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平成12年(ワ)第12675号 不正競争行為差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成13年2月23日
              判       決  
 原      告    ヴィスタコンバータ株式会社
代表者代表取締役   【A】
訴訟代理人弁護士   黒 川 辰 男
補佐人弁理士         宮 口   聡
 被      告    株式会社内外
代表者代表取締役   【B】
被      告    株式会社ビボ・ジャパン
代表者代表取締役   【B】
上記2名訴訟代理人弁護士   小 林 幸 夫
同 中 村 しん吾
 被      告    株式会社山元
代表者代表取締役   【C】
訴訟代理人弁護士   石 塚 文 彦
 被      告    株式会社大洋工芸
代表者代表取締役   【D】
訴訟代理人弁護士   松 村 信 夫
同 和 田 宏 徳
       主       文  
       1 原告の請求をいずれも棄却する。
       2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
 1 被告株式会社内外及び同株式会社ビボ・ジャパンは,別紙商品目録記載の被
告第1商品を販売等譲渡し,貸し渡し(リース,レンタルを含む。以下同じ。),
譲渡又は貸渡しのために展示してはならない。
 2 被告株式会社山元は,別紙商品目録記載の被告第2商品を販売等譲渡し,貸
し渡し,譲渡又は貸渡しのために展示してはならない。
 3 被告株式会社大洋工芸は,別紙商品目録記載の被告第3商品を販売等譲渡
し,貸し渡し,譲渡又は貸渡しのために展示してはならない。
4 被告らは,上記各項に係る被告ら各商品を廃棄せよ。
 5 被告株式会社内外は,原告に対し,金1150万円及びこれに対する平成1
2年6月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 6 被告株式会社ビボ・ジャパンは,原告に対し,金3900万円及びこれに対
する平成12年6月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 被告株式会社山元は,原告に対し,金2300万円及びこれに対する平成1
2年6月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8被告株式会社大洋工芸は,原告に対し,金1000万円及びこれに対する平
成12年6月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 1 争いのない事実等
  (1) 当事者
   ア 原告は,店舗内装材並びに商品陳列用什器,器具及び備品の製造販売等
を業務とする株式会社である。
     なお,原告は,昭和52年9月28日設立され,平成5年8月17日,
ヴイトラジャパン株式会社から現在の名称に商号変更した。
   イ 被告株式会社内外(以下「被告内外」という。)は,インテリア器具,
ディスプレイ器具の開発,販売,リース等を業務とする株式会社である。
     被告株式会社ビボ・ジャパン(以下「被告ビボ」という。)は,インテ
リア器具,ディスプレイ器具の企画,製造,販売等を業とする株式会社である。
     被告株式会社山元(以下「被告山元」という。)は,商品陳列用什器そ
の他の物品のリース,レンタルを主たる業務とする株式会社である。
     被告株式会社大洋工芸(以下「被告大洋工芸」という。)は,商品陳列
什器の貸渡し(リース・レンタル)等を業務とする株式会社である。
  (2) 原告の商品
    原告は,昭和52年の設立時から,別紙商品目録記載の原告商品(以下
「原告商品」という。)を「CONVERTA」(以下「コンバーター」とい
う。)という商品名で製造販売している(検甲1,弁論の全趣旨)。
  (3) 被告らの行為
   ア 被告ビボは,平成6年ころから,別紙商品目録記載の被告第1商品(以
下「被告第1商品」という。)を「VIVO」(以下「ビボ」という。)という商
品名で販売している(乙2,検乙1,弁論の全趣旨)。
   イ 被告内外は,平成6年ころから,被告第1商品及び別紙商品目録記載の
被告第2商品(以下「被告第2商品」という。)を製造し,被告第1商品をビボと
