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平成19年4月27日判決言渡
平成18年(行ケ)第10399号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成19年4月23日
判決
原告株式会社トップ
訴訟代理人弁理士佐藤辰彦
同鷺健志
同本間賢一
被告特許庁長官
中嶋誠
指定代理人千葉成就
同中島昭浩
同森川元嗣
同大場義則
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2004−5089号事件について平成18年6月26日に
した審決を取り消す。
第2争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成12年9月7日,発明の名称を「チューブの孔加工装置」と
する発明につき特許出願(特願2000−271018号。以下「本願」と
いう。)をし,平成15年12月19日付け手続補正書をもって本願に係る
明細書について特許請求の範囲等を補正した(以下,この補正後の明細書を
図面と併せて「本願明細書」という。)。
特許庁は,平成16年1月29日,本願につき拒絶査定をし,原告は,こ
れを不服として審判請求をした。
特許庁は,上記請求を不服2004−5089号事件として審理し,平成
18年6月26日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以
下「審決」という。)をし,その謄本は同年8月2日原告に送達された。
2特許請求の範囲
本願明細書の特許請求の範囲は,請求項1ないし3からなり,請求項1の
記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」とい
う。)。
【請求項1】
「弾性を有する熱可塑性のカテーテル用チューブに該チューブ内部と外部と
を連通する孔を開ける孔加工装置であって,先端の刃部が薄板で筒状に形成
されたポンチと,該ポンチを加熱する加熱手段と,前記ポンチを前記チュー
ブに向けて進退させる移動手段とを備え,前記加熱手段は前記チューブが徐
々に溶融される温度に前記ポンチを加熱し,前記移動手段は,前記加熱手段
により加熱されたポンチを前記チューブの外周面に押圧して該チューブを変
形させ,該チューブを変形させた状態で該チューブを溶断して孔を開け,前
記ポンチを前記チューブから離反させることを特徴とする孔加工装置。」
3審決の内容
審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,
引用例1(特開平10−100100号公報。甲1)に記載された発明(以
下「引用発明1」という。),引用例2(特開平8−309700号公報。
甲2)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)に基づいて当業者
が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定によ
り特許を受けることができないとしたものである。
審決は,次のとおり引用発明1を認定した上で,本願発明と引用発明1と
の間には,次のとおりの一致点及び相違点があると認定した。
(引用発明1)
「軟質塩化ビニル樹脂等の熱可塑性樹脂製のカテーテル用チューブ1に側面
孔を開ける孔開け装置であって,打抜き刃4と,該打抜き刃4を加熱する加
熱装置41と,前記打抜き刃4を前記チューブ1に向けて進退させるエアシ
リンダー5とを備え,前記加熱装置41は前記チューブ1の融点又は軟化点
に前記打抜き刃4を加熱し,前記エアシリンダー5は,前記加熱装置41に
より加熱された打抜き刃4を前記チューブ1の側面に押圧して孔を開け,前
記打抜き刃4を前記チューブ1から上昇させることを特徴とする孔開け装
置。」
(一致点)
「弾性を有する熱可塑性のカテーテル用チューブに該チューブ内部と外部
とを連通する孔を開ける孔加工装置であって,孔形成手段と,該孔形成手段
を加熱する加熱手段と,前記孔形成手段を前記チューブに向けて進退させる
移動手段とを備え,前記加熱手段は前記チューブが溶融される温度に前記孔
形成手段を加熱し,前記移動手段は,前記加熱手段により加熱された孔形成
手段を前記チューブの外周面に押圧して孔を開け,前記孔形成手段を前記チ
ューブから離反させることを特徴とする孔加工装置。」である点。
(相違点(1))
孔形成手段として,本願発明は,「先端の刃部が薄板で筒状に形成された
ポンチ」を用いているのに対して,引用発明1は,「打抜き刃4」を用いて
いる点。
(相違点(2))
溶融される温度が,本願発明においては,「チューブが徐々に溶融される
温度」であるのに対して,引用発明1においては,「チューブ1の融点又は
軟化点」である点。
(相違点(3))
「チューブの外周面に押圧して孔を開け」るにあたり,本願発明では,「
チューブの外周面に押圧して該チューブを変形させ,該チューブを変形させ
た状態で該チューブを溶断して孔を開け」るようにしているのに対し,引用
発明1においては,チューブを変形させているかどうか,チューブを変形さ
せた状態でチューブを溶断しているかどうかが明らかとはいえない点。
ただし,審決は,上記のとおり摘示した上で,相違点(2)及び(3)について
は,実質的な相違はないと判断している。
第3当事者の主張
1取消事由についての原告の主張
