弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     検察官の被告人全員に関する本件各控訴(ただし被告人Aに関しては原
判示公正証書原本不実記載、同行使の点のみ)はいずれもこれを棄却する。
     原判決中、被告人Aおよび同Bに関する各有罪部分を破棄する。
     被告人Aを懲役八月に、同Bを懲役四月に処する。
     原審における未決勾留日数中、被告人Aに対し一五〇日を、被告人Bに
対し六〇日を、右各刑に算入する。
     ただし被告人Aに対し本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予す
る。
     被告人Aに対する本件公訴事実中、原判示第二の道路法違反、不動産侵
奪の点については、同被告人は無罪。
     被告人Aに対する本件公訴事実中、原判示第三の入場税法違反の点につ
いては、公訴を棄却する。
     原審および当審における訴訟費用中、証人C、同D、同E、同F、同
G、同H、同Iに支給した分は被告人A、同Bの連帯負担とする。
         理    由
 検察官野田英男が陳述した控訴趣意は、記録に編綴の検察官森崎猛名義の、弁護
人柏崎正一が陳述した控訴趣意は、記録に編綴の弁護人免出礦名義及び同柏崎正
一、同副聡彦、同野村宏治、同徳永昭三連名の、各控訴趣意書に弁護人柏崎正一が
陳述した答弁は記録に編綴の弁護人免出礦提出の答弁書にそれぞれ記載のとおりで
あるから、これを引用する。
 一、 検察官の控訴趣意中、第一点公正証書原本不実記載、同行使罪に関する事
実誤認に対する判断
 よつて、所論に鑑み、原判決の当否を判断するに、本件記録および原審ならびに
当審で取調べた証拠によれば、原判決説示のような事実関係にあつて、右公訴事実
に関する限りこれを有罪と認定するに足りないとする原審の判断は、まことに正当
と思料される。これを詳述すれば、
 そもそも公正証書原本不実記載罪の対象たる記載事項は、株式会社設立に関する
商業登記簿においては法令により記載すべきものと定められた登記事項、言い換え
ると商法一八八条所定の事項に限られると解すべきであり、これを右以外の事項に
まで拡張することは本罪の法益すなわち公正証書の原本記載事項に対する公の信用
ということに照らし許されないところである。そこでまず、本件会社の右登記事項
をもつて虚偽不実といえるかどうか検討するに、
 (一) 本件においては、原判決説示のように、各発起人および株式引受人は、
被告人Jはもとより他の者においても有効な株式会社の設立に必要な一切の事項の
決定および手続の進行の全権を被告人A、同B、同Jに委任し、同被告人らがこれ
に基づき右登記事項を決定して設立手続を進行し、また取締役および監査役として
指名された者らにおいて事前にその就任の推定的同意をしていたと窺われることが
明らかであるから、本件における右登記事項すなわち、商号、目的、本店、取締
役・代表取締役・監査役の氏名、会社が発行する株式の総数、額面株式一株の金
額、発行済株式の総数、額面無額面別の数、資本の額、会社が公告をなす方法等そ
のもの(しかして、払込があつたかどうかは登記事項ではない)は、いずれも個々
的には、発起人、応募株式引受人ら創立総会の構成員となるべきものの意に副つた
ものであつて、実質内容において真実なものと解さざるを得ず、到底虚偽不実なも
のといえないのである。
 (二) そこで、問題は、所論のように本件会社がみせ金による払込および創立
総会の不存在という二つの瑕疵ある設立手続を前提としているために、本来会社自
体が不存在であるにもかかわらず、被告人らがこれを有効に成立し存在するものと
して前記設立登記事項の申請をし、もって登記簿に記載事項全体からみて会社が有
