することとした法意に反する
ものであり、ひいては工業所有権保護同盟条約第四条庚に違反する結果ともなる。
7 審決は、本願発明の効果と原出願発明の混和剤を使用した場合の効果に差異が
ないとしているが、最終的効果の異同は発明の同一性の判断の資料になつても、そ
れがすべてではない。このことは、特許法第三八条第一号に目的の同一(効果の同
一と一致するものと解する。)を積極的に必要条件とし、この目的の同一のものを
別個の発明と認めていることから明白である。
 以上要するに、本願発明は原出願発明と同一のものではなく、したがつて、原出
願を分割して出願した本願は適法な分割出願であり、本願発明の出願日は原出願発
明の出願日となるから、本願発明が特許法第三九条第一項の規定により認められな
いとした審決は、違法であり、取り消されるべきである。
第三 被告の答弁
被告指定代理人は、答弁として、次のように述べた。
一 請求の原因第一項および第二項の事実は認めるが、第五項の本件審決が違法で
あるとの主張は争う。
二 比較されるべき二発明の表現されたカテゴリーが異なれば、その二発明は形式
上別発明であるかのようにみえるが、その二発明が同一の技術思想を別のカテゴリ
ーの面からとらえて表現したにすぎない場合は、右の二発明は同一と解すべきであ
る。本願発明と原出願発明とについてこの点を検討するに、本願発明が「強化コン
クリート製品の製造法」であるのに対し、原出願発明は、「コンクリート強化用混
和剤」にかかるものであるから、そのカテゴリーが相違することは明らかである。
そして、このカテゴリーの相違に基づく両発明の構成部分の差異は、(イ)本願発
明が原出願発明の「コンクリート強化用混和剤」をセメントに混練するということ
であり、カテゴリーの相違に基づかない両発明の構成部分の差異は何ら存在せず、
(ロ)原出願発明が「物」の発明であるに対し、本願発明は原出願発明の物を使用
して強化コンクリートを製造する工程からなる「方法」の発明の構成を採つている
ことに差異がある。しかし、右の差異の技術的意義を考えてみるに、(イ)の点
は、同一の技術的思想を別のカテゴリーの面からとらえて表現したにすぎないもの
であり、また、(ロ)の点は、コンクリート製造法として自明の工程であつて、
「混和剤」を除いて何ら特許される発明を包含するところがないから、技術的意義
は存在しない。
 したがつて、本願発明における技術的思想は、「コンクリート強化用混和剤」そ
のものに存するものであり、原出願発明との構成上の差異は自明の方法の付加にす
ぎないから、結局、本願発明は原出願発明と同一の技術的思想を表現形式を代えて
出願したものといわざるをえない。
 右のとおりであるから、本願発明は原出願発明と実質上同一のものに帰するので
あり、この趣旨に基づいてなされた審決は正当であつて、何ら違法の点はない。
第四 証拠関係(省略)
       理   由
一 原出願発明および本願発明の特許庁における審査、審判等の手続の経緯に関す
る請求の原因第一項および本件審決の理由の要旨に関する同第二項の事実は、当事
者間に争いがない。
二 成立に争いのない甲第三号証(原出願の願書および明細書)、第四号証(昭和
四〇年一二月二〇日付意見書に代る手続補正書)および第五号証(原出願発明の特
許公報)によると、原出願発明の名称は昭和四〇年一二月二〇日付の手続補正書に
より「コンクリート強化用混和剤」と訂正され、その明細書には「特許請求の範
囲」として、「(1)粉末珪酸ソーダと、珪酸の沈澱剤と、塩化カルシウムおよび
硫酸カルシウムの多量とを混和してなるコンクリート強化用混和剤(2)粉末珪酸
ソーダと、珪酸の沈澱剤と、塩化カルシウムおよび硫酸カルシウム多量と、酸化チ
タンと、硫酸銅と、硫酸鉄と、クロム酸カリとを混和してなるコンクリート強化用
混和剤」と記載され、明細書の「発明の詳細な説明」の項には、「この発明は最近
著しく微細化されつつある粒子からなるセメントを使用して強固で耐久性に富むコ
ンクリートを得るためのコンクリート強化用混和剤に関する。元来コンクリートに
強度と耐久性とを与えるためにはコンクリート内の組織を均等に組立てるために長
い時間をかけることであり、内部反応が急激であってはならない。そこで過去のよ
うにセメント粒子が粗い場合は、セメントの全表面積が小さいので、従来の強化用
混和剤、例えば珪酸ソーダ溶液に石灰、アルミニウム、クロム、銅、鉄、鉛、亜鉛
等の塩類の水溶液を加えたものをセメントと共に練り混ぜても各薬品の作用は最初
に激しいだけで水和によつて生ずる成分が徐々に出来るため全体的に見ればその作
用が緩慢であり膨張収縮によるひびわれの欠点こそあれ他に大きな欠点はなかつ
た。然るに最近のようにセメント粒子が微細化されると、その全表面積が大きくな
るため水和が急速に進行し、加えられた薬品類との作用は終始激しく行われ、その
上セメントは早く固くなる性質をもつから均等な組織に組立てられる以前に固化し
内部構造は乱雑となり部分的に強弱を生じ、作業期間を短縮するが後日その境界か
らひびわれを生じコンクリートの使命を果すことが出来ない結果となる。」と、従