審決における本願発明と引用発明1との一致点の認定,相違点(1)の認定,
相違点(2)の認定及び判断に誤りがないことは認める。
しかし,審決には,以下のとおり,引用発明1の認定を誤ったため,相違
点(3)の認定及び実質的な判断を誤り(取消事由1),相違点(1)に係る容易
想到性の判断を誤り(取消事由2),また本願発明の作用効果の顕著性の判
断を誤り(取消事由3),その結果,引用発明1及び引用発明2に基づいて
当業者が容易に本願発明をすることができたとの誤った判断をした違法があ
る。
(1)取消事由1(相違点(3)の認定及び実質的な判断の誤り)
ア相違点(3)に係る形式的な認定の誤り
審決は,相違点(3)を認定するに当たり,本願発明では,「チューブの
外周面に押圧して該チューブを変形させ,該チューブを変形させた状態
で該チューブを溶断して孔を開け」ているのに対して,引用発明1にお
いては,「チューブを変形させているかどうか,チューブを変形させた
状態でチューブを溶断しているかどうかが明らかとはいえない」と認定
した。
しかし,審決の認定には,以下のとおり誤りがある。
引用例1(甲1)の記載(請求項1,2,段落【0008】∼【00
24】,【0028】,図1ないし4等)によれば,引用例1記載の孔
加工装置は,①孔開けの対象となるチューブを「少なくとも2室に仕切
られた断面構造を有するチューブ」に限定し,②「チューブの内面に当
接してその変形を抑える受け治具及び支え台」を有することを必須のも
のとし,③チューブの小室側に「受け治具」を,大室側に「支え台」を
それぞれ挿入した状態で,打抜き刃を小室の側面に当接させ,「小室が
変形するのを防止するとともに,隔壁が損傷するのを防止しながら」孔
を開けるものである。
以上のとおり,本願発明と引用発明1とは,本願発明では,「チュー
ブを変形させた状態で該チューブを溶断して孔を開ける」のに対して,
引用発明1では,「受け治具によりチューブが変形するのを防止した状
態で該チューブを溶断して孔を開ける」という点で相違する。
したがって,審決の相違点(3)に係る認定には,上記の相違を看過した
誤りがある。
イ相違点(3)に関する評価判断の誤り
審決は,①「引用発明1のチューブ1も弾性を有するものであるか
ら,打抜き刃4を押圧させると,当然に,チューブ1は変形するものと
認められ,・・・押圧時間を長くとって,チューブ1を徐々に溶融させ
ていることからして,チューブ1は,変形された状態で溶断されると認
める」(審決書5頁31行∼35行),②「引用例1においては,チュ
ーブ1の小室1aに受け治具2を,大室1bに支え台3をそれぞれ挿入
したうえで,打抜き刃4をチューブ1に押圧する旨が記載されている
が,受け治具2は,扁平なものであるから(図2参照),打抜き刃1を
チューブ1に押圧すれば,チューブ1が変形することは明らかであ
る。」(同5頁末行∼6頁4行)とした上で,相違点(3)は実質的な相違
点とはいえないと評価判断した。
しかし,審決の評価判断には,以下のとおり誤りがある。
(ア)審決は,引用発明1における「チューブ1は,変形された状態で
溶断されると認める」と認定している。
しかし,前記アのとおり,引用発明1では,受け治具によりチュー
ブが変形するのを防止した状態でチューブを溶断して孔を開けるもの
であり,引用発明1のチューブ1が変形された状態で溶断されるもの
ではないから,審決の上記認定は誤りである。
(イ)審決は,「引用例1においては,受け治具2は,扁平なものであ
るから(図2参照),打抜き刃1をチューブ1に押圧すれば,チュー
ブ1が変形することは明らかである。」と認定している。
しかし,引用例1の図2は,「隔壁を有するチューブに受け治具と
支え台が挿入された状態を示す模式断面図」にすぎず,小室と受け治
具との隙間の大きさ・寸法を正確に示したものではない。
他方,引用例1の「チューブの内面に当接してその変形を抑える受
け治具及び支え台を有し」(【請求項1】)との記載,「上記受け治
具2は,打抜き刃4の当接によって,チューブ1の小室1aが変形す
るのを防止すると共に,隔壁9が損傷するのを防止する。小室1aの
変形を防止することにより寸法精度のよい孔を開けることができ
る。」(段落【0016】)との記載などからみて,引用発明1が,
寸法精度のよい孔を開けるために,チューブの内面に受け治具を当接
させることにより,打抜き刃4の当接によってチューブ1の小室1a
が変形するのを防止するものであることは明らかである。また,「受
け治具」が「チューブの内面に当接してその変形を抑える」と明記さ
れているのであるから,引用発明1においては,受け治具が当接する
ことによってチューブは実質上,変形しないと考えるのが技術常識で
あり,仮に引用発明1のチューブが熱可塑性樹脂製であるために僅か
に「変形」したとしても,本願発明のように,受け治具がない状態で
チューブが「変形」するものとは,全く異なる。
したがって,審決の上記認定は,単なる模式断面図のみに基づく根
拠薄弱なものであり,引用例1の他の記載事項を無視したものであっ
て,誤りがある。
(ウ)引用例1の実施例1に関する断面図(甲6)によれば,引用発明
1のチューブ1が変形された状態で溶断されることはない。
a引用例1の実施例1においては,小室1aの幅及び受け治具2の
幅が各3.5㎜,小室1aの高さが1㎜,受け治具2の厚み(高
さ)が0.5㎜であるから,小室に受け治具を挿入した場合,両者
は幅方向で内接し,両者の高さ方向の隙間は最大となる中央部でも
