弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 控訴人は、下関市に対し、金三億四一〇〇万円及びこれに対する平成六年八月
一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被控訴人らのその余の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、第一、二審を通じて、参加によって生じた費用を五分し、その二
を参加人の、その余を被控訴人らの各負担とし、その余の費用を五分し、その二を
控訴人の、その余を被控訴人らの各負担とする。
       事実及び理由
第一 控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
第二 事案の概要
一 本件は、下関市が、同市と韓国釜山市との間の高速船海上輸送等を事業目的と
する会社として官民共同出資で設立されたいわゆる第三セクター(以下、単に「第
三セクター」という。)である日韓高速船株式会社(以下「本件会社」という。)
に対し、その運航休止後の債務(傭船契約の合意解除の清算解決金四億六五〇〇万
円及び金融機関からの借入金合計三億八〇〇〇万円の各債務)整理のための補助金
として、平成六年四月一四日に四億六五〇〇万円(第一事件)、同年五月二五日に
三億八〇〇〇万円(第二事件)を各交付したことが、いずれも地方自治法二三二条
の二にいう「公益上必要がある場合」の要件を満たしておらず、違法であるとし
て、下関市の住民である被控訴人らが、地方自治法二四二条の二第一項四号の規定
に基づき、同市に代位して、各補助金交付当時に同市の市長であった控訴人に対
し、各補助金の交付に係る損害賠償金及びこれらに対する各事件の訴状送達の日の
それぞれ翌日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金を同
市に支払うよう求めた住民訴訟において、同市の市長が行政事件訴訟法二三条に基
づき参加した事案である。
なお、一審原告亡Aは、当審係属中に死亡したため、本件訴訟中同一審原告の請求
に係る部分は、その死亡により当然に終了している。
二 争いのない事実又は証拠上容易に認定し得る事実(証拠の掲記がないのは、争
いのない事実である。)
1 当事者
(一) 被控訴人らは、いずれも下関市の住民である。
(二) 控訴人は、平成三年四月三〇日から平成七年四月二九日までの間、下関市
長の職にあった者であり、また、平成三年五月三〇日から平成四年一〇月二〇日ま
での間、本件会社の代表取締役会長の地位にあった。
2 本件
会社の事業並びに傭船契約及び資金融資
(一) 本件会社は、下関市と韓国釜山市との間に高速船を就航させ、旅客等の海
上輸送をすること等を目的として、平成二年一一月二日、下関市と民間企業及び個
人が出資して設立した第三セクター方式の株式会社であり、平成三年七月三一日か
ら、同市と釜山市との間に高速船を就航させて営業を開始した。
(二) 本件会社は、平成三年三月二九日、前記営業に使用する船舶として、関西
汽船株式会社(以下「関西汽船」という。)と加藤汽船株式会社(以下「加藤汽
船」という。)の共有(共有持分各二分の一)に係る船舶(船舶名「ジェット
8」。以下「本件船舶」という。)につき、関西汽船との間で、以下の内容による
裸傭船契約(以下「本件傭船契約」という。)を締結した(本件船舶名につき、関
西汽船に対する調査嘱託(原審)。共有持分の割合につき、乙七五)。右契約の締
結に際して、関西汽船は、加藤汽船からその共有持分を借り受け、同社に対して右
共有持分の割合に相当する傭船料を自ら支払うことを約した(乙七五)。
①貸主 関西汽船
②傭船者 本件会社
③傭船期間 平成三年三月二九日から平成七年三月二八日まで
④傭船料 平成三、四年度 月額二八三二万五〇〇〇円
平成五、六年度月額三〇九〇万円
(ただし、一か月未満の傭船料は日割計算とする。)
(三) 本件会社は、原判決別紙1のとおり、設立当初から厳しい経営状況を余儀
なくされたため、山口県からの出資ないし下関市内の一般企業からの公募により、
資本金を、平成三年八月二六日には従前の二億二三〇〇万円から四億一五〇〇万円
に、平成四年四月二七日には四億八八〇〇万円にそれぞれ増資するとともに、原判
決別紙2(ただし、同別紙中2(2)の借入期間「平成4年9月30日から」とあ
るのを「平成4年6月30日から」と改める。)のとおり、金融機関からも合計三
億八〇〇〇万円の借入れを行い、さらに平成三年九月二七日には下関市の制度融資
(損失補償)八億円、平成四年九月二八日には同市の直接融資一〇億円をそれぞれ
受けた。
 なお、右金融機関からの合計三億八〇〇〇万円の借入金(以下「本件借入金」と
いう。)債務については、次の各保証人により連帯保証等がされていた。
(1) 株式会社山口銀行(以下「山口銀行」という。)からの一億円の借入金
(借入日・平成三年三月二八日)
 B(本件会社の当時の代表取締役社長兼共同出資
者。)の連帯保証(本件会社の元代表取締役会長で元市長のCから、同人の代表取
締役退任に伴い、同人の連帯保証を引き継いだもの)
(2) 下関信用金庫からの二億円の借入金(借入日・平成三年一二月二七日)
 (本件会社の共同出資者である民間企業六社の連帯保証。以下、次の六社を「本
件六社」という。)
① 林兼産業株式会社
② 三永物産株式会社
③ サンデン交通株式会社
④ 関門港湾建設株式会社
⑤ 株式会社みなと山口合同新聞社(旧株式会社山口新聞社)
⑥ 大阪商船三井船舶株式会社
(3)浦信用金庫からの八〇〇〇万円の借入金(借入日・平成四年三月三一日)
① 山口県信用保証脇会の信用保証
② Bの連帯保証
(四) しかし、本件会社は、これらの措置によっても業績が好転せず、平成四年
一二月一日、高速船の運航を休止した。
 本件会社は、その後、運航を再開することなく、従業員や資産の整理等を行い、
平成八年三月二八日に下関市が債権者として山口地方裁判所下関支部にした破産宣
告の申立てに基づき、同年四月一二日、破産宣告の決定を受け、配当率約〇・〇二
六パーセントをもって配当手続を終え、平成九年三月七日、破産終結の決定を受け
た(甲七ないし一五)。
(五) 関西汽船は、右運航休止後、加藤汽船からその共有持分に係る傭船料の支
払を求める訴訟を提起され、訴訟上の和解により傭船料約四億円の支払を余儀なく
されたことから(乙六の45及び46、七五)、本件会社に対し、本件傭船契約に
基づき、平成四年一二月から契約期間満了時である平成七年三月二八日までの間の
傭船料・損害金等合計一三億三三一五万八八八七一円の請求を求めていたが、平成
六年三月一〇日、両社の間で、本件会社が関西汽船に清算解決金四億六五〇〇万円
を支払うことにより、本件傭船契約を合意解除する旨の合意が成立した。
3 補助金の交付
(一) 本件会社は、平成六年三月一〇日、当時の下関市長であった控訴人に対
し、本件傭船契約の合意解除の清算解決金四億六五〇〇万円及び金融機関からの本
件借入金三億八〇〇〇万円の合計八億四五〇〇万円について、これを下関市が本件
会社に補助金として交付するよう要請したところ、これを受けて、控訴人は、下関
市平成六年第一回定例市議会に、右金員を本件会社に補助金として交付する旨の平
成五年度補正予算案を上程し、同月二八日、これが可決された。
(二) 控訴人は、同月三一日、右四億六五〇
〇万円(以下「第一補助金」という。)及び三億八〇〇〇万円(以下「第二補助
金」という。)の各補助金(以下、両補助金を併せて「本件捕助金」という。)に
ついて補助金交付決定をし、地方自治法二三二条の三の支出負担行為をした。
(三) 控訴人は、右同日、本件補助金について、経費支出伺いの決裁をし、地方
自治法二三二条の四第一項の支出命令をした。
(四) その結果、平成六年四月一四日に第一補助金が、同年五月二五日に第二補
助金が、下関市から本件会社にそれぞれ交付され、本件会社は、各補助金をもっ
て、関西汽船に対し前記清算解決金を、各金融機関に対し本件借入金をそれぞれ弁
済した。
 なお、本件補助金は、下関市の積立金の処分(財政調整基金の取崩し)による繰
入金を原資として、平成五年度の補正予算から支出された。
4 監査請求及び訴訟提起
(一) 被控訴人らは、地方自治法二四二条一項に基づき、平成六年四月一八日、
下関市監査委員に対し、控訴人をして同市に対し第一補助金相当額を補てんさせる
よう求めて住民監査請求をしたが、同監査委員は、同年六月一七日付けで右監査請
求を棄却する旨の監査結果を通知したので、同被控訴人らは、同年七月五日、第一
事件の訴訟を原審裁判所に提起した(右訴訟の提起は、本件記録上明らかであ
る。)。
(二) 被控訴人らは、地方自治法二四二条一項に基づき、平成六年六月三日、下
関市監査委員に対し、控訴人をして同市に対し第二補助金相当額を補てんさせるよ
う求めて住民監査請求をしたが、同監査委員は、同年七月二一日付けで右監査請求
を棄却する旨の監査結果を通知したので、被控訴人らは、同年八月八日、第二事件
の訴訟を原審裁判所に提起した(右訴訟の提起は、本件記録上明らかである。)。
(三) 下関市長は、平成七年一月一四日、右各訴訟につき、行政事件訴訟法二三
条に基づき参加の申立てをし、これに対し、原審裁判所は、同月三一日、右参加を
認める旨の決定をした(本件記録上明らかであり、原判決中「補助参加」とあるの
は誤記と認める。)。
三 争点
1 本件補助金の交付に係る控訴人の財務会計行為(支出負担行為としての補助金
交付決定及び支出命令としての経費支出伺いの決裁)の適法性(本件補助金の交付
につき、地方自治法二三二条の二にいう公益上の必要性の要件に関する控訴人の判
断の適否)
2 仮に、本件補助金の交付に係る控訴人の財務会計行為が違法と評
価される場合に、控訴人の故意又は過失の有無
四 争点に関する当事者等の主張
(争点1について)
1 原審における被控訴人らの主張
(一) 本件会社の性格
(1) 本件会社は、第三セクター方式によるとはいえ、株式会社として設立され
たもので、下関市の出資比率は、設立時に二二・四パーセント、増資後が一〇・五
パーセントであり、増資後の下関市と山口県を合計した出資比率も二〇・五パーセ
ントである。
 したがって、本件会社における地方自治体の出資比率は、地方自治法一九九条七
項、同法施行令一四〇条の七第一項所定の監査委員の監査が及ぶための要件となる
二五パーセントを下回る。
(2) 本件会社は、下関市が一定の主導権を握る形で設立されたものではある
が、その構想から実現まで一貫しているのは、民間主体の事業体を形成するため
に、下関市が「企業誘致」に協力をしていくという考え方であった。
(3) よって、本件会社は、第三セクター方式の中でも、営利性の高い民間企業
が主体として運営する営利企業という性格を強く有するものであったことは明白で
ある。
(二) 公益性
 補助金交付の要件としての公益性とは、当該普通地方公共団体の住民の福祉の増
進に有益か否かという観点から判断すべきところ、本件会社の性格は、前記(一)
のとおりであり、本件会社が、高速船を下関市と釜山市の間に就航させるという点
において、過去に下関市民の福祉の増進に有益な面があったとしても、それは、そ
の就航を続ける限りにおいてである。
 しかるに、本件会社は、本件補助金の交付時点において、既に営業を一切してお
らず、かつ、以後これを再開して高速船の就航をなし得る可能性は全くなかったと
ころ、このことを当然の前提とした上で、第一補助金は、過去の傭船料等の清算金
を関西汽船に支払う財源として、第二補助金は、本件会社が過去に金融機関から借
り入れた金員を返済するための財源として、それぞれ交付されたものであるから、
本件補助金の交付により下関市民の福祉が増進されることは全くあり得ない。
(三) 控訴人及び参加人の主張に対する反論
 控訴人及び参加人は、後記2(四)のとおり、本件会社に本件補助金を交付しな
ければ、債権者又は保証人を犠牲にすることとなり、今後の第三セクター方式によ
るすべての事業に誰からの協力も得られず、金融機関からの支援も受け得ないこと
となるとし、このような意味において、本件補
助金の交付には公益性があると主張する。
 しかし、本件会社は、前記1(一)のとおり、営利企業という性格を強く有する
ものであり、本件会社との取引企業等は、自己の損益計算の下にその責任で取引を
したもので、取引時点で利益を上げる目算があったからこそ任意に取引に入ったわ
けであるから、目算が誤ったとしても、それは取引企業等の自己責任の問題であっ
て、かかる企業等の利益に対する期待を、下関市民の税金により保護する必要性は
ない。
 したがって、控訴人が主張するような公益性はない。
2 原審における控訴人及び参加人の主張
(一) 本件会社設立の経緯
(1) 昭和六二年ころ、当時の下関市長であったCは、下関市と姉妹都市の提携
をしている韓国釜山市との間に高速船を就航させることが、両市の人的・物的交流
