弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人Aの上告趣意について。
 所論は原判決の事実誤認と量刑不当とを主張するものであつて刑訴法四〇五条の
上告適法の理由とならない。
 被告人Bの上告趣意について。
 所論は事実誤認の主張であつて同じく上告適法の理由とならない。
 被告人Aの弁護人岸達也の上告趣意第一点について。
 所論は原審で主張がなく原判決の判断を経ていない事項である。
 のみならず第一審第四回公判調書(昭和二八年二月九日の分)によれば検察官は
一乃至八二の書証(主として参考人の供述調書)の証拠調を請求したところ、これ
に対する弁護人の意見は次回にしたい旨の記載があり、次の第五回公判調書(同年
二月一八日の分)によれば、被告人Aの主任弁護人関田政雄、被告人C、同Dの弁
護人本城亀夫、被告人E、同F、同Bの主任弁護人伏見礼次郎、被告人G、同H、
同Iの主任弁護人大井勝司が出廷し、前回の各書証に対する意見の陳述として、関
田弁護人は一乃至五一につき、本城弁護人は五二乃至五八につき、大井弁護人は五
九乃至七〇につき、伏見弁護人は七一乃至八二につき夫々分担してその意見を陳述
し、それぞれその分担した書証について、或る者は証拠とすることに同意し、或る
者は不同意の旨陳述し分担以外の書証については何ら意見を陳述していない。そし
て、第一審判決第二の(イ)の証拠としたJ(五四)、K(五五)、L(五六)、
M(五七)、N(五八)の各司法警察職員に対する供述調書は、本城弁護人におい
て証拠とすることに同意する旨述べている。そして右は取調済の記載がある。
 してみれば右各供述調書は、全被告人の為証拠とすることに同意があつたものと
解すべきである。何となれば右書証(一乃至八二)中には被告人の供述書はなく、
皆参考人のものか又は差押調書であつて、それについて、かように共同被告人とそ
の弁護人が同じ公判期日に在廷して数名の弁護人が書証を証拠とすることに同意不
同意の意見を表示するに当り、弁護人が各分担を定めて意見を陳述し、そして他の
弁護人はそれ以上同意不同意の意見を陳述しなかつた以上は(弁護人がそれ以上意
見を陳述することを妨げられないで証拠調を終了した限り)、各弁護人協議の上、
自己の代理する被告人に最も関係深い書証の同意不同意を他の各弁護人に代り陳述
したもので、その効果は全被告人に及ぼす趣旨と解するのを相当とする。
 各被告人等の供述調書については、第一審第九回公判調書(同年三月一八日の分)
によれば、各弁護人は「各調書は当該被告人に対する証拠としてのみ同意、他の共
同被告人に対する証拠としては不同意」と明白に陳述したことが記載されているの
に、右第五回公判調書にはかゝる記載がないことに照しても右の趣旨に解するのを
相当とするといい得る。
 又、O、P、Qの各供述調書は、第一審第八回公判調書(同年三月一一日の分)
の一部をなす添附の「証拠の標目」の欄(記録第二冊六一二丁)に、右書証は全部
同意と記載されていて、同日出頭した各主任弁護人全部がこれを証拠とすることに
同意している。
 又、第一審判決第三の(イ)の事実の証拠としたR(五九)、S(六〇)、T(
六一)、U(六二)、V(六三)、W(六四)の各司法警察職員に対する供述調書
及び同判決第三の(二)の事実の証拠とした、X(七一)、Y(七二)、Z(七三)
の各司法警察職員に対する供述調書も前同様それぞれ大井主任弁護人並びに伏見主
任弁護人が全被告人のために証拠とすることに同意し、右取調済の記載がある。
 又同判決第三の(ハ)の証拠として、Aaの司法警察職員に対する供述調書は、
第一審第八回公判調書(同年三月一一日分)の一部をなす証人Aaの供述記載部分
の中で、各弁護人が証拠とすることに同意し、且証拠調をした旨記載がある。(記
録二冊五九一丁)
 そして以上の書証はすべて、公判廷で証拠調がなされているから所論判例違反の