効に存在する旨記載ざせた点に、不実の記載をなさしめたものとして同罪の成立を
肯定できるといえるかどうかである。まず、みせ金の点についてであるが、いわゆ
るみせ金とは、株式払込の仮装の一つの態様を指す実際界の用語であつて、一般に
観念されているところによれば、株式会社の設立に際して、発起人が株式払込取扱
金融機関以外の第三者から借入をなしこれをもつて株式の払込に充て、会社成立後
可及的短期間内に株式払込金を払込取扱銀行から引き出してこれを借入先に返済す
るという方法で株式の払込を仮装することを指す言葉と考えられている。そしてか
かる株式の払込の効力については問題があるが、本件ではまずみせ金の事実の存否
から検討しよう。ところで、本件全証拠によるも、被告人Aと他の発起人間に見せ
金にする旨の合意の存在も、また同被告人から出捐された金一〇〇万円(かりに同
被告人から金八〇万円および被告人Bから出捐された金二〇万円であつたとして
も)が同人らに返済されたことも認めることはできず、現実に会社の営業活動資金
として運用されていることが窺われるので、本件払込がみせ金によるものであると
認めることはできない。なお総株式引受額に相当する現金が有効に払込まれている
以上、これらの株式の申込および引受の手続に一部瑕疵があつたとしても、これは
会社設立の無効原因ともなるものでなく、その他本件会社の払込に関しそ<要旨第
一>の設立の効力に影響を及ぼすべき事実の存在を認めることができない。ついで、
創立総会不存在の点であるが、前叙のよらにこの総会で決議されたとし
て登記されている事項は全て実質内容において真実なものであり、払込も有効であ
る以上、株式会社設立上の一手続としての創立総会が形式的に存在しないとして
も、その他の本件会社設立手続により、外形上法人格の取得に見合う本件会社の団
体的実体の成立していることは否定しがたいのであつて、右瑕疵の存在によつて直
ちにこのような実体を法律的な価値判断において全然無視して本件会社は不成立で
存在しないということは本件株式会社設立手続全体の法律的評価の観点からして妥
当でない。
 しかして、本件会社は成立して存在するのであるから、これを前提とする本件登
記事項には、前記意味においても虚偽性はない。
 前叙のように、本件登記事項につき虚偽不実性が認められない以上、右事項の決
定につき所論の如き形式的手続的な瑕疵があり、またこの瑕疵を被告人らが知つて
いたことの故をもつて、右のような実質内容の真実なることを無視し、直ちに公正
証書原本不実記載、同行使罪としての責を負わすことは、同罪の立法趣旨、法益お
よび本件会社の如き規模の個人会社ないしはこれに準ずる同族会社の設立手続の常
態ならびに商法四二八条の法意に照らし、妥当な解釈とはいえず、むしろこれらの
罪は成立しないと解する原判決の判断は相当であると認めざるを得ない。
 よつて、右公訴事実について原判決が無罪を言渡した全被告人らの本件行為は、
その余の所論について判断するまでもなく、公正証書原本不実記載、同行使罪を構
成しないことが明らかであるから、被告人らに対する本件公訴事実は、結局犯罪の
証明がないものといわなければならない。従つて、弁護人の答弁は理由があり、検
察官の右論旨は理由がない。
 二、 弁護人らの控訴趣意中事実誤認及び理由不備又は訴訟手続の法令違反の点
に対する判断
 (一) 恐喝罪に関する控訴趣意について。
 所論は、まず原判決の理由不備をいうが、本件記録および原審ならびに当審でと
りしらべた証拠によるも、これを認めることができない。
 そこで、事実誤認の論旨について判断をすすめる。
 1 被告人Aの建設業界における地位、背景および被告人B、G、Cとの関係に
ついて。
 原判決挙示の各証拠および当審でとりしらべた証拠によればつぎの事実が認めら