の緊密化、下関市の経済等の発展・浮揚、両市の往来の時間短縮等のために是非と
も必要であるとの考えの下に、下関市港湾局に対し、両市間の高速船就航事業(以
下「本件事業」という。)の可能性について調査を指示したところ、同年七月、同
局は、右就航実現の可能性は十分あり得る旨の「高速旅客艇就航の可能性につい
て」と題する調査結果を発表した。そこで、C市長は、同年一二月八日、関釜フェ
リー株式会社及び釜関フェリー株式会社(以下、前者を「関釜フェリー」、後者を
「釜関フェリー」という。)に対し、高速船航路の開設について協力を得たい旨の
依頼書を提出した。
(2) 下関市議会は、平成元年三月二九日、C市長に対し、本件事業の早期実現
を求める決議を提出し、同年五月一六日には、同市が、関釜フェリー、釜関フェリ
ー及びサンデン交通株式会社(以下「サンデン交通」という。)に懇請して加入し
てもらう形で、右四者による「関釜高速船計画調査委員会設立準備会」を発足さ
せ、同年六月一日、これを「関釜高速船計画調査委員会」に改編した。
(3) C市長は、当初は本件事業を一〇〇パーセント民間出資の会社で経営する
ことを考え、その可能性を模索していたが、打診した先にいずれも断られ、他方
で、下関市議会の右決議等もあって計画を断念することはできないことから、平成
元年九月二五日、同事業を第三セクター方式で遂行することとし、関釜高速船株式
会社設立準備会において、下関市が自ら選定した参画の要請先(下関市、同市議会
及び山口県のほか、民間企業七社)に対し、同事業への参画の要請文を
発送した。
(4) 下関市は、平成二年二月一日、関西汽船の代表取締役を以前務めていたB
を同市港湾局の関釜高速船計画顧問及び同計画調査委員会顧問に迎え、同年四月一
〇日、同市総務部に、助役を本部長とし、その他の構成員も全員同市の職員からな
る「関釜高速船計画推進本部」を設置した。さらに、C市長は、同月二七日、下関
市議会総務委員会において、本件事業が実現しなかったときは自ら責任を取る旨明
言し、同市が本件事業を市の事業として受け止めていることを示した。
 また、下関市は、同年九月二八日、同市が自ら選定した同市内の優良企業各社に
対し、本件会社設立のための発起人会招集の案内文を発送した後、これらの企業を
訪問し、説明会を開催するなどして理解を求め、同年一〇月一二日、右発起人会を
開催するとともに、本件会社の定款作成を行い、同年一一月二日、本件会社の設立
総会を開催して、その設立を決定した。
(5) 下関市は、本件事業の実現に向けての必要経費を全額負担しており、ま
た、本件会社設立後も、多額の財政的援助を行っている。
(二) 本件事業及び本件会社の性格
(1) 本件事業は、前記(一)に詳述した経過のとおり、下関市の発案によって
計画され、その主導によりこれが実践され、具現化されたものである。
 したがって、かかる実態に即してみれば、本件事業は、下関市の事業あるいは同
市の事業と一体の事業、ないしは終始同市が主導した事業であり、官民共同出資の
第三セクター方式という事業の遂行形態はあくまで形式にすぎない。
(2) 本件会社は、当初、旅客輸送に詳しいBを代表取締役社長として招聘して
いたが、同人が代表取締役社長を辞任した後は、下関市長が取締役会長に、同市助
役が代表取締役社長にそれぞれ就任し、かつ、従業員には、同市の職員をもってそ
の主要ポストに配置していたものであり、他の取締役も、C市長自らが就任を要請
して回ったものである。また、本件会社の運転資金作りの借入れに必要な連帯保証
人(B個人及び本件六社)も、下関市自らそれになることは法律上できないため、
同市が「迷惑はおかけしないから。」と約して依頼したものである。
(3) しかも、下関市長は、本件会社設立後においても、「この計画は山口県、
並びに下関市にとり二一世紀を展望しての極めて重要なプロジェクトであります。
即ち、本市は第三セクターとして日韓高速船株式会社の筆頭株主となり
、役員その他も派遣し市の外郭団体に等しい組織ととらえ、常に連絡を密にし強力
に指導をつづけております。」、「日韓高速船株式会社の経営は、下関市の事業と
一体と考えております……」などと表現し、本件会社ないし本件事業につき、同市
の外郭団体あるいは同市の事業と一体との位置付けをしている。
(三) 本件傭船契約の経緯
 本件傭船契約は、関西汽船が当初この契約に乗り気ではなかったことから、C市
長において、関西汽船に対し、同市長の署名・公印を付した「万一問題が生じた場
合は、同社(注・本件会社)とともに責任をもってその解決に努力致します。」と
いう内容の平成三年二月一九日付け確約書(以下「本件確約書」という。)を差し
出し、いわば、下関市が拝み倒す形で締結された経緯がある。
(四) 本件補助金交付の公益性
(1) 本件補助金交付の目的が、本件会社の債務整理にあったことは、控訴人も
否定するものではないが、本件事業は、前記(二)で詳述したとおり、下関市の事
業あるいは同市の事業と一体の事業、ないしは終始同市が主導した事業であり、こ
の点については、控訴人及び同市のみならず、一般市民や、本件会社の役員・株
主・貸付金融機関、関西汽船、連帯保証人等の関係者も、同様の認識に立っている
ものと考えられる。
(2) したがって、本件事業が失敗に終わった場合の債務整理についても、下関
市がその責任の下に行うことによって信頼を維持すべきことは当然であり、このこ
とが、まさしく公益性ありということの要点である。
(3) このように解さなければ、下関市は、今後、第三セクター方式を採用して
行う事業に誰からの協力も得られないことは明白であるとともに、金融機関からの
支援も受け得ないこととなる。のみならず、本件会社の債務を破産法のみによって
処理することになれば、第三セクター方式を採用している全国の地方公共団体に多
大の迷惑を投げかけ、その協力者に重大な不信感を与えることになることは必至で
ある。
3 当審における控訴人の主張
(一) 補助金支出の公益性に関する司法審査の判断基準
 補助金の支出が地方自治法二三二条の二にいう「公益上必要がある場合」に該当
するかは、当該地方公共団体が処理すべき事務の性質と目的、当該補助金交付の原
因、当該補助金の対象の種類、内容、性質、目的等の諸般の事情を考慮して、当該
地方公共団体の議会及び予算執行権者たる長の合理的な裁
量判断により決定されるべきものであるところ、本件補助金は単独の予算案として
議会に提出され、十分慎重に審議された上で議決されたものであるから、その判断
は最大限尊重されるべきであり、それに対する司法審査は、裁判所が当事者であれ
ばどのように判断したかではなく、議会及び長の判断が裁量権を逸脱しているか否
か、裁量権の濫用に該当するか否かという観点からされるべきものである。
 したがって、具体的な公益性の判断は、第一次的には個々の自治体にゆだねられ
ているというべきであり、裁判所としては、個々の自治体における一般的規範(条
例及び規則)又は個別的手続(議会の議決)の内容に適合する補助金の交付である
か否かを審査するのが本来の姿であると考えられる。そして、裁判所が違法となし
得るのは、①自治体の設定している一般的規範(条例及び規則)又は議会の議決内
容に違反する場合、②その他法令(地方自治法二三二条の二を含まない。)に違反
する場合及び③著しい不公正の認められる場合であると解されるところ、本件補助
金は、議会において特に補正予算として議決を経て交付された捕助金であるから、
個別議決による補助金に準ずるものとみることができ、裁判所がこれについて詳細
な公益性の審査を行って違法とすることの適否は疑問であり、仮に「著しい不公
正」の有無を問題とするとしても、議会と協調してなされた政策判断について市長
の損害賠償責任を追求するためにはそれだけの強度な違法性がなければならないと
いうべきである。
(二) 本件における公益性
(1) 下関市に対する信頼の維持と公益性
 地方公共団体における事務事業には、直接住民の福祉の増進に寄与する公共用の
事務と、直接には行政主体あるいは法的主体としての地方公共団体そのものの存続
や社会的信頼の確保維持を目的とする公用の事務があり、そのいずれについても公
益性が存在する。
 本件においては、表面的・形式的には、C市長を始めとする下関市当局者の言動
に対する連帯保証人及び関西汽船の信頼の維持が目的とされているものの、実質的
には、今後様々な形で下関市の行政に関係してくるであろう者たち(新たな第三セ
クターに対する出資者に限られないことは当然のことである。)の下関市の施策及
びそれに基づく市当局者の言動に対する信頼の維持が目的とされているのである。
行政に対する信頼の維持というのは、自己の住民だけに対するもの
ではなく、相手方が誰であるかによって約束を守ったり、破ったりするというので
はなく、相手方のいかんにかかわらず、法的な義務はもちろん、道義的な責任をも
誠実に履行することによって実現されるものである。
(2) 下関市と本件会社との関係
 本件会社は、下関市と韓国釜山市との間における人的、物的、文化的等の交流を
一層促進し、増進すること(関釜交流)が地域の活性化、経済の発展、文化の振興
等に寄与するという認識の下に、両市の間に高速船を就航させることが必要かつ有
効であると判断した下関市が、本件事業を実施するために主導権をとって設立した
ものであり、出資の依頼、役員の選任、資金の供与と調達、運航の開始及び中止と
廃止、運航状況の監視等、その設立前後におけるあらゆる面において、下関市の関
与とリーダーシップなしには、本件事業の継続と一体となった本件会社の存続はあ
り得なかったのである。
 本件会社は株式会社であるが、それは法的な形式の面においてだけであり、下関
市がその必要性を説き、自ら出資し、代表権を有する役員を派遣し、運転資金の供
与と調達に積極的に関与し、実質的な支配権を有していたからこそ、その設立及び
事業の開始と遂行が可能となったものであり、本件会社は、正に下関市の政策目的
を実現する手段として位置付けられ、機能していたのである。
(3) 本件補助金の交付が必要となった理由
 本件補助金は、下関市と韓国釜山市との間における人的、物的、文化的等の交流
を一層促進し、増進すること(関釜交流)が地域の活性化、経済の発展、文化の振
興等に寄与するという認識の下に、両市の間に高速船を就航させることが必要かつ
有効であると判断した下関市が、自ら主導権をとって、それを実現する手段として
本件会社を設立し、高速船の就航を開始したものの、利用者が想定したほどには伸
びず、赤字が累積して経営が困難となり、下関市においてもこれ以上の財政的、金
融的支援を行うことが不適当であると判断され、その運航を中止せざるを得なくな
ったことから、将来における下関市の各種の施策の展開に支障が生ずることのない
よう、本件事業に積極的に協力した関係者への迷惑を最小限に抑え、それを強力に
推進した下関市の行政に対する信頼を確保・維持しつつ、スムーズに本件事業を廃
止するために支出されたものである。
 そもそも、本件事業については、初年度から黒字になるという民間シ
ンクタンクの報告書があったものの、それは額面どおりに信じられていたわけでは
なく、少なくとも事後的に見る限り、もともと採算べースに合うような事業ではな
かったのであるが、収益性のない事業であっても、住民の福祉の増進のために行う
べきものを推進するための一つの方策が第三セクターによる経営であり、本件会社
はそのような第三セクターとして設立・運営されていたのである。本件会社の経営
が行き詰まったのは、その経営に誤りがあったためではなく、事業そのものに内在
する採算上の問題が顕在化したためであり、本件事業を終始リードし、主導してき
た下関市は、本件事業の廃止及び本件会社の清算について、少なくとも道義的な責
任を負うべき立場にあったのである。
 すなわち、本件事業に協力した法人や個人は、利益を追求することを目的として
いたのではなく、専門会社である関釜フェリーや釜関フェリーが参加を見合わせて
いる状況の下で運航開始の時点から経営に不安があったにもかかわらず、下関市の
助成によって何とか収支が償うことを信頼し、出資に応じたり、融資をしたり、そ
の保証に応じたりしたのであって、本件事業の存続が期待できなくなった時点で、
これを混乱なく終結させることは、下関市にとって少なくとも道義的責務であり、
その義務を果たしてこそ、市政に協力した者がそのことゆえに犠牲を強いられるこ
とはないとの信頼を確保・維持できるのである。
(4) 本件補助金の目的
 本件補助金は、従業員の賃金や本件船舶用の燃料、消耗品等の運航経費等の小口
の債務を全部弁済した後に残った債務である八億四五〇〇万円を処理するためのも
のであり、本件補助金を交付しなかった場合には、小口の債権者に対する弁済が優
先弁済として問題とされ、その結果、それらの債権者に影響が及ぶおそれがあった
(破産による平等弁済ということになれば、小口債権者に対する支払は事実上不可
能である。)。
 また、保証人ら及び関西汽船に対する市長を始めとする行政当局者の発言を反故
にすることは、その直接的な相手方だけではなく、世間一般からの下関市の言動に
