弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人、A、B、C、D、E、F、G、H、I、J、K、L、
M、N、Oに関する部分を破棄し、同事件を東京高等裁判所に差し戻す。
     被告人P、Q、R、S、T、U、Vに関する本件各上告を棄却する。
         理    由
 検察官の上告趣意第一点及び第二点について。
 先ず原判決にいうところの本件生産管理の適否について考察するに、かりに当時
の、会社側の経営状態及び本件争議に対処した会社の態度並びに従業員側の情況が
それぞれ原判示のとおりであつて、会社側に非難に値する仕打があり、従業員側に
むしろ同情すべき事情があつたとしても、本件の如く、被告人等が会社側の意向を
全然無視し、強いて会社の建造物に立入つてこれを占拠し、他の従業員の就業を阻
止し、あるいは会社所有の物品をほしいままに管理処分するが如き一連の行為は、
当裁判所が先きに、昭和二三年(れ)第一〇四九号事件につき、昭和二五年一一月
一五日に言渡した判決の趣旨に徴し、到底適法な争議行為としてこれを容認するを
得ない。しかも原判決の確定するところによれば、被告人等が前記の如き行為を敢
行する以前に、組合と会社との間に、争議について妥協成立し、双方の合意によつ
て、被告人等従業員を含む組合員全員が適法に解雇され、組合は解散したというの
であるから、これによつて争議は終了し、被告人等従業員はその身分を喪失したも
のというべく、従つて爾後争議行為なるものは、もはや存在せざるに至つたものと
いわざるを得ない。然るに原判決は、被告人等前従業員が組合の少数派として、予
てかち、会社側の解雇の提案を承諾して組合を解散に導かんとする多数派の意見に
強硬に反対し、多数派の意見が適法な組合の決議となつて執行された後も、なお自
説を固執し、あるいは適法な組合決議の無效等を主張して飽く迄も会社側と抗争せ
んとした点に着目し、恰かも会社側と組合の少数反対派との間に、従前の争議がな
お継続して存在するものの如く誤解し、「会社側並びに従業員側に存する前記の如
き特殊な情況下においては、被告人等の為した、会社の意思に反する、建造物の占
拠、他の従業員の就業阻止、会社所有物品の管理処分等一連の行為は争議行為であ
り、しかも緊急避難的な意味を有する特殊の生産管理行為として、例外的に合法視
さるべきものであつて、旧労働組合法第一条第二項の趣旨に徴し、それが争議目的
を達成する為め、緊急已むを得ないものであるにおいては、かかる生産管理の内容
を為す、本来刑事責任を問わるべき個々の行為と雖も、その可罰性を免れ得る」旨
の判断をしているのである。そしてかかる見解を前提として考察を進め、本件公訴
事実中、建造物侵入の点及び業務妨害と窃盗の各一部の点は、前記組合法の条項の
趣旨に徴し、争議目的達成の為あ緊急已むを得ないものであつて、刑法三五条の適
用ある場合であるとして無罪の言渡をしているのである。原判決が右の如き無罪判
決の理由の前提として、本件行為が争議中の行為であり、適法な生産管理行為であ
ると判示した見解の誤れること前記の如くである以上、原判決がかかる前提の下に、
本件公訴事実中建造物侵入及び業務妨害の点につき被告人、A、B、C、D、E、
F、G、H、I、J、K、L、M、N、Oを、窃盗の点につき、被告人、A、B、
C、D、E、M、N、Oを、それぞれ無罪とした部分は、結局旧労働組合法一条二
項の解釈適用を誤つた違法あるに帰し、しかもかかる違法は、判決に影響を及ぼす
こと明白である。
 この点に関する論旨は理由がある。
 同第三点について。
 本論旨は、本件公訴事実中公務執行妨害の点につき原判決が無罪とした部分に対
する非難であるが
 (一) この点に関し、原判決が無罪理由として判示するところを仔細に検討す
るに、原判決は先ず、証拠に基ずき、昭和二三年五月二三日の検挙は、警察官等の
工場正門到着と殆んど同時に開始され、その以前には、被告人等において積極的な
抵抗を試みていないし又その時間的余裕もなかつたと認定しているのであつて、こ
の点所論の如くスクラムによつて振切るとか体力を以てはね返す等積極的な抵抗の
あつた事実を認定していないのである。原判決のかかる認定は、その証拠説明に徴
し十分首肯し得るところであつてその間所論の如き採証の法則に違背したと認むべ
きものはない。
 この点に関する論旨は、結局原審の適法な証拠の取捨判断ないし事実認定をいわ
れなく非難するに過ぎない。
 (二)次にスクラムを組み労働歌を高唱して気勢を挙げた被告人等の行為自体が
所論の如く有形力の行使即ち暴行となるか否かの点について原判決は、前記の如き
認定事実を基礎として、結局積極的抵抗を欠くものとして証明不十分と結論してい
るのである。即ち原判決は、被告人等がスクラムを組み労働歌を高唱して気勢を挙
げた事実を認定してはいるが、それだけで警察官等に対して暴行脅迫が行われたも
のとは認定していないのである。故にこの点に関する論旨も結局原判決の事実誤認
を前提とする議論であつて採用するを得ない。