主張はその前提をかくものである。
 すなわち論旨は上告適法の理由とならない。
 同第二点について。
 所論は、要するに、第一審判決は第三事実(ハ)の証拠として証人Aaの証言の
外同人の司法警察員に対する供述調書を列挙しているが、第一審検察官としては司
法警察員の作成した書面であるため犯罪事実の存否に欠くことができない場合の外
取調を請求し得ないものであり、若し刑訴法三二八条により公判期日における証言
の証明力を争う趣旨であるならばこれを犯罪事実の証拠に引用することができない
ものである。そして昭和二八年三月十一日(趣意書に十八日とあるは誤記)の公判
の際に検察官の述べるところによれば「当証人は当時の記憶がうすれて居り、又右
供述調書については未取調請求に付あらためて取調請求す」とあるだけでその後の
公判調書を通読しても検察官からこれの取調を請求した事跡がない。しからば第一
審判決は証拠調を経ない証拠によつて犯罪事実を認めた違法があり、第一点に示し
た最高裁判所判例にも反し、又、かような粗まつな措置は刑訴法四一一条により最
高裁判所が職権を発効すべき場合にも当るから、これを是認した原判決は破棄を免
れないと主張するものである。
 しかし、この所論も原審で主張判断を経ていない。
 のみならず、所論のAaの司法警察職員に対する供述調書に関して記録を調べて
見ると、前記の如く、第一審第八回(昭和二八年三月一一日)公判期日における証
人Aaの訊問に際しその証言を録取した部分(記録二冊五九〇丁ウラ)には、
 「検察官
    Aaの司法警察員に対する第一回供述調書一通の取調請求
   理由 当証人は当時の記憶がうすれて居り又右供述調書に付いては未取調請
求につきあらためて取調請求する。
  各弁護人
    同 意
  裁判官
    決定取調済」
と記載されている(記録二冊五九〇丁ウラ五九一丁)。そして右証人の訊問も公判
廷で行われており、その訊問終了するや検察官は右供述調書の取調を請求し、各弁
護人は証拠とすることに同意して証拠調を行つているのである。
 すなわち右Aaの司法警察職員に対する供述調書については所論のような検察官
が取調を請求しなかつたなどというようなことはなく、検察官から取調の請求があ
りこれに基いて証拠調が行われたこと明らかである。してみれば第一審判決が他の
証拠と共にこれを証拠に引用して犯罪事実を認定したことには何ら所論のような違
法も判例違反もなく、従つてこれを是認した原判決に所論のような違法ありという
ことはできない。
 所論判例違反の主張は証拠調の請求なきことを前提とするものであるから、所論
はその前提を欠くものである。
 結局、所論は上告適法の理由とならない。
 同第三点について。
 所論判例違反の主張は被告人Aと同Ab等との間に非合法の投票取りまとめ資金
報酬等の趣旨を含めた金員を供与しようとの共謀のあつたことを前提としているが、
第一審判決はかような共謀のあつた事実を認定していないので、論旨はその前提を
欠くものであり又は判例違反に名をかりて事実誤認を主張するに過ぎないもので、
上告適法の理由とならない。
 同第四点について。
 所論引用の判例は、いずれも「投票買収のため金員の交付を受けた者が其の金員
を更に他の選挙人に供与したときは、金員供与罪のみが成立し、右金員の交付を受
けた点は右供与罪中に吸収されて別罪を構成しない。」とするものである。
 しかるに第一審判決は、被告人Aが、同Acと共謀の上同Abに金員を供与した
事実を確定しているので、被告人Aが同Abから金員の交付を受けた事実を確定し
ているのではない。故に、被告人Aが同Abに金を渡したことが、仮りに交付罪で
あるとしても、所論判例によれば、被告人は交付を受けた者ではないから、所論は
第一審判決の確定した事実にそわないもので所論判例は本件に適切でない。
 所論末段は事実誤認の主張にすぎない。
 所論は上告適法の理由とならない。
 同第五点について。