対する不信を決定的なものとするし、下関市が日常的に多額の借入れをしている金
融機関から信用されなくなる結果は、今後の借入れに悪影響を及ぼすことになり、
いずれにしても、市政への信頼が失われ、市民の利益を確保することができなくな
ることが懸念されるところであり、本
件補助金は、保証人ら及び関西汽船に利益を与えることを直接の目的とするもので
はない。なお、後に関西汽船等が本件船舶を他に売却することによって利益を得た
としても、それは、本件補助金交付当時において予見可能であったわけではないか
ら、本件補助金を交付すべきか否かの判断に影響を与えるものではない。
(5) 関西汽船の立場
 本件船舶は、関西汽船と加藤汽船が二分の一ずつの持分を有する共有船であり、
本件傭船契約が締結された当時は本件船舶のようなジェットフォイル船が不足して
いたことから、下関市が本件船舶に目を付けて関西汽船にその譲渡又は貸付を求め
たが、加藤汽船は強固にその譲渡に応じず、貸付にも消極的であった。そこで、関
西汽船は、加藤汽船の了解を得るために、本件船舶の加藤汽船の持分を自ら借り受
けた上で、本件船舶の全体を本件会社に貸し付け、加藤汽船に対する傭船料につい
ては関西汽船がリスクを負担したものである。このような変則的な形がとられたの
は、加藤汽船が本件会社の支払能力に不安を抱き、傭船料の支払について株主の保
証を求めていたがそれが実現されないので、それに代わる手段としてとられたもの
であって、関西汽船は、そのリスクの負担につき下関市長から本件確約書の提出を
受け、本件確約書の誠実な履行を信じて本件傭船契約の締結に応じたものである。
本件確約書には下関市長の署名と公印が付されているのであり、通常の公文書であ
って後任者も拘束される性質のものであるから、たとえそれに法的な拘束力がない
としても、その趣旨はできるだけ尊重しなければならないことは当然のことである
(その法律的な意味はともかく、ビジネスとしては決定的な重要性のある文書であ
り、支払が履行されない場合には訴訟も考えるほどのものであったというのが関西
汽船の理解なのである。)。
 ところで、本件傭船契約の不履行により関西汽船に生じた損害額の合計は一三億
三三〇〇万円余で、そのうち傭船料に相当する額が八億五〇〇〇万円余であった
が、関西汽船は加藤汽船から持分二分の一に相当する残余の契約期間の傭船料四億
円余の支払を求める訴訟を起こされ、敗訴することが決定的であったため、請求金
額のほぼ満額である約四億円を加藤汽船に支払うことで、平成五年一〇月五日に和
解を成立させたのである。関西汽船は、加藤汽船に右和解金である約四億円を支払
った後の同年一一月五日、弁護士を通じて
本件会社及び下関市に対し、残余の契約期間の傭船料を含む前記一三億三三〇〇万
円余の損害金の支払を求めたが、本件会社としては、関西汽船からのこの請求の全
部又は一部の支払を拒否する理由も根拠もなく、ただ安くしてくださいとお願いす
るしかなかったのであり、関西汽船としては、本件会社には支払能力がなく、本件
会社の支払原資は下関市から出ること等を勘案して、四億六五〇〇万円の支払を受
けることで本件会社と和解せざるを得ず、その結果、右四億六五〇〇万円から加藤
汽船に対する支払額を控除した約六五〇〇万円をもって本件船舶を引き取り、保管
し、整備を継続せざるを得ないこととなったのである。なお、本件船舶の傭船料の
決定に際しては、単なる資産としての船舶の価値(減価償却後の価格)だけではな
く、旅客の運送、船内及び待合室での物品の販売やサービスの提供等の営業に関す
る諸般の要素を考慮する必要があり、また、本件傭船契約が締結された当時、本件
船舶と同種のジェットフォイルは不足しており、加藤汽船がその重点航路である讃
岐航路を重視し、関西空港への航路等を視野に入れてその利用を検討していたた
め、容易に本件船舶を傭船できる状況にはなく、かかる稀少物件の需給関係も対価
に大きな影響を及ぼしたものであって、本件船舶の傭船料が不当に高額なものであ
るとする被控訴人らの主張(後記4(三)(3)イ)は根拠がない。また、本件船
舶がその後佐渡汽船に売却されたのは、第一補助金が支出されてから一年九か月余
り後の平成八年一月二六日のことであり、本件会社との和解交渉時に右売却が予定
されていたわけでもないし、本件会社の責任は契約の不履行に基づくものであり、
被控訴人らの指摘(後記4(三)(3)イ)に係る右売却と第一補助金の是非とは
何ら関係がない。
 仮に、第一補助金が交付されず、右債権全額について関西汽船が弁済を受けられ
ないこととなった場合には、本件確約書の存在やそれが発出された経緯、本件会社
の経営に関する下関市の関与等を理由として同市に対する責任(民法四四条の不法
行為責任等)追求の訴訟等が提起される可能性も十分あったのであり、そのような
事態になった場合にはかなり難しい訴訟になることが予想され、市政にも相当な混
乱が生ずることが想定されるのであり、右補助金は、市政に対する信頼を確保する
とともに、そのような将来の紛争と混乱を回避することにも役立って
いるのである。
 なお、C市長の「赤字になったときは商法に従って処理される」という市議会で
の発言は、赤字のために事業の継続を断念せざるを得なくなるような事態を全く想
定しない段階において、仮定の話として断った上で述べられたものにすぎず、同人
は、本件会社の経営が苦しくなっても公費による援助により本件事業を継続するこ
とを考えていたのであり、右発言を、事業の継続が不可能となった段階での問題の
処理に当てはめて、本件補助金による債務整理を否定する根拠とすることはできな
い。
(6) 保証人らの立場
 当時の下関市助役のDから下関市の経済の活性化のため協力を求められ、本件事
業に関与することとなったBが、本件会社の山口銀行に対する一億円の債務につい
て保証人となったのは、本来の保証人であるC市長が市長選挙に落選して本件会社
の代表取締役会長を退任した後に、当時の下関市総務部長のEから、市として迷惑
はかけないから何とか保証人になってほしいと懇請されてやむを得ず引き受けたも
のであり、平成四年三月の豊浦信用金庫からの八〇〇〇万円の借入れについても、
E総務部長から、市の方で資金の手当てをする予定だが、すぐには間に合わないの
で、とりあえず借入れをしておいてほしいと頼まれ、それを信じて自分が保証人と
なって借入れをしたものである。これらの合計一億八〇〇〇万円の債務は、Bが私
財を投じても到底返せるものではなく、このような保証をすることによってB個人
が得られる利益は何もないのであって、Bは、E総務部長の言葉を信頼して保証人
となることを引き受けたものである。
 また、本件会社の株主で同社に役員を派遣している本件六社が保証した平成三年
一二月の二億円の借入れも、E総務部長から保証人には絶対迷惑をかけないので本
件六社に頼んでほしいと懇請されたBが、その旨を本件六社に話して保証人になっ
てもらったものであり、その絶対迷惑をかけないということの意味は、最悪の場合
は市が責任をもって対処するという趣旨に理解されていたのである。このように、
本件六社も、保証人には絶対迷惑をかけないというE総務部長の言葉を信頼して保
証人となることを引き受けたに違いないのである。また、本件六社の本件会社に対
する出資金の合計は一億六〇〇〇万円に上っていたのであり、これらの出資金はい
ずれも未回収のままとなっており、本件会社から本件六社及びBに対しては保証料

の支払は一切されていない。
 B及び本件六社の右保証による本件借入金がなければ、本件事業を開始し、継続
することはできなかったものであり、右保証人らは、下関市が主導的に推進した本
件事業の意義を理解して同市の施策に協力し、本件事業の実施に必須の役割を果た
したものであって、本件借入金債務の返済に充てられた第二補助金は、同市の依頼
を受けて市政に積極的に協力した関係者への迷惑を最小限に抑え、それを協力に推
進した同市の行政に対する信頼を確保・維持するために交付されたものであり、同
市が右保証人らの信頼に応えることが違法とされる理由はない。仮に、右補助金が
交付されず、右保証人らの責任が追及された場合には、右保証人らから下関市の責
任を追及され、紛争が生じることも十分予想されるところであり、右補助金の交付
により、市政に対する信頼が確保され、将来の紛争と混乱を回避できたという同市
の利益は極めて大きいのである。すなわち、下関市の幹部による形式だけであり絶
対に迷惑をかけないという言葉を信じて保証人となった者らに対して、利益が上が
っているからいいだろうとか、強制執行されても我慢しろなどと言うことは到底許
されることではなく、仮にそのようなことをした場合には、下関市の信用は地に落
ち、今後のすべての施策について、企業はもちろん、一般市民からも協力を得るこ
とは不可能となることは見易い道理である。
 なお、第二補助金を原資として弁済された合計三億八〇〇〇万円の本件借入金債
務に対する金利は平成六年三月分まで全額が支払われているが、金融機関側は利息
の放棄又は免除という形をとることは拒否したものの、一年半余(本件船舶の運航
中止から右弁済までの期間にほぼ相当する。)の期間の金利に相当する合計三九〇
〇万円を下関市に対して寄付しており、これは、実質的には金利の放棄又は免除に
該当するものである。
(7) 本件補助金についての議会の議決
 本件補助金八億四五〇〇万円は、平成六年三月に平成五年度の補正予算案として
単独で提案され、議会においてその交付先、目的、使途及び額について詳細な議論
をした上で、その支出が必要であると判断され、議決されたものである。
 地方自治法二三二条の二における公益性という不確定概念の具体的な判断は、地
方公共団体が処理すべき事務の性質と目的、当該補助金交付の原因、対象の種類、
内容、性質、目的等の諸般の事情を考
慮して、当該地方公共団体の議会及び予算執行権者の合理的な裁量判断により決定
されるべきものと解すべきであり、本件のように具体的な交付先と交付目的につい
て十分な審議がされた上での議決である以上、予算の審議を通じての住民の代表た
る議会の判断は最大限尊重されるべきである。司法審査においては、裁判所が当事
者であればどのように判断したかではなく、議会及び長の判断が裁量権を逸脱して
いるか否か、裁量権の濫用に該当するか否かという観点から違法性の有無の判断が
されるべきものである。
(8) 下関市の財政状況
 本件補助金は、平成六年三月の議会で補正された平成五年度予算において措置さ
れ、その出納整理期間中である平成六年四月及び五月に支出されたものである。そ
して、同年三月に議会に提出された平成五年度補正予算をみると、本件補助金は、
下関市の貯金である財政調整基金からの繰入金を原資として支出されたものであ
り、そのために起債(借金)等をする必要がなかったことが明らかである。また、
平成二年九月三〇日現在の財政調整基金の残高が一六〇億円余であるのに対し、本
件補助金支出のための取崩しをした後である平成六年九月三〇日現在の同基金の残
高は三〇一億円と一四〇億円余り増加している。
 また、地方公共団体の決算は、監査委員の審査を得た上で議会の認定を受けるこ
ととされているが(地方自治法二三三条二項、九六条一項三号)、下関市における
平成五年度の決算に関する監査委員の審査意見書によれば、全会計収支は前年度比
六・五パーセント増の四九億三四九二万一五五二円で、そのうち一〇億円が財政調
整基金に積み立てられ、普通会計の形式収支も前年度より四億円余増の二六億六一
七九万円となるなど、当時の財政状況は健全な状態にあり、監査委員も「収支均衡
の健全な財政運営がなされている」との評価を行っている。
 このように、本件補助金の支出をした年度の決算における財政状況を示す指標は
いずれも健全な指標を示しており、則政調整基金の額も平成二年に比較して一四〇
億円余り増加しているなど、下関市の財政が本件補助金の支出を妨げるような状況
になかったことは明らかである。
 なお、本件補助金の支出当時、下関市においては、本件船舶の運航を廃止した後
の本件会社の整理の問題が緊急の課題であったのであり、本件補助金の支出は、下
関市の信頼を確保しつつ、混乱を最小限に抑え、本件傭船
契約の解除を含む事業の廃止と会社の清算を速やかに行うために必要となったもの
であるから、正に「地方公共団体にとって必要な行政水準を確保するために必要な
事業と考えられるもの」(乙八一の地方財政法逐条解説参照)であり、地方財政法
四条の四第三号にいう「必要やむを得ない理由により生じた経費」に該当するので
あって、前記財政調整基金の取崩しとその予算への繰入れを行った議会の判断に誤
りはなく、その判断は尊重されるべきである。
(9) 小括
 以上のとおり、本件補助金は、本件事業推進の経緯、本件会社における債務発生
の経緯、当該債務を放置した場合の赤字累積と交渉による債務減額という事情、国
際信義の遵守、従業員や小規模債権者の生活擁護、地域経済の安定、市議会の考え
方、問題先送りによる責任回避という悪弊の排除、向後の市政の発展等を総合的に
