弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     各被告人に対する原判決を破毀する。
     本件を広島高等裁判所に差戻す。
         理    由
 被告人Aの弁護人青山新太郎の上告趣意について。
 被告人に対する本件公訴事実は、記録添付の予審請求書記載のごとく、被告人は
運輸事務官として、その職務に関しBより請託を受けて、賄賂を収受し、よつて、
職務上不正の行為をしたというのであり、第一審判決も右の事実を認定したのであ
つて、右の事実は、刑法第一九七条ノ三第一項第一九七条第一項後段に該当し、短
期一年以上の有期懲役にあたる場合であるから、刑事訴訟法第三三四条により、弁
護人なくしては、開廷することを得ない事件である。しかるに、原審においては、
被告人は自ら弁護人を選任せず裁判長も職権を以て、弁護人を付することなく結局、
弁護人の立会なくして、公判を開廷し、審理判決をしたことは、原審公判調書によ
りあきらかである。もつとも、同調書によれば「被告人Aは弁護人の選任の請求は
しない旨述べた」との記載あり、被告人が弁護人の選任を辞退したものとみられる
のであるが、刑事訴訟法が重罪事件について、弁護人の立会を必要とする理由は一
面において、被告人の利益を擁護するためであることは勿論であるがまた一面にお
いては、公判審理の適正を所期し、ひいては国家刑罰権の公正なる行使を確保せん
がためでもあるのであるから、たとえ、被告人がこれを辞退した場合でも、裁判長
はそれにかゝわらず、職権をもつで、弁護人を付するを要するものと解しなければ
ならない。しからば、原審は、刑事訴訟法第四一〇条第一〇号にいわゆる、法律に
依り弁護人を要する事件につき、弁護人なくして審理をなしたるときに該当するの
であつて、論旨は理由あり、原判決は破毀を免れない。
 次に、被告人Bは、前示Aの収賄に対する贈賄の事実について、公訴を提起せら
れ、原判決も、右犯罪事実を確定して有罪の言渡をしたのであるが、原判決は、右
犯罪事実を認定する証拠として、被告人Aに対する前示加重収賄被告事件の公判調
書中の同人の供述記載を挙げている、しかるに、Aに対する右原審の公判手続は刑
事訴訟法第三三四条に違背し違法の手続であることは前説明の通りであつて、従つ
て、右公判調書における同人の供述記載も、これを犯罪の適法なる証拠とすること
はできない、すなはちこれを証拠とした被告人Bに対する原判決はまた、この点に
おいて違法であるといわなければならない。右両被告人は本件贈収賄の必要的共犯
の関係にあるものとして、同一手続によつて起訴せられ第一審以来共同の手続にお
いて、審判せられ、偶ゝ被告人Bの病気の事故のため、原審においては、公判手続
を分離して、審判せられたのであるが、当審においては、また、共同被告人として
審理せられているのであり、しかも、被告人Aに対する原判決破毀の事由は、引い
て被告人Bに対する原判決の違法を招来することは、右に説明したとおりであるか
ら、この意味において、右破毀の事由は、両被告人に共通するものというべく、よ
つて刑事訴訟法第四五一条に則り、被告人Bに対する原判決もまた、これを破毀す
べきものといわなければならない。
 以上の理由により、両被告人に対する原判決はいづれもこれを破毀すべきものと
認め、被告人A竝びに同Bの提出した上告趣意に対する説明を省略し、刑事訴訟法
第四四八条ノ二に従い主文のとおり判決する。
 右は、全裁判官一致の意見である。
 検察官 十蔵寺宗雄関与
  昭和二三年一〇月三〇日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    藤   田   八   郎

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