0.5㎜しかなく,両側端部では隙間がないに等しい(甲6の図
1,2)。
また,実施例1の大室1bの直径は8㎜,支え台3の直径は7㎜
であるから,大室に支え台を挿入した場合,両者の隙間は最大でも
1㎜しかない(甲6の図1,2)。
b加えて,実施例1の打抜き刃4は中実の棒状で直径が3㎜であ
り,小室1a及び受け治具2の幅より0.5㎜小さいことに照らす
と,小室に受け治具を挿入した状態で,打抜き刃を小室の外周面に
当接させて押圧した場合,小室と受け治具とは幅方向で内接し,高
さ方向の隙間は最大となる中央部で0.5㎜,両側端では隙間がな
いに等しいから,打抜き刃がチューブの外周面を押圧しても実質上
チューブは変形する余地はない(甲6の図5,6)。
なお,小室に受け治具を挿入したときの高さ方向の隙間は,寸法
上は最大で0.5㎜あるが,弾性のあるチューブが自重等によりた
わむので,実際には,ほとんど隙間が生じないことも十分考えられ
る。
c小室のチューブ外周面の肉厚を0.2㎜,0.5㎜,1.0㎜,
1.7㎜に設定して実施例1を再現した実験結果(甲7)によれ
ば,いずれの肉厚の場合でも,打抜き刃が小室のチューブ外周面を
押圧してもチューブは実質上変形しなかった。
(エ)したがって,相違点(3)は実質的な相違点とはいえないとの審決の
判断には誤りがある。
(2)取消事由2(相違点(1)の容易想到性の判断の誤り)
審決は,引用発明2の溶断プレス用刃物は,「先端の刃部が薄板で筒状
に形成されたポンチ」に相当するとした上で,「この溶断プレス用刃物,
すなわち,ポンチは,引用発明1の打抜き刃と,使用目的(打抜き孔の形
成),使用対象(熱可塑性合成樹脂)を同じくするものであるから,引用
発明1の打抜き刃に代えて,引用発明2の溶断プレス用刃物,すなわち,
ポンチを用いることは当業者ならば容易に想到し得る」(審決書5頁11
行∼16行)と判断した。
しかし,審決の判断には,以下のとおり誤りがある。
ア引用例1及び2における技術的思想の不開示
本願発明の技術的思想は,受け治具等を用いずに,チューブを変形さ
せた状態でチューブに孔を開けるものである。
これに対して引用発明1の孔加工装置は,前記(1)アのとおり,「少な
くとも2室に仕切られた断面構造を有するチューブ」のみを対象とし,
チューブの小室側に「受け治具」を,大室側に「支え台」をそれぞれ挿
入した状態で,打抜き刃を小室の側面に当接させ,「小室が変形するの
を防止するとともに,隔壁が損傷するのを防止しながら」孔を開けるも
のであり,引用例1には,受け治具によりチューブの小室の変形を防止
した状態でチューブに孔を開けるとの技術的思想のみが記載されてい
る。
また,引用例2にも,基台等に設置された被溶断材料に溶断プレス用
刃物を押圧して溶断するとの技術的思想が開示されているだけである。
したがって,引用例1及び引用例2のいずれにも,本願発明の上記技
術的思想について開示も示唆もない。
イ阻害要因の存在
引用発明1の打抜き刃は,直径3㎜程度の小さいものであり(甲1の
段落【0024】),孔開け加工をする毎に刃先が受け治具に押し付け
られるものである(同段落【0016】,【0019】)。
そうすると,引用発明1の打抜き刃を「先端部が薄肉の円筒状」に形
成した場合には,円筒状の刃先の肉厚が極めて薄くなるので,孔開け加
工をする毎の受け治具との接触により刃先が損傷しやすくなり,実用に
耐えないおそれがあるから,引用発明1に引用発明2を組み合わせて,
引用発明1の打抜き刃を「先端部が薄肉の円筒状」に形成することに
は,阻害要因がある。
ウ以上のとおりであって,引用発明1の打抜き刃に代えて引用発明2の
溶断プレス用刃物(ポンチ)(相違点(1)に係る本願発明の構成)を用い
ることは,当業者であれば容易に想到し得るとした審決の判断は誤りで
ある。
(3)取消事由3(本願発明の作用効果の顕著性の判断の誤り)
審決は,「本願発明により奏される作用効果も,引用発明1,2から容
易に予測されるものであって格別のものではない。」(審決書6頁9行∼
10行)と判断した。
しかし,審決の判断には,以下のとおり誤りがある。
ア本願発明においては,①ポンチによりチューブを変形させた状態でそ
の外周部を溶融して切断し,「ポンチがチューブの外周面に対して斜め
に進行することにより,チューブに形成される孔は表面から内部に向け
て縮径され,切り取り面が滑らかになるから,人体内部を傷つけるおそ
れがない」との作用効果(甲5の段落【0011】),②孔開けの際に
受け治具等を必要とせず,受け治具等の交換を不要にするという作用効
果(甲4の段落【0012】)を奏する。
これに対して,引用発明1は,前記(1)アのとおり,チューブの内面に
当接してその変形を抑える受け治具を必須とし,受け治具によりチュー
ブの小室が変形するのを防止した状態で,加熱した打抜き刃をチューブ
外面に当接させて孔を開けるものであり,引用発明2は,基台6または
プレスラム4上に配置された被溶断材料7に対して,加熱された刃先を
押圧して溶断するものであり(甲2の段落【0006】,図1,2),
いずれも,チューブや被溶断材料が変形された状態で溶断されるもので
はないことなどに照らすならば,本願発明の上記①及び②の作用効果
は,引用発明1及び引用発明2を組み合わせても当業者が予測できるも
のではなく,顕著な作用効果であるというべきである。
また,本願発明が顕著な作用効果を奏することは,引用例1の実施例
