弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
原告の請求は、棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
 原告訴訟代理人は、「特許庁が、昭和四二年五月三一日、同庁昭和三五年抗告審
判第二、四一八号事件についてした審決は、取り消す。訴訟費用は被告の負担とす
る。」との判決を求め、被告指定代理人は、主文同旨の判決を求めた。
第二 請求の原因
 原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のとおり述べた。
一 特許庁における手続の経緯
 原告は、昭和二九年六月二二日、別紙第一記載の商標について商標登録の出願を
したが、昭和三五年七月三〇日拒絶査定を受けたので、同年九月六日抗告審判の請
求をして、同年抗告審判第二、四一八号事件として審理され、昭和四〇年四月二八
日出願公告がされたが、【A】、美津濃株式会社、【B】からそれぞれ登録異議の
申立があり、昭和四二年五月三一日、右登録異議の申立はいずれも理由があるとす
る決定とともに、「本件抗告審判の請求は成り立たない」旨の審決があり、その謄
本は同年七月二二日原告に送達された。
二 本件審決理由の要旨
 本願商標は、「GOLF」の文字から成るものであるが、このような文字の表示
は、本願商標の指定商品中、被服類について、ゴルフ愛好者の好みに応ずる、いわ
ゆるゴルフ向きの商品であることを表示するため、当業者間においてふつうに使用
されているものであり(たとえば、GOLF WEARゴルフウエア、GOLF 
SOCKSゴルフソツクス、GOLF JUMPERゴルフジヤンパー、GOLF
 PANTSゴルフパンツ、GOLF GLOVEゴルフグローブ、GOLF C
APゴルフキヤツプ等)、したがつて、被服類については、本願商標が原告の商品
であることを示す標章として、取引者、需要者間に広く認識されているものとは認
めることができず、本願商標をゴルフ向きの被服類について使用しても、旧商標法
(大正一〇年法律第九九号)第一条にいう特別顕著の要件を欠くものというべく、
また、これをその他の商品について使用するときは、商品の用途または品質につい
て誤認を生ぜしめるおそれがある(同法第二条第一項第一一号)といわなければな
らないから、本願商標は登録を拒絶すべきものである。
三 本件審決を取り消すべき事由
 本件審決は、まず、本願商標の指定商品中、被服類、ことにいわゆるゴルフ向き
の被服類については、本願商標は特別顕著性を有しないとしているが、これは事実
の認定及び判断を誤つたものである。本願商標は、以下に述べるように、原告会社
の長年にわたる使用により、いわゆる使用による特別顕著性を具備するに至つたも
のである。
 本願商標と同様な別紙第二記載の商標は、大正一四年九月二四日、大同貿易株式
会社が商標登録を経て以来、これを被服類に継続して使用して来たが、昭和一九年
九月一二日、同会社は三興株式会社及び呉羽紡績株式会社と合併して、大建産業株
式会社が設立され、右登録商標も大建産業株式会社が承継取得して使用を継続し、
次いで昭和二五年三月一日、同会社は企業再建整備法による決定整備計画の定めに
より、原告会社(当時の商号は丸紅株式会社、昭和三〇年九月一日現商号に変更)
外三社を設立して解散したが、その際、右登録商標は原告会社が承継取得すること
とされて、以後原告会社がこれを継続使用して来たが、この間、商標の管理が十分
でなかつたため、右登録商標は存続期間の満了によつて消滅してしまつた。原告会
社は、昭和二六年四月になつて、これに気付き、同月一六日、同一商標について新
たに商標登録の出願をしたところ、その先願にあたる登録第四〇四、五五三号商標
(甲第一一号証)に類似するとの理由で、登録を拒絶されてしまつた。しかし、原
告会社は、昭和二五年三月一日設立以来、シヤツ、ジヤンパー、肌着、セーター、
靴下等のメリヤス製被服類に、「GOLF」の文字を横書きしてなる商標を継続し
て使用し、また、パジヤマ、ガウン等の被服類にも昭和四〇年以来同様の商標を継
続して使用しているので、原告会社の全国にわたる広大な販売組織及び強力な宣伝
と相まつて、全国の取引者、需要者間に、右商標は原告会社のものであることが広
く知れわたつており、これが付された商品は、ゴルフ印の総称の下に、優良品の代