考慮した上で、交付されたものであり、公益上の必要があると認められるべきもの
である。
4 当審における控訴人の主張に対する被控訴人らの反論
(一) 補助金交付の公益性に関する判断基準
(1) 公益性判断のき束性
 地方自治法二三二条の二に基づく補助金交付の公益性の判断については、昭和二
八年六月二九日の行政実例で「公益上必要かどうかを一応認定するのは長及び議会
であるが、この規定は全くの自由裁量行為ではないから、客観的にも公益上必要で
あると認められなければならない」とされ、多くの裁判例もこの考え方に立脚して
公益性の判断を行っている。
 すなわち、裁判所は、公益上の必要性について判断することができ、公益上必要
であるかは客観的に決定されるべきものであって、この判断は地方公共団体の自由
裁量行為ではない。公布された根拠規範が少ない現在、判例による公益上の必要性
の判断基準が形成されることが望まれるところであり、「自治」の美名の下に当該
地方公共団体の存立基盤すら危うくするような事例をも司法機関が放置することは
許されない。
(2) 公益性の判断基準
ア 補助金の交付が公益性を有するためには、主観的な側面のみならず、客観的な
面においてもそれが肯定されなければならないと解されるところ、右の判断に当た
っては、何よりも補助金の交付とそれによる当該地方公共団体の利益との間におけ
る因果関係の有無が問題とされるべきである。
 そして、当該補助金交付とそれによる個別具体的な住民の利益との因果関係の有
無は、地方公
共団体が処理すべき事項の性質と目的、当該補助金交付の原因、対象の種類、内
容、性質、目的等の諸般の事情を考慮して検討されるべきものである。
イ この点について、控訴人は、裁判所が補助金の交付を違法となし得るのは、法
令違反又は著しい不公正の認められる場合に限られる旨主張するが、法令違反又は
著しい不公正との判断基準は、余りにも限定しすぎた指標であり、経営難の第三セ
ククーの補助金問題という本件補助金の公益性を判断する基準としては、野放図な
補助金交付をチェックする指標として、前記アの判断基準が極めて妥当なものと評
価されるべきである。
(二) 第三セクターの破たん処理に対する地方公共団体の関与の在り方
 自治省は、平成一一年五月二〇日、各都道府県知事及び各指定都市市長に対して
「第三セクターに関する指針について」と題する通知(同年自治政第四五号)をし
た。
 右通知の示す指針では、地方公共団体が出資者として負う責任はあくまで出資の
範囲内(有限責任)であるとの基本認識に立って、第三セクターが破たんした場合
の地方公共団体の関与の在り方については、債権債務関係の整理に当たって、地方
公共団体は、出資の範囲内の負担、損失補償契約に基づく負担、あるいはあらかじ
め定められたリスク分担に基づく負担を負うというのが原則であり、過度の負担を
負うことのないようにすべきであるとされている。
 すなわち、公的支援は有限責任の観点で真にやむを得ない場合に限り行うべきで
あり、第三セクターが破たんした場合に、損失補償等その処理のためにあらかじめ
負担を定めている以外の新たな負担をすることは認められないという当然の観点が
指針として示されたものであり、本件を判断するについても、以上の観点は重要で
ある。
(三) 本件における公益性の不存在
(1) 下関市に対する「信頼」について
 控訴人は、本件の公益性について、下関市に対する信頼の維持という点を挙げ、
第三者に迷惑をかけないこととか、関係者との紛争予防とか、将来の協力が得られ
ないこと等種々の表現による主張をしているが、要は、その内容は本件補助金を交
付して関西汽船の傭船料と金融機関への債務を全額支払わなければ、C市長や当局
者の言動に対する信頼が確保されず、それに伴う弊害があるということに帰着す
る。
 しかし、ここでいう「信頼」とは、本件補助金の交付によって傭船料の支払を受
け、貸金を回収し、連
帯保証責任を免れた関係者の信頼であり、その信頼の中身は、本件会社と取引する
に当たって、本件会社が破たんしたときは下関市が全面的に損失を補填してくれる
という「信頼」である。そして、このような「信頼」こそが、住民の意思を無視し
て第三セクターにおいて馴れ合いや無責任体制を生み出し、無尽蔵に公金投入がさ
れてきた原因であり、自治省の前記「第三セクターに関する指針」で問題とされ、
戒められている根本原因なのである。
 すなわち、補助金の財源は、当該地方公共団体の住民が納付した税金である上、
本来、第三セクターとはいえ、民間企業がこれに参加する場合には、その自己判断
と責任の下に危険を負担することも当然あり得ることを前提に営利の追求をしよう
としていることは、経済法則に照らして自明の理とみられることも考慮すると、か
かる「信頼」維持のための補助金の交付すべてに公益性があるとは到底解し難いと
ころである。
(2) 本件会社の営利的性格
 本件会社は、下関市の出資比率が意識的に低く抑えられた営利ないし収支適合を
目的とする民間主体の企業として設立・運営されてきた。それは、本件会社の目的
が、生活の足の確保とは異なり、わざわざ行政が乗り出すという意味での「公益
性」がどれだけあるのか疑問であるという程度の低い公益を目的としたものであっ
たからである。すなわち、本件会社は、自治省の前記指針にいう「公民協調型第三
セクター」であったのであり、下関市が本件会社の設立・運営について一定の指導
的役割を果たしたとしても、「公民協調型第三セクター」としての営利性を有する
という本来的性格は変えられないものである。
 下関市が本件会社に多大な公金を投入して人的・物的な援助をしてきたことは事
実である。しかし、これを本件会社の公益的性格とか適正な関与というように位置
付けることは明らかに間違いであり、職員派遣、損失補償契約、一〇億円の直接融
資のいずれについても、それ自体違法であるか、その疑いが濃いものであったり、
不当なものであったことは明白であり、そもそも本件補助金交付以前のこれらすべ
ての公金支出が問題とされるべきものであったのである。
(3) 本件補助金交付の公益性の不存在
ア 補助金交付の経緯等
①下関市は、本件会社に対し、本件補助金交付以前にも多額な公金を支出している
こと、②平成四年九月の議会で、本件会社に一〇億円の直接融資を行うことを議
決した際、「すべて今後は会社の努力に図ってもらう。いかなる形でも今後は資金
援助は行わない。」という趣旨の総務委員長の説明を受けて右議決がされた経緯、
③本件補助金の交付時に、本件会社の負債は、本件補助金により支払われた負債以
外には、下関市に対する負債と下関市が損失補償契約をしていた債務しかなく、逆
に資産もほとんどない上、営業を継続する意思も体制もなく、本件補助金の交付は
単に債務整理のためだけの支出であったこと等を総合すれば、本件補助金の支出に
公益性がないことは明らかである。平成四年一二月一二日に本件事業の運航が休止
され、下関市として総額一八億円の未回収額が存在したにもかかわらず、本件会社
に八億円余という本件補助金の交付を行ったことは、明らかに常軌を逸している。
イ 関西汽船等との関係
 本件船舶の傭船料は、当時の定率法又は定額法により算定される減価償却額等に
照らし、不当利得といえるほどの多額の利益(定率法で年二億余、定額法でも六七
〇〇万円)を関西汽船と加藤汽船にもたらす高額なものであったにもかかわらず、
右両社は、更なる利益を上げるために、運行休止時から契約期間満了までの傭船料
等として一三億三三一五万八八七一円もの金額を本件会社及び下関市に請求するに
至ったものである。その結果、本件傭船契約の合意解約に伴う清算解決金として、
本件会社は関西汽船に四億六五〇〇万円を支払うこととなったが、本件会社には支
払能力がないため、この清算解決金の支払に充てるための原資として、下関市から
本件会社に対する第一補助金の支出がされたのであり、その資金が関西汽船に支払
われ、その後本件会社による外航船への改造により付加価値の付いた本件船舶を右
両社が佐渡汽船に七億円で売却した結果として、下関市が支払った補助金の額を超
える利益(各社二億六六三六万九六八八円ずつの固定資産譲渡益)を右両社にもた
らしたのである。
 このように、本件船舶の共有者であった関西汽船と加藤汽船は、本件船舶を本件
会社に賃貸することにより十分な利益を得たばかりか、外航船に改造された本件船
舶を転売することによっても利益を得ており、本件補助金が本件会社を通じて右両
社に支払われたことにより更に大きな利益を上げているのである。すなわち、第一
補助金は、下関市外の民間会社に多額の利益をもたらすことにのみ貢献しており、
そのために下関市民の貴重な財産が支出さ
れた結果となったのであり、右補助金の交付に何らの公益性もなかったことは明ら
かである。
 C市長名の本件確約書は、議会の議決を経たものではなく、その内容からも、市
長個人の政治的責任は別にして、下関市の法的責任(不法行為責任又は債務保証・
債務引受等の責任)を基礎付ける法的拘束力を有するものでないことは明らかであ
る。仮に、関西汽船から下関市に法的責任を追求する訴訟提起の可能性があったと
しても、右のような性格の文書を前提とする訴訟であれば、責任の存否及び万が一
責任があるとしてその範囲については、行政の透明性の観点から、むしろ訴訟にゆ
だねるべきであり、それをあいまいなまま隠蔽防止するために多額の補助金を支出
することに公益性があるとして保護すべき意味があるとは到底考えられない。
ウ 保証人らとの関係
 第二補助金により本件会社が債務の弁済をしたことにより、本件会社の下関信用
金庫に対する二億円の借入金債務につき連帯保証債務の履行をしなくて済んだ本件
六社は、各社の決算書等の財務書類によると、いずれも十分な支払能力があり、下
関市が市民の貴重な税金を使って連帯保証債務の肩代わりをする必要は全くなかっ
たことが明らかになっている。したがって、下関信用金庫は、本件会社への貸付金
二億円を保証人である本件六社から回収することができるので、その経営には全く
問題がない。
 また、本件会社の山口銀行に対する一億円の借入金債務については、保証人であ
るB個人には支払能力がないかもしれないが、山口銀行は十分な利益を出してお
り、仮に、本件会社の債務が履行されなかったとしても、同銀行が回収不能分につ
いて損金処理をすることが可能であり、同銀行の経営に何ら支障が及ぶおそれはな
い。
 さらに、本件会社の豊浦信用金庫に対する八〇〇〇万円の借入金債務について
も、山口県信用保証協会の保証債務履行により、豊浦信用金庫は本件会社への貸付
金の回収が可能である。同信用保証協会の代位弁済後の保証人であるBの個人保証
が履行されない場合でも、同信用保証協会が山口県の外郭団体として設立された趣
旨からすれば、その危険性を十分に考え、市中の銀行金利より高い保証料が設定さ
れる等の措置が採られている。したがって、下関市が、市民の税金を使って本件会
社の借入金債務を返済する必要は全く存しない。
 補助金による金融機関への返済がされなかったからといって、本件会社に
対して融資をした金融機関はもちろん、右保証人らが下関市に対して法的責任を追
求することが不可能なことは当然のことであり、政治的・道義的責任の追求を防止
するために多額の補助金を交付するというのであれば、それに公益性がないことは
明らかである。一般に、保証人になってもらうときに迷惑をかけないというのは、
主債務者が常に言うことであり、それを信用する方がおかしいのであり、また、市
長が赤字の場合には商法で処理すると言っているのに、何ら権限のない総務部長の
発言を信用する方がおかしいのであって、保証人らの側で下関市が公的資金を投入
して自ら負担すべき保証債務を支払ってくれるはずだったと主張することは企業人
の常識に反するものであり、そのような「信頼」は到底保護されるべきものではな
い。
エ 小口債権者との関係
 本件補助金交付の目的について、控訴人は、当審の結審間近になって、小口債権
者への支払保護という点を主張するもののようであるが、これは、以下のとおり、
単なる後付けの主張以外の何物でもない。
① 小口債権者に対する支払は、本件補助金交付の一年ないし二年以上前の下関市
から本件会社へ直接融資された一〇億円及び平成四年一二月一日の運行中止までの
間に本件会社が持っていた資産により支出されたものであり、本件補助金を原資と
して支出されたものではないから、本件補助金の交付が小口債権者に対する支払の
ためでなかったことは明らかである。
② 本件補助金を交付する際に小口債権者への支払保護という点は議論にすらなっ
ておらず、控訴人も本件において当審の結審間近に至るまでその点は主張も立証も
してこなかった。
③ 控訴人の主張は、本件補助金の交付により、関西汽船や金融機関に八億四五〇
〇万円を支払わなければ、それ以前の小口債権者に対する一億一一〇〇万円の支払
が、平成六年以降に本件会社が破産した際に否認される可能性があったというもの
のようであるが、本件補助金がそのようなことを目的としたという根拠は何もない
