弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人大野義忠、同米田正弌の上告理由について。
 論旨は、本件選挙の不在者投票につき、原判決がその理由二の1に掲げた一六名
の提出したa町長の不在事由証明書によつた投票の許容を違法と断じたのを、法令
違背という。
 しかし前示各証明書には病気、手術、出産、入院附添等を不在事由としながらそ
の治療・分娩等の場所については全く記載を欠くので、それら証明書によつては、
そのような事故のためにその選挙人の属する投票区のある市町村の区域外に滞在(
入院)中であるべきことを要件とする公職選挙法(以下単に法と称する。)四九条
二号所定の事由を確認するに足りない。他面、入院附添の場合を除き、それらの事
由は、その治療分娩等の場所のいかんにかかわらず、その選挙人の歩行著しく困難
であるべき事情を認めうるならば、同条三号に該当するが、その場合の事由の証明
は、医師、助産婦等の証明書によることを要し、a町長の証明書によることのでき
ないことは、公職選挙法施行令(以下単に令と称する。)五二条一項三号の定める
ところである。そこで、原判決はそれら証明書は証明権者を誤つもので、医師、助
産婦等の証明書によるべき旨を説示したものと認められ、その趣旨は、もし所論の
ようにそれら一六名の不在事由を法四九条二号該当というならば、それら証明書は
右事由を証明したものと認めるに足りないとするにあることは疑ない。してみれば、
原判決の説示は多少簡に失した憾はあるとしても、かかる瑕疵ある証明書によつた
不在者投票の請求の受理を違法と解した同判決の判断は相当であつて、所論の非難
はあたらない。
 また論旨は、原判決がその理由二の3に列挙したa町長のした一六〇名の不在証
明書を違法と解したのを失当という。
 しかし、選挙の当日旅行中であるべきことを不在事由とする前示各証明書の記載
は、あるいはその旅行目的に全く触れるところなく、あるいは旅行目的の記載はあ
るにしても、それがやむを得ない用務であること、すなわち選挙当日の投票のため
にその予定を変更しては自己の用務の達成に支障をきたすべき事情を推認させるの
に足りる記載を欠くことは、各証拠に徴して明らかであり、いずれも法四九条二号
該当事由を証明するに足りない。しかも、論旨の主張するように、それら証明書に
よる不在者投票の請求の受理にあたり、町選挙管理委員会の不在者投票管理を担当
する職員において、それら証明書のそれぞれについて記載の不備を補足するに足り
る説明を受けて不在事由を確認した具体的事実の存することも、また認められない。
してみれば、それ
ら証明書によつた不在者投票につき、一六〇票の違法管理を認めた原判決の判断も、
また相当といわなければならない。
 論旨は、なお前叙各証明書は、a町長から公証権限を委ねられた町役場戸籍課職
員が、各不在投票の請求者について不審の点を訊し不在事由を検討のうえ法四九条
二号該当と認めて発行した適法のものと主張する。しかし、不在事由の存否の判断
は、当該選挙管理委員会の委員長(およびその不在者投票管理事務の補助機関)に
おいて提出された証明書についていわゆる形式的審査をもつて行なうべきものであ
るから、証明書自体に不在事由を確認するに足りない記載の不備その他の瑕疵の存
するかぎり、それら証明書が町長において証明権限あるものとして発行されたこと
に信頼し、不在者投票の請求を受理したものであつたとしても、管理の違法は免れ
ない。
 論旨はいずれも採用しがたい。
 訴訟参加人代理人泉田一、同南健夫の上告理由第一点および第二点について。
 論旨は、原判決がその理由の二の1に掲げたa町長の不在事由証明書一六通につ
き証明権者を誤つものと判示し、またその理由の二の3に記載する同町長の証明書
一六一通(一六〇名)を適法な証明書と認めがたい旨を判示したことを、法令の解
釈適用を誤つものといい、さらに不在事由の実質的審査権限は令五二条に掲げる個
々の証明権者のみ有し、これら証明権者が不在事由があると認めて記載した証明書