いう商品名で,第三者に対し,レンタルしている(検乙1,検丙1,弁論の全趣
旨)。
   ウ 被告山元は,平成6年ころから,被告第2商品を「REO」(以下「リ
オ」という。)という商品名で,第三者に対し,レンタルしている(丙1,検丙
1,弁論の全趣旨)。
   エ 被告大洋工芸は,平成8年ころから,別紙商品目録記載の被告第3商品
(以下「被告第3商品」といい,被告第1,第2商品とまとめて「被告ら商品」と
いう。)を,「ラックル」という商品名で,第三者に対し,レンタルしている(丁
12,16,検丁1の1ないし4,弁論の全趣旨)。
 2 本件は,原告が被告らに対し,「原告商品の形態は,原告の商品表示として
周知であり,被告らが製造販売等している各商品は,原告商品と同一又は類似の形
態を有し,誤認混同が生じている。」と主張して,不正競争防止法2条1項1号,
3条,4条に基づいて,被告ら商品の製造販売等の差止め,廃棄及び損害賠償を請
求する事案である。
 3 本件の争点
  (1) 原告商品の形態は,周知商品表示といえるかどうか
  (2) 被告ら商品は,原告商品の形態に類似し,原告商品との間に混同を生じる
おそれがあるかどうか
  (3) 被告らが損害賠償責任を負う場合に,被告らが原告に賠償すべき損害の額
第3 争点に関する当事者の主張
 (争点1について)
 【原告の主張】
 1 原告商品の形態の構成等
  (1) 原告商品は,パイプとジョイントを使用して組み立てる商品陳列用及び展
示用のシステム什器であって,その構成は,次のとおりである。
   ア 原告商品は,断面四角形の縦柱(パイプ)と横桟(パイプ)と接続具
(ジョイント)などが一体となり,縦柱と横桟はそれぞれ鉛直面及び水平面に対し
て,45度の傾斜面を現出させた什器のシステムである。形成するモデルは,利用
目的,設置空間による制約を受けるが,形成の自由度は高い。
   イ 什器の形態は,横幅,奥行き,高さなどの列数と段数をシステマティッ
クにあらかじめ計画したモデル及びそのモデルの部分変更による選択が可能であ
る。
   ウ パイプは金属製角パイプを使用し,その周囲一辺のサイズは13ミリメ
ートル又は18ミリメートルである。その長さは,別紙「コンバータの部品図」の
とおり各種のものがある。また,パイプは,クロームメッキ,ゴールドメッキ,金
色メッキ又は塗装されている。
   エ ジョイントは,金属製(亜鉛ダイキャスト)であり,サイズ,形態は各
種のものがある。
   オ パイプとジョイントとの接続の形態は,横桟の四角が鉛直面に対して,
時計文字盤の12時,3時,6時,9時の各位置にあり,縦柱の鉛直面における形
状は,上記横桟がそのまま(X軸とY軸の0点を基点として)90度回転した形状
である。これらの複数個のパイプとジョイントは,稜線を境に2つの傾斜面を隣接
させ外側と内側が1組となった特色のある形態の枠桿を現出させる(別紙「枠桿の
外側枠と内側枠」参照)。
   カ パイプとジョイントが水平垂直に直角の接続をなすコーナーの形態であ
る外側角隅部は,それぞれ外側をなす枠桿傾斜面上の交差部として120度をなす
三角形の頂点の一点で相互に交わっている(別紙「外側角隅部三角形頂点の接点」
参照)。また,水平,垂直に直角に交差する交差部の形態は,パイプとジョイント
が相互に45度の傾斜面を直角に屈折あるいは直列させるものである。
  (2) 原告商品の上記形態は,斬新特異な形態ということができる。角パイプを
45度傾斜させたことによって,垂直方向の光は,水平方向に反射され,逆に水平
方向の光は反射されて上方又は下方への光線となるのであり,このことによって,
特別な美観が実現される。また,45度傾斜による稜線を境界として,極めて美し
い明暗のコントラストが見られる。
 原告が原告商品を販売するようになってから約20年間にわたってこれと
類似する商品は存在せず,原告のみが上記形態を有する商品を独占的に販売してき
た。
  (3) 被告大洋工芸が主張する,存続期間が満了した特許権,実用新案権,意匠
権は,それぞれ「パイプ接続具」,「支持台」,「支持具」に関するものであっ
て,原告商品全体に関するものではない。原告商品の形態と組立て用ハンドルハン
マーを使用して個々のパイプを45度回転させてジョイントを固定する「技術」と
は明確に区別されるべきである。
 なお,棚板を置くためであれば,角パイプの傾斜角度が45度でなくて
も,15度でも30度でも可能であり,0度から90度までのいかなる角度であっ