れる。
 (1) 被告人Aは、昭和二八年一二月ごろK株式会社を設立してその社長とな
りGを専務取締役として建設業を営んでいたところ、昭和三〇年四月熊本市議会議
員となり以後三期その職にあつたのであるが、同三二年兼業禁止により右社長の地
位をGに譲つたものの、依然同会社の実権をその大綱において掌握し、同会社の会
長と呼称され、また同三六年熊本市建設業協会の結成にあたつては主導的役割を担
当し、以後その顧問となり、Gをして同協会の副会長、会長を本件事件まで歴任さ
せた。
 (2) 熊本県には同協会のほかに県建設業協会があり、前者の業者は後者のそ
れに比べ県営工事の指名が少なかつたので、前者の会員はその点に非常に不満を抱
いていた。そこで被告人Aは、市協会員が県営工事を多数受注できるようになるた
めには、県知事が交替しなければ駄目だと考え、政治活動や選挙を好む性格もあつ
て、昭和三八年一月の知事選には現職の知事の対立候補として選挙直前までは熊本
市長であつた某を強く推挙して幅広い選挙運動を展開し、その他の選挙においても
市協会の地位向上の趣旨で特定候補を応援し、また同市助役とも特に親しくするな
どし、もつて、事業の発展を政治勢力との結びつきによつて果そうと企画していた
同協会員間において、自然と指導者かつ実力者としての地位を維持強化するに至つ
た。
 (3) Cは、夫死亡後そのあとをおそつて、同協会に加入している合資会社L
建設の代表者となつたものであるが、事業の遂行にあたつては同協会々長Gの助力
を受けるとともに、前記選挙のときには被告人Aの事務所に自由に出入りし、同人
とともに選挙運動をなして自己の事業の発展を期していた。
 (4) 同協会員の間では、工事入札にあたつては、あらかじめ入札日直前に、
指名された業者らが集つて当該工事の落札予定者を定めるための協調会を開くこと
が原則となつていたところ、昭和三七年一二月二五日施行のN小学校新築工事の入
札に際しては、その直前まで落札を希望するL建設と有限会社M建設間に折合がつ
かず最後に両者間で、L建設が落札するがその工事の施行はM建設から金五〇万円
をもらい更に金一〇〇万円借りることを条件に全部M建設に下請させてなすという
ことでようやく話合ができ、この約に基づきL建設が落札したのであるが、これを
知つたGは双方から政治献金名下に金二〇万円づつを取得することを企て両者に右
献金をしないときには右下請契約の履行を妨害するかのような言動をなして両者か
ら現金二〇万円づつの交付をうけた。Cからの右二〇万円は被告人Aの指図によつ
てなされたものであり、Dの分はG自身が同建設を指名業者になるよう努力してや
つたことを動機としてなされたものである。
 (5) Cは右二〇万円を前記某の知事立候補供託金名下に要求され、その趣旨
で渡しているのであるが、これは当選したあかつき市協会員が県営工事を多数受注
できる状態が到来しても、この選挙運動を強力に展開している被告人Aおよびこれ
の指示のもとに動くGの感情を害しておつては、L建設が工事の指名、入札、施行
等につき同人らの協力を得られないばかりか防害さえ受けるかも知れぬと心配した
からであつた。
 (6) 前記(4)のように入札前に指名業者において協調会をもつのが原則で
あつたところ、その協調会においては自然同協会の実力者被告人Aを背景とするG
や被告人Bの言動の影響力が大きく、従つてCは落札したいときには同人らにその
協力を頼んでいた。
 (7) しかしてL建設が昭和三八年七月三一日落札した熊本市発注の同市立O
小学校建設第二期工事(工事予定額九四三万円)についても、Cは入札前、被告人
B、Gに協力を依頼していたのであるが、協調会における同被告人の努力にもかか
わらず、最後に残つた落札希望者M建設が仲々譲らなかつたので、遂に同被告人は