1の条件で行った引用発明1の実験結果(甲7)及び同じ条件で行った
本願発明の実験結果(甲8)で確認されている。
イしたがって,本願発明により奏される作用効果は格別のものではない
とした審決の判断は誤りである。
2被告の反論
(1)取消事由1に対し
ア引用例1(甲1)記載の孔開け装置は,打抜き刃と,該打抜き刃を加
熱する加熱装置と,前記打抜き刃をチューブに向けて進退させるエアシ
リンダーとを備え,「熱可塑性樹脂によって成形された内径の小さなチ
ューブにおいても,隔壁を損傷することなく,その側面にエッジ部の滑
らかな孔を開ける」(段落【0008】)ものであり,「熱可塑性樹脂
チューブに孔を開ける」という観点からみると,「少なくとも2室に仕
切られた断面構造を有するチューブ」以外の,一般の中空円筒状の熱可
塑性樹脂チューブの孔開けにも利用できることは明らかである。
そして,引用例1記載の「受け治具及び支え台」は,隔壁の損傷を防
ぐためのものであって(段落【0019】),「打抜き刃4によるチュ
ーブ1表面の押切り」に関与するものではないし,また,「隔壁」のな
いチューブにあっては,「受け治具及び支え台」を必須とするものでは
ない。
したがって,引用発明1は,「受け治具」を必須とするものではない
から,「受け治具」の存在を前提とした原告の主張は失当である。
イ仮に引用発明1において「受け治具」が必須であるとしても,幾何学
的にみて,「受け治具中央部」に隙間が存在することは明らかであり,
しかも,引用例1記載のチューブは,「熱可塑性樹脂」(段落【001
0】)製で,「体内に挿入され」(段落【0002】)るものであるか
ら,刃で押圧することで,隙間の存在如何にかかわらず,変形可能なも
のであることは自明である。
なお,原告主張の引用例1の実施例1の実験結果(甲7)の記載内容
をみても,打抜き刃による「打ち抜き後の孔形状」が示されているにす
ぎず,打抜き刃による「打ち抜き中」にチューブが変形するか否かを示
すものではない。
ウしたがって,引用発明1においては,受け治具を必須のものとし,受
け治具によりチューブが変形するのを防止した状態でチューブを溶断す
ることを前提に,相違点(3)の認定及び判断の誤りをいう原告の主張は,
その前提を欠くものとして失当である。
(2)取消事由2に対し
前記(1)のとおり,引用発明1は,「チューブが少なくとも2室に仕切ら
れた断面構造を有すること」及び「受け治具があること」を必須とするも
のではなく,また,「刃」の直径が3㎜であることを必須とするものでも
ない。
これらの各点が引用発明1において必須であることを前提とする原告の
主張は失当である。
なお,仮に引用発明1において受け治具との接触が不可欠であるとして
も,刃先の損傷は,刃先,受け治具の材質,接触の程度に依存するもので
あるから,すべからく「実用に耐えない」とまではいえない。
(3)取消事由3に対し
引用発明1に引用発明2を適用したものは,受け治具は必須でなく,変
形状態で溶断されるものであること,引用例1の「エッジ部の滑らかな孔
を開けることができる。」(段落【0028】)との記載によれば,原告
主張の本願発明の作用効果を奏することは明らかである。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(相違点(3)の認定及び実質的な判断の誤り)について
原告は,引用例1(甲1)の記載によれば,引用発明1の孔加工装置は,
①孔開けの対象となるチューブを「少なくとも2室に仕切られた断面構造を
有するチューブ」に限定し,②「チューブの内面に当接してその変形を抑え
る受け治具及び支え台」を有することを必須のものとし,③チューブの小室
側に「受け治具」を,大室側に「支え台」をそれぞれ挿入した状態で,打抜
き刃を小室の側面に当接させ,「小室が変形するのを防止するとともに,隔
壁が損傷するのを防止しながら」孔を開けるものであり,引用発明1は「受
け治具によりチューブが変形するのを防止した状態で該チューブを溶断して
孔を開ける」という点で本願発明と相違するのに,審決は,上記相違点を看
過し,引用発明1においても,チューブが変形された状態で溶断されると認
められるので,相違点(3)に係る本願発明の構成(「チューブの外周面に押圧
して孔を開け」るにあたり,「チューブの外周面に押圧して該チューブを変
形させ,該チューブを変形させた状態で該チューブを溶断して孔を開け」る
ようにしているとの点)は実質的な相違点とはいえないと評価判断したのは
誤りである旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(1)引用例1の記載
引用例1(甲1)には,次のとおりの記載がある。
ア「特許請求の範囲」として,「【請求項1】隔壁によって少なくと
も2室に仕切られた断面構造を有するチューブの側壁に孔開けする装置
であって,該装置は,チューブの外面に当接して孔開けするための打抜
き刃と,チューブの内面に当接してその変形を抑える受け治具及び支え
台とを有し,該打抜き刃はそれ自身を加熱可能な加熱装置を具備してい
ることを特徴とする隔壁を有するチューブの側面孔開け装置。」,「【
請求項2】請求項1記載の側面孔開け装置を用いて,打抜き刃を10
0∼200℃に加熱し,隔壁を有するチューブの側面に孔開けすること
を特徴とする孔開け方法。」
イ「【発明の属する技術分野】本発明は,隔壁を有するチューブの側面
孔開け装置及び孔開け方法に関する。」(段落【0001】)
