弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人伏見礼次郎上告趣意第一点について。
 旧刑訴第三六〇条に「有罪ノ言渡ヲ為スニハ罪トナルベキ事実及証拠ニ依リ之ヲ
認メタル理由ヲ説明シ法令ノ適用ヲ示スベシ」とあるのは犯罪事実に対する証拠を
示して其の証拠と犯罪事実の関係を明らかにすることをいうのである従つてその関
係が明らかにされている以上証拠説明の方法については何等制限するところはなく、
証拠と犯罪事実との間の連絡を明らかにする程度に説明すれば足り必ずしも証拠の
内容を一々甄別してあらわさなければならないものでないことは当裁判所の判例(
昭和二三年(れ)第一二五三号同年一二月一四日第三小法廷判決参照)とするとこ
ろである、そして右判例の趣旨は併合罪の関係にある各個の犯罪を構成すべき事実
についても異るところはなく認定事実の個々について各別に其の証拠を摘示してそ
の関係を一々明ちかにする必要はないそして原判決判示事実と挙示の証拠とを対照
すれば如何なる証拠により如何なる事実を認定したか明らかであるから論旨は理由
がない。(昭和二四年(れ)第二三五九号同二五年一月二六日第一小法廷判決参照)
 同第二点について。
 裁判書は判決言渡期日の公判調書の一部を為すものではないし、又裁判書に丁数
が記されていないとしてもその為めその裁判書が違法であるとはいい得ない、論旨
は理由がない。
 同第三点について。
 所論公訴事実と原判決が認定した事実は何れも被告人が昭和二三年三月二五日頃
より同二八日頃までの間に、京都府中郡A小学校において同村青年団が「懐しのブ
ルース」と題する映画を上映しようとしたことに関し、被告人が右青年団員のC等
を脅迫した行為が中心となつていることは記録上明らかである。所論のように公判
請求書記載の事実と原判決の認定した事実との間には多少異なつている点は認め得
るがその基本たる事実関係には差異が無く右公訴事実と原判決認定の事実は同一性
を失わないものと認められるから、所論の如き違法はなく、論旨は理由がない。
 同第四点について。
 所論の如く被告人は本件映画上映について利害関係がある為めB青年団の団員等
に対し所論抗議を申入れることができるものであるとしても(原審では被告人が抗
議を申入れる権利があることを認定していない)その抗議の方法手段はあくまで合
法的でなければならないことはいうをまたない従つてその方法手段が刑罰法規にふ
れても違法を阻却するとか、責任を阻却するという根拠とはなり得ない。そして被
告人の判示行為は原判決挙示の証拠により認めることができ且つその行為は判示犯
罪に該当すること明らかである。従つて原判決には所論の如き違法はなく、論旨は
理由がない。
 同第五点について。
 所論は原審において被告人の判示第一の所為は一個の行為にして数個の罪名にふ
れるものとして刑法第五四条一項前段を適用したのに対し、被告人の所為は数個の
行為であるから数個の行為につき夫々法律を適用しなければならないというのであ
つて被告人に不利益な主張であるから採用できない。
 弁護人小西喜雄上告趣意第一点について。
 原判決理由中第一事実摘示の末尾に「多数人の腕力を以て如何なる事態を引起す
かも知れないことを暗示し」と記載されている事は所論の通りである。しかし右は
被告人が中地区警察署に対し電話を以てB青年団がいくら言つても上映しようとす
るから今晩若い者三〇名程連れてA小学校にフイルムを没収に行く旨通知した行為
並に被告人がD等を小学校につかわし同人からC等に対しフイルムを被告人におい
て没収する旨伝えさせたこと等原判決第一事実摘示事実の結語であつて所論のよう
にDが多数人の腕力を以て如何なる事態を引起すかも知れない事を暗示したと説明
しているのではない。論旨は原判決を正解しない結果原判決の違法を主張するもの
であるから採用できない。
 同第二点について。
 原審においては被告人の行為を緊急避難と認めなかつたことは判文上明らかであ
りしかもその判断については何等法則に反するところはない、論旨は結局原審の事
実誤認を非難することに帰し採用できない。
 同第三点について。
 刑訴応急措置法第一三条二項が憲法第一四条に反するものではないことは当裁判
所判例の示す通りである、従つて論旨は採用できない。(昭和二三年(れ)第一二
二一号同二四年三月二三日大法廷判決)
 弁護人大塚喜一郎同設楽敏男の上告趣意第一点について。
 一、原判決は「青年団員を怖れさせ」又「同人を怖れさせ」等怖れさせという文
字を使用していることは所論の如くであるが、右怖れさせとあるは、脅迫しの意味
に解し得るばかりでなく、原判決挙示の証拠により被告人は所論青年団員等を怖れ
させたことを窺知するに十分である、従つて所論の如き違法は認められない。
 二、原判決判示第一事実中「C等」とあるは所論C外三名を指すものではなく、
CとE両名を指すものであることは挙示の証拠に徴し明らかであつて右両名を表わ
すのにC等という文字を使用したにすぎない、従つてD等がA小学校に来てフイル
ムを没収する旨を伝えた際その場所に所論E、F両名が居合せた証拠がないからと
て所論のような違法はない。
 三、被告人がC、E両名に対し直接にフイルムを没収する旨を申向けたこと並に
被告人がDをA小学校につかわしC、Eに対しフイルムを没収する旨申向けたこと
は原判決挙示の証拠により明らかである。そして原判決が判示するような事情のも