ても,置くことができるから,角パイプを45度傾斜させたことは,原告商品の機
能と必然的に結びついたものではない。
(4) したがって,原告商品の上記形態は,原告の商品表示であるというべきで
ある。
 2 原告商品の周知性
  (1) 原告商品の需要者は,百貨店等を顧客とする店装業者,百貨店,量販店で
ある。
(2) 原告は,昭和52年に販売を開始して以来,特約代理店である株式会社彩
ユニオン(以下「彩ユニオン」という。)を通じて,原告商品を,上記需要者に販
売してきたが,これまでの販売総額は,約20億円に上る。
    その間,彩ユニオン及び原告は,我が国の店舗関連業界向けの専門雑誌で
最大の発行部数(1か月3万5000部)を誇っている「商店建築」に合計135
回にわたり広告を掲載し,また,カタログを多数作成配付した。
  (3) 原告商品は,昭和53年,同54年に,日本最大の店舗関連見本市である
ジャパンショップにおいて,システム開発賞,技術振興賞を受賞した。
  (4) 以上の事実により,原告商品は,遅くとも平成4年ころには,需要者に広
く認識されるようになった。
 【被告内外及び被告ビボの主張】
 1 原告商品の製造販売前に,原告商品と機能において類似する商品が実用新案
として公開されており,形態において類似する商品が製造販売されていたこと,原
告商品は,パイプが水平方向に45度回転したこと以外に斬新特異な特徴がないこ
と,原告は,商品のパンフレット等に必ず商標を付していること,パイプが水平方
向に45度回転した形態のシステム什器における原告商品のシェアはわずか5パー
セント程度であることからすると,原告商品の形態は,自他識別力を有しない。
 2 原告商品の形態は,パイプを45度回転させ傾斜面に棚板をそのまま置くこ
とができるようにするといった機能や組立て再編を容易にするといった機能を合理
的に発揮させるために,あるいは,メッキ加工等を効率的に行うことができるよう
にするために選択された形態であるところ,このような形態は,商品表示性を有し
ない。
 【被告山元の主張】
   原告の主張する原告商品の形態は,同商品の有している構造的,機能的な特
徴を挙げているにすぎず,原告商品は,独自な意匠的特徴により需要者が一見して
原告商品であると理解することができる程度の識別力を備えたものとはいえない。
また,原告商品と類似の機能を有する商品が複数の企業から販売されている。した
がって,原告商品の形態が商品表示として周知性を有するということはない。
 【被告大洋工芸の主張】
 1 原告が商品表示であると主張する原告商品の形態は,既に存続期間が経過し
た実用新案,意匠,特許において開示されており,これらの考案,意匠,発明を実
施したものにすぎないから,すでにパブリックドメインとして何人も自由に実施す
ることができるものであって,商品表示性を有しない。
 また,原告商品の形態は,以上のようなことからも明らかなように,システ
ム什器の技術的機能に由来するものであるから,商品表示性を有しない。
 2 原告商品の形態は,原告が同商品の製造販売を開始した昭和52年以前か
ら,欧州のメーカーによって製造販売されてきた商品に同種の形態のものが存する
ほか,我が国でも,昭和40年代中頃から,ヨネミヤ等が同種形態のシステム什器
を販売していた。したがって,原告商品の形態は,ありふれたものであり,自他識
別力がない。
 (争点2について)
 【原告の主張】
   被告ら商品は,いずれも原告商品と極めて類似しており,原告商品と混同す
るおそれがある。
 【被告内外及び同ビボの主張】
 1 原告商品と被告第1商品及び被告第2商品とは,以下のとおり,明確な違い
があり,類似していない。
  (1) 原告商品は,折り畳むことができず,使用する店舗,展示場等において組
み立てる作業が不可避となるが,被告第1商品及び被告第2商品は,いずれも折り
畳みが可能であり,店舗,展示場等には,全部又は一部組立て済みで折り畳んだ状
態で搬入される。これは,作業効率に極めて大きな差を生むから,折り畳むことが
できるかどうかという点は,商品選択の場面において重要な関心事である。
  (2) 原告商品のジョイントのパイプとの接続部分は,丸い形状をしているのに
対して,被告第1商品及び被告第2商品のそれは,四角形であるなど外観も異な
る。
  (3) 被告第1商品及び被告第2商品のジョイント金具には,すべて「VIV
O」という標章が1カ所ないし数カ所刻印されている。