し、仮にそれを目的としていたとすれば、それもまた問題であり、公益とは全く関
係がない(小口債権者への弁済は本旨弁済であり、給料債権は優先債権であるか
ら、支払時期等も総合すれば何ら破産法上も問題にはならないが、仮にその保護が
どうしても必要というのなら、別に何らかの方法を考えるべきである。)。
オ 下関市の財政状況
 控訴人は、下関市の平成
二年九月期と平成五年九月期の財政調整基金残高を比較して同基金が一四〇億円増
加したと主張しているが、各年度末の決算上の同基金残高を比較すると六七億円程
度の増加にすぎず、そもそも平成二年度と平成五年度を比較する理由は不明であ
り、平成三年以降の同基金の額は二一〇億円超の金額でほぼ横ばいの状態にある。
控訴人は、本件補助金支出のために起債(借金)等をする必要がなかった旨主張す
るが、地方財政法五条は地方債について原則的に制限をしており、ただし書により
地方債をもってその財源とすることができる場合を列挙しているものの、本件事業
のような借金返済に起債ができるとする事由を見いだすことはできず、本件の事例
はそもそも起債ができる事案ではなかった。
 また、控訴人は、平成五年度の監査委員の審査意見書を援用して、下関市の財政
状況が健全な状態にある旨主張するが、実質収支から財政調整基金の積立てや取崩
し額等を加味した実質単年度収支では、平成四年度の黒字を最後にして以後毎年赤
字決算となっており、平成五年度から赤字は始まっている点で、赤字路線を導入し
た控訴人の政治責任は重大である。財政構造の弾力性を示す経常収支比率に関して
も、平成五年度は確かに望ましいとされる数値を維持しているが、控訴人の市長と
しての最後の任期であった平成六年度には八六・九パーセントにまで増加し、その
後年度を追うにつれて増加しており、このような下関市の財政硬直化は、最初に八
〇パーセントを超過させた控訴人の財政運営に起因しており、その責任は重大であ
る。このように、本件補助金の支出以降下関市の財政は悪化の一途を辿っており、
控訴人が主張するような健全な財政状況にあるとは到底いうことができない。
カ 小括
 以上のとおり、本件補助金は、いかなる点においても、無益な補助金であり、公
益性を欠くものであったことは明らかである。
(四) 議会の議決
 地方公共団体の議会の議決が、地方公共団体の長の違法行為を免責するものでな
いことは、判例上確立している。
 また、近年、地方議会の予算執行等に対するチェック機能が低下し、十分な審議
が尽くされていない実情があり、本件では、控訴人が議会と協調して議決に至った
というよりは、強い指導力を発揮して議会を説得したというのが実態である。
 いずれにせよ、本件の議会の議決は、控訴人の違法行為を免責するものではな
い。
(争点2について)

 被控訴人らの主張
 控訴人は、前記(争点1について)1掲記の各事実関係を知りながら、あえて違
法な本件補助金の交付を行ったものであり、この点につき、故意又は過失が存す
る。本件のような常軌を逸した行為については、少なくとも重過失がある。
2 控訴人及び参加人の認否
 被控訴人らの右主張は否認する。
 仮に、本件補助金交付の公益上の必要性に関する控訴人及び参加人の主張が認め
られないとしても、本件補助金の支出は、従前からの一般的常識的な考え方に基づ
いてされたものであり、かつ、住民を代表する議会においても個別具体的な案件と
して審議され、是認されたものであって、控訴人には故意はもちろん過失も存しな
い。
第三 当裁判所の判断
一 本件の事実経過
 前記第二の二掲記の各事実に証拠(甲一ないし三、五ないし一五、三一の1ない
し3、三二ないし三六の各1及び2、三八の1ないし3、三九の1及び2、乙一の
1、一の2の1ないし6、一の3の1、一の4の1ないし51、一の5の1ないし
19、1の6の1及び2、二の1の1及び2、二の2の1ないし4、二の3の1な
いし8、二の4の1及び2、三の1、三の1の1ないし6、三の2の1ないし6、
三の3の1ないし5、三の4の1、三の5の1及び2、四の1の1ないし24、四
の2の1ないし40、四の3の1ないし36、四の4の1ないし41、五の1ない
し3、六の1ないし59、七の1の1ないし3、七の2の1ないし3、七の3の1
及び2、七の4の1ないし3、七の5の1ないし4、八の1の1ないし16、八の
2の1ないし74、八の3の1ないし6、八の4の1ないし26、九の1ないし
3、一〇ないし一二、一三の1ないし5、一四の1及び2、一五ないし二一、二二
の1及び2、二三ないし五七、五八の1ないし11、五九ないし六二の各1及び
2、六三ないし六五、七四、七五、七七、七九、丙一、二、三の1ないし15、四
の1ないし16、五ないし九、調査嘱託(関西汽船、下関信用金庫本店、山口銀行
本店、豊浦信用金庫本店、下関市役所、加藤汽船)、証人F、同C、同B、同G、
同H、控訴人本人(原審・当審))及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の各事実
が認められる。
1 本件会社の設立の経緯
(一) 昭和六二年ころ、当時のC市長は、下関市と姉妹都市の提携をしている韓
国釜山市との間に高速船を就航させることが、両市の人的・物的交流の緊密化、下
関市の
経済・産業の発展・振興、両市の往来時間の短縮等のため、是非とも必要であると
の考えの下に、下関市港湾局に対し、本件事業に係る両市を結ぶ海上高速旅客輸送
の可能性について調査を指示したところ、同局は、同年七月、「下関港・釜山港 
高速旅客艇就航の可能性について」と題する文書により、利便性及び採算性を中心
として概略の検討を行い、他輸送機関との比較において高速船就航実現の可能性は
十分あり得るとの調査の結果を発表した。
 そして、同年一一月、C市長の主導により、下関市内の民間企業有志による懇談
会が催され、これに参加した企業有志により、本件事業の推進に賛成する意向が確
認された。
 なお、この時点では、関釜フェリー及び釜関フェリー両社とも本件事業に積極的
であったことから、C市長は、両社が従前の事業の拡大という形で同事業を遂行
し、下関市が出資その他の形で協力するという構想を抱いており、これに従い、同
年一二月八日、右両社に対し、関釜高速船航路の開設について積極的な取組みを依
頼する旨の要請書を提出した。
(二) C市長は、昭和六三年三月八日、下関市議会定例会で、なるべく早く高速
船の就航を実現しなければならない旨の発言をした。そして、これを受けた下関市
港湾局は、新潟・佐渡間に就航する高速船を現地視察した上で、同年七月二〇日、
本件事業の可能性についての資料を同市議会建設委員会に提出した。
(三) 下関市議会は、平成元年三月二九日、「関釜間高速船就航実現に関する決
議」を可決しC市長に対し本件事業の早期実現を要望するとともに、同事業の調査
費として四五〇万円の支出を議決した。また、同在六月一日には、下関市、関釜フ
ェリー、釜関フェリー及びサンデン交通の四者で構成する「関釜高速船計画調査委
員会」が発足し、その経費は、右四者が四〇〇万円ずつ出資して賄うこととなっ
た。そして、同調査委員会は、同年六月七日、株式会社三菱総合研究所(以下「三
菱総合研究所」という。)に対し、本件事業の実現可能性について調査研究を委託
した。
 ところが、同年七月一日、九州旅客鉄道株式会社(以下「JR九州」という。)
が本件事業と競合する博多・釜山間の高速船運航事業計画を発表したことから、地
元の関釜フェリー及び釜関フェリーが同事業に消極的となり、このため、C市長
は、大阪市に本社のある関西汽船にも同事業への取組みを依頼した。
 C市長は、右の経過から
、当初望んでいた民間企業が自ら事業を拡大して本件事業を遂行するという構想を
断念し、下関市及び山口県の公的資本と民間資本を合わせた第三セクター方式の会
社を設立し、これを事業主体として本件事業を推進することを考え、関係各機関に
その旨の協力を要請した。
(四) 下関市は、平成元年七月から九月にかけて、C市長の名で、運輸省国際運
輸・観光局長、韓国海運港湾庁等に対し、本件事業推進の意思表示をするととも
に、I・J各議員等の有力な政治家への陳情や関係各機関への協力要請を行った
が、その際、第三セクター方式による会社を事業主体とする意向を示し、同月二五
日には、C市長において、山口県、下関市、同市議会、民間企業六社及び山口銀行
に対し、関釜高速船株式会社設立準備会への参画を要請する文書を発送した。一
方、同年一二月には、三菱総合研究所から、ジェットフォイルは、需要量、採算、
財務評価のいずれから見ても実現可能性のある船種で、関釜間に就航させた場合、
財務的に相当有利であり、運航初年度から黒字になる見込みである旨の調査報告書
が提出され、下関市議会も、同月一九日、本件事業計画調査費補助金八〇〇万円の
支出を議決した。もっとも、JR九州の前記競合事業の計画が先行したこともあ
り、三菱総合研究所の右調査報告書の予測については懐疑的な見方が大勢を占め、
本件事業の収益性・採算性については関係各方面において強い懸念が指摘されてお
り、民間企業や金融機関も本件事業への参画には消極的で、下関市においてその協
力を取り付ける作業は難航を極めた。
(五) 下関市は、平成二年二月一日、関西汽船の元代表取締役であるBを同市港
湾局の関釜高速船計画顧問に迎え、同計画調査委員会も同人に顧問を嘱託し、他方
では、同月二七日、財団法人下関二一世紀協会から、C市長に対し、市民五万六一
六八名の署名を添えて本件事業の早期実現の要請がされた。さらに、下関市は、同
年四月一〇日、助役を本部長とし、その他の構成員全員が市職員からなる「関釜高
速船計画推進本部」を総務部に設置し、このような経過の中で、C市長は、同月二
七日、同市議会総務委員会において、本件事業が実現しなかった場合には自ら責任
を取るとの方針を明言した。ところで、そのころ、大阪商船三井船舶株式会社との
交渉により、ようやく同社が中核企業として参画する目途が立ったことから、C市
長は、同年九月二八日、下関
市の選定した同市内の有力な民間企業各社にあてて、本件会社設立のための発起人
会招集の案内文を同市長名で発送した上で、これらの企業を訪問したり、説明会を
開催するなどして理解を求めた。そして、同年一〇月一二日、下関市及び民間企業
代表者八名により、本件会社の発起人会が開催されて定款も作成され、同年一一月
二日、その設立総会が開催され、本件会社の設立に至った。
2 本件会社の設立後の状況
(一) 本件会社は、前記の経過から地元の関釜フェリー及び釜関フェリーが本件
事業への協力に消極的となったため、平成三年初めころ、大阪市に本社のある関西
汽船に対し、本件船舶の傭船申込みをし、本件事業への協力を強く要請した。これ
に対し、関西汽船は、本件会社が運航経験のない会社であり、収益性について不安
定要素が多く、しかも、右傭船に強い難色を示していた本件船舶の共有者である加
藤汽船の了解を得るためにはその持分を借り受けて自ら同社に傭船料を支払わなけ
ればならない事情もあることから、本件会社による傭船料の支払に強い懸念を示
し、本件事業を主導する下関市に対して同市がその履行について最終的な責任を負
うことを確約する旨の文書を要求した。そこで、C市長は、平成三年二月一九日、
関西汽船に対し、本件傭船契約の締結のために、「今回関西汽船株式会社、加藤汽
船株式会社共有の「ジェット8」を日韓高速船株式会社が傭船するにあたり、4年
間の傭船期間及び傭船料の支払については、同社に対し契約条項を忠実に履行する
よう強力に指導するとともに、万一問題が生じた場合は、同社とともに責任をもっ
てその解決に努力致します。何卒、日韓高速船株式会社の経営は、下関市の事業と
一体と考えておりますことなどをご勘案いただき、格別のご高配のほど宜しくお願
い申し上げます。」と記載した本件確約書を送付した。この本件確約書は、C市長
の指示を受けた下関市の総務部国際交流課の幹部が起案し、「日韓高速船傭船に伴
う確約書について」との件名の下に同市の市長・助役・総務部長ほか六名の決裁を
経た取扱注意の公文書であり、C市長の署名がされ、その公印も押されている。
 そして、関西汽船は、本件確約書の送付を受けて、同年三月二九日、本件会社と
の間で、本件傭船契約を締結した。右契約の締結に際して、関西汽船は、前記のと
おり本件船舶の共有者である加藤汽船の了解を得るためにその共有持分を借り受け
、本件会社から受領する傭船料の中から加藤汽船に対して右共有持分の割合に相当
する傭船料を支払うことを同社との間で約した。
(二) 下関市の本件会社への出資比率は、設立当初は二二・四二パーセントであ
ったが、平成三年八月に行われた増資(第一回増資)の際、同市が新株を引き受け
なかったので、その比率は、一一・九一パーセントとなり、他方で、山口県が新株
を引き受け、その出資比率が七・一五パーセントとなったため、公共団体からの出
資比率は、合わせて一九・〇六パーセントとなった。さらに、平成四年四月二八日
の増資(第二回増資)でも、下関市は新株を引き受けておらず、その出資比率は一
〇・二五パーセントに減少する一方で、山口県の出資比率は一〇・二五パーセント