同建設代表者Dに威力を加えて落札を断念させるという事態を招来するに至つた。
 以上認定の事実を総合すれば、右二期工事落札当時、被告人Aは熊本市の執行部
に影響を及ぼす政治力を有し、また同協会内では隠然たる勢力者として、会長Gを
使つて、事業主体のなす指名業者の選定に影響を及ぼしたり指名業者のなす協調会
の動向をある程度左右したり、また落札者が工事の実施にあたり使用する下請業者
となす下請契約に容喙する等なしており、そのため同協会員をして被告人Aおよび
これと一体をなす同BならびにGの機嫌を損じては、将来指名業者になることや落
札したり工事を実施するのに妨害を受けるおそれがあるとの危惧もしくは畏怖の念
を抱かしめていたことが明らかであるとともに、同被告人らおよびGにおいて、右
の状況を認識していたことが充分窺れるのである。
 2 被告人両名の恐喝の故意およびGとの共謀について。
 所論は、被告人両名はGと本件恐喝につき何らの共謀をしておらず、しかして、
その故意を欠くものであると主張するが、前叙説示のこの三名の市協会内における
地位、勢力およびこれらについての各人の認識の事実に、Gの原審における証人調
書ならびに検察官に対する供述調書および原審証人Cの尋問調書の各記載を総合す
れば、右故意および共謀の点は充分認められるところである。
 3 Cの畏怖について、
 所論は、同女がGに現金等を交付したのは、原判決のように被告人らの地位背景
からして第二期工事の施行や将来の市発注の工事の指名ならびに落札につき、如何
なる妨害をうけるかわからないと困惑畏怖したからではなく、右工事を落札したら
Gに若干の政治献金をするとの黙約をしておつたことと、Gや被告人Bがこの落札
に協力してくれたことに対する謝札のためである、というのであるが、原判決挙示
の証拠および当審で取調べた証拠によれば、Cとしては、当時少額の政治献金をす
る心づもりはあつたにしても到底判示の金額を支払う意思も能力も理由もなかつた
のであつて、これを交付したのは、ひとえにあまりにその要求が強かつたためで、
已むなくしぶしぶ交付していると認められるところであり、これと前叙被告人両名
ならびにGの地位、勢力等に照らせば、Cの原判決挙示の供述調書等の畏怖状態に
関する各記載は充分措信できるといわねばならず、これらによれば、Cは前叙認定
の被告人ら三名の地位、背景これらの者の間の関係を認識していたからこそ、原判
決認定の如く困惑畏怖して現金等を交付するに至つたことが肯認できるのである。
なお、Cがこの一部の金員を政治献金として交付する約束をしていたことは窺われ
るところであるが、それが政治献金名下に不法に金員を取得するための手段として
なされている本件においては、所論の如く、その分につき恐喝罪の成立を否定する
よすがとなるものではない。
 以上の説示および原判決挙示の証拠によれば、原判示のとおり恐喝罪の成立を認
め得るのであるが、ただCが畏怖するにあたり認識した被告人ら三名の地位、背景
の範囲は、前記認定と原判示とにおいて若干異なるものがあるけれども、この差異
は明らかに判決に影響を及ぼすべき事実誤認に該るとはいえない。しかして記録を
精査しても原判決には所論の如き事実誤認を認めるべき点はない。論旨は理由がな
い。
 (二) 不動産侵奪罪、道路法違反罪に関する控訴趣意について。
 所論は、まず原判決の理由不備および理由のくいちがいをいらが、本件記録およ
び原審ならびに当審で取調べた証拠を精査しても、これらを認めることができな
い。
 そこで、事実誤認の論旨について判断をすすめる。
 原審および当審で取調べた証拠によれば、原判決認定の罪となるべき外形的事実
および被告人がこれに加功した点が認められるのであるが、本件奪取が所論のよう
に不法領得の意思なくしてなされたいわゆる使用侵奪であるといえるか検討を要す
る。