 2 本件のようなシステム什器の場合,その需要者は什器のレンタル業者であ
り,エンドユーザーは,百貨店等である。また,購入に当たっては,通常パンフレ
ットやカタログを用いた検討,打合せ,見積りが行われるところ,原告商品,被告
第1商品及び被告第2商品のカタログやパンフレットには,それぞれ商号や商標が
会社の所在地等と共に分かりやすく表示されており,当該商品を梱包して出荷する
際には,包装紙や梱包用段ボールに商号や商標が明示される。したがって,本件の
ようなシステム什器の取引において,商品の形態によって商品が識別されることは
およそありえないから,需要者が両商品を混同するおそれはない。
 【被告山元の主張】
   被告第2商品は,折畳みのための機構としてヒンジがジョイント部分に設け
られており,外観からも容易に原告商品の形態との相違を認識できるから,商品主
体の誤認混同を生じる余地は全くない。
 【被告大洋工芸の主張】
 1 原告商品の形態と被告第3商品の形態は,以下のとおり,相違している。
  (1) パイプの断面寸法は,原告商品が13ミリメートル及び18ミリメートル
であるのに対して,被告第3商品は,19ミリメートルである。
  (2) パイプ及びジョイントの表面処置は,原告商品がクロームメッキ等である
のに対して,被告第3商品は,グレー系の粉体塗装である。
  (3) ジョイントの形態については,原告商品と被告第3商品とでは異なってい
る。
 2 本件のような組立式システム什器の主要な需要者である百貨店,量販店,大
型専門店の展示場設計者(インテリア担当者)は,システム什器のメーカーや商品
名,形態の相違について,十分な知識を有しており,システム什器の中から設置場
所,設置目的に応じて最も適当な商品を選択して使用していること,原告商品が,
「コンバーター」の商品名を付して製造販売されているのに対し,被告第3商品
は,「ラックル」なる商品名を付してレンタルされていることからすると,需要者
が両商品を混同するおそれはない。
 (争点3について)
 【原告の主張】
  被告らは,被告ら各商品を販売等することにより,次のとおりの利益を得た。
  (1) 被告内外    1150万円
  (2) 被告ビボ    3900万円
  (3) 被告山元    2300万円
  (4) 被告大洋工芸  1000万円
 【被告らの主張】
  原告の主張は,すべて争う。
第4 争点に対する判断
 1 争点1について
  (1) 商品の形態は,商品の機能を発揮したり商品の美感を高めたりするために
適宜選択されるものであり,本来的には商品の出所を表示する機能を有するもので
はないが,ある商品の形態が他の商品に比べて顕著な特徴を有し,かつ,それが長
期間にわたり特定の者の商品に排他的に使用され,又は短期間であっても強力な宣
伝広告等により大量に販売されることにより,その形態が特定の者の商品であるこ
とを示す表示であると需要者の間で広く認識されるようになった場合には,商品の
形態が不正競争防止法2条1項1号により保護されることがあると解するのが相当
である。ただし,商品の形態が当該商品の機能ないし効果と必然的に結びつき,上
記形態を保護することによってその機能ないし効果を奏し得る商品そのものの独占
的・排他的支配を招来するような場合には,自由競争のもたらす公衆の利益を阻害
することになるから,このような機能ないし効果に必然的に由来する形態について
は,上記条項による保護は及ばないと解すべきである。
  (2) 以上を前提として,本件における原告商品について検討する。
    争いのない事実並びに証拠(甲1ないし7,甲8の1ないし5,甲9の1
ないし4,甲10ないし16,甲17の1,甲18ないし21,甲22の1ないし
4,甲27ないし29,甲30の1ないし3,甲31の1ないし4,乙1,2,丁
1ないし10の各1,2,丁11ないし16,検甲1)及び弁論の全趣旨による
と,以下の事実が認められる。
ア 原告商品の形態
     原告商品は,パイプとジョイントを使用して組み立てる商品陳列用及び
展示用のシステム什器であって,その形態は,別紙商品目録中の原告商品欄記載の
とおりであるが,その構成は,以下のとおりである。
   (ア) 原告商品の組立て時の形態は,以下のとおりである。
     a 断面四角形の縦柱(パイプ)と横桟(パイプ)と接続具(ジョイン
ト)から構成されている。
     b 縦柱と横桟は,それぞれ鉛直面及び水平面に対して45度の傾斜面