ウ「【従来の技術】従来より,熱可塑性樹脂から成形されたチューブの
側面に孔を開ける際に,高周波ウェルダー,超音波ウェルダー,打ち抜
き刃,回転刃等が用いられている。しかしながら,側面に開けられた孔
のエッジ部が鋭利になると,チューブが体内に挿入された場合に,組織
を傷付けるおそれがあるため,孔のエッジ部を滑らかに加工する必要が
あった。」(段落【0002】),「超音波ウェルダーを用いてチュー
ブの側面に孔を開ける方法として,例えば,図5に示す方法が行われて
いる。この方法では,チューブ11の内部に受け治具12を挿入した後
超音波ホーン13を下降させ・・・側面に孔を開けている。このような
受け治具12を使用することによって,超音波ホーン13で押圧した際
に起きるチューブ11の変形を防止し,滑らかなエッジ部を有する孔を
寸法精度よく開けることができる。しかしながら,例えば,図6に示す
ように,隔壁14によって大小の2室16,17に仕切られた断面構造
を有するチューブ11の小室16側の側面に,上記超音波ウェルダーを
用いて孔を開ける場合・・・例えば図8示すように,超音波ホーン13
で側面を押圧する際に受け治具12が変形を起こすことがあり,超音波
ホーン13が隔壁14まで溶かすことがあった。そこで,図9に示すよ
うに,支え台15を大室17側に挿入して,受け治具12の変形を防止
する方法が考えられる。しかし,受け治具12が薄くなると,超音波振
動によって受け治具12が共振して,受け治具12が超音波ホーンの役
割を果たし,隔壁14を溶かすことがあった。」(段落【0004】∼
【0006】)
エ「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,熱可塑性樹脂に
よって成形された内径の小さなチューブにおいても,隔壁を損傷するこ
となく,その側面にエッジ部の滑らかな孔を開けることが可能な隔壁を
有するチューブの側面孔開け装置及び孔開け方法を提供する。」(段落
【0008】),「【課題を解決するための手段】本発明の隔壁を有す
るチューブの側面孔開け装置及び孔開け方法は,隔壁によって少なくと
も2室に仕切られた断面構造を有するチューブの側壁に孔開けする装置
であって,該装置は,チューブの外面に当接して孔開けするための打抜
き刃と,チューブの内面に当接してその変形を抑える受け治具及び支え
台とを有し,該打抜き刃はそれ自身を加熱可能な加熱装置を具備してい
ることを特徴とする。」(段落【0009】),
オ「本発明で用いられるチューブは,塩化ビニル樹脂,ポリエチレン,
ポリプロピレン,ウレタン樹脂,ナイロン,ABS等の熱可塑性樹脂か
ら製せられたものであり,隔壁によって少なくとも2室に仕切られた断
面構造を有する。」(段落【0010】),
カ「以下に,本発明の側面孔開け装置を図面を参照しながら説明する。
・・・図1中,1は受け台6によって下方から保持された,2室に仕切
られた断面構造を有するチューブを示す。4は,チューブ1の側面に孔
を開けるための打抜き刃を示し,打抜き刃4を加温するための加熱装置
41を具備している。・・・上記打抜き刃4は,支柱52に取り付けら
れたアーム51に固定されたエアシリンダー5に接続されており,該エ
アシリンダー5によって上下方向に昇降可能となされている。」(段落
【0011】,【0012】),「上記打抜き刃4によりチューブ1に
開孔する際に,図2に示すように,チューブ1の小室1a側に受け治具
2を挿入し,大室1b側に支え台3を挿入した状態で,加熱装置41に
より加熱して,所定の温度に保たれた打抜き刃4を下降させ,チューブ
1の側面に当接して打ち抜き孔を開ける。開孔後打抜き刃4を上昇させ
る。」(段落【0015】),「上記受け治具2は,打抜き刃4の当接
によって,チューブ1の小室1aが変形するのを防止すると共に,隔壁
9が損傷するのを防止する。小室1aの変形を防止することにより寸法
精度のよい孔を開けることができる。」(段落【0016】)
キ「上記加熱した打抜き刃4をチューブ1外面に当接することによっ
て,チューブ1の表面を柔らかくしながら押切るので,押切られた孔の
エッジ部が滑らかになり,さらに,受け治具2によって刃先がそれ以上
進入するのを抑え,刃の熱が隔壁に伝わるのを防ぐので,図2に示す隔
壁9を損傷させることなく孔を開けることができる。」(段落【001
9】),「上記打抜き刃4の加熱温度は,チューブ1の材質によって決
められるが,熱可塑性樹脂の融点又は軟化点である,100∼200℃
が一般的である。」(段落【0020】),「上記の装置を使用して,
例えば,カテーテル用チューブの側面等に好適に孔を開けることができ
る。」(段落【0022】)
ク「(実施例1)チューブとして,塩化ビニル樹脂(重合度1000)
100重量部に可塑剤50重量部を配合した,図4に示した寸法の断面
形状を有する軟質塩化ビニル樹脂チューブ(外形13㎜,内径8㎜)を
使用した。また,図2に示すように,チューブ1の小室1aに受け治具
2を,大室1bに支え台3をそれぞれ挿入し,図1に示す側面孔開け装
置を使用して,打抜き刃4の温度を150±10℃に設定し,エアシリ
ンダー5を下降させて,打抜き刃4をチューブの側面に押圧した。2秒
間押圧した後,打抜き刃4をチューブ1の側面から上昇させると,エッ
ジ部の滑らかな孔が形成されており,隔壁の損傷は全くなかった。尚,
上記側面孔開け装置において,鉄製の打抜き刃4(直径3㎜),ステン