来のセメント強化用混和剤使用の場合の技術的欠陥について記載され、続けて、
「この発明は主として次に示すことによりこの欠点を除去し、細かいセメント粒子
に適応する強化用混和剤を提供しようとするものである。(1)均等な組織に組立
てられるだけの時間を与えるため、その妨害となる早期乾燥を阻止する。(2)コ
ンクリート内におけるセメント成分と加えられた薬品との反応は、両者が水溶液の
場合最も円滑であり、一方が溶解し他方が固体の場合は著しく緩慢となり、両者が
固体の場合は反応しない点に着目し、加える薬品を固体として徐々に溶解させ、時
間をかけて反応を行わせる。(3)加える薬品から出来る活性珪酸を高分子化し高
分子化合物による強力な組織を加えるもので、そのために珪酸ゲル又は保水剤が水
を放出しがたい性質を利用して乾燥を阻止し、内部反応によつて珪酸が凝結するよ
うにし、均等な組織が組立てられ且つ高分子化が著るしく進んでセメントによる強
度の上に更に大きい強度を加わらしめる。(4)加える薬品の単独の作用のみなら
ず併用する他の薬品との相乗作用を利用する。
そこで本発明は粉末珪酸ソーダと珪酸の遊離剤例えば珪酸ソーダ被膜で包んだ硫酸
アルミニウム、グリセリントリアセテート、燐酸アンモニウムと、塩化カルシウム
および硫酸カルシウムの多量とにより混和剤を製し、またそれらにさらに酸化チタ
ン、硫酸銅、硫酸鉄、クロム酸カリを加えてコンクリート強化用混和剤となし、そ
れらの混和剤を水、ポルトランドセメントに加えて練り混ぜ更に砂、砂利を加えて
練り混ぜ成形し水養生を行いコンクリートの作成に使用するのである。」と、発明
の課題および課題を解決する方法について記載され、次いで発明にかかる強化用混
和剤の使用の場合の実施例についての記載があり、さらに作用、効果に関し、「本
発明を利用すれば長期強度が伸び、老化現象が起り難くな」り、また、「セメント
の節減ともなる」と記載されていることが認められる。これらの記載事実に徴する
と、従来のコンクリート強化用混和剤は、最近のようにセメントの粒子が微細化さ
れると、その全表面積が大きくなるため水和が急速に進行し、加えられた薬品類
(強化用混和剤)との作用は終始激しく行なわれ、一方セメントは早く固くなる性
質があるため均等な組織に組み立てられる以前に固化し、内部構造が乱雑となり、
部分的に強弱を生じ、後日その境界からひび割れを生ずる結果となり、コンクリー
ト強化の目的を十分に達し難い欠点があつたところ、原出願発明はこの欠点を除去
することを発明の課題とし細かいセメント粒子に適応するコンクリート強化用混和
剤を提供することを目的とするものであり、その発明の要旨は明細書の特許請求の
範囲に記載されたとおりと認めることができる。
三 一方、成立に争いのない甲第二号証(本願の願書および明細書)によると、本
願発明の明細書には、「特許請求の範囲」として、「(1)ポルトランドセメント
に水を加えて練り混ぜるに当り、これに粉末けい酸ソーダと、けい酸の沈澱剤と、
塩化カルシウムおよび硫酸カルシウムとを加えて第一次の練り混ぜを行い、その練
り混ぜの後に砂、砂利を加えて更に第二次の練り混ぜを行い、
その後に成形し更に水養生を行うことを特徴とする強化コンクリート製品の製造
法。(2)ポルトランドセメントに水を加えて練り混ぜるに当り、これに粉末けい
酸ソーダと、けい酸の沈澱剤と、塩化カルシウムおよび硫酸カルシウムの多量と、
酸化チタンと、硫酸銅と、硫酸鉄と、クロム酸カリとを加えて第一次の練り混ぜを
行い、その練り混ぜの後に砂、砂利を加えて更に第二次の練り混ぜを行い、その後
に成形し、更に水養生を行うことを特徴とする強化コンクリート製品の製造法。」
と記載され、その明細書の「発明の詳細な説明」の項には、まず、従来のセメント
強化用混和剤使用の場合の欠陥について、前記原出願発明の明細書の記載と同一趣
旨の記載があり、次に、この欠点を除く製造法を得ることを発明の課題とするとの
記載に続けて、本願発明の主眼点として、原出願発明の明細書中課題解決の方法に
関する記載として前掲したところと同趣旨の記載がされ、実施例として原出願発明
の明細書と同一例が示され、さらに作用効果について、「強度の伸びを著しく増
加」し、「セメントの節約ともなる」と記載されていることが認められる。叙上認
定の事実に徴すると、従来のコンクリート強化用混和剤は、最近のようにセメント
の粒子が微細化されると、前記のとおりの欠点を生じ、十分にコンクリート強化の
目的を達し難いので、本願発明はこの欠点を除去することを発明の課題とし、特定
の薬品を使用して強化コンクリート製品を得るための方法を得ることを目的とする
ものであり、その発明の要旨は、明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりの強
化コンクリー製品の製造法と認めることができる。
四 そこで、前記認定した事実に基づき、原出願発明と本願発明とを対比するに、
本願発明の特許請求の範囲(1)および(2)は、従来のコンクリート強化用混和
剤を加えて行なう周知のコンクリート製造法において、従来のコンクリート強化用
混和剤に代えて原出願発明の特許請求の範囲(1)および(2)に記載の強化用混