を現出させるものである。
   (イ) 原告商品は,上記(ア)の立方体及び直方体を基本的単位とし,こ
れに接続具を介して,縦方向又は横方向に連増することが可能である。
   (ウ) パイプは金属製角パイプを使用し,その周囲一辺のサイズは13ミ
リメートル又は18ミリメートルである。その長さは,各種のものがある。また,
パイプは,クロームメッキ,ゴールドメッキ,金色メッキ又は塗装されている。
(エ) ジョイントは,金属製(亜鉛ダイキャスト)であり,サイズ,形態
は各種のものがある。
(オ) パイプとジョイントとの接続の形態は,ジョイントの四角が鉛直面
に対して時計文字盤の12時,3時,6時,9時の各位置にあり,パイプの鉛直面
における形状が,上記横桟をそのまま(X軸とY軸の0点を基点として)90度回
転したものである。
   イ 原告商品に係る特許権等
   (ア) ヨネミヤは,昭和45年に,パイプ接続具に関する特許を出願し,
昭和49年に登録された。その特許請求の範囲は,「中継部の少なくとも二側面
へ,被接続パイプの接続用角孔の内径より稍大なる軸経の接続軸を突設し,各接続
軸の軸面には角孔の壁面に対応して角孔中へ挿脱可能とした平面部を軸方向に形成
して成るパイプ接続具」というものであり,発明の詳細な説明には,実施例とし
て,上記パイプ接続具の突出部に角パイプを水平(垂直)に差し込み,その角パイ
プを45度回転させて,水平(垂直)方向に対して角パイプを45度の角度で強固
に固定するものが記載され,この場合,固定されたパイプの斜面を利用して,予め
端面を45度に形成した陳列板等を上方から嵌装し,安定して支承することができ
る旨記載されていた。また,いま一つの実施例として,上記パイプ接続具の突出部
に角パイプを水平(垂直)方向に対して45度に差し込み,その角パイプを45度
回転させて,水平(垂直)に角パイプを固定するものが記載されていた。
(イ) ヨネミヤは,昭和47年に,支持台に関する実用新案を出願し,昭
和57年に登録された。その実用新案登録請求の範囲は,「前後左右に垂直に配備
した主柱間に断面四角形の少なくとも2本の杆を平行して架設し,両杆は,各面を
垂平面に対し45度に傾けて固定すると共に,対向する傾斜面へ,端面を下方に向
けて45度に傾斜する支え面を有する支持板を着脱可能に係止した支持台」という
ものであり,考案の詳細な説明には,本考案は,商品陳列等に使用する支持台に関
するもので,簡単な構成により支持板を着脱可能かつ安定して支持できる支持台を
提供することにあると記載されている。また,ヨネミヤは,昭和47年に,支持具
に関する実用新案を出願し,昭和52年に登録された。その実用新案登録請求の範
囲は,「垂直に配備した主柱間に断面四角形の杆を水平に取付け,杆の各面を水平
面に対し45度に傾けて固定した支持具」というものであった。
(ウ) ヨネミヤは,昭和47年に6件のパイプ接続具に関する意匠を出願
し,これらは,いずれも昭和50年に登録された。これらの意匠には,「本物品
は,パイプ接続具の突出部に角パイプを差し込み,その角パイプを45度回転させ
緊密に固定せしめ,それらを多数個組合わせて,陳列棚,整理棚等を造る」という
説明がされている。
(エ) 原告商品は,以上の(ア)ないし(ウ)の各権利を実施したもので
ある。原告が製造販売を開始する前には,ヨネミヤが以上の各権利を実施した原告
商品と同様の商品を販売していたが,ヨネミヤが昭和52年に倒産したのちは,原
告が原告商品を製造販売するようになった。
(オ) 以上の(ア)及び(イ)の特許権及び実用新案権は,ヨネミヤから
オランダ法人に,(ウ)の意匠権は,ヨネミヤからスイス法人にそれぞれ譲渡され
たが,上記特許権は昭和63年11月16日に,上記実用新案権は,昭和62年2
月及び12月に,上記意匠権は,平成2年8月29日に,いずれも存続期間満了に
より消滅した。
   ウ 原告商品の広告宣伝等
   (ア) 昭和53年作成の原告商品のカタログ(甲1)は,原告商品を紹介
した写真が主な内容であるところ,原告商品の特徴等に関しては,「スイス生まれ
のクリーンなデザインと精密なメカニズム。すっきりと組み上がり,商品の魅力を
ひきだします。売り場のスペース事情,商品の在庫量に連動させてあらゆる形態と
多様な構成が自在。専用ハンマーでパイプを45度回転させるだけで,たやすく組
み上がります。照り映えがして,新鮮で清潔感のある売り場は人気売り場の条件。