レス製の受け治具2(幅3.5㎜×長さ100㎜×厚み0.5㎜),ス
テンレス製の支え台3(直径7㎜),径20㎜のエアシリンダー5をそ
れぞれ使用し,加熱装置41として温度センサー付電熱ヒーターを用い
た。」(段落【0024】)。
(2)相違点(3)の認定及び判断の誤りの有無
ア上記(1)の認定によれば,引用例1には,「チューブの内面に当接して
その変形を抑える受け治具及び支え台とを有し」と明確に記載されてい
るように,寸法精度のよい孔を開けるなどの作用効果を奏するための手
段として,チューブ1の内面に受け治具2を当接させることにより,打
抜き刃4の当接によってチューブ1の小室1aが変形するのを防止する
発明が記載されている。したがって,引用例1においては,受け治具が
当接することによって,チューブは,変形することが妨げられるものと
理解するのが自然である。
これに対して審決は,引用例1の段落【0001】,【0010】∼
【0012】,【0015】,【0016】,【0019】,【002
0】,【0022】,【0024】の記載(前記(2)イ,オ,カ,キ,
ク)及び図1∼図4を摘示し,これらの記載に基づいて,引用発明1(
前記第2の3)を認定した(審決書2頁3行∼3頁17行)。
しかし,審決が摘示した部分には,2室に仕切られた断面構造を有す
るチューブに限られないチューブに,加熱された打抜き刃によって孔を
開けること,及び「チューブの内面に当接してその変形を抑える受け治
具及び支え台」を用いないで,加熱された打抜き刃によってチューブに
孔を開けることの記載はなく,これらを示唆する記載もない。
そうすると,審決が,特段の根拠を示すことなく,2室に仕切られた
断面構造を有するチューブ1の小室1a側に受け治具2を挿入し,大室
1b側に支え台3を挿入するとの事項を捨象して,刊行物(引用例1)
に記載された発明として,引用発明1を認定したことは不適切であった
ものといわざるを得ない。
もっとも,他方で,審決は,①「なお,引用例1においては,チュー
ブ1の小室1aに受け治具2を,大室1bに支え台3をそれぞれ挿入し
たうえで,打抜き刃4をチューブ1に押圧する旨が記載されているが,
受け治具2は,扁平なものであるから(図2参照),打抜き刃1をチュ
ーブ1に押圧すれば,チューブ1が変形することは明らかである。」(
審決書5頁末行∼6頁4行),②「なお,請求人は,本願発明において
は,チューブを変形させた状態で溶断するため,孔の壁面自体が縮径す
るものとなる旨を主張するが,上述したとおり,引用発明1において
も,チューブを変形させた状態で溶断しているのであるから,程度の差
こそあれ,溶断後の孔の壁面状態は,表面から内部に向けて縮径された
ものとなるはずであり,上記壁面状態が,本願発明と引用発明1とで異
なっているということはできない。」(同6頁11行∼16行)と判断
している。
上記①及び②に照らすならば,審決は,引用発明1において,チュー
ブが2室に仕切られた断面構造を有し,受け治具及び支え台を用いるこ
とを前提とした場合についても,相違点(3)に係る本願発明の構成が実質
的な相違点とはいえないと判断しているものと認められる。
イそこで,さらに進んで,引用発明1におけるチューブの「変形」と本
願発明の「変形」との相違の有無について判断する。
前記(1)オのとおり,引用発明1のチューブが熱可塑性樹脂によって成
形されたチューブである以上,チューブの内面において,受け治具と打
抜き刃の端部とが接触する部分に僅かの間隙があれば,溶断の際にチュ
ーブは変形するものと考えられるし,また,溶断後の孔の壁面状態は,
その変形の程度に応じて表面から内部に向けて縮径されたものになると
考えられる。
しかるに,本願発明に係る特許請求の範囲(請求項1)には,「前記
加熱手段により加熱されたポンチを前記チューブの外周面に押圧して該
チューブを変形させ,該チューブを変形させた状態で該チューブを溶断
して孔を開け」との記載があるが,「変形」の程度及び「変形させた状
態」の技術的意義を規定する記載はない。
また,本願明細書(甲4,5)には,①「【従来の技術】従来,医療
用のカテーテル等に用いられる外周面に孔22aが設けられたチューブ
22を製造する場合は,・・・チューブ22の内部に中板24を挿入
し,この中板24にポンチ23を押し当てることにより,チューブ22
に孔22aを設けていた。あるいは,・・・金属製のスリーブ25をチ
ューブ22の内部に挿入し,チューブ22の外周からポンチ23を押し
当て,さらにポンチ23を孔25aに向けて進行させることによりチュ
ーブ22に孔22aを設けることも行われていた。しかしながら,この
ような加工を行ったのでは,・・・孔22aの端部が鋭利となっている
ため,この孔22aが設けられたチューブ22をカテーテルとして使用
した場合は,人体に傷を付けてしまうおそれがあった。また,孔加工の
際にはチューブ22の内部に中板24やスリーブ25を挿入する必要が
あり,作業が繁雑となる。さらに,中板24を用いる場合は,ポンチ2
3の刃先の部分が痛まないようにするために,中板24を・・・非金属
部材とする必要があったため,ある程度加工を行う毎に中板24を交換
しなければならないという不都合がある。」(段落【0002】∼【0
005】),②「【発明が解決しようとする課題】本発明は,チューブ
の孔加工装置の改良を目的とし,さらに詳しくは前記不都合を解消する
ために,端部が滑らかになるようにチューブに孔を開けることができ,