となり、その結果、公共団体からの出資比率は、合わせて二〇・五パーセントとな
った。
 なお、本件会社の設立時の出資額は、下関市五〇〇〇万円、本件六社合計一億六
〇〇〇万円(五〇〇〇万円と三〇〇〇万円各一社ずつ、二〇〇〇万円四社)、山口
銀行一〇〇〇万円、山口合同ガス株式会社二〇〇万円、B個人一〇〇万円であり、
資本金合計二億二三〇〇万円で本件会社を発足させている。
(三) 本件会社の組織は、設立当初は、C市長が代表取締役会長(市長の交替に
伴い、平成三年五月三〇日以降、控訴人が同市長に代わって就任した。)に、Bが
代表取締役社長にそれぞれ就任し、その他の取締役には、下関市職員一名と本件会
社に共同出資した民間企業(本件六社を含む。)の各取締役らが、監査役には、同
市の職員が就任し、その後も、本件会社の役員中における市長を含む同市の職員の
数は三名のまま推移したが、同市から本件会社に派遣されていた他の職員の数は、
当初の二名から後に三名となった。
 そして、平成四年一〇月二〇日、B及び控訴人は、本件会社の代表取締役社長及
び会長をそれぞれ辞任し、代わって、下関市の助役であったFが同社の代表取締役
社長に就任した。
3 本件補助金の交付の経緯
(一) 本件会社は、平成三年七月三一日、高速船の運航を開始したが、本件船舶
が航行区域を沿海区域(限定)とする船を国際航路用に改造したもので、玄界灘を
航行するに適しないという事情等から欠航が多く、当初から経営は厳しかった。そ
こで、本件会社は、運転資金調達のため、前記各増資のほかに、原判決別紙2の1
及び2(1)のとおり、下関信用金庫、山口銀行及
び豊浦信用金庫から本件借入金合計三億八〇〇〇万円を借り入れるとともに(本件
借入金に係る連帯保証及び信用保証の状況は、後記(三)[掲記のとおり]、下関
信用金庫及び山口銀行から合計八億円を借り入れ、平成三年九月二七日には、下関
市議会が、右八億円について、下関市地域活性化資金融資(制度融資)として同市
が損失補償する旨の補正予算案を可決した。
 ところで、本件会社は、平成四年六月二〇日から高速船を小倉港にも寄港させた
が、業績は好転せず、同月二八日には、当期損失九億一一〇〇万円を計上するに至
り、同年九月末における消席率は二二・六九パーセント、就航率七五・九三パーセ
ントと低迷した。これに対し、下関市議会は、同年九月二八日、財政調整基金の繰
入金を財源とし、下関市地域活性化事業資金貸付(直接融資)として同市が本件会
社に合計一〇億円を直接貸し付ける旨の補正予算案を可決した。もっとも、下関市
議会総務委員会は、右補正予算の議案の採択に際して、財政的・社会的な影響を懸
念し、同市の本件会社に対する融資は当該年度限りとする旨の要望を付している。
 しかるに、本件会社は、その後も、運航を続けるにつれて赤字が累積する状態が
続き、遂に、同年一二月一日をもって高速船の運航を休止するに至った。
(二) 本件会社は、高速船の運航休止に当たり、関西汽船に本件船舶の返船を申
し入れたところ、関西汽船は、本件船舶が外航用に改装済みであるため、返船され
ても遊休船になること、本件傭船契約に中途解約の条項が設けられていないこと等
を根拠にこれを拒絶した。また、関西汽船は、加藤汽船から、残余の契約期間に係
る持分相当の傭船料四億円余の支払を求める訴訟を提起され、同社に傭船料約四億
円を支払うことで訴訟上の和解を余儀なくされたため、本件会社に対し、右契約に
基づき、残余の契約期間に係る傭船料・損害金等合計一三億三三〇〇万円余の支払
を請求した。これを受けて、本件会社及び下関市の各担当者は、右傭船料・損害金
等の負担の減額を求めて関西汽船と交渉を続けたが、関西汽船は、本件会社に対し
て右傭船料・損害金等の支払を厳しく督促し、下関市に対しても、本件確約書の存
在を根拠に、同市が責任をもって解決に努力する旨の約束の実行を要請する催告状
を送付した。
 そして、本件会社の代表取締役(下関市助役)Fが中心となって関西汽船と右交
渉を重ねた結果、平成六年三月一〇
日、本件会社が関西汽船に清算解決金四億六五〇〇万円を支払うことにより、本件
傭船契約を合意解除する旨の合意が成立し、その旨の確認書が作成され、同月二八
日、その旨の覚書が交換された。その結果、関西汽船は、加藤汽船に対する傭船料
の支払額約四億円を控除した約六五〇〇万円をもって改装済みの本件船舶を引き取
り、自己の費用をもって保管・維持せざるを得なくなった。
 本件会社の売上げ及び収益は、高速船の運航を休止した平成四年一二月一日以降
皆無の状態となり、右当時の本件会社の代表取締役Fは、かかる状況の下で右清算
解決金を関西汽船に支払うためには同市からの補助金以外に資金捻出の方法がな
く、従前同市の主導の下に、同市が責任をもって問題の解決に努力する旨の同市長
名の本件確約書まで差し入れて本件事業への協力を取り付けた経緯から、同社との
交渉により最大限の譲歩を得た右清算解決金の限度では、同市の責任において本件
事業の債務整理を行い事態を解決することが、市政に対する信頼を維持するために
必要であり、公益に合致すると考え、平成六年三月一〇日、当時の下関市長であっ
た控訴人に対し、その旨を告げて、右清算解決金の支払のために第一補助金の交付
を要請した。
(三) 本件会社の負債総額は、同月三一日当時、金融機関からの借入金二一億八
〇〇〇万円と前記本件傭船契約の清算解決金四億六五〇〇万円の合計約二六億五〇
〇〇万円であった。そして、右借入金の内訳は、原判決別紙2のとおりであり、こ
れらのうち、直接融資一〇億円は下関市が直接貸し付け、また、制度融資八億円は
同市の損失補償付きであり、同市が責任を負担しないものは本件借入金三億八〇〇
〇万円であった。
 本件借入金三億八〇〇〇万円の融資について当初本件会社及び下関市から要請を
受けた金融機関は、本件会社の収益性及び支払能力への懸念から、融資の条件とし
て連帯保証人の確保を求め、①山口銀行の一億円の融資については当時の本件会社
の代表取締役会長であったC市長の連帯保証、②下関信用金庫の二億円の融資につ
いては本件六社の連帯保証、③豊浦信用金庫の八〇〇〇万円の融資については山口
県信用保証協会(山口県の外郭団体)の信用保証及び当時の本件会社の代表取締役
社長であるBの連帯保証を得た上で、各融資に応じたものであり、右①の融資につ
いては、C市長の代表取締役会長退任に伴い、山口銀行の意向を受けた下関市
側の依頼により、当時の代表取締役社長のBがC市長の連帯保証を引き継いだもの
である。右①の連帯保証の引継ぎの際、当時の下関市のE総務部長は、山口銀行の
要請で代表取締役の連帯保証を維持する必要があり、当時の代表取締役会長の控訴
人では資産面で難点があり同銀行の審査が通らないため、相応の資産のある代表取
締役社長のBに連帯保証の引継ぎを依頼し、同市が責任をもって対処するので保証
人には迷惑はかけないからと告げて同人の了承を得るとともに、右③の連帯保証の
際にも、E総務部長が、同様の趣旨を告げてBから右連帯保証について了承を得
た。また、右②の本件六社の連帯保証は、下関信用金庫の意向に沿って、E総務部
長から依頼を受けた当時の代表取締役社長のBが、本件会社の設立時の共同出資者
で同社に取締役を派遣していた本件六社にこれを依頼し、E総務部長の右同様の発
言を伝えてその了承を得たものである。もっとも、本件会社の借入金債務の支払に
問題が起きたときは同市が責任をもって対処する旨のE総務部長の右発言は、口頭
のものにすぎず、その内容を書面化した文書の差入れは一切行われていない。ま
た、いずれの連帯保証人も、本件会社から保証料の支払は受けていない。
 そして、本件会社の代表取締役Fは、前述の状況の下で本件会社には右借入金の
返済能力がなく、従前下関市の主導の下で、同市が責任をもって対処するので保証
人に迷惑はかけないからと要請して連帯保証の了承を取り付けた経緯から、かかる
連帯保証人らに本件借入金三億八〇〇〇万円の負担をさせることは、同市への信頼
を裏切ることになるので、右借入金に関しても、同市の責任において事態を解決す
ることが、市政に対する信頼を維持するために必要であり、公益に合致すると考
え、平成六年三月一〇日、当時の下関市長であった控訴人に対し、その旨を告げ
て、前記(二)の第一補助金と併せて第二補助金の交付を要請した。
 ところで、右②の連帯保証人である本件六社は、当時いずれも経営・資産の状況
は良好で、右二億円の連帯保証債務の各負担部分(各六分の一の三三三三万円余)
を弁済するに足りる十分な資力を有しており、主債務者である本件会社が運航休止
により支払不能の状態に陥った後、各社から本件会社に派遣された取締役らの中に
は、各社で右負担部分の金額を負担してもよいとの意見を述べる者もいた。また、
右①及び③の連帯保証人であるB
も、融資・保証時の金融機関の審査に堪える相応の資産があり、本件会社から代表
取締役社長として相応の役員報酬(当初は年額一八〇〇万円、その後年額一二〇〇
万円、六〇〇万円と減額)を受領しており、本件会社が運航休止により支払不能の
状態に陥った時点で、自身にも連帯保証の負担がかかっていることを心配していた
(なお、山口銀行及び豊浦信用金庫の貸金債権又は山口県信用保証協会の求償金債
権がBの資力の不足により一部回収不能となり損金処理されたとしても、各金融機
関の資産状況、既払の利息(同銀行一六一二万円余、同信用金庫一〇三九万円余)
等を併せ考えると、右程度の貸倒れ等により、右当時の各金融機関の経営に重大な
影響を及ぼすおそれがあったものとは到底認められない。)。そして、右補助金交
付の要請に先立って、本件会社及び下関市の各担当者から、本件六社及びBに対し
て応分の負担を求める折衝は一切行われておらず、また、右相当額の利息等の支払
を受けてきた本件会社の共同出資者である同銀行及び同信用金庫並びに山口県(本
件会社の共同出資者)の外郭団体である同信用保証協会に対して本件借入金(求償
金)債務の元本及び利息の減額を求める交渉も別段行われていない。
 なお、本件借入金合計三億八〇〇〇万円の元本に対する利息は、第二補助金によ
る元本弁済前(平成六年三月分まで)の期間については全額の合計五一八二万円余
が支払われ、将来の利息の支払につき最大限の交渉の努力を求める市議会の要望
(後記(五))を踏まえた第二補助金交付後の本件会社及び下関市の各担当者の交
渉により、各金融機関から同市に対する合計三九〇〇万円の寄付(下関信用金庫一
五〇〇万円、山口銀行二〇〇〇万円、豊浦信用金庫四〇〇万円)という形式により
(各金融機関の税法上の処理の関係で右形式が採られた。)、既払利息の一部に相
当する金額(本件会社の運航休止時から第二補助金による元本弁済時までの期間に
ほぼ相当する金額)が同市に返還された。
(四) 本件会社の代表取締役Fから右(二)及び(三)の各補助金交付の要請を
受けた控訴人は、Fと同様の考え方に立って、下関市平成六年第一回定例市議会
に、右(二)の四億六五〇〇万円及び右(三)の三億八〇〇〇万円の合計八億四五
〇〇万円の金員を、本件会社に対する本件補助金として交付する旨の補正予算案を
上程し、同年三月二八日その可決を得て、同月三一日に本件
補助金の交付決定(支出負担行為)及び経費支出伺いの決裁(支出命令)をし、同
年四月一四日に第一補助金が、同年五月二五日に第二補助金が、それぞれ本件会社
に交付された。これを受けて、本件会社は、前記清算解決金を関西汽船に、本件借
入金を各金融機関にそれぞれ弁済した。
(五) 右平成六年第一回定例市議会における右補正予算案の審議において、下関
市(F助役)からは、同市が主導的に関係企業等に協力を要請して公益性の高い本
件事業を推進してきた経緯から、同市の責任において事態を解決することには公益
上の必要性がある旨の説明がされ、また、右補正予算案の議案を審査した総務委員
会の委員長からは、①第一補助金について、下関市が本件確約書に基づく責任を追
求された場合の事態の決着の見極めは極めて困難であり、放置すれば利息はふくれ
上がるので、補助金の交付をもって決着を図るのが得策であって、関西汽船との交
渉によりぎりぎりの線で減額を取り付けた前記清算解決金の限度での支出はやむを
得ない旨の説明がされ、②第二補助金について、融資の際の連帯保証人は下関市の
強力な要請によるものであったことから、同市の責任は極めて重く、従前支払われ
てきた利息の今後の支払については金融機関との交渉の余地があるので、その減額
について最大限の努力方の要望を付した旨の説明がされた。これに対し、議員の間
からは、第二補助金との関係で連帯保証人の責任を指摘する質疑に加えて、補助金
全体について公益上の必要性を欠くとして反対の意見も出されたが、最終的には賛
成多数で右補正予算案が可決された。
 もっとも、右定例市議会の審議に先立つ総務委員会における議論では、委員(議
員)の間から、特に第二補助金支出の必要性について、既に合計五一八二万円余の
利息の支払を受けている金融機関及び本件六社等の連帯保証人との関係で、本件借
入金の元本全額を補助金で補償することは、市民の税金で特定の企業等の利益まで