品ぞろえを魅力的に見せ,打ち出し商品を売りこむ力がバツグンの国際特許品をぜ
ひご活用ください。」,「すぐ間にあい,短納期にも対応。特注什器より割安で
す。」と記載され,また,ロングセラーを支える特長ベスト9として,「●お客
が,品さだめをしやすい楽しい売り場をつくります。●あらゆる業態で活用されま
す。●さまざまな商品の魅力をひきだします。●簡単な組み立てと組み替えで好評
です。(精密加工のパイプと頑丈な一体成型のジョイント。追求されつくしたメカ
ニズムは,いたってシンプルです。パイプを45度回転するだけでパイプとジョイ
ントは,がっちり連結します。)●組立てる時に騒音がしないということは?(カ
ンカンと叩き込む方式は,時にパイプやジョイントを傷つけることがあります。パ
イプの口径が広がってしまったり,ジョイントの頭部が損傷してしまったり・・・
でも特許の45度回転固定方式なら心配無用。繰り返し使えますから,結局おトク
です。)●使いすての安価品ではありません。●ユニークなメカニズムとデザイン
は,国際的に登録されています。●国際品ですが,日本のインテリアにもモジュー
ルを合わせています。(お気づきのように,ごく一部を除いて,パイプとジョイン
トの長さを合算すると,伝統のサイズの尺単位に連動させています。売り場でおさ
まりがよく,無駄なスペースが生じません。)●長いサイズのパイプもたわまず,
ねじれず,ぐらつきません。」と記載されている。
   (イ) 昭和55年作成の原告商品のカタログ(甲4)には,「ヴィジュア
ルマーチャンダイジングの実現。品ぞろえをどう提示表現するか。いま,視覚的な
提案の「考え方」と「技術」が意欲的に追究されています。陳列による選択の幅の
保証,ディスプレイによるバリューの強調。楽しく買いやすい売り場は,ヴィジュ
アル・マーチャンダイジング視点により,方法論が体系づけられました。なかでも
ディスプレイは品ぞろえの意図の積極的な反映,魅惑の技術として的確な活用が期
待されています。」,「商品と商品提示表現のバランスがポイント。靴,カバン。
ていねいに見せたい,伝えたい。更に商品価値を生活場面の中でどう表現するか。
品ぞろえの水準にふさわしい,ふん囲気づくりと什器選択をどのように実現する
か。ステージ,中置台,壁面用棚に自由自在。コンバーターなら,イメージの統一
があり不必要に目立たない。そしてまた,ハイクオリティな印象は定評のあるとこ
ろです。陳列商品を引き立て,ディスプレイ商品をエキサイティングに盛り上げま
す。」,「システムが可能にしました。合理的な価格。明るさを求める。ふん囲気
をつくる。インテリアの重要な要素,照明器具。その選び方にもコーディネートの
目が注がれています。限られた空間を完成で整理して豊かな空間をつくりだす 商
品を特定の分類で陳列する。打出し商品をディスプレイ・スペースで強調する。こ
うした積極的な働きかけは,もう不可欠なのです。働きかけの意図に応じて,組立
て構成は自在。変形什器も,割高な特注価格になりません。」,「コーディネーシ
ョンが生むエキサイツメンツ 清潔感があり,商品提示表現に連動自在なコンバー
ターは,最適の表現ツールです。」,「ディスプレイ,それは,いわば新聞の見出
し。女性誌は,食器関連記事の連続。美しい食器も次々と生まれています。食器棚
を眺めると,手持ちは既にいっぱい。でもテーストという美的尺度でストックを洗
い直して,買い換えを提案しているようです。そこで食器の用途訴求と共に,コー
ディネーションの要あり,ですね。すなわち生活様式提案ディスプレイ。品ぞろえ
のすべても見て欲しい。誘導ディスプレイの力の発揮のしどころです。誘導の新
手,斜め動線に対応した新ジョイントも登場です。」,「スリムなスリムな「スリ
ムコンバーター」小さな商品,軽重・繊細な品ぞろえを引き立てる。こうしたご要
望に応えて,細身で華麗なスリム・タイプを御届けします。
角パイプの外径12.8ミリ。スイスで,日本で,実験と検討が繰り返され決定し
ました。ルックスも強度もこれがベストです。輝きと,ときめきのある商品提示表
現を実現し,表現の多様化を可能としたスリム・コンバーター」,「こうお使いく
ださい,ゴールドコンバーター 特選品,アンチックな商品。豪華でクラシックな
テーストの品ぞろえの提示表現に最適です。特に商品のデザインポイントが金色な
ら,ゴールドコンバーターは,商品を一層引き立てます。精密に加工されたパイプ
とジョイントは,がっちり連結。重量商品でもたわんだり,ぐらついたりしませ