 <要旨第二>右各証拠によれば、本件市道は三本あるが、いずれも耕地整理法によ
つて作られ、昭和三七年から市道に認定された道路で、桜井本坪線を除
く二本は、普段交通がなく、農繁期に一時周辺農家によつて利用される程度の幅六
〇ないし九〇糎の畦道よりやや広い目の道路で、それらの存在場所及び外観からみ
ても通常一般的に農道と想われるのが自然な状態の道路であり、しかして、市道改
廃手続の実情をある程度知つているものであれば、道路周囲の土地所有者の同意さ
えあればその廃止につき何ら問題なく、市においてその認可を必ずすると充分推認
できる道路であつたこと。桜井本坪線はその幅員、交通状態、外観からみて当然代
替道路を設けずに廃止することのできない道路であつたが、地元民の同意を得て相
当の代替道路をつくれば、矢張りその変更は市により承認されるに違いないことを
市道改廃手続の実状を知る程の者らにおいて充分推認できる道路であつたこと。被
告人及び本件学校専務のPは熊本市の道路改廃手続およびその処理の実状を知悉し
ていたこと。そこで被告人は学校から本件市道を含む附近の農地一帯を学校敷地と
して埋立てる工事をKに請負わせたのち、これを埋立てるに当つては、右改廃申請
手続を進めるために、予め同市の担当課長に本件埋立工事のことを話すとともに、
同課吏員を現地に同道して同市側と本件各道路改廃のための事前協議をなし、これ
にもとづき学校側に右申請をなすよう要請し、学校はこの申請のために必要な種々
の準備を懸命にやつていたこと。桜井本坪線は埋立工事中一時交通に不便を生じた
が、終始現在まで地盤は高くなつたけれども閉鎖されることなく、またこの代替道
路はこの埋立と同時に学校により附近住民の意向をくんで元のものより幅広く且路
肩もしつかりとしたのができておつて住民から感謝されていること。学校敷地の埋
立がほぼ終つた昭和四〇年一二月、これらの道路の改廃申請がされ、昭和四一年一
二月一〇日の定例市議会でこれらの道路の改廃の議決が問題なく行なわれ、間もな
く市長の改廃承認があつたこと。学校側ならびに被告人は右改廃は申請さえすれば
必ず右のように承認されるものと確信していたし、市の担当課長においても申請が
ありさえすればこれを承認する方向で手続を進める積りでいたので、埋立工事がほ
ぼ終る頃まで本件道路が埋立られている事実を知りながらもこれを黙認していたこ
と等の事実が認められる。
 これらの事実によれば、被告人においてこれらの市道を学校敷地の中にとり込
み、敷地と同じ高さに埋立てて自動車のコースなどにして使用する意思をもつて、
しかもその実行行為である埋立を、前記議会及び市長の承認前であることは勿論、
その申請前になしたとしても、このとき既に被告人およびPらにおいて、前記申請
次第、早晩同市の承認のもとに本件市道が学校の敷地として適法に使用できるよう
になることを確信しており、また学校が右申請のための手続履践に努力しているこ
とを知つていたのであり、更に同市執行部では右申請さえあればこれを承認する意
向で埋立を黙認していたのであるから、結局被告人らには不法領得の意思がなかつ
たと判断される。すると、その余の点について判断するまでもなく、本件不動産侵
奪罪については犯罪の証明のないことが明らかである。
 また、道路法違反の点については、本件道路の損壊にあたつての、被告人の心
情、本件道路の廃止及び変更に関する手続の展開、これに対する市の処置、附近住
民の便益に及ぼした影響等についての前叙認定の事実に徴すれば、被告人の本件損
壊には、当時の道路改廃手続に関する社会通念上相当の理由があつたものと認めら
れ、従つてこれが同法九九条の措定する違法性を帯有し「みだり」になされたもの
ということはできないから、結局同法違反の点もその犯罪の成立を証明するに足り
ないものというべきである。