名詞のように取扱われて、何人もそれが原告会社の商品であることを直感し認識す
るほどになつている。このことは、特許庁においても、すでに昭和三〇年四月当時
顕著になつていたことである。すなわち、株式会社岩田商店の出願にかかる、「G
OLF」及び「ゴルフ」の文字を二段に横書きし、その下方に一個のゴルフボール
と二本のゴルフクラブとを組み合わせた図形より成る商標について、特許庁は、昭
和三〇年四月一一日、取引者、需要者間に広く認識されている原告会社の<116
08-003>印の標章と類似するものであるとして、その商標登録を拒絶した事
実がある。
 右のとおり、原告会社は、本願商標のように、「GOLF」の文字を横書きして
成る標章を、長年にわたりその商品である被服類に継続使用した結果、取引者、需
要者間において、右標章が原告会社のものであることを広く認識されるに至つたの
であるから、本願商標は、その指定商品中、被服類に関しては、使用による特別顕
著性を有するものというべきであり、それが特に、ゴルフ向きの被服類に用いられ
た場合であつても、同じことである。
 次に、本件審決は、本願商標を指定商品中のゴルフ向きでないその他の商品に使
用するときは、用途または品質について誤認を生ずるおそれがあるというが、前記
のとおり、被服類について使用による特別顕著性を具備するに至つた経緯に徴する
と、本願商標をその他の商品について使用した場合でも、その用途または品質につ
いて誤認を生ずるおそれはないというべきである。
 以上のとおり、本件審決は、いずれの点においても、事実の認定及び判断を誤つ
た違法のものであるから、取り消されるべきものである。
第三 被告の答弁
 被告指定代理人は、答弁として、次のとおり陳述した。
 原告主張の請求原因事実中、本件に関する特許庁における手続の経緯、本願商標
の構成及び指定商品、本件審決理由の要旨、大同貿易株式会社が別紙第二記載の商
標について登録を経ていたこと、原告主張のような経緯で大建産業株式会社が設立
され、次いで原告会社が設立されたこと、右登録商標が存続期間の満了により失効
したこと、原告会社が昭和二六年四月一六日右と同一の商標について商標登録の出
願をしたが拒絶されたこと、特許庁が昭和三〇年四月一一日、株式会社岩田商店の
出願にかかる原告主張のような商標について、その主張のような理由で登録を拒絶
したこと、以上の事実はいずれも認めるが、その余の事実はすべて争う。
 本件審決の認定は正当であり、原告主張のような違法の点はない。すなわち、本
願商標の指定商品中、被服類についてみると、それがゴルフに適するタイプのもの
であるときは、ゴルフ向きの商品であることを表示するためGOLFの文字が使用
されて店頭に陳列されており、また、ゴルフまたはGOLFの文字を冠した商品名
を表示して、ゴルフ用品店またはゴルフ用品部に陳列されているのがしばしば見受
けられるところであり、これらの表示は、スキー、登山等の文字を冠した商品名の
表示と同様に、自他商品の識別標識として用いられているものでないことは、取引
上顕著な事実である。したがつて、本願商標は、右のようなゴルフ向きの商品につ
いては、旧商標法第一条にいわゆる特別顕著の要件を欠くものであり、その他の商
品については、同法第二条第一項第一一号に該当するものであるといわざるをえな
い。
第四 証拠関係(省略)
       理   由
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願商標の構成及び指定商品並びに
本件審決理由の要旨がいずれも原告主張のとおりであることは、当事者間に争いが
ない。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、まず、本願商標は、原告会社の長年にわたる使用により、いわゆる使
用による特別顕著性を具備するにいたつたものである旨主張するので、この点につ
いて検討する。
 成立に争いのない甲第一三号証ないし第二七号証、第二八号証の一ないし四、第
二九号証の一ないし五、第三〇号証の一ないし四、第三一号証の一ないし六、第三
二、第三三号証の各一ないし八、第三四号証の一ないし六、第三五号証の一ないし
一六及び第三七号証、証人【C】の証言により原告会社が現に本願商標を使用して
いる商品の写真と認められる甲第三六号証の一ないし一四並びに証人【C】、
【D】の各証言を総合して考えると、原告会社は、昭和二五年以降その商品である