 (三) 論旨は更に進んで、以上の如き被告人等の行為が暴力でないとすれば威
力であるから、公務執行妨害罪が成立しないとしても、業務妨害罪が成立すると主
張するのであるが、業務妨害罪にいわゆる業務の中には、公務員の職務は含まれな
いものと解するを相当とするから、公務員の公務の執行に対し、かりに、暴行又は
脅迫に達しない程度の威力を用いたからといつて、業務妨害罪が成立すると解する
ことはできない。故にこの点に関する論旨も理由がない。
 被告人、Q及びRの各上告趣意について。
 論旨はいずれも事実誤認の主張であるから上告適法の理由とならない。
 被告人、Q、R、S、T、U、V等六名の弁護人上村進、藤井英男、牧野芳夫、
青柳盛雄の上告趣意第二点について。
 被告人等の本件行為が適法な争議行為でないことは、先きに検察官の上告趣意第
一点及び第二点について説明したとおりであるから、これを適法且つ正当な争議行
為であると前提して立論する論旨は採用するを得ない。
 右被告人等六名の弁護人牧野芳夫、森長英三郎、藤井英男、上村進、青柳盛雄、
小沢茂の上告趣意第一点、同被告人等の弁護人森長英三郎、青柳盛雄の同第一点及
び第二点について。
 本論旨も帰するところ前論旨と同様、主として、本件行為が争議行為として正当
なものであることを前提として立論しているのであるが、検察官の上告趣意第一点
及び第二点について説明したとおり被告人等の本件行為当時においては、もはや争
議なるものは存在せず、しかも被告人等の業務妨害行為は脅迫と認定されているの
であるから、勤労者が憲法二八条に基ずき団結権ないし団体行動権を保障されてい
るとしても、被告人等の行為を正当な争議行為として適法視する余地はない(昭和
二二年(れ)第三一九号同二四年五月一八日当裁判所大法廷判決参照)。
 従つてこれと反する見解に立脚する論旨は到底採用するを得ない。しかも原判決
の挙示する証拠とその説明に徴し、被告人等が判示の如く、W等会社の従業員が強
いて工場に入らんとするにおいては、多衆の威力により、右W等の身体自由に害を
加うべき旨を暗示して同人等を畏怖せしめ、W等はこれに脅えて入場を断念したと
いう事実を肯認することができるのであるから、脅迫罪の成立あるは当然である。
そして原判決が右の脅迫行為に適用した暴力行為等処罰に関する法律の規定が所論
の如く憲法の条規に違反し無效なものと認むべき根拠はない。しかも右違憲の論旨
は本件行為が争議行為であるとの前提に立つ議論であるが前記の如く、被告人等の
行為は争議行為といい得ないものであるから、論旨はその前提を欠くものである。
故にこの点の論旨も採用するを得ない。
 右被告人等六名の弁護人牧野芳夫、森長英三郎、藤井英男、上村進、青柳盛雄、
小沢茂の上告趣意第二点について。
 原判決の判示するところによれば、被告人等は、会社の前従業員であつた被告人
A等が、会社の業務を妨害してはならないとの仮処分決定の送達を受けながら、執
行吏の許可により会社建物の使用を認められて会社の業務に従事するW等の業務を
妨害せんとしていたこと等、仮処分の実情を承知しながら、W等の業務妨害を企図
する、被告人A等のスクラムに、共謀の上加担したというのであつて、かかる事実
の認定は、原判決の証拠説明によう十分首肯することができるのある。従つて原判
決には、所論前段の如き理由そごの違法はなく又被告人等に犯意がないともいえな
い。そして被告人等の右の如き所為が業務妨害罪に当り、所論後段の如き理由によ
つては、その違法性を阻却さるべきものでないこと、前論旨第一点について説明し
たととおりである。故に論旨は理由がない。
 以上により、被告人、A、B、C、D、E、F、G、H、I、J、K、L、M、
N、Oの十五名については、検察官の上告論旨第一点及び第二点は理由があるので、
旧刑訴四四七条、四四八条の二に則り、原判決中同被告人等に関する部分を破棄し、
同事件を原裁判所に差し戻すべく、被告人Pについては、検察官の上告論旨は理由
がなく、その余の、被告人Q、R、S、T、U、Vの六名については、検察官及び
弁護人等の各上告論旨とも理由がないので、以上七名の被告人等に関する本件各上
告は、旧刑訴四四六条によりいずれも棄却すべきものである。
 よつて、破棄差戻の判決を受けるべき、被告人等の中、L、Mを除くA外十二名
に関する弁護人等の上告論旨に対する判断を省略し、裁判官全員一致の意見により、
主文のとおり判決する。
 検察官 松本武裕関与
  昭和二六年七月一八日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    澤   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    眞   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   又   介

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