弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における未決勾留日数中一五〇日を本刑に算入する。
         理    由
 弁護人竹内金太郎提出の上告趣意第一点について。
 所論を要約すれば、原審の採証は条理並びに実験法則に反する違法がある。即ち
原判決はその挙示の証拠に依つては原判決摘示の事実即ち本件犯行を被告人の所為
と認定することはできないものである。従て原判決は結局虚無の証拠に依つて事実
を認定した違法があると謂うのである。本件は「容疑者取調に関する件」と題する
巡査報告書記載通りの二枚の被告人の手記(証第五号、証第六号として押収されて
いるもの)のある外は、被告人は本件検挙以来警察検事局予審公判(第一二審とも)
を通じ終始犯行を否認している案件である。然し先ず警察の被告人に対する強制又
は拷問の点、就中それに因つて作成されたと主張せらるゝ前示証第五号証第六号の
被告人の手記なるものは原審が証拠に採用していないのであるから、仮令右強制又
は拷問が真実であつたとしても之と原審判決とは因果の関係はないのである。次に
所論も強調するが如く寔に本件は所謂直接証拠の認むべきものなき案件の一つであ
る。然し一件記録を精査検討し、具さに原判決認定の事実に原判決挙示の各証拠を
対照すれば、原判決が原判決挙示の証拠に拠り本件事実を認定したことが、所論の
如く条理に悖り或は実験法則に背反したと云うが如き点を認むることは出来ない。
されば所論の原判決が虚無の証拠に依つて事実を認定したとの違法は存しない。又
論旨中原審が証拠に採つたAに対する検事聴取書の供述に対しては同人は原審にお
いて右と反対の証言を為せるに拘わらず、原審は右証言を排斥して右聴取書の供述
を証拠に採つたのは甚だしく失当であると主張するのであるが、実験則等に反せざ
る限り証拠の取捨は原審裁判所自由なる裁量に任ずる所であるから、之が攻撃は当
を得ないものである。以上の如くであつて所論は結局原審のした事実認定を攻撃す
るに帰着するものと謂うの外なく、従つて刑訴応急措置法第一三条第二項に依り上
告適法の理由と為り難く、論旨は理由なきものである。
 同第二点について。
 原審判決は証拠に拠らないで事実を認定したとの所論を前提とする本点所論は、
既に第一点において説明したところにより、その理由なきこと明白である。
 仍つて刑訴施行法第二条旧刑訴法第四四六条に従い、尚未決勾留日数通算の点に
関し刑法第二一条を適用し主文のとおり判決する。
 此判決は裁判官全員一致の意見に依るものである。
 検察官 茂見義勝関与
  昭和二四年四月二三日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎

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