ん。パネルを装置すれば,箱型什器に早変わり。たやすく迅速に出来上がります。
頑丈で軽く,売場の管理活用も大変ラクです。」と記載されている。また,昭和5
3年に原告商品の販売代理店である彩ユニオン(当時の商号は「彩美工芸株式会
社」)が作成したカタログにも同様の記載がある。
   (ウ) 昭和59年作成の原告商品カタログ(甲6)には,「パイプの45
度回転ロッキングで連結。固定されたパイプの斜面に特長と機能があります。」,
「ジョイントに差し込んだパイプを45度回転で連結する方式はバイプロを広げた
り,ジョイントを損傷しません。」と記載されている。
   (エ) 平成6年作成の原告商品カタログ(甲7)には,「ハイグレード&
シンプル コンバータは,世界で最高の技術水準を誇るスイス・ヴィトラ社で開発
されたパイプジョイントシステムで,同社の製造基準によりライセンス生産した精
密なデザイン製品です,追求されつくした結合機構はいたってシンプルです,専用
組立てハンマーで角パイプを45度回転するだけでパイプとジョイントががっちり
連結します。その固定された角パイプの斜面に機能とスタイルの特長があります。
斜面に棚板をのせたり,パネルを取りつけることができ,ワンタッチで着脱自在で
す。」,コンバーターの性状・性能については,「簡単な操作,確実な連結。組み
上げるモデルを決定したら,まずジョイントにパイプを差し込むだけの仮組みをし
ます。そして,組立てハンマーで45度回転するだけで堅く連結します。『角パイ
プの内側に挿入できるよう4点を削った丸パイプ状のジョイント』につないだ角パ
イプを組立てハンマーで45度回転させ,『角パイプの内寸より大きい丸パイプ状
ジョイントの直径部の4点』が角パイプ内側に接合した部分を圧迫して連結するの
です。がっちり組み上がり,ぐらつかずたわみません。」「精密加工のパイプ,ジ
ョイント。ジョイントは亜鉛合金のダイカスト。角パイプの特別加工により精密に
つくられた30ミクロンの最高級クロームメッキ仕上げで,重要な役割をはたす内
寸精度は15.98ミリの±0.05ミリという精密なものです,角パイプの外寸
は17.98ミリです。」という記載がある。
   (オ) 昭和57年に発行された商店界別冊(甲16)には,原告商品につ
いて,「ライトでシンプルなデザインは,ギフト商品の店頭ディスプレイやアイラ
ンドディスプレイにぴったりである。商品と什器が一体となって人目を引き,活気
ある売り場を実現する。高品質なパイプとジョイントで組み立てる,イメージの良
いスイス・デザイン」という記載がある。
   (カ) 彩ユニオン(当時の商号は「彩美工芸株式会社」)が昭和53年
(1978年)1,7,8,11月各発行の「商品建築」に掲載した原告商品に関
する広告には,「精度の高いジョイント(亜鉛ダイキャスト)に,パイプを差し込
み軽く45度回転させるだけで,がっちりと連結します。原理は簡単,ジョイント
の゙ふくらみ”が回転によってパイプの最も狭い部分を内側から圧迫するのです。騒
音もなく,また器具を傷つけることもありません。ガラス板などは傾斜面に置くだ
けで固定され,したがって一切の補助具を不要とし,すっきりとした構成になりま
す。」等と記載されている。
   エ 被告らの製造販売等
     被告らは,前記イ記載の特許権,実用新案権,意匠権がすべて消滅した
後である平成6年から平成8年ころ,被告ら商品の販売等を始めた。
  (3)ア 以上認定した事実によると,原告商品の組立て時の形態のうち,最も特
徴的な形態は,断面四角形の縦柱(パイプ)と横桟(パイプ)が,それぞれ鉛直面
及び水平面に対して45度の傾斜面を現出させることにあると認められる。
  しかし,以上認定した事実,殊に(2)イ(ア)記載の特許及び同(イ)記
載の実用新案に関する事実によると,断面四角形の縦柱と横桟が,それぞれ鉛直面
及び水平面に対して45度の傾斜面を現出させる形態を選択したことによって,①
パイプ接続具の突出部に角パイプを水平(垂直)に差し込み,その角パイプを45
度回転させて,水平(垂直)方向に対して角パイプを45度の角度で強固に固定す
ることができるとともに,②固定されたパイプの斜面を利用して,予め端面を45
度に形成した陳列板等を上方から嵌装し,補助具を用いることなく,安定して支承
することができるものと認められる。したがって,原告商品における,断面四角形
の縦柱と横桟が,それぞれ鉛直面及び水平面に対して45度の傾斜面を現出させる
