弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決および第一審理判決を破棄する。
     被告人は無罪。
         理    由
     弁護人鈴木俊光の上告趣意は、事実誤認の主張であつて、刑訴法四〇五
条の上告理由にあたらない。
     しかしながら、所論にかんがみ、職権をもつて調査すると、本件記録な
らびに当審において取調べをした東京地方裁判所昭和四七年(刑わ)第一九二六号
道路交通法違反等事件記録および東京高等裁判所昭和四八年(う)第四九七号道路
交通法違反等事件記録を総合して検討すると次の事実が認められる。
 (一)本件の公訴事実は、「被告人は昭和四五年五月二〇日午後七時三五分ころ、
業務として普通乗用自動車を運転し、東京都台東区ab丁目c番d号先の信号機に
よつて交通整理の行なわれている交差点を、e方面からf方面に向かい直進するに
あたり、対面する信号機の表示する信号に従い、かつ、同交差点入口に設けられて
いる横断歩道上の安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があるのに、右の信
号が赤色の停止信号を表示しているのを看過し、右横断歩道上の安全を確認しない
で、時速約三〇キロメートルで進行した過失により、おりから横断歩道上を信号に
従い左から右へ歩行中のB(当二〇年)に自車を衝突転倒させ、よつて、同女に加
療約一か月間を要する右前額部挫創等の傷害を負わせたものである。」というもの
であつて、第一審判決は、右公訴事実どおりの事実を認定したうえ、右は刑法二一
一条前段の業務上過失傷害罪にあたるものとして、被告人を禁錮五月に処し、原判
決は、被告人の控訴(控訴趣意は量刑不当をいうだけであつた。)を理由がないと
し、控訴棄却の言渡しをしたのである。
 (二)右の原判決に対し被告人から申し立てられたのが本件上告であるところ、
原判決後である昭和四六年一〇月一五日、被告人は東京地方検察庁の検察官に対し、
「自分はCことDのために身代り犯人となつていたものである」旨申し立て、さら
に同年一二月一日CことDから同庁の検察官に対し、「本件傷害事故の真犯人は自
分である」旨の自首がなされ、これらの事情により本件事故についてあらためて捜
査がなされた結果、同四七年四月一三日右Dにつき道路交通法違反、業務上過失傷
害、犯人隠避教唆の各罪、被告人につき犯人隠避の罪により、東京地方裁判所に公
訴が提起され(同裁判所昭和四七年(刑わ)第一九二六号事件)、同裁判所は審理
のすえ同四八年一月三一日、右公訴犯罪事実のすべてを有罪と認め、Dに対しては
懲役一年、被告人に対しては懲役四月の各刑を言い渡した。この判決に対し、被告
人およびDが控訴した(東京高等裁判所昭和四八年(う)第四九七号事件、その控
訴趣意はいずれも量刑不当をいうだけのものであつた。)ところ、東京高等裁判所
は、同四八年六月一八日Dの控訴を棄却し、被告人については量刑が不当に重いと
して第一審判決を破棄し、被告人に懲役四月、三年間執行猶予の刑の言渡しをした
(これに対しDは同月二六日上告の申立をしたが、被告人については同年七月三日
右判決が確定した。)。
 (三)右東京地方裁判所昭和四七年(刑わ)第一九二六号事件において取り調べ
られた各証拠によれば、(一)に前記した公訴事実のように、昭和四五年五月二〇
日普通乗用自動車を運転してBに傷害を負わせたのは、被告人ではなくDであるこ
と、被告人は当時右普通乗用自動車の後部座席に乗つていたものであること、Dは
右のように事故を起した直後、自分が無免許であるため重く処罰されることを恐れ
運転免許を有する被告人に身代り犯人となつてくれるよう依頼し、被告人において
これを承諾し、そのころ事故現場付近の交番において警察官に対し事故を起した犯
人は自分である旨虚偽の申立をしたこと、その後、被告人は、前記のように起訴さ
れて禁錮五月に処せられその控訴を棄却されたこと、被告人は意外に刑が重くこの
ままでは実刑に服さざるを得ないような状況になつたため、真実を述べる気となり、
前記(二)のように東京地方検察庁の検察官に対し「自分はCことDのために身代
り犯人となつていたものである」旨申し立て、その後Dも同庁の検察官に対し自首
するに至つたこと、以上の諸事実を明らかに認めることができる。
 以上の諸点によつて考えると、本件被告人については、原判決後において、刑訴
法四一一条四号、四三五条六号にいわゆる再審の請求をすることができる場合にあ
たる事由があることになり、しかも、原判決を破棄しなければ著しく正義に反する
ものと認められるから、原判決およびその認容する第一審判決はともに破棄を免れ
ない。そして、本件については、訴訟記録および当審において取り調べた証拠によ
つて直ちに判決をすることができるものと認められるから、同法四一三条但書によ
り被告事件についてさらに判決をすることとし、同法四一四条、四〇四条、三三六
条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官 別所汪太郎公判出席
  昭和四八年七月二〇日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   塚   喜 一 郎
            裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    小   川   信   雄
            裁判官    吉   田       豊

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