和剤をそれぞれ使用したものであることは明白であり、両発明がコンクリート製造
に用いる従来のコンクリート強化用混和剤の欠陥を克服する手段として開示したと
ころは、表現形式上前者は「物」の発明であり、後者は「方法」の発明であるけれ
ども、その技術思想の実質は、コンクリート製造の際に添加する薬品すなわち強化
用混和剤にあるものであり、両者その使用領域を全く同じくし、また、作用効果に
おいても同一であることを認めることができる。右に認定したところからすると、
原出願発明と本願発明は、同一の使用領域に有利に使用しうる新規な材料を見出だ
すことが基礎になつており、本願発明は原出願発明にかかる物の使用目的に従つた
自明の使用行為にすぎないもので、それ自体何らの発明性を有しないものといわざ
るをえないから、結局、原出願発明と本願発明とは同一の発明と解すべきである。
五 原告は、本願発明は原出願発明と同一性がないとして、その理由を縷々主張す
るから、以下判断することとする。
 まず、原告は「物」の発明と「方法」の発明は異なる旨主張するのであるが、本
願発明と原出願発明とが同一の技術思想を開示したものであり、本願発明が原出願
発明の自明の使用行為であつて、それ自体原出願発明に性質上当然含まれるべきも
のである点に徴すれば、両発明は単なる表現方法の相違があるにすぎないものと解
すべきこと前説示のとおりである。「物」と「方法」の発明である以上その発明の
内容いかんにかかわらず、常に異別の発明と解する原告の主張は到底採用できな
い。なお、原告は原出願発明と本願発明は単に表現形式上の相違に止まらず、技術
上の構成も異なり、本願発明の技術は原出願発明の構成上の必須要件となつていな
いから、両者は別発明である旨主張するが、さきに認定したとおり、原出願発明の
技術内容と本願発明の技術内容は帰するところ同一であり、本願発明が原出願発明
の自明の使用方法にすぎず、方法の点に発明性が認められない以上独立の発明を構
成するものといい難い。したがつて、原告主張のように別発明と解することはでき
ない。また、原告は、「方法」に関する発明の新規性は、その方法に使用される材
料を含めた全体によつて判断すべきであり、その工程中に新規な発明があれば、方
法としても新規な発明とみるべきであると主張するけれども、本願発明が原出願発
明の自明の使用態様であり、それ自体何らの発明性がないこと前記認定のとおりで
ある以上、その方法に特許性があるものということはできない。なお、原告は、審
決の判断に関して工業所有権保護同盟条約第四条庚に違反する趣旨の主張をする
が、右は審決の判断に対する誤解に基づくものというべく、審決は一出願中に記載
された二発明間において、そのうちの一の発明(以下「特定発明」という。)との
関係で他の発明が同一発明となるかどうかを判断したに止まるのであつて、他の発
明が特定発明と別発明であり、かつ、特許要件を具備する場合に特許されることを
否定する趣旨でないことは明白であるから、右の審決の判断が原告主張のように工
業所有権保護同盟条約第四条庚に違反する結果を招くことにならないことはいうま
でもない。
 その他、原告が両発明の目的の同一性、効果等に関連して主張するところは、原
出願発明と本願発明が同一発明であるか否かについての前記の判断で示したとおり
であつて、これら原告の主張はいずれも採用するに由ない。
六 してみれば、原出願には、二発明でなく、単一の発明が記載されているにすぎ
ないから、本願は分割出願の要件を備えないものというべく、したがつて、本願は
全く新たな出願とみるべきであり、特許法第四四条第三項の出願日の遡及を認める
ことができないところ、本願発明は先願である原出願発明と実質上同一の発明であ
ること前記認定のとおりであるから、特許法第三九条第一項の規定により特許を受
けることができないものといわなければならない。
七 以上の理由により、右と同趣旨の判断をした本件審決には何ら違法な点はない
から、同審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当として棄却すべきものとし、
訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条および民事訴訟法第八九条を適用し
て主文のとおり判決する。
(裁判官 柳川真佐夫 武居二郎 楠賢二)

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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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経験不問です。

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写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
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