形態は,以上の①②の原告商品の機能ないし効果と必然的に結びついているもので
あり,上記形態を保護することによってその機能ないし効果を奏し得る商品そのも
のの独占的・排他的支配を招来するものということができる。
  確かに,パイプ接続具の突出部に角パイプを差し込み,その角パイプを
45度回転させて,角パイプを強固に固定するだけであれば,前記(2)イ(ア)記載
の特許の第2の実施例のように,パイプ接続具の突出部に角パイプを水平(垂直)
方向に対して45度に差し込み,その角パイプを45度回転させて,水平(垂直)
に角パイプを固定することによっても,達成することができる。しかし,この場合
には,固定されたパイプの斜面を利用して,予め端面を45度に形成した陳列板等
を上方から嵌装し,補助具を用いることなく,安定して支承することはできないか
ら,以上の①②の機能ないし効果を奏するためには,断面四角形の縦柱と横桟が,
それぞれ鉛直面及び水平面に対して45度の傾斜面を現出させる形態が選択されな
ければならないというべきである。
  なお,原告は,棚板を置くためであれば,45度でなくても,15度で
も30度でも可能であり,0度から90度までのいかなる角度であっても,置くこ
とができると主張するが,45度以外の場合に比べて45度の場合には,補助具を
用いることなく棚板をより安定的に支承することができると考えられるから,45
度という角度は,上記認定のとおり,原告商品の機能ないし効果と必然的に結びつ
いているものと認められる。
  そうすると,原告商品の組立て時の形態のうち,最も特徴的な,断面四
角形の縦柱と横桟が,それぞれ鉛直面及び水平面に対して45度の傾斜面を現出さ
せる形態は,それ自体が商品表示となることはないというべきである。
イ そして,この最も特徴的な形態以外の前記(2)ア認定の原告商品の組立て
時の形態は,いずれも,パイプとジョイントを使用して組み立てる商品陳列用及び
展示用のシステム什器としては,ありふれたものということができるから,それら
が商品表示となることはないというべきである。
ウ ところで,原告は,原告商品においては,複数個のパイプとジョイント
は,稜線を境に2つの傾斜面を隣接させ外側と内側が1組となった特色のある形態
の枠桿を現出させるとか,水平,垂直に直角に交差する交差部の形態は,パイプと
ジョイントが相互に45度の傾斜面を直角に屈折あるいは直列させるものであると
主張し,さらに,角パイプを45度傾斜させたことによって特別の美観が生じてい
ると主張する。
  しかし,これらの主張のうち,パイプに関するものは,断面四角形の縦
柱と横桟が,それぞれ鉛直面及び水平面に対して45度の傾斜面を現出させる形態
を有していることから必然的に生じるものであるから,この形態を商品表示と認め
ることができない以上,原告が主張する各点から原告商品の商品表示性を認めるこ
とはできないというべきである。また,角パイプを45度傾斜させた以上,ジョイ
ントについても,鉛直面及び水平面に対して45度傾斜させたものを用いるのは自
然なことであって,原告商品のジョイントが,パイプとは別に特に目を引く形態で
あるとはいい難いから,原告の上記主張のうち,ジョイントに関するものについて
も,原告が主張する各点から原告商品の商品表示性を認めることはできないという
べきである。
 さらに,原告は,原告商品について,パイプとジョイントが水平垂直に
直角の接続をなすコーナーの形態である外側角隅部は,それぞれ外側をなす枠桿傾
斜面上の交差部として120度をなす三角形の頂点の一点で相互に交わっていると
主張するが,これは,原告商品の一部のコーナーに見られる特徴にすぎず,原告商
品の中でこの部分が特に目を引くとはいい難いから,この点を商品表示と認めるこ
とはできないというべきである。
エ よって,原告商品の形態を原告の商品表示と認めることはできない。
 2 結論
   以上の次第で,原告の被告らに対する本訴各請求は,その余について判断す
るまでもなく,いずれも理由がないから,主文のとおり判決する。
  東京地方裁判所民事第47部
         裁判長裁判官    森     義  之
            裁判官内  藤  裕  之
  
            裁判官杜  下  弘  記
別紙 商品目録
別紙 コンバータの部品図
別紙 枠桿の外側枠と内側枠
別紙 外側角隅部三角形頂点の接点

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