補償することになり、不当であるとの強い異論が提起され、第一補助金と第二補助
金は区別して考え、前者のみに限定して議案を採択すべきであるとの意見も主張さ
れ、数回の審査会議を重ねても意見が対立してまとまらず、最終的には賛成多数で
原案どおり議案が採択されたが、議案の採択に際しては、第二補助金の関係で、将
来の利息の支払について金融機関との交渉に最大限の努力を求める旨の要望が付さ
れてい
る。
 また、本件補助金の交付に関しては、右定例市議会での右補正予算案の審議中
に、自治省財政局指導課から「将来の財政への影響を十分考慮して慎重に行ってほ
しい。全部行政がかぶるのはいかがなものか。」との疑問が投げかけられ、その旨
の新聞報道がされている。
(六) 右の諸手続を経て交付された第一補助金四億六五〇〇万円及び第二補助金
三億八〇〇〇万円の合計八億四五〇〇万円は、右平成六年第一回定例市議会におい
て補正された下関市平成五年度予算の歳出合計八五六億円余の一部として、同市の
積立金の処分(財政調整基金の取崩し)による繰入金を原資として支出されたもの
であり、本件補助金支出後の財政調整基金の残高は三〇一億円余であった。また、
平成五年度の下関市監査委員による下関市一般会計及び特別会計決算並びに基金運
用状況の審査意見書には、同年度の経常収支比率は七九・二パーセントで、標準的
とされる七〇ないし八〇パーセントの範囲内を維持しており、実質収支は一九億五
一二九万円余の黒字となり、剰余の一部として一〇億円が財政調整基金に積み立て
られるなど、「収支均衡の健全な財政運営がなされている」との記載がされてい
る。
二 争点1(本件補助金の交付に係る控訴人の財務会計行為の適法性)について
1 補助金交付の適法性に関する判断基準
 地方自治法二三二条の二は、「普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合
においては、寄附又は補助をすることができる。」と規定しているところ、地方公
共団体の長は、地方自治の本旨の理念に沿って、住民の福祉の増進を図るために地
域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を担う地方公共団体の執行機関
として、住民の多様な意見及び利益を勘案し、補助の要否についての決定を行うも
のであり、その決定は、事柄の性質上、当該地方公共団体の地理的・社会的・経済
的事情及び各種の行政施策の在り方等の諸般の事情を総合的に考慮した上での政策
的判断を要するものであるから、公益上の必要性に関する判断に当たっては、補助
の要否を決定する地方公共団体の長に一定の裁量権があるものと解される。他方
で、地方自治法二三二条の二が地方公共団体による補助金等の交付について公益上
の必要性という要件を課した趣旨は、恣意的な補助金等の交付によって当該地方公
共団体の財政秩序を乱すことを防止することにあると解される以上、右裁量権の範
囲には一定の限
界があり、当該地方公共団体の長による公益上の必要性に関する判断に裁量権の逸
脱又は濫用があったと認められる場合には、当該補助金の交付は違法と評価される
ことになるものと解するのが相当である。そして、地方公共団体の長が特定の事業
について補助金を交付する際に行った公益上の必要性に関する判断に裁量権の逸脱
又は濫用があったか否かは、当該補助金交付の目的、趣旨、効用及び経緯、補助の
対象となる事業の目的、性質及び状況、当該地方公共団体の財政の規模及び状況、
議会の対応、地方財政に係る諸規範等の諸般の事情を総合的に考慮した上で検討す
ることが必要であると解される。
 なお、地方財政法四条一項は、「地方公共団体の経費は、その目的を達成するた
めの必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない。」と規定している
ところ、地方公共団体が出資・出捐を行っている第三セクター方式の株式会社の経
営悪化に伴う債務整理に係る公的支援の在り方に関しては、平成一一年五月二〇日
付けで自治大臣官房総務審議官から各都道府県知事及び各指定都市市長あてに発出
された「第三セクターに関する指針について」と題する自治省通知(同年自治政第
四五号)において、第三セクター自体は法的に独立した事業主体であり、その債務
について地方公共団体が出資者として負う法的な責任はあくまでも出資の範囲内
(有限責任)であることから、地方公共団体は、出資の範囲内の負担、損失補償契
約に基づく負担又はあらかじめ定められたリスク分担に基づく負担を負うにとどま
るのが原則であり、右有限責任の範囲を超えた損失補償契約等の債務負担行為の設
定は、将来の財政運営への影響を考慮して、真にやむを得ない場合に限定し、地方
公共団体が過度の負担を負うことのないようにすべきである旨の指針が定められて
おり(甲三〇)、右通知に係る指針は、本件補助金の交付後に発出されたものでは
あるが、地方財政法四条一項の趣旨に則した地方財政を監督する機関の指針とし
て、本件補助金の交付に係る裁量権の逸脱又は濫用の有無の判断に当たって参考と
なるものということができる。
2 本件事業の目的・性質等
 そこで、本件事業の目的・性質等についてみるに、前記一認定の事実関係に徴す
ると、日韓高速船による海上輸送を業務とする本件事業は、国際交流等の促進によ
る下関市の経済・産業の発展・振興等の公益的な目的の下に、日韓高速船の就
航の実現を求める市議会の決議や市民五万六一六八名の署名による要望を受けて、
その実現への決意を市議会で宣言した市長が自ら運輸省、国会議員、韓国関係当
局、山口県等に協力を求め、下関市が民間企業・金融機関等に出資・融資等による
資金提供を懇請し、同市が中心となって設立準備手続を進めた官民共同出資の第三
セクターによって推進・実施されたものであり、本件会社の構成も、市長又は助役
が自ら代表取締役(会長又は社長)に就任し、同市の幹部・職員らが派遣されて経
営に実質的に参画するなど、同市の主導の下に推進された公益性のある事業であっ
たと認めるのが相当である。そして、かかる事業推進の経緯等に照らすと、下関市
の要請を受けた複数の民間企業等による共同出資の結果、本件会社への同市の出資
比率が四分の一(監査委員による監査の要否の基準(地方自治法一九九条七項、同
法施行令一四〇条の七第一項))以下にとどまっていたことの一事をもって、本件
事業における下関市の主導性及び事業自体の公益性を否定することはできないもの
というべきである。JR九州の前記競合事業の計画が先行したこともあり、本件事
業の収益性・採算性に対する懸念等から、民間企業や金融機関も本件事業への参画
には消極的であって、設立準備作業が難航する中で、下関市の経済・産業の発展・
振興等を標榜する同市の強い要請によりようやく関係各方面の協力を取り付けた一
連の経緯にかんがみると、本件事業における同市の主導性は高いものであったとい
うことができる。
 他方で、前記認定のとおり、下関市の本件会社への出資比率は、設立時に二二・
四二パーセント、増資後は一〇・二五パーセントにとどまっていたものであり、本
件会社の経営悪化に伴う債務整理における補助金の交付について公益上の必要性の
有無に関する市長の判断の適否を検討するに当たっては、事業の廃止に伴う債務整
理に対する公的支援という事柄の性質上、右に述べた本件事業における市の主導性
及び事業自体の公益性と、右有限責任の範囲を超える公的負担の限界とを相互に勘
案した上で他の諸事情を総合考慮して検討することが必要となるものと解される。
3 第一補助金の交付に係る裁量権の逸脱又は濫用の有無
 まず、第一補助金の交付につき裁量権の逸脱又は濫用があったといえるか否かに
ついて判断するに、前示のとおり、関西汽船は、下関市の主導の下に本件事業への
協力を強く
要請され、本件会社の収益性及び支払能力に対する強い懸念から当初右事業への参
画に消極的であったが、同市から本件会社の傭船料等の支払に問題が起きたときは
同市が責任をもって解決に努力する旨の下関市長(C市長)名の本件確約書(同市
の幹部の起案及び市長の決裁を経て、市長の署名・公印を付したもの)が交付され
たため、これを信頼して本件傭船契約の締結に応じ、その結果加藤汽船に対して残
余の契約期間に係る約四億円の傭船料の支払を余儀なくされた経緯があり、かかる
状況の下で同市が右市長名の本件確約書の文言を反故にして右傭船料等の損失全額
を取引先の関西汽船に負わせることは、右契約締結の経緯及び右損失に係る紛争の
状況等に照らし、本件確約書に基づいて同市の責任を糾弾され、市政に対する社会
的信頼の失墜を招き、将来にわたる各方面からの同市への協力が得られなくなるお
それがあったことを否定することができず、かかる観点から市政に対する社会的信
頼を保持する目的で、本件会社及び下関市の各担当者による関西汽船との再三の減
額交渉により、本件会社が右契約上の義務として請求されていた傭船料・損害金等
の負担額一三億三三〇〇万円余につき大幅な減額を取り付けた後、清算解決金四億
六五〇〇万円の限度で第一補助金の交付を行ったことについては、本件事業におけ
る下関市の主導性及び事業自体の公益性、当時の同市の財政の規模及び状況(前記
一3(六))、市議会の対応(同3(五))等の諸事情を併せて考慮すれば、地方
財政に係る諸規範、同市の本件会社に対する従前の融資状況等を勘案しても、当時
の状況の下でこれを公益上の必要性があると控訴人が判断したことに裁量権の逸脱
又は濫用があったとまでは認められないものというべきである。また、本件補助金
の交付は、前示のとおり下関市の積立金の処分(財政調整基金の取崩し)による繰
入金をその財源に充てたものであり、右積立金の処分は、地方財政法四条の四第三
号にいう「必要やむを得ない理由」によるものであることを要するところ、右要件
の判断に関しては、右公益上の必要性の要件と同様に、事柄の性質上、処分の要否
を決定する地方公共団体の長に一定の裁量権がある一方で、右裁量権の範囲には一
定の限界があると解されるが、右諸般の事情を総合的に考慮すれば、当時の状況の
下で第一補助金の支出のために右積立金の処分をすることに「必要やむを得ない理

」があると控訴人が判断したことについても、裁量権の逸脱又は濫用があったとま
では認められないものというべきである。
 右のとおり、本件傭船契約の合意解除に際し、本件会社及び下関市の各担当者
は、関西汽船との折衝により、本件会社が右契約上の義務として請求されていた傭
船料・損害金等の負担額一三億三三〇〇円余を大幅に減額する努力を行っており、
関西汽船は、右清算解決金四億六五〇〇万円から加藤汽船に対する傭船料の支払額
約四億円を控除した約六五〇〇万円をもって改装済みの本件船舶を引き取り、自己
の費用をもって保管・維持せざるを得なくなったもので、結果的には関西汽船の本
件会社に対する右契約に基づく右傭船料・損害金等の債権の大半を失うに至ってい
る以上、右清算解決金の支払は、本件事業の廃止に伴う関西汽船の損失を一定の限
度に抑えたというにとどまり、被控訴人らの主張するように同社に不当な利益をも
たらすものということはできない。被控訴人らは、本件傭船契約における傭船料自
体が不当に高額なものであり、既払の傭船料によって右各社は不当な利益を得てい
る旨主張するが、本件全証拠によっても、本件傭船契約における傭船料がそれ自体
不当に高額であると認めるには足りず、右主張は採用することができない。また、
被控訴人らの指摘に係る第一補助金交付の約一年九か月後にされた本件船舶の売却
による利益の有無及び額に関しては、本件傭船契約の合意解除の当時に右売却が予
期されていたものと認めるに足りる証拠はなく、第一補助金交付の適否に関する前
示の判断を左右するものではない。
 また、本件確約書が法的には拘束力のないものである(法人に対する政府の財政
援助の制限に関する法律三条参照)ことは、被控訴人らの指摘するとおりである
が、他方で、前示の事実関係によれば、下関市長の署名・公印の付された本件確約
書は、その内容・形式の両面において、本件会社の収益性及び支払能力に対する強
い懸念から本件傭船契約の締結に消極的であった関西汽船が右契約の締結に応ずる
に至った決定的な要因であったといえる以上、当時の状況の下で下関市の負担にお
いて市政に対する社会的信頼を保持する必要性の有無を判断する上で、本件確約書
の存在がその必要性を肯認する方向に作用する諸事情の一つであることは否定する
ことができないものと解される(もっとも、前記「第三セクターに関する指針につ
いて」と題
する自治省通知(平成一一年自治政第四五号)の指摘に照らしても、地方公共団体
の執行機関がその出資・出捐係る第三セクターの取引先等に対して将来の紛争の原
因となる右のような確約書を交付することは厳に戒められるべきことは、いうまで
もない。)。
 なお、証拠(乙二二の1及び2、証人C)及び弁論の全趣旨によれば、平成二年
一〇月二五日開催の下関市議会総務委員会の質疑において、C市長は、本件会社が
大きな赤字を出して破たんした場合の処理に関する質問を受けて、「そのときにな