且つ加工作業が容易な孔加工装置を提供することを目的とする。」(段
落【0006】),③「【課題を解決するための手段】前記目的を達成
するために,本発明の第1の態様の孔加工装置は,弾性を有する熱可塑
性のカテーテル用チューブに該チューブ内部と外部とを連通する孔を開
ける孔加工装置であって,先端の刃部が薄板で筒状に形成されたポンチ
と,該ポンチを加熱する加熱手段と,前記ポンチを前記チューブに向け
て進退させる移動手段とを備え,前記加熱手段は前記チューブが徐々に
溶融される温度に前記ポンチを加熱し,前記移動手段は,前記加熱手段
により加熱されたポンチを前記チューブの外周面に押圧して該チューブ
を変形させ,該チューブを変形させた状態で該チューブを溶断して孔を
開け,前記ポンチを前記チューブから離反させることを特徴とする。・
・・このとき,前記ポンチは前記チューブが徐々に溶融される温度に加
熱されているので,前記チューブはすぐには切断されずに変形する。こ
の状態で前記チューブが前記ポンチにより徐々に溶融されると,前記チ
ューブに孔が形成される。」(段落【0007】∼【0008】),「
また,本発明の加工装置においては,前記移動手段は前記ポンチにより
前記チューブを変形させて溶融させた際に,前記ポンチが徐々に前記チ
ューブ側に進行するように前記チューブの反発力よりも強い弾性力を有
するスプリングを備えていることが好ましい。」(段落【0013
】),④「第1の実施形態の孔加工装置1によって形成されたチューブ
2の孔2aは,図3(e)に示すように,切り口が内方に縮径するよう
に傾斜しており,且つ,切り口は溶融されてできているので滑らかであ
る。」(段落【0024】)との記載がある。これらの記載によれば,
本願発明は,受け治具,中板,スリーブ等を挿入しない状態で,チュー
ブの切り口が内方に縮径するように傾斜する成型品を得るなどの効果を
目的として孔開けを行うものである点で,受け治具を当接させ,変形を
抑える状態でチューブに孔開けを行う引用発明1とは異なるものといえ
るが,チューブの変形の程度を特定するものではなく,本願明細書から
本願発明における変形の程度が自明であると解することもできない。
このように,本願発明において,チューブの変形の程度については特
定がないことに照らすならば,本願明細書に接した当業者は,チューブ
が2室に仕切られた断面構造を有し,受け治具及び支え台を用いるもの
であることを前提とした引用発明1における孔開けの際のチューブの変
形の程度も,本願発明における変形の程度に含まれると理解するものと
解されるから,チューブの「変形」及び表面から内部に向けて縮径され
た孔を形成するとの技術的意義について,引用発明1と本願発明とで相
違があるということはできない。
そうすると,相違点(3)に係る本願発明の構成が実質的な相違点とはい
えないと判断した審決は,結論において誤りはないものと解される。
(3)原告の主張に対する判断
これに対し原告は,①引用例1の「チューブの内面に当接してその変形
を抑える受け治具及び支え台」(【請求項1】)との記載,「上記受け治
具2は,打抜き刃4の当接によって,チューブ1の小室1aが変形するの
を防止すると共に,隔壁9が損傷するのを防止する。小室1aの変形を防
止することにより寸法精度のよい孔を開けることができる。」(段落【0
016】)等の記載,②引用例1の実施例1に関する検証結果(甲6)及
び実験結果(甲7)などを根拠として挙げて,引用発明1は,「受け治具
によりチューブが変形するのを防止した状態で該チューブを溶断して孔を
開ける」ものであり,チューブが変形された状態で溶断されるものではな
いから,相違点(3)に係る本願発明の構成が実質的な相違点とはいえないと
評価判断した審決は誤りである旨主張する。
しかし,前記(2)イ認定のとおり,引用発明1において,チューブが2室
に仕切られた断面構造を有し,受け治具及び支え台を用いるものであるこ
とを前提とした場合についても,チューブの内面において,受け治具と打
抜き刃の端部とが接触する部分に僅かの間隙があれば,溶断の際にチュー
ブは変形し,また,溶断後の孔の壁面状態は,その変形の程度に応じて表
面から内部に向けて縮径されたものになると考えられ,その変形の程度
は,本願発明における変形に含まれるものと解されるから,引用発明1
は,チューブが変形された状態で溶断されるものではないことを前提とす
る原告の主張は,その前提を欠くものとして採用することができない。
(4)したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
2取消事由2(相違点(1)の容易想到性の判断の誤り)について
(1)原告は,審決が,引用発明2の溶断プレス用刃物が「先端の刃部が薄板
で筒状に形成されたポンチ」(相違点(1)に係る本願発明の構成)に相当す
るとした上で,引用発明1の打抜き刃に代えて,引用発明2の溶断プレス
用刃物を用いることは当業者が容易に想到し得ると判断したのは誤りであ
ると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア引用例2(甲2)の段落【0005】の記載と図1及び図2を総合す
れば,引用例2には,①熱可塑性合成樹脂を主体とする合成繊維布の溶
断加工法に関し,プレスラムの進退動により熱可塑性合成樹脂を主体と
する合成繊維布の被溶断材料に,刃物先端を押し付けて高周波誘導電流
を流して刃先部を熱可塑温度まで急激に上昇加熱することによって,被