 所論は第一審判決が証拠とした被告人等の検事に対する供述は、いずれも強制拷
問誘導に基くもので憲法三八条一、二項に違反するというのである。
 しかし、右は原審で主張もなく判断も経ていない事項である。又、記録を調べて
も右各供述が強制拷問誘導に基くと認むべき証跡もない。
 同第六点について。
 所論は金員授受の趣旨その他についての原判決の事実誤認と法令違反とを主張す
るものに過ぎない。
 第一審判決も詳細に説明する如く、本件は非合法な金員の供与等であつて第一、
二審判決が供与罪と交付罪の観念を誤解している点のないことも第四点で説示した
通りである。
 所論は上告適法の理由とならない。
 同第七点について。
 所論は量刑不当の主張に過ぎず上告適法の理由とならない。
 被告人全員の弁護人関田政雄の上告趣意第一点について。
 所論は弁護人岸達也の上告趣意第一、二点を引用するものでこれに対する当裁判
所の判断は同論旨に対して前に記述したとおりであつて、いずれも上告適法の理由
とならない。
 同第二点について。
 記録を調べてみると公判調書に所論の如き訂正はしてあるが、本論旨は原審で主
張なく、原判決の判断を経ていない。(しかも右訂正は犯罪の成否に関係はない。)
所論は上告適法の理由とならない。
 同第三点、第四点について。
 所論は、被告人A外六名の所論各被告人は、全員で選挙人に金員を供与しようと
共謀し、その結果共謀者間に金員の授受をしたというのが事実であるから被告人等
の公訴事実は罪にならない、と主張し、その前提として、第一、二審判決が被告人
等七名を共謀者と解しなかつたことは判例違反であると主張するに帰する。
 しかし所論引用の(1)大正七年四月一七日の判例(2)昭和七年一〇月一一日
の判例は本件と事案を異にし本件に適切でない。第一、二審判決が引用の証拠を解
釈して原判示事実を認定したについては何ら法律又は判例に違反したところはない。
所論は結局判例違反に名をかりた事実誤認の主張であつて上告適法の理由とならな
い。
 同第五点について。
 所論は被告人等を共謀者と認めなかつたことを憲法三一条違反と主張するもので
あるが、この主張は原審で主張判断を経ていない。違憲というが、その実質は、事
実誤認乃至法令誤解の主張に過ぎない。
 所論は上告適法の理由とならない。
 同第六点について。
 弁護人岸達也の上告趣意第三点と同じであつて、第一審判決は被告人等は金銭供
与を共謀した事実は認定していないのであるから、所論は上告適法の理由とならな
い。
 同第七点について。
 弁護人岸達也の上告趣意第五点において説示した通りで、所論は上告適法の理由
とならない。
 同第八点について。
 所論は単なる量刑不当の主張に過ぎず上告適法の理由とならない。
 同第九点について。
 所論は被告Adの検事に対する供述は任意性がないとして違憲を主張するのであ
るが、原審で主張判断を経ていないし、又任意性を欠くとの証跡もない。論旨は上
告適法の理由とならない。
 同第一〇点について。
 第一審判決は、所論の被告人等が供与を受けた金員中に実費が含まれているとい
う事実を認定していない。(含まれたものにはその旨判示している。)故に所論は
判例違反に名をかりた事実誤認の主張であり、原審で主張判断を経ていない事項で
ある。所論は上告適法の理由とならない。
 同第一一点について。
 所論は原審で主張判断を経ていない事項である。又供与を受けた金員の使途等は
いずれにしても犯罪の成立に影響しない。なお、判例違反というが判例を指摘して
いない。所論は上告適法の理由とならない。
 以上各上告趣旨に関する外、記録を調べても刑訴法四一一条を適用すべきものと
は認められない。
 よつて同法四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三〇年八月二日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