 よつて、右無罪の点を看過し、被告人に有罪の認定をした原判決には、明らかに
判決に影響を及ぼすべき事実誤認がある。論旨は理由がある。
 (三) 入場税法違反に関する控訴趣意について。
 論旨のうち事実誤認の点の判断に先だち、まず訴訟手続の法令違反の点を按ずる
に、所論は本件訴訟条件である告発は、その要件を欠如して無効なものであるか
ら、本件につき実体判決をした原判決には訴訟手続の法令違反があるというにあ
る。
 <要旨第三>ところで記録によれば、収税官吏の本件告発書は二通あるところ、両
者は告発事実に同一性があるから、はじめの昭和四一年七月四日の告発
のときを基準として国税犯則取締法一三条一項二、三号の要件が存在したかどうか
判断するのを相当とする。右告発書および原審で取調べた証拠に徴すると、右告発
をした収税官吏は、当時別件で勾留されていた被告人が何時釈放されるかも知れな
い事情にあり、そのときには暴力関係者でもあるし、また警察および同収税官吏の
調査に対し、全面的に事実を否認しているから逃亡および罪証湮滅のおそれがある
と判断して、同条一項二、三号により直ちに告発をしたことが明らかであるとこ
ろ、告発当日は被告人のQに対する恐喝事件の起訴前の刑事訴訟法六〇条一項二、
三号による勾留期間(二〇日)の満了日で、これが身柄つきのまま起訴された日で
あり、また、被告人のCに対する恐喝事件および公正証書原本不実記載、同行使事
件も求令状で起訴され、両事件につき新たに同法六〇条一項二号により勾留のされ
た日である。そして以上各事件につき接見禁止決定がなされた日でもある。従つ
て、当時本件を通告処分に附するとしてもこれに必要とされる期間内に容易に被告
人が釈放される見込のなかつたことは明らかで、これは前記起訴前から選任されて
いた弁護人が被告人の保釈請求を右起訴後約五〇日たつた同年八月二四日までして
いないことによつても窺れるところである。そこで当該収税官吏において検察官へ
被告人の身柄関係の現状及び見透しを照会した場合には、容易にこれが釈放される
見込のないことは簡単に判明できた筈であり、かかる照会を本件において同官吏に
要求することは、当時被告人は暴力土建の一環として県警察本部の摘発の対象とな
り、県民の声援のもとに長期に亘りその捜査をうけていたが右告発前の六月三〇日
付の地元新聞には本件の詳細が余罪とともに報道され、告発の翌日には右特別捜査
本部が解散された位警察の捜査が進行していたこと、特に同収税官吏は県警本部か
ら一件書類の送付をうけることによりはじめて本件犯則嫌疑を知つたことおよび右
照会自体簡単容易な手間でできることに鑑みると、何ら収税官吏にとつて酷な期待
というべきではなく、至極当然に要求されるべき行為であつたといえる。
 よつて、これら認定事実によれば、同収税官吏が被告人が釈放される可能性があ
り、そのときには本件につき逃亡、罪証湮滅のおそれがあると考えたことは、右告
発当時の被告人の身柄拘束をめぐる具体的事情につき重大な過失に基づく錯誤があ
つたためといえる。
 およそ国税犯則取締法一三条及び一四条の規定に徴するに、収税官吏が入場税等
間接国税に関する犯則事件の調査を終つたときは、これを所轄国税局長又は所轄税
務署長に報告すること、然る上で国税局長又は税務署長が犯則の心証を得たとき罰
金若くは科料に相当する金額等を納付すべき旨通告することが規定されており、た
だ一三条一項但書の各号の場合においてのみ収税官吏から直ちに告発することが許
されているのである。してみると、右の通告処分をしないまま直ちに収税官吏が告
発することができるのは、犯則者に証拠湮滅等前同条一項但書各号に該当する場合
に限られ、しかもこの該当性有無の判断は告発の時点における具体的事情に即して
客観的に妥当性が是認されるときはじめてその告発は有効であるということができ