は、不在事由の審査につき形式的権限のみを有する当該選挙管理委員会委員長を拘
束し、これに反する判断を許さないものと論じ、原判決が前記証明書によつて不在
者投票を許容したのに違法はないものと主張する。
 しかし、前示各証明書が法四九条二号該当の事由を証するものとして瑕疵あるこ
とは、前叙上告代理人らの上告理由に対して説示したとおりである。また選挙管理
委員会委員長の不在事由の審査が形式的審査によるべきものというのは、法四九条
各号該当事実の有無は証明書の記載によつて認定すべきであつて、その証明書の記
載事実が真実であるかどうかまでを実質的に調査すべきでないとするだけのことで
ある。他面、証明権者は不在者投票の請求について存する選挙期日における普通投
票の障害となる事実の証明の権限はあるが、それが法定の不在事由に該当するか否
かを判定する権限を有するものではない。この点に関する所論は、独自の見解とい
うほかなく、前示各証明書によつた不在者投票の管理を違法と断じた原判決は正当
である。論旨は採用し
がたい。
 同第三点および第四点について。
 論旨は、不在者投票の違法管理の選挙の結果に異動を及ぼす虞の有無の判断につ
き原判決の採用したところは抽象的、観念的判断であつて、憲法一五条が国民の公
務員の選定罷免権並びに選挙権を保障する趣旨に反するといい、また令五二条一項
二号の規定を原判決のように解するならば、それも同様憲法一五条に違反するもの
と主張する。
 しかし、原判決は、本件選挙につき不在者投票の請求の違法な受理が一七八票に
のぼる事実を確定し、各当選者の得票の状況に照し、もし受理を拒否すべき前示不
在者投票が正当に拒否されていたとすれば、場合によつては当選者二六名中得票順
位一〇位以上の者ですら必ずしも当選したものとは断定しがたい旨を判示したので
あつて、それは、前示不在者投票の請求が正当に拒否されていたとすれば、あるい
はそれら請求者は選挙の期日において棄権していたかも知れないとする想定のもと
に、その違法管理の選挙の結果としての当落に及ぼす影響を判定したものと認めう
るとしても、所論のような判断によつたと解すべき根拠はない。論旨は、なお前記
棄権の想定をも非離するが、証明書に瑕疵ある不在者投票の請求を拒否すべきでな
いとする所論は、結
局本件不在者投票受理を選挙の規定違反ではないというに帰し、首肯しがたい。選
挙争訟の目的が不公正の疑ある選挙の結果の排除にあることにかんがみれば、原判
決の前叙の判断は、法二〇五条一項の解釈として正当であり、論旨はひつきよう違
憲に名を藉りて公職選挙法の解釈適用を争うものにすぎない。また令五二条は、不
在事由の異なるに応じ、その事由を証明するのに適切な者もまた異なることにかん
がみ、その証明権者を区分して規定したものにほかならない。そのそれぞれの不在
事由につき証明を欲する者につき、証明書請求を困難とする相手方を証明権者と定
めているものとは到底認められず、しかも同条は、証明権者の証明書を得られない
場合に疎明によつてこれに代えるみちをも設けているのである。それは特別投票手
続たる不在者投票の
規制として、所論のように必要以上の制限でもなく、選挙権の行使を著しく困難な
らしめるものでないことはきわめて明白である。また選挙を無効とするのは、違法
管理を是正しあらためて選挙人に選挙権行使の機会を付与するにあるから、本件の
ような不在証明書の瑕疵ある不在者投票を無効視して、違法管理の選挙の結果に異
動を及ぼす虞を判断し、選挙を無効としても、それが所論のように国民の選挙権を
否定するものでないことはいうまでもない。してみれば、これらを憲法一五条違反
のごとく論ずるのは、違憲の主張としてその前提を欠くものにほかならない。論旨
はいずれも理由がない。よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    色   川   幸 太 郎

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