らなければ言えないが、一般の商法で動いているわけだから、それで処理されてい
くというようにお考えいただきたい。」と答弁しているが、これは、本件会社の設
立直前にまだ経営破たんという事態を全く想定していなかった時点で、委員(議
員)の質問に答えて、仮定の話として一般論を述べたものであることが認められ、
自ら本件確約書を差し入れた関西汽船に対する十数億円の傭船料等の債務が未払の
まま本件会社が運航休止に至る事態まで想定したものではないと解されるので、右
答弁は第一補助金交付の適否に関する前示の判断を左右するものではない。
 以上のとおり、第一補助金の交付に係る控訴人の財務会計行為に関しては、これ
を違法と評価することはできない。
4 第二補助金の交付に係る裁量権の逸脱又は濫用の有無
 次に、第二補助金の交付につき裁量権の逸脱又は濫用があったといえるか否かに
ついて判断するに、一般に、主債務者の借入金債務について連帯保証人となる場合
に、主債務者から、保証人には迷惑をかけないからと依頼されてこれを引き受けた
場合でも、連帯保証人となった以上、法的には全面的な支払義務を負うものであ
り、債権者に対する関係で右の経緯は何ら宥恕されるべき事情とならないことは、
通常人はもとより、特に企業家であれば当然に承知している事柄というべきであ
る。しかも、前示のとおり、本件会社に取締役を派遣していた本件六社は、下関信
用金庫に対する連帯保証債務(二億円)の各六分の一の負担部分を分担して履行す
る十分な資力があり、各社から派遣された右取締役らの中には、各社で右負担部分
の金額を負担してもよいとの意見を述べる者もあったのであり、Bも、保証契約当
時の本件会社の代表取締役社長として自らの連帯保証責任を認識しており、本件の
融資保証の経緯、本件会社と山口銀行・豊浦信用金庫(共同出資者)及び
山口県信用保証協会(共同出資者である山口県の外郭団体)との関係、既払の利息
(同銀行一六一二万円余、同信用金庫一〇三九万円余)、補助金交付後の利息に係
る交渉結果、Bの役員報酬額(当初は年額一八〇〇万円)及び資産等の諸事情に照
らすと、仮に、本件会社及び下関市とこれらの金融機関との間で真撃な減額交渉が
行われていれば、相応の金額の一部弁済で合意に至った可能性の存在を否定するこ
とはできない。また、Bの個人保証に係る各金融機関の貸金債権又は求償金債権が
同人の資力の不足により一部回収不能となり損金処理されたとしても、それは、十
分な担保を確保しなかった各金融機関自身の責めに帰すべき事柄というべきである
(前示のとおり、各金融機関の資産状況及び既払利息の額等に照らすと、右程度の
貸倒れ等により、右当時の各金融機関の経営に重大な影響を及ぼすおそれがあった
ものとは到底認められない。)。したがって、本件会社に取締役を派遣していた本
件六社及び本件会社の代表取締役社長の地位にあったBが自ら連帯保証人の地位に
就いた以上、市職員(総務部長)の前記発言を踏まえて連帯保証に応じた経緯があ
るとしても、これらの連帯保証人らに応分の負担を負わせたからといって、直ちに
下関市の責任を糾弾され、市政に対する社会的信頼の失墜を招き、将来にわたる各
方面からの同市への協力が得られなくおそれがあったとはいえず、本件会社及び下
関市の各担当者において、これらの連帯保証人らに応分の負担を求める交渉を行わ
ないばかりか、相当額の利息(合計五一八二万円余)等の支払を受けてきた各金融
機関との減額交渉も行わないまま第二補助金の交付要請がされるに至った本件の事
実関係に徴すると、もはや回収不能となることが明らかな同市の本件会社に対する
前記合計一八億円の制度融資及び直接融資に加えて、本件借入金の元本合計三億八
〇〇〇万円全額の保証債務を第二補助金の交付により更に同市に肩代わりさせたこ
とについては、地方財政に係る諸規範、同市の本件会社に対する従前の右融資状況
等を併せて考慮すれば、本件事業における同市の主導性及び事業自体の公益性、当
時の同市の財政の規模及び状況(前記一3(六)、市議会の対応(同3(五))、
補助金交付後の利息に係る交渉結果(同3(三))、各連帯保証人の出資金額(同
2(二))及び保証料の欠如(同3(三))等の諸事情を斟酌しても、なお当時の

況の下でこれを公益上の必要性があると控訴人が判断したことに裁量権の逸脱があ
ったものといわざるを得ない。
 ところで、控訴人及び参加人は、本件会社の債務を破産法のみによって処理する
ことになれば、第三セクター方式を採用している全国の地方公共団体に多大な迷惑
を投げかけ、その協力者に重大な不信感を与えることになる旨主張するが、本件の
事案において右のような立場にあった連帯保証人らに応分の負担を負わせること
が、直ちに全国の地方公共団体に迷惑を投げかけ、その協力者に不信感を与えるも
のということはできず、右主張は採用することができない。
 また、控訴人は、本件補助金を交付しなかった場合には、既に本件会社が行った
小口債権者に対する弁済が優先弁済として問題とされ、その結果、それらの債権者
に影響が及ぶおそれがあった(破産による平等弁済ということになれば、小口債権
者に対する弁済は事実上不可能である。)旨主張し、証拠(乙七七、控訴人本人
(当審))によれば、本件船舶の運航休止後、本件会社は、大口債権者に優先して
地元の中小企業等の小口債権者に対する弁済に努め、平成六年三月ころまでにこれ
を完済した上で、右三億八〇〇〇万円の本件借入金と前記四億六五〇〇万円の清算
解決金の処理のために本件補助金の交付を控訴人に要請したことが認められるが、
一般に、資力的に可能な範囲で小口債権者に対する弁済に努めた上で、弁済の不可
能な大口債権については法的な倒産処理にゆだねたからといって、直ちに小口債権
者に対する弁済が否認権等の対象となるものではなく、本件において本件会社の小
口債権者に対する弁済につき詐害性等を認めるに足りる証拠はない以上、控訴人の
右主張に係る小口債権者の保護の観点は、第二補助金の適否に関する前示の判断を
左右するに足りるものではない。
 さらに、控訴人は、関西汽船の元代表取締役社長であったBはC市長を始めとす
る下関市幹部の強い懇請により本件会社の代表取締役社長就任を引き受け、形式だ
けの保証人で同市が責任を持つから絶対に迷惑をかけない旨の同市のE総務部長の
言葉を信頼して債務保証に応じたもので、Bには一億八〇〇〇万円もの債務を弁済
する資力もなく、同市が主導的に本件事業への協力及び右事業に不可欠の融資の保
証を依頼した経緯から、同人個人に右巨額の負担を負わせることは、市政に対する
社会的信頼を失い、将来にわたる市政に対する
各方面の協力が得られなくなるので、市政に対する社会的信頼を保持するために同
市が補助金により右債務を負担したことには公益上の必要性がある旨主張する。し
かしながら、仮に右主張のような経緯があったとしても、本件会社及び下関市の各
担当者において、本件会社の経営責任を負うべき代表取締役社長として相当額の役
員報酬を取得し、自ら連帯保証人の地位に就いたBとの関係で、何ら応分の負担を
求める交渉を行わず、また、前示のとおり減額交渉の材料となる諸事情が存したに
もかかわらず、相当額の利息等の支払を受けてきた各金融機関との減額交渉も行わ
ないまま第二補助金の交付要請がされるに至った本件の事実関係に徴すると、もは
や回収不能となることが明らかな同市の本件会社に対する合計一八億円の制度融資
及び直接融資に加えて、借入金の元本全額の保証債務を安易に同市に肩代わりさせ
たことは、経営責任を負うべき代表取締役社長の保証責任という事柄の性質上、前
示の地方財政に係る諸規範等に照らし、財政秩序の保持等の観点から、法令上許容
される裁量権の範囲を逸脱したものと評価せざるを得ない(なお、証人Bは、本件
会社の代表取締役社長在任中、二重生活や仕事上の出費のため一切利得は受けてい
ない旨供述し、乙七四の陳述書中にも同旨の記述があるが、これを裏付ける客観的
な証拠はなく、弁論の全趣旨等に照らし、右供述等はにわかに採用することができ
ない。)。
 したがって、第二補助金の交付に係る控訴人の財務会計行為は、地方自治法二三
二条の二に違反し、法令上これを違法と評価すべきものといわざるを得ず、市議会
において右補助金の支出に係る補正予算案が採択されたからといって、当該財務会
計行為の違法性が阻却されるものではない(最高裁昭和三七年三月七日大法廷判
決・民集一六巻三号四四五頁参照)。
5 以上のとおり、本件補助金のうち、第二補助金の交付に係る控訴人の財務会計
行為は違法と評価されるので、控訴人の当該行為につき故意又は過失の有無を検討
することとする。
三 争点2(控訴人の故意又は過失の有無)について
 前記一認定の事実によれば、控訴人は、下関市長として、また、約一年半にわた
り本件会社の代表取締役会長を兼務した者として、本件借入金合計三億八〇〇〇万
円に係る連帯保証人らの法的責任及びその履行可能性、本件会社の各金融機関に対
する利息等の支払状況、右連帯保証人ら及び各金
融機関との交渉の欠如、同市の本件会社に対する従前の融資状況等の諸事情を知悉
していたものと推認され、しかも、証拠(乙六四、控訴人本人(原審))によれ
ば、控訴人は、長年にわたり自治省及び地方公共団体に勤務し、同省税務局課長補
佐、県総務部次長兼財政課長、同省財政局指導課長、県副知事等を歴任し、とりわ
け同省財政局指導課長在任中には補助金支出等の在り方に関する地方公共団体に対
する指導を担当していたことが認められ、かかる経歴と職務経験から、補助金交付
及び積立金処分の要件及び在り方等について十分な知識と経験を有していたものと
推認される上、前記一3(五)のとおり、本件補助金の交付に関しては市議会での
補正予算案の審議中に、自治省財政局指導課から「将来の財政への影響を十分考慮
して慎重に行ってほしい。全部行政がかぶるのはいかがなものか。」との疑問が投
げかけられていたこと等を併せ考えると、控訴人は、第二補助金の交付に係る前記
の違法な財務会計行為につき、少なくとも過失による責任を免れないものといわざ
るを得ない。
 控訴人は、前示のとおり、本件事業の実現を積極的に推進したC市長の後任とし
て下関市長に就任し、右事業を引き継いだ立場にあり、従前同市が主導的に本件事
業への協力を要請してきた関係者らに多大な迷惑が及ばないように対処することが
市政に対する社会的信頼を保持するために必要であると考えて、本件補助金の交付
を市議会に提案したものであり、当時の状況の下で同人の置かれた立場に酌むべき
点があることは否定できないが、他方で、もはや回収不能となることが明らかな同
市の本件会社に対する合計一八億円の制度融資及び直接融資に加えて、前記連帯保
証人らの保証債務を何らの交渉も経ずに同市に全額肩代わりさせることを意味する
第二補助金の交付に関する限り、事業廃止に伴う債務整理と右連帯保証人らの保証
責任という事柄の性質上、前示の地方財政に係る諸規範及び前記自治省財政局指導
課の指摘等に照らし、市の財政秩序の保持を責務とする市長の地位にある者とし
て、その職務上の注意義務の履行に欠けるところがあったものといわざるを得ず、
前示のとおり過失による責任を免れることはできない。
四 損害額について
 前記一3(四)のとおり、第二補助金の交付により本件会社の各金融機関に対す
る本件借入金元本合計三億八〇〇〇万円の弁済がされた後、将来の利息の支払につ
き各金融機関との交渉に最大限の努力を求める旨の市議会の要望に基づき、本件会
社及び下関市の各担当者による交渉の結果、各金融機関から同市に対する合計三九
〇〇万円の寄付(下関信用金庫一五〇〇万円、山口銀行二〇〇〇万円、豊浦信用金
庫四〇〇万円)という形式により、既払の利息合計五一八二万円余の一部に相当す
る金額が同市に返還されており、右の経緯に照らすと、同市の取得した右三九〇〇
万円の収入は、第二補助金の支出による損失と相当因果関係のある事由により生じ
た利益であるということができるから、これを損益相殺することとし、本件におけ
る第二補助金の交付による損害に関しては、右補助金額三億八〇〇〇万円から右三
九〇〇万円を控除した三億四一〇〇万円をもって損害額と認めるのが相当である。
 したがって、控訴人は、下関市に対し、右三億四一〇〇万円の損害賠償義務及び
これに対する右補助金支出の後である平成六年八月一四日から支払済みまで民法所
定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負うものと認められる。
第四 結論
 以上の次第で、下関市に代位した被控訴人らの本訴請求は、本判決主文第一項の
限度で理由があるから、右の趣旨に沿って原判決を変更することとし、訴訟費用の
負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条二項前段、六一条、六四条本
文、六五条一項本文、六六条を適用して、主文のとおり判決する。
広島高等裁判所第二部
裁判長裁判官 川波利明
裁判官 布村重成
裁判官 岩井伸晃

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