るものと解するを相当とする。
 けだし、右規定による通告処分は、犯則者にとつてすみやかに罰金、科料に相当
する金額を納付し、刑事処分に多くの日時を費すという無駄をはぶくとともに、前
科者とされないという利益をもたらすものであつて、犯則者は通告処分をうけ、通
告の旨を履行する機会を与えられるか否かにつき重大な利害関係を有するものと謂
うべきであり、従つて犯則者は通告処分を受ける権利を有し、収税当局としてはこ
れをなす義務があるものともいえる。そしてこの機会は単に犯則事実を強く否認し
ておる者にも同様に与えられるべきことは多言を要しないので、通告処分を経由し
ないでなす収税官吏の告発は、犯則者の右の利益を奪うものといえるからである。
 しかして、本件において被告人の入場税法違反事件に関し、収税官吏が被告人に
前同条一項但書二号、三号の場合に該当するものと判断し、直ちに告発したことは
記録上明らかであり、しかも右該当性の有無の判断がその妥当性において前段で認
定した情況からしてこれを肯定することができず、記録を精査しても右告発が有効
であつたと認めるに足りる事情は見当らないので、本件告発は右に説示したとおり
法定の要件を欠缺し無効であると認めるに十分であり、かゝる告発によつて提起さ
れた本件公訴はその規定に違背するものであつて不適法といわざるを得ない。(ち
なみに本件における二回目の告発ー同年九月一九日付ーも右要件を欠いていたこと
は当時被告人が釈放されるとすれば保釈が考えられるのみであつたうえに、当時既
に前の告発によつて検察庁の本件事件の捜査が完了していたことにより明らかであ
る。)
 それゆえ、その余の論旨について判断するまでもなく原判決はこの点で破棄を免
れない。論旨は理由がある。
 三、 結 論
 (一) 被告人A関係
 前叙説示のとおりであるから、まず刑訴法三九六条により同被告人に対する原判
決中公正証書原本不実記載、同行使の点についての検察官の控訴を棄却する。他
方、原判決中、同被告人に対する道路法違反、不動産侵奪および入場税法違反に関
する部分はいずれも破棄を免れないところ、これらの各事件とともに原審において
有罪とされたCに対する恐喝事件は併合罪として審判されているから原判決は右恐
喝事件の関係においても破棄を免れない。
 そこで、検察官の控訴趣意第二点および弁護人らの量刑不当の控訴趣意に対する
判断を省略し、刑事訴訟法三九七条一項により原判決中同被告人に関する右の各罪
すなわち有罪部分を破棄したうえ、同法四〇〇条但書に従つて更に判決をする。
 原判決が確定した同被告人の原判示第一の所為は、刑法六〇条二四九条一項に該
当するので所定刑期範囲内で被告人を懲役八月に処し、刑法二一条を適用し原審に
おける未決勾留日数中一五〇日を右刑に算入し、同法二五条一項により本裁判確定
の日から二年間右刑の執行を猶予し訴訟費用の負担については刑事訴訟法一八一条
一項本文、一八二条を適用し、主文のとおり定めることとする。
 無罪の理由
 本件公訴事実の要旨は、
 被告人AはK株式会社(社長G)会長であつて株式会社R専門学校(社S)が熊
本市a町字b、同町字cの田地約三〇、〇〇〇平方米の買収地を同校建設用地とし
て造成するに際し、昭和四〇年六月八日頃同会社と埋立工事契約等を結んでいたも
のであるが、同会社専務取締役P等と共謀の上、同年一〇月末頃、熊本市長の承認
を受けないで市道である同町字cd番地のeから同町字bf番地に通ずる幅員二・
五米の桜井本坪線二一六・五五米及びこれに通ずる幅員〇・九米の本坪桜井線三一
一・七米、本坪一号線五三・八米の各砂利道(敷地面積合計八四九・九二平方米)
を右学校敷地として埋立てて校地の一部として占有使用し、もつて右市道を損壊し
て右市道敷地を侵奪したものである。というのである。