とに被告人がフイルムを没収する旨を申向けることは脅迫罪の成立に必要な害悪の
告知に該当すると認めるを相当とする、しかのみならず、被告人が中地区警察署に
対し若い者三十名程つれてA小学校にフイルムを没収に行く旨を通告したことはそ
の前後の関係から観察して警察署からB青年団側に告げられるであろうことは被告
人が十分認識していたものであることを推測するに十分である、そして被告人が警
察署に告知した右ことがらは警察側から青年団員C等に告知されていることは挙示
の証拠により明らかである。なお脅迫罪における害悪の告知は被害者に対し直接に
なす必要なく被告人において脅迫の意思を以て害悪を加うべきことを知らしめる手
段を施し被害者が害悪を被むるべきことを知つた事実があれば足るのであるから、
被告人の害悪告知がC等に対し直接になされないとしても脅迫罪の成立をさまたげ
るものではない従つて、被告人の所為は脅迫罪を構成すること疑いなく論旨は理由
がない。
 同第二点について。
 然し判示の如き事情のもとにおいて被告人がフイルムを没収すべきことを告知し
たことは脅迫罪を構成すべき害悪の告知と認め得る又「同人からフイルム没収にト
ラツクで若い者二〇名位来て貰うよう今電話したところだ」ということは、G及び
Fに通告しただけでC、Eに通告した事実はないとしても本罪の成立をさまたげる
ものではない。そしてDをA小学校につかわしてC等に対しフイルムを没収する旨
伝えさせたと説示している点はC及びEに伝えさせたというにすぎないものであつ
て所論C外三名に伝えさせた旨を説示しているものではないから所論の如き違法は
ない。なおDをA小学校につかわしフイルムを没収する旨伝えさせたことは原判決
挙示の各証拠に照らし認め得る、そしてその行為は脅迫罪を構成すべき害悪の告知
と認め得るものである、しかのみならず原判決挙示の証拠により所論C、Eが害悪
の告知を受けた事実を認め得るから論旨は採用できない、次に所論害悪の告知はB
青年団員に対するものであることは判文上明らかであるのみならずHが映画上映関
係者であることは原判決挙示の証拠により明らかであるから所論の如き違法はない。
 同第三点について。
  原審においては被告人の行為は正当防衛又は緊急避難に該当するとは判断して
いない、そして原審の事実認定は何等法則に違反するところはない、所論は畢竟原
審の事実認定を非難することに帰着する、そして被告人が本件脅迫行為を為すにい
たつたことは映画上映の企てが被告人の利害に関係がある為めだとしてもその為め
に被告人の本件所為が脅迫罪を成立するさまたげとなるものではない。従つて論旨
は採用できない。
 同第四点について。
 刑訴規則施行規則第三条三号により旧刑訴第三五三条所定の公判手続を更新する
必要を認めないときは更新しなくとも違法ではない、そして右規則の右条項は憲法
に違反しないことは当裁判所の屡判例とするところである、論旨は理由がない。
 弁護人杉崎安夫上告趣意第一点について。
 記録を精査して見るに原審における被告人の供述は犯行を否認していることを認
め得るが被告人の行為は正当防衛であるとか、又は犯罪の成立を阻却するものであ
る旨を主張したものとは認めがたい従つて原審において所論の点に対し特段の判断
を示さないからとて何等違法はなく、論旨は理由がない。
 第二点について。
 所論三月二八日被告人がDをA小学校につかわしC等に対しフイルムを被告人に
おいて沒収する旨伝えさせ被告人の言に従わないときは多数人の腕力を以て如何な
る事態を引起すかも知れないことを暗示したことは原判決挙示の証拠によつて認め
得る論旨はCは同夜害悪の告知を受けて居ないと独断して原判決の違法を非難する
のであるから採用できない。
 第三点について。
 所論HはI地方事務所の事務員であり所論映画は同事務所の斡旋によるものであ
ることは原判文上明らかである従つて同事務所員たるHは本件映画上映の関係者た
ることもまた明らかである、されば所論害悪の告知は映画上映の関係者であるHに
対しなされたものと解されるのであるから所論の如き違法ない、論旨は理由がない。
 第四点について。
 原審においては被告人の行為を正当防衛であるとは判断していない、そしてその
判断は何等法則に反するところはないから論旨は理由がない。
 第五点について。
 刑訴規則施行規則第三条三号が憲法に違反しないことは当裁判所数次の判例の示
すところであるから論旨は採用しがたい、なお論旨は右規則は訴訟を遅延せしめる
ものであるから憲法第三七条一項に違反すると主張する、しかし右規則は訴訟促進
の為めの規定であつて、これあるが為めに訴訟が遅延するはずがない、従つて論旨
は其前提を欠き理由がない。
 被告人Jの上申書と題する上告趣意について。
 論旨は本件顛末をのべ併せて犯罪事実を否認するもので、結局原審の事実認定を
非難することに帰着し適法の上告理由とならないものである。
 よつて旧刑訴四四六条により主文の通り判決する。
 以上は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 浜田龍信関与
  昭和二六年七月二四日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介

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