シヤツ類、ジヤンパー・コート類、肌衣、セーター、くつ下に、昭和四〇年以降は
パジヤマ、ガウンに、いずれも本願商標と同様な「GOLF」または「●」の標章
を使用し、昭和四二年までの間に総計概算九八、四七七、一〇〇点の商品を販売し
たこと、その販売方法は、日本全国の卸屋を通じて、有名小売店、百貨店等に販売
するものであり、新聞等によるほか、全国主要都市で四季折々に見本市を開いて宣
伝することにより、就中昭和二九年頃から商品売上数も格別に増加して、遅くも昭
和三四年頃には、右標章の付された商品が、原告会社のいわゆるゴルフ印の商品と
して、取引者、需要者間に広く知られるようになり、この状況は昭和四二年頃もな
お継続していたことを認めることができ、他に右認定を左右すべき証拠は存しな
い。
 右認定の事実によると、被服のうち、少くともシヤツ類、ジヤンパー・コート
類、肌衣、セーター、くつ下、パジヤマ、ガウンに関しては、前記標章を付するこ
とにより、それが原告会社の製造販売にかかる商品である旨、取引者、需要者間に
広く認識されるようになつたのであるから、本件審決のされた昭和四二年五月当
時、右商品に関する限り、本願商標が長年使用による特別顕著性を有するにいたつ
ていたものと解するのが相当であり、右商品中、いわゆるゴルフウエアと称せられ
るべきゴルフ用衣服について本願商標が用いられた場合であつても、必ずしもこれ
を否定すべき根拠はないものというべきである。
 しかし、商標が長年使用による特別顕著性を有するにいたつたことは、それが長
年の間継続して一定の商品に使用され、一般取引上、取引者、需要者をして直ちに
その商品の出所を識別させ得るようになつたとき、その特定の商品に限り、はじめ
てこれを肯認することができるのであり、右特定の商品の範囲を越えて、他の類似
商品にまでこれを及ぼすことはできないものと解すべきである。そして、本願商標
の指定商品は、旧第三十六類「被服その他本類に属する商品」とされ、一つの商品
区分に属する全商品を包括的に指定するものであるところ、そのうち使用による特
別顕著性を認め得べき商品は、前認定の特定のものに限られ、右の包括的指定にか
かる旧第三十六類に属する商品全部にわたり、本願商標が長年使用されたことは、
本件に現われたすべての証拠を検討しても、これを認めることができず(成立に争
いのない甲第七号証も、その認定資料たりえないことは、いうまでもない。)、し
たがつて、本願商標の指定商品全部について、本願商標が使用による特別顕著性を
有するにいたつたとすることはできないから、指定商品を前記のように包括的に定
めて登録を求めるかぎり、本願商標に長年使用による特別顕著性あることを肯認す
るわけにはいかないものである。この点に関する原告の主張は、理由がないといわ
ざるをえない。
 ところで、いわゆるゴルフ用被服について、GOLF WEAR(ゴルフウエ
ア)、GOLF PANTS(ゴルフパンツ)等の用語が一般に慣用表示されてい
ることは、公知の事実であるから、別紙第一表示のような本願商標の構成に照ら
し、これを指定商品中のゴルフ用被服として適当な商品に用いた場合、長年使用に
よる特別顕著性が否定される以上、その出所識別の機能を営みえないことは、明ら
かなところであつて、かような商品について、本願商標は旧商標法(大正一〇年法
律第九九号)第一条第二項にいわゆる特別顕著なるものとはいえず、また、その余
の商品について用いるときは、その用途ないし品質について誤認を生じさせるおそ
れがあるものというべきであるから、いずれにせよ、本願商標が登録要件を欠くこ
とについては、審決の説くとおりであるといわざるをえない。
(むすび)
三 以上のとおりであるから、その主張のような違法のあることを理由に、本件審
決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものといわなければならない。よ
つて、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、
民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 服部高顕 三宅正雄 石沢健)
別紙第一 本願商標
<11608-001>
別紙第二 大同貿易株式会社の登録商標
<11608-002>

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