溶断材料の溶断加工等を行う溶断加工法の発明が記載されていること,
②上記発明の実施例に「先端部が薄肉とされ円筒状に形成された溶断プ
レス用刃物5」が記載されていることが認められる。
そして,引用例2記載の「先端部が薄肉とされ円筒状に形成された溶
断プレス用刃物5」が「先端の刃部が薄板で筒状に形成されたポンチ」
に相当することは自明であること,引用例1記載の孔開け装置による孔
開けと引用例2記載の溶断加工法は,加熱した刃物を当接することによ
って熱可塑性合成樹脂から成る材料を溶断する点で共通することに照ら
すならば,引用例1に引用例2を組み合わせて,引用例1記載の孔開け
装置の打抜き刃4として,「先端の刃部が薄板で筒状に形成されたポン
チ」(相違点(1)に係る本願発明の構成)を採用することは,当業者が容
易に想到し得たものと認められる。
イこれに対し原告は,①引用例1及び引用例2には,受け治具等を用い
ずに,チューブを変形させた状態でチューブに孔を開けるという本願発
明の技術的思想の開示も示唆もないこと,②引用発明1の打抜き刃は,
直径3㎜程度の小さいものであり,孔開け加工をする毎に刃先が受け治
具に押し付けられるので,これを「先端部が薄肉の円筒状」に形成した
場合には,刃先の肉厚が極めて薄くなり,孔開け加工をする毎に受け治
具との接触により刃先が損傷しやすくなり,実用に耐えないおそれがあ
るという阻害要因があるから,引用発明1と引用発明2を組み合わせる
ことにより,引用発明1の打抜き刃に代えて引用発明2の溶断プレス用
刃物を用いることは容易に想到し得るものではないと主張する。
しかし,引用例2(甲2)の図1には,実施例として,基台6に合成
繊維布の被溶断材料7を載置した溶断加工装置が示されており,上記装
置は,この状態で刃物5の先端を被溶断材料7に押し付けて溶断加工を
行うものであること(段落【0005】)に照らすならば,引用例2
は,刃物5の刃先が基台6との接触により損傷するおそれがあって
も,「先端部が薄肉とされ円筒状に形成された」刃先の形状を採用し得
ることを示唆するものといえる。そして,受け治具及び支え台を用いる
ものであることを前提とした引用発明1においても,チューブを変形さ
せた状態で溶断し,しかも,受け治具との接触による打抜き刃の刃先の
損傷が生じやすくなるかどうかは,刃先の形状のみならず,刃先及び受
け治具の材質,接触の頻度等他の条件にも依存することに照らすなら
ば,引用発明1において,引用発明2の溶断プレス用刃物の構成を採用
することに妨げがあるということはできない。
以上のとおり,原告の上記主張は採用することができない。
(2)したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。
3取消事由3(本願発明の作用効果の顕著性の判断の誤り)について
(1)原告は,本願発明は,①ポンチによりチューブを変形させた状態でその
外周部を溶融して切断し,「ポンチがチューブの外周面に対して斜めに進
行することにより,チューブに形成される孔は表面から内部に向けて縮径
され,切り取り面が滑らかになるから,人体内部を傷つけるおそれがな
い」との作用効果,②孔開けの際に受け治具等を必要とせず,受け治具等
の交換を不要にするという作用効果を奏するものであり,上記①及び②の
作用効果は,引用発明1及び引用発明2を組み合わせても当業者が予測で
きない顕著な作用効果であるのに,本願発明により奏される作用効果は格
別のものではないとした審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,受け治具及び支え台を用いるものであることを前提とした引用
発明1においても,孔開けの際に加熱した打抜き刃4の当接によってチュ
ーブの側面が変形し,チューブが変形された状態で溶断されるものであ
り,孔開け装置本体の構造及び孔開けの方法において本願発明と実質的な
相違はないこと,引用例1においても,「チューブ1の表面を柔らかくし
ながら押切るので,押切られた孔のエッジ部が滑らかになり」(前記1(1)
キ)との記載があるように,切り取り面が滑らかになるものであること,
孔開けの際に受け治具等を使用しなければ,その交換の必要がないことは
自明であることに照らすならば,原告主張の本願発明の奏する上記作用効
果は,当業者が引用発明1及び引用発明2から予測できる程度のものであ
ると認められる。
また,原告提出の引用例1に関する実験結果(甲7)及び本願発明の実
験結果(甲8)を勘案しても,上記認定を左右するものではない。
以上のとおり,本願発明により奏される作用効果は顕著なものであると
いう原告の上記主張は採用することができない。
(2)したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。
4結論
以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取
り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主
文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官大鷹一郎
裁判官嶋末和秀は,差し支えのため署名押印することができない。
裁判長裁判官飯村敏明

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