 しかし、前叙説示のとおり、右公訴事実は犯罪の証明がないことになるから、刑
事訴訟法三三六条により被告人に対し無罪の言渡をする。
 公訴棄却の理由
 本件公訴事実の要旨は、
 被告人Aは、昭和三六年一〇月一日から同年一一月三〇日までの間熊本城内竹の
丸を興業場として、T博覧会と称する同三七年法律五〇号による改正前の入場税法
一条に掲げる「見せ物」を主催したものであるが、入場税を免れようと企て、故ら
に特別入場券(以下単に前売券と称す)の切り取り線にミシンを入れず、入場の際
その半券を切り取らないでそのまま回収して別途保管し未使用残券を仮装する等し
て、
 一、 昭和三六年一〇月中に前売券四、五四五枚分の入場料金六、五四五、四〇
〇円を領収し、当日売入場券等を合算すれば課税標準額六、八九二、八〇〇円、入
場税額一、二九四、〇〇〇円であるのに、同年一一月一一日頃熊本市二の丸一番四
号同税務署において同署長に対し同年一〇月中前売券一一、四四八枚分の入場料金
一、三七三、七六〇円を領収し、当日売入場券等を合算すれば課税標準額二、五八
三、一〇〇円、入場券額四三二、〇六〇円なる旨過少に記載した課税標準額申告書
を提出して同年一〇月分入場税八六一、九四〇円を免れ、
 二、 同年一一月中に前売券五九、三六一枚分の入場料金七、一二三、三二〇円
を領収し、当日売入場券等を合算すれば課税標準額六、七八八、六〇〇円、入場税
額一、二九〇、〇七〇円であるのに、同年一二月九日頃同税務署において同署長に
対し同年一一月中前売券二三、四七五枚分の入場料金二、八一七、〇〇〇円を領収
し、当日売入場券等を合算すれば課税標準額三、二〇〇、〇〇〇円、入場税額五七
二、三五〇円である旨過少に記載した課税標準額申告書を提出して同年一一月分入
場税七一七、七二〇円を免れ
 もつていずれも不正の行為により入場税を逋脱したものである。というのである
が、前叙説示のとおり本件公訴提起はその規定に違反したため無効であるといわな
ければならないから、刑事訴訟法三三八条四号により本件公訴を棄却する。
 (二) 被告人B関係
 同被告人に対する検察官および弁護人の各控訴趣意中、事実誤認に関する各論旨
はいずれも前叙説示のとおり理由がないので、さらに両者の量刑不当の論旨につき
判断をすすめるに、本件記録および原審ならびに当審において取調べた証拠に現れ
た各所論並びにその他の情状に照らすと、原判決の同被告人に対する科刑は重きに
すぎ量刑が不当であると認められるので、原判決は刑事訴訟法三九七条により破棄
を免れない。弁護人の論旨は理由があり、検察官の論旨は理由がない。
 そこで、検察官の同被告人に対する控訴を棄却し、更に刑事訴訟法四〇〇条但書
に従い自ら判決することとする。
 原判決が確定した同被告人の原判示第一の所為は、刑法六〇条二四九条一項に該
当するところ、原判示確定裁判を経た罪があり、これと判示罪とは同法四五条後段
の併合罪の関係にあるから同法五〇条により未だ裁判を経ない原判示第一の罪につ
き処断することとし、その所定刑期の範囲内で同被告人を懲役四月に処し、同法二
一条を適用し原審における未決勾留日数中六〇日を右刑に算入し、訴訟費用の負担
については刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条を適用し、主文のとおり定める
こととする。
 (三) 被告人J、同U、同V関係
 前叙説示のとおりであるから、刑事訴訟法三九六条により右被告人三名に対する
検察官の各控訴を棄却することとする。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 岡林次郎 裁判官 山本茂 裁判